7月の20日と21日にわたって開催された学園祭もとうとう終わりを迎えてしまった。
多数のクラブ企画や水着コンテストなどで盛り上がった二日間。
だが、二日目の夜はこれからでもある。
そう、まだ打ち上げが残っているのだから。
「お、お粗末様でした」
チャイナドレスで熱唱していた鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)は、ぺこりと頭を下げるとステージから降りてその場にへたり込んだ。
「や、修学旅行の罰ゲーム、個人的にステージ使えなかったから、この場を借りてね?」
声をかけられて上げた顔はここではないどこか遠くを見ていて。
「あ、オイラのことは放っておいて、せっかくの後夜祭だし、打ち上げするのもいいんじゃないかな? ホラ、ステージも解体は22日らしいし」
打ち上げの宴会芸に使っても問題はないんじゃないかな、と和馬は言う。
「せっかくのステージだし、さ」
「うむ、もし少年にアンコールをするなら任せておくといい。そんなこともあろうかと色々準備をしておいた」
「ちょっ」
呼ばれても居ないのに出てきていつものように和馬で遊びだした座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)はスルーして構わない。
ただ、和馬の言うことにも一理あるのではないだろうか。
和馬が降りて無人になったステージは君達を待っているようにも見えた。
●始めようっ
「飲み物は行き渡ってますか? それじゃ」
「だなっ、あれはさておき、今は後夜祭を楽しもうっ」
ファルケは部長であるえりなに頷き、コップを掲げる。
「んじゃ、お疲れ様ーの乾杯だぜっ」
誰かが音頭を取ったとしても訝しむ者は存在しなかった。
「お疲れ様でした♪ かんぱ~い♪」
「おつかれさまです……かんぱ~い♪」
「お疲れ様っ! かんぱーい!!」
客席やステージ前に陣取って労いの声と共に歌声喫茶のドリンクメニューで乾杯するのは、【星空芸能館】の面々。
そう、何故ならこれは学園祭の打ち上げなのだから。
「皆学園祭お疲れさんでした! 乾杯ーっ!」
くるみやさやかと共に囃子も乾杯し、歓声は周囲の人々にも伝染する。
「学園祭、充実した2日間でした」
「せやな、忙しかったりもしたけどめっちゃ楽しかったわー♪」
呟いた紗里亜へ囃子は同意し、ぐっと伸びをして脇に置いてあったギターを一瞥した。
「和馬、罰ゲームお疲れさんだぜ」
「あ、うん」
葵に労われた鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)は、反射的に頷いてから礼の言葉を口にし、苦笑する。
「ステージ、空いたみたいですね」
それを目聡く見つけたのは、誰だったか。
「あ、ステージでそれぞれ何か披露やったね」
「……へ、個々で何か一芸を披露しろとっ!?」
仲間の呟きにファルケが顔を引きつらせ、接客仕様のまま何も持ってきてないと顔色を悪くすれば、その間にステージに行く人影が、二つ。
「ほな俺もとっておきの奴行かせて貰おかな!」
「囃子さんはギターを披露なされるんですね」
自前のギターを構えた囃子を見つけて口を開いたえりなは、自身もギターを手にして微笑む。
「それじゃあ、私も今日はギタリスト♪」
「お、えりなちゃんも演る?」
「そうですね、2人でセッション行っちゃいましょうか♪」
気づいた囃子が弦にかけた指とピックを止めて問いかければ、頷いてからえりなもギターを構える。
「よっしゃ、ほなセッションと行こか! テンションあげていくでー!」
「「わぁぁぁ」」
応えるように客席から歓声が上がる。見知らぬ者まで混じっているのは、後夜祭の空気のなせる業か。
「流石と言うべきか、感服せざるをえないよ」
「学園祭お疲れ様でした、はるひさん達も楽しめましたか?」
降参だとでも言うかのように肩をすくめたエクスブレインの少女の姿を認め声をかけたのは、蒼香。
「無論。物陰からこっそり眺める少年は実に良かった」
「明らかに楽しみ方を間違えてるんだぜ」
「だよね、って言うかオイラ気づかなかったんだけど」
