臨海学校2014~蹴撃煌き

    作者:陵かなめ

     その日、1人の少年が興部町の浜へ降り立った。彼を乗せてきた黒塗りのバンが走り去っていく。その車体には、『HKT六六六』のロゴが書かれていた。
    「ふん、あれがこの僕、蹴矢(しゅうや)の対戦相手?」
     砂浜では、学生と思しき者達が楽しげな声を上げている。それを見て、蹴矢が顔をしかめ怒りの表情を浮かべた。
    「はっ、随分余裕じゃないか。まあ、どうでもいいか」
     蹴矢はイラついた声を上げると、近くの看板を蹴りつけた。
    「とにかく、蹴り潰してやる」
     鈍い金属音が響く。
     その威力は凄まじい。なぜなら、彼はアンブレイカブルなのだから。
     蹴矢は砂浜へ向けて足を踏み出した。
     残ったのは、蹴りつけられ粉々に崩れ落ちた看板の残骸だけだった。
     
    ●依頼
    「あの、あのね。実は、北海道の興部町で急遽臨海学校をすることになったんだよ」
     なるほど、それは唐突すぎるお知らせだ。
     何事かと、皆が耳を傾ける。
    「武神大戦天覧儀の事は、皆知ってる? 実は、武神大戦天覧儀がついに、次の段階に進もうとしているようなんだよ」
     予測していた者も多かったが、天覧儀を勝ちぬく最後の席を賭けたバトルロイヤルが、業大老が沈むオホーツク海の沿岸の海岸で行われると言うのだ。
     天覧儀を勝ち抜いた猛者が、日本各地から北海道興部町の海岸に集まろうとしている。
    「それでね。みんなには、興部町の海水浴場、沙留海水浴場周辺でキャンプをして、やってくるダークネスを迎え撃って欲しいんだよ」
     敵がいつ来るかは分からない。だが、海岸でキャンプをしていれば向こうから襲撃してくるだろう。
    「臨海学校を楽しみながら、警戒も怠らないように、お願い」
     太郎は、詳しい説明を始めた。
    「今回の依頼はね、天覧儀に参加していた蹴矢と言うアンブレイカブルを待ち構えて迎撃するものだよ。蹴りを得意とする戦い方をするダークネスみたいだよ。少人数に分かれてキャンプをすることで、相手を警戒させずに戦いを仕掛けさせることが出来ると思うんだ」
     敵は強敵だが、止めを刺した灼滅者が闇堕ちすることはないので、その点は安心と言えるだろう。
    「えっと、後は、臨海学校で敵を待ち受けるのとは別に、戦闘を支援するチームも編成しているから。だから、戦いが始まってある程度持ちこたえたら支援チームが駆けつけて戦闘に加わってくれるよ」
     そうなると、ダークネスを圧倒することができるだろう。
     太郎はくまのぬいぐるみを握り締めた。
    「集まったダークネスを全部撃破できたら、武蔵坂学園は天覧儀の勝者の権利を得る事ができると思うんだ。そうしたら、武神大戦の真相を暴くチャンスになるかもしれないよね」
     だから、頑張って。
     そう激励して、太郎は説明を終えた。


    参加者
    有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)
    真白・優樹(あんだんて・d03880)
    弐之瀬・秋夜(トマティアン・d04609)
    吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)
    ラックス・ノウン(バイゼルカイゼル・d11624)
    高梨・雪音(見習い神薙使い・d25550)
    黒乃・夜霧(求愛・d28037)
    雨宮・夜彦(高校生人狼・d28380)

