臨海学校2014~ブチネコマスク襲来!

    作者:灰紫黄

     北海道は興部町。武神天覧儀の最後の一席を埋めるべく、この地でバトルロワイヤルが行われようとしていた。その参加者達が続々と『HKT六六六』などと書かれた車で現地入りする中、『彼』は泳いでやってきた。言うまでもなくそんなことをするのはアンブレイカブルくらいである。それも頭よくない方の。
     プロレスラーじみたマントにパンツ、そしてトラ……ではなくブチネコを模したマスク。彼の名を、ブチネコマスクといった。目の前にはキャンプを楽しむ灼滅者達。敵に違いない、と男は不敵に笑んだ。そして吠えた。
    『ふははは! 燃えてきたぞ!』
     拡声器でも喉に入ってるんじゃないかというくらいの大声が、砂浜に轟くのだった。

     今年の臨海学校の行き先は北海道の興部町である。そうエクスブレインから聞かされた灼滅者達はみな同じ感想を抱いた。
    「それって……」
    「ダークネス出るよな?」
    「うん。話が早くて助かるわ」
     今年も物騒な臨海学校らしい。余計な期待を持たせず、口日・目(中学生エクスブレイン・dn0077)は即答した。
    「武神天覧儀が次の段階に進もうとしているようなの」
     簡単に言うと、予選が終わって本戦が始まるようなものだろうか。ただし、その前に最後のひと枠を賭けてバトルロワイヤルが行われる。それが興部町なのだ。そのため、力と戦いに飢えたダークネスがたくさん集まってくる。
    「みんなには興部町の沙留海水浴場周辺でキャンプをしてもらって、やってくるダークネスを迎撃してほしいの」
     ただし、ダークネスがやってくるタイミングは分からないので、それまではキャンプを楽しんでもらってかまわない、とのこと。
    「今回はダークネスを倒しても闇堕ちすることはないわ。だから思う存分戦って」
     相手も天覧儀に参加しようとするだけあって強力なダークネスだ。待ち伏せとは別に戦闘を支援する班も編成されるので、ある程度持ちこたえれば合流してダークネスを圧倒することも可能だろう、と目は付け加えた。
    「臨海学校がダークネスに邪魔されるのは……まぁ、うん、ドンマイ。でも、その代わりに集まったダークネスを全て倒せば天覧儀の次の段階に進めるかもしれないわ」
     となれば、この不毛な争いに終止符を打つ機会も巡ってくるに違いない。キャンプの時間は削れてしまうが、ここは我慢ののしどころだろう。


    参加者
    森野・逢紗(万華鏡・d00135)
    巽・空(白き龍・d00219)
    東当・悟(の身長はプラス十センチ・d00662)
    衣幡・七(カメレオンレディ・d00989)
    陽瀬・すずめ(雀躍・d01665)
    若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792)
    サフィ・パール(ホーリーテラー・d10067)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)

