臨海学校2014~手段と目的、悪魔は戦を求めた

    作者:飛翔優

    ●ハルファス軍の末端・カーネイジ
     力が集う。
     武神大戦天覧儀に誘われ。
     北海道興部町、オホーツク海に面する沙留海水浴場に。
     水平線が茜色に染まりし時、杖を握りしめ護符のケースを携えたソロモンの悪魔が1体、落ち着いた調子で砂浜に足を踏み入れた。
     名を、カーネイジ。ハルファス軍の末端。
    「……本来なら報告に戻るべきなのだろう。だが、力を得ることができるこの機会、逃したのならば二度とハルファスを超えるどころか成り上がることすらもできぬ」
     力を得られると聞き、カーネイジは進言した。何やら怪しげな儀式を行っているダークネスがいる。調査に赴きたい。何、本筋には関係しない枝葉の作戦。失敗したら切り捨てれば良い……と。
    「あるいは、ハルファスの奴もこの儀式のことは元々知っていたのかもしれぬ。他のも立場を同じくする者がいるやもしれぬが……まあ、末端たる儂には伺いのしれぬことじゃ」
     恐らく、この作戦が成功しようがしまいがハルファス軍の動向に大きな影響は与えない。そう、カーネイジは考えている。
     ならば、己の力を蓄えるために利用することに何の躊躇いがあろうか。
    「さて、本日の相手は……」
     静かに瞳を細めた後、砂浜を観察。水が入り込まぬ高台でキャンプを張り、夕食を摂っている集団を発見した。
    「この匂いはカレーか……ふっ、のんきなものよ」
     小さく方をすくめた後、ゆっくりとした足取りで集団へと近づいていく。瞳に、強い光を宿していく。
    「……楽しませてくれよ、今宵の相手よ。儂は力と心躍る戦をこそ所望する!」

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、小さな微笑みを浮かべたまま説明を開始した。
    「急遽、北海道の興部町で臨海学校を行う事になりました」
     理由は、武神大戦天覧儀。
    「というのも、武神大戦天覧儀が、遂に次の段階へと進もうとしているらしいんです。そのため、天覧儀を勝ち抜く最後の席をかけたバトルロイヤルが、業大老が沈むオホーツク海の沿岸の海岸で行われる……みたいです」
     日本各地から、天覧儀を勝ち抜いた猛者が、北海道興部町の海岸に集まろうとしている、というわけだ。
    「皆さんには、興部町の沙留海水浴場周辺でキャンプを行い、やって来るダークネスを迎え撃って欲しいんです」
     相手となるダークネスは、ソロモンの悪魔。ハルファス軍の末端・カーネイジ。自身の力の他、マテリアルロッドと護符揃えを操る、野心家の男。
     そう、綾河・唯水流(雹嵐の檻・d17780)が推理した通り、ハルファス軍も動いたらしい。もっとも、どうも組織だったものではなく、カーネイジの単独行動であるきらいが散見されるが。
    「ともあれ、カーネイジがいつやって来るのかは分かりません……が、海岸でキャンプをしていれば向こうからやって来るとは思います」
     つまり、臨海学校を楽しみつつ警戒する……そして迎え討つ、と言った流れとなるだろう。
    「そのためにも、皆さんには少人数に分かれてキャンプを行ってもらうことになります。そうすることで、ダークネスを警戒させず、戦闘を仕掛けさせることができる……といったわけですね」
     敵は強敵。しかし、止めを刺した灼滅者が闇堕ちすると言った事はない。
     また、臨海学校で敵を待ち受けるのとは別に、戦闘を支援するチームも編成されている。戦闘開始後、ある程度持ちこたえれば支援チームが駆けつけて戦闘に加わってくれるので、ダークネスを圧倒する事ができるだろう。
    「以上で作戦に関する説明を終了します」
     小さく頭を下げ、葉月は続けていく。
    「臨海学校、天覧儀……楽しむこともダークネスを倒すこともやらなければいけないのが、灼滅家業の辛い所……」
     いたずらっぽく微笑んだ後、締めくくりへと移行した。
    「ですが、集まったダークネスを全て撃破する事ができれば、武蔵坂学園は天覧儀の勝者の権利を得ることができます。そうすれば、武神大戦の真相を暴くチャンスになるかもしれません。ですからどうか、全力での行楽と戦いをお願いします。何よりも無事に楽しい思い出を持ち帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    阿剛・桜花(背筋に鬼が宿ってる系お嬢様・d07132)
    高倉・光(鬼紛い・d11205)
    極楽鳥・舞(艶灼姫・d11898)
    綾河・唯水流(雹嵐の檻・d17780)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)
    御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)
    イサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082)

