学園祭2014~後夜祭は夜の屋台巡りで

    作者:御剣鋼

     7月20日と21日の2日間にわたって開催された、武蔵坂学園の学園祭。
     多数のクラブ企画や水着コンテストなどで賑わいを見せた学園祭も、とうとう終わりの時を迎えようとしている。
     楽しい時間はあっという間に過ぎていったけれど、学園祭の夜はこれからだ!
     ――その名は後夜祭。さあ、最後は楽しい打ち上げで盛り上がろう!
     
    ●後夜祭は夜の屋台巡りで
     ここは校舎の傍に用意された、特設屋台通り。
     学園祭が終わって企画の後片付けをする生徒も見受けられるけれど、残った材料や料理を持ち寄って、打ち上げをする生徒で華やかに賑わっている。
    「屋台そのものの撤去は、特設ステージ同様に明日からのようですね」
    「なるほどな、それならオレみたいな中学生でも、ゆっくり楽しめそうだ」
     何処か熱を帯びた里中・清政(高校生エクスブレイン・dn0122)の言葉に、ワタル・ブレイド(中学生魔法使い・dn0008)も頷き、視線を屋台通りに戻す。
     一角に集まってはしゃいだり、静かに余韻に耽る者の姿に、清政も穏やかに瞳を細めた。
    「ここに居るだけでも、灼滅者様方の素晴らしい手料理を、頂けそうでございますね」
     店番が忙しかったと言う生徒には、これでもかと言わんほどの食べ物が載った紙皿が押し付けられていく。むしろ、紙皿の強度を求められている勢いだ!
     別の一角に視線を移すと、残った食材を使った創作料理を皆に振舞う生徒もいれば、買って来たばかりの冷えたジュースを配り歩く生徒もいて。
    「皆でワイワイしなから食べる料理は確かにウマイけどな、羽目だけは外すなよ?」
    「無論承知でございます」
     持ち寄る料理がなくても、ここに集まった生徒達と学園祭の余韻に耽るのも、趣はある。
     お腹を満たしながら語り合う想い出は、味わい以上に色濃く心身に染み込んでいく筈だ。
     また、喧噪から外れ、1人雰囲気を噛み締めるだけというのも、いいかもしれない。
     瞼を閉じれば、その裏には学園祭の風景と高揚感が、鮮明に蘇ってくるだろう……。

     初対面でも大丈夫!
     そんな空気なんで、ポンっと吹き飛ばしてしまうのが、お祭りです!!
     さあ、貴方はここでどんな後夜祭を過ごす?


    ■リプレイ

    「今日はモカに付き合って展示スペースに行ってばっかっだったから、腹減ったぜ」
     肉系と粉ものの屋台に、椿は虎視眈々と狙い定めていて。
     隣でハラハラ見守るモカのサングラス越しの視線が甘味系の屋台に留まった、その時。
    「タダ飯みっけモカちょっと突撃してくる」
    「こらー待ちなさい椿ちゃん、まーてー」
     美味しそうなら何でも食べてみたい椿と、何気に大食漢で甘党のモカが走り出す。
     同時に、後夜祭の幕が開けたのだった。