横で部長とはるひの会話を聞いてた葵がツッコめば、相づちを打った和馬は顔を引きつらせて、変態エクスブレインを見る。
「そうそう、人間大砲は密かに見物させて貰っていた。私が灼滅者だったら挑戦したのだがね」
などと零す辺り、知り合いのところも色々回っては居たのだろう。
「しかし、いいものだ。こういう空気も」
呟いてちらりと見た先では、セッションを続ける二人のギタリストが居て。
「えりなちゃんもノリノリやね!」
「……凄く楽しいですね♪ 囃子さん♪」
「楽しいなぁ! やっぱ音楽ってサイコーやね!」
ポップな音を奏でるギターの楽曲に湧くステージでは、二人が言葉を交わし。
「二人とも、すごいなぁ♪」
観客席の何処からは感嘆の声が漏れて歓声にかき消された。
●考えて
「次は誰がやる?」
「だったらあたしがっ」
ギターのセッションが終了しステージが開いた後、挙手したのは、クラリネットを手にしたさやかだった。
「楽器はどれも得意だからね♪」
「それではボクはさやかさん次いいかな? ピアノで弾き語りをするよ~♪」
幾人かの視線が集まったクラリネットを手に言えば、くるみはステージの脇に寄せられていたピアノを示して言う。
「あれだけ希望者がいるなら、オイラの出番はもう無いかな」
ステージ前の順番決めを見て、ポツリと漏らした和馬の呟きはきっと藪蛇だった。
「そういえばアンコールとか言ってましたがどんなものを用意したんですか?」
「修学旅行で少年が要求された衣装一揃い、楽曲は少年の年齢帯でポップスとアニソンから小中学生向」
「ちょっ」
蒼香の発した問いへまともに答え始めたはるひに和馬が声を上げた時にはもう遅い。
「そういえば他にも罰ゲームは何かあったのか? ジュース奢って貰ったの以外、俺は勝ってないからしらないけど」
「えっ、女子就寝部屋へ吶喊と、ナース服メイド服バニー服にアニメキャラのコスプレに……チャイナドレス着てのライヴはさっき済ませたから、あとは写真取られたのとほっぺにキスってのもあったかなぁ」
わさび餅を勧める葵も加わっての談笑の中、和馬は思いきり遠い目をする。
「ほっぺにキスは女性、つまり同性だったからノーカンだな」
「同性じゃないよ? って言うか、はるひ姉ちゃん何で知っ」
教室での説明を思わせる補足ッぷりに約一名が吼えるが、抗議は途中からクラリネットの演奏にかき消される。
「ステージの音をここまで大きくするとは良い物を使ってますね」
流石マンモス校の学園祭設備である。
「だか」
「和馬きゅん」
「え?」
名前を呼ばれて振り返らなければ、和馬はそのままもの申していただろう。
「和馬きゅんってさー、よく自分を男の子って言ってるけど、それってちょっと危険なんじゃないかって思うのよ」
「危険って?」
「だってよく考えてみて」
意外だったのか、キョトンとした顔をする和馬を虚雨は諭す。
「和馬きゅんが『自分は女の子です♪』って言ってるなら、普通に女の子が好きな普通の男が言い寄ってくるだけでしょ?」
「えっと」
たぶんどこからツッコむべきか迷っていたのだと思う。
「でも『おいら男だから』ってなるとどう? 『男でも構わない!』とか『むしろそれがいい!』とか、そんな男共が自分に言い寄ってくることになるのよ!」
押し黙った和馬に虚雨は可能性を示唆した上で、確認するように問う。
「それでもいいの和馬きゅん!?」
と。
「マイナーな曲だからみんな知らないだろうけど……大好きな歌だから……みんなに聴いてほしいんだ♪」
いつしかクラリネットの音が止み、歓声を挟んでステージからはピアノの前奏が流れ始める。ジト目で沈黙している少年の答えを待っている灼滅者は何人居ることか。
「次、わたしねー? ちょっと人呼んでくるからー」
むしろ、ステージの空き待ちをする参加者の方が多かったと思われる。
「あー、居た居た、ちょい手伝ってー♪」
「って、うおっ」
周りに断ってから順番待ちの列を外れたキティは観客席を見回して梓の姿を見つけるなり、梓ことあずにゃーへうむを言わさず持っていたギターケースを押しつけ、流れるような動作で腕を掴むとそのまま引っ張る。
「後夜祭のステージでるよー」