    ■リプレイ

    ●流星とともに
     北海道は興部町。時計の針はすでに境を超え、新たな日付を刻んでいた。
     夜空を流星が駆ければ、海面もまたそれを映す。水平線も分からぬほど、海は星の光に満ちていた。
     来てよかった。そう思わせる壮大な景色。けれど、これから激しい戦いが起ころうとあ、何かじゃぶって出てきた。
    『がははははは!!! ここが天覧儀の戦場だな!!!』
     風情ぶち壊しの大声が轟く。はい、こいつがブチネコマスクです。筋骨隆々の肉体といい、マスクやマントといい、まるでプロレスラーのようだ。しかし、ブチネコのつぶらな瞳はどこまでもキュート。
     交代で見張りを立てていた灼滅者達であったが、その甲斐もなく全員が飛び起きた。だってめちゃくちゃうるさいんだもん。
    「うるさいわ! 近所迷惑やろ!」
     近所も何も付近には灼滅者とダークネスくらいしかいないのだが、東当・悟(の身長はプラス十センチ・d00662)はそう突っ込まずにはいられなかった。大切な人を想って……みたいな間が完全にぶち壊されたからだ。
    「まったく。近くに人がいなくてよかったわ」
     援護班に戦闘開始を報せながら、森野・逢紗(万華鏡・d00135)が呟いた。いつも淡々としている彼女だが、呆れの表情はしっかりと読み取ることができた。強引な行事を組んだ学園に対しての呆れも含んではいるが。
    「臨海学校は……やっぱりこうなっちゃうよねぇ」
     聞こえてますか、先生。巽・空(白き龍・d00219)の言葉には諦めがにじむ。これからの臨海学校もダークネス退治がお決まりになりそうだ。仕方ないと頭では分かってはいるが、やれやれだ。
    「なんつーか、頭悪そ……」
     と陽瀬・すずめ(雀躍・d01665)はそのままの感想を漏らす。ただでさえアンブレイカブルなのに、これとは。疲れそーだなと心の中でため息をついた。
    「ちょっと……眠い、です」
     霊犬のエルに寝巻きの裾を引っ張られているサフィ・パール(ホーリーテラー・d10067)。小学生にはやっぱり厳しい時間帯のようで、眠たそうに目をこすっている。
    「あたしも眠いわぁ。さっさと片付けて二度寝しましょう」
     んー、と衣幡・七(カメレオンレディ・d00989)は軽くのびをひとつ。分かっていたこととはいえ、安眠を邪魔されると腹が立つものだ。日中よく遊んだならなおさら。
    「HKTが関わってんのか? 解せねぇな」
     若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792)は鋭い視線を周囲に走らせる。だが、HKT六六六人衆の気配はない。どうやらブチネコマスクはHKTとは関係はないようだ。いたらよくもこんなヤツ連れてきたなと文句を言うところである。
     一方、ブチネコマスクに好感情を抱く者も少しだけいた。といっても、居木・久良(ロケットハート・d18214)だけだが。
    「へへ、気が合いそうだ」
     夏の暑気のせいではない。体が熱くなるのを確かに感じる。戦闘前の高揚感。
    『だーはっはっは!!! いくぞいくぞいくぞ!!!』
     敵の姿を認め、ブチネコマスクは地を蹴った。高く跳躍し、流星のように灼滅者の頭上から襲いかかる。

    ●襲撃
     ブチネコマスクの拳を光が覆う。流星から流星群に。猛烈な連打が空にふりかかる。だが、命中の寸前にすずめが割って入った。
    「やらせないよっ!」
     脳裏に浮かぶのは未だ帰らぬ兄の背中。必ず誰も欠けずに帰る。その意思がすずめの脚を支えるのだ。けれど、守りに徹していても不壊の拳はなお重い。
     そこにすかさずサフィが光の輪を飛ばす。
    「臨海学校、じゃまはさせないです!」
     せっかくの臨海学校も負傷してしまっては楽しめない。楽しみにしていた分、ダークネスへの怒りも強くなる。主の思いに呼応し、エルもまた聖銭による射撃でブチネコマスクを牽制している。
    『さぁ、来い!!』
     ブチネコマスクは射撃を防ぎもしなければ回避もしない。ただ、堂々とそこに佇むのみ。頭の悪いアンブレイカブルではあるが、その迫力はリングを幻視してしまうほど。
    「ささっと退場してもらおか!」
     悟はスライディングで懐に飛び込む。目潰しを狙っての行動。さらに、サイキックソードの光をしぼってフェイントを試みるが、余計な動きが蛇足になって頭をつかまれた。
    『修行が足りーん!!!』
     そして海に投げ飛ばされ、ぼちゃーんと水しぶき。
    「やるなら思い切り……今だ、行けぇ!」
     朝焼けの名を冠した、久良のハンマーが文字通り海から飛び出した。飲み込んだ海水が内部で沸騰。水が水蒸気に変わるときの体積の差は千倍以上。その爆発の勢いそのまま、サイキックに取り込んでブチネコマスクをぶっ叩く。
    「調子に乗るなよブチネコ!」
     弾のライドキャリバー、デスセンテンスは砂をものともしない。主の弾もそれに応え、突撃と同時に正拳を叩き込んだ。すれ違う刹那、至近距離で両者の視線がぶつかる。いや、向こうはつぶらな瞳だけれども。
    「あたしも忘れないでよね?」
     にやり、と不敵な笑みを浮かべる七。背後に殺気が凝集し、次の瞬間にはブチネコマスクに殺到する。臨海学校を楽しむ気まんまんなので、殺る気もまんまんである。
    「ブチネコちゃん、こっちこっち!」
     俊敏な動きを活かして空が斬り込む。リズミカルなステップで肉薄し、両腕に青いオーラをまとう。繰り出すのはさっき自分が向けられたのと同じ、閃光の連撃。これまたリズミカルに打突を重ねていく。
    『なかなかやるな!!! それでこそだ!!!』
     灼滅者の猛攻を受けながらも、ブチネコマスクに堪えた様子はない。天覧儀に参加するだけあってその実力は本物らしい。苦戦は避けられない、と誰もが直感する。
    「さすがに一筋縄じゃいかないわね。……でも」
     しかし、冷静に戦場を観察する逢紗の目にはあるものが映っていた。思っていたよりも早い、とそばのナノナノくらいにしか分からぬ小さな笑み。
    『いっくぞぉっ!!!』
     再びブチネコマスクが高く跳ぶ。そしてまた流星のように、と思いきや、それよりも速く瞬くものがあった。彼方より来るは氷の楔
    「横槍、馳走する。凍てつき果てよ!」
     浜に響く凛とした声。同時、赤黒い刃から放たれら氷弾がアンブレイカブルの肩に突き刺さり、さらに炎を帯びた蹴りが背を焦がす。
     遊撃救援班『KREMITHS』の八人が到着したのだ。これで戦力は圧倒的優位。灼滅者達の臨海学校はこれからが本番だ。

