やぁん☆デレ 俺の嫉妬が世界の救世主

    作者:一縷野望

     俺こと釘千本・供(くぎせんぼん・とも)は、昔から人を妬む事にかけては天下一品だった。
     誇れないだろって?
     バーカ、そんな俺の嫉妬力が世界を救うんだよ。
     永世睥睨友の会の特級天使、矢等背・真実(やらせ・まみ)ちゃんが言うから本当だって。
     真美ちゃんは、すっげぇんだぜ?
     まずぼんっきゅっぼーんのナイスバディ。
     口元のほくろがセークシー。
     でも声はあどけなくて、当然すげーモテモテなんだ。
     いつもいつも――。
    『あのね……クギー、わざとじゃないんだよ?』
     憤怒の表情でわら人形を握りしめる俺を前に、イケメンをぶらさげた真実ちゃんは申し訳なさそうに言うんだ。
    『クギーの嫉妬ゲージを溜めるためなの! そうしないと世界が滅んじゃうから!』
    「わかってるよぉ」
     でも目の前でチューするのやめて。
    「あ、髪の毛ください」
     おもむろにイケメンから毛を抜いて、わら人形にねじ込んで、
    「おおおおおおおお!」
     連打連打連打!
     トンカチで釘を思う様ぶちつけたるわっ!
    『すごいっ、また世界のどこかの不幸が弾けたわっ。クギー、もっと嫉妬して!』
     真実ちゃんは掌の携帯端末を見てしたり顔。なんかあそこに色々出るらしい。
    「あああああ! くっそおお、俺だって、俺だってなあああ! 真実ちゃんとちゅっちゅしてぇよ! 鳥籠に監禁してえー、ご飯ふーふーして食べさせてー……うあああ! イケメンF、滅べええええ!」
     AからEまでは過去1週間、ちゃんと呪いました。
    『クギークギー、愛してるわ♪ あなただけよ、クギー♪』
    「そう言いながらイケメンとチューするなよおおお!」
     でも、
     俺は真実ちゃんが大好きなんだ。
     彼女が背負う『睥睨の業』を解除出来るのは、俺だけだから。
     だから真実ちゃんだって、俺が大好きなんだ。
     …………他の奴とちゅーするけどな。
     

    「ヤンデレ彼氏育成ゲーム」
     小学生が言っていい台詞じゃない。
     だが灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)には妙に似合う、不思議!
    「淫魔がまた妙なラブコメ設定に一般人男子を引きずり込んで、てなづけてるよ。もちろん彼が闇堕ちした後、恋で縛った配下にするのが目的」
     そんなロクでもない作戦がとある中学校を舞台に展開しているのだという。ちなみに少年は闇堕ち寸前、淫魔の計画は着々と進んでしまっている。
    「ま、皆のゴールは淫魔の灼滅。できれば彼、釘千本・供さんは闇堕ちさせないですませて欲しいな」
     心情的にダークネスが増えて欲しくないのもさることながら、淫魔より『クギー』と呼ばれる彼は、闇堕ちするとめっぽう強い。灼滅者8人だと、勝てるかどうか……。
    「ボクから提案できる方法は大きくわけて3つ」
     しかし立った指は『4』
    「あ、みんながもっといい方法思いつくならそれでもってコト」
     4本目の小指をつつきつつ、標は説明を再開する。
    「1、通り魔的に有無を言わせず襲いかかる。まー、まずクギーは闇堕ちしちゃうだろうね」
     淫魔を灼滅してしまえば一応はミッションクリアだが、後味は悪い。
    「2、2人を引き離し、淫魔だけぼこって灼滅」
     これまた口で言う程簡単ではない。
     淫魔はクギーの傍から離れたがらないし、上手く引き離せて灼滅出来たとしても、淫魔が倒された事を知ったクギーが闇堕ちする危険性も高い。
    「クギーをラブコメ的にフォローしとけって話なんだけど……」
     ならばむしろ3をオススメすると標は継いだ。
    「3、皆で設定にのりクギーを説得、納得ずくで淫魔を灼滅。そうするとクギー闇堕ちの回避にもなるよ」
     ただまぁ、生半可な気持ちで挑んでも失敗する公算が高い。
     どこまで躊躇いをお留守にして、クギーが信じ切っている『舞台設定』にのれるかが勝負だ!
    「永世睥睨友の会って言う地球の平和を影から支える特級天使、それが淫魔真実の設定。で、クギーの嫉妬心が世界を救うんだって」
     逆に決まっている設定はそれだけだ。
     つまり――と、標はイイ笑顔で続ける。
    「みんなが好き勝手に別組織だの設定だのエトセトラ、妄言吐いてやらかしてくるといーよ」
     突拍子もない設定だろうが、世界観と違和感がなければクギーは即信じるはずだ。
     嫉妬心煽られメンタルごりごりのクギーをモテモテ状態にするもよし、ますます嫉妬心を煽ってヤンデレ化させるもよし……とにかく淫魔真実から気持ちを引き離し、真実が倒されるのを納得するように持っていくべし。
     
