臨海学校2014~天使の苦痛

    作者:日向環


     夜の闇の中にあって、その出で立ちは不気味この上ない。
     血の色をしたフードを頭から被り、目だけが異様に炯々と輝いていた。
    「呑気なものよ……」
     浜辺に設置されたテントから漏れる灯りを目にし、低く呟いた。男とも、女とも付かぬ声音をしている。
     テント内から楽しげな笑い声が聞こえてきた。
    「……出遅れた分、この場で取り返そうぞ」
     クツクツと笑い声を発すると、大きく両手を掲げた。
     不気味な赤色をした水晶の翼が、音もなく広がる。
    「共に痛みを味わおうぞ」


    「毎年恒例の臨海学校が行われるのだ!」
     額に玉のような汗を浮かべながら、木佐貫・みもざ(高校生エクスブレイン・dn0082)がはしゃいだようにそう言った。
     8月12日~13日は、武蔵坂学園恒例の臨海学校が執り行われる。
    「常夏の海、綺麗な珊瑚礁、トロピカルな何か……は、置いといて」
     みもざはちょっと意地悪く笑む。
    「今年は急遽、北海道の興部町で臨海学校を行うことになったのだ!」
     場所は沙留海水浴場。オホーツク海に面した、少しこぢんまりとした海水浴場だ。
    「急に決まった、と言うことで、色々と察して欲しいのだ」
     つまりは、そこで臨海学校を行わなければならない、止ん事無き事情が出来てしまったということらしい。
    「武神大戦天覧儀が、遂に、次の段階に進もうとしているらしいのだ」
     予測していた者も多かったようだが、天覧儀を勝ちぬく為の最後の席を賭けたバトルロイヤルが、業大老が沈むオホーツク海の沿岸の海岸で行われることが判明したという。
    「日本各地から天覧儀を勝ち抜いた猛者が、北海道興部町の海岸に集結するらしいのだ。みんなには、興部町の海水浴場、沙留海水浴場周辺でキャンプを行って、やってくるダークネスを迎え撃って欲しいのだ」
     敵に襲撃される時刻は不明だが、海岸でキャンプをしていれば向こうから問答無用で襲ってくるらしい。
    「臨海学校を楽しみながら、でも、羽目を外しすぎると敵の奇襲にあわあわしてしまうのだ。遊んでいる最中でも、常に警戒を怠ってはいけないのだ」
    「みんなに襲い掛かってくるのは、なんと屍王なのだ」
     アンブレイカブルではなく、ノーライフキングだという。
    「高倉・奏(咎人聖女・d10164)先輩の予想が通りなのだ」
     武神大戦天覧儀に屍王も参加しているのではないか、彼女はそう予想していた。その屍王の一人が、このバトルロイヤルに参加するのだという。
    「エンジェル・ペイン。それがその屍王の名前なのだ」
     ノーライフキングは高い個体戦闘力を誇るダークネスだ。かなり厄介な相手である。
    「だけど、今回はある程度の時間持ち堪えることができれば、支援チームが駆けつけて戦闘に加わってくれるだ。そうなれば、戦力倍増でノーライフキングといえども圧倒することができるはずなのだ!」
     支援チームの詳細は不明だが、学園が自信を持って投入するので、期待して良いという。
    「あと、今回は止めを刺した灼滅者が闇堕ちするという事は無いというのが分かっているのだ」
     武神大戦が次の段階に進んだことに関係しているのだろう。何にせよ、安心して戦えることは間違いない。
    「集まったダークネスを全て撃破することができれば、武蔵坂学園は天覧儀の勝者の権利を得る事ができるはずなのだ。そうなれば、武神大戦の真相を暴くチャンスなのだ」
     楽しい臨海学校が、天覧儀に邪魔されてしまったのは残念だが、僅かな時間でも臨海学校を満喫して欲しい。
    「ダークネスがいっぱい来るから、みもじゃはお留守番だけど、怪我のないように頑張って欲しいのだ。お家に帰るまでが遠足なのだ!」
     みもざはちょっぴり残念そうに言いながらも、笑顔で灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)
    朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410)
    ディーン・ブラフォード(バッドムーン・d03180)
    雨積・熾(烏龍茶・d06187)
    英・蓮次(凡カラー・d06922)
    高倉・奏(二律背反・d10164)
    夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)
    不破・桃花(見習い魔法少女・d17233)