    ●後夜祭は夜の屋台巡りで
    「忙しくて学園祭周れなかった奴らに、もふリートの味を知らしめてやれ!」
     目標はこの会場にいる全員に、もふリートを覚えて貰うこと。
     鉄板焼き『もふリート』出張臨時営業の看板を掲げた淼に【炎血部】の仲間も威勢良く声を張り上げた。
    「去年も今年も学園祭で人気だった、もふリートでーす!」
    「安い、美味い、可愛い! と、三拍子揃ったもふリートが今年も後夜祭で営業します!」
     着ぐるみの上だけを脱いだ法子も積極的に声を張り上げて、客の足を止めていく。
     狐の着ぐるみ姿の理緒も2日間参加していたと思えない程、楽しく声を張り上げていた。
    「グルメストリート2連覇っ、未体験の人はぜひ御賞味げほごほ!」
     美味しそうに食べるのも、宣伝の内♪
     淼に奢って貰ったミニイフ焼きを食べながら、唯が響くような声を上げた、瞬間!
     喉に詰まって咳き込んでしまうのも、お約束。
    「すいませ~ん、おひとつくださいな♪」
     学園祭は射撃三昧だった仁王の足も、自然と香ばしい香りに惹かれていて。
     物々交換も可能だと聞くと、嬉々と名状しがたい料理との交換を持ち掛けていた。
    「リアン君、どこに行きたい?」
    「綿あめとかいいな、お前みたいな感じのやつだ」
     と、カーティスの髪を指差すリアンの瞳が林檎飴の屋台に留まる。
    「林檎を水飴でくるんだだけか。向こうは……何だあれ。何でできてるんだ」
    「って、リアン君いつの間にっ」
     始めは眺めるだけだったリアンが、少しずつ興味を示していく。
     カーティスはたこ焼き屋に向かったリアンを追い掛けながら、想う。
     今度はどこに行こう、その足はとても軽やかだった。
    「……持ち物は俺が持とう」
     無常にとっては、高校最後の後夜祭。
     骨安めも兼ねて【ASSC】の仲間と屋台巡りをしていたけど、既に両手が塞がっている。
    「えへへ、似合う? くるっく~♪」
     飴莉愛は水着コンテストの衣装に竜胆色の帯を巻いた、お祭りスタイルで。
     たこ焼きを食べつつ祭りの余韻に浸っていたなゆたは、物欲しげな気配へ視線を移した。
    「なんだ? 欲しいのか?」
    「いいの? わーい、いっただっきま〜っす」
     と、皿ごと持っていこうとする飴莉愛を、なゆたは慌てて引き止める。
    「……全部やるとまで言った記憶は無い!」
     全くお祭り好きな連中が多いと、なゆたは眉をしかめて。
     そんな喧噪にも無常は耳を傾けていた。

    「たこ焼き屋『魚立早』、最後の商品大放出っすよー」
    「いらっしゃいませ、御一つ、如何でしょうか?」
     ギィが大声で呼び込み始めると、メニューと睨めっこしていたにあも声を張り上げる。
     美味しいですよとワタルにも元気良く声を掛けたにあに、ギィも援護に回った。
    「育ち盛りの中学生は、これくらいで満腹なんて言わないでやしょう?」
    「そうだな、1パックづつ頼むぜ」
     まさかの全種類お買い上げにギィは苦笑し、にあも盛り上げる充実を抱き始めていて。
    「……昇のたこ焼き、1つちょうだい?」
     夏らしい水色の浴衣で屋台巡りを満喫していたファーラは、珍しく女ものの浴衣に袖を通した昇に視線を留める。
     埼玉は海が無いから海の幸には少し憧れると言うファーラに、同じ埼玉のご当地ヒーローの昇は相槌を打った。
    「行田名産ゼリーフライは揚げたてが美味いよな」
    「そうそうアツアツが至高ですー!」
     何時もとは一味違う特別な雰囲気を味わうように、2人はたこ焼きを頬張った。
    「今夜は奢るからさ、許してくれねえかな?」
    「べーつーにー、構って貰えなかったからって怒っても無いし」
     今日1日相手が出来なくて悪かったと謝る月人に、春陽は全然気にしてないと返す。
     けれど、人混みの中、春陽は月人と腕を組んだまま。
    「……寂しかったんだから、ちょっとくらい甘えさせなさい。文句は言わせないわ」
    「少しくらいいちゃついてても気にしねえって」
     むしろ、気が済むまでそのまま居てくれても良いくらいだ。
    「お、たこ焼き美味……ぎゃー!」
     香ばしい香りに律が惹かれた瞬間、別方向へぐいぐい引っ張られる。
    「また迷子になったらどうするのっ!」
    「あ、ゆま。あっちに焼きそばがありますよ! 行きましょう!」
     いや、この前迷子になったのは、ゆまと心太じゃね?
     と、いうのが律の心の声であり、それが事実であることを補足して置く。
    「焼きそばも好きだからいっか」
     気を取り直した律が張り切って10人分頼もうとした瞬間、再びゆまの制止に合う。
    「りっちゃん! ステイ!」
    「俺は犬かー!」
    「そんなにふらふらしたり、大量に注文したら周りの人に迷惑じゃないですか」
     ゆまの理不尽と心太のここだけの正論に、律は終始振り回されていた。

