●決別
久我・成海はくるり、きびすを返すと。呼び止める声にも足を止めず、歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ、成海!」
背を向けた道場の入り口から、胴着を着た少女が駆け出してきて、成海に追いすがる。
「あんた、やめるって……本気なの!?」
「……もう分かったんだ。ここは、僕のいるべき場所じゃないと」
「それ、どういう……」
「僕には、狭すぎたんだよ。ここではもう、満足できないんだ」
自嘲気味な笑みを浮かべ、ぽつり、つぶやく。
「……女子空手部、なんてね」
古巣にはもはや興味も無いとばかり、足取りを緩めずに、成海は立ち去ろうとする。
が。
「そんなこと言ったって……あ、あんただって、女じゃないの」
ぴたり。足を止める。
「ああ……そうだね」
ゆっくりと、振り返る。
目の前の少女の顔が、ふいに、恐ろしげなものを見たように、歪む。
「女とか、男とか。そんなつまらない枠を超越した次元へ、僕はいつか、到達してみせる。絶対の強さ……それを手にするための、その、礎として」
向き直った視線の先、夕暮れの赤い光の中に佇む、通い慣れた道場。
成海は、足を踏み出す。
「まずは。僕の中にある、女……弱さの象徴を、ここで、破壊しておくことにしよう。完膚なきまでに……そう、君たちの死をもってね」
再び中へと踏み込めば、胴着を身に纏った幾人もの少女たちの、脅えた顔があった。
●暗闇へ手を伸ばす
「ある女性が、アンブレイカブルへと堕ちようとしているようです……」
眉を寄せ、園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)は沈痛な面持ちをたたえるままに、言った。
彼女の目の前へと集められた灼滅者たち、その中には、今回の件をいち早く察知し情報を寄せた、西明・叡(石蕗之媛・d08775)の姿もあった。
「彼女の名前は、久我・成海(くが・なるみ)さん。とても、男らしい女の子で……普段は、男装をしていたりするみたいなのですが」
空手部へ所属していた彼女は、一途に強さを求める純粋な想いと、女である自身の限界との間で板ばさみとなり、結果、アンブレイカブルの闇へと堕ちかけているのだと言う。
もちろん、日頃から戦いの日々を送る灼滅者たちにとっては、そこに男性も女性も、さしたる違いは無いわけであり。彼ら、彼女らが例外無くダークネスとの戦いに身を投じるのは、ひとえに、灼滅者であるからに他ならない。
「久我さんも、この学園へ来れば……分かってもらえると思うんです。きっと、まだ間に合うはず……」
そう。久我・成海は未だ、完全なるダークネスとして堕ち切ってはいない。内面では恐らく、激しい葛藤に揺れているはずなのだ。彼女と戦い、勝利することができたなら。あるいは、彼女を救うことができるかも知れない。
「けれど、もし、それが叶わない時は……その時は」
灼滅を、お願いします。小さく言った槙奈の表情には、悲壮な色が満ちていた。
しばし、言葉を区切り。やがて気を取り直すと、槙奈は説明を続ける。
「アンブレイカブルは、強力なダークネスですが……彼女の精神は、まだ人間としての意識を残しているはず。そこに、活路があるはずです」
実のところ、もっとも己の性別へのこだわりに縛られているのは、それ故に女を捨てんと欲する、彼女自身であるとも言える。言葉により、そこを上手く突くことができれば、ダークネスとしての彼女の力をいくらか落とし、戦いを有利に進めることもできるかも知れない。
「久我さんは空手を嗜んでいたこともあって、直接攻撃を得意としています……中でも、彼女の蹴り技には、十分に注意してください」
それは、必殺の威力を持つという。