     淫魔はサウンドソルジャーと断罪輪に似たサイキックを使う。
     闇堕ちしたクギーは、殺人鬼とロケットハンマーに類似したサイキックを使う。
    「真実は8人全員で掛かれば苦戦する相手じゃないよ。だからお芝居に力を入れた方がいーと思う」
     2人に会えるのは下校途中、人気もないので人払いの必要はまったくない。
     嫉妬心を煽る小道具イケメンも連れていないので、その点はやりやすいはずだ。
    「クギーが立ち直るか人生踏み外すかは、みんなのやり方に掛かってる。でも、ダークネスになっちゃうとクギーですらなくなる、それが1番哀しいコト」
     ――そして淫魔の真実はそれを狙っている。
     トンチキの皮を被った淫魔の企みを皆できっちり防いで欲しい。


    参加者
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    透純・瀝(エメラルドライド・d02203)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)
    蓬莱・金糸雀(陽だまりマジカル・d17806)
    ケイネス・ウィンチェスター(狂愛のトルッファトーレ・d19154)
    若林・ひなこ(夢見るピンキーヒロイン・d21761)
    鈴木・東雲(へっぽこ忍者・d25287)
    ルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)

    ■リプレイ

    ●あま~い下校タイム☆
    『辛い思いさせてごめん』
     しなだれ掛かるように寄り添い歩く真実とクギー。
     今日は『飴デー』。嫉妬煽る『鞭』ばかりでは籠絡できない、加減が大事。
    『でも本心は違うんだよ?』
    「わかってるぜ、俺の嫉妬力が必要だからイケメンとちゅー」
     ちゅーしそうなイケメンが居る。
    「真実」
     ラピスの瞳を眇め、容姿端麗な青年エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)は、淫魔の名を呼ぶ。
     きゅん☆
     クギー振り払いついついそっちへ。
    「俺の他にも声を掛けるなんて、彼らの言葉は真実だったんだね」
     素気なく払う彼の背後から、神々しい光が炸裂。
    「永世睥睨友の会に迷いし少年よ」
     ばっさあ!
     白マントな透純・瀝(エメラルドライド・d02203)のアルカイックスマイルは、聖域に達するレベルだ。
    「その苦しみから解放される時が来た!」
    「「「わふー、わふわふわーーふー」」」
     BGM:霊犬斉唱部隊(虹、サニー、キリマル)の皆さん。主の命で混ざれないモップしょんぼり。
     2人が度肝を抜かれた所に、眉を顰めたお下げの制服姿の少女が仁王立ち。
    「問題行動が多くて困るんだけど」
    「わっふー」
     蓬莱・金糸雀(陽だまりマジカル・d17806)に合いの手入れたのは背筋伸ばしたサニー。同時に翳したカードから彩が溢れ、地味少女は清廉なる天使へ変ず。
    「お陰で反組織と組むこちらの身にもなってよ。羽2枚の下級天使の分際で」
     そんな金糸雀の背中には羽が6枚ぶわっさーっと。
    「永世睥睨友の会の不正を裏から正すが我等の役目!」
