「オーッ、マイ、ガーッ!」
最後の一撃を受けたヤンキー戦闘員が、諸手を挙げたポーズで倒れていく。その先には別のヤンキー戦闘員が転がっており、彼は文字通り折り重なるようにして意識を失った。
港の見える丘公園、深夜。山手の丘から横浜港やベイブリッジなどを望む、横浜屈指の夜景スポットとして、本来なら観光客やカップルで賑わうはずのこの場所は、しかし謎の襲撃者に駆逐されるヤンキー戦闘員たちの断末魔で満たされていた。林の小道、高台沿いのアーチの下、噴水広場――公園内のどこを見ても、打ち捨てられたヤンキー戦闘員の身体がある……。
「ノーーーーーーーーーッ!」
生き残った最後のヤンキー戦闘員が、しかしなすすべなく倒された。襲撃者は誰にも正体を知られることはなく、横浜の闇の中へと消えて行く。
――翌朝、気絶した多数の『一般人』が、港の見える丘公園だけでなく、周辺地域にも確認された。KOされることでヤンキー戦闘員で無くなった彼らは、そのまま近くの病院に収容されたというが……。
「横浜市内で、多数のKOされたヤンキー戦闘員が倒れているのを、付近の住民が発見するという事件が起きましたの。現場の大まかな地名としては、『横浜外国人墓地』、『アメリカ山公園』、『港の見える丘公園』などでして、おそらくこの辺りでダークネス同士の抗争が行われたものと思われますわ」
と、鷹取・仁鴉(中学生エクスブレイン・dn0144)は付近の地図を黒板に張り出した。確かに、先に上げられた3つの場所は、それぞれが極めて近い位置にある。
「幸いなことに、ヤンキー戦闘員であった彼らは、KOされることで一般人に戻りましたわ。発見後は、近くの病院に無事収容されましたの。
被害を受けたのがヤンキー戦闘員ということで、抗争中の勢力の1つは『アメリカンコンドル』であると推測されていますわ。また、戦闘箇所も接近していることから、この付近に潜んでいる可能性も非常に高いはずですの。
さて、こちらに集まって下さった皆様には、この『港の見える丘公園』の調査を担当していただきますわ。『横浜外国人墓地』と『アメリカ山公園』にも1チームずつが振り分けられていますの。この3チームで協力して調査を行い、アメリカンコンドルの居場所を特定してもらう……というのが、今回の作戦ですわね」
ただ、と、仁鴉は吐息を挟む。
「ただ、抗争中と思われる敵ダークネスの詳細は、全く不明ですの。こちらにも十分注意して、調査に当たってくださいませね」
港の見える丘公園は、3ヶ所の中で最も多くのヤンキー戦闘員が倒されていた場所である。現在も増援のヤンキー戦闘員たちが襲撃者の正体を突き止めようとして、常時血眼になって敷地内をうろつきまわっているようだ。
このヤンキー戦闘員たちは、敷地内を荒らすだけでなく、疑わしい動きをした観光客を(多くは『ポケットからカメラや携帯電話を出した』『ヤンキー戦闘員と目が合った』といった、なんでもない行動である)無差別に襲ってもいるため、極めて迷惑な存在となっている。観光客をヤンキー戦闘員の魔の手から救い、かつ彼らの撃破を行って欲しい。
そうしてヤンキー戦闘員の戦力を減らすことで、アメリカンコンドルの勢力をかく乱したり、あるいはヤンキー戦闘員を襲撃した勢力と接触したりすることができるかもしれない。
「今回の作戦は、3チームでの合同調査となりますわ。それがうまくいけば、アメリカンコンドルの灼滅を行うことが出来るかもしれませんの。
他チームとの連携も視野に入れた行動を、よろしくお願いいたしますわ」
参加者 | |
---|---|
愛良・向日葵(元気200%・d01061) |
夕凪・千歳(黄昏の境界線・d02512) |
烏丸・織絵(黒曜の棘・d03318) |
川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950) |
鴨打・祝人(みんなのお兄さん・d08479) |
古城・茨姫(東京ミッドナイト・d09417) |
セリス・ラルディル(月下蒼炎・d21830) |
ファニー・ロス(三代目ストライプガール・d23843) |
●階段の上
港の見える丘公園。バルタールパビリオンから林の中へ登る弧状の階段を、8人の灼滅者達が駆け上がっていた。
先頭を走るのは、愛良・向日葵(元気200%・d01061)だ。途中の踊り場からはもう林の中といった風情で、真夏の今でも、彼女に涼しさすら感じさせた。
