臨海学校2014~キャンプ、時々襲撃

     波が打ち寄せられる浜辺へと視線を投げる。
     海そのものに興味があるわけではない。その手前、遊ぶ年若い者たちを見ていた。
     彼らはまだ若い。子供と言っても差し支えないだろう。無邪気にはしゃいでいる様はまったく無防備で――警戒していないのか、それともそれは、余裕なのか。
     なめられたものだ。だが、相手にとって不足はない。
     天覧儀で勝ち抜くことはできなかったが、ここで勝つことができれば、或いは。
     ゆらと燃える闘気をまとい、身の丈よりも長大な無敵斬艦刀を手に、にいと笑みを浮かべた。
     
    「今年も臨海学校の季節だな!」
     つとめて明るく言う衛・日向(探究するエクスブレイン・dn0188)の手には、明らかに臨海学校のものとは違う資料がある。
     それと気付いた灼滅者たちの怪訝な様子に彼もまた気付き、すっと表情を引き締めた。
    「武神大戦天覧儀って知ってるよな。それが次の段階に進もうとしているらしいんだ。で、天覧儀を勝ち抜いた最後の席を賭けたバトルロイヤルが、ここ……北海道の興部町の海岸で行われるようで、日本各地から猛者たちが集まろうとしている」
     広げた資料のひとつ、地図の一点を指して言うエクスブレインに、灼滅者たちの表情も引き締まる。
    「興部町には、オホーツク海に面した長い長い海岸があってさ。それで、みんなにはここ、沙留海水浴場でキャンプして、やってくる敵を迎え撃ってほしい」
    「キャンプ?」
    「臨海学校だからさ!」
     つまり、臨海学校を楽しみつつ、敵を迎撃しつつ、ということだ。
     敵がいつ来るかは分からないが、海岸でキャンプをしていれば向こうから襲撃してくるだろう。楽しむのも結構だが、警戒も怠らないようにしなければ。
     日向はぱらぱらと資料をめくり、いくつかを灼滅者たちへ差し向ける。
    「大人数で迎撃したら、相手が警戒するかもしれない。だから少人数ずつに分かれてキャンプをすることで、警戒させないで戦闘を仕掛けることができるんじゃないかな」
     敵は強敵ではあるが、とどめを刺した灼滅者が闇堕ちすることはない。
     また、臨海学校で敵を待ち受けるのとは別に戦闘を支援するチームも編成されている。戦闘開始後にある程度持ちこたえることができれば支援チームが駆けつけて戦闘に加わるので、ダークネスを圧倒することができるだろう。
    「でも、だからって油断はしないでくれよな。サポートしてくれる人がいるからって、相手が強敵なのはかわりないんだからさ」
     やや小柄なエクスブレインは、少し上目づかいで灼滅者へ釘をさす。
    「集まったダークネスを全部撃破できれば、武蔵坂学園は天覧儀の勝者の権利を手に入れられる。そうなれば、武神大戦の真相を暴くチャンスになるかもしれない。だから、頑張ってみんなで敵を倒して、気持ちよく臨海学校を楽しもうよ」
     にこっと笑い、いってらっしゃい、と手を振って灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)
    キース・アシュクロフト(氷華繚乱・d03557)
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)
    神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    アウグスティア・エレオノーラ(凍れる意志・d22264)
    刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866)
    シェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・d28645)

    ■リプレイ


     オホーツク海に陽が沈み、夏の熱気を含んだ風がキャンプ場に流れてくる。
     風にもてあそばれる長い黒髪を押さえて、神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)はふわと星空を見上げた。黄昏色をまとい姿を見せた満月が、今はゆっくりと天頂へと向かっている。
    「(今年はオホーツク海の見える場所で臨海学校ですか)」
     武蔵坂学園の学生たちは、武神大戦天覧儀の敗退者を撃破するために、ここ沙留海水浴場でキャンプをしている。臨海学校という学校行事なのにダークネス退治と言うのも物騒な話だ。
     ともあれ、食事を済ませて夜半から朝方にかけての襲撃に備えつつ、せっかくなのだから救援要請の合図にと用意した花火のうち打ち上げ花火以外の手持ち花火を楽しんでもいいだろう。
     誰からともなく提案し、消火の用意もしてさあ始めよう、という時のことだった。
    「自分は臨海学校って今回が初めてなんスよね」
     腕に結んだ赤い布をつつきながらゆるく口にする牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)にシェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・d28645)もおっとりと頷く。
    「初めての、臨海学校です、けど……怖い人、いっぱいみたい、ですね」
     みなさんが、怪我、しませんように。
     そう彼女が口にした時。

     づぁんっ!!