    ■リプレイ


     臨海学校といえば、浜辺できゃっきゃうふふしたり、肝試しで大騒ぎしたりという印象が強いが、れっきとした学校行事でもある。集団生活の経験によって精神面と.肉体面での成果を促し、学生達の人間形成に役割を果たす重要な行事なのだ。
     勘違いされがちだが、臨海学校は遊ぶことが趣旨ではない! ということだ。と、出発式で校長先生が言ったとか言わないとか。
     そもそも、先生が引率していない時点でどうなのよ、とは思う。現場から離れた安全な旅館かホテルで、生徒達の無事を祈ってくれているのかもしれないが。

     いつ敵の襲撃を受けるか分からない状態で、レクリエーションを楽しく行いながら待つというのは、意外としんどいものである。
     とはいうものの、いったん遊び出してしまえば、とことん楽しんでしまうのが、武蔵坂学園生徒の強味でもある。
     うん。精神面は申し分ない。
    「やっぱり夏は花火ですねっ!」
     花火が大好きな不破・桃花(見習い魔法少女・d17233)は、大はしゃぎである。シンプルな手持ち花火で楽しんでいる。大きいのは、お兄さんやお姉さんにお任せだ。
    「同時多発発光! いぇぇい!」
     手持ち花火を片手にそれぞれ3本ずつ持ち、英・蓮次(凡カラー・d06922)に点火してもらうと、朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410)は腕をぐるぐる回してはしゃぎ始める。ファイアブラッドである蓮次にとっては、点火はお手の物である。
    「私アレやってみたいですアレ! ねずみ花火!」
     どなたか持ってきてないですかと、高倉・奏(二律背反・d10164)が尋ねると、その手のものなら抜かりはないと、雨積・熾(烏龍茶・d06187)が、バケツの陰に隠れていた大量のねずみ花火を指差す。
     次々に点火すると、奏は友人達の足元目掛けて嬉々としてねずみ花火をばら撒く。
    「やったな、奏せんぱい!」
     夏蓮は7色変化の花火で応戦だ。あまりのはしゃぎように、ビハインドの神父様が呆れて見ている。
     その横では、吹き出し花火を幾つか並べ、ディーン・ブラフォード(バッドムーン・d03180)が点火する。
     勢いよく吹き出す花火の火の粉から、夏蓮と奏が楽しげな悲鳴をあげながら逃げ回る。
     そんな仲間達の様子を眺めつつ、自身も手持ち花火で楽しみながら、雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)は周囲を警戒していた。いつどのタイミングで敵の襲撃を受けるのか不明な為、彼は警戒を怠らない。
     夕食後、一息吐いてから花火を初めたので、夜もすっかり更けてしまっている。
     空にはぽっかりと月が浮かび、これで何事もなければとてもロマンチックな夜だ。
    「ふぅ、これで次のコンサートもばっちりだな」
     ディーンは、持参したラジカセから声優ソングを流し始めた。手持ち花火を使ったオタ芸も披露。戦闘開始前の軽いウォーミングアップだ。
     夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)はといえば、持ち込んだコタツで寛いでいた。外見からは分からないが、足下の砂を掘って掘りコタツのようになっている。コタツ布団は、夏用に薄手の物を使っていた。夜の涼しげな潮風を受けながらの夏コタツは、なかなか快適だった。
     花火を楽しんでいる仲間達の姿を、写真に収めていく。
    「あれ?」
     ロケット花火に点火している蓮次の左肩の辺りに、そこにあってはならないものを見付けてしまった。
    「ん?」
     ケイが気付いた。
    「れ、れんじせんぱいっ」
    「英さんっ」
     手持ち花火を持ったまま、夏蓮と奏が目を丸くする。
    「え? なに?」
     仲間達の反応に、首を傾げる蓮次。は? 後ろ?
     クルッ。
     サッ。
    「驚かすなよ」
     振り返ってみたが、そこには何もない。
     いや、だから後ろ。
     クルッ。
     サッ。
     何もない。
     クルッ。
     サッ。
     ク…クルッ。(フェイント)
     サッ。
    「げっ!?」
     振り返った蓮次の目の前に、血の色をしたフードを頭から被った目だけが異様に輝いたしゃれこうべ。
    「せっかくだから、線香花火でもやるか?」
     熾が勧めた。
    「夏の風物詩か」
     エンジェル・ペインは、実はノリの良いやつだった。思わず手を伸ばしかけたところで、はたと気付いた。自分の目的を思い出したのだろう。
    「お楽しみはそこま……」
     男とも女とも付かぬ不思議な声音が、フードの中から聞こえたと同時に、ねずみ花火が弾けた。
    「あ……」
     勢い余って、奏が投じたねずみ花火だ。それがタイミング良く、エンジェル・ペインの足下で破裂した。
    「お、おのれ! 玩具で我を愚弄するかっ」
     思わず後方へ飛び退いてしまったエンジェル・ペインが、激しく憤っている。
     お陰で、灼滅者達は陣形を整える時間的余裕ができた。
     熾と奏のお手柄である。
    「吉祥寺駅番白虎隊! 北海道沙留海水浴場に参上! おしにん!」
     キメ台詞も忘れてない。