なお、戦場となるのはとある学校の敷地内、校舎脇にある女子空手部の道場。時間は夕刻。彼女が無慈悲な殺戮を決意する、その前に踏み込もうと思うなら、道場には多くの部員たちが練習をしている頃合のはずだ。恐らく、何らかの配慮が必要になるだろう。
一通り、要点を説明した後。槙奈は、少しばかり不安そうに、灼滅者たちを見回してから。
「……よろしく、お願いします。彼女が完全に闇へと堕ちてしまう、その前に……」
深々と頭を下げ、彼らを見送った。
参加者 | |
---|---|
水綴・梢(銀髪銀糸の殺人鬼・d01607) |
綾峰・セイナ(銀閃・d04572) |
冴凪・翼(猛虎添翼・d05699) |
西明・叡(石蕗之媛・d08775) |
ティート・ヴェルディ(九番目の剣は盾を貫く・d12718) |
久我・なゆた(紅の流星・d14249) |
氷見・千里(檻の中の花・d19537) |
四刻・悠花(中学生ダンピール・d24781) |
●乱入
「なあ~兄ちゃん。説明されてもさあ、俺、あんま覚えてられる自身無いし……兄ちゃんも、ついてきてくれよ~」
「仕方ないわねぇ……先生、いいかしら?」
冴凪・翼(猛虎添翼・d05699)の甘えたような口ぶりは、演技ではあったが。呼び止めた女性教師に、西明・叡(石蕗之媛・d08775)がぱちりと片目をつぶってみせれば、周囲へ放つフェロモンも効力を発揮し、先生は呆けたようにこくこくとうなずくのみとなった。
首尾よく、学校の敷地内へと潜入を果たした二人。
「へへ、うまくいったぜ。なっ、兄ちゃん♪」
「そうね、なかなかの兄妹ぶりだったんじゃないかしら」
笑いつつ、叡は校舎の上階の壁に掲げられている時計を見上げ、ちらと時刻を確認する。
校舎脇の道場。合流し、タイミングを図っていた灼滅者たちの、目の前で。
一人の少年……いや。少年のような少女が、ゆらりと腕を振り上げると、目の前でおびえる女子の頭骨を破壊すべく、拳を……。
「やっめろーッ!」
どこか静謐な空気を切り裂いたのは、久我・なゆた(紅の流星・d14249)の声と、その掌から迸る必殺の光条だった。光は少女の腕へとぶつかり、大きく弾いて、その凶行を阻む。
道場の中には、胴着を着込んだ幾人もの部員たち。ざわつく彼女らの視線を一身に浴びながら、
「自分より弱い人を手にかけるのが、貴女の強さなの? そうはさせない……私たちが相手だよ、弱虫の人!」
「……誰だか知らないけれど」
す、と目を細めた少女。ダークネスへとその身を堕としかけている、久我・成海。ぎらりと瞳を暗く光らせると、乱入者たちを睨む。
「君たちに用は無いんだ。邪魔をしないでくれるかな」
「ふん。弱い者イジメが、アンタの趣味か?」
再び女子部員へ向き直ろうとする成海へ、一気に間合いを詰めたティート・ヴェルディ(九番目の剣は盾を貫く・d12718)のシールドがぶち当たり、今度はその身体ごと弾き飛ばす。
進み出た氷見・千里(檻の中の花・d19537)と水綴・梢(銀髪銀糸の殺人鬼・d01607)が、震えながら固まっている女子たちへ、
「少し、彼女と話がしたい……席を外してもらえるだろうか? そのほうが、あなたたちにも都合が良いだろう」
千里の言葉と共に吹き抜けた風が、彼女らの気力をにわかに奪い去り。梢の押し広げる殺界によって、道場の外へと押しやる。
咄嗟に追いすがろうとしてか、ぴくりと動きかけた成海へ、
「ふうん。あくまでその子たちを相手にするのね。まぁ、無理も無いか……女の子が一人。この人数相手じゃ、手も足も出ないか」
梢の冷たい物言いは、あからさまな挑発だ。成海もそれは、分かってはいただろう。
分かっていながら。成海はぴたり、足を止め、
「聞き捨てならないな……僕が女だから、臆すると?」
「そうさ。アイツらより、オレらのほうがずっと強い。分かるだろ? それとも、男のオレに負けるのが怖くて……戦いたくないか?」
嘲るようなティートの言葉は、成海の心の真芯を突いたのかもしれない。その顔が、ひどく、歪む。