「えっへへぇ――いっちばんだよー♪」
最後の段を跳ねるように登りきり、向日葵は笑顔で振り返った。その横を、鴨打・祝人(みんなのお兄さん・d08479)が通り過ぎていく。
「では、お兄さんが2番だな! ……若者達よ、さあ、ラストスパートだ!」
祝人も振り返ると、後続の仲間にエールを送った。それを受けて、烏丸・織絵(黒曜の棘・d03318)は小さく息を吐く。
(「向日葵も祝人もいつも通りに行動している……ということは、だ」)
即座に警戒すべきモノは無いのであろう。織絵が悠々と登りきってみれば、確かにその通りの光景が広がっていた。
庭園広場という場所らしい。正面奥に赤い風車が見え、その手前にちらほらと、明らかにヤンキー戦闘員とわかる格好の者達がいた。監視はされているが、距離を詰めてくる様子はまだ無い。
「グレーゾーンと言ったところか、私達は」
「いきなり襲ってきたりはしませんが、だからと言って見逃す気もなさそうですね……」
川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)が並んだ頃には、しかしヤンキー戦闘員の何人かが合図を行いあっていた。階段下、頭が出ないように隠れている仲間達へ、咲夜はサインを送る。
「にゃー」
1匹の猫が、応えるように鳴いた。ナノナノ『棗』の首筋をくわえ、地に置かれたドラムバッグに潜り込もうとしている彼は、実はESP『猫変身』を使った夕凪・千歳(黄昏の境界線・d02512)である。
「千歳くん、悪いが少々猫扱いするぞ。……そう、そのまま前に」
古城・茨姫(東京ミッドナイト・d09417)が、猫姿の千歳を手助けする。千歳がごろんと入り込んだところで茨姫がジッパーを途中まで閉めると、すかさずファニー・ロス(三代目ストライプガール・d23843)がそれを持ち上げた。
「リル・キトゥン、アー・ユー・レディ? それじゃァ行ってくるヨ、ミンナ!」
笑顔で手を掲げたファニーは、生まれ持った金髪碧眼に『星条旗Tシャツ』という、どこの誰が見てもアメリカンな私服に身を包んでいる。ヤンキー戦闘員に負けず劣らず『らしい』見た目を持つ彼女が、仲間のフリをしてまず情報の引き出しを狙う……というのが、今回の作戦である。
「上手く行けば良いのだが、な……」
ファニーを見送るセリス・ラルディル(月下蒼炎・d21830)は、仲間達の陰で耳に手を当てた。ESP『ハンドフォン』の準備をしておくのは、緊急時の連絡と、携帯電話の使用が相手を刺激する可能性がある為だ。疑われる要素は、最小に留めるにしくはない――。
と。
「!? あ、あれは……!」
ファニーの雰囲気が、ヤンキー戦闘員の中に『溶け込んだ』。
●ビバ・アメリカ!
「FREEEEEZE! ユー! 氏名と所属、目的を――」
「オイオイ、ブラザー。ワイフの浮気が発覚したみたいなひどいツラで一体どうした?」
「……!!」
「酷い話さブラザー。ガッデム襲撃者が、夜番の同僚をアラスカまでブッ飛ばしやがって」
「タダで太平洋横断できるって話だから、こうして皆で順番待ちさ!」
「「「HAHAHAHA!」」」
「――しかシ、ソイツはファッキンな事態だナ! こんな時にアメリカンコンドル様は、どこでナニしてるんだ?」
「そりゃあもちろん、アメリカ山公園の地下で休憩中サ」
「OH、マウント・アメーリカ! ジャパンにもそんなクールな名前の場所があるナンテ!」
「YES! 偉大なるアメリカ、その名はワールドワイドに轟くのデース!」
「「「HAHAHAHA!」」」
と、ファニーの作戦は想像以上のレベルで成功したようだ。
気づけば彼女の周囲には、十人を超える数のヤンキー戦闘員達が集まっていた。どうやら皆して彼女を上司であるアメリカン怪人だと思い込んだらしく、時折英語の歓声が上がってもいる。
数分後、ファニーはヤンキー戦闘員達を引き連れて戻ってきた。その内の数人がこちらを灼滅者だと気づいたようだが、
「彼らはワタシの大切なバディデース! 偉大なアメリカンスピリットの前には、灼滅者もダークネスも関係ないネ……そうデショウ?」
というファニーの言葉を聞き、涙を流して拳を突き上げていた。心の全米が感動したか。
庭園広場の中ほど、旧フランス領事官邸遺構は、例によってアメリカナイズされ、どこかバーガーショップめいた外観となっていた。ヤンキー戦闘員がたむろするその場所で、灼滅者達は情報を引き出し始める。
