横浜ヤンキー事件~ダークネス秘密基地大捜索!

    作者:西宮チヒロ

    ●beruhigend
     闇に乗じて放たれた一打が、ヤンキー戦闘員を的確に捉えた。
    「ノ――――――――ッ!」
     大仰に蹌踉めきながら最後の一人が倒れ伏すと、彼等を襲っていた人影は漸く足を止めた。討ち漏らしがないか手早く四方を見遣った末、足許に転がる戦闘員を一瞥した影は、再び闇へと消えていく。
     数刻後。
     夜明けとともに彩を取り戻した横浜――港の見える丘公園やその周辺地域には、打ち捨てられている多数のヤンキー戦闘員『だった』一般人の姿があった。
    ●aufregung
     ――横浜市内で、KOされたヤンキー戦闘員が多数打ち捨てられているのを付近の住民が発見した。
     夏休み早々の招集に詫びと礼を添えた小桜・エマ(高校生エクスブレイン・dn0080)はそう口火を切ると、音楽ファイルに挟んだ資料の文字を追いながら説明を続ける。
    「KOされたヤンキー戦闘員さんたちが見つかったのは、主にアメリカ山公園や横浜外国人墓地、港の見える丘公園です」
     幸い、ヤンキー戦闘員たちはKOされたことで一般人に戻り、現在は病院に収容されている。
     が、いずれにしても、恐らくその近辺でダークネス同士の抗争があったであろうことは想像に難くない。
     そしてそれが意味することは、もうひとつ。
     先日のゴッドモンスター事件で行方不明になっていたご当地幹部『アメリカンコンドル』が、その近辺に潜んでいる可能性をも孕んでいる。
    「そこで、皆さんには『アメリカ山公園』『横浜外国人墓地』『港の見える丘公園』……それぞれチームを作って、その3つのチームで協力して、アメリカンコンドルさんの居場所を見つけてきて欲しいんです。
     ……ただ、抗争相手のダークネスさんが誰なのか。その強さや数もまったく解りませんから、十分に注意して下さいね」
     エマは「絶対ですよ?」と念を押すと、並べ合わせた教室の机の上に、現場付近の地図を大きく広げた。
     
    「私たちのチームが担当するのは『アメリカ山公園』。最寄り駅は『元町・中華街』駅になります」
     一般的な公園と異なる部分と言えば、公園そのものの構造だろう。
     横浜の地下を走る、みなとみらい線の終着駅である元町・中華街駅。その改札口から直通で訪れることができるアメリカ山公園は、構造的には駅の頭上に位置している。
     全国初の立体都市公園。それが、アメリカ山公園なのだ。
    「地下のホームから長いエスカレーターを昇った先、地上1階に改札口があって……えっと」
     娘はひとつ瞬くと、全体的な構造を黒板に手早くチョークで書き記す。

    『屋上:アメリカ山公園
     4階:結婚式場・フォトスタジオ
     3階:学業・職業の関連施設
     2階:地下鉄運営会社 事務所
     1階:元町・中華街駅(改札)』

    「各フロアは、エレベーター、エスカレーター、階段で、誰でも行き来ができるんですが……どうやら、ヤンキー戦闘員さんたちはこのエレベーターを使って、どこかへ出入りしてるみたいなんです」
     つまり、アメリカンコンドルの秘密基地が秘密裏に建設されている可能性があるのは――アメリカ山公園の地下。
     エレベーターで行ける場所にあるのか。
     はたまた秘密の通路から見取図にない部屋やフロアにでも行けるのか。もしくはそれ以外か。
     どのような形で存在しているのか、その位置も規模もすべてが不明だが、アメリカ山公園の施設をくまなく探せば、何か糸口が見つかるかも知れない。
    「もし秘密基地を見つけたら、敵や施設の状況確認と……あっ、必要なら他のチームの皆さんとも連携して行動してみて下さいね」
     今回の目的は、アメリカンコンドルの居場所の捜索と、そして抗争や秘密基地等の状況把握。
     けれど、劣勢であろうアメリカンコンドルを討つ、またとない機会でもある。灼滅できるのであれば、それに越したことはない。
    「抗争相手がどの勢力なのか、それによって対応が変わるのが難しいですよね……」
     そう独りごちて柳眉を寄せた娘は、けれどすぐにそれを緩めた。若草を思わせる瞳を細め、柔らかに笑う。
    「じゃあ、とびきり美味しいアイス珈琲を用意して待ってますから」
     きっと上手くいく。
     彼等は、独りではないのだから。


