学園祭2014~夜、花火を楽しみながら

    作者:陵かなめ

    「学園祭、とっても盛り上がったよね」
     キャンプファイヤーの火を眺めながら、千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)が話し始めた。
     多数のクラブ企画に、水着コンテストなど、本当に楽しい2日間だった。
     そして、今から学園祭の夜が始まる。
    「ねえ、最後にみんなで打ち上げをしようよ! これ手持ち花火。みんなですると、きっと楽しいよ」
     太郎が取り出したのは、手持ち花火のセットだ。
     花火をしながら、友達と語り合うのも良いだろう。
     賑やかにはしゃいだらきっと楽しい。
     好きな花火をただ眺めるだけでも、学園祭の余韻に浸れると思う。
    「みんな、どんな学園祭を過ごしたのかな? 最後にもう1つ、思い出を作ろう」
     グラウンドには、花火用の水入りバケツも用意した。さあ、みんなで一緒に花火をしよう。


    ■リプレイ


     乱獅子・紗矢は石弓・矧を見つけ木陰に駆け寄る。
    「お~い、石弓」
     探していた旨を伝え、隣に胡坐で座った。そして学園祭のお土産を集めた袋を差し出す。
     矧はそれを見て驚いた。自分の好みのものばかりだ。
     気遣ってくれた優しさを感じ、笑顔で感謝する。
    「……ありがとうございます」
    「べ、別に感謝されたくてしたんじゃねぇよ」
     紗矢が慌ててそっぽを向いた。矧は常に笑顔を浮かべているけれど、今の笑顔は反則だと思う。
     隣で楽しげに語る紗矢を見ながら、矧は以前に感じた妙な感情を覚えた。
     その想いが何かは分からないけれど、そう悪いものではないと思う。
    「優陽ちゃん、おーい」
     雨宮・恋が持っていた花火を振り、帆波・優陽を呼んだ。
     さらに、恋は沢山の花火に火をつけ大きく振る。きっと、とても綺麗だと思う。
    「ってわわっ!? ひ、火がこっちに!?」
     火の粉が降り注いだのだ。
     見とれていた優陽も慌てて駆けつける。濡らしたハンカチで冷やすように拭いた。
     でも、とっても綺麗だったと優陽。
    「私もちょっとやってみたいかも」
    「えへへ、喜んでもらえて、よかったです!」
     優陽の言葉に、恋も喜び笑顔になった。
     学園祭の余韻に浸りながら、皆が楽しく花火を始めていた。
    「学園祭はお疲れ様だ、皆のお陰で無事に成功する事が出来たよ」
     デルタ・フリーゼルが声をかけた。
    「今日はお疲れ様でした」
     土岐野・有人が答える。その手には、冷えた麦茶。夜になってもまだまだ暑く、冷たい飲み物が気持ち良い。
    「さぁ、今日は花火で楽しもう」
     手持ち花火に火をつけ、終わればバケツへ。色とりどりの花火にデルタの顔が照らされる。
    「綺麗ですね」
     その様子を眺め、有人がにっこり微笑んだ。願わくば、来年もまた一緒にこの祭りを楽しめますように。
     思いを込め、また1つ花火を手に取った。
     寺見・嘉月と平坂・月夜は、花火の色当てクイズをしている。
     この花火の色は緑だろうかと、月夜が花火に火をつけた。
     ばちばちと、緑の花火が明るく咲いた。
    「わーい、当たりましたっ」
     当たっても特に何もないけれど、とても嬉しい。
    「理科系の人間からすると、原理が分かっているだけにあまり喜べないですが……おみくじみたいなものですかね」
     嘉月も1つ花火を手にする。
     さて、次は何色の炎が上がるのか。期待に輝く瞳を向ける月夜を見て笑い、嘉月は花火に火をつけた。
     エウロペア・プロシヨンは、他者の邪魔にならないよう配慮しながら合計6本の手持ち花火を指に挟み、くるくると踊った。
    「見よ、見よ、閃光の舞であるぞー」
     藤柄の浴衣で、花火の軌跡を描く。
    「って、そんなにいっぺんに持ったら浴衣に燃え移っちゃうだろ!」
     まったく目が離せないお転婆姫だと両角・式夜。仕方が無いと思いながらも、しかし楽しそうな踊りに結局式夜も参加する。
     交わる花火はとても綺麗。
    「うむ、またそなたと回れて良かったのじゃ!」
    「まぁ、俺も照れくさいが一緒に連れ回されて楽しかったよ」
     流石に霊犬・お藤の姿を描く事は難しかったけれど、付かず離れず2人の舞は続いた。
     花火の軌跡でどちらが上手く描けるか、勝負に勝ったのは鳴神・千代のようだった。
     負けたら千代の水着について褒めちぎると言う約束だ。『大撲殺』と書こうとして失敗したエリアル・リッグデルムが、腕を組んでその姿を思い出す。
    「太ももが眩しかったのと……イカが可愛かった気がする……」
     その二つが強烈に印象に残っている。それから、髪型も新鮮で。
    「鳴神さんも可愛かったよ」
    「うぇ あ、ありがとう!?」
     意外とストレートに言ってくれる。笑顔のエリアルに千代の声がひっくり返った。
     大量の花火を持って回っていた龍ヶ崎・藍が、ハッと気がつき足を止める。
    「水着めっちゃよかったぜ! うん……男に言うのは良いのかわかんねーけど……色っぽいよな……」
    「おい、しみじみと色っぽいとか、褒めてんでしょーね?」
     雁音・夕眞が笑う。
     褒めてる、めっちゃ褒めてると主張する藍に、夕眞が投げキッスをちゅーっと投げた。
    「ふ、うれしーよ、ありがとさん」
    「マジで思ってるんだぜ」
     藍は、投げキッスをキャッチする。
     その無邪気さに、夕眞はくつくつと笑みを漏らすのだった。
    「やっぱ、夏はコレやんねーとな!」
     言いながら、佐見島・允が5本纏めて手持ち花火に火をつけた。
    「数年前の俺と同じすぎて笑うんだけど。ぷっ」
     豪快に花火の束を振り回す様子を横目で見て、東谷・円が笑う。
    「アズくんアズくん、手持ち花火さん同士で火移すのやりたいさんなのー」
     允の花火に驚きながらも、夜伽・夜音はいそいそと円に花火を向けた。その表情は、はしゃぐように輝いている。頷きながら、円が夜音に花火を差し出した。
     2人が余所見をしている隙に、允が背後から忍び寄りネズミ花火に火をつける。
    「此処でネズミ花火は危なって言ってる傍から暴れ出したァアア!!」
     うねうねと飛び出した花火を見て、円が叫ぶ。
    「夜音逃げねーと追っかけてくんぞ!」
    「えっ追いかけてくるって何!?」
     囃し立てる允に驚く夜音。追い追われ、〆は家庭用の打ち上げ花火だ。
     大きな音に耳を押さえた夜音が、促され顔を上げる。小さいながらもなかなかの迫力だ。
    「……二人と過ごせる時間、とっても大切で……大好き、だよ」
     気恥ずかしそうにはにかんで、夜音が囁く。
    「このガッコに入った時は、こんな楽しくなるとは想像もしてなかったわー」
     ウチワ片手に、允がしみじみと頷いた。
     楽しいと不安になる。時は必ず過ぎるものだから。円はそう思いながら、打ち上げ花火を眺めた。
     だからせめて、今だけはこの幸福な時間を満喫しようと思う。


