ごちゅうもんはイワシですか?

    作者:空白革命

    ●ごちイワって頃悪っ!
    「くっ……ここは一体どこなんだ……俺は、誰なんだ?」
     中学生が五秒で考えたようなおきまりの台詞を、なんかしっとりした髪のボーイがトーキングナウしていた(二重表現)。
     そして、カッと目を開く。
     ついでにカメラも引く。
    「なんで俺は九十九里浜の海岸に首から下だけ埋まっているんだ……!」
     ボンキュッボンのガールめいた砂彫刻にフィリングナウしていた(再びの二重表現)。
     いくら市民プールがプール開きしたからって九十九里浜はオフシーズン。遊泳禁止の赤い旗がたなびく浜のド真ん中で、ボーイはのっそりと砂から這い出た。
    「くそう、イライラするぜ! なんだって俺は砂に埋まってたんだ。そして俺の名前はなんで是岩シタロー(これいわ・シタロー)でどうしてこの場所が九十九里国民宿舎から車で五分の所にある九十九里浜なんだ――って全部覚えてんじゃねえかふざけんな! 今一瞬『記憶喪失の俺って、クールじゃね? クールジャパンじゃね?』とか思っちゃっただろうかチクショウ! どういうことだよ、どうして俺は今イワシを両手に握りしめてんだよ!」
     両手にイワシを握りしめて天へと吠えるイワシ男(褌オンリー)。
    「あれ? っていうかなんで俺、褌一丁で両手にイワシ握りしめてんだ? あっこれは趣味だった。なーんだ趣味かー! たいしたことねーなー世界!」
     はっはっはと誰も居ない夕暮れの海で笑った後、はっと空を見上げた。
    「そういえば俺、なんで今ヴァンパイアなん!?」
     
    ●こちらはヴァンパイアのおはなしとなっております
    「イワシの声が聞こえてきます……『イワシダヨー』……知っています……」
     なんか西園寺・アベルさんがイワシと会話していた。
    「こうも言っています。『千葉県は九十九里浜にて身内の闇落ちに巻き込まれた形で突如ヴァンパイアに連動闇落ちしてしまった男がいるでござる。ニンニン』……このイワシ、シノビの者か!?」
     
     なんかイワシさん(っていうかアベさん)が言うには、闇落ちしちゃったボーイをヤっちゃって欲しいという話だった。
     闇落ちしたばっかとはいえヴァンパイア。そこそこそれなりに強いのでまーまー気をつけてねーという話である。
    「イワシさんはこうも言っています……『カラダニキヲツケテネー』……分かっています……」


    参加者
    ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)
    榎本・哲(狂い星・d01221)
    黒咬・昴(叢雲・d02294)
    月雲・悠一(紅焔・d02499)
    巴・詩乃(姉妹なる月・d09452)
    埼武・州斗(ブッシュマン・d23806)
    クロシェット・サクラ(自分自身を隠し続けて・d26672)
    有坂・一弥(雨奇晴好・d28503)