    参加者
    向井・アロア(お天気パンケーキ・d00565)
    忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)
    海藤・俊輔(べひもす・d07111)
    小野塚・舞子(おこめっこ・d10574)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)
    リューネ・フェヴリエ(熱血青春ヒーロー修行中・d14097)
    神楽・識(ヤクザ系鉄パイプマイスター・d17958)
    ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)

    ■リプレイ

    ●屋上
    「なさそーだねー」
    「そうね」
     手早く機内を調べ終えた海藤・俊輔(べひもす・d07111)と小野塚・舞子(おこめっこ・d10574)は、そう短く言葉を交わす。探しているものは勿論、秘密基地への入口だ。
    「壁や床にも違和感はないし、天井ハッチは……この通り」
     舞子に倣って俊輔は仰ぎ見た先には、確りとボルトで四方を閉じられている天井ハッチがあった。もしやこの天井ハッチの向こうに入口があるのではとも思ったが、外からしか開かないのであればその線もないだろう。
    『ドアが開きます。屋上階です』
     機械音声の案内とともに、エレベーターの扉窓から夏の日差しが差し込んだ。ゆるやかに開かれた扉から外へと出ると、蒸し暑い熱気が忽ち2人を包む。
    「異常なし」
     誰へともなく短く呟いた、その数拍後に携帯端末がメールの着信を告げた。
    『了解よ。こっちは、向井さんが公園内に戦闘員を探しに行ってくれているわ』
     差出人は、忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)。
     今すれ違ったばかりの彼女は、エレベーター脇の日陰で携帯端末の画面を見つめている。他愛もない会話を交わす俊輔等は観光客――特に、きょろきょろと四方へ忙しなく視線を巡らせる舞子は田舎から都会へと出てきた少女であり、その後方で壁に寄りかかっている玉緒は、彼等とは無縁の唯の地元民にしか見えなかった。
     胸元にある鍵のペンダントを握りしめて祈る、いつもの習わしは既に終え、己を苛む殺人衝動は灼滅者としての、否、人間としての意思によって封じられている。
     玉緒は、いつ標的がエレベーターに乗込んでも良いようにと、物陰でちょこんと待機している向井・アロア(お天気パンケーキ・d00565)のナノナノ・むむたんを一瞥すると、瞬間、反対の公園側からの気配に気づいて反射的に振り返った。
     エレベーターへ向かって駆けてくるジーンズにアメリカンな格好の男は、どう見てもヤンキー戦闘員であった。その後を追うアロアも、作戦開始前の『ココって遊びにくるのによさそう、デートとかで来たいなぁ』なんて気分はとう振り払っている。
    「良かったセーフ」
     熱気から逃げてきた地元民を装ってエレベーターに乗込むと、むむたんも後に続き、アロアの足許にこっそりと潜んだ。
     潜入班だと悟られぬように、視線は敢えてヤンキー戦闘員らしき男とは逆の方向へ。
     途中、4階、3階で停止したが、誰が乗降したのか解らぬまま、娘は1階で降りてゆく一般人たちを見送った。そのままエレベーターの閉じるボタンを押すと、ふわり相棒を抱き上げて尋ねる。
    「むむたん。どこの階?」
    「ナノ!」
     びしっ。
     ちいさな羽で指し示したフロアボタン。
    「むむたん、えらーい」
     笑みを深めたアロアは相棒の頭を撫でると、目指す階数を仲間へ伝えるべく、手早くハンドフォンを起動した。

