臨海学校2014~1泊2日デスマーチ!

    作者:七海真砂

    「皆さん、今年の臨海学校のことは、もうお聞きでしょうか?」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が呼びかけた今年の臨海学校。
     それは北海道のオホーツク海に面した町、興部町の沙留海水浴場で行われる1泊2日の楽しいキャンプ……のはずだったのだが。
     沙留海水浴場は、武神大戦天覧儀への出場枠最後の1つを賭けた、バトルロイヤルの舞台になろうとしているのである。

    「皆さんには臨海学校をしながら、沙留海水浴場を訪れたダークネスの灼滅をお願いしています。しかし、いずれも天覧儀を勝ち抜こうとしている強力なダークネスばかり。どのチームも激闘が予想されます。そこで……」
     更に、特別なチームを結成したいのだと姫子は告げた。
    「皆さんの役割は、様々な時間・場所で発生する戦いに駆けつけ、それを援護することです。……1チームだけでは苦戦する相手、あるいは勝てないかもしれないような相手だったとしても、2チームで協力すれば、必ず勝機はあります」
     あちこちの戦いに救援として駆けつけ、勝利できるように援護する。
     襲撃が予測されている一晩の間、少しでも多くの戦いに勝てるよう、これを繰り返して欲しいのだと、そう姫子は告げた。
    「他のチームと違い、いかに早く戦いに突入した仲間の元へ駆けつけ、どのように仲間を援護するか。そして、1つでも多くの戦いを援護するには、どうしたらいいのか……といった点を考慮しながら戦うことが、重要になってくるチームだと思います」
     目的が援護なので、自らキャンプをして敵を誘き寄せる必要は無い。そのかわり、海岸を行き来しながら臨海学校の間、何度も戦うことになる。
     ダークネス達との戦闘は、1日目の夕方から翌朝にかけてになるだろうと予測されているが、正確な時刻などは判明していない。そのため、常に警戒をしながら、いつでも急行できるように待機し続ける必要があるだろう。
     つまり、本来の意味での臨海学校らしい時間――海水浴やキャンプなど――を過ごす機会は、おそらくほとんど無い。ただひたすら各チームの救援に駆け回り、戦いを繰り広げ続けることになるはずだ。
    「過酷な1泊2日になるかもしれません。しかし皆さんの力が戦況を大きく左右するような場面も多いでしょう――どうか、よろしくお願いします」


    参加者
    アプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)
    和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)
    アストル・シュテラート(星の柩・d08011)
    黒崎・白(黒白の花・d11436)
    ミスト・レインハート(輝心天刃・d15170)

    ■リプレイ

    ●海岸線を臨んで
     臨海学校当日。灼滅者達は興部町の沙留海水浴場にやってきた。
     青い海、白い砂浜。輝く太陽の下、早速いくつもの班が海水浴を楽しんでいる――が。
    「この辺りを待機場所にしよう」
     それを横目に立ち止まった御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)は、目印も兼ねてドリンクなどを詰めたクーラーボックスを置いた。一緒に持ってきたトートバッグには、少しでも疲労の蓄積を軽減できればと用意したタオルや敷物などが入っている。アストル・シュテラート(星の柩・d08011)が巣を作ると、辺りは一気に快適な空間になった。
     すぐに救援できるよう、万全の態勢で待機するのは彼らの任務の一環だ。しかし、
    「みんなキャンプを楽しんでるのに、あっしらは何やってるんすかねー」
     アプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)がぼやくのも無理はない。
    「とんだ学園行事ですね」
    「まあ、うちの学園らしいよ」
     フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)が頷き、セトラスフィーノ・イアハート(戀燕・d23371)も苦笑いしている。それでも、ここで俺達が頑張らなきゃ! とミスト・レインハート(輝心天刃・d15170)は自分を鼓舞しながら皆を励ました。
    「この臨海学校を乗り切って、必ず無事に学園へ帰るんだからね!」
    「うん! あ、そうだ! これ作ってみたんだけど、どうかな?」
     セトラスフィーノが取り出したのは人数分の赤いアームスカーフ。そこに刺繍されているのは、
    「おお、妾達のチーム名じゃな」
     和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)が読み上げたのは、8人の名前の頭文字を取って付けられたチーム名、KREMITHS(クレミス)だ。
    「お揃いだね」
     チームの目印にもなりそうだとミストが早速手を伸ばす。なお、中に1個スペルがKREMITSHになっている物が発見されたが、それは手作りのご愛嬌だろう。
     そんな中、最初の救援要請が届く。
    「あちらが向かうそうじゃ」
     連絡を取り合った風香が告げる。更に待機を続行すると、すぐにまた携帯が鳴った。
    「あそこですね」
     メールを開くよりも早く、箒の後ろに乗っていた黒崎・白(黒白の花・d11436)がその場所を見つける。
    「あっしらの出番っすね!」
    「『KREMITHS』、出陣です」
     アプリコーゼは箒を旋回させて急行し、地上もフランキスカを先頭に駆け出す。
    (「颯爽と助っ人に現れるって、なんだかカッコいいな」)
     アストルは少しだけ笑った。ヒーローは遅れてやってくる、なんて言葉もある。自分達が皆の力になるなら、全力を賭して最善を尽くす。そうアストルもまた砂を蹴った。