    「おー、これが花火かー」
     久寝・唯世は、初めての花火を手に取った。
    「いせえびー、こっちを持つんだぜ!」
     花火を逆さに持っていた唯世を見て、木京・向が持つ場所を教える。
     向は花火を振り回して遊び始めた。
     色とりどりの花火に、唯世が見とれる。
    「煙くねぇか? そりゃ綺麗だがよ……火ぃ飛んで熱ぃ……」
     こちらも初めての手持ち花火だ。
     伊丹・龍一は煙を出す花火を見つめ、すぐさま自身の発言にため息をついた。我ながら可愛くないガキだと思う。
    「お祭りの締めはやっぱり花火が良いよな」
    「だよなー!」
     鳥座・イカルと向が次々に花火を取り出していく。
     向のようにはしゃげたなら、と。龍一は向の様子を見ていた。
     これが楽しい時間。気配も距離感も、いつもとは違って感じられる。
     表情も違って見える。花火に照らされているのだ。それがとても綺麗で。
     つらつら考えていると、向が龍一に気づいた。
    「……わかった! これが欲しいんだな!」
     飴が欲しいのだと勘違いした向は、舐めていた飴を差し出してきた。
     いつも向はあり得ない罠を仕掛けてくる。
     龍一が鼻に違和感を覚えるのと、鼻血が出ていると向が声を上げるのと、ほぼ同時だった。
     皆の様子を一眼レフで撮影していた見崎・遊太郎は、写真を確認し微笑んだ。
     気になる人が上手に撮れていたのだ。
     まだ確信できない感情なので秘密にしておこうと思っているけれど。
     その背後からこっそり二木・るる子が写真を見ようと近づく。実は遊太郎が好きな人の写真を眺めていることを知っていたのだ。
    「るるちゃんから視線を感じていたけど……」
    「るるは応援するよ!」
     慌ててカメラを引っ込める遊太郎と、ふふふと笑うるる子。
    「学園祭も、この後夜祭で終わり……か。振り返れば楽しい2日間だったな」
     イカルが皆を見る。見ていて飽きないこの場所が好きなのだ。
     そして、これからも存分に楽しむつもりである。
     落ちた線香花火を物憂げに見ていた唯世もまた、仲間を見た。
     鼻血がどうとか、写真がどうとか。仲間の騒ぐ声につられ、楽しそうなその輪の中に足を進める。
     脆く感じられた花火の事は、すっかり忘れていた。
     暗がりの中、花火で描く光の絵はどれも素敵だ。
     壱寸崎・夜深の描いた丸に、羽衣・ひかりが瞳を輝かせる。自分もしたいと花火を手にした。
    「お魚でしょ、お花でしょ……鈴音先輩のはちりんさん?」
    「あイや! ひかり先輩、凄イ! 御上手」
     次々に描いては消え、消えては描き。ひかりと夜深が花火に手を伸ばす。
    「風向きには気を付けてくださいねぇ」
     2人の様子を眺めていた烏丸・鈴音が、声をかけた。了解の返事を貰い、ふと呟く。
    「先程から二人の母親見たいだ」
    「う? すず先輩、男性、のニ……母様? でモ、違和感、無、かモ」
     夜深は小首を傾げ、納得したように頷いた。
    「其ジャ……すず母様!!」
     ひかりも、ふふと微笑む。
    「……暫く鈴音母さんってお呼びしたほうがいいかしら」
    「今日くらいは母親と呼んでも良いですよ」
     おどけて鈴音が返す。
     二日間は全て眩く心に灼きついた。明日からもきっと楽しい夏になるとひかりは思った。