    ●そして星になる
     援軍が到着し、こちらの戦力は単純に二倍。さすがのアンブレイカブルも怖気づく……わけはない。
    『ほう、なんか知らんが増えたな!!! まとめてかかってこい!!!』
     むしろ敵が増えて喜ぶ始末。これがアンブレイカブルか。
     救援班の援護攻撃がブチネコマスクに殺到する。その隙に悟はアンブレイカブルの懐に潜り込んだ。手には大切な人から預かったガンナイフ。より早く、より鋭く。イメージするのは一振りの刃。
    「今度こそ外さへんで!」
     殺気とともに放たれた斬撃がマントごと背後から敵を切り裂く。
    「形勢逆転かな?」
     さらに頭上から赤い光を帯びたチェーンソーが襲いかかる。すずめだ。殺意と怒りと突っ込みを刃に込め、力任せに振り下ろす。眠い、うるさい、うっとうしいでもう一刻も早く退場してほしい。
    『ぬお!?』
     マスクマンの命、覆面がびりびり破ける。いたずらな潮風が吹き、残った布も吹き飛ばされ、素顔が露わに……なることはなく、新たなネコの覆面が。
    『ふははは、俺の覆面を破るとはな!!! これで今から俺はミケネコ……』
    「さすがにしつこいわよ」
     使い古されたロッドに逢紗の魔力が集中する。戦局が優勢になるのに伴い、ナノナノが泡で援護射撃。波に乗るように、流れるような動作でロッドを放った。研ぎ澄まされた一撃は急所を穿つ。与えられた役割はきっちり演じきるのが彼女の信条だ。
    『やるなぁ!!! 俺は今、モーレツに感動しているぅ!!!』
     アンブレイカブルにとって戦いは手段ではなく、そのものが目的だ。予想以上に強敵に、心踊らぬはずもない。無数の連打が久良を襲う。
    「俺もだぁ!!」
     頭はすでに空っぽ。ほとんど反射的に迎え撃つ。同速のリボルバーの連射で連打を相殺してみせた。同じことをもう一度やれと言われても、できやしない。本能がなさしめた早業だった。
    「いくですよ、エル」
     主の号令にわん、と応えるエル。サフィの指差す先に光の矢が生まれ、夜空に軌跡を描きながらブチネ、もといミケネコマスクに飛来する。同時にエルもくわえた刀で斬りかかった。
     灼滅者16人、そしてサーヴァントの攻撃によってミケネコマスクは次第に追い詰められていく。けれど、そこに苦しみの色はない。
    『もはやこれまでか。だが……ならば、貴様らの全力、この俺に打ち込んでみろ!!!』
     潔く戦い、潔く散る。それこそが彼の生き様であった。逃げも隠れもしない。堂々と死ぬのだ。
    「マスクがネコじゃなきゃカッコよかったかもね」
     アンブレイカブルに応え、殺気の塊を放つ七。だが、あえて正面からは相対しない。つぶらな瞳と目が合うと、何ともいえない気分になるからだ。悲しいような切ないような、そして腹立つような。いや、やっぱ腹立つ。
    「ちぇぇすとぉっ!!」
    『ぬおりゃぁ!!!』
     空の身体が一直線に加速した。全身全霊を超硬度の拳に込め、弾丸のように突撃する。対するミケネコマスクも拳で迎撃。ふたつの力がせめぎ合い、しかしギリギリで空が勝利した。
    「HKTといい、こいつらといい、いつになったら平和な臨海学校ができるんだろうな」
     拳を砕かれ、空高く打ち上げられたミケネコマスクを視界に収めながら、弾が呟いた。それに応える者はいない。正直、来年も何かあるとみんな思っている。
     ちゅどーん。
     ネコ型の花火になって、キュート系マスクマンは夏の夜空に散ったのだった。