    ●4階
     刻は少し遡る。

     観光客に混じり、フロア側を調査していたリューネ・フェヴリエ(熱血青春ヒーロー修行中・d14097)等の携帯端末が、無音ながらも一斉にメールの着信を告げた。
     送り主は、港の見える丘公園チームとして動いている、セリス・ラルディル。
     ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)は霊犬・チェムノータに周囲の監視を継続させながら、神楽・識(ヤクザ系鉄パイプマイスター・d17958)は近くに監視カメラがないことを確認してから、手早く内容に目を通す。
    『ファニーのファインプレイ。
     今はヤンキー戦闘員に混ざって周囲を探索中。
     ヤンキー戦闘員の囮作戦に私達も乗じる』
    「……つまりこれって……」
    「ああ、丘公園チームによる戦闘員の扮装に、本物の戦闘員たちはまんまと騙された。……そういうことであろう」
     リューネの視線を受けて、ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)が首肯する。
    「戦闘員たちは自分を囮にして、襲ってきた第三勢力を誘き出そうとしているわけか」
    「恐らく、そういうことね」
     ワルゼーの声を受けてユーリーが継ぎ、そして識が同意すると、一行は調査を再開した。

     夏休みということもあってか、施設内は人々で賑わっていた。
     加えて、結婚式も執り行われているのだろう。正装やドレス姿の若者たち、施設内にある幼稚園の保育士や園児たち、貸会議室を利用しに来た大人たちと、フロアを行き交う容姿も多種多様だ。
     一般人が多く集まる街中の施設内に秘密基地とは、バベルの鎖の効力は未だ健在か。
     ユーリーがそうひとつ息を吐くと、対面から歩いて来た識も仲間と合流し、ちいさく首を振った。
    「向こうを見て来たけど、戦闘員の姿はなかったわ」
    「こちらも同じく。――教祖殿。そちら、お手伝いいたしましょうか?」
     語り掛けた先、さり気なく視線を巡らせながら壁の継ぎ目を調べるワルゼーは馴染みの声に振り向くと、
    「気遣い感謝だ、ユーリー殿。とはいえ、このあたりも調べ尽したしの」
     返しながら髪を掻き上げ、改めて周囲を見る。
     戦闘員たちの人目を忍ぶような行動から察するに、恐らく店舗や施設内に秘密基地への入口はないだろう。
     故に通路周りを重点的に調べていたが、未だそれらしきもの――入口はおろか、アメリカを思わせるようなものすら――見つからない。
    「そうか……もしかしたらそっち側とこっち側、2箇所に入り口があって繋がってるのかもな。ん、こっちも何かあったら連絡するぜ」
     丁度、外国人墓地チームのレイシー・アーベントロートを受けていたリューネが、そう言ってハンドフォンの通話を切った。どうやらあちら側では、ペリー絡みの墓が怪しいと睨み、調査を進めているらしい。
    「どうする? 3階に移動する?」
     仲間たちを見渡して尋ねた識に一同も頷こうとしたその瞬間、再びハンドフォンが発動した。
     皆の視線が集まる中、すかさず通話モードにする。間髪入れずに、アロアの興奮気味の声が響き渡った。
    『リューネ。ヤンキー戦闘員が降りたのは――3階だよ!』