     空を斬る音と共に黒刃が奔る。
     あまりにも唐突な一撃。ひと薙ぎに払われた剣閃に灼滅者たちは防ぐこともできなかった。
    「まったくの無警戒だから、余裕があるのかと思ったが……ただの馬鹿か」
     月光にぬらりと輝く無敵斬艦刀を手に、黒衣の男が吐き捨てるように口にする。
     こいつが、エクスブレインの言っていた武神大戦天覧儀の参加者か。
    「早すぎる……!」
     灼滅者たちの予想では夜、それも遅くなってからの襲撃のはずだった。
     だが今はまだ、ようやく夜が始まったばかり。
     直撃を受けて膝を突くシェスティンとアウグスティア・エレオノーラ(凍れる意志・d22264)を癒す桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)と柚羽を護るように、麻耶とキース・アシュクロフト(氷華繚乱・d03557)が立ちふさがる。
     後衛を狙った列攻撃は確実に彼らを狙い打った。アウグスティアは自身を回復するので手いっぱいになり、南守も何とか他者を癒す余裕はあるが、それでも軽微なダメージとは言い難い。
     特にHPの低いシェスティンは、戦闘不能に陥るまではいかずとも大きく体力を削られ、かろうじて体勢を保っていた。
    「早い? 何のことだ」
     長大な刀を無造作な仕草で構え、男は灼滅者たちを油断なく見回す。
     誰が――夜に襲撃すると言った?
     エクスブレインは、『いつ来るか分からない』と言っていた。『襲撃は12日の夕方から13日の朝の間に行われるだろう』とも。
     灼滅者たちの立てた作戦では、22時から翌朝までを警戒する予定だった。今はそれよりも早い、が、エクスブレインの予測を外れたものではない。
    「……くっ!」
     見立ての甘さに歯噛みしながら、リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)が打ち上げ花火に火をつけた。
     ぱつ、と空に散った色は赤。不測の事態を告げる。
     それを何の意味ととったか、男がかすかに目線を動かした。
    「子供が火遊びするもんじゃあないぜ」
     薄く口元に笑みをはいて言い、間合いを詰め死角を狙い得物を振るった麻耶の攻撃をするりとかわす。
    「刀使いですか。多勢に無勢ではありますが……同じ剣の道を行く者として、この戦。糧とさせていただきます」
     双振りの日本刀を手に刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866)はまっすぐに男を見据え、サーヴァントにして姉妹弟子の千鳥と共にアンブレイカブルへと攻撃を放った。
     が、未熟な彼女の腕ではかすめることもかなわず、
    「無勢側が多勢を圧倒すれば、数は問題じゃないな」
    「!」
     が、っ。
     鈍い音と共に強烈な打撃が叩き込まれ、少女の身体がぐらりと揺れる。
    「刃渡!」
     膝を突きかけたところを咄嗟に差し出されたキースの腕に支えられ、展開される霧に癒され礼を言う。
     数を恃むということではないが、確かに灼滅者側が数の上では有利だ。だが、逆を返せばこれだけの数を揃えてひとりのダークネスとようやく対等なのだ。
     現に。ディフェンダーであっても彼女が受けた一撃は酷く重く、後衛が受けた攻撃もまた鋭く激しい。
     まだ、数が圧倒してはいない。
     痛烈なダメージから立ち直った南守は、黒髪の上に乗せたハンチング帽の鍔に一度触れてからその指にある契約の指輪に魔力を込める。
     す、と示すように向けた指先から放たれた弾丸をダークネスは避けようとし、柚羽の手繰る結界糸が自身を取り囲もうとしていることに気付く。
     舌打ちし両方を回避しようとしたが、狙い過たず撃ち込まれた魔法弾に貫かればたばたと血をこぼした。
    「襲ってくるなら、相応のもてなしをしてやるだけッス」
     そう告げ、手を振るって麻耶の作り出した弾丸も男をまっすぐに狙う。
     長大な斬艦刀を軽々と掲げて防いだところを間隙なくアウグスティアが疾らせた影に絡め取られ、鬱陶しげに振り払おうとするアンブレイカブルへと、小柄な体躯を滑らせリュシールの蹴りが奔る。