     エンジェル・ペインが戦闘態勢を取れていないと見るや、蓮次は素早く炎の翼を広げる。
    「魔力の霧よ!」
     僅かに遅れて、ディーンもヴァンパイアミストを展開した。夏蓮が戦闘開始の一報を、メーリングリストに登録した仲間達に向けて一斉送信する。
    「許しません! 私の遊びの邪魔をして!」
     破魔の力を得たケイが、大きく踏み込む。エンジェル・ペインの眼前で腰を沈めると、伸び上がるようにアッパーを繰り出した。
    「くっ」
     直撃を免れたエンジェル・ペインに、夏蓮が放った妖冷弾が襲い掛かる。再び回避行動に入ったが、完全に避けることはできなかった。
    「面白い。どうやら楽しめそうだ」
     不気味な赤色をした水晶の翼が大きく広がると、フードの中の目がギラリと光る。
     血の色をした十字架が出現し、漆黒の無数の光線が前衛陣に対して猛威を振るう。
    「くっ」
     激痛が体を襲い、武器の輝きに曇りが生じる。直ぐさま炬燵が清めの風を吹かせた。だが、傷を癒やしきれない。
     ワイドガードを展開し、熾は仲間達を守る為に更に前に出た。相手はノーライフキングだ。8人だけで楽に勝てる相手ではない。
    「神父様、前に!」
     それは奏も分かっている。神父様に最前線へ出るように指示を出す。堪え忍べば、味方の加勢があると聞いている。まずは時間を稼ぐ。
    「支援チームが来る前に倒しちまおうぜ!」
     ディーンの鼻息は荒い。そのくらいの気概で望まねば、相手に付け入る隙を与えてしまうかもしれないと感じたからだ。
    「ところで人に花火を向けるのはダメでもダークネスに花火を向けるのは禁止されてないんですよね……ふふっ」
     奏は茶目っ気たっぷりに微笑むと、
    「さあお覚悟なさいエセ天使。神に仕えるシスターが今、正義の鉄拳喰らわせて差し上げますよ」
     前線に上がった神父様の陰から飛び出してきた奏が、縛霊撃を叩き込んだ。霊力が、さながら簾花火のように放射され、エンジェル・ペインの体に巻き付いた。
    「この程度!」
     赤き水晶の翼が、まるで大鎌のように振り下ろされた。
    「あうっ」
     シールドを展開していたのにも関わらず、直撃を受けた桃花は、苦痛に表情を歪ませた。炬燵の闇の契約が完全に成立しない。アンチヒールも受けたようだ。
     エンジェル・ペインが、愉快そうにクツクツと喉を鳴らした。
    「何が目的で天覧儀に屍王が参加しているのかは知らんが……どうせ結果的に碌な事にはならないだろうからな」
     桃花の治療の為の時間を稼ぐ為、ディーンはエンジェル・ペインに問い掛けた。
    「貴方はどうして武神大戦に参加されたのですか?」
     このくらいで怯むわけにはいかないと、桃花が重ねて問うた。
     エンジェル・ペインは不愉快そうに鼻を鳴らす。
    「ロードローラーとかいうふざけた輩が、我が迷宮を破壊した」
    「ロード……ローラー!?」
     聞き覚えのある名前に、桃花のみならず全員が驚きを示した。
    「……きゃつめ、我が迷宮で好き放題暴れおって。このままでは腹の虫が治まらぬ」
     どうやら、迷宮を破壊された腹癒せに武神大戦天覧儀に参加したらしい。
    (「とことん迷惑なやつだな……」)
     灼滅者達は心の中で苦笑いする。分身の一人が好き勝手に行った行為など、元に戻った本人の責任ではないが、甚だ迷惑な話でもある。ノーライフキングに同情する気など毛頭ないが、気の毒なのは確かだ。
     小休止も束の間、先にエンジェル・ペインが仕掛けてきた。無数の血塗れの刃を召喚し、前衛陣に向かって撃ち出す。前衛陣に対する執拗なまでの攻撃だ。
    「まず一人」
     膝を折った桃花に向かって、エンジェル・ペインはすぐさま赤き水晶の翼を振り下ろした。
    「直撃コース!?」
     ケイが息を飲んだ。桃花の今の体力では、直撃には耐えられないと思えた。
    「間に合いません!!」
     契約の指輪に念を込めながら、悲鳴のような声で炬燵が叫んだ。
    「させない!!」
     バトルオーラを全開にし、WOKシールドを構えながら熾がカバーに入った。ガードの体勢を無視して突っ込んできた為、熾はまともに翼の一撃を食らってしまった。しかし、倒れずにその場に踏み止まる。
    「王子!」
    「心配ない」
     身を案じて声を掛けてきた夏蓮に、熾は振り向かずに答えた。
    「……あっちも始まったようだね」
     近くで響いた戦闘音に、蓮次が気付いた。チラリと視線を向けると、多数の灼滅者がアンブレイカブルらしき敵を追い詰めている様子が視界に飛び込んできた。1チーム以上の人数がいる。どうやら、支援チームが加勢しているらしい。ならばあと少し耐えれば、支援チームの増援が臨めると言うことだ。
     エンジェル・ペインは気付いていない。他の戦場には興味がないのかもしれない。連絡専用の打ち上げ花火の出番はなさそうだ。
    「なら、少しの間頑張らないとね」
     度重なる猛攻に、前衛陣の消耗が激しい。意を決し、蓮次は前に出た。
     蓮次の抜けた空間からのエンジェル・ペインの突破を防ぐ為、ケイと夏蓮はお互いの距離を詰めた。
    「壁を厚くしたか。だが、その程度で我が痛みは凌ぎきれぬ!」
     エンジェル・ペインは水晶の翼を広げた。再び血の十字架が現れ、漆黒の光線が次々に撃ち出された。
     必死にガードするが、その全てを防ぐことができない。
    「絶対に……負けませんっ!」
     気力を振り絞って、桃花はマテリアルロッドを構えた。
    「ククク。可愛いものよ」
     屍王は楽しそうには笑った。
    「その余裕、いつまで持ちますかしらね」
     泰が放ったスターゲイザーがエンジェル・ペインに直撃した。神父様がブラインドになり、屍王から奏の動きが見えなかったのだ。
    「ククク……。足掻いてもらわねば、楽しくない」
     しかし、エンジェル・ペインの余裕もここまでだった。
    「加勢するっすよー!」
     アンブレイカブルの撃破に成功した直後、こちらの戦闘に気付き、支援チームが駆け付けてくれたのだ。
     空飛ぶ箒で飛来したアプリコーゼが、ぴょんと砂浜に飛び降りた。