    ●夕暮れのデスマーチ
     灼滅者の足なら、駆け付けるまで大した時間は掛からない。すぐに前衛へ飛び込んだフランキスカが炎の翼を顕現させて支援し、その後ろからアストルの撃った妖冷弾が敵、黒狼の身体を凍りつかせた。
    「ちぃっ……」
    「みんなは傷付けさせないよ!」
     舌打ちする黒狼。その反撃を遮るようにセトラスフィーノが割り込み、仲間の為の盾になる。攻撃を極力分散させながら戦い、
    「行くのよ! 沙留ダイナミック!!」
     靱乃・蜜花(信濃の花・d14129)が黒狼を投げ飛ばすのを見ると、爆発の中心点へ次々と攻撃を叩き込んでいく。救援要請から合流までの時間を最小限にできた事もあり、灼滅者達は黒狼を迅速に追いつめ、撃破する事に成功した。
    「また花火ですか。どうやら早速、忙しくなりそうですよ」
     一息ついて間もなく、すぐに救援要請の花火が打ちあがる。こちらが受け持つ旨の連絡を行いつつ、一行はまた駆け出した。
    「ありがとう! 気をつけて」
     見送られながら急行した先では、どす黒いオーラを纏ったダークネス雷剛と仲間達が激闘を繰り広げていた。倒れている姿が1つ、意識のある仲間達も厳しい状況なのが見て取れる。白焔達はすぐさま割って入り、敵の攻撃を受け止めた。
    「黒子、すぐに回復しますよ」
     白はすぐさま傍らの霊犬へ指示を出し、自らも回復に当たる。
     KREMITHSの支援で戦況は立て直し、やがて血を吐いて倒れた雷剛の姿が砂に紛れて消え去る。しかし激闘の傷跡は激しく、呼吸はなかなか元に戻らない。見かねた迫水・優志(秋霜烈日・d01249)達が心霊手術を申し出てくれるが、白焔は首を振った。
    (「交戦中の連絡が複数。しかも向こうは救援中だ」)
     回復を受けたい状況ではあるが、心霊手術を施して貰う余裕は無いだろう。
     実際、せめて少しでもと回復サイキックを掛けて貰っている間に、救援を求める青い花火がまた打ち上がる。
    「ダークネスも暑い中、元気な事だ」
    「でも限界までの臨『界』学校、やってやるんだよ!」
     相次ぐ襲撃に白焔は小さく呟き、すぐに駆け出した。セトラスフィーノも気合を入れる。
     厳しい戦いになるだろう事は、最初から分かっていた。しかし、どんな状況でもそれを乗りきって、必ず無事に学園へ帰ってみせる!
    (「俺たちのチームも、支援先のメンバーも、誰一人として死なせはしない……!」)
     ぐっと拳を握り、ミストもまた決意を胸に走る。