    ●3階
    「人目を忍ぶなら、ここが怪しいと思うのよね」
    「玉緒殿もか。我も同じだ」
     頷き、ワルゼーは眼前の鉄扉を見遣った。この扉の奥には、各フロアを繋ぐ階段があるはずだった。
    「この人混みを考えると……人目につかない場所に入口があると考えた方が妥当ね」
     金糸の奥、漆黒の瞳を細めながら思案する識の声に重なるように、リューネのハンドフォンが着信を告げた。
    『もしもしッこちら外国人墓地のレイシーだ』
    「どうした? 何かあったのか!?」
    『ラシュモアがヤンキー引き連れて迫ってきてる! ちくしょう、まだ墓の調査が終わってないのに……とりあえずこっちは戦闘に入るぜ!』
    「解った! 何かあったら連絡しろよ。絶対だぜ!」
    「……こっちも油断は禁物ね。抗争相手が気になるけど……」
     それでも、戦闘員を一般人に戻すあたりは、分別がつく相手のように舞子には思えた。計画的な行動からみて、どこかの組織に所属している可能性もある。
    「でも余計な手間だし、出来れば出会わないに越したことは無いわね」
    「そうだな」
     舞子へと同意するユーリーの傍らで、リューネがそう強く拳を握った。
    「っしゃ! 行こうぜ!」

     慎重に開けた扉の奥は、薄暗くやや狭い踊り場になっていた。
    「普通のビルにある階段だったぜー。大丈夫だとおもー」
     蛇に転じて先に潜入した俊輔の報告に、仲間たちも意を決して先を見据えた。再び、音が鳴らぬように開けた鉄扉から、順に中へと入る。
     すぐ左手には上下のフロアへと続く階段。四方天地を見渡してみたが、監視カメラも見当たらない。
     手早く旅人の外套を発動させたワルゼーが少し思案した後、階段を下へと降り始めた。屋上階から3階まで降りてきたのなら、4階へと戻る可能性は低いとみたのだろう。
     ――なんか探索ってゆーだけでワクワクするよね。
     ――だよなー。やっぱ潜入には段ボールが必要なのかなー?
     朝、道すがら交わした会話が脳裏を過ぎり、見合ってこっそり笑みを交わすアロアと俊輔。
     秘密基地。
     潜入探索。
     そんな言葉に心躍るのは、先頭をゆくワルゼーもまた同じだ。
    (「ふふふ、あのアメリカのスパイドラマのような任務、いっぺんやってみたかったのである……!」)
     背中に滲む高揚感を、後ろについていたユーリーとリューネは微笑し受け止めた。
     それでも無論、誰一人とて緊張感を解いてはいない。
     この一歩を踏み出すたび、強敵へと近づいている。それが肌で感じ取られた。
    (「こんな所にまで変な物を作ってくれて、全くもって迷惑な話だわ」)
     胸元で鍵のペンダントを揺らしながら、玉緒は唇を引いた。絶対に闇に堕ちたりはしない。そして、情報は必ず持ち帰る。そう、地を這ってでも。
     その時、列の歩みが止まった。一列になっていた面々は、何があったのかと探るように立ち位置を変えて前を見る。
     それは人影だった。
     黒いコートを纏い、サングラスとスカーフで顔を隠してはいるが、歳は相応と見て取れた。踊り場の壁に手を這わせ、何かを探るような仕草はまるで――。
    「何か探し物かしら?」
     柔らかな声音の、けれど気配を殺した識の問い。反射的に振り返った人影の、そのサングラスが弾みで床に落ち、白い肌が、何よりも血色の双眸が、顕になる。