    「翼と里桜と優希は遠慮を覚えなさい!」
     響の前置きをそっちのけで乾杯を上げたのは【陰影】の仲間達。
     さらに1人1個までなら奢ると宣言したのが、運の尽きでして。
    「遠慮? ないよ!」
     さらりと告げた翼の手には、大盛りの焼そば。
    「一人一個まで……つまり、一種類につき一つまでという事だろうかと」
    「成程、そういう解釈もアリか!」
     遠慮して特盛ではなく大盛りでも駄目だったのかと、里桜が首を傾げる。
     同じ塩焼きそばの大盛りを購入した優希は、里桜の解釈に瞳を輝かせて。
    「……皆さん、よく、お食べになるんですね」
    「いつか、解明してみたい謎ではありますね」
     1日中遊び回っていたとはいえ、あの量が収まるのが不思議なくらい。
     エルーシアは瞳を細め、杏月は手元の林檎飴から大盛りの皿に視線を留める。
    「ちょっとずつ食べたいとかなら、食っていいからな!」
    「えっと……遠慮しているつもりは、無いのですが」
     翼が差出した海鮮焼きから手元のクレープに視線を戻したエルーシアは、おずおずと追加注文。砂糖倍量生クリームのハバネロソースという、斬新な逸品を……。
    「私もあれくらい食べられるように、なるべきなのでしょうか?」
    「沢山食べるのは良い事だと思うが……食費が大変だぞ」
     無表情で林檎飴をかじる杏月に、里桜が遠い目で答える。
    「俺の財布とお前らの胃袋、どっちが先に尽きるか勝負だな」
     響の深い呟きに優希は振り返り、不思議そうに首を傾げた。

    「俺らんとこはかき氷屋だったんスよね」
    「いやぁー、どうなるかと思ったが案外上手く行くもんだな」
     学園祭の余韻に浸りながら猪介は【渦巻】の仲間と屋台巡りを楽しんでいて。
     他のクラブ企画を回れなかった分、ザジは食う気満々だ!
    「なんか奢ってやるよ」
    「え、マジいいんすか?」
     と言いながらも、猪介は奢られる気満々で。
     慌てて財布の中身を調べるザジに、猪介はわかってますと一拍置いて。
    「綿菓子をお願いしますっ」