    ■リプレイ

    ●カレーの香り、活力に
     煌めく水面、白い波。燦々と輝く太陽、青い空!
     北海道興部町、オホーツク海に面する沙留海水浴場に集いしは、武蔵坂学園の生徒たち。臨海学校を楽しむため、武神大戦天覧儀を勝ち抜くため、彼らは幾つものグループに別れてやってきた! 内、阿剛・桜花(背筋に鬼が宿ってる系お嬢様・d07132)が所属するグループは、夕食に備えカレーライス作りに勤しんでいる。
     桜花の役目は火起こし役。石を積み上げ作ったかまどの中、気合で内輪を仰いでいた。
    「火起こしなら任せて下さいまし! うぉぉーっ!」
     空気を食い、より高く、より激しく炎は燃え盛る。薪を途切れさせなければ早々消えることがないだろう勢いを獲得する。
     料理は仲間に任せると、桜花はテント設営へと移行した。
     弾んだ調子で向かっていく彼女を見送った後、志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)と葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)が中心となってカレー作りが開幕する。
     藍の主な役目は火の管理。及び、ご飯炊き。
    「皆さんが沢山食べても良いように沢山炊きますよ」
     逐一日の状態を確かめながら飯盒に研いだ米と水を詰め、着々と準備を整えた。三個ほど容易ができたなら、各々の手持ちの部分に二本の鉄棒を通していく。かまどの縁が支えになるよう鉄棒を乗せ、飯盒を炙り始めていく。
    「時間との勝負ですね……あ、統弥さん。カレーは、具を煮立てる時は強火にしてください」
    「ん……分かりました。さすが、頼りになります」
     にっこり笑顔で返した後、統弥は薪をくべ風を送った。炎を激しく燃え盛らせた後、シーフードカレーの鍋をかまどに設置した網の上に乗せていく。
     木べらでしっかりをかき混ぜて、全体的に日が通るよう勤めていく。芳しい香りが立ち上ってきたら水を入れ、煮立つまで再び混ぜていく。ぶくぶくと泡立ち始めたタイミングで薪を調節、火を弱め、カレー粉やルゥを投入した。
     その他、詳細な味付けは高倉・光(鬼紛い・d11205)に任せると場所を開け、続いてチキンカレーの基礎づくりに勤しんでいく。
     程なくしてそれも終わり、極楽鳥・舞(艶灼姫・d11898)に場所を明け渡した。
    「さて……」
     統弥は軽く首を回したあと、二組目の飯盒を炊いている藍の元へと向かっていく。隣り合う形でしゃがみ込み、静かな声音を響かせる。
    「やはり、手際がいいですね。美味しそうな匂いがします」
    「統弥さんもよいお手前でしたよ。……あ、これもそろそろできあがるので、手伝って頂けますか?」
    「もちろん」
     二人は協力して、飯盒の……ご飯炊きを進めていった。
     特に大きな危険もなく十分な量が炊きあがった頃、チキンカレーの味を調節していた舞。スプーンでカレーをすくいあげ、ペロリと軽く味見した。
     口の端を持ち上げて、得意気に豊かな胸を張っていく。
    「よしできた♪」
    「どれどれ……」
     機会を伺っていたのか、はたまた完成を聞きすっ飛んできたのか。御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)がチキンカレーの元へと歩み寄り、スプーンで素早くつまみ食い。
     辛味と旨味の中に隠れる、ココナッツミルクの仄かな甘さ。香りと共に広がって、舌を優しく満たしてくれる。
    「うん、んまぁーーーい!」
     叫ぶほどのお墨付き、自然とお腹も鳴っていく。
     気づけば、海も茜色に染まり始めていた。食事場所を整え、食器を出し、ご飯をカレーをよそっていく頃には夕食に調度良い時間が訪れている事だろう。

