琵琶湖決戦~非道なる分水嶺~

    作者:相原あきと

     そこは琵琶湖周辺の長閑な小さな町だった。
     大きな街と街を繋ぐ街道沿いの小さな町、そんな所だ。
    「御老人、そなたは熱心な御仏の信者と見る。どうか、どうかそなたの力を貸してほしい」
     平凡な一軒家で妻に先立たれて一人暮らしだった老人の前に、その男は現れた。
     頭に黒曜石の角を持ち、異様な着物を着た細身で狐のような顔をした男だった。
     彼はかの天海僧正の遣いであり、近々現れる仏敵を倒すための力がいると言う。
    「そなたの命はあと僅か、老い先短い人生ならば、最後は御仏の為に使うが道理、違うか?」
     命を捨てろと言ってきているが、その細身の男から出される威圧感に、元々信心深い老人は『これも仏様の導きか』と、強引に自分を誤魔化し。
    「わかった。家内も死に、ただただ生きるだけの今、仏様の為に使えと言うなら使っても構わぬさ……」
     半分以上、諦めの境地で老人が頷く。
     狐顔の男は、それに大層満足気に頷き、そして手を向け……――。
     そして、孤独な老人は強化一般人化となった。
     とどのつまり『僧兵』の誕生である。
    「人間のちっぽけな命も、数が集まれば弾避けぐらいにはなろう。仏敵を倒すため、せいぜい肉壁にせいを出すのだ」
     そう狐顔が呟いた……その瞬間!

    「遅かったか!?」

     突如響いた声に僧兵となった老人と狐顔の羅刹が振り向く。
     いつの間に現れたのか、リビングに面した庭には数人の変な頭をした男達がいた。
     具体的に言うなら頭がペナントになっている者達が4人、刀になっている男が1人。
     リーダーなのか刀男が一歩前に出て宣言する。
    「ちぃ、めんどくせぇことしやがって!」
    「……遅かったな、仏敵の尖兵め」
    「黙れ! 琵琶湖を賛美する人間は大事だが、ああなっちゃ必要ねぇ。慈眼衆もろとも、下等な人間もまとめて始末してくれる!」
     手下のペナント怪人達に指示を出す刀剣怪人。
     狐顔の慈眼衆は即座に互いの戦力を鑑みる。
     1対1なら慈眼衆の方が僅かに強いだろうか。しかし数の上では刀剣怪人達の方が有利。
     だが、勝負は時の運、やってみるまでは……。

    「みんな、天海大僧正と安土城怪人が戦いの準備を進めているって話は前に話したと思うけど、ちょっと状況が変わって来たみたいなの」
     教室の集まった皆を見回してエクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
     琵琶湖を巡る『刺青羅刹天海大僧正』と『悌の犬士安土城怪人』の戦いは、武蔵坂学園の皆の助力により天海大僧正側が優勢になっているらしく、この状況を打開する為、安土城怪人は刀剣怪人軍団を戦場に投入し始めたと言うのだ。
     そして刀剣怪人軍団は、戦力増強の為に強化一般人を増やそうとしている慈眼衆を狙い、動き出したと言う。
    「慈眼衆と刀剣怪人が戦えば、周囲に被害が出る危険性もあるし、この琵琶湖の戦いを早急に集結させる為に、どちらかの勢力に肩入れするのも方法だと思うの」
     珠希はそう言うが、難しい部分もあると言う。
     灼滅者たちの選択によっては、それこそ琵琶湖の戦いの趨勢を決めることになるかもしれないし、その選択が正解なのかも不明のままだ。
    「だから、どういった方法でこの事件に介入するかは……現場のみなの判断に任せるわ」
     そう宣言すると珠希は一度言葉を切り刀剣怪人と慈眼衆の戦闘方法について説明する。
     慈眼衆は神薙使いと断罪輪に似たサイキックを使うらしく、戦い方は防御主体だと言う。
     刀剣怪人はご当地ヒーローと無敵斬艦刀に似たサイキックを使い、戦い方は攻撃特化。
     刀剣怪人が引き連れた琵琶湖ペナント怪人4人は、ご当地ヒーローに似たサイキックのみを使い。戦闘となれば妨害に特化した戦い方をしてくると言う。
     放っておけば数の有利がある刀剣怪人が勝利するが、灼滅者の介入次第で戦いの結末は変えられるとの事だ。
    「でも両方ダークネスだし、どっちも灼滅しちゃうのも有りよ? 正直、今回介入する慈眼衆は人間を使い捨ての駒みたいに思ってるし、刀剣怪人も家畜ぐらいにしか思って無いみたいだし……正直、あまり助けたいタイプじゃないわ」
     もちろん、武蔵坂学園に様々な性格や考え方の灼滅者がいるように、慈眼衆や怪人側も、細かい性格や考え方は統一されていないのだろうが……。
    「選択はみなに任せるわ。これは琵琶湖決戦の分水嶺よ……ま、それはそれとして、ダークネスを少しでも灼滅するチャンスだし、見逃す手は無いわよね!」