     彩り豊かなかき氷が集う様子に【理科棟】の笑みが弾む。
     異なる十色は夏の虹のよう、シンのオレンジにカルピス味のかき氷を並べたハナも、共に囁き笑っていて。
    「……何だ、皆結構バラバラっすね」
    「あえてバラバラに買うことで、様々な味を楽しむ……完璧な作戦ね」
     多分、それで良いし、其処が良い。
     煌介の呟きにしたり顔で頷いた朱海も、自然とそうなったことが嬉しい様子。
     と、その時だった。
    「きゃーイチゴ狙われてるー助けてー」
     秋帆の熱い視線に悲鳴をあげた千穂に、チセが颯爽に飛び出してガード。
     同時に煉とハナが、赤の国の苺氷姫を青氷の君から、さっと遠ざけた。
    「……メロン、食べる?」
    「サンキュー友情、心なしかしょっぱいぜ」
     女子の鉄壁っぷりに秋帆が落ち込む中、尚久はすっかり馴染んだ笑みを見せていて。
    「ここで諦める様ではイカンのです!」
     華麗な連携に華月は拍手を送りながら、ビシっとスプーン掲げる。
     次々と仲間が慰めに入る中、朱海は呆れながらも自然な笑みを洩らした。
    「秋帆は千穂に冗談なのかな本気かな」
    「ラブ……ストーリー……?」
     ハナとハイタッチを決めた煉は煌介の感嘆に照れつつ、淡いお節介に口が尖る。
     救世主な女性陣に惚れ惚れした千穂は、御礼に幸せをお裾分け中。
    「これは全制覇しなきゃ」
     秋帆に厳しい顔を見せていたシンも千穂のかき氷に頬が緩んでしまう。
     同じ顔をした華月と目が合えば以心伝心、すぐにチセを手招いた。
    「朱海姉ちゃん一口ちょうだい」
     ブドウ味を振舞うチセは、朱海の大人な宇治金時が気になる様子。
     親鳥で雛鳥な皆の姿に煉の頬も簡単に緩み、溶け込んでいて。
    「わたしも混ぜて!」
     何時の間にか始まった一口交換に、ハナも飛び入り参加。
     溶けてしまうのが勿体無いくらい、温かな笑顔が煌めいて。
    「来年も、こうして繋がっていられるよね」
     ポケットから葉脈標本の栞を取り出した尚久は、メロンの緑に葉の緑を重ねる。
     全て焼き付けたくなる眩しさに瞳を細めた秋帆の口にも、至福の味わいが広がっていく。
    「虹が掛かっていくみたいで綺麗なの」
     色とりどりの氷が行き交う光景に、華月は色相環図を思い浮かべる。
     華月の頬が緩むと同時に、煌介の目元も少しだけ緩み、まるで溶ける氷のよう。
     シンは今の皆の笑顔に自信持って花丸がつけられると、嬉しさを噛み締めていて。
     皆との時間は、彩り豊かな化学反応を起こすようなものかもしれない。
     この先も、きっと――。
    「これ一緒に食おや! な、想希?」
    「って言っても清政さん食べてないんですよね」
    「ええ、途中で零してしまい、ライチシロップだけ頂きました」
     クラブ企画で清政が作ったカキ氷の完成版を持って来た悟に、想希は遠い目をして笑う。
     そして、屋台に視線を留め、清政に声を掛けた。
    「よかったら、お詫び兼ねて食べたい物買ってきますよ?」
     思わぬ薦めに戸惑う清政に、悟は楽しんでなんぼだとけらりと笑う。
     そして、小声で何かを告げると清政も微笑を返し、想希に視線を戻した。
    「悟様と同じ林檎飴でお願いします」

    「このクレープ超上手いぜ!」
     悪友と一緒に屋台巡りを楽しむアルコは綿菓子や林檎飴に目移りしながら、自分が食べたオススメを悪友に勧める配慮も忘れていない。
    「篠介ー、ちっとコレ頼む」
    「お、桜田は素早……えぇ!?」
     空き腹を刺激する香りに【Cc】の紋次郎が屋台へ吸い込まれていく。
     押付けられた大量の粉もの料理に篠介は唖然としつつ、しょうがねぇなと笑う。
     一方。飲み物の調達を任された依子が見回せば、其処彼処からいい香り。
     並んで歩いていた昭子が屋台を覗き込んだ時だった。
    「……たいへんが向こうからいらっしゃいました」
     男子2人の姿に手を振った昭子の顔が、神妙に変わる。
    「クレープも見掛けたんだが……手が足りなんだ」
     綿菓子片手に紋次郎が差出した袋は、香ばしい香りと重みでずっしり!
     食が細そうな昭子には篠介が甘味を揃えていて、まさに制覇の勢いだ。
    「いただきますは、部長の号令でかな」
     依子の笑みに篠介はコップを取り乾杯の音頭をとる。
    「2日間お疲れさん!」
     浮かぶのは、学園祭で出逢った沢山の笑顔。
     来年も沢山遊べるようにと願いを込めて、昭子もコップを掲げた。

