学園祭2014~手作りピザで乾杯!

    作者:呉羽もみじ

     7月20日と21日の2日間にわたって開催され、多数のクラブ企画や水着コンテストなどで、とても盛り上がった学園祭。
     しかし、その学園祭も、とうとう終わりを迎えてしまった。
     だが、学園祭の夜は今始まったばかり。
     俺達の学園祭はこれからだっ!!
     

     学園祭の余韻が冷めやらぬ、屋台通り。
     本来ならば、早々に後片付けをして、暗くならないうちに帰路につくのが健全な学生のありかたなのかもしれない。
     ――しかし。
     楽しかった時間を、少しでも長く仲間と共有したいと思うのも健全な人の願いでもある。
    「要は、うちあげだよ」
     にっこり笑顔で皆を誘うのは、黄朽葉・エン(ぱっつんエクスブレイン・dn0118)。
    「必要なのは屋台で使った材料の切れ端や、売れ残り。それをピザの上に乗せて美味しく後片付けしちゃおうって計画してるんだ」
    「おほほ、オージュ、おぬしも悪よのう」
    「別に悪いことじゃないと思うんだけど……」
     学園祭の影響か、テンションが上がり過ぎてキャラまで変わってしまったエンを困惑顔で見る、水上・オージュ(実直進のシャドウハンター・dn0079)。
    「生地やチーズはこちらで準備してるし、焼く作業も俺とオージュで受け持つから、料理が苦手な人も無問題! 皆がやることは『(生地に具を)乗せて、(出来あがったものを)食べる』。その二点だけだからねー。
    『料理するの面倒だから作ってー』って人もどんと来い! 俺がまとめて相手してやらあ!」
    「エン君も張り切ってるみたいだし、せっかくだから大勢で楽しめると嬉しいな。じゃあ、気が向いたら顔を出してね」
     大騒ぎのエンを脇へ置いて、オージュは皆に笑顔を向けた。


    ■リプレイ

     【武蔵境中1B】は皆で行った企画にちなんで、きのこ沢山ピザを作るようだ。
     マール・アイオネットと透間・明人、日輪・こころがきのこ担当。桜・泉と街風・恭輔は肉を載せていく。
    「材料を持とう。重いものは任せてくれ」
     クールな忍者、根津・火影は率先して皆のフォローに回る。
    「小さいころも、よくこうして他の家の人たちと……いえ、なんでもありませんの」
     ふと遠い目をしたカニェーツ・マニャーキンだったが、すぐに笑みをたたえる。
     狐仙・朧は夏野菜を、クロシェット・サクラは餅、鳴上・為頼は香草各種を準備した。
     あらかた具材が出揃えばあとは焼くだけだ。
    「人出が足りないなら手伝おう」
     為頼が立ち上がると、オーブンの前までピザを運ぶ。
     忍者といい怪盗志望者といい、闇の世界で暗躍する方々がやたらと紳士なクラスである。
     出来上がったピザを切り分け、影野・有栖がクラブ企画で余ったジュースを全員に配る。
     全てを食べきる勢いでピザを口に運んでいるのは、ラハブ・イルルヤンカシュ。
     食べる。食べる。とにかく食べる。もぐもぐ食べる。
    「これかけるはもっとおいしくなるアル」
     ハバネロソースをたっぷり振り掛けるのは李・美玲。生粋の辛党な彼女はこの程度の辛さならば問題なく食べるだろう。
    「食べてみるカ?」
     朧と目が合い、ピザを勧める。作ったものは全部食べると決めていた朧だったが、目に痛い赤を見て思わず冷や汗がたらり。
     その隣でも熱い戦いが繰り広げられていた。
     恭輔とリィザがロシアンピザに挑戦している。
     伸びた手がひと切れのピザを摘む。
    「~~~ッッ!」
     口元を抑えてじたばたするのはリィザだった。必死で耐えているのがなんともいえずいじらしい。
     お腹がいっぱいになりのんびりモードの皆の元へ、新しいピザが届く。
    「そろそろデザートが欲しくなったんじゃありませんか?」
     マールの声に歓声が上がる。
     どうやら、全員甘いものは別腹なようだ。