    ■リプレイ

    ●臨海学校を満喫しよう☆
     12日午後、興部町の浜辺に学生達の姿があった。
     白い砂浜、輝く太陽。
     そして何より、
    「海!! といえば水着や!!」
     ラックス・ノウン(バイゼルカイゼル・d11624)が高らかに叫んだ。
    「ただし女子限定っ!!!」
     瞬間、ビーチボールがラックスの顔面に直撃する。
    「あぁっ」
     ラックスの上半身が大きくのけぞった。
     一体どう言う事なのか。ただ、欲望のまま当たり前のことを叫んだだけだというのに……っ!
     と、言うようなことはさておき、有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)が転がったビーチボールを持ち上げ、笑みを浮かべた。
    「ビーチバレーの天使(自称)と呼ばれたボクの可憐な空中殺法を披露してあげようじゃないか」
    「ビーチバレーの天使(自称)だと……っ! 燃えてきた!」
     体育だけは得意と言う高梨・雪音(見習い神薙使い・d25550)がビーチバレーのコートに降り立つ。
     キャミソールにショートパンツのタンキニ水着姿だ。
    「ビーチバレー、あたしも参加するよっ」
     鮮やかなスカイブルーのバンドゥビキニを身につけた真白・優樹(あんだんて・d03880)も手を振りやってきた。
    「うわ、可愛いな!」
     同性から見ても魅力的な水着姿に、雪音は一瞬どきりとした。
    「えー?」
     優樹が笑う。
     その時、ざっばーんっと、いかにもな波打ちの音が聞こえた。
     打ち寄せられた波に乗ってやって来たのは黒乃・夜霧(求愛・d28037)だ。沖まで泳いでいたのだが、流されそうになって急いで戻ってきたのだ。
    「し、死ぬかと思ったよ……!」
     立ち上がり、スクール水着に付いた砂を払う。
    「ビーチバレー、一緒にどう?」
    「うん☆ ボクも入れて♪」
     へるの誘いに、夜霧が笑顔で応じた。
     煌くような女子達の様子に、弐之瀬・秋夜(トマティアン・d04609)がいそいそとカメラを構える。
     女の子の水着姿は良いものだ。
     早速カメラに収めないと、と、至極真剣な表情で女の子の胸元にズームしたりしてみる。
    「俺はっ、思う存分っ、海を楽しむぜっ!!」
     さあ、あの眩しい胸元を、この手にと!!
     実に欲望に忠実に、素晴らしい写真を手に入れるためシャッターに手をかけた。
    「てやー、必殺アターック!」
     カメラのファインダー越しに、優樹が飛び上がるのが見える。
     ボールを打つ尋常ならざる爆裂音が聞こえたと思った。
     優樹の撃ったボールは、一直線に秋夜の元へ飛来し、胴体へと激突する。
    「おぅ、ふ」
     カメラごと、秋夜は吹っ飛んだ。
    「えええー?! ごめんー」
     慌てる女子の声を聞きながら、秋夜は3回転して砂浜に突っ伏した。
    「ふっ。天罰覿面~」
     ハーフパンツ型の水着を身につけた吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)が、秋夜に向かって手を差し伸べた。
    「いや、女の子の写真とか、欲しいだろ?」
     昴の手を掴み、秋夜が起き上がる。
    「確かにそうだけどな。安心しろ、お前の仇は俺が取ってやるやるぜっ」
     そうして、非常に良い笑顔で昴はビーチバレーをする女子達の元へと駆けて行った。
    「おーいっ。ビーチバレーなら一緒にしようぜ!」
     さわやかに声をかけ、昴が仲間に入り込む。
    「あ、俺も入れてくれ!」
     海に飛び込んで遊んでいた雨宮・夜彦(高校生人狼・d28380)も寄ってきたようだ。
    「とーうっ。オレ復活やで!」
     ラックスもがばりと起き上がり、復活を遂げる。
     女子に混ざる仲間達を眺め、秋夜がカメラを拾い上げ遠い目をした。
    「直接行ったか。そうか。頑張れブラザー。あと、俺死んでない」
     メンバーが集まり、試合形式のビーチバレーが始まった。

    ●ビーチバレーで遊ぼう☆
    「夜彦くん、そっちそっち、行ったよぉ♪」
    「えっ、えっ、こうか?!」
     夜霧の声に、慌てて夜彦がボールを追いかける。軽いボールは風に乗り、軌道を変え、陣地へと飛び込んできた。
     とにかくボールに向かって右へ左へと全力で走る夜彦の姿を見て、雪音が笑う。
    「夜彦先輩って、大きなわんこみたいだな」
    「言えるかもー!」
     優樹が頷いた。
     男子対女子で試合をしているのだが、いかにも必死な夜彦の様子を見て、ついつい応援したくなってしまう。
    「よしっ、そのまま上に打てっ」
     昴が声をかけ、夜彦が真上にボールを打ちあげた。
    「よっしゃぁっ、覚醒しろ、オレの自由魂!!」
     タイミングを合わせ、ラックスが跳ぶ。
     ドドーンと、派手な効果音を引っさげて、見事なアタックを繰り出した。
    「なんのっ」
     それを見て、へるが身体を半回転させながら低い姿勢でスライディングし、レシーブで繋ぐ。
    「ボクの必殺アタックをくらえー!」
     浮いたボールに雪音が飛び込んでいく。
     そんな女子たちの姿を昴が凝視していた。
    「視線や筋肉の動きを見て、コースを読むっ!」
     かっと目を見開き、動きの流れを読み取る。決して!! 女性陣の水着姿を凝視しているのではないのだ!! 例えば、汗が光る肌とか!! 魅惑的な足とか!! 決して!!! いや、正直、折角だから、目に焼き付けておこうとは思うけれども!!
    「あ、あぶなっ……」
     誰かの叫びが聞こえた。
     女子の水着を凝視していた昴は、飛んでくるボールのことをすっかり忘れており、気がつけば顔面にボールが直撃していた。
    「ぁ……」
     顔面から吹き飛ばされ、昴の身体はきりもみしながら砂浜にめり込んでいった。
    「大丈夫かー?」
     ぴくぴく痙攣する昴を夜彦がつついてみる。
    「いやあ、女性陣は皆キレイだよなー。思わず見惚れてボールを見逃すなんてこともあるぜ」
     うんうんと、夜彦は理解を示すのだった。