     乾杯の音頭をとる允に合わせて、魅勒と亮が飲み物を掲げる。
     水着コンテストの為に食事制限していた亮の労いも込めて、何でも奢るつもりで肉料理を集めて来た允に、更に歓声が上がった。
    「焼きそばも戴きますので取っといて下さいね? 魅勒」
     串焼きに飛びついた亮に魅勒は苦笑し、允はバリ風クレープに手を伸ばす。
    「制限なんて必要ねーのにと思うよなシドーサン?」
    「だよねー! さーみぃもそう思うでしょ?!」
     元々スタイルいいのにと呟く允に魅勒が強く同意し、亮は恥ずかしさで俯く、が。
    「りょーちゃん私より体重軽いのにおむねとおしり私より……」
    「えっそれ詳しく!」
     允が喰い付くや否や、亮の黒い笑みが一瞬で2人を凍らせた。
    「これが焼きそばか、初めて食ったけどうめぇな」
     奢る約束をしていたリズリットの分と合わせて焼きそばを大量購入したシュヴァルツは、その甘さに驚愕して何度も目を瞬いて。
    「ありがとう。実りと恵みに感謝しがぶがぶもぐもぐ」
     屋台全制覇を目指すシュヴァルツに配慮していたリズリットも、香ばしい香りに勝てなかった様子。
     シュヴァルツが次のリクエストを訪ねると、即座に牛丼と返って来たのは、また別の話♪
    「せっかくだからお互い別の料理を頼もうぜ」
     武流の提案に、屋台を漫遊していたメイニーヒルトは、その意を察して頷く。
     これだけの量があれば、互いにお裾分けするのが容易なのも、推測出来る。
    「武流、あーん」
     メイニーヒルトにとって武流と一緒に美味しい物を食べられれば、言うことなく。
     武流も彼女の嬉しそうな顔が見られるだけで充分だったけど、共に楽しくて美味しい時間を共有しようと口を開けた。
    「流石は永瀬さん、この人混みの中、両手に余る程の大量の料理を1人で……」
     落とす気配なく運んで来たバランス感覚も、海の上、波の上で鍛えられた物なのだろう。
    「乃木、どれ食う?」
     2人でも食べきれるか分からないと、京介は笑みを浮かべていて。
     聖太が男同士、飯を摘みながら色んな話をしたいと告げると、京介は二つ返事を返した。
     こんな場だからこそ話せることもある。
     周りの喧騒に、語らう言葉が吸い込まれていく。

    「澪くん、次はどこに行くですか?」
     隣に澪を連れた【まんぷく】の仙花は、白い鈴蘭模様の紺色の浴衣。
     色々目移りする中、次は何を食べようかと常に辺りを見回していて。
    「おいしいのです~♪」
     ポニーテールで白地に蒼い朝顔柄の浴衣姿の澪は、綿菓子にご機嫌な様子。
     それでも片方の手は迷子にならないよう、然りと仙花の手を握っている。
    「まるでダブルデートだな」
     澪をリードする仙花の背を見守りながら、アインと歩いていた梗香の口元が綻ぶ。
     1人だけ普段着姿のアインも、何処か面倒を見るような眼差しを澪に向けていて。
    「迷子にならないようにだけ気をつけろよ」
     少しして、アインは軽く梗香に目配せすると、屋台がない静かな広場を指差す。
    「ええ、そうね」
     2人ならきっと大丈夫。
     アインの視線と呟きに梗香も頷き、胡蝶蘭柄の藍色の浴衣の裾を静かに返す。 
     暫くして2人がいなくなったことに気付いた妹は、何かを察したように微笑んだ。
    「……っとと……どうしたんですか、ホワイさん?」
     突然、人気のない道へ手を引かれたリオンは、その意を察してホワイトの頭を撫でる。
     何処かほっとしたような顔を浮かべた少女にリオンは微笑み、2人だけで歩き始めた。
    「動物のふれあい体験いかがでしたか?」
    「初めてでよくわからなかった……見様見真似でやってみたけど」
     気付けば前を歩くリオンの手を握ろうとしたホワイトは、そっとその手を止めていた。