    「祖国ではピザの錬金術師といわれた私の腕を見せてあげる。作ったことないけど」
     【河川敷野外生活部】の、リズリット・モルゲンシュタインは言い放つ。
    「ピザにクリーム……発想が斬新すぎるわ……!」
     メリーベル・ケルンは、ホイップクリームたっぷりのピザに目を丸くする。
     そんな彼女の作ったピザは、定番の素材の上に振りまいた黒コショウとバジルが色も味もアクセントになる逸品だ。
    「氷上さんと被ってるし!」
    「ん?」
     氷上・蓮の手元には、チーズと蜂蜜をたっぷりと乗せた甘いピザが。
     ピザというよりケーキのような彼女のピザは、リズリットの作品と通じるものがあるのかもしれない。
     ふわりと漂う、甘い香りに香ばしい香り。
     出来あがった三枚を均等に切り分けて。
    「かんぱーい」
     熱々のピザを掲げると、ぱくり。
     一口食べるごとに学園祭の疲れが癒えていくような気がした。

     真榮城・結弦が配られたピザの生地を丁寧に伸ばしている。
     【井の頭1年7組】は大きなピザを作る予定だ。
    「闇ピザにならないといいんですけど」
     御剣・裕也が呟く。
     呟きを聞き、伐龍院・黎嚇も作業する手を止めた。
    「いやな予感がするんだが。いや、きっとおいしく仕上げてくれるだろう」
     あかん、それフラグや。
    「ん?」
     空耳でも聞いたのか、ふたりは不思議そうに首を傾げた。
    「ピーマンは御剣が泣いて喜ぶらしい。なのでたっぷり入れようぜ」
     斎賀・なをが持参したピーマンを大胆に乗せ、
    「僕もピーマン持って来たよ。それにバジル。これを均等にお花みたいに並べて……」
     因幡・亜理栖も、せっせとピーマンを乗せていく。
     二人の優しさに食べる前から涙目の裕也。
    「ピザの一角にハニーピザ作っても良い?」
     こうして『野菜とソーセージのピザ。隅っこに蜂蜜を乗せて』が出来あがった。
    「上手く焼けるか心配だったけど、大丈夫だったみたいだね」
     チーズの焼き具合を見て、亜理栖は胸を撫で下ろす。
     熱々のピザが冷めてしまわないように、結弦は手早く切り分ける。
    「ピーマン以外はおいしく頂きま」
    「好き嫌いしては力が出ないぞ。ちゃんと食べよう。ピーマンもね」
     見つめ合う裕也とピーマン。今はそっとしておいてあげましょう。
    「このチーズ辛い!」
    「俺が持って来た山葵入りチーズだな。そんなに辛くはないはずだが」
     からりと笑って、なをは自分のピザをぱくり。
    「これは……ルッコラピーマントマトソーセージバジル牛肉!」
     すべての具材がその一口に集結していたようだ。後から追いかける蜂蜜の甘さ。そして突き抜けていく山葵の香り。
     一瞬怯んだなをだったが、すぐにピザに挑みかかる。
    「こうして過ごすのもいいものだな」
     最後の一口を食べ終え、清々しい笑顔で倒れゆくなをを見て、黎嚇は爽やかに締めくくった。