「……つまり今の若者達は、いわば囮として動いているのだね?」
祝人が確認するように尋ねると、一人のヤンキー戦闘員がそちらを向いた。彼は祝人のナノナノ『ふわまる』と、ファニーの正面位置の取り合いを繰り広げつつ、
「ミー達、襲撃者の正体知りまセーン。ダカラ何人かがデコイになって、敵をフィッシュアンドレポートしようと思ってマース。……ミスター、そこはミーの特等席デース」
「ナノナノー! ナ、ナノッ」
「はっはっは、失礼だから特定の箇所のガン見はやめたまえふわまる」
祝人がふわまるをアイアンクローで引っ込めると、入れ替わりのように咲夜が口を開く。
「本当に、襲撃者の正体を知らないのですか……これで叩けば、何か反応得られませんかね」
「オゥ、ストップバイオレンスプリーズ! それに、ミー達はあの晩ヒアにいなかったデース!」
「ふむ……。ま、良いことが聞けましたし、よしとしましょう」
咲夜は断罪輪をしまうと、集団から離れた所にいる茨姫に目配せを送る。双方、頷き合った。
「決まりだね。ヤンキー戦闘員には、このまま囮になってもらおう」
敵に聞こえないよう、茨姫は小声で言う。彼女の付近にいるのは、人間の姿に戻った千歳と、他班との連絡を受け持つセリスと向日葵。そしてもう少し距離を取った場所で、織絵が周囲に警戒の目を光らせていた。
千歳が小さく手を挙げる。
「僕もその意見に賛成だ。ヤンキー戦闘員に囮作戦を続けさせて、こちらも第三勢力の正体を暴く。いい作戦だと思うよ」
上手く立ち回れば、灼滅者側に大きな被害を出さなくて済むかもしれない。自分達の目的は、ヤンキー戦闘員の駆逐と、第三勢力との接触・交渉であって、第三勢力と戦うことはそれに含まれていないのだから。
「何にせよ、ファニーのファインプレイ、だな。引き出せた情報と私達の方針は、他班と共有しておく、か」
セリスはそう言うと、今度は堂々と携帯電話を取り出す。というのも、少し前から向日葵がぽちぽちメール画面でメモを取っていることに、ヤンキー戦闘員達は一切警戒を見せていないからだ。
「んーと、『ファニーちゃんのだいかつやくで、ヤンキーといっしょに行くことに♪ ヤンキー、敵の正体しらないから、あるきまわって、おとり?』……っと。ほんぶん、これでいいかな?」
「ああ。私が送るメールも、向日葵のそれに倣ってみる、ぞ」
二人がそれぞれのペースで携帯電話を操作していると、織絵が近くへと寄ってきた。額の汗を拭った織絵は、背後を――南東方向を親指で示す。
「ちょっといいか。その……あちらが何かヘンだ」
「「「何かヘン?」」」
異口同音に返すと、直後、ヤンキー戦闘員が1人こちらへ駆けて来るのが見えた。織絵はジャケットの下で腕を組み、続ける。
「『殺界形成』で一般人の出入りは制限しているのだが、あちらが妙に騒がしい気が――ちょうどいい、報告しろそこのヤンキー君」
織絵があのヤンキー戦闘員を捕まえると、彼は興奮しながら言った。
「あっ、イエスッ、怪しい男タチ見つけたデース! エブリワン、加勢お願いしマース!」
●第三勢力
広場を過ぎ、『煉瓦井戸遺構』から木製の通路を駆け抜ける。アニメやドラマでも見ることの多い『展望広場』には、ヤンキー戦闘員に囲まれた3人の男達がいた。
それぞれ金髪・禿頭・アイパーの、剣呑とした雰囲気を持つ者達である。彼らを及び腰で取り囲むヤンキー戦闘員達とは、見るからに格が違っていた。
――パンッ!
「アア? クダラねえ玩具でワシをどうにかしようてか、軟弱者め!」
「な、なな、何故倒れないんだYO!?」
ヤンキー戦闘員がガチガチと震えながら構える銃口に、硝煙がたなびいている。その正面、禿頭の男は、銃撃を受けて尚無傷であった。
「我々のヤンキー魂が足りないとでも言うのか?」
「ノー! そんなことがあるワケアリマセーン! アメリカイズナンバーワン!」
「ラアァ!」
バゴォッ!
叫びながら突撃するヤンキー戦闘員を、金髪の男が殴り飛ばした。地面を擦って倒れる彼をまるで気にかけず、金髪はこちらを――灼滅者達をも、見る。
「ハッ、これで集まったな! 野郎共、行くぜ!」
金髪がそう言うが早いか、男達は『変身』を開始した! 人間のシルエットに、肉塊が湧いて固着したようなその異形……デモノイドロード! 第三勢力か!