    ●中2階
    「デボネア!? 何でここに……」
     準男爵級侍従長デボネア。
     紛うことなきその人に、舞子は両の眼を見開いた。
     もし件の第三勢力が学園と友好関係にある者なら、共闘を提案しようとも思っていた。
     けれど、相手がヴァンパイア――朱雀門高校では。
     緊張を孕む空気の中、偽り切れぬと思ったのだろう。デボネアはコートを払い、スカーフを取ると、灼滅者等の見知ったメイド服姿で向き直った。
    「これはこれは、武蔵坂の灼滅者の皆さん。ここに来たということは、狙いは、アメリカンコンドルの秘密基地……で間違いありませんね」
     何故それを――込み上げた疑問を誰もが飲み込んだ。それを見て取ったデボネアが、言葉を重ねる。
    「そうであるなら、私たちは協力できるでしょう」
    「……協力とは?」
     ユーリーが低い声で問うと、デボネアもまた、淡々とした口調で答える。
    「もし、秘密基地の入り口を知っていれば、私に教えてください。そうしてくれたならば、充分な御礼をしてさしあげましょう」
     考えるまでもなかった。
     無傷のデボネアを前に、例え全員が闇堕ちをしたとしても勝機はない。
     灼滅者等は互いに頷くと、識がひとつ息を吐き、「解った」とワルゼーが短く反した。「ちょっとごめんねー」「多分この辺かな」と、俊輔とアロアが踊り場の壁に顔を近づけ調べ始めれば、忽ち、壁にある僅かな切れ目からちいさな隠し扉が現れる。
    「俊輔、あったよ!」
    「ポチッとなー」
     アロアの声に合わせて隠し扉の奥にあるボタンを押下した途端、正面の壁が音も立てずにスライドした。奥には階下へと続く階段。恐らく、この階段を下った先に秘密基地があるのだろう。
    「そこは、さっき調べた……」
    「何か?」
     玉緒の視線を、デボネアは短い瞬きで躱す。
    「いえ、なんでもありません。約束は約束ですから、後日御礼はいたしましょう。……では、ここからは私たちダークネス同士の戦いとなりますから、皆様はどうぞお引き取り下さいませ」
    「っ、待って……! 私たちもこの先の情報が必要なの!」
    「それに、俺たちもアメリカンコンドルを灼滅しに来たんだぜ!? はいそうですか、って退くわけねぇだろ!」
     玉緒の静かな、リューネの熱を帯びた、その青い眸を見つめ反すと、
    「皆様程度の力で、ご当地幹部を灼滅ですか……。まぁ、思うだけならば自由ですが」
     少し呆れた様子で嘆息したデボネアは、わかりました、と零した。
    「侍従長が御礼をすると言ったのですから、二言はありません。皆様方の望みがアメリカンコンドルの灼滅であるのならば、協力してあげましょう」
    「え!? え!? 本当!?」
    「つまり、私たちに加勢する……そういうことか?」
     願ってもない申し出に、舞子とユーリーが聞き返す。同時に、港の見える丘公園チームのセリスから撤退する旨の連絡が入った。
     3体のデモノイドロードが現れ、共闘ののちヤンキー戦闘員を灼滅したこと。
     つまりは、第三勢力が朱雀門である可能性が高まったということ。
     それらの添えられた情報と併せて、第三勢力が朱雀門である確信を得たリューネは通話口に告げた。
    『こっちもこれからアメリカンコンドルとご対面だぜ。――いや、合流はいい。こっちにはデボネアっていう共闘者がいるからな!』
    「……ここでアメリカンコンドルを打倒できればいいのだけど、うまくいくかしらね」
     鬼が出るか蛇が出るか。
     この時点では、それは識にも解らなかった。