     反組織代表、厳かに胸を張る瀝の背にもバトルオーラの羽がふわり。
    「不正、それには物申したいけれど……今は事象改変の是正の方が急務ね」
     アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)は、清潔な眼差しにラブフェロモンを絡ませてクギーの間近へ双眸を近づけた。
    「事象改変?」
     アリスに入れ込む気配はないものの、台詞には強い興味を示した様子。
    「あなた達、永世睥睨友の会に無断で仕事してるでしょ?」
    『なっ、なに言ってるのよ。そんな事ないわよっ』
     なんで永世睥睨友の会ってしれっと言うのかわからないけど、とにかく反論だ。
    「こっそり見てたけどイケメンとキスしてる時の表情とても嬉しそうだったわ」
     金糸雀、すかさずつっこむ。
    「皆さんもっと言ってやってくださいよ!」
     どどん!
     腰に手を当て偉そうに胸を張るのは、主へ低姿勢に仕えるメイドさん、ルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)だ。
     ……低姿勢、とは。
    「この泥棒猫うちのご主人にまでちょっかい出そうとしたんですよ!」
    『あんたのご主人様なんて知らないわよっ』
    「まあうちのご主人はイケメンだし背高いし地位も……」
     やだ! そんな人なら引っかけた思い当たりある!
     ルーナの指摘に、真実は真顔で過去を辿り出す。
    「まっ真実ちゃん?!」
     クギーの声が裏返った、メンタル弱ッ?!
    『だーかーらっ、それはクギーの嫉妬力を集めるためなんだってばー!』
    「だ、騙されたらダメだ!」
     ずさーっ!
     黒いボサ髪が分厚い眼鏡にかかる冴えない青年が、両手広げ滑り込んできたぞ。
    「嫉妬ゲージとか、そいつは俺にも同じ事を言って誑かしたんだ!」
     あー、誑かされそー。
     そう思わせるダサい見た目のケイネス・ウィンチェスター(狂愛のトルッファトーレ・d19154)の変装はパーフェクト。
    『やだ、信じてよぅ、クギー』
     ぽゆんっ☆
     後ろから抱きしめお胸押し当て懐柔開始。
    「そ、そうだよなっ。俺達は誰よりも恋絆で結ばれてんだからな!」
     恋絆(こいきずな)――こういう設定にありがちな造語です。
    「お兄ちゃんとの恋絆だったら、負けないですっ!」
     ふわりん。
     ベリーピンクの愛らしい縦ロールが鼻先掠め、くるりと裾翻し現れたるは超級美少女
    「私とお兄ちゃんは前世で血の繋がらない兄妹で恋人でした!」
     鉄板設定・前世の恋人きたー!
    「その女はただのイケメン好きです!」
     零れそうな瞳で、若林・ひなこ(夢見るピンキーヒロイン・d21761)は胸で握ったグーにより力を込める。
    『ちょっと、いい加減な設定でクギーを誑かさないでよねっ』
     お前が言うな。
    「ごきげんよう」
     涼やかな声、優雅な所作で頭を垂れる執事はモノクルごしの瞳を眇める。
    「計画は順調に進んでいますか?」
    「け、計画?!」
     鈴木・東雲(へっぽこ忍者・d25287)は、柔和に口元を崩し、爆弾発言をころりん落とす。