     夜が一段と濃くなり盛り上がりを見せる屋台は、どれも魅力的に見える。
     そんな中、何が【蝉時雨】の漢達をロシアンに駆り立てたのかと、ホナミは想った。
    「よっし、男連中で運試しといこうぜ」
    「いや僕は遠慮……普通に美味しいもの食べようよぉ!」
     ロシアンを持ち掛けた嘉市に、理一は逃げるそぶりを見せるも、渋々参加。
    「皆、頑張って……! あら、海月それ美味しそう一口いい?」
    「私もそっちの一口もらっていいだろうか?」
     漢達の口に美味しいものが入ることを祈りながら、ホナミと海月は幸せのお裾分け中♪
     学園祭では余り食べられなかった海月の興味も、観戦から甘味にスイッチが切り替わる。
     そんな女子2人が平和的に甘味を美味しく分け合う中、勝負は決した。
    「ふふん、日頃の行いが良いからね!」
    「ぐっ……すげえ絶妙にマッチしてねえこの風味……」
     勝利者もとい、ドヤ顔の理一。
     崩れ落ちる嘉市に、海月が口直しの団子をそっと差し出した。
    「くっ、このタイミングでツーペアを揃えるなど、お前さては天才か!」
    「フフ、如何なされます?」
     奏と清政の低レベルポーカーを【LP】は冷たい甘味とたこ焼き片手に応援中♪
    「カモVSネギ、雪辱を晴らすのはどっちだあぁぁ!」 
     スイッチが入った煉火は、乾杯に使ったラムネ瓶をマイク代わりに実況モード!
    「そのダイヤとスペードのエースのワンペアは、単なるツーペアより強いんですよ」
    「トリさんすごい! さすが!」
     ハートで揃えた霧湖に息を飲みつつ、希沙と茉莉は奏をヨイショする。
     数字が大きいのを集めればきっと勝てると狸姫も適当にアドバイスを送った、結果。
     奏が揃えたのは、何とエースのフォーカード!!
     晴れて勝利の胴上げをされる事になった奏が天を仰いだ、その時だった。
    「持ち上げてブリッジすればいいんですね?」
    「え?」
     霧湖の不吉な言葉に、奏の脳内が綺麗に漂白される。
    「あれ、なんかだんだん胴上げじゃなくなって……ギャアアアアア!」
     持ち上げて投げて、受け切れない程下げてからの狸姫のワンバウンド♪
     胸でちょっぴり弾ませての胴上げに、怪力無双も幾つか混ざってる気がが。
    「わーっしょい! わー……あっ!!」
    「できた? きりこできま……あれっ」
     奏の悲鳴が響く中、茉莉と霧湖の手がつるりと滑って軽くなって。
     直後、煉火のバックドロップの洗礼を受けた奏に、希沙と清政は黙祷を捧げたのでした。
     南無。