     【刺繍倶楽部】の面々は、学園祭で咲かせた紫陽花の花になぞらえて、ピザ生地の上にも花を咲かせようと計画していた。
    「もういっちょお花咲かせましょ」
     篠村・希沙は生地と対峙。
     トマトの輪切りをバジルで囲い花弁を表現。花型に切り抜いたサラミを咲かせてみせれば、予想通りの出来ににんまり。
    「小さいの集めたら紫陽花みたいやない?」
    「わ、サラミの紫陽花可愛らしいです」
     得意気な声に、顔を上げた羽守・藤乃は感嘆の声を上げる。
     そんな藤乃が作るピザは、パイナップルの花弁を咲かせた酸味爽やかな向日葵ピザ。
    「希沙、型抜き借りるよ」
     鼻歌交じりで蒲鉾を型抜きしているのは、牛尾・長押。
    「実は密かにナゲ氏のピザが気になります」
    「興味津々いうか対抗心バリバリなんやけど」
     そんな話題沸騰中の長押のピザは、うどんに先程型抜きした蒲鉾、最後に醤油をひとまわし。
    「うどんピザの完成!」
    「型抜き楽しそう! ボクにもやらせて!」
     百舟・煉火は次々に人参の花を咲かせていく。作るのは満天星に、紫陽花。
     食材達は創意工夫欲を満たす代わりに、空腹感を刺激しする。
     誰も見ていないことを確認するとこっそりアボカドを――
    「ふふ、つまみ食い!」
     希沙と目が合ってしまった。
    「姉ちゃん兄ちゃん達のも色々凝ってるよな!」
     普段よりもテンション高めに、三國・健はピザを作っていく。
     赤の花に、世にも珍しい黄色の紫陽花。生地に次々と花が咲く。
    「紫陽花と言えばカタツムリ!」
     ウィンナーを細工して可愛らしいカタツムリが完成した。
    「ドラタケの飾りウィンナー、にぎやかでいいなあ」
     長押に誉められれば照れたように笑顔を見せる。
     定番あり、ユニークありの仲間のピザを見て、自分はどうしようかと森田・供助は思案顔。
    「イロモノで渋いのはどうよ」
     作ったのはほくほくとした食感が面白い百合根の柏葉紫陽花。
    「想い出も一緒に頂きますだな!」
     健の元気いっぱいの声に皆は頷き、それぞれのピザを堪能した。

    「女子力はいかが。ピザを焼ける女子力はいかが~」
    「はい、つゆだく大盛りサビ抜きで!」
    「エンくん、訳が分からないよ」
     風花・クラレットのお誘いに反応するエンに苦笑交じりでオージュが突っ込む。
    「エン君のピザ私焼いたげるよ! 同い年のよしみだー!」
    「俺、今日ほど中3で良かったって思ったことないよ!」
     涙を浮かべるエンを見物しつつ、ふと真面目な顔を作るクラレット。
    「ピザかぁ……絶対ここにあの子いるよ」
    「慈眼衆にイタリアの誇りはないんですか!?」
     声が響く。アイスバーン・サマータイムだ。
     断罪輪を利用しピザを作ろうとしたのだが上手くいかず、慈眼衆に八つ当たりしているらしい。
     怒れるアイスバーンの逆鱗に触れないように、ピザを恐る恐る彼女に差し出せば。
     もぐ。
    「あ、普通に食べるんだ」
     ピザ神の怒りは鎮まったようだ。

     未だ何も乗っていないピザ生地を見ながら、ミカ・ナイトウッドと飛鳥・智之は、どんなピザを作ろうかと相談していた。
    「ハーフ&ハーフってやつにしよーぜ」
     方向が決まれば話は早い。てきぱきと作業は進む。
     シーフードに野菜、オリーブを加え……あれ? これ深夏の好物じゃね?
     何となく気恥かしくなりミカの手元を覗いてみれば、
    「それ、入れすぎじゃね? 絶対濃いって!」
     楽しそうにカロリー高めの食材を乗せるミカに智之は思わずツッコミを入れる。
    「大丈夫、愛は籠ってる」
    「っ!」
     そんな智之の様子を見て、ミカはしたり顔のにやけ顔。
     紆余曲折あったが、ミカ好物のアメリカンピザで仲良く乾杯しましたとさ。

     日野森・翠と御柱・烈也は、ピザを半分に切り分け、口いっぱいに頬張る。
     お肉たっぷりの烈也のピザを見た時は少し驚いたけれど、照り焼きのたれが具材を上手く調和させていた。
    「翠の料理なら何でもうめぇ♪」
     翠の作ったデザートピザに烈也はご満悦。
    「あら?」
     烈也は食べるのに夢中になり過ぎて、口の端にクリームがついたことに気付かない模様。
    「拭かなくていいっ……」
     威勢よく言ってはいるが、翠が口元を拭うのを拒む様子はなさそうだ。
     微笑む翠を直視できず、烈也は目を逸らした。