    ●実は最強って説得不能だと思うんだ
    『クギー、行こ!』
     内心大慌ての真実は、ひなこを押しのけ(名残惜しいが)エアンも無視して強引に離れようとする。
    『計画とか意味わかんない!』
    「ああ失礼」

     ――そういう『設定』でしたね。

    「設定って何ー?!」
     肩を揺らして悦に入る東雲の横、クギーが地面に踏ん張り叫んだ。
    「その男が次の『贄』ですか」
    「!!!」
     錯乱MAX☆ 声もでないね。
    「成る程、世界を破壊するに相応しい……おっと」
     わざとらしく口を押さえる東雲の脇で、納得がいったように金糸を縦に揺らすアリス。
    「困るのよね。ちゃんと申請してからにしてもらわないと」
    「せっ、世界破壊も……ですか?!」
     何故か丁寧語、クギーはアリスを格上だと認識したっぽい。
     これだから素人は――そんな半目でアリスはゆったりと頷く。
    「幸福と不幸は世界のバランスで、世界演算機関モイライの託宣通りに処理しないといけないの」
    「そのバランスが崩れなければ破滅してもいいって事ですかー?!」
    「モイライはそんな演算結果を出していないけれど」
     答えになってない。
     でもはぐらかすぐらいマジなんだと、クギーは信じて顎落とす。
    『ちょっとおっ!』
    「愚か者!」
    「「「わふーわふふわー」」」
     瀝はぶわさっと翼をはためかせ遮った、真実にはしゃべらせない。
    「わふ?」
     まざる?
     そんな優しき斉唱部隊3匹の眼差しに、モップは感動でぷるぷるだ!
    「わー」
     ぶつん。
     にっこりルーナに抱き上げられて声が止まった。
     ぐったり。
    「さすがに道路掃除にモップはないですよね」
     普段の扱いがうかがい知れる言動である。
    「彼女が本当にお前を愛しているというなら彼女を本当に愛しているお前はどうだ!」
     す。
     示す先には頬を赤らめたひなこがいる。
    「お前は彼女の前でこんなカワイイじょしこーせーとちゅっちゅできるのか!!」
    「ちゅっちゅっちゅっーー! で、でき……うー」
    「お兄ちゃん、ずっと前から好きでした」
     サマードレスの白が眩しい。
    「男に生まれ変わっちゃったけど……」
    「おとこお?!」
    「だから身を引こうって……でも、騙されてるお兄ちゃんを前にもう黙ってられません」
     ぷくっと頬を膨らませて真実を睨むのがマジ可愛い。お兄ちゃん、禁断の道に堕ちそうです。ちなみにひなこはノーサンキュー、あくまで演技と慈愛の心。
     ――えー、現在『真実へのラブゲージ』がごりごりと音立て削れ中です。
    「真実」
     悔しげに歯がみする淫魔へ、エアンが煌めき散らし腕を差し伸べる。
    「おいで?」
    『ああん♪』
    「イケメン漁り癖は相当有名だったけど、本当に汚らわしいわ」
     腰を抱かれ熱っぽい唇を近づける淫魔へ、金糸雀は呆れ果て吐き捨てる。
    「おやおや、演技も過ぎれば毒ですよ?」
     傍観者の立ち位置の東雲が一番美味しいのは間違いない。
    「やっぱり嘘だったんだなっ!」
     逆光眼鏡から滝涙を伝わせて、ケイネスが真実の肩を突き飛ばした。ナイスサポート、これでエアンの唇は護られたぜ。
    「真実は、ただの長身長イケメン好きなだけなんだよ。俺達の純粋な心を弄んでいるだけなんだっ」
    「俺は騙されたのかああ」
     地面に突っ伏し泣き濡れるケイネスに並び、クギーも共鳴するように号泣。
    「ほらね」
     くすくす。
     東雲、とっても愉しそうでなによりです。
    「うわー流石に気の毒過ぎでしょ」

     ――わけわかんない話で一般の方騙して反応を楽しんでるにしてもひどすぎ。

     ルーナ、抉る。
     クギーの突っ伏す地面が土砂降り状態へ移行した。
    「嫉妬ゲージで世界が救われるなんて聞いたこと無いわ」
    「不幸を潰す負の感情は何でもいい。嫉妬を煽って遊んでるのはただの趣味よ」
     織天使様と監査官様が嘘だって言い切っちゃいましたよ?
    「嫉妬力なんて求められなかったよ」
    「お前はイケメンだもんな!」
     クギー、エアンの追い打ちに地面へヘッドバッド。
     ……さて、そろそろ仕上げのお時間です。