    「背中がガラ空きだよ!」
     クルセイドソードをぶん回しながら突っ込んできたセトラスフィーノが、短い気合いと共にクルセイドスラッシュを炸裂させた。
    「増援だと!?」
     無警戒だったエンジェル・ペインは、背中にその直撃を食らう。
    「……ぬかったわ」
     突如として背後に出現した増援に顔を向けるや、口惜しそうに屍王は呻いた。
    「どこを見ている!」
     後方に気を取られたエンジェル・ペイン目掛けて、ディーンが紅蓮斬を放つ。咄嗟に体を捻り、回避しようとした屍王だったが、泰から受けた縛霊撃の影響が残っていたため、思うように動けなかった。
    「がっ」
     まともに食らって、蹈鞴を踏む。
     次々と攻撃を仕掛けられ、エンジェル・ペインは防戦一方となる。
     その間、支援チームの白や炬燵、蓮次、奏達が、手早く負傷者の治療を行う。
    「よし! 今度はこっちの番だ!」
     防御に徹していた熾が、攻撃に転じた。
    「おのれ……。この状況は我が不利か」
     16名の灼滅者に加え、ビハインドと霊犬。さしもの屍王も、これだけの数を相手に戦いを有利に展開することは叶わないようだ。
     完全に灼滅者側のペースになった。
     支援チームの到来によって自分達のペースを取り戻し、一気に逆襲を開始する。
     ここに来て、泰や夏蓮によって与えられたバッドステータスが利いてきた。エンジェル・ペインは攻撃や回避を度々しくじるようになり、為す術がない状態になっていた。
    「ぬぅ!!」
     エンジェル・ペインも反撃してきたが、広く展開した前衛陣に手傷を負わせるには、血塗れの刃の数が足りない。
     支援チームからの援護攻撃の中、ディーンが屍王に肉薄する。
    「きっちり灼滅させてもらうぞ死神コスプレ野郎!!」
     ディーンは愛用の妖の槍「イヴィルブラッド」を突き立てた。螺旋の如き捻りが加えられたその一撃は、螺穿槍。
    「ぐわっ」
     腹を抉られ、エンジェル・ペインが苦しげな悲鳴を上げた。
     ここだとばかりに、これまで回復支援を主任務にとしていた炬燵が、攻撃態勢を取る。影によって形成された触手が、屍王の右足に絡み付く。
    「いきます!」
     炬燵と呼吸を合わせて踏み込んでいた桃花が、屈み込んだエンジェル・ペインの頭に向かって、さながらスイカ割りの如く、マテリアルロッドを思いっきり叩き付けた。続けざまに、ケイが鋼鉄拳をぶち込む。
    「止め!!」
     蓮次の動きに友人達が合わせる。勝手知ったるクラブの仲間達。夏蓮、熾、そして奏と神父様。親しい友人同士での綺麗なコンビネーション攻撃だった。
    「不甲斐ない……。主らの策、読み切れぬとは……」
     呪いの言葉を遺し、エンジェル・ペインは粉々に砕け散る。月の光をキラキラと反射しながら、水晶の欠片は沙留海水浴場の砂の上に降り注ぐ。
    「……終わったようですね。助かりました『KREMITHS』の皆さん」
     代表して、奏が支援チームに感謝の言葉を贈った。彼らの支援がなければ、逆転は難しかっただろう。
    「なんか冷たい物でも飲んで一息つきましょう」
     ケイがクーラーボックスから冷たい飲み物を取り出した。
     しばし寛いだ後、「KREMITHS」の面々は次の支援場所に向かって移動していった。
    「忙しいやつらだね」
    「ほんとうですね」
     呟く蓮次の横で、夏蓮が微笑んだ。


