進むグンマー化、渋川へそ祭りの危機

    作者:刀道信三

    ●群馬県渋川市
    「まだちょっと早いけど、そろそろ渋川へそ祭りがあるんだよ! お祭り前の雰囲気って、楽しそうで、ワクワクして、なんかいいよね!」
     ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)はご当地怪人を灼滅した後で、仲間達と別れて一人渋川へやって来ていた。
     群馬県渋川市は、群馬県の中央に位置し、日本のへそ、日本のまんなかを自称している。
     毎年7月の第4土曜日には、渋川へそ祭りが催され、お腹に絵を描いて踊る『はら踊り』はユニークで、渋川の夏の風物詩となっている。
     ルリは当日の下見を兼ねて、もしかしたら祭りの準備や、はら踊りの練習を見ることができるかもしれないと思って、渋川まで足を運んでいた。
    「ヘッソダセヨーイヨイ!」
    「ヘッソダセヨーイヨイ!」
     そんなルリの前を、呪術めいた文言を唱えながら、腹部に人間の顔を模した威嚇するような表情の戦化粧を施した日本人離れした浅黒い肌の一団が、舞いながら通過して行った。
    「あれ、デジャヴュかな? ルリこれと似たのをついさっき見たような気がするよ……」
     ご当地怪人に強化一般人化された群馬県民達が、調度こんな感じだったことをルリは嫌でも思い出す。
     異変を感じたルリは、踵を返すと、足早に渋川駅へと向かうのだった。

    ●未来予測
    「みんな、大変だよ!」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は教卓に乗り出すような勢いで灼滅者達に説明を始める。
    「ルリ・リュミエールちゃんの報告で調べてみたところ、私の未来予測でイフリートの動きを察知することができたんだよ」
     最近大型爬虫類のような姿をしたイフリートが現れており、今までの猛獣の姿をしたイフリートとは、姿だけではなく、その能力や行動も、全く違うものになっている。
    「この爬虫類型のイフリートは、どうも知性を嫌っているみたいで、自分の周囲の気温を上昇させるだけじゃなくて、内部の一般人を原始人化させてしまうという厄介な能力を持っているみたい」
     この能力は、最初は狭い範囲だが、その範囲は徐々に広がっていき、最終的には都市一つが原始時代のようになってしまう。
    「イフリートがいるのは、効果範囲の中心地点になるから、見つけるのはそんなに難しくはないよ。でも、原始人と化した一般人の中には、強化一般人と化して、イフリートを守ろうとする人達もいるから、油断は禁物だよ」
     イフリートは、渋川駅からほど近い道路にいるが、原始人化能力の効果で、日本一の車社会群馬にもかかわらず、効果の範囲内で車が走っていることはない。
    「強化群馬県民達は、イフリートを護衛するように近くに取り巻いたりはしていないんだけど、効果範囲内に結構な人数が散らばっていて、未来予測に従っても、まったく遭遇せずに、イフリートに接近することはできないんだよ」
     それでもまりんは、強化一般人達が手薄で、最短でイフリートと接近できるルートを、灼滅者達に説明する。
     幸いこのルートであれば、最初に遭遇する以外の強化一般人達が、戦闘中に増援として集まってくる心配がないことが、未来予測でわかっている。
    「強化一般人達も『原始人』的な行動をするだけで、遭遇したら必ずしも敵意を向けられたり、戦闘になったりするわけではないよ」
     上手く交渉すれば戦闘せずに、強化一般人達を切り抜けることもできるかもしれない。
    「ただ原始人化した強化一般人達は、イフリート同様に、知性を嫌うようになっているから、交渉する時は注意が必要だよ」
     もし戦闘になってしまった場合は、戦闘音に気づいたイフリートが合流してくるので、それにも注意が必要だろう。
    「イフリートが灼滅されれば、原始人化されていた一般の人達も徐々に知性を取り戻していくよ。そうすれば、少し混乱しちゃうかもしれないけど、お祭りは開けるようになると思うよ。渋川へそ祭りのためにも、みんな頑張ってね!」


    参加者
    白・理一(空想虚言者・d00213)
    檜・梔子(ガーデニア・d01790)
    乙宮・立花(仮想のゆりかご・d06338)
    ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)
    本田・優太朗(歩く人・d11395)
    ハノン・ミラー(ダメな研究所のダメな生物兵器・d17118)
    クーガー・ヴォイテク(神速のグラサン幹部・d21014)
    フェリシタス・ロカ(ティータ・d21782)