    ●説得不能は灼滅者達な?
    「嫉妬ゲージを溜めて心を淀ませた人間がどんな末路を辿るか教わったはずよ」
     あくまでクールに金糸雀は言い切る。
    「――化物になるの」
    「え?」
     素に返ったクギーは、血まみれの額で目を剥いた。
     確かに思い当たる節は、ある。
     ……自分が自分じゃなくなる、ゾッとする感覚。
    「そんな事はさせぬ」
    「「「わーふーわふっ!」」」
     瀝、安心をさせるように翼をばさり。わんこ達も厳かに頑張ります。
    「生まれ変わるのだ、共に……トモトモに」
    「トッ、トモトモ?!」
     こくり。
     ひなこも大きく頷いた。
    「力だけを求める真実さんじゃなくて、本当の貴方を愛してくれる人を一緒に探しましょう!」
    「え、お兄ちゃん、妹ちゃんでもいーなー、なんて」
     もはや恋心が真実から完全に離れたのは明白だ。
     万が一、クギーが闇堕ちした時に備えていたルーナは内心胸を撫で下ろす。
     これで『イケメンとくっついてるだけで強くて忠実な駒が手に入る』なズルい女を気兼ねなくお掃除できる。
    「事象改変、これ、会の規約32条附則3項に違反してるの分かるわよね?」
     その他、夥しい数の身勝手な事象改変がログから確認された――アリスから蕩々と流れる妄言に、真実はぽかーんと口をあけるだけ。
    「……そっかあ、そんなに何度も何度も何度も男引っかけてたんだぁ」
     ぐっ!
     掲げたわら人形の襷に『真実たん』と書き、
    「くっそおお、呪ったルゥゥ!」
     クギーの釘連打音に混じり控えめだがはっきりとした嘲り笑いが響く。
    「無様ですね」
     最初の引き金を引いた後、適度に混ぜっ返しつつ観測していた東雲は、さらに最期の引き金を、
    「正体がばれたスパイは必要ありませんね。ここで死んで頂きましょう」
     引いた。
     祭壇から展開される結界で真実を縛れば、霊犬斉唱隊から前へと躍り出たキリマルが咥えた刃で横に薙ぐ。
     流れを作るように、エアンはバベルブレイカーを真実のみぞおちへ突き刺し、ねじる。
    「やはり、君は騙していたのか」
    『かっ……はっ。あなたの事、憶えてな……』
    「もちろん、初対面だからね」
     ねじりを解けば真実の体は玩具のようにきりきり舞い。
    『かはっ、このっ』
     真実は大きく息を吐き反撃準備を整えようと試みるも、
    「Slayer Card,Awaken!」
     清逸な声音が響きアリスの身を白銀が包んだかと思うと、直後、真実の上半身が目映さと鮮血に染まった。
    「世界の不安定化、是正の後始末が必須」
     ザンッ。
     立て続け、戦闘天使が掲げた異為る手が横切り、淫魔の上半身が消し飛ぶように地面へと押しつけられる。
    「……サニー、びびったら承知しないわよ」
    「きゅーん……」
     でも怖いからお仕事します、サニーさん斬り裂き。
     ぷるぷるぷる。
     着地後震えるわんこの眼差しが交差した先にいるのは、いつも震える、モップ。
    「回復の必要ないっすね。モップ!」
    「ひゃん」
     震える足で踏み切って銭を投げるモップは、背後にゾッとした気配を感じる。
    「ズルい女は消し炭になるといいですよ」
     ゴオッ!
     ルーナがなぞり蹴り上げる地面からの炎に焼かれる淫魔。
    「消し炭になったら、モップで掃除するから綺麗ですよ」
     寒気はそれだー!
    「ああ゛ーっあっちぃ!」
     ケイネスは鬱陶しいい鬘と眼鏡を華麗に外す、それが純白の鞘から艶やかな薔薇を抜き一気に距離をつめる様とシンクロした。
    『え、ダサメンじゃない?』
     この期に及んで舌なめずりする真実を眉下げ嘲笑、叩き折る。金糸雀の霊糸に縛られた身では避ける事叶わず。
    「上手い事、騙されてくれてありがとさん」
     金盞花の美女も同じ口元で霊波を放つ。
    『きゃ?! ク、クギー助け……』
    「死ね! ヤンデレの最上級愛の『殺す』じゃなくて、死ね!」
    「お兄ちゃん……」
     出来ればもっと幸せな道を歩んで欲しいけど、まずは真実の灼滅が先。
    「イケメンちゅっちゅで傷ついたお兄ちゃんの哀しみ」
     純白翼をはためかせ、ひなこは握った拳を真実の顔面へジャストミート!
    「思い知ってください!」
     そこから連打連打連打!
    「ようやく目覚めたか、トモトモよ!」
     きりりっ。
     最後まで背筋伸ばしてお座りな愛犬虹をねぎらい、瀝は神聖さを漂わせた仕草で――殴った。
    『ひゃん!』
     反動で転がる真実を指さし糾弾。
    「特級天使の資格もトモトモへの心もその娘には元より無し!」
    「うおおお!」
     滝涙を血に変えて、クギーはトンカチを鬼の形相で振り下ろす。
     瀝はそっと手を掴み止め、
    「な、今度は本物の素直な子見つけろよな」
     悪夢を醒ますように素で囁いた。
    「え……」
     顔をあげればそこに居るのは仮面が剥がれた醜い女。
     東雲をはじめとした戒めで、満足に攻撃も出来ない――哀れな女。ろくな反撃も出来ず、彼女は命運は尽きる。
    「のぅ、とうとうお前さんの舞台もココまでじゃのようじゃな?」
     ケイネスの手向けが遠い。

     ――こうして、俺こと釘千本・供の激動の数日間は幕を閉じる。
     妹ちゃんにイケメンず、特級天使に神様みたいなのに監査官、メイドに執事……俺には掛け替えのない友達が出来た気がするんだ。
    「あのっ、お友達から……」
     立つ鳥跡を濁さず。
     彼らは去るのも早かった、けど俺は恨まず前向きに生きていこうと、思う。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 12
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