「っと……お祭りだもんな。そろそろキティのシンガーの血が騒ぐ頃だと思ってた」
観客席からのログアウトを余儀なくされるあずにゃーことあずにゃんが何処か疲れたように苦笑したのは、数秒間。
「…………だがビギナーよりもうちょっと本格的にやってる奴誘ったらどうだー!?」
「学内広しと言えど、わたしのオリジナル曲練習したこと有るヤツなんてあずにゃーしか居ないじゃない!」
ただ、当然と思われたツッコミに知名度的な意味でね、とキティはけたけた笑い。
「え? いや確かに演ったけどさ、オリジナルメドレーとか初だぞオイ」
晴天の霹靂とでも言わんがばかりの顔で、梓が受け取ってしまったギターとキティの顔を交互に見るが、きっともう色々遅かったのだろう。
「あーい、それじゃー何番目かしら? キティ・グッドフェロウ&一之瀬・梓、行くわよー!」
「えー、人を最後に面白おかしくボコってくれた寮生諸君に送ります。おまえら楽しんでるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
既にステージに登っているキティに追いつき、設置されたマイクを引き寄せたあずにゃんは観客席に向かって叫んだ。
●思うところ
「わぁ、わぁ、凄いんだよ! 熱唱なんだよ!! いいなーすごいなー」
新たに始まった二人組の演奏に目を奪われ、歓声を上げていた【ダンボールハウス【白兎】】のミーシャは、次の瞬間、お兄ちゃんの姿を探して周囲を見回した。
「ふむ、和馬殿がライブとは何事かと思ったが、成る程罰ゲームであったか」
「あ、うん」
「んにゅ? お兄ちゃん誰と話してるのかな?」
きっと感動を共有しようとでも思ったのだろう、だが目に留まったのは見知らぬ相手と談笑する姫月の姿。
「我のことは、覚えておるかの。倉丈姫月じゃ。あの枕投げ以来じゃな」
「ええっとあの時はありがとう。結局オイラ脱落しちゃったけど」
(「お、お兄ちゃんが、可愛い娘と話してるんだよ!? あ、あんなにデレデレして! お兄ちゃんらしくないんだよ!!」)
まくら投げでの勝者権限で和馬と友人になることを姫月が望んだなどミーシャはあずかり知らぬこと。
「や、アイドルになる気ないからね?」
「ふふ、冗談じゃ」
だが、姫月もまたミーシャが和馬へ非友好的な視線を向けていることに気づかず、会話は進む。
「お、お兄ちゃん! ボクたちもせっかくだから何か歌おうよ!」
と、直接会話に割り込んでくるまでは。
「あぁ、そうじゃのぅ。せっかくじゃから我らもステージに立ってみるかの」
「そっか、じゃオイラは――」
遊ばれて、あわや再びステージに直行させられるところだった和馬は、空気を読んで離席しようとし。
「あ、鳥井君、オレも修学旅行のまくら投げに参加してたから、そのよしみで一緒にやらない?」
「え?」
別方向から声をかけられるという形で見事に失敗する。振り向いた和馬が目にしたのは、声をかけてきた登を含む【TG研】の面々。
「一緒にって?」
「烏井さん。「どじょうすくい」ってご存知ですか?」
当然のように向けた言葉へ疑問という形で湾曲に答えたのは、どじょうの着ぐるみから真顔を覗かせる遥香であった。
「どじょう……すくい?」
「はい、唄いに合わせて踊る民俗舞踏で、あのにょろにょろな」
「や、解説を求めた訳じゃないから! そもそも何でどじょうすくいーっ?!」
オウム返しに詳細を問われたと思ったか、解説を始める遥香へ少年はツッコミを被せ。
「まぁ、この格好もいいものですよ……。ここは一つ、会場を爆笑させましょうかねぇ……」
「あ、あの、出し物をするという話は聞いていないのですが……。食べるのは後ですよね」
どことなく間延びした口調で流希が準備をし出すかと思えば、聞かされていなかったのか清美は唖然とした様子で他の面々を見る。
「無理強いする気はしないけど、乗ってくれるならこれ貸すよ?」
「えっ、え-と……」
「ドジョウ掬いですか。あれで盛り上げられる人は凄いと思いますよ」
登はひょっとこのお面とほっかむり姿で会話を続けており、良太も似通った出で立ちでやる気満々なのは明らかだった。
「一説には『ドジョウ』は『土壌』、つまり安来地方の名産、安来鋼を作るための伝統技術である……」