     出し物が闇ドリンクバーだった【白の王冠】の乾杯は至って普通のソフトドリンク。
     しかしそれは最初だけ、打ち上げは大食い大会と化していた。
    「どちらかといえば小食ですので、大食いも早食いも専門外なのですが……」
     学園祭は余り遊ぶことができなかった分、弥太郎は頑張ってお菓子を頬張っていく。
    「……あれ、なんか全然減らない?」
     行儀悪いのは、梟男爵の異名を持つ貴族たる者の誇りが許さない!
     司はゆっくりと確実に消費していくけど、何故か増えてるパンケーキ。
     自身がどっさり用意した桃すら悪魔に見えます、そんな光景。
    「大福大福。も一個お願いー!」
     凄いペースで平らげていく枢に響斗は吃驚しつつ、のんびりマイペース。
     に見えて、こっそり皆の皿に自分のパンケーキを乗せてるではないか!!
    「参加していない子優先で食べて貰ってるだけだよ?」
    「ぼ、ボクのことはお気になさらずに」
     お菓子はまだまだ余ってると響斗が告げた瞬間、弥太郎ダウン。
     無心と化した枢だけが、ホールケーキへ突入していく。
    「美味しいお菓子が食べられるなら、それだけで幸せだわー♪」
     色々楽しめた事が何より嬉しくて、美味しい想い出にも感謝一杯で。
     傍で首を傾げながら鼻を鳴らす庵胡に、瞳は食べ過ぎない程度に幸せをお裾分け。
    「おれたちの学祭はこれからだ! ……なーんてネ」
     学園祭中に挑戦したというポンパドールは、ちらりと響斗を見やる。
     ゆっくり味わうには美味しいけど、絶妙なエグさを感じるのは何故だろう。
    「あー、中々旨いが、量が減らねーぞ」
     1人カラクリに気付いていない光貴は、至ってマイペース。
     瞳の許可を得た庵胡のお裾分けに夢中の光貴が惨状に気付くのは、まだまだ先の話♪

     4人仲良き【七天】は、浴衣姿で屋台巡りを楽しんでいて。
     ふと、巨大トレーを抱えて食事に徹していた鞠音が、鈴乃に視線を留める。
     そして、今度は緋頼を見やり、最後に白焔に移すと言葉をぽつりと洩らした。
    「……初めて、です。一年たって、またこうする、というのは」
    「結構悪く無いだろ。一緒にあれこれやって、偶に思い出してみるってのも」
     白焔は緋頼と鈴乃に飲み物を渡しながら、鞠音に自然な笑みを向ける。
     来年も何処かでこうやって、一緒に話してるさ、と。
    「来年の今頃は、もっと色々体験していると嬉しいです」
     大切な親友で仲間。
     この4人でもっと色々してみたいと言う緋頼に続けて、鈴乃も口を開いた。
    「いっぱい楽しいことしましょうなのですよ」
    「4人でいるのが当たり前で、それが幸せなら言う事無しだ」
    「来年はどこで後夜祭しているのでしょうね」
     3人の微笑みに、鞠音は胸の奥に広がる温かさを噛み締めるように、頷いた。
    「よく甘いのばっかり食えるな……」
    「甘いものがいいのよ。甘いものが!」
     ニブニブの玲に対して、和菜は怒りを甘味で宥める、エンドレス。
    「そんなに食うと太――」
     これ以上言うと危険だと玲が口を慎んだ時だった。
     ふと手を伸ばしてきた和菜に、玲は反射的にビビって身構えてしまう。
    「黙ってつながれてなさい! はぐれるでしょ!」
    「あ……何だ、そういう事……いや別にいいけど」
     ビビらせんなよと呟きながらも、玲は和菜の手を取った。