見るからに細身な綾峰・セイナ(銀閃・d04572)が、
「……大丈夫、安心して。私が連れ出すわ。さあ、つかまって」
怪力を発揮し、腰を抜かした女生徒を軽々と抱えて運び出していく様を、成海はじっと睨む。
そんな彼女へ、四刻・悠花(中学生ダンピール・d24781)は、問いかけた。
「あなたが『力』を求める気持ちは、分からないでもありません。けれど……手段と目的を、間違えてはいませんか? あなたは一体、強くなって、何をしたいのですか?」
「それは……僕は」
ぐっと言葉に詰まる。その迷いこそが、灼滅者たちにとっては、活路となるのだろう。
なゆたが進み出て、床板に足を踏みしめ、構えると。救い上げるべき少女へ、真っ向対峙する。
「……私は、久我なゆた。さあ、成海さん! 空手家同士、勝負だよっ!!」
●惑い
「女が男より弱いだなんて、誰が決めたのかしら、ねっ?」
槍を構えたセイナは、それを回転させつつ成海の脇へと突き込む。穂先は鋭い衝撃を与えたが、肉を貫くまでには至らない。
「男より強い女。女より弱い男。そんな人だって、一杯いるんだし……さっきも、私を見ていたでしょう? 私はそのへんの男の子より、弱く見えたかしら?」
「……いいや」
成海は確かに、セイナを見ていた。女子とはいえ、人一人をひょいと抱え上げて運んでみせるのには、並みの男子でもいくらか苦労することだろう……セイナが、灼滅者でなければ。
「けれど、それは詭弁だッ。強くあることを怠る、弱い男と比べたところで、意味なんてない。この身体には……女である限り、そこには限界がある。だからこそ僕は……」
「甘ったれんなよッ!」
踏み込み、腰を入れて繰り出す、鋼のような拳。翼は気合と共に、強烈なブローを鳩尾へ叩き込む。
「ぐ……」
「自分で限界を決め付けて、そこに女だからって理由を付けて。てめぇは、そんな自分に酔ってるだけだろ?」
「それは、違う……」
はっとした顔で、成海は翼を見返す。女性でありながら、その堂々たる姿。立ち居振る舞い。
そして、強い意思に満ち溢れた、彼女の瞳。
成海は翼の中に、自身の理想を垣間見たのかもしれない。
「ッ、違う!」
ばり、と紫電を腕に纏わせ。何かを振り切るように、成海は翼の顎へ、電弧を引きながら拳をかち上げる。
どこか余裕を無くしつつある鳴海の顔に、叡は思う。
歌舞伎の女形を志望している彼だが、平時こそ女口調ではあるものの、あえて女らしさを磨こう、といったつもりは無い。むしろその逆で、身体を鍛え、内面は男らしくあろうと務めているほどだ。
だからこそ、
「本当に、真剣に何かをやろうと思うなら。性別にこだわる必要なんて、無いんだよな」
ひとつ、つぶやき。叡は紡ぐ歌声で、翼の傷を癒していく……そんな彼の姿は、成海には、どう写っているだろうか。
梢の放った氷柱が食い込み、成海の身体を凍てつかせたところへ、
「うりゃあッ!」
なゆたは踏み込み、目にも止まらぬ、拳の連撃を叩き込む。
打ち据えられて後方へ弾かれ、床に両足を滑らせた成海へ、
「さっき、弱虫って言ったのは……他の誰でもない貴女自身が、女であることが弱さの象徴だって、決め付けてしまっているから。誰よりもこだわっているから」
「違うと言っている! 僕は……!」
ぎり、と歯を軋ませる鳴海。灼滅者たちの言葉は、彼女を惑わせ、迷いは揺らぎとなり、ダークネスとしての力を確かに削ぎ落としている。
「違うのなら! 自分のままで、強くなってみろっ!」
「できるのなら、やっているさッ!!」
だが。
それでも、今の彼女は、アンブレイカブルなのだ。
床板を抜かんばかりに踏みしめ、響かせた裂帛の気合は、びりびりと空気を、地を、灼滅者たちの全身をも駆け抜け、震わせていく。
●目覚め
梢は語る。
「成海ちゃん。人生って、なかなか上手くいかないものよ?」