    ●地下
     恐らく3階層以上は下っただろうか。
     長く続く階段を降りきった先の通路。そこで誰よりも早く標的の気配、いや匂いに気づいたのは、チェムノータであった。
     漆黒の鎧を纏ったかのような霊犬が不意に足を止めたのに続き、舞子の霊犬・むすびも、そのふんわり柔らかそうな白い尻尾で、前方から次第に近づいてくる人影が在ることを伝える。
    「シット! まさか墓地側の隠し通路に、あのTatooヤローがいるとは……こうなったら公園側から――」
    「さすがは我が崇拝するゲルマンシャーク様と肩を並べる存在。傷を負っていてもなお、途轍もないプレッシャーを感じるな……!」
     通路を塞ぐように仁王立ち、口端を上げるワルゼー。アメリカンコンドルの傷は、本人の言葉の通り鞍馬天狗によるものか。
    「!? ユーたちが何故ここに……!?」
    「Allez cuisine!」
     僅かな隙すら与えぬと反射的に叫んだリューネに続き、灼滅者等は一斉に力を解放した。一般人に紛れる為の服から、いつもの風雅な着物姿に戻った識がサウンドシャッターを展開する。
    「待ってたぜー」
    「容易く逃げられると思うな、アメリカンコンドル」
    「相変わらず生意気なジャパニーズデース。こうなったらここで決着を……ノー!? まさかそこにいるユーは……!?」
     獲物を構える俊輔とユーリーに舌打ちを零すも、直ぐ脇に控える老女の姿に、アメリカンコンドルは眉間を寄せた。
    「ホワイ!? 何故ユーが灼滅者と一緒に……!?」
    「私がサポートします。皆様は、アメリカンコンドルへの攻撃に集中してください」
     答えの代わりに、デボネアは言葉と視線で灼滅者等を促した。短く頷いた俊輔とワルゼーが強く地を蹴り、一瞬にして間合いを詰める。
     力を極めた拳撃が、螺旋の鋭撃が、標的の得物と交わり爆発的な衝撃音を生んだ。

     灼滅者優勢で始まった闘い。
     けれど、手負いとはいえ相手はご当地幹部。体力は失っていても、その攻撃の威力は未だ健全であった。
    「むむたん!」
    「ナノー……!」
     咄嗟にカバーに入るも、代わりに受けた重い一打を堪えきれず倒れる相棒へとアロアが叫んだ。後ろからすかさずチェムノータとむすびが傷を癒し、むむたんも蹌踉めきながらもふわり起き上がる。
     癒し手をサーヴァントに一任し、全員が前衛として布陣する。
     それはアメリカンコンドルに対する強攻策でもあったが、とはいえそれが最善手でもあっただろう。
     それでも、幾度か件を交えた今、既に灼滅者等にも疲労の色が濃くなってきていた。傷を負わぬ者などいない。誰しも、いつ膝をつき、地に倒れ伏してもおかしくはなかった。
     けれど、未だ誰一人とて倒れぬ現状に、敵もまた苛立ちを顕にする。
    「いい加減、その生意気な顔も見飽きてきまシタ。そろそろ終わりにしまショウ!」
     怒声とともに放たれた強烈な一撃。
     だがそれもデボネアの一閃で打ち消された。背に庇ったアロアを肩越しに見遣る。
    「全く……皆様方は相も変わらず無謀でございますね」
     絶えずカバーリングしていたアロアの身体は、もう満身創痍であった。
     それでも、老女の声はどこか鼓舞しているかのようにも思えて、娘は四肢に力を込める。
    「ここで諦めるなんて選択肢、ないからね……!」
     高く跳躍したアロアが、全体重を乗せてその剛脚を見舞った。着地とともに飛び退いたそこへユーリーの邪を断つ光の斬撃が奔り、舞子の拳が無数の雨となって降り注ぐ。
     既に刻まれた傷口もろともアメリカンコンドルを穿ったそれは、骨肉を断ち強烈な痛みを呼び起こした。全身を駆け巡る苦痛に、思わず顔を顰める。
    「そろそろ辛いんじゃないのー?」
    「ガッデ――ム!」
     のんびりとした俊輔の声に煽られたか、叫喚しながらアメリカンコンドルが一撃を繰り出すも、
    「4時の方向へ身体を反らし――さあ、反撃を。援護は私が」
     デボネアの一声でそれを躱した玉緒の鋼糸が、逆に相手を絡め取った。
     歯を食い縛り、がむしゃらに飛び出したリューネが、敵の頭上へと流星めいた重い蹴りを叩き込めば、反動で蹌踉めいたその身体を、間髪入れずに放たれた識の無慈悲な魔矢が鋭く貫いた。
     絶対に諦めぬ。
     その気概は、少しずつ、けれど確実に敵の体力を削っていった。
    「この身ををかけて護るって、決めてるんだからっ……!」
     幾度目かのカバーに入った舞子が叫ぶ。新たに生まれた脇腹の傷に一瞬柳眉を寄せるも、霊犬等の治癒で痛みも幾分和らいだ。
     半ば棄てていたとはいえ、デボネアによる回復も灼滅者等にとっても有り難いものに変わりなかった。一瞬交わった視線に感謝の意を込め、ワルゼーは再びその双眸で捉えた敵へと肉薄する。
    「ユーリー殿! リューネ殿!」
    「はい!」
    「行くぜ!」
     呼気を重ねた3人による渾身の一撃。腹を抉られた者、腕の、脚の筋を断たれた者。抱える痛みを払うかのように繰り出されたその一撃が、敵に残された体力を一気に奪う。
     体中に充填されたこの地のパワーを、アロアは一気に放出した。波乗りのように瞬く間に戦場を駆け抜けると、全ての力を注ぎ込んだ脚で強烈な跳び蹴りを食らわせる。
     鬼でも蛇でもなく、視えたのは別の結末。
     ならば、と識は己の腕を鬼のそれへと転じた。艶やかな衣を靡かせながら音も無く距離を詰めると、細身で端正な顔立ちの娘には不釣り合いな、けれど何よりも娘の力となる巨腕でもって殴打を見舞う。
     激しい音とともに壁に打ち付けられた身体が、為す術もなくその場に崩れ落ちる。
     終わりか――否。
    「灼滅者、ごときに……この、偉大なるミー、が……グアッ!」
     爆風に紛れて死角にまわった玉緒の、強烈な一打。
    「私は……闇に堕ちたあなたに、負けるわけにはいかないの」
     玉緒にとっての、内なる衝動の否定。
     己が、『人間』である為の。
    「シ――――ット!!!」
     アメリカンコンドルが轟声とともに放った苛烈なる一閃は、けれど知らぬ間に距離を詰めていた俊輔の一振りで打ち消された。まだ幼さの残る面立ちの少年は、その小柄な体躯を生かして軽やかに跳ぶ。
    「いっくぜー」
    「ノオオオオオ――――!!」
     高速回転させた獲物が、辛うじて起き上がった敵の胸元を確りと捉えた。触れるもの全てを削り、破壊するそれは、魂の奥底に眠る衝動を纏いながらその身体を貫き――、