     ビーチバレーが一段落した後、それぞれ好きなように時間を過ごした。
    「お疲れさまー。ジュース飲む?」
    「ありがとう。魅せるためには多少の犠牲はつきものだから仕方ないよね」
     優樹からジュースを受け取り、砂浜に寝転がっていたへるが身を起こした。全力で遊び、ちょっぴり力尽きていたのだ。
     隣では、夜霧が砂の城を作っている。
     昴と夜彦はビーチボールを追いかけ遊んでいるようだ。
     海の上では、雪音がビニールボートを浮かべ物思いにふけっている。
    「空が赤くなってきたなー」
     残りの夏休みはバイトずくめだが、今はしばし静かな時間だ。
     遠くから、「ボートじゃあ、海の中から眺められねーよ!!」などと言う秋夜の叫びが聞こえたような気がした。
     夕日が空を赤く染め始めた。
     じきに、この静かな時間も終わってしまうだろう。
     その時が来るまで、学生達は思い思いの時間を過ごした。

    ●蹴撃
     赤く染まった空の下、それは突然始まる。
     周辺を警戒していた秋夜が皆に目配せをした。その気配を察した仲間達も、それぞれ表情を引き締め砂浜へ集まってきた。
    「さ、お仕事の時間だね。働かざる者遊ぶべからず」
     優樹の言葉と、少年が飛び込んでくるのはほぼ同時だった。
    「ふっ。お前たちがこの僕の相手? えっと、何人居るのかな。まあいいや、全部纏めて相手をしてあげるよ」
     少年――アンブレイカブル・蹴矢は口元に笑みを浮かべ構えを取る。意志の強そうな瞳が、見た目通りの少年ではないのだと物語っていた。
    「あー、随分余裕じゃねーかよ。まあ、その余裕がどこまで続くか見物だけどな!」
     秋夜が一般人を遠ざけるように殺気を放つ。
    「ほざけっ」
     自分を取り囲むように立つ灼滅者などお構い無しに蹴矢が跳んだ。
     そして、最初に目に入った昴に必殺の蹴りを放つ。
    「……っ」
     跳ぶ瞬間も見ていた。蹴り込んで来る姿も写った。
     昴は籠手状のシールドで力を受け流し、直撃を避ける。
     だが、殺しきれなかった衝撃で、昴の身体が綺麗に砂の上に転がった。
     次の攻撃に入ろうとしている敵を見て、ラックスが龍砕斧を手に距離を詰める。
    「HEYこっちカモ~ン」
     注意を引きつけるように、派手に薙ぎ払いをかけた。
     ところが、払いが途中で止まってしまう。
    「ふ、んっ」
     蹴矢が片腕で龍砕斧を受け止めたのだ。
    「……自分、それ痛くないん?」
     攻撃を相殺させたというよりも、ダメージを気にせず受け止めたのだろう。
     見ると蹴矢の腕から血が滲んでいる。
    「う、る、さ、いっ」
     しかし、蹴矢は構わず、力任せにラックスの龍砕斧を跳ね飛ばした。
     その力に驚いている暇は無い。
    「さて、キミの足技はどの程度なのかな♪」
     へるが飛び上がり、シールドで思い切り殴りつけた。
     続けて、優樹と夜彦がエアシューズを煌かせ蹴矢に迫る。
     防御の構えを見せる敵めがけ、夜彦は砂ごと蹴り上げ飛び蹴りを放った。
     一瞬、顔を庇うように腕を上げた蹴矢を見て、その懐に優樹がスターゲイザーを叩き込む。
    「蹴りが自分の専売特許なんて思わないでよね」
    「そう言うことだ」
     2人、よろめく敵を確認して、すぐに距離を取った。
    「さあ、動かないで! ボクの愛を受けとめてね☆」
     隙を見つけ夜霧も縛霊撃を炸裂させる。
     仲間達の攻撃する姿を見ながら、雪音は昴の傷を癒していた。
    「強烈な一撃だったな」
     小光輪を飛ばしながら、雪音は知らず自身の飾り紐をぎゅっと握る。
     敵の攻撃は、重い。そうそう1人で何度も受けることはできないだろう。
    「回復、助かる」
     けれど、盾として戦うのみ。昴は無骨な刀を手に、再び敵へと駆けて行った。