     彼の好物をわざわざ確認するなんてことはしない。
     クリス・レクターは、確信を持って渡来・桃夜にピザを作る。
    「僕の優しさに感動してピザを堪能するといいよ!」
    「さすが料理上手!」
     伸ばしかけた桃夜の手を抑え、クリスはピザを一切れ摘む。
    「はいあーん。トーヤが喜ぶと思って張り切って作ったよ」
    「そんなクリスの姿も可愛かった……」
     危なげな笑みを浮かべながらビデオカメラを再生する桃夜。
    「今度は君が食べさせてよ?」
     この程度の愛情表現は通常運行らしい。クリスは特に突っ込む様子もなくナチュラルにピザをせがむ。
    「はい、どうぞ♪」
    「あーん」
     ――周囲の気温が、少しばかり上昇したような気がする。

     【仮眠部】の面々はそれぞれのピザを作り上げる。
     一名を除いて。
    「ぷりぷりのウィンナーと、厚く切ったハムでしょ」
     あざと可愛くおねだりするのは九音・律だ。
    「ベーコンもいっぱいのせてね。それと――」
     お肉系ピザを食べたいらしく、律のおねだりは続いていく。
     古海・真琴は焼けば甘みが増すリンゴの味を想像しながらデザートピザを作り始めた。
     ふと顔を上げれば柏葉・智代と目が合った。
    「本やピザ屋さんの記事を見て、面白そうと思ったので」
     真琴は照れ臭そうにそう呟いた。
    「うちも甘いの食べたいと思ってたんよ」
     リンゴのコンポートにアイスを乗せてみるのだそうだ。
    「シナモンかけても美味しぃかもしれへんねぇ」
     デザートピザ談議に花が咲く。
     獅堂・凛月、大松・歩夏、皆守・幸太郎、高坂・透の4人は奇しくも同じシーフードピザを作っていた。
     勿論、細部に作成者の拘りが見える。
     凛月のトッピングの目玉は鯨肉だろうか。イカ墨をかければ、真っ黒なピザの完成だ。
     歩夏はトマトにシーフードを乗せた、定番のピザを作りあげる。本当はプリンや蜂蜜などを乗せてみたかったが今回は冒険しなかったようだ。
     幸太郎は学園祭で使う予定だったタコを、透はイカとエビを上手にリサイクル。
     透は凛月のピザに手を伸ばす。口に運んでみれば、初めて食べた鯨肉は透に新しい食感をもたらした。
    「……あーん」
     こうしたら、女子の誰かが口を開けてくれないだろうか。僅かな期待を胸に、幸太郎はピザを差し出してみる。
     ぱく!
    「これすごくおいしい!」
     釣れたのは律だった。

    「去年も後夜祭でピザ作りましたよね。懐かしいなぁ」
     ミカ・ルポネンと東谷・円がほんわかしている。
    「確かあの時は、凄いことになりましたよね」
     あ、どんよりしている。
    「でも、ボク達は学んだんだ。あの時足りなかったもの、それは多分……彩り! つまり、ピザとは芸術だったんだよ!」
    「芸術ってコトはつまり……爆発じゃねーか! 今年はイケる気がしてきたぜ!」
     レモンとブルーハワイシロップを何の躊躇いもなく生地に乗せていく二人。
    「水上君、ピザ焼きよろしく!」
    「ツッコミ不在って怖いよね」
     オージュは優しい笑みをたたえながらピザを焼く。
     芸術は爆発ピザを食べた二人がどうなったかは、誰も知らない。