    ■リプレイ


    「竜種をこのままにしていては、群馬が秘境グンマー化! ネタ的には面白くても、そんなことを許すわけにはいかないのです!」
     水着姿にボディペイントでお腹に顔の絵を描いたルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)が、再び元気に渋川駅に降り立った。
     ちなみに水着姿のは暑さにやられたからではなく、原始人化した強化群馬県民達との遭遇を配慮してのことである。
     連れ立った他の灼滅者達も、各々文明を感じさせる金属的な装飾を避け、極力布面積の少ない格好を心がけている。
    「竜種イフリート……ねぇ。今までのもふもふちゃんたちも可愛……手ごわかったけど、これはまた厄介な感じで」
    「今回は最近現れるようになった竜種が相手かぁ……能力以外は不明な所が多いけど、一つ一つ解決していけば真相にたどり着くよね」
     白・理一(空想虚言者・d00213)と本田・優太朗(歩く人・d11395)も、日差しを眩しそうにしながら改札を通過する。
     普段は眼鏡をかけている二人も、今回は眼鏡をつけずに来ていた。
    「知性を嫌う、てことは知性がないということではないのかしらね?」
     続いてハノン・ミラー(ダメな研究所のダメな生物兵器・d17118)が陽光の下に歩み出る。
    「へそ祭りの危機……! ちょっとへそ祭りのご当地ヒーロー出てこい」
     群馬県のご当地ヒーローがいないわけではないだろうが、残念ながら今回の事件にご当地ヒーローは縁がなかったようだ。
    「お祭りを楽しみにしている群馬県民のためにも、渋川へそ祭りを守って見せるのです!」
     それはそれとして、渋川へそ祭りの危機を救い、平和を守るために灼滅者達は戦わねばならない。
     ルリは拳を振り上げながら、イフリートのいる効果範囲の中心に向かって走り出した。


    「ヘッソダセヨーイヨイ!」
    「ヘッソダセヨーイヨイ!」
     未来予測で指定されたルートを進み、あと少しでイフリートのいる場所に辿り着けるという所で、前方から『はら踊り』をしながらやって来る強化群馬県民達の集団がやって来る。
    「へそ出せヨイヨーイ♪ へそ出せヨイヨーイ♪」
    「へッソダセヨーイヨイ! へッソダセヨーイヨイ!」
     それをルリとハノンが、はら踊りで迎撃する。
     胸は小さくとも、へそ美人と評判のルリとは本人談ではあるが、どの界隈で評判なのか少し気になる。
    「へそ出せヨイヨーイ♪」
    「ヘッソダセヨーイヨイ!」
     強化群馬県民4人と灼滅者女子2人によるはら踊りは、パッション的にヒートアップするほど、何かお互いに通じ合えたような気持ちになってきた。
     ちなみにはら踊りの準備は、まずお腹を白く塗った上に顔を描いたりと、結構覚悟が要る感じなので、二人の思い切りの良さに敬意を表したい。
    「さぁ、ボクの伝達力を見せてやるぜ」
     ルリとハノンが、はら踊りで強化群馬県民達と親交を深めている間に、檜・梔子(ガーデニア・d01790)達は持ち寄った地産の肉、野菜、果物などを強化群馬県民達にあげるために広げて準備を進める。
    「ボク達は、敵ではない、わかる?」
    「この食べ物あげる、私達トモダチ、通じてます、か?」
     乙宮・立花(仮想のゆりかご・d06338)とフェリシタス・ロカ(ティータ・d21782)が、身振り手振りのボディランゲージで、食べ物に興味を惹かれて集まってきた強化群馬県民達との意思疎通を図ろうとする。
    「こっちを使った方がいいと思うぜ」
     仲間達の少し後ろから様子を見ていたクーガー・ヴォイテク(神速のグラサン幹部・d21014)が、マッチで火を起こして肉を焼こうとしていた優太朗に、板と棒を差し出した。
    「クーガーちゃんの言うとおりかもしれないね」
     珍しいものを見せて気を惹こうと考えていた優太朗に対して、クーガーは下手に強化群馬県民達を刺激するべきではないと考えたのだ。
     クーガーの意図を汲み取った優太朗は、板と棒を受け取ると、原始的な方法で火起こしを試みる。
    「あ、焼いてある肉もあるよ」
     梔子が事前に火を通してきた上州豚を、強化群馬県民達に供した。
     しかし強化群馬県民達をここに引き止めるためには、焼きたての肉の匂いが効果的だろうと、優太朗は強化群馬県民達が他の食べ物に手を出している間に、準備を済ませ、肉を焼き始める。
    「えっと、その、そこを通してほしいなーって」
     肉の焼ける香ばしい匂いを前にして、強化群馬県民達の意識は完全に食べ物に向いてしまっており、梔子の声が聞こえているかどうかすら定かではない。
    「見、見たかこの交渉術」
     相手にされないならされないで都合が良いのだが、それはそれで少し寂しげな様子で仲間達のもとに戻る梔子。
     灼滅者達は強化群馬県民達が食べ物に気を取られている隙に先を急ぐのだった。