    ●夏の一編
     『KREMITHS』の8人は、圧倒的優位の勝利のため、心霊手術を受けることなく戦闘終了と同時に次の戦場へと向かった。残る8人はというと、次の日のレジャーのために二度寝した。
     そして日が昇り、最もたかいところを通る頃。残された8人は海を堪能していた。元はといえば、そもそもこれが本体の目的なのだ。
    「よっしゃ、俺に任せとき!」
     体にロープをくくりつけ、ゴムボートを引っ張るのは悟だ。武道で鍛えた体力を遺憾なく発揮し、ぐんぐん前に進んでいく。……あんまり沖に行きすぎると、危ないよー?
    「ははは、はやいはやーい」
     ボート上の七が喝采を上げる。それを聞いてすずめとサフィもボートに飛びついた。
    「私も!」
    「ですっ」
     さすがに失速し、悟はやがて海中へと沈んでいく。エルがそれを心配層に見つめている……と思ったらサワガニとにらめっこしているだけだった。
    「……みんな元気ね」
     ビーチチェアに横たわりながら、逢紗が呟いた。傍らにはジュースを持ったナノナノが控えている。
    「おーい、肉が焼けたよー!」
     トングを持った久良が浜辺から声を上げた。北海道といえばジンギスカン。今日はラム肉だ。
    「お味噌汁もありますよ」
     空はここで調達した材料で味噌汁を作った。ちなみに材料をハントしてきたのは弾である。キャリバーにまたがりモリを振るう姿はまさしくフィッシャーマン。
    「よぉ、お疲れ」
     と、今は相棒を労っている。
     一時、海遊びを中断し鉄鍋の周りに集まる。肉の焼ける匂いがたまらない。
    「ぷはー、生き返るわ!」
     肉を腹に収め、体力を回復する悟。これでまだまだ動けそうだ。若さっていいよね。
    「あーっ! 野菜も食べないとダメですよ! と言いつつ肉いただきっ♪」
     と空。さすが食べ盛りだけあって肉も野菜もみるみるうちに消えていく。
    「ニホンのご飯、やっぱり美味し美味し、です」
     ごちそうさまでした、とサフィは手を合わせた。となりで満腹のエルがあくびをひとつ。
     食事を終えた灼滅者達は再び遊びに戻る。ビニールボールを弾ませながら、七は不敵な笑みを浮かべた。
    「ふふ、あたしに勝てるかしら?」
    「言ったわね。行きなさい、ナノナノ」
    「なの!?」
     すると逢紗はナノナノを突き出した。アタックを顔面から喰らい、ふよふよと砂浜まで落ちていく。
    「やれやれ。最初はどうなるかと思ったが、無事に臨海学校もできたな」
     デスセンテンスにもたれながら、弾はふぅと息を吐く。無論、アンブレイカブルもHKT六六六人衆もいなければもっといいに違いないが。
    「まあね。でも、みんなも楽しめたなら俺も嬉しいよ」
     人を楽しませることが好きだという久良。戦いの幕間とはいえ、北海道の海を仲間とともに満喫できた喜びは大きい。
    (「……来年はお兄ちゃんも一緒だからね」)
     すずめは青い空と海に、再会を誓う。だって、行方知らずのままじゃ落ち着かない。心配させた仕返しに、戻ってきたら、悔しがるくらい、うんと自慢話をしてやろう。
     やがて日は傾き、すべての戦いが終わる。結果は灼滅者の完全勝利だ。2014年の臨海学校は激しい戦いの余韻と適度な遊び疲れを残して幕を閉じたのだった。

    作者:灰紫黄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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