     【占い研究会】のテーブルは去年以上に盛り上がっていた。
     去年はゲルマン騒動で闇落ちしていた川原・咲夜が参加しているからだ!
     メンバーは大いに張り切りピザを作る。
     川原・世寿はあんこをたっぷりと乗せたデザートピザを作成。
    「姉さんは私が嫌いと知っててあんこ入れた!?」
    「咲夜が、あんこ好きに、なると、よいですよね」
    「激辛カレーソースで仕上げた『お前の命運もここまでだ』君ですっ! あーんっ♪」
    「命運尽きたらダメだよね? てか、こんなにも甘さを感じない『あーん』は初めてだよ!」
     返す刀で天瀬・ゆいなに華麗に突っ込む。
    「甘いものは正義だから」
    「まあ、まだ食べられるはず」
     花園・ちろは果物を乗せたデザートピザを、緋薙・桐香はお菓子感覚のスイーツピザを差し出す。
    「こっちは物理的に甘い!?」
     ピザが差し出される度に突っ込む咲夜。もはや匠の域。
     そんな咲夜の元に次に差し出されるのは川原・明美のピザ。
    「さ、普通のピザもどうぞ」
    「ああ、普通って素晴らしい……」
     シンプルなサラミピザの味を、咲夜は忘れないことだろう。
     その脇では桐香が興味本位にゆいなのピザをぱくり。
    「辛っ!?」
    「わ、だいじょぶですか?」
     ちろの必死の介抱のおかげで無事に生還した桐香は、改めてちろを見る。
    「良い機会ですから、これから色々話したいですわね」
    「えへへ、いーっぱい話したいな」
     ほんわかとした雰囲気。
    「去年はさっくんが不参加だったから盛り上がらなかったのよね」
     明美の優しい声に、目を伏せる咲夜。
    「さくにゃんまだ食べてないっしょ? どーぞ召し上がれ!」
    「このパーティって慰労目的ですよね!」
     流れたしんみりムードは、一瞬のうちに払拭された。
     占い研究会は今日も平和です。

     【夜天薫香】の、八重垣・倭が完成したピザを手早く切り分けると、花守・ましろ、迫水・優志も加わり打ち上げが始まった。
    「ぁふ、熱っ」
    「まだ熱いから気をつけて喰えよと言ったのに」
     優志は、はしゃぐましろと世話を焼く倭を微笑ましく見守りながら烏龍茶を傾ける。
    「二人とも学園祭の思い出は出来た?」
    「そう言う花守はどうなんだ?」
    「優志くんが倭くんをお名前で呼ぶようになったのが新鮮だったかな?」
     優志は、思いがけないましろの一言にむせそうになる。
    「ま、まぁ……それが時間を重ねてくって事だろ」
     当の本人である倭は、照れ臭そうに言う優志に微苦笑を零す。
    「来年も、こうして過ごせるようにしたいよな」
     思いを馳せるように言う優志の言葉に、ふたりは大きく頷いた。

    「このせんべいみたいのに具を置いて石窯で焼くのか」
     【赤月館】の真神・司狼は、物珍しそうに生地を眺めていた。
    「司狼はこういう経験自体が初めてだってんだから。これからも少しずつ勉強して行けばいいんじゃね?」
     蒼間・夜那がフォローを入れる。
     ピザが初見という者は司狼だけだったようで、順調にピザは完成していく。
     ディートリヒ・エッカルトがお茶を皆に振る舞い、打ち上げが始まった。
    「毒見はせんのか? ……とりあえず、夜トに食べさせてみよう」
    「無理やり口に押し込もうとするな、熱い。お前は酒を強要する忘年会の上司か!!」
     妙に具体的なツッコミをする無銘・夜ト。
    「いや~、ピザ美味しいネ!」
     二人を止めたら二次災害が起こるのは間違いない為、レオ・レーヴェレンツはすっかり観戦モード。
     学園祭は忙しくてあまり堪能出来なかったので、皆でピザを囲む時間はレオにとっては学園祭本番のようなものなのだ。
    「そいつ美味しいしか言わないから、あまりそれ効果がないと思うんだけど」
     そうツッコむのは蒼間・舜。高みの見物を決め込もうとしていたが……そうは問屋が卸さない。
    「あら、毒見って必要でしょう? というわけで、あーんしてくださいまし?」
    「俺も毒見せにゃならんのかい!」
     稀代の料理音痴、葛葉・司に笑顔で迫られ、顔面蒼白になる舜であった。
    「夜ト! 全部喰うなよ!!」
     毒見と同時進行で自分の食べたいものももぐもぐしていたらしく、お皿の上は既にパーティが終わったかのよう。
    「追加をお任せで頼んで来よう」
     こうして打ち上げ二次会が始まった――、