    ●食事前のカーネイジ
     頂きます! の言葉と共に、食べ始めようとした綾河・唯水流(雹嵐の檻・d17780)。まずはひとさじ……とスプーンを差し込んだ時、殺気を感じて手を止めた。
     砂の上を歩く小さな音色を聴きながら、前を向いたまま問いかけていく。
    「ハルファスが何を企んでるのか……メイドの土産に置いていく気はない?」
     足音が止まった。
     静かなため息も聞こえてきた。
    「知らん。あるいは何やら企んでいるやもしれんが、いずれにせよ儂のような末端に降りてくる情報ではないが故」
    「……」
     聴きながら、カレーを奥の方へと押していく。静かなため息を吐いた後、肩越しに振り向き語りかけた。
    「それとも食べてく?」
     杖と護符を携えしソロモンの悪魔、カーネイジへと……。
    「……ふっ!」
     一呼吸分の間を置いて、カーネイジは破顔した。
    「ふふふ……ははは……あーっはっは! 確かに、ご相伴に与りたいと想いし程には美味そうなカレーの匂いじゃ。じゃが、儂の心はそんなものでは満たされん。儂はただ、力と心躍る戦をこそ所望する!」
     言葉の終わりに、カーネイジは灼滅者たちから距離を取っていく。
     唯水流は後を追うように立ち上がり、スレイヤーカードを引きぬいた。
    「龍撃振破、来いっ! タロウマル! ジロウマル!!」
     斧を右手に、杖を左手に握りしめ、仕掛ける機会を伺い始めていく。
     光もまた横に並び、腕を肥大化させた。
    「しかし、真正面からなんて策謀好きの悪魔らしくないな」
    「ふっ、確かにその通りじゃ。じゃが、こうでもしなければ力を得ることなど敵わぬのでな。それに何より、このような戦も中々に楽しい」
    「そう。ま、大口叩いたからにはそっちこそ俺らを楽しませてくれるんだろ?」
    「無論!」
     力強き言葉が響いた時、光とカーネイジは跳躍。戦場の中心にて、肥大化した拳と杖を打合せた。
     爆裂する魔力が砂煙を上げた時、イサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082)が二つの影の内いびつな方めがけて氷の塊を撃ちこんでいく。
    「すまないが、悪魔を楽しませるような戦いは趣味ではない。全力を尽くさせてもらう」
    「……ふっ」
     氷の塊を浴びしいびつな影は、軽い調子で飛び退き砂煙の中から脱出。口の端を持ち上げた。
    「無論じゃ、それでなければ面白くはない。どんな手段でもよい、全力を尽くせ。それこそが戦いに対する礼儀と知れ!」

     カーネイジが司りしは凍てつく魔法、戒めの結界。惑わせし符、爆発せし杖殴打。
     舞はギターのストラップを谷間に食い込ませる形でかき鳴らし、攻撃に合わせて歌声の調子を曲のリズムを変えていく。概ね安全域まで引き上げる事はできているけれど、足りていない。治療専任者が一人では、万全状態へと戻すには至らない。
    「みんな、全力で頑張って! カーネイジを倒すんだよ♪」
     それでも支えることを第一に、舞は明るいメロディで星満ちる砂浜の戦場を満たしていく。
     痛みが和らいでいくのを感じながら、桜花は拳を固めて踏み込んだ。
    「三下のソロモンの悪魔さん? 食前運動替わりになるよう、頑張って下さいまし」
     下からえぐり込むような拳を放ち、みぞおちへと突き刺した。
     体をくの字に折るも、表情に変化はない。
    「ふっ……その心意気や良し! ならば、全力を尽くせ!」
    「心だけなんて遠慮すんな。文字通り、血沸き肉踊る一戦をくれてやっからよ」
     一歩下がった隙を見逃さず、光が高く、高く跳躍。
     四十五度の角度から、彗星の如きキックを放った。
     杖に阻まれるも、カーネイジの脚を砂に沈め膝をつかせることに成功。されど押し返されたから、バック転を披露しながら灼滅者陣営半ばに着地する。
     一方のカーネイジは五枚の符を取り出していた。
    「ふっ、ならば力にてそれを示してみよ。この結界から抜けだしてみせよ!」
     符は風に乗り、前衛陣を囲む形で五芒星を浮かべていく。
     僅かに動きを鈍らせていく仲間を横目に、イサは幾つもの手裏剣を投射した。
     一枚、二枚と腕を切り裂いていく様を眺め、静かな言葉を告げていく。
    「所詮は末端か……そのまま動きを鈍らせ、永遠に凍止していろ」
    「……はっ」
     イサに視線を向けながら、カーネイジは杖を掲げていく。
    「それは貴様らも同様じゃろう。まだまだ、雌雄を決するには早すぎるわい」