     様々な花火の様子に驚き、見入り。綺麗な軌跡に目を輝かせた。
     学園祭での出来事を話しながら、吉沢・昴は天宮・黒斗に線香花火を落とさず長く続ける勝負を持ちかける。
    「動かずにいれば良いだけなら頑張るぜ」
     真剣に固まる黒斗を見て、昴が最後に問いかけた。
    「なあ、今日は楽しかったか?」
     黒斗が柔らかく笑う。
    「ああ。去年よりずっと楽しかった」
     人間の営みに気後れすることも少なくなった。
     最後に告げたありがとうの言葉は、昴の耳に届いただろうか。
     グラウンドでは、線香花火を手にする生徒達が増えてきた。
     紫苑・十萌は、内心ドキドキしながらアーサー・ブリュンヒルデの横顔を見た。
     不意に、口を開きたくなる。
    「……来年もこうして、隣で花火……、してくれますか?」
     苦手ながらも、精一杯の言葉だ。
     その言葉に驚いて、アーサーの火が落ちた。
    「んー、十萌ちゃんさえイヤじゃなきゃ来年もまた遊びたいと思うよ?」
     内心の落胆は表に出さず、へらりと笑う。
    「花火でも、ほかのことでも一緒に楽しめたら嬉しいしねえ」
     十萌はその言葉を聞き、やはりこの人のそばに居たいのだと再認識した。
     今だけは時間が止まってもいいのに。そんな風に思う。
     線香花火の勝負に、一品おごりをかけた桜井・夕月と月村・アヅマ。火を落とさぬよう、動かず騒がず。静かな真剣勝負に勝ったのは夕月だった。
    「やったー! じゃ、ほら、早く行こう!」
    「……まぁ、勝負は勝負だしな」
     苦笑しつつ、何を食べたいかと言うアヅマに夕月が手を差し出した。
    「あ、手でも繋ぎます?」
    「え? あー……うん」
     何食べようかなーと言う明るい声と共に、2人は屋台通りに足を向けた。
     クラブ企画や水着コンテスト。二日間はあっと言う間に過ぎていったと思う。
    「月人さんも、コンテスト出れば良かったのに」
     カッコイイから結構いけると思う。けど優勝したら、好きになる子も居るかもしれない。それはそれで複雑だと南谷・春陽は言う。
    「春陽が近くにいるうちは目移りすることはねえよ、安心しろ」
     優勝するなんてことにはならないと思うがと、鳴神・月人。
    「ふーん……じゃあ、月人さんが目移りしないように、これくらい近くに居ないとね?」
     ぴったり近づいたかと思うと、春陽が不意打ちで頬にキスをした。
     お互い無理なく飽きない程度に一緒に居よう。2人の影は、ずっと寄り添っていた。
     線香花火が1つ落ちたところで、最後まで火が落ちなければ願い事がかなうと言うおまじないを思い出した。そう話す瀬尾火脚・三郎左に霧島・朝霧が微笑んだ。
    「これで落ちないかしら?」
     そして、そっと自分の花火の玉を三郎左の花火にくっつける。
     願いは何か考えていた三郎左は、改めて隣の朝霧を見た。その横顔に、どきりと心臓が跳ねる。
     自分の願いに、気づいたのだ。
    「ええ」
     朝霧の言葉に頷き、くっついた線香花火のように、肩が触れ合うような距離で寄り添った。
    「終わってみると早くて名残り惜しいものだったな」
     叢雲・宗嗣とヴァイス・オルブライトの2人も、寄り添って花火を楽しんでいた。
    (「……い、いかん、意識したら急に心臓の鼓動がはやく……」)
     返事をしながら、ヴァイスは頬が赤く染まるのを感じる。
     宗嗣はそんな彼女の姿を優しく見ていた。
    「こ、この際だから見たことも無いような花火も試そう」
     ヴァイスは近くにあった花火を手繰り寄せ、適当に火をつけた。
     にゅるにゅると、何かが蠢き飛び出す。
    「な?!」
     驚いて、よろけ、
    「あ」
     宗嗣の胸元に飛び込んでしまう。
     違う、これは違うと、更に顔を真っ赤にしたヴァイスの叫び声が聞こえた。
     周囲の賑わいを避け、暁・稔と風鳴・九音は2人で静かに花火を楽しんでいた。
     とりとめの無い会話をしながら、気づけば線香花火も萎んでしまった。
     きっと、こんなちっぽけな贅沢がもっとも幸せなんだと思う。
    「こんな時に言うとなんだか照れ臭いが……九音、一緒に居てくれてありがとうな……愛してる……」
     稔の言葉に、九音も思う。
     この不器用な手をとって出かければ、もっと綺麗な思い出を作れるはずと。
     人前で言うのは恥ずかしいから、今夜は貴方だけに伝わるちょっとした魔法を。
    『また、二人でどこか行こうね……大好きだよ、稔』
     九音の心は、繋いだ手から稔に伝わったと思う。