     4種のピザを囲んで【depth】の面々は瓶を掲げて乾杯する。
    「猫耳もチャイナも写真撮っておけば良かったぜ……」
     と嘯くように石神井・ヌイが言ってみれば、鱗の支配人も素敵だったと、嶌森・イコと鮫嶋・成海は声を揃えて言う。
     喫茶店は終日盛況で、支配人のヌイは休む間もなく動き回ってちょっぴりお疲れの模様。
    「2人ともお疲れ。色々手伝ってくれてサンキュ」
     心からの感謝の声に二人はゆるりと微笑む。
     話せども、話せども思い出話が尽きないのは、三人共学園祭を十二分に楽しんだという証。
     緩む頬は料理のせいだけではない。
     学園祭の幸せな余韻にまだまだ浸っていたいから。

     【努力同好会】のメンバーはミックスピザとデザートピザの焼き上がりを待っていた。
    「焼き上がり、たのしみだなぁ」
     独り言のように梢・藍花が言う。
    「山羊のチーズを食べるのは初めてだな」
    「フェタチーズっていうの。塩気が強いし、ピザにも合うと思うわ」
     伏木・華流が初めて見るチーズを物珍しそうに眺めていれば、リリー・アラーニェが笑顔で解説する。
    「チーズに合いそうな具材が多くて嬉しいわ」
     琴宮・総一の持ってきたじゃがいもはほくほく、阿礼谷・千波の持参した餅はチーズに絡んで尚も伸びる。
    「頑張ったって感じがして、美味しそうですよ?」
     指の絆創膏が痛々しい雨堂・亜理沙を慰めるのは、御巫・夢羽。
     切った形が不揃いなのは個性の証。色んな歯触りが楽しめるのも手作りならではだろう。
     穏やかな雰囲気の中揺らめく影。
     月島・アリッサだ。
     唐辛子の瓶を取り出しながらピザに近づいていく。
    「さぁ真っ赤にな~れ……ふがっ!」
     間一髪で華流がアリッサを羽交い絞め。
    「はるちゃん、がんばれ……!」
    「華流殿、加勢する!」
     海弥・有愛も手伝い、二人がかりでアリッサを止める。
     二人の機転で大惨事は免れたが、それでも無傷とはいかなかった。……主に総一のピザが。
    「辛いのは苦手なので……」
     泣きながら、唐辛子の除去作業を行う。
    「私の分を少し分けよう」
     有愛が、そっと自分のピザを切り分ける。よっ、姉さん男前!
     奏森・雨は、そんな赤いピザを興味津々眺めていた。
     辛いものはほとんど食べたことがないし、敢えて赤いところを食べてみよう。
    「……汗が止まらない」
     その後雨が必死に水を求め彷徨ったのは言うまでもない。
     それを、高みの見物していた神宮寺・柚貴は涼しげな顔。
    「俺はこの甘いデザートピザをゆっくり……」
     ぱく。
     吹き出る汗。このピザは何なんだ?
     改めてピザを確認してみれば、ジャムだと思っていたのは――唐辛子。
     つまり。
    「ん゛あ゛ーっ゛!」
     柚貴も水を求めて彷徨う民になったとさ。

    「キューリは見飽きた。こってりしたモノを要求する!」
     【Salamander House】の、住矢・慧樹は叫んだ。
     冷やし胡瓜屋を出店していた為、キュウリは食傷気味だとか。
    「ふふ、スミケイくん、胡瓜一杯用意してたもんね?」
     そんな慧樹の様子を見て、水瀬・ゆまは笑みを零す。
     場の空気が和んだ所で、満を持して乃木・聖太が到着した。
    「飲み物買って来たよ。キュウリ味のサイダー!」
     味は勿論。
    「すごく、胡瓜です……」
     ピザを不思議味のサイダーで流し込み、3人の会話は尽きることがない。
     ……と。
    「あれ、スミケイ寝ちまった」
    「すっごく頑張ってたから疲れちゃったのね」

     昼間の暑さが幾分か和らいだ学園祭の最終日の夜。
     風が灼滅者達の疲れを癒すように吹き抜けていった。

    作者:呉羽もみじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月5日
    難度:簡単
    参加:78人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 11
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