アイパーのデモノイドロードが、周囲を睨みつけて言う。
「お前達は俺達に負ける。だが、運が良ければ生き残れるぜ……抜きな、ヤンキー!」
「ファーック!」
ヤンキー戦闘員達は一斉に拳銃を向けた。
●共闘
「第三勢力はデモノイドロード、か!」
「それに、デモローは3体もいるの! うう、3体はきびしいかなあ」
第三勢力の正体と人数……最低限の情報を、セリスと向日葵はメールに打ち込み始める。第三勢力の所属が『朱雀門学園』である可能性が極めて高くなったことは(ソロモンの悪魔である可能性も否定できないが)、別班もすぐに同じ結論に至るだろうから省略できるだろう。
「AH、ついにこの時が来てしまいマシタか……ミンナ! 打ち合わせどおりに、ネ!」
それを見届けたファニーが、あの乱戦へと突き進んでいった。一瞬で戦闘スーツにフォームチェンジしたファニーに、ヤンキー戦闘員が期待の目を向ける。
「派手にいくヨ! ヴァローキーック!」
「アーウチ!」
そんな彼に、ファニーの蹴りが直撃した。ヤンキー戦闘員は、驚きの表情で沈んでいく。
「ファ、ファニー様、なぜ……ガクッ」
「ソーリーボーイ……正気に戻ったら、今度は本当にアメリカのこと好きになってヨ!」
「私としてはヤンキーゴーホームって感じだがな、正直に言えば!」
織絵が続いた。バベルブレイカー『スタウロス・マヴロζ』をアスファルトに突き立て、強烈な振動波でヤンキー戦闘員達を薙ぎ倒していく。
「おいおいおい焦んなよ姉ちゃん! 折角の機会だ、俺にももっと遊ばせろって!」
金髪のデモノイドロードは、ヤンキー戦闘員に寄生体銃を突きつけ、崖沿いの柵まで追い詰めていた。そしてなんの躊躇もなく、ヤンキーを持ち上げて投げ落とす。
「ア、アイキャントフラーイ!」
「ヒャハハ、『運が良ければ』って言ったよなー!」
「ッ!」
祝人は、ギッと奥歯を噛み締めた。――今落ちていったのは、一般人を襲う悪い奴なのだからと、そう考えて心を整理する。
「……ふわまる、後衛を固めてくれないか」
「ナノ」
告げた祝人の手に、青緑の炎剣が生まれた。その決意の一歩に、咲夜が調子を合わせる。
「彼は若干遊んでいるようですが、私達は元より速攻狙いです。そう、しましょう!」
咲夜は掌をかざし、ヤンキー戦闘員達を一瞬で氷結させた。絶対零度が呼んだ氷の薄膜を、セリスたちの踏み込みが割っていく。
「デモノイドロード! 故あって此処は加勢する、ぞ!」
非物質化したセリスの聖剣が、ヤンキー戦闘員の中心を突き徹した。虫の息でたたらを踏んだヤンキーに、アイパーのデモノイドロードが介錯の一太刀を浴びせる。
「――礼は言わんぜ。言う必要が無い、意味も無い、加えて甲斐も無い」
「言ってくれる、な……!」
セリスはアイパーを睨みつけながらも、さりげなくメールの入力を続ける。
デモノイドロードと灼滅者の、即席連合軍……数では圧倒的に勝るヤンキー戦闘員だが、どうあっても敵うものではない。数人のヤンキー戦闘員達が、迷った末に灼滅者達へ銃を向けた。
「フロントのタイガー、リアのウルフ……ブルシット!」
「棗、ここからが勝負だよ! みんなを守って!」
千歳はそう叫ぶと、ワイドガードを展開する。籠目格子の光盾が、乱雑に撃ち込まれる銃弾を弾き落としていった。
「ナノナノ!」
間を抜けた銃弾は、追い付いた棗がたつまきで反らす。
その後方では、向日葵が携帯電話の操作に専念していた。何度か着信があったようだが、彼女はこちらからの情報送信を優先した。
「ごめんね梗花ちゃん。いま、ちょっと出られないかもなのー!」
ようやく完成したメールを送信して即、向日葵は縛霊手を取り出した。急ぎヤンキー戦闘員との戦いを終わらせ、電話を掛け直したい所だけれども。
「オウ坊主ども、あいつら何人か向こうに逃げやがったぜ。仕事はきっちりこなせ」
禿頭のデモノイドロードが、南の『沈底花壇』を指差した。ボウズはテメエだろと腹を抱える金髪を後目に、茨姫がそちらへと歩いていく。
「なんだ嬢ちゃん、あのバカより余程気合入ってるじゃネエか。面白え」
「君の勝手な尺度で計るな。逃げる素振りが見える敵は最優先に追うと、それだけのことだ」