    参加者
    狐雅原・あきら(アポリア・d00502)
    白・彰二(夜啼キ鴉・d00942)
    東雲・由宇(終油の秘蹟・d01218)
    二夕月・海月(くらげ娘・d01805)
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    百舟・煉火(キープロミネンス・d08468)
    天槻・空斗(焔天狼君・d11814)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)

    ■リプレイ


     突如響き渡るガトリングガンの音と、足元を掃射されその場でワタワタと踊るペナント怪人たち。
     咄嗟の出来事に慈眼衆を押えつけていた刀剣怪人の意識が逸れ、その隙に僧兵の側まで後退する慈眼衆。
    「チッ……誰だ!」
     慈眼衆に逃げられ苛立たしげにガトリングを撃ち放った新手へ向き直る刀剣怪人。
    「世に戦のあるところ、必ず慈眼衆ありー! 今日のボクは慈眼衆デス!」
     突如現れた新手の1人、狐雅原・あきら(アポリア・d00502)がガトリングガンを構えたまま宣言する。
     新手はあきら1人だけでなく、合計で8人。その誰もが学生のようだった。
     刀剣怪人はペナント怪人4人に合流するよう指示を出しつつ。
    「そんな普通の格好の慈眼衆がいるか!」
    「ワールドにイクサあるところ、慈眼衆マストシュツゲン!」
    「喋り方の問題じゃねえっ!」
     叫ぶ刀剣怪人。
     あきらは「アレ? 違う?」と首をかしげるが、狐顔の慈眼衆が何かに気が付き。
    「お主ら……武蔵坂、か?」
    「ああ、武蔵坂学園の者だ。助太刀させてもらう」
     二夕月・海月(くらげ娘・d01805)が肯定し。
    「アハハッ、こんな戦いにも割り込んじゃうなんて灼滅者は大変デスネ!」
     と、あきらが笑いながら怪人へガトリングを向け、海月たち他の7人も殲術道具を怪人達に構える。
     刀剣怪人が慈眼衆と灼滅者達、両方を警戒して陣形を整え、対して慈眼衆は未だ警戒を解かずに灼滅者達へ「何故だ」と問いかける。
    「先の約束と被害を最小限に抑える為」
     短く簡潔に答える海月だが、その内心ではダークネスと共闘する事に不思議さを感じつつ、目的の為だと割り切ることにする。
     海月の答えに慈眼衆は僧兵に「仏敵の尖兵に集中せよ」と指示を出す。とりあえずは共闘できそうだ。
    「目覚めろ。疾く翔ける狼の牙よ。吼えろ、焔天狼牙」
     天槻・空斗(焔天狼君・d11814)が出現した両刃剣の焔天狼牙を構えつつ、ペナント怪人達の視界を遮るよう立ち塞がる。
     さらに白・彰二(夜啼キ鴉・d00942)がロッドに魔力をためつつペナント怪人へ踊りかかり、結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)が片手で槍を回し、もう片方の手を鬼のそれに変異させつつ怪人達へと突っ込んで行く。
     そんな彼らを観察するように見つめるのは狐顔の慈眼衆だった。
    「天海大僧正に灼滅者勢力の事は聞いているな?」
     その疑惑を即座に読みとった百舟・煉火(キープロミネンス・d08468)が慈眼衆に聞く。
    「……然り」
    「なら大僧正の言う通り、ボク達と組みたまえ! だが覚えておけ、ボク達は無関係な一般人を戦いに巻き込む事を認めない!」
     僧兵の方を向きつつ宣言する煉火に、慈眼衆は少しだけ考えると。
    「……良いだろう。もっとも、後半部分に関しては即答し兼ねるがな」
     煉火は「わかった」と返すと、バベルブレイカーの杭を高速で回転させながらペナント怪人へと突貫する。
    「話はついたでござるな」
     ご当地怪人達の足止めを行なっていたニンジャ装束のニンジャ、ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)が煉火に聞き。
    「一応は、な」
    「いや、十分でござる」
     そう言うと、ハリーは再び仲間を庇えるよう前線に並ぶ。
    「おのれ慈眼衆、強化一般人を増やすだけでは飽き足らず、出来損ないの灼滅者どもも味方につけるとは」
     刀剣怪人が灼滅者と肩を並べて戦う慈眼衆へ憎しみの視線を向ける。
    「何処見てんの? 私はこっちよ!」
     背後からの声に慌てて振り向くと、破邪の白光に包まれた刃が目前へと迫っていた。
     咄嗟に東雲・由宇(終油の秘蹟・d01218)の一撃を回避しようとするも、その刃は刀剣怪人を通り過ぎ、脇に控えるペナント怪人の1人にクリティカルする。
    「ポン刀もかなりカッコいいけど、西洋剣もなかなかの威力よ?……それに、個人の質って大事よね?」
    「ぐぐ……この、灼滅者どもが!」
     由宇の言葉に刀剣怪人が吠えた。