     だが、多くの負傷を受けた状態での救援は厳しい物になった。向こうも既に宮村・和巳(傷付けたくない殺人鬼・d03908)と十・七(コールドハート・d22973)が倒れている。それでも2チームが合流した以上、戦力的には決して敵わない相手では無い。
    「先輩、代わるよ」
     アストルや風香が交代で前に出て戦っていく。とにかくタフな鈴木との戦いは長期化したが、攻撃を積み重ね、なんとか鈴木を追い込んでゆく。
     やがて鈴木が消え去るのを見た瞬間、フランキスカ達は思わずその場に座り込んでいた。
    「流石に、堪えますね」
    「向こうの状況は?」
    「交戦中じゃ。しかし、このままでは妾達の方が倒れてしまうであろう?」
     連絡担当の風香の言葉に白焔は頷く。限界だという事は、自分自身が一番よく分かっている。前衛で攻撃の矢面に立ち続けたセトラスフィーノとミストもあわせた4人は、すぐに天咲・初季(火竜の娘・d03543)達からの心霊手術を受ける。
     しかし治療が終わるよりも早く、新たな花火がまた打ちあがった。起き上がろうとするフランキスカ達だが、長久手・蛇目(憧憬エクストラス・d00465)達がそれを止める。
    「先に行っていますから、ここでしっかりと心霊手術を受けてきてください」
    「僕と風香先輩が引き続き前衛。白先輩達も前に出た方がいいかもね」
     そう告げて、ひとまず動ける4人だけで救援に向かう。救援先にも多くの負傷者がいるという。まずは回復と戦況の立て直しが主になるだろう。それも踏まえ、走りながらアストルが隊列を調整していく。
    「いた! あれっすね!」
     アプリコーゼがマジックミサイルを撃ち、その間に前衛に入った3人と1匹が次々と周囲の回復に当たる。
    「増援? は、良いよ。まとめて蹴散らす!!」
     それを見た敵、蹴矢が跳躍し鋭い蹴りを放つが、その間に躍り出る小さな影が1つ。黒子だ。その攻撃を受け止めた瞬間、黒子は消滅する。
    「いい子ですね……。その程度ですか? どこを狙ってるんです?」
     黒子へ告げた白は、視線をちらりと蹴矢に向けて毒を吐く。
     的確な重い一撃。だが黒子を倒した程度で誇るようなダークネスであれば、たかが知れているというものだ。
     反撃に出る仲間達とタイミングをあわせてアプリコーゼが支援攻撃を続け、白達は回復を繰り返す。そうして戦況の維持に努めるうち――。
    「遅くなった」
    「Ms.和泉、交代します」
     治療を終えた白焔達が駆け付け加勢した事で、形勢は一気に逆転した。いつしか地平線の向こうへ夕日が消え、夜の帳が下りる中、蹴矢は倒れ動かなくなる。
    「時間があるなら、回復するよ♪」
     有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)達の申し出を、一行は有難く受けた。相次いでいた襲撃の連絡も今は途絶えている。ようやく、少し休憩を取れそうだ。