    「ガーデニア参上、みんなの支えになるからね」
     大型爬虫類というか、まるで恐竜のようなイフリートを目視したところで、梔子はマスクを被ってガーデニアとなって戦闘態勢に入る。
    『グォオオオォォオオオオオォォォッ!』
     その名乗り口上が目についたわけではないと思うが、同時に灼滅者達の接近に気がついたイフリートの口から、大量の炎弾が梔子を狙って放たれた。
     梔子の目の前で、爆撃でも受けたかのような火柱が上がるが、梔子のライドキャリバーのライちゃんが身を盾にして梔子を守っていた。
    「ナイスだよ、ライちゃん!」
     炎を受けながら、主の激励にまだまだやれると応えるように、ライちゃんは勇ましくエンジン音を響かせる。
    「レッツ、ドラゴンスレイヤー!」
     炎弾を潜り抜けるように接近していたルリの鬼神変による一撃を、イフリートはルリの進行方向から半歩ズレることで空振りさせた。
    「この熱気の中で、慣れないコンタクトは目が乾くなぁ」
     イフリートに近づくほど、嫌が応にも増す暑さに、暢気な口調で愚痴をこぼしながら、しかしその口調とは裏腹に鋭い槍捌きから理一は無数の氷柱を、イフリートに向かって繰り出す。
     殺到する氷の穂先を、イフリートはその炎を纏った尻尾の一振りで蒸発させた。
    「……ん、行こうか」
     立花は屈んで霊犬の佐助を一撫ですると、佐助はイフリートに向かって駆け出し、立花は立ち上がるとワイドガードで防壁を形成する。
     佐助の斬魔刀が、初めてイフリートの体に命中するが、その硬い皮膚に阻まれて深い傷を刻むことができない。
    「てめーの相手は、俺だぜ!!」
     イフリートの足許まで踏み込んでいたクーガーの縛霊撃が、イフリートの胴を打ち上げ、放射された霊力の網がイフリートに絡みついた。
    「不謹慎だけど、楽しませてもらうよ。竜種」
     優太朗の白い髪とは対照的な黒い影が足許から伸び、刃となってイフリートに斬撃を加える。
    「図体の割にすばしっこいトカゲだね」
     ハノンがサイキックソードの柄から撃ち出した光刃を、イフリートはコンクリートを割り、地響きを立てるほど駆け回りながら、すべて避けていった。
    「ねぇ……アンタの事、食べてもイイのよね?」
     『食べる』とはフェリシタス流には、灼滅することを指す表現である。
     フェリシタスは並走しながら白光を放つクルセイドソードで斬撃を繰り出すが、イフリートは殺気に反応するように、急ブレーキをかけて、それを回避する。
     更にクルセイドソードを振り抜いたフェリシタスの隙を狙って、イフリートは炎を纏わせた前脚で、フェリシタスを踏み潰そうとした。
    「てめーの相手は、俺だって言っただろうが!」
     クーガーが霊力の網を強引に手繰り寄せて、フェリシタスを狙ったレーヴァテインの一撃に縛霊手をぶつける。
    『ガアアアァアアアアアァァッ!』
     イフリートの体重をかけた一撃に、レーヴァテインによる炎と、クーガーの軋む体から飛び散った炎の血液が灼熱地獄を作り出す。
     そこへ連続してイフリートは、至近距離から炎の魔弾を撃ち込もうと口を開いた。
    「させないよ」
     クーガーを爆炎が包み込むより早く、立花がクーガーを突き飛ばしてブレイジングバーストの射線に立ち塞がる。
    「この、ええい!」
     イフリートが攻撃している隙に、その背に飛び乗ったルリが振り落とされるまでの間に、オーラを纏った拳でイフリートの背中を連打した。
    「まずは足を潰さないとねぇ」
     理一が水平に展開したマジックミサイルの一発が、イフリートの進行を阻むように命中し、怯んだところへ追尾していたもう何発かが着弾する。
    「これくらいで……やられるわけないだろがッ!」
     クーガーが気迫で立ち上がりながら、再びイフリートの手綱を握る。
     霊犬のシルキィの援護もあって、万全とはいかないまでも、クーガーは十分に戦える状態まで体勢を持ち直していた。
    「回復役が多いお陰で、なんとか火消しが間に合ってるかな」
     梔子はセイクリッドウィンドで被弾した仲間の傷を癒やしながら戦況を分析する。