     灼滅者8人が慈眼衆側に付いた事で、戦況の天秤は圧倒的になっていた。
     配下たるペナント怪人も各個撃破され、今や刀剣怪人が孤軍奮闘するのみである。
    「多勢に無勢とはこのことか……くそっ、だがせめて!」
     刀剣怪人が今までの標的と違い――僧兵、強化一般人へビームを放つ。
     しかし、バチッと怪人の光線が僧兵へと到達する前に弾かれ霧散。
     僧兵の前には、焔天狼牙を構えてビームから庇った空斗の姿。
     空斗はお返しとばかりに、脚に黒い焔を纏って怪人へと跳躍。
     そんな空斗が、今度は背後から光に撃ち抜かれる。
     だが新しい傷は出来ず、逆に今まであった傷が消えていた。
     それは海月の回復サイキック、祭霊光。海月は側に浮かぶ影のクーと共に、次に傷の深い者へと回復の狙いを定める。
    「おい刀剣怪人、そろそろ降参した方がいいんじゃねーか?」
     圧倒的優位故、彰二が最後通告を行なう。
     だが。
    「はっ! 出来損ないの灼滅者どもに、情けをかけられるほど落ちぶれちゃいねぇ! てめぇらこそ帰ったらどうだ? こっちは退く気はねぇぜ?」
    「悪ィけど、こっちも引くわけにはいかねーんだ」
     退かぬ怪人に、彰二も同じく言葉を返す。怪人とて、すでに覚悟はできているのだろう、だからこそ……。
     そして何人もの灼滅者が怪人に殺到する。だが、怪人はあきらの飛び蹴りを同じくキックで相殺し、煉火のペトロカースを左腕を盾にして致命傷を避け、僅かな隙を見逃さぬとばかりに頭部の刀でカウンターを決めようと連続で斬りつけてくる。
    「見事な剣捌きでござるな」
     思わず怪人の動きに感心するハリーだったが、すぐに我に返るとビシリと怪人に指を差し。
    「だが、拙者のニンポーを見きれるでござるかな!」
     言うが早いか上空へ跳躍、さらに空中を蹴るように角度を変え。
    「受けて見よ! ニンジャケンポーライフブリンガー!」
     長いっ! と思いつつも左腕に偽針を突き刺される怪人、石化しかかっていた左腕から完全に力が抜け上がらなくなる。
     さらに静菜の妖冷弾が命中、足元からピキピキと氷漬けになりはじめる怪人。
    「ぐ、が、ぎ……!?」
     怪人の顔に影が落ち、いつの間にか目の前には由宇がいた。
    「手加減なんて期待しないでよ? あなたは……燃えカスにでもなれば良い」
     由宇のエアシューズが大地との摩擦で炎を吹きあげ、炎を纏ったキックが刀剣怪人の鳩尾へと入り、怪人が吹き飛ぶ。
     それが、トドメとなった。
     吹き飛んだ先で爆発する刀剣怪人。
     戦いは、慈眼衆側の大勝利に終わったのだった。