     初手こそ不意打ちを受けて動揺したものの、いつまでも引きずるほど灼滅者たちは軟弱ではない。
     攻撃は必ずしも命中はしなかったが元より撃破を狙ってはいなかった。支援チームが来るまで持ちこたえることができれば、そして加勢が来て攻勢に転じれば。
     闇の契約で仲間を力付け、ふとシェスティンが視線を巡らせる。重く鈍い音。
     刹那。
    「っ!?」
     予想外の方向から夜闇を裂き、ダークネスを飲み込む勢いでビームが迸った。
     不意の一撃を回避、否防ごうと斬艦刀を構えるが防ぎきれずにたたらを踏む。一瞬を衝き星の少年が流星の如き素早さで男との間合いを詰め、ざんっ! とパイルバンカーを叩き込んだ。
    「お待たせしたっす!」
     わんこ耳とわんこ尻尾をつけた少女が言いながら、畳みかけるように生み出した風の刃で男を斬り裂く。
     現れた一団は、勿論敵ではない。KREMITHS――武神大戦天覧儀最後の席を賭けた戦いを支援するために組まれたチームだ。
    「さ、倒してしまおうかの」
     自身の背丈より大きいバスターライフル、Lanzeを手に和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)が不敵に笑う。
     1対16。加えてサーヴァントがひとりと1匹。これで、真に多勢に無勢となった。
    「待ってました! 俺らも頑張るから、一丁頼むぜ!」
     威勢よく声を上げ、南守が三七式歩兵銃『桜火』のボルトを押し込む。トリガーを引き装填された弾丸の放たれると同時に柚羽が得物を手に駆け死角を襲った。
     ダークネスは灼滅者たちの攻撃をかわそうとするもふらと姿勢が揺れて動きが遅れ、魔弾と強刃の餌食になり鮮血を散らす。
     力任せに斬艦刀を叩き付けるも、増援者の助けを受けた彼らに攻撃は届かない。
     男が次の動作に移るより前に麻耶が一息で薙いだ斬撃に、くぐもった苦鳴がこぼれた。
    「チッ……」
     斬り裂かれ血を流す傷口を押さえ、アンブレイカブルはぎりぎりと灼滅者たちを睨む。
     畳みかけてくる攻撃に隙がない。のみならず、こちらが攻撃を与える隙もない。
     『数は問題ではない』と言ったのは男自身だが、戦う相手が倍にも増えれば余裕に構えていられる状況ではない。
     形勢は、完全に逆転していた。
    「これはさっきのお礼だよ」
     懐に飛び込み、アウグスティアは思いきりマジカルロッドを振り抜く。痛打と共に内側から爆破される衝撃に体を折るダークネスに、リュシールが解体ナイフを手に刃を閃かせた。
    「このチャンス、逃さない……一々友達の心配しなきゃならなくて迷惑なのよ、天覧儀って!」
    「っ知ったことか……!」
     少女の悲痛な叫びに、自身を斬り刻むナイフを刃ごと掴み、男が血と共に吐き捨てる。
     それは、互いに互いの都合だ。だからこそ、不条理な都合には打ち勝たなければ。
    「少々疑問なのですけれど……天覧儀の王者になって、何が欲しいんです?」
     油断なく敵の動きを見ながら柚羽が問う。
     言葉より力で語るだろうと予想し答えを期待しなかった通り、男は応えず満身創痍で戦闘態勢を取り、なお闘志を消さない。
     或いは、勝ち目がないと判じ何も言うことがないのか。
    「貴様もここで倒れて貰う。はた迷惑な儀式も此処で終わりだ」
     影をざわめかせ言うキースに、す、と二刀流の刀を構え、野太刀を模る影を従えて刀が呼気を整える。彼女に合わせ、千鳥も手にする双振りの日本刀を構えた。
    「合わせ五刀、重ね三刀……【いろはうた】」
     ざざざざっ!!
     宣告めいた言葉と共に、幾重にも重なった斬撃がアンブレイカブルへと食らい掛かる。灼滅者とサーヴァントの連携攻撃に、もはや防ぐこともかなわない男は大きく姿勢を崩し、じりっ、と砂に膝を突いた。
     視線を落とさず灼滅者たちを睥睨する様は、まさしく武人。
    「さよなら、です」
     シェスティンが柔らかに告げる。男の瞳から闘志が消え、ぐらりと体を傾け倒れる。手にする長大な斬艦刀が、音もなく砂に埋まり。
     そしてそのまま、動くことはなかった。