     サーヴァントを含めると回復役の手が多いので、今のところイフリートによる炎のダメージを未然に防ぐことができていた。
    「竜種と普通のイフリートの戦闘……やっぱり何処か違うところがあるのかな?」
     ここまでの戦闘を見る限りでは、姿以外で戦闘能力の違いを見出すことはできなかった。
    「とりあえず確実にダメージを与えることが、俺の仕事かな」
     今のところ安定して攻撃を命中させることができているのが、スナイパーの優太朗だけであった。
     イフリートの移動先を読んだ優太朗の展開した影業に、イフリートが突っ込んで飲み込まれる。
    「手数で押せばなんとかなるかしら」
     影に頭を覆われてイフリートがもがいている隙にハノンのDESアシッドの強酸が、イフリートの皮膚を溶かす。
     強化一般人達と合流していないとはいえ、圧倒的な戦闘力の差があるダークネス相手に、灼滅者達は命中力を上げるなり、回避力を下げるなりの戦術を、今回はあまり意識して組み込んではいない。
     クーガーの霊力の網でしかイフリートの動きを縛れていない現状では、ハノンの言うとおり数を撃って当てるしかないという状態だ。
    「これじゃ、じっくり味わって食べられないじゃない」
     イフリートに追走して解体ナイフによる一撃を入れようとしたフェリシタスの攻撃が空ぶる。
     灼滅者達とは比べるまでもなく巨大なイフリートであるが、当然その走力はどの灼滅者をも上回っている。
     その猛烈な勢いでターンしたと思ったイフリートが、立花目がけて跳躍しながら、その勢いを乗せた爪を振りかぶる。
    「……佐助」
     霊犬の佐助が、横から割って入ることで立花への攻撃を肩代わりした。
     レーヴァテインの炎を纏った爪撃を受けて、佐助は火だるまになりながら道路を転がる。
    「大振りでも、当たれば問題ないんだよ」
     イフリートの眼前に飛び出したルリの鬼神変による打ち下ろしが、イフリートの顔面をコンクリートに叩きつけた。
    「暑いのは勘弁だよ。早く倒れてくれないかな」
     再び舞うように繰り出された理一の氷の刃を、イフリートは軽い吐息で吹き消し、水蒸気が辺り一面に広がる。
    「これが当たれば」
     立花はここで水蒸気にまぎれて、敢えてエアシューズで地を蹴り、低空を一直線に飛び込むようにしながら、イフリートの関節に一撃を入れた。
    「もう一発!」
     体勢を崩したイフリートを、霊力の網で引っ張りながら、クーガーは再び縛霊撃をイフリートの胴に叩き込み、二重の束縛をイフリートにかける。
    「チャンスなら、必殺、ガーデニアバスター!」
     敵味方の損耗状態、イフリートの回避能力の低下を即座に判断した梔子は、果敢に前に出るとイフリートの脚の1本を掴んで地獄投げで地面に叩きつけた。
    「そろそろさよならだ、竜種」
     動きの鈍ったイフリートの胴体を、優太朗の影業の刃が串刺しにする。
    「ようやく捕まえた。これで磔よ」
     縫いつけられたように身動きが取れなくなっているイフリートに、続けてハノンの光刃が何本も何本も突き刺さった。
    「もう食べてもイイみたいね……それじゃ、いただきます」
     フェリシタスの炎を纏ったナイフが、ボロボロになったイフリートの皮膚に突き立てられ、全身を縦横無尽に切り刻む。
     その一撃で絶命したイフリートは、自らの炎に飲まれるようにして、陽炎のように消滅した。


     イフリートを灼滅したことで、範囲内にいた一般人達も、徐々に正気を取り戻し始めていた。
    「なあ、せっかくだから、祭りに寄って行かないか?」
     戦闘を終えた仲間達にクーガーが提案する。
    「へそ祭りを楽しむのです! 夏休みは始まったばかりなのです!」
     お腹に顔の絵が描かれているルリが、真っ先にクーガーの提案に乗る。
     今にもはら踊りに混ざって参加するくらいの勢いである。
     灼滅者達の活躍で一般人達の知性は取り戻され、今年も無事に渋川へそ祭りが開催されることだろう。

    作者:刀道信三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