    ●夜闇の攻防
     待機地点に戻り、巣を作り直した8人は汗を拭うと、ドリンク片手に警戒を続ける。遠くには仲間達が遊ぶ花火の光が見えた。
    「来た」
     救援先を手早く確認すると、すぐにまた駆け付ける。夜戦用に仲間達が用意した明かりに浮かぶ敵の背めがけて、風香が確実に当てるべく狙いを定めた光線を放ち、更にアストルが高速回転させたバベルブレイカーを繰り出す。
     更にアプリコーゼの神薙刃が敵を切り裂き、ミスト達が距離を詰めた。
     迅速な移動とそこからの攻撃の数々は、まさに疾風迅雷のごとく。
    「さよなら、です」
     形勢は完全に逆転し、やがてシェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・d28645)の言葉と共にダークネスは倒れ、動かなくなった。
    「支援感謝致します」
     礼儀正しく頭を下げる刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866)にアストル達は首を振る。彼らの救援要請が迅速だったからこそ、すぐ合流して終始優勢な状況で勝利できたのだ。おかげでKREMITHS側にも大した傷は無い。
    「お疲れ様、大変だけど頑張って下さいね!」
     リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)達からの声援に頷き返しつつ待機場所へ戻ったKREMITHSは、しばらくしてダークネス『ブチネコマスク』からの襲撃の報と救援要請を受ける。
    「あれですね」
     波打ち際で交差するいくつもの人影。フランキスカはすぐさまドゥルガ=ゲイザーが持つ周囲を威圧するほどの妖気を冷気に変えた。
    「横槍、馳走する。凍てつき果てよ!」
    「背中がガラ空きだよっ!」
     肩に妖冷弾を受けたブチネコマスクの背後に、エアシューズを巧みに滑らせて回り込んだのはミストだ。その摩擦を生かして炎を纏い、跳び上がって蹴りを叩き込む。
    「ほう、なんか知らんが増えたな!!! まとめてかかってこい!!!」
     救援を目の当たりにしてもブチネコマスクは堂々と言い放つ。だが8人の加勢で戦力差はハッキリと分かるほどに逆転している。
     やがてブチネコマスクの覆面が破れて風に飛び去り、ブチネコマスク自身も散った。
    「向こうでも戦っていますね。あれは?」
    「おそらくエンジェル・ペイン組だね」
     白の疑問に、地図と見比べたミストが応じる。ノーライフキング、エンジェル・ペインと交戦予定だった班が戦っているらしく、血塗れの刃の猛攻を防いでいる姿が見える。
    「メールには要救援時は花火を打ち上げる、と書かれておるが、救援は早ければ早い方が良いじゃろう」
     幸いな事に傷は浅い。一行は、すぐそちらへ駆け付ける。
    「加勢するっすよー!」
     箒から飛び降りたアプリコーゼの脇を、更に駆けて前に出るのはセトラスフィーノ。蒼に透き通る刃を派手に振りかぶり、セトラスフィーノは強烈なクルセイドスラッシュ繰り出した。それは、連戦である事を感じさせないほど軽やかで迅速だ。
    (「こんなの、ブレイズゲートで慣れっこだもん」)
     何度も傷ついて、それでも仲間と支え合って戦う。それは皆の思い出を守り、そして天覧儀の先を識る為のもの。
     宿敵でもあるアンブレイカブル達と繰り返し戦い、更にこうして他のダークネスとまで戦える機会は、そう多くない。技量、知識、経験……多くを得る機会だと前向きに捉えるセトラスフィーノは、更にグラインドファイアを繰り出してエンジェル・ペインと戦う。
     更には白達がありったけの回復を重ねて支援し、彼らが反撃のコンビネーションアタックを繰り出すチャンスを生み出す。その強烈な一連の攻撃を前に、エンジェル・ペインは粉々に砕けて消え去った。
    「……終わったようですね。助かりました『KREMITHS』の皆さん」
     代表して礼を告げる高倉・奏(二律背反・d10164)の傍らで、雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)が冷たいドリンクを差し入れてくれる。
     有難く受け取って喉を潤すと、夜の潮風が彼らの体をクールダウンさせていった。