    「待ってくれ!」
     戦いが終わり、僧兵を連れて帰ろうとした慈眼衆を煉火が呼び止める。
    「何だ?」
     脚を止め、振り返る狐顔の慈眼衆。
    「話がしたい」
     煉火の言葉に、腕を組んで正面から向き合う慈眼衆。
    「まず、天海大僧正はあくまでボク達灼滅者に応援を求めていた……それは確かだろう?」
    「然り」
    「なら、無関係な人を巻き込むのは筋が違うのでは無いか!?」
     煉火の言葉に首をかしげる慈眼衆。
    「お前達は大僧正に、自分達が力を貸す代わりに一般人を巻き込むなと、そう条件を出したのか?」
    「天海大僧正ではないさ……でも、ボクが前に会った慈眼衆は、一般人を傷つけたくない事を理解してくれた。それは間違いだったのか?」
     煉火の言葉が尻すぼみになる。信じていた……かった。だが、これでは……。
     だが、狐顔の慈眼衆からの回答は思いも寄らぬものだった。
    「間違いではなかろう」
    「!?」
    「だが、それは天海大僧正の言葉では無い。お前達武蔵坂も相当な人数の組織だと聞く。なれば個々人の考えも一枚岩ではあるまい。それはこちらも同じこと。我は人間など弾避けの肉盾だと思うが……そう思わぬ輩もおろう」
     武蔵坂にだってダークネスとの共存を考える者も居れば、ダークネス根絶を掲げる者もいる。
    「大僧正が決断し、号令をかけたなら……我もその意に従おう。人間どもを巻き込むなと言われれば巻き込まぬ」
    「本当にそれで、良いと思っているでゴザルか」
     口を挟んだのはハリーだ。
    「このまま一般人を害すれば、拙者ら武蔵坂学園との協力関係は決裂するは必死、それは天海僧正の意志に反するでござる」
     ハリーの言葉にピクリと目を細め黙る慈眼衆。
    「人間を駒と言ったでござるが、武蔵坂学園と言う駒をおぬしの行動で失ったとなれば天海僧正はどう思うでござるかな?」
     黙ったままの慈眼衆だが、確実にこちらの話を聞いている雰囲気は解る。
     そこで畳みかけるよう言葉を継いだのは彰二だ。
    「必要なら学園は手を貸す事もできる、今回みたいにな。それに強化一般人よりもちょっと強い駒の方が、これからの戦いにも有利じゃねーかな?」
    「ほぉ、自分達の方が優秀な駒、か」
    「そうデス」
     今度はあきらが話しだす。
    「先ほどあなたが言ったように、こちらも組織デス。ゆえに要請が無ければ全体で動くことは叶わないのデス。戦力が欲しいならお爺さんの代わりにボク達を呼んで下さい」
    「組織故……か、ふふ、まさかそう返されるとは、な」
    「攫うのをやめてくれたら今まで通り友好的でいるよう仲間に伝えマスがどうです? もちろん、ダメだったらわかっていますよネ?」
    「戦いになる、か」
    「いやあ、どうデショウ? でも、戦いってのは楽しそうなのでワクワクしマスネ!」
    「……食えぬ人間だ」
     ここまでで、慈眼衆は思った以上にやる灼滅者達に価値を見出しているようだった。
     人間を駒と考える狐顔の慈眼衆は、とどのつまり現実的で計算高いのだろう。
     だが、そんな交渉をイライラして見守っている者もいる。
     由宇などがその筆頭だ。先ほどの怪人にもイラついたが、人を駒扱いする目の前の慈眼衆にもヘドがでる。もちろん、仲間達の手前ぐっと我慢し冷静を装ってはいるのだが……。
    「とりあえず、この場は収まったのだしその戦力は必須ではないはずだ」
     そう、僧兵を目線だけで指差し告げたのは海月だ。
     しかし、慈眼衆は首を横に振り。
    「この場では無い。この者達が必要なのはこの後の大戦の為だ」
     そう言われては黙るしかない。
     その空気を破って口を開くは静菜だった。
    「それでも、です。私達を使おうと思われているのなら、一般人に危害を加える限り、学園としても今後協力は出来ません」
     毅然として言い放つ静菜。
    「ほう」
    「先達が築いた小さな信頼を無下にしない為にも、おじいさんは元に戻して頂けないでしょうか? 小さな駒一つの為に、武蔵坂学園全ての助力が無くなるのは、天海大僧正とて本意ではないでしょう」
    「………………確かに」
     熟考後、静菜の言葉を肯定した慈眼衆は、僧兵に声をかけ再び去って行こうとする。
    「お、おいっ!?」
     慌てて煉火が呼び止める。
    「主らの意見は最も。故に約束しよう、大僧正が汝らの条件を飲んだ時は……この駒を元の人間に戻す、とな」
     そう言って背を向けて歩いて行く慈眼衆と僧兵、そして……その距離が攻撃の間合いギリギリとなった時。
     決断。
     飛び出したのは空斗だ。
     両刃剣を非実体化させつつ慈眼衆まで一息で跳躍、大上段から一気に一刀両――。

     ドンッ!