苦笑する禿頭の横で、茨姫はカミの風を呼び出した。目を細め、逃げる敵の背を狙う――。
●ヤンキーの居た丘公園
金髪のデモノイドロードが、公園にいた最後のヤンキー戦闘員をKOした。金髪は近くのベンチにどっかと腰を下ろすと、灼滅者たちに向けて顔を上げる。
「……で?」
唐突に、喉元に刃を突きつけるような言葉が来た。ヤンキー戦闘員と戦っていた時と比べ、数十倍に鋭さを増したその視線。怖気づく前に、ファニーが話を切り出す。
「ワタシ達、聞きたいことがありマス。……その」
「おう」
「一体、何が目的なのデスか? まず、ソコを知りたいネー」
「……ぷ……ギャハハハハハ!」
すると、金髪は目を丸くしてこちらを見た。直後、膝を叩いて笑い出す金髪。禿頭・アイパーのデモノイドロード達も、口元に浮いた笑みを隠そうともしなかった。
「何って、ヒー、そりゃあ、なーんでだろうなァあ?」
「ム……」
失礼な対応に頬を膨らませたファニーを、千歳がなだめる。
「質問を少し変えるよ。貴方達は、何の目的でヤンキー戦闘員と争っているんだい?」
「あー、ゴミクズの掃除だよ、ゴミクズのなー」
一転、今度は冷めた態度で応える金髪。小指で耳をほじる仕草が、なんとも憎らしい。
「掃除……掃除か。何もそんなことを真夏に始める必要は無いだろう。何故今、動く?」
織絵が問うと、そっぽを向いた金髪の代わりにアイパーが口を開いた。
「思い立ったが吉日……クク……だと面白いな?」
言いながらアイパーは、禿頭へ『次はお前だ』とでも言うように手を向ける。遊ばれているようで気分が悪いが、茨姫はその思いを内心で噛み殺し、続けた。
「こうして出会った今、君らは僕らに何を望む? 協力か、それとも敵対?」
「ああ、なら小遣いやるから、交番前の自販機で何か買って来い。ワシは何でもいいぞ?」
これが金髪にウケた――明らかに冗談とわかる物言いだ。愉快そうに笑いあうデモノイドロードたちに、咲夜は薄い笑みを浮かべて言う。
「なら、こちらから一つ提案があります。あなた達の目的はわかりませんが、こちらと協力し、あるいは隠れ蓑に使うことで、そちらも動き易くはなりませんか?」
「それは無え。おめーらを信用する理由がまるで無えぜ。さっきの裏切りを度外視してもな」
金髪が(意外にも)即答した。祝人が、ムードが悪くなる前にと、次の提案を急ぐ。
「お兄さんとしては、争いはできるだけ避けたい。だから、お互いに邪魔せず、休戦状態にできないだろうか?」
「……いいぜ。おまえらがとっとと尻尾巻いて逃げれば休戦だ。俺達は追わねーでいてやるよ」
「坊主、そこは次見たら殺すとか、何か脅しておくのがお約束だろうよ」
「うっせ。それと、ボウズはテメーだ」
残る2人は、結局金髪の言に異を唱えなかった。港の見える丘公園の灼滅者たちは、これで当初の目的を達成したと判断し、撤退を開始する。さすがにダークネス3体に背中を見せるわけにはいかず、一歩一歩後ずさりながらの退場であった。
「撤退の連絡、各班に送った、ぞ」
セリスが、重い溜息を尽きながら報告した。向日葵も、ほぼ同時にメール送信を終えている。
「うん、あたしも、できたのー。……ほかの所のみんな、がんばってくれてるかな」
と、どこか悔しそうに、向日葵は空を見上げた。
あれから彼らは、交番前の出口から敷地外へと退場していた。後ろを振り向いても、デモノイドロードたちが追ってくる気配は無い。
「……まあ。3体のダークネスを前に、幾らかの情報を得、その上で怪我人も闇堕ち者もでなかった。結果論だが、悪くない成果だった、な」
「うん……うん! みんなが無事で、あたし、ほんとうに良かったよ♪」
最悪の事態を迎えた場合は、皆を置いて一人で逃げることを強いられていた向日葵の、この言である。一行は、今度は安堵の溜息をつくのであった――。
作者:君島世界 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年8月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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