    ■リプレイ

    ●日常系ゆるふわアニメに共通する親和性と平和性についての論文を今から語あ゛ぁ~ぴょんぴょんするんじゃぁ~う゛あ゛ぁ~!
     青い海。
     青い空。
     青い有坂・一弥(雨奇晴好・d28503)。
     あ、間違えた。
     オリジナル着ぐるみ『イワシダヨーさん』である。
    「シタロー、ぴょんぴょんしようぜ!」
    「オーケー!」
     (新しい世界への)扉開けた途端見知らぬイワシへと。
    「そんなのないよ」
    「ありえない」
     それがありえるかも。イワシ臭の結界。
    「砂の像を覗いたら」
     イワシがイワシを見つめてました。
    「「なんで!?」」
    「二人居る……!」
    「困りますね……!」
    「きっと!」
    「同じ趣味!」
    「だから!」
     見つめるのイワシでしょ?
    「君だけみてるよ!」
    「じゃあそろそろ灼滅者化(シャク)るってことで」
    「ウィーッス」
     自分のこめかみに銃を突きつける是岩シタロー(ヴァンパイア)。
    「待て、早い早い! まだ四百文字! アニメでいうとOP前のアバンタイトルすら終わってないぞ!」
     後ろから榎本・哲(狂い星・d01221)に羽交い締めにされ、シタローは思い切り暴れた。
    「HANASE! 俺はシャクるんだ! シャクれるんだ!」
    「落ち着け! いくら顎をシャクったところで灼滅者にはなれないぞ! 考え直せ!」
    「マジでかコノヤロー!」
     顎をシャクれさせながら威圧してくるシタローを開放すると、哲はぜえぜえと荒い息を整えた。
    「いいか、まず質問すんぞ? おまえはヴァンパイアなんだよな? 俺たちダンピールの宿敵なんだよな?」
    「え、そりゃモチ」
    「は?(威圧)」
     シタローの真横からスライドアウトしてくるミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)。
     すごい威圧感のあるにらみを利かせつつ、シタローの横顔に接近した。
    「ヴァンパイアだったらころがすよ? くびりころがすよ?(※お子様でも安心して見られるように表現を緩和しています)」
    「なにそれこわい」
    「具体的にはフォースブレイクをたたきこむよ」
    「そこを散歩してるおっさんに?」
    「なんで!?」
     ビーチを一人散歩するビジネススーツの中年を指さすシタロー。
    「あの人、毎日朝から晩までここを散歩してるんだけど、なんの仕事してるんだろうなあ」
    「きっと夏休みなんだよ……永遠の……」
     ビーチにシートをしいて体育座りした巴・詩乃(姉妹なる月・d09452)が、七輪の上にとうもろこしを置いていた。
    「ところで、今何してるんだっけ」
    「おっさんの再就職先を探すんだっけ?」
    「ちがう、そうじゃない」
    「じゃあ……サイキックバトル中?」
     のっけたそばから黒咬・昴(叢雲・d02294)がとうもろこしを奪い、もりもり喰っていた(クラッシャー的行動)。
    「少なくともヴァンパイアとの戦闘中だったことは確かだ」
     さらなるもろこしを奪おうとする昴からもろこしを守りつつ、埼武・州斗(ブッシュマン・d23806)が丁寧に七輪で焼いていく(ディフェンダー的行動)。
    「あ、じゃあその前に……えっと、その……」
     クロシェット・サクラ(自分自身を隠し続けて・d26672)がもじもじと指を胸の前で指を合わせながらシタローの前へ出て行った。
     腰の後ろで手を組み、若干上半身を前に屈める。
    「あたしとイワシぴょんぴょんしてくださいっ!(スナイパー的行動)」
    「エンダァァァァァァーイヤァァァァァァァー!」
     ウクレレを情熱的かつゆったりと奏ながら巴・詩乃(姉妹なる月・d09452)が謎のシャウトを始める(メディック的行動)。
    「はい!」
     自分のこめかみにショットガンを押し当てるシタロー(ダークネス的行動)。
    「だから早いつってんだろ!」
     月雲・悠一(紅焔・d02499)がジェット噴射によるドロップキックでシタローを蹴倒した(クラッシャー的行動)。
    「なんでだよ! アニメでいうアバンは終わっただろ!」
    「だとしてもAパートすら終了してねえんだよ! せめてCMくらい待てねえのかよ!」
    「じゃあやってやんよ! ホラァ!」

    ●CMはいりまーす
     IWASI(イッワーシィ!)。
    『みんなー! イワシ太郎のファンディスクが出るんだよー!』
    『迫力の戦争シーンが収録!』
    「ヴァンパイアはボクの宿敵なんだ……だから、覚悟!」
     どこからともなく取り出した鈍器を叩き込むミルドレッド。
    「踏み込みが足りん!」
     シャッと残像を残して回避するシタロー。
    「さあ、楽しませてくれよ!」
     シタローは画面にカットインすると、戦場を濃い霧の中に沈めた。
    「甘いっ!」
     両手に持ったバーナーを噴射して霧をはらう州斗。
     すると七輪の上でイワシを焼くシタローが露わになった。
    「くっ、やるな……! ならこれでどうだ!」
     こんがりと焼けたイワシの赤十字を繰り出すシタロー。
    『更に劇中に使用された豪華BGMもすべて収録!』
    「あなたの大切なひとは、イワシが好き……?」
     詩乃がアコースティックギターをぽろんぽろん鳴らしムーディなハワイアンソングを歌い始めた。
     それはウクレレんときにやんなさい。
     更に哲が詩乃の周りでなんかキラキラした祭霊光をまき散らし始めた。
    「これで終わりだ……イワシ界形成!」
     シタローは周囲に大量のイワシを設置した後両腕を広げ微妙に腰をくねっと曲げた。
    「我が名はシタロー、力ある者に対する……反逆者である!」
    「あっコイツ、ノリで名乗ったぞ!」
    「合衆国ニッポンポン!」
    「混ぜんな馬鹿!」
    「知らなかったのか? 俺の声は福○潤だということを」
    「だからノリで決めんな!」
    「きたーっ! イワシは焼くのが一番よ!」
     きしゃーと言いながらカットインしてくる昴。
     州斗からパクったバーナーでイワシを炙ると長方形のお皿に盛って大根おろしを添え醤油をすこし垂らした。
    「しまった、イワシ界形成がクリエイトイワシに……!」
     説明しよう。クリエイトイワシとはイワシを香ばしく焼き上げお醤油の風味を添えることでイワシのうまみを引き出す調理法である。調理法である!
    『ヒミツのムフフもあるかもよ!』
    「えっ……なんであたしにカメラ向けたの? 何を期待してるの!?」
     困惑の表情でおろおろするサクラ。右手には割り箸。左手にはおにぎり。
    「心配ない……俺がやる」
     スッとサクラの前に立ち塞がるイワシダヨーさん。もとい一弥。
     イワシダヨーさんは懐(エラの辺り)からなんかのロッドを取り出すと、先端のスイッチを押し込んだ。
    「任務了解。自爆する(緑○光ヴォイス)」
    「カズヤアアアアアアアアアア!」
     ビーム鎌的な何かを持った悠一が身を乗り出して叫び、そして……。