織り上げた鋼糸が光の刃を構築し、眼鏡とその奥の瞳にきらりと照り返しながら、梢はそれを振るう。咄嗟に片腕を上げて防御した成海の、腕を覆っていた紫電の盾が、ぱしん、と弾けるような音を立てて消え去る。
「そこを何とか誤魔化して、どう楽しく生きるかが、人生のコツなのよ。そんなに肩肘張ってたら、疲れちゃうでしょ?」
梢の人生観はなかなかにドライで、そして柔軟だとも言える。
しかし……人はそう簡単に変われるものではなく。
それが何であれ、決意を貫こうと邁進する姿こそが、成海の、純なるが故。
「けどな……そうじゃないだろ?」
「ぐッ!?」
叩き込む、ティートの拳。内包する魔力がインパクトの瞬間に炸裂し、成海を内から揺さぶる。
「オレたちを見ろよ。男とか女とか、関係あるように見えるか? オレたちの学園には、男より強い女が山ほどいるんだぜ」
ティートの口ぶりは、ことに辛辣だ。成海の内面、弱い部分を抉るように言葉を投げかけ、挑発する。戦闘狂でもある一面も、そこには多分に含まれてはいたかもしれない。
しかし、彼を知る者には、きっと伝わったはずだ。言葉の棘の裏側には、押し隠した彼の本音が見え隠れしていることを。
自分と同じ経験、大切なものを目の前で失うような、そんな後悔を……目の前の彼女に、味合わせたくは無かった。
「弱いのは、性別じゃない……アンタの心だろ!」
「言うなぁッ!」
一閃。斬撃のごとく鋭い蹴りは空を薙ぎ、生み出された炎を巻き込みながら、ティートの胸郭へと捻じ込まれる。みしり、自分の身体の中から軋むイヤな音を、ティートは壁に背を叩きつけられながら聞いた。
成海は、少しばかり全身を弛緩させながら、天井を仰ぐ。
「……分かっているさ。君たちを見ていれば、イヤというほどに分かるんだ……」
恐らくは、ずっと遠ざけ続けてきた思考でもあったのだろう。行き詰まりを感じたときに、そこに言い訳となる理由を作り上げたのは、成海自身。そこに飛びついてしまったのは、成海の心の弱さ。
本当は、ずっと分かってはいたのだろう。目をそむけ続けてきただけで。
「『心技体』、という言葉がありますね」
光の方陣を展開し、多くの仲間たちを一時に癒していく悠花の姿が、成海にはどこか、神々しくすら見えたかもしれない。
「『武術』と『武道』の違い。『道』を究めるには、『心』を鍛えなければいけません。ほら……あの有名なマンガだって、最後は『愛』が勝敗を分けたじゃないですか?」
清楚な空気の中に、そんな風に、少しばかりの茶目っ気も織り交ぜつつ。悠花は、想いを伝える。
「あなたにとって『強さ』とは、何なのでしょう? あなたは、どの道を選ぶのですか?」
「僕は……」
進み出た千里は、両手を広げ。柔らかい癒しの風を周囲へ吹かせながら、言った。
「私も……気づけば、言い訳ばかりだ。守れなかった。弱かったから。だから、仕方が無い。そんな風に決め付けて、言い訳して……まだ、前を向いていない」
千里の顔に、何かしらの色は見えない。彼女は表情を失ってしまった。そう……母を失ったときに、一緒に失くしてしまった。
しかし。傍らのビハインド『沙耶』を見つめる彼女に、感情が無いわけではないのだ。心強くあろうとあがく意思が、彼女の中には、確かにあるのだ。
「私は……人と話すのは、苦手。言葉で伝えるのは……だから、せめて。自分の持てる力、その全てで戦う。お互いに、満足の行く戦いをしよう。そして」
灼滅者たちは、改めて、成海と対峙する。
「……戦い終われば。私たちは、戦友だ」
「そうか……そうだね」
未だ、闇へと堕ちかけてはいる。
けれど。
「なら、止めて欲しい。君たちに。僕も全力で抗おう……その先に、僕の求める、本当の答えがあるのなら」
●純なる灼滅者
アンブレイカブルは、強力だ。まして彼女に、手心を加えるつもりなど毛頭無い。それでは、意味が無いのだ。
瞬く間に過ぎ行く時、その合間に交わされる攻防は、灼滅者たちの被害を広げていく。