    ●そして新たな陽が昇る
     待機を続ける彼らが次の異変に気付いたのは早朝、空が白み始めた頃だった。すぐさま巣を飛び出し、敵の死角から攻撃を繰り出しながら加勢する。
     敵は膨大な殺気と共に攻撃を繰り出すが、白焔はその動きの先を読んで拳を受け流した。
    「そんなんじゃ、俺達を傷つけるどころか、触れる事さえ出来ないよ」
     反対にミストが非物質化させたクルセイドソードで敵を貫く。その一撃は更に敵の怒りを煽ったようだが、真っ向からそれを受けたミストが、それをこらえると、すぐさま香坂・天音(煉獄皇女・d07831)がライドキャリバーのハンマークラヴィアと連携を取りつつ、ダークネスに攻撃を仕掛けていく。
     派手に叫ぶ敵と激突する灼滅者達。砂を巻き上げながら、やがて狩家・利戈(無領無民の王・d15666)の一撃が勝利を掴み取った。
    「さあさあ、ダークネスも倒しましたし、お肉! お肉ですよ!」
     途端に目をキラキラさせる神之遊・水海(うなぎパイ・d25147)。彼らは既に鉄板と食材の準備を完了しているようだ。
    「一緒に食べてかない?」
     幸いにも他班から襲撃の連絡は入っていない。誘いを受けた一行は、有難く鉄板を囲む輪に加わった。
     しっかり食べて英気を養った一行の元へ、やがていくつか戦闘開始の報が入る。ヤマト班と打ち合わせて待機に回ったKREMITHSは、じきに上がった花火を見て動いた。
     駆け付ければ今まさに、大業物・断(一刀両断・d03902)の頭をアンブレイカブルが掴もうとしている。
    「危ない!」
     セトラスフィーノは断の体を弾き飛ばして彼女をかばう。その間に距離を詰めた風香が紅蓮斬を放つと、
    「これがお前達の切り札って訳か」
    「うへへ、どうや。この作戦!」
     睨み返してきたアンブレイカブルに銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)が高らかに笑った。
     防御と回復はKREMITHSが請け負い、戦いを支える。おのずと攻撃の手数が増え、
    「これで終わりだ!」
     胴体を切られ、倒れるアンブレイカブル。その姿が消滅すると、すぐ天衣・恵(杭打兎・d01159)やメルキューレ・ライルファーレン(春追いの死神人形・d05367)が傷の深いセトラスフィーノを治療してくれる。
     落ち着いて、十分な時間をかけて休む機会を得たKREMITHSは、その間にヤマト班から新たな救援に向かう旨の連絡を得る。
    「つまり救援対象となるのは、残り1チーム……」
     勝利が、見えてきた。いやしかし慢心は禁物だと、フランキスカは朝日が昇りきった青空を見上げる。その傍らでは白焔が少しでも体力の回復に努めようと、目を閉じて、ゆっくり呼吸を繰り返している。
     そして、その時は来た。着信と共に開いたメールを読み、8人はすぐに動く。援護すべき対象が他にいない以上、待機の必要性はどこにも無い。
    「救援もこれで最後だ、あともう一息、頑張ろう」
     アストルもそう呼びかけて戦場へ駆け出す。巣の中で出来る限り体力の温存に努めてはいたが、それでも戦いの疲労をゼロにできるわけではない。
    (「でもチセだって今頃頑張ってるはずだよね。僕も負けてられない」)
     もう1つの救援班のメンバーとして、今頃戦闘中であろう棲天・チセ(ハルニレ・d01450)の事を考えながら、アストルは力を振り絞る。
    「救援班『KREMITHS(クレミス)』、援軍っすよー!」
     アプリコーゼの声に、対峙するダークネス・奏は全てを察したようだ。無邪気に笑いながら膨れ上がった奏のオーラが、無数の弾丸となって灼滅者達を襲う。
     すぐさま白石・作楽(櫻帰葬・d21566)とビハインドの琥界が動くのに続けて、白焔は地を這うような低い姿勢で急加速すると、その鋼と化した拳を撃ち抜いた。
     アプリコーゼは確実に攻撃を命中させるため、回避しづらいであろう着地のタイミングを見計らってマジックミサイルを放つ。チームKREMITHSを加えた16人と3体は連携攻撃を繰り返しながら、奏を包囲するように陣形を変えていく。
     もちろん奏からの攻撃も苛烈な物の連続だ。しかし、この人数による戦力差を覆す事は、できなかった。
     久織・想司(錆い蛇・d03466)が薙ぎ払った刃を受けた奏が大の字になって、砂浜に倒れ込む。それが勝利の瞬間であり――すべての戦いに決着がついた瞬間だった。
    「やったね!」
     ミスト達は歓声を上げる。チームKREMITHSは、臨海学校に来た灼滅者達は、戦い抜いたのだ。
    「最後の席をかけたバトルロイヤルは、わたし達の勝利というわけですか。揃いも揃って、情けないダークネス達ですね」
     などと白が斃れていったダークネス達への毒舌を発揮できるのも、闇堕ちする事なく勝利できたからこそだろう。風香はすぐに各班に状況を知らせ始め、アストルも連絡を手伝う。
    「慌ただしい1泊2日でしたが……生きて朝を迎え、無事に帰る事ができる。それで良しとしましょうか」 
     臨海学校らしい時間といえば、遠くの花火を眺めた事とバーベキューを分けて貰ったくらいで実に慌ただしい一晩だったが、それでもフランキスカ達の顔には充実感が満ちていた。
    「車、空港と海水浴場の往復だけで終わりそうだね」
     離れた場所に敵が現れた場合に備えレンタカーを借りていたミストは、その出番が無く終わった事に安堵する。この戦闘が更に広範囲で起こっていたら、どれほど厳しく辛い情勢になっていた事か。
     白焔は車へ荷物を積み込みながら警戒を続ける。白焔は業大老やHKT六六六など、武神大戦天覧儀に関わるダークネス勢力の動きを警戒し続けていたが、沙留海水浴場を後にするその時まで、異変は特に起こらなかった。
    「天覧儀の突破者は確定した。これから武神大戦は、どう進んでいくのか……?」
    「うん、気になるね。……これ、私達も出場するんだよね?」
     白焔に頷き、しかし首を傾げるセトラスフィーノ。それは武蔵坂学園の誰になるのか。
    「確かに気になりますね」
    「でも今はとりあえず帰って、ゆっくり休みたいっすー」
     もう何か考えるのも嫌なほど疲れたと言わんばかりのアプリコーゼの声に、車内に思わず笑みが広がる中、ミストは車のエンジンをかけた。

    作者:七海真砂 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月12日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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