     おでんに焼きそば、カキ氷と、用意した食べ物を摘みつつ【御殿山3-2】の皆が花火を手にする。
     最大の目的は花火の軌跡で文字を作ること。
    「エアンと百花のハートマーク、タイミングばっちし! 笹さんもーちょい右! 七、大和、笹さんに教えたげて!」
     カメラに皆が写るよう、佐々木・紅太が指示を出す。
     時吉・大和と衣幡・七がナノナノ・笹さんの位置を整えた。
    「エルフォードと葉新はさすが、息ぴったり」
     大和の言葉に、エアン・エルフォードと葉新・百花が頷き合う。ハートマークを担当する2人だ。
     写真を構える紅太が声を上げた。
    「御殿山3-2の団結力はー?」
     皆が花火を構える。
    「……せーの……日本一~!」
     百花の掛け声にあわせて、それぞれ花火を振った。
     大和が3、七が2、2人の間で、笹さんが―を担当するように花火を振る。
     エアンと百花は、窪んだ場所から膨らませるようにハートマークを描いた。
     この瞬間が、キラキラ輝くよう。
    「うん、間違いなく日本一だ」
     エアンが笑った。
    「このクラスでよかったよ」
     大和が言う。
    「ふふ、ほんとね。来年はバラバラだもん……目に焼き付けとこっと」
     高校生活最後の学園祭。大学生になると、きっと学部も離れてしまう。
     七の言葉に、百花もちょっとしんみりする。
    「またこうして集まれたらいいなぁ」
     そう言うと、エアンと大和も頷いた。
    「来年も叶うなら皆で集まれたらいいよね」
    「……そうだな。来年も、また」
     楽しかった学園祭の幕が閉じる。
     皆名残惜しそうに、美しい花火を見つめていた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月5日
    難度:簡単
    参加:45人
    結果:成功!
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