    「ちょっと遊び足りないし、帰りにラーメンでも食べてかない?」
     熾はそう言ったものの、さすがにこの時間に店は開いてないかと苦笑した。
    「それじゃ、まだ元気が残ってるなら花火の続きってのも悪くないかな?」
     ディーンはまだ大量に残っている花火を示した。確かに、一番楽しんでいたタイミングで襲撃されたので、消化不良気味だ。
    「わーい♪ 続きをやりましょう」
     飛び上がって喜ぶ桃花。
     かくして、花火レクリエーション再開である。
     炬燵は、いそいそとコタツに潜り込む。やっぱりここが一番落ち着く。
     仲間達が楽しんでいる様子を、ケイが写真に収めていく。みもざへのお土産にする予定だ。
    「そうか、お土産か」
     ディーンも思案する。今が旬のとうもろこしにするかと、ネットで近くに販売所を検索し始めた。
    「彼氏へのおみやげ何にしよう……」
     クラブのメンバーへのお土産も買わなければならないなと、奏は悩む。こればかりは相談されても困ると、神父様は知らん顔で線香花火を楽しんでいる。
    「北海道ならやっぱ塩ラーメンだな」
     さすがにラーメンのお持ち帰りは無理があるので、熾は塩ラーメンキャラメルをお土産にすることにした。
     打ち上げたパラシュートが風に流される。
     みもざや師匠へのお土産用に貝殻を集めていた桃花が、流されていくパラシュートを目で追う。
    「いけねっ」
     ゴミは持ち帰るのがマナーだ。熾は風に流されたパラシュートを追いかけていく。
    「こんなに綺麗な海せっかくなら入りたかったなー」
     花火も一段落したので、波打ち際に遊びに来ていた夏蓮が残念そうにそう言った。せっかくだからと、靴を脱ぎ、夜の海に脚を浸す。
    「そうだね、今年まだ泳ぎに行けてないし。襲撃さえなけりゃなー」
     のんびりと1日を過ごすことができたのにと、蓮次は応じた。
    「あっねえねえ今の見れた? 流れ星!」
    「マジで? どこ? って、東京と違って星の見える量スゲーな」
    「お願いしたかったなー……。ずっと一緒に入れますように、って!」
    「えッ……じゃあ次に見れたら俺がお願いしとく」
     言いながら、蓮次は少し照れる。
     優しげな細波の音が、耳に心地よい。ずっとこんな時間が続けばいいのに……。
     パラシュートを探す旅から戻ってきた熾が、そんな2人の姿を生暖かい目で見つめる。
     手持ちのねずみ花火を投下するか、大いに迷っている様子だ。ロケット花火を打ち込むのも面白いが、さすがにそれは自重した。
     そっとしておこうと、その場から立ち去ろうと振り返った瞬間――。
     ロケット花火が顔の横を通過。
     打ち込んだ奏が神父様にどつかれている。
    「迸る火花。燃え盛る炎。あぁ……、この炎こそ青春の輝きなのですね……。……よい子のみんなは、危ない事をマネしちゃダメですよ」
     ケイがこの場を綺麗に纏めてくれた。

    作者:日向環 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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