     時が経つに連れ、カーネイジの動きは鈍っていく。灼滅者たちもまた、前衛陣を中心に動きの精彩を欠いていく……一進一退の攻防。
     肩で息をしながらも、体に張り付いていた符を振り払い杖……タロウマルを握りしめていく唯水流。魔力を込めながら駆け出して、カーネイジの懐に入り込むと共に跳躍。
    「強さを求める者として…私も引けない!」
    「はっ!」
     大上段から振り下ろせば、カーネイジもまた杖を振り上げてきた。
     半ばにて打ち合った刹那、両者の魔力が爆発。
     唯水流が波打ち際までふっとばされた。
    「く……」
     ダメージが閾値を超えたのだろう。姿勢を仰向けに変えた時、瞳をつむり昏倒した。
     救援に頼らず戦うと決めた者も多い、この戦い。知らせる役を担う靱は冷静に唯水流のいなくなった戦場を観察した。
     前衛陣を中心に、傷を負っている者は多い。カーネイジも同様ではあるはずなのだが、地力が違う。それなりの時間を戦った今もなお、余裕を保っているように思われた。
     それでもまだ、呼ぶには早い。
     静かな息を吐いた後、砲塔化した腕から弾を発射。誤ることなく腹部を捉え、一歩、二歩と退かせた。
     すかさず、統弥と藍が砂を蹴る。
    「……」
    「……」
     視線も交わさず、言葉などいらぬと呼吸を重ね。
     統弥は黄金の王冠が描かれている黒い刀身に炎を走らせ、跳躍。
     藍は脚を炎熱させ、懐へと飛び込んでいく。
    「僕と藍が積み重ねてきた鍛錬は、貴方の経験に劣る物では無い!」
    「仲間がいれば、統弥さんと一緒なら負ける気はしません」
     炎の刃と脚による、上下からのクロスファイア。カーネイジにXの赤を刻み込み、体中を炎上させることに成功する。
     カーネイジは揺るがない。
    「なるほど……確かに劣るものではないようじゃ。じゃが!」
     バックステップをふもうと膝を曲げていた藍に向き直り、杖を横にかまえていく。
     すかさず統弥が割り込んで、なぎ払いを腹で受けた。
    「ぐっ」
     爆裂する魔力に抗えず、戦場後方テントの側へと墜落。瞳を閉ざした。
     すかさず、靱は青の花火を……救援要請を打ち上げる。
     後は耐え抜くだけと向き直り、影を刃へと変貌させた。
    「そう時間はかからずに、救援班が来るはずだ。それまで、耐え抜こう。できることならば倒してしまおう」
     影刃を放った時、残る仲間たちも気合を入れなおしカーネイジへと攻め上がる。一層の熱を持った歌声が、灼滅者たちを支えていく。
     大きく状況が動くことなく、二分の時が経過。数人が砂浜を駆ける、軽やかな音色が聞こえて来た。
     視線を向ければ、救援班ヤマトチームの姿が見える。
    「こうも強敵ばかり続けて戦えるとは、臨海学校は楽しいですわね!」
     内一人、華乃が楽しそうな笑みを浮かべながら救援に来たことを伝えて来た。
     合計十名以上の灼滅者を相手取ることになったカーネイジ。明らかに不利な状況となってなお、破顔し杖を掲げていく。
    「新手か、面白い! さあ、最後まで死力を尽くして戦おうぞ!」
     圧倒的劣勢でも、あるいはだからこそ心ゆくまで戦いを楽しむことができる。そう、語るかのように。
     そして……程なくして、灼滅者たちはカーネイジを灼滅した。最期は暴れる事も、言葉を紡ぐこともなく、ただただ満足気な笑みを浮かべていて……。

     戦いの終わりを確認し、治療へと移行した灼滅者たち。細かな傷を消していく傍ら、舞は救援班に心霊手術を施していく。
    「お陰で助かりました♪」
    「皆様もカレーを食べて行きません? シーフードもチキンカレーも、すごく美味しいですわよ♪」
     桜花は明るい調子で食事場所を指し示し、しばしの休息を提案する。
     どれどれ……と向けた視線の先、温め直されていくカレー鍋やご飯の横。再準備を担った靱が一足先にカレーをかっこんでいた。
     言葉など必要ない。
     一心不乱にスプーンを操る様子が香りよりも、見た目よりも雄弁にカレーの旨さを語っていた。
     ちょうど今は夕食時。食事前にカーネイジがやって来たからか、お腹がくうくうなっている者もいる。
     腹が減っては戦はできぬ。次への活力を得るために、皆で卓を囲んでいこうか。