    「支援感謝致します」
     礼儀正しく頭を下げる刀に、KREMITHSの皆はそれが役目だと応える。
    「早めに呼んでくれたみたいで、すぐに有利な戦闘に持っていけてよかったよ」
    「すまないな、応援助かった。……無茶はするなよ」
     微笑み言うアストル・シュテラート(星の柩・d08011)にキースが頷いた。
     即座に救援要請をしたことで彼らはすぐに加勢することができ、大きな負傷なく勝利することができた。懸念していた心霊手術の必要もない。
    「お疲れ様、大変だけど頑張って下さいね!」
     リュシールの激励にフランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)が力強く頷き、アプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)も任せるっす、と拳を握る。
     まだすべてが終わったわけではない。彼らを必要とする戦場があるのだ。
     手短に挨拶を済ませ、次の戦場へと向かうKREMITHSを見送る。
     月光が、導くように彼らを照らしていた。


     迎えた翌日は心地よい快晴だった。
     すべての襲撃を退け安寧とした時間が訪れた海水浴場に、学生たちの笑い声がはじける。
    「ひゃー、綺麗だなぁ」
     昨日は落ち着いて見ることができなかった海を改めて眺め、南守が溜息をついた。
     ちらちらと水面に日差しが踊る柔らかな翡翠色。穏やかに寄せて返す波は彼らを誘うように見え、昼食を済ませると誰からともなく海の中へと向かった。
     誰か素潜り対決をしないかと提案するとそれに乗り、南守とリュシール、キースの3人で勝負することに。
    「あら、潜りっこですか? ふふ、いいですよ。私乗ります」
     大きな河沿い生まれのリュシールは、水泳は得意で大好き。
     彼女の水着は去年の水着コンテストに合わせたもので、だって綺麗だし……それに、まだ使えるのに贅沢したくなくて。と思うけれど、可憐な少女によく似合っていた。
     よーい、どん! で息をたっぷり吸い、水中に身を躍らせる。体をくねらせ、力をかけず水の隙間をするり、するりと潜る。水と泡の音楽を快く聴きながら。
     長い銀の髪を流れに揺らすキースの視界に、風そよぐように揺れる海藻やその間を泳ぐ小魚の姿が入る。
     一緒に潜っているふたりにそれを指差し、「下見てみろ、綺麗だぞ」と言うように微笑。
     笑顔に慣れていない彼の表情は本当にかすかな笑みで、それでも彼らには伝わったようだ。ふたりの顔にも笑みが浮かんだ。
    「(競争だって事は忘れそうだな)」
     こうして皆で楽しめただけで、俺には良い思い出だ。かつて人を遠ざけていた彼にとって、小さくも大切なものがひとつ増える。
     けれどその穏やかな水中での時間は長くない。次第に息が続かなくなり、誰が一番先にギブアップするか互いに互いを探り合う。
    「(……負けませんよ?)」
     そう決意するリュシールは。
    「(限界が近くなったら、変顔して一矢報いてやる!)」
     とっておきの行動に出た南守の変顔を直視してしまい、つい笑ってしまった。
     こぷりこぼれる息の泡に慌てて口元を押さえた彼女の様子にガッツポーズをする南守だったが、
    「(……って、やべ、最後の空気が)」
     彼女よりも盛大に息を吐きながら急いで水面へと向かう。