「そうなのですか。勉強になります」
ツッコミをスルーし続ける遥香の説明に清美が感銘を受けて声を漏らす中。
「……のテーマソングは最高なんだよ!」
「ふふ、まったく、お主はいつまでたっても子供じゃのぅ。お待たせしたのじゃ……次は」
「あ、ステージ空いたみたいですよ、紅羽部長」
ステージを降りてきた姫月達の声に良太は振り返った。
●選択の後に
「だからこの各種、女子制服を着ましょう。色々あるわよー。セーラー服にする? ブレザーにする?」
「せっかくだしアンコールもしてみたらどうですか? せっかくのステージですしいいと思いますよ♪」
前門のアンコール。
「鳥井君、これからなんだけど」
「え、えーと……」
後門のどじょうすくい。二択を突きつけられた少年は、視線を泳がせる。
「あ……こ、コップ貸して頂けますか?」
目に留まったのが、客席の片隅でドリンクを注ぐ柚澄だったのは、その立ち位置を羨んだからか、それとも。
「それじゃあよくわかんないけど、行ってみよう!」
「あ……うん」
迷った誰かは後者を選び。
「えいさ! こりゃよっと……! いやはや、何度か練習はいたしましたが……。中々に難しいものですよ……」
「それにしても、紅羽部長はいつの間に練習したんでしょうね」
早速踊り出した流希へ観衆がどよめく中、良太はアドリブを混ぜつつも動きにあわせ、呟く。
それが、結社【TG研】の。
「結社?」
失礼、【TG研】の演目だった。
「……ほら。あれが、その『どじょうすくい』の実演です。ちなみにセーラー服が混じってるのは、結局烏井さんが断りきれな」
「やめて、真顔で補足やめて!」
尚、抗議があっても遥香の真剣な面持ちと解説は変わらない。
「何やら混沌としておるのぅ」
食材やパンを抱えて順番待ちしていた心桜はポツリと呟き。
「じゃあ、次行ってくるぜ。この順番ならギターとか持ってくる時間もあったかも知れないけどな」
手品などの出し物用だったのかステージ脇に用意されていたキャスター付きの机を背に、ファルケが歩き出す。
「あまりに恥ずかしいからやりたくなかったんだがな」
小さな嘆息と共にステージに上がれば、観客席がざわめく。
「メイド服限定の幻拳『メイド神拳』秘奥義、メイドダンス……じゃあ、みんな、踊るわよっ」
後半は、【星空芸能館】の面々に向けたものだったのだろう。
「こ、この次ですよね?」
ここからは再び【星空芸能館】のターン。
(「ちょっと自信が……」)
柚澄は何処かソワソワとしたまま舞台と紗里亜や心桜に視線を往復させ。
「あ、ファルケさん達の演目終わりそうですよ。柚澄ちゃん、心桜さん、手伝って下さいね♪」
やって来た三人の出番。
「パーティ用の一口サンドイッチを作ります」
「いよいよじゃな、紗里亜嬢考案のクッキン・ミュージカル」
口の端をつり上げた心桜は、説明の中、食材を手に待つ。
「……行っちゃいましょう♪」
そう、歌い出しの合図を。
「タマタマツナツナカニカニトマトマ、残りものを集めてみましょ♪」
心桜がステップ踏みつつ食材を並べ。
「ちーずそーめんはんばーぐかれー……形整え盛り付けキレイに……♪」
柚澄は並べられた食材を綺麗に皿へ盛りつけながら歌う。
「一口サイズに食べやすく お気に召すままトッピング♪」
紗里亜が星の形に整えたブレッドを挟んだ食材ごと皿にのせ。
「「あなただけのサンドイッチ、出来上がり! はーい、アーン♪」」
三人声を揃えてポーズを決める。一瞬遅れて観客席からの拍手が包み。
「お疲れさまでした、次は私が」
壇上の面々へ声をかけ、登ってきたえりなは入れ違いでステージに立つと宣言する。
「この夜、締めくくらせて貰います」
楽器はいらない。ただ澄んだ歌声が開場を包み込み始めていた。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年8月5日
難度:簡単
参加:20人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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