    ●オホーツク海に想い出を
     カーネイジとの戦いを終えた翌日。任務から開放された灼滅者たちは、海での行楽に勤しんでいた。
     最後に着替え終わったのは桜花とイサ。
     女性らしい肉体を黒ビキニで包む桜花は満面の笑みを浮かべながら、どことなくもじもじしているイサの背中を押していく。
    「ほら、自信を持つのですわ」
    「ぅ……これは、その……恥ずかしい、な」
     こういうのには縁遠いと、桜花に選んでもらったイサの水着。
     可愛い花柄ビキニに腰巻きパレオと抑えめながら、それでもなれない彼女にとっては酷く落ち着かない恰好なのだろう。
     もっとも、本人が恥ずかしがっているのとは対照的に……あるいは恥ずかしがり頬を、体を僅かに紅潮させているからこそより魅力的となったのか、概ね好評を獲得した。
     故にか時間が経つに連れて自信もつき、頬は紅潮したままなれど普段通りの動きができるようになる。
     ならば、次は遊びの時間。
     二組に別れ、ビーチバレーと洒落込もう!

     舞、桜花、イサ、唯水流チームVS光、靱、統弥、藍のビーチバレー対決。
     黒ビキニに包まれた自慢のスタイルを魅せつけるため、舞は人一倍砂の上を駆け回り、ボールを追いかけていた。
    「えいっ♪」
     激しく動くたびに掴みきれぬ程の果実が震え、布地から零れ落ちそうになる。トスを、レシーブを重ねるたびにずれる紐を、食い込む裾をさり気なく直す度、二種の果実が別々の形で振動した。
    「そこっ♪」
     気にする様子もなく飛び上がり、敵陣中央部めがけて全力スパイク!
     すかさずが靱が体を回転させながら滑り込んだ。
    「回転レシーブ!」
     空高々と打ち上げたなら、光がネット前へと移動する。統弥がトスする音を聞くと共に、膝をバネ替わりにして跳躍した。
    「……」
     敵陣を観察すれば、笑顔とは裏腹に隙のない舞、硬さの取れてきたイサ、真剣な表情を浮かべる唯水流とは対照的に、桜花の視線はボールに注がれてはいない。
     かと言って、光陣営の動きを注視している様子でもない。
    「そこですっ!」
     弱点と見切り、光は大上段から全力スパイク。
    「えっ?」
     ビーチバレーに勤しみながら、着物の帯のようなチューブトップ状の水着にパレオを着用した光、パーカーにトランクスタイプの水着という出で立ちの唯水流が動き回る姿に見とれていた桜花。
     いきなりの狙い打ちに対応できず、顔面強打。
    「ぶっ!?」
     ボールを打ち上げながら尻餅をつき、クラクラと頭を揺らしていく。
    「い……唯水流さんや光さんについ見惚れてしまって……」
    「え……」
     駆け寄ろうとした唯水流が、思わず身を抱きしめた。
     代わりにイサが駆け寄ろうと砂を蹴り――。
    「あ……」
     ――足を取られすっ転ぶ。
     砂の中に埋もれた後、皆が見守る中で起き上がった。
    「お、桜花。だ、大丈夫か?」
    「イサさんこそ……あ」
    「え……」
     桜花が小さな声を上げた時、女性陣が慌てて駆け寄ってきた。
     男性陣も即座に目をそらしていく。
     注目が己の胸元に向けられていることに気がついて、イサは恐る恐る視線を落とした。
     ない。
     あるべきものが。
     守り隠すための、桜花に選んでもらった大切なものが。
    「み、見ないでくれ……」
     慌てて腕で抱きしめて、外気から先端周辺を隠していく。
     そんなハプニングを交えつつも、ビーチバレーそののものは楽しい雰囲気のまま集結した……。

     ビーチバレーの次は、スイカ割り。そして、心ゆくまで楽しむフリータイム。
     泳ぐ、休む……様々な方法で海を楽しんでいく仲間たちを眺めながら、統弥は藍に誘いかけた。
    「折角だから海で泳ぎませんか?」
    「……はい」
     互いに手を取り合いながら、海へと進み潜っていく。
     暖かくも冷たい水に包まれながら、統弥が藍を抱きしめた。
     藍も優しく抱き返し、互いに静かな笑みを贈り合う。
     臨海学校というイベントを、今、この瞬間を、かけがえのない想い出とするために……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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