     瞬間、巨大な塵柱が爆ぜた。

     それは、紛うことなくアメリカンコンドルによる自爆行為であり、静けさを取り戻した戦場にはもうその姿はなかった。
    「倒した……のか?」
    「それとも、逃げられちゃった……?」
     リューネとアロアの問いに、俊輔も、舞子も、誰も答えを反すことができなかった。それは老女とて同じなのだろう。デボネアはひとつ息を吐くと、「これで、貸し借りはなしですからね」と踵を返して姿を消した。
     それを見送りながら、識が既に打ち終えていたメールを他チームへ送信した。ひとまずは、戦闘終了と報告して良いだろう。
     暫しの静寂を破ったのは、やはり別チームからのハンドフォンであった。
     外国人墓地チームのレイシーによると、戦闘は無事に終え、そして色々な情報を手に入れたらしい。
     そういうこちら側も、通話している間に、戦場となっていたフロアから続く諸処の部屋から玉緒やワルゼー達が様々な資料を見つけ、ユーリーのアイテムポケットに次々と収めていた。
    「この記録があれば、足取りを追えるかもしれないわね」
    「ユーリー殿! どんどん持ち帰るのだ!」
     どうやら、まだまだ資料はあるらしい。
    「っしゃ! 俺も手伝うぜ!」
     リューネはそう笑みを浮かべると、仲間たちの許へと駆け出した。

    作者:西宮チヒロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月7日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 38/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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