しかし。成海もまた、無傷では無い。
「彼女を救おう。きっとまだ、手は届く」
「もちろん。そのために私たちは、今ここにいるのだから」
千里の吹かせる微風に背を押されながら、セイナの掌から放たれた魔力の矢が燐光を散らして宙を走り、成海の肩口へと突き立つ。
梢は両手の指から伸びた銀糸を、螺旋を描く槍のように編み上げ、
「そこッ!」
身をかわそうとした成海へ、鋭く突き入れ抉る。
「よし、菊、行け!」
斬魔刀をくわえた霊犬『菊之助』が駆け出すのを見送りながら、叡の口元が紡ぎ出すのは、仲間たちへ湧き上がる活力をもたらすメロディ。
「冴凪、まだやれるよな!」
「もちろんだぜ、兄ちゃん!」
その響きを、胸に。翼は兄妹ごっこの続きとばかりに、叡へにやりと笑って見せてから、成海へ向き直る。
「俺だって、男に生まれてたら……なんて、思うことはあるさ」
駆ける翼にも、成海の心情を他人事とは思えないところは、確かにあるのだろう。しかし翼には、成海にはまだ無い、心の強さがある。
「でもさ、弱さも強さも、結局自分の中にあるもんだ。女も男も関係あるか! 強くなりたいなら、自分の責任で……強くなれってのッ!」
強烈に殴り飛ばした拳の痛みに、成海は顔を歪めるが。口元には、小さく笑みが浮かぶ。
「弱い部分を切り捨てるのは、強さじゃない。抱えて、守れるようになれよ……それが、強さってもんだろっ」
瞬くように繰り出される、ティートの拳の乱打。
「耳が、痛いな……ッ!」
くるり。衝撃を殺さず、身を捻った成海の繰り出した、強烈な回転と暴風を伴う蹴りが、セイナに致命打を与え。蓄積したダメージの大きかったティートを、床へと沈み込ませる。
ぐらりと、成海の身体が揺らぐ。彼女とて傷は深く、大技の生み出した隙を逃さず、なゆたが踏み込む。
「決めてください、なゆたさん!」
膝をついた仲間たちにシールドを広げ、守りと癒しをもたらした悠花の投げかけた声を背に。
「ただ、真っ直ぐに。力と想いを、拳に乗せて……ッ!!」
真正面。なゆたの豪拳は、言葉の通りに真っ直ぐに、成海の鳩尾へと突き入れられ……空をも震わせるほどの衝撃が走り抜けた後に、やがて。
久我・成海は、馴染んだ道場の床へと、倒れ伏した。
「すまなかったね」
「……別に。いいさ」
そっけなく言って、懐から取り出した眼鏡をかけたティートを、成海は手を差し伸べて助け起こし、苦笑いと共に謝罪した。
自分を取り戻した成海に、叡は言う。
「アンタの想いの強さは、きっと、どこかで実を結ぶはずだわ。こだわりを捨てて、本当に進みたい道を見据えていくことができるなら、ね」
「まぁ、気負わずにね。我慢は心と身体の毒だもの」
隣でうなずく梢は、きっと、人生を上手に生きる術を教えてくれるだろう。
なゆたは成海を、早速学園へと誘った。
「女の子っていうのも、結構、幸せなものなんだよ?」
そんな言葉を添えながら。彼女には、大事な人がいるのだという。どこかシンパシーを覚える少女の笑顔を、成海は眩しそうに見つめ、
「……そうだね。僕も、共に行こう」
うなずき、言った。そこにはきっと、彼女の求める答えがあるはずだ。
「歓迎しますよ、久我さん」
「ええ。ようこそ、学園へ」
柔らかい笑顔で迎える悠花と、セイナ。
千里は、表情こそ変わらなかったが。手を差し出し、どこか照れくさそうな成海のそれを握り、握手を交わした。
「まっ、よろしくな!」
清々しく突き出した翼の拳に、成海は、
「ありがとう。君たちと出会えて、良かったよ」
自身の拳を、こつんと合わせ。少年のように、朗らかに笑った。
作者:墨谷幽 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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