    ●Bパートはいりまーす
    「九名様でお待ちの『美しき男その名はイワシ』さまー」
    「はーい」
     レストランの順番待ちエリアにて、シタローがスッと立ち上がった。
    「CM中に戦闘終えやがった!」
    「おいどーすんだよこの後半部分!」
     悠一と哲が同時に立ち上がり、同時に裏ツッコミを入れた。
    「なるほど、中の人ネタか……フ、実に分かりづらい」
     平然とした顔で立ち上がる州斗。
     彼らは九人いっぺんに座れる大きなテーブル席につくと、店員さんにつってきたイワシを渡した。
    「ここはいわゆる、自分で釣ってきた魚を調理してくれるお店なんだ」
    「へー、でもおにぎりやトウモロコシ食べちゃったよ。まだ入るかなー」
     シタローの説明をよそにぱらぱらとデザートメニューを眺めるミルドレッド。
    「あとお金大丈夫なのか? イワシ界形成で数万円飛んでるだろ?」
    「大丈夫だって。俺たちが手を組んで出来なかったこと何で無いだろ」
     グッと親指を立てる悠一。
     ニヤリと笑うシタロー。
    「ああ、俺たちはトモダチだからな!」
    「今一番言っちゃ行けない台詞だよねそれ」
    「でもその声で言うと普通に嘘っぽく聞こえる! 不思議!」
     そうこうしていると、イワシのハンバーグやイワシのトト餃子、イワシのフリッターサラダなどが出てきた。
     冷静にお皿を配る州斗。サラダをとりわけるイワシダヨーさん(一弥)。
    「わーっ、イワシ料理っていうからお刺身とかかと思ったけど、洋食なんだ」
     ぱっと目を輝かせたサクラに、シタローがニヒルに笑いかけた。
    「イワシは苦みがきついと言われるが、新鮮で上等なイワシはそういったノイズが非常に少ない。だから単純に肉として使えるのさ。まずはその餃子を食べてみてくれ。価値観が変わるぜ」
    「ほうほう……」
     言われたとおりに餃子をつまみ上げ、まぐりと一口で食べる昴。
     このときまず思ったのが、『魚っぽくない』である。
     餃子の皮に包まれているからというのもあるが、ハーブを利用して魚がもつ臭みの一切を相殺しているのだ。
     実際トト餃子とは、すり身を野菜を混ぜ合わせ、餃子の皮に包んで揚げたものだ。つまり揚げ餃子。
     焼き魚で落ちる油と魚フライで出る油は違うという意見があるが、これがいい例である。
     餃子を噛んだ時最初に出てくるのが焼き魚の香ばしさ。次に感じるのがフライのがっつりとした感覚で、最後にそれらをぬぐい去るようにハーブの香りが駆け抜けていく。鼻から抜けたときにはもう『魚の美味しい部分』だけが残っていることだろう。
    「はふ、これやばい……うまい……」
    「待って。ってことはハンバーグは?」
     お皿に小さく小分けされたハンバーグを指さす詩乃。
     一般的にイメージする小判型ではない。もう少しざくざくしていて、見た目にはちょっと雑っぽい。
     それはイワシを細かいすり身にすることなく、あえて大きいまま残したということだ。
     ドキドキしながらひときれ口に含んでみて、思わずまなじりを上げた。
     味わいとしてはハンバーグのそれだ。それで間違いない。
     だがハンバーグが肉のインパクトと満足感だけを切り取って凝縮したような食べ物だとするなら、このイワシハンバーグはイワシを食べたときのファーストインパクトだけを切り取って集めたような食べ物だった。
     お魚嫌いーとか言ってる人はまずこれ食べてからものを言うべきだ。詩乃はそんなふうに思った。
     尚、この一連の極上イワシ料理は九十九里浜国民宿舎前にあるテラス砂時計という洋食屋さんで食べられるよ。美味しかったよすごく。あと茶色い虎猫がいた。可愛かった(実話)。
    「いやー、小学校の頃は知らなかったな。九十九里にこんな店があるなんてなあ」
    「小学校このへんだったの?」
     フリッターをもぐもぐしながら振り向くミルドレッド。
     フライにしたイワシをオリジナルドレッシングでもって野菜とあえた料理である。サラダだと思ってるとそのボリュームにびっくりすることになる。酸味があるのに酸っぱくないという絶妙なバランスでできているのが特徴だ。
    「九十九里で地引き網するのが千葉小学生の伝統だぜ? 今はどうしてんのかなあ、そういえば聞かねーなあ……」
    「一応やってるみたいだぞ。全部かは知らんが」
    「へー」
     彼らはひとしきりイワシ料理を堪能したあと、お店のご厚意でコーヒーを頂き、しばらくまったりした後でお店を出た。
    「えっと、このあとどうします?」
    「とりあえずシャクる?」
    「ウィッスウィッス」
     シタローは額になんかの爆弾をくっつけると、ダブルピースと共に自爆した。

     この後、武蔵坂学園に新たな変人が加わったのは言うまでも無い。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 10/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 10
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