     次の瞬間、空斗と数名の前衛達が身体の内部からダメージを受け、慈眼衆も空斗の剣によって袈裟掛けに切り裂かれていた。
     慈眼衆を切りつけようとした瞬間、狐顔の慈眼衆は『空斗と同じ事』をしようとしたのだ。つまり、裏切りの奇襲。
     空斗が胸を押えつつ立ち上がり。
    「悪いが……俺はお前みたいな奴と、まともな交渉ができると思うほど……脳内お花畑じゃないん、でな」
     一方慈眼衆も踏ん張り。
    「黙って去るなら優秀な駒だったと報告したものを……まさか脅迫されるとは思わなんだ」
     前半も後半も、その言葉に嘘は無い。
     慈眼衆は断罪輪を構え直し。
    「だが、ここで主等が全滅すれば、大僧正の思惑に泥を塗ることも無い」
     冷酷に言う慈眼衆だが。
     ゴポリ……影から再びクーが浮き上がり海月が冷たく言葉を返す。
    「それは、こちらの台詞だ」


    「じーさんの奥さんは、きっとこんな事望んでない……自己満足かもしんねーけど、オレはそう思うから……じーさんを、助けさせてもらうぜ」
     彰二が僧兵に向かってチェーンソーで斬りつけようとするも、割って入って来た慈眼衆が断罪輪で受け止め。
    「駒である人間の事情など、この後起こる大事に比べれば瑣末事」
    「それはそっちの事情だろう!」
     彰二がチェーンソー剣を振り切り、押し返された慈眼衆がたたらを踏む。
     僧兵から慈眼衆を離したその隙に、由宇が白い光を纏った剣で僧兵を斬り捨てる。
     怪人戦でぎりぎりまで傷を受けつつ、だがそれ以上ダメージを受けないよう調整して庇っていた事もあり、僧兵はその一撃で大地へ倒れ伏す。
    「結島先輩!」
     空斗が叫ぶ。
    「わかってます!」
     静菜が倒れた僧兵の元へと駆け込み、軽々と担ぐと老人の家へと走って行く。
    「させぬ!」
     慈眼衆が即座に九字を切り九眼天呪法を発動させるも、家へと入る静菜を守るよう今度は煉火が立ちふさがる。
    「させるかよ!」

     慈眼衆との互角の戦いもここまでだった。
     前半、慈眼衆を庇わずダメージを残した事。慈眼衆戦では被ダメージの多い者が別のポジションへ移った事。そして防御優先の慈眼衆に攻撃特化の陣形で挑んだ事。
     慈眼衆が勝てる要素が無かった。
    「いつまで立っていられるか、見せてもらうヨー」
     あきらが流星のごとき飛び蹴りで慈眼衆の脚を止め、ハリーがニンジャケンポー黒死斬でさらに累積、お爺さんを横たえ戻って来た静菜が影縛りで腕を縛る。
     仲間達の傷は海月が慣れない回復に汗をかきながらも戦線を維持。誰も倒れさせないと自分に誓った小さなプライドは、魂の凌駕すら無いギリギリを保つという凄い結果を叩きだしていた。
    「罪のないお爺さんはしっかり返してもらうぞ」
     海月の言葉と共に空斗と由宇が左右から攻め立てる。
     2人の非実体化させた剣を捌き切れない慈眼衆。
    「何故、そこまでその人間に拘った。大戦が始まる事を見据えれば、大事の前の小事」
    「残念だケド、ボクには見捨てるなんて選択はナイんだ……生憎、戦えない人を見捨てられないタチなんでネ!」
     あきらのガトリングガンが火を吹き、一斉掃射が慈眼衆の身体を打ち付ける。
    「あんたの敗因は、人間を駒だと侮っていた事だ」
     掃射が終わると同時、背後から聞こえるは彰二の声。
    「駒や家畜と侮った者達の力、見せてくれるでござる!」
     そして正面からはハリーの声。
     慈眼衆はボロボロになりながらも天を仰ぐ。
     彰二のチェーンソーが慈眼衆を背後からズタズタに切り裂き、前に倒れそうになった所をハリーに掴まれ。
    「ニンジャケンポー、イガ忍者ダイナミック!」
     必殺技で大地に叩きつけられた慈眼衆……彼は天を仰いだまま、黒い塵となって消えたのだった。
     目撃者はいない……この結果は、果たして。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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