    「ん? 雲雀、その林檎飴はどこにあった?」
    「あっちにありましたよ、宗一先輩」
     思い出に浸るには、まだ早い。
     甘味系を中心に楽しんでいた【書店 落椿】の宗一の視線が、識の手元に止まった。
    「すごく幸せそうな表情で食べてるね」
     楽しくて仕方ない様子のマイスに、識は思わず甘いものは正義だと喋ってしまう。
     皆で連れ歩くのが初めての雪音も、自然と浮足立っていて。
     ふと、一行の足が、七色に輝く煎餅の屋台に止まった。
    「これが、煎餅に描いた絵が七色に光るという、らくがきせんべい?」
     日本に来る前から気になっていたマイスが椿の絵を描いてみせる……と。
     完成したのは、何ともいえない謎物体!
    「まあ、なんとかなるだろ」
     マイスに促された雪音も煎餅を購入して、通り掛った霊犬を描いていく。
    「このカラフルさは異国感というか……まぁうん」
     前衛的な2作品に宗一が絶句する中、識は想う。
     こうやってまた、皆で遊びに来れたらいいな、と。
    「まったく、お主らは……そうしているとおじいちゃんみたいじゃぞ?」
     お好み焼きをのんびり食べる【八幡町2-6】の皆無に、姫月は溜息を洩らす。
    「賑やかなのをこうやって眺めているだけ、っていうのも案外好きなんですよね」
     ――熱気が伝わってきそうじゃないですか?
     はしゃぎ回る姫月に皆無が逆に訪ねる光景を、緋月は慈しみの視線で見つめていて。
    「お好み焼きですか……美味しそうですね……」
     皆無に習ってお好み焼きを食べようとし、1人片隅で佇む透に気付いた時だった。
    「その様に僅かな量では足りまい。たんと食わねば力が付かぬぞ?」
     両手に抱えきれぬ程の食料を持ってきた鉄次が、笑いながら声を掛けてきて。
     遠慮せずにと言いながらも、先にモシャモシャと食べ始めた鉄次を、姫月が程々にと諌めるけれど、誰よりも楽しむ気一杯だ!
    「……僕、この学園に来れて、本当によかった」
     冷たい飲み物を手に少し離れた場所で皆を眺めていた透は、誰に聞かせる訳でもない独り言を夜風に流す。
     穏やかな笑みを浮かべて洩らした本音は、幸せに満ちていて。
    「ずっと、こうやって……皆を見ていたいな」
     そう呟いて切に願う皆無に、緋月も笑みを浮かべて頷いた。

    「さて、最後はかき氷で締めましょ」
     アリッサの提案で【羽樹】の4人が最後に口にしたのは、かき氷。
     紅葉は迷子にならないよう、しっかりアリッサと手を繋いでいる。
    「舌の色、青くなるかしら?」
    「え、青いのはちょっと……」
     色々目移りしつつ、メグはブルーハワイをチョイス。
     メロン味を選んだ紅葉が一匙口に運ぶと、ひんやり冷たくて気持ち良くて。
    「あら柊弥、そんなに荷物たくさんで大丈夫?」
    「僕の事はご心配なく、手荷物は少ない方が見て回れるでしょう?」
     少し後方を歩く荷物持ちにメグが声を掛けると、柊弥は余韻を味わうには十分と答えて。
    「ところでアリッサ、あまり夜遅くになってから食べると……」
    「なぁに、太るですって?」
     毒々しいラズベリー味のかき氷を口にしたアリッサは、メグと舌を見合い笑みを深める。
     羽樹が集まれば、何時でもお祭り会場!
     楽しそうにはしゃぐハニーカラーの髪の少女達を、柊弥は穏やかに見つめていた。

    「最後まで、いい気持ちで過ごせました」
     長いようで短かった、学園祭と後夜祭。
     まだ食べていないものを求めながら、菜々乃はゴミを拾い集めていく。
     屋台が一望できるベンチを見つけると、のんびり眺めるように腰を下ろした。
    「夜なのに明るい感じがして綺麗」
     早苗と知信はクラブ企画で作った万華鏡を互いに見せ合っていて。
     太陽をイメージした知信の万華鏡は赤と黄が多めで、ビーズとセロハンが彩り鮮やかで。
    「海のイメージ、か。夏らしくていいかも。回した時の音も涼やかだしね」
     早苗の万華鏡は、青系統の和紙とリボンで装飾している。
     細かいビーズが海のさざ波のよう、2人合わせて夏の浜辺みたいだと早苗は瞳を細めた。
    「おまえ、キャリバーで損したなー」
     第二の学園祭の意気込みで回っていた殊亜も、満腹の余韻に浸っていて。
     傍のディープファイアの座席には、沢山の屋台料理が所狭しに乗せられている。
     香ばしい香りに包まれた相棒も、楽しそうにエンジンを鳴り響かせた。

     満腹に浸って語り合う想いは、味わい以上に色濃く心身に染み込んでいく。
     楽しい時間の余韻は、夜が明けても続いていたという。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月5日
    難度:簡単
    参加:102人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 19
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