    「この辺りの水は冷たいですね。気持ちいいくらいです」
     ひたすら沖まで泳いでいたアウグスティアの独白に、鍛錬を兼ねて泳ぐ刀が微笑む。
     しなやかな体に感じる冷たさは心地よい。広い北海道の中でもこのあたりは比較的水温が高いのだが、それでも日本海側や日本海側に比べると低いのだ。
     常ならば海水浴客で賑わうこの沙留海水浴場を学園の生徒だけで占領している形になり、混雑を気にせず楽しめる。
     気ままに遊泳しながら柚羽は泳ぐ小魚に手を伸ばし。当然ながらひらりと逃げられてしまう。
    「(逃げられるのは分かってはいるのですけれど、ね)」
     どうしても伸ばしたくなるのは魚への憧れでしょうか。
     そんなことを思いながら、浮き輪をつけて波間をぷかぷか漂う麻耶を見やる。
     泳ぐというより浮き輪と一緒に波に流されるのが好きな彼女は、ともすれば沖合まで流されてしまうのではないかとほんの少しだけ心配になる。
     さすがにそんなことはないだろうけど。
     と。
     ごぼごぼと派手な泡が上がり、何事かと女性陣の視線が集まった。
    「ぷはー!」
     盛大に息を吐いて現れた南守。と、平然とした様子で姿を見せるリュシールとキース。
     どうやら素潜り対決は南守の負けのようだ。
    「絶対負けないつもりだったのに!」
     言いながらも言葉ほど悔しがっておらず大笑いする彼にリュシールも笑い、つられて他のメンバーも笑った。
    「良い勝負だったな」
     キースがもつれる長い髪をかきあげて言う。
     海水浴は1年ぶりだという彼は、日焼けは堪えるが、たまにははしゃぐのも良いかと精悍な長躯を惜しげもなくさらしている。
     体格ではやや劣るが、南守も水面に反射する日差しを細身だが引き締まった体に受けて、彼らの周囲は輝いているようだ。
     そんなふたりを真顔でじっくりと観察し、どこからか取り出した防水カメラで激写しまくる刀。
    「……刀さん?」
     突然の行動に柚羽が訝るのも無理はない。
     今回のメンバーで男は彼らだけであり、衆道を好む彼女にとって格好の観察対象である。
     ニンジャフライデーへ投稿しようと心の中で強く頷く彼女の心中を知ってか知らずか、男子ふたりはなぜか寒いものが背筋を伝った気がした。

     砂浜では、シェスティンが浜風に麦藁帽子を飛ばされないよう押さえながらゆっくりと探す。
     綺麗な貝、拾うです。サンダルの足で貝殻を踏まないように、ちゃんと足元が見えるように白いワンピースの裾を押さえて。
     小さな手がそっと拾い上げたのは、コンキリエに似てくるりと内に巻く貝殻。つやつやとした表を撫でるとまるで宝石のよう。
    「わ、これスゲー綺麗! 良く見つけたなぁ」
     彼女の手の中を覗き込み感心する南守に、シェスティンはふわりと微笑んだ。
    「桜倉お兄さん、こっちにも、綺麗な貝、ありました」
     言って彼女が示した先は、小さな少女には少々難しい場所で。快く南守が採りに行ってやる。
     仲良く貝拾いをするふたりを、遊泳から戻った皆がパラソルの下からそれぞれに見守った。
    「エレオノーラさん、アイスでもどうッスか」
     言いながら麻耶の差し出すアイスを、アウグスティアは礼を言って受け取る。一口食べると、泳ぎ疲れた体に冷たい甘さが染みていく気がした。
     砂浜でこそこそと動く小さなカニを見つけて何気に追いかけていた柚羽が、ふと見つけた桜色の貝をシェスティンに差し出すと、ほわり嬉しそうに笑う。
    「とっても、綺麗……宝物、です」
     一言ずつを大切に、ゆっくりと口にする彼女に、一番の宝は、オーストレームの笑顔だな、と南守は思う。
    「たまにはこういうのもいいかもしれませんね」
     アウグスティアの言葉に、柚羽も微笑んで頷いた。
    「戦い終わって安心して一遊びできる時間があるのは良い事です」
     本当は、戦いなんてないほうが一番いいのだろうけれど。灼滅者にとって、戦いのない日々はない。
     だけど。
     この穏やかな時が、少しでも――続きますように。

    作者:鈴木リョウジ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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