    ●戦いの状況
     さすが、アンブレイカブルと言うところか。蹴矢は巧みに蹴りの技を操り重い攻撃を仕掛けてきた。攻撃を受けるたび、前衛の仲間の体力が削られる。その都度メディックである雪音とディフェンダーの昴が癒し、今はまだ、皆が戦える状態だった。
    「多数で攻めてこの程度か!」
     もう何度目か、蹴矢が強烈な蹴りを繰り出してきた。
     身体を滑らせ相手の死角に入るよう動くが、それよりも早く蹴矢は姿勢を崩し強引に蹴る角度を変えてくる。
    「がっ」
     横殴りに蹴りつけられ、優樹の身体が吹き飛んだ。
    「女の子狙うとかサイテー!」
     敵の気を逸らそうと秋夜が挑発するように声をかけ、同時に燃え上がらせた炎を叩きつける。
    「はっ! 女だろうが男だろうが、戦いに出てきたなら同じこと!!」
     蹴矢は炎をひらりと舞うように避け、着地するタイミングで秋夜に苛烈な蹴りをいくつも繰り出してきた。
     こちらは避けることも出来ず、地面に打ち付けられる瞬間、必死に受身を取る。
     仲間達も一斉に攻撃を仕掛けた。
     単調な攻撃にならぬよう気をつけているけれど、それでもいくつかの攻撃は回避された。
    「戦い慣れてんなー」
     重い身体を叱咤するように一息吐き出し、ラックスが呟いた。
     苛烈な攻撃と回復とを持ち合わせた敵は、やはり強い。確実に敵を捕らえた攻撃もあるのだが、なかなか決定的な攻撃が出来ずにいるのだ。
     また、仲間の疲労もそろそろ心配になってくる。
     現に、敵の注意を引き幾度も蹴撃を受けたので、ラックス自身ディフェンダーとはいえ、体力が目に見えて減っている。前衛の仲間も傷の回復に手を裂きはじめ、攻撃の数が減ってきた。じりじりと、自分達が押されていることに気づかされる。
     このまま戦いが長引けば、癒せない傷が致命傷になりかねない。
     6分、7分と戦い続け、最初にラックスの体力が3割を割り込んだ。次に、優樹と秋夜が攻撃を受け沈みかける。仲間の回復で持ち直したが、そろそろ頃合だと夜彦は感じた。
    「へる、花火は任せる」
    「打ち上げる時が来たようだね」
     へるは両手を広げ、肩をすくめ、どこかで見ているはずの仲間へ伝えるべく青の花火を打ちあげた。
    「は?」
     怪訝な表情でこちらを見る蹴矢を無視し、携帯を手にする。
     すぐに風香から連絡が入った。
    「うむ。すぐに動ける4人が先行するのじゃ」
    「4人?」
     8人ではなくて? 声に出さないへるの疑問に気づき、雪音が言う。
    「あちらも厳しい戦いのようだな」
     ともあれ、救援は要請した。後数分持ちこたえることが出来れば、現状を打破できる可能性も出てくるだろう。
    「ふん、小ざかしい小細工か!! けどね、僕を倒せると思わないことだ!!」
     蹴矢が吼え、自身の傷を癒す。同時に、バッドステータスも消し去った。
    「もうちょっと私に縛られてほしいなぁ☆ ……蹴矢ちゃんったら、いけずだねっ!」
     縛霊手を構え、夜霧が言う。
     相手がバッドステータスを消したなら、また付ければいい。
     救援を信じ、灼滅者達は戦い続けた。

    ●救援、転機
     救援の花火を上げて3分がたった。
    「ほらほら、避けないと沈めちゃうよ?」
     蹴矢は執拗な蹴撃を繰り返してくる。狙われた秋夜を庇うように、昴が前に出た。
     構えた盾ごと吹き飛ばされ、しかし受身を取って何とか威力を殺す。
     だが。
    「雨宮、頼む!」
     次の一撃を受けきれないと判断し、昴は後方へ下がった。
    「了解だぜっ」
     同時に、夜彦が前衛へと上がってくる。
    「でもさ、キミだって、同じようなものでしょ?」
     その間に、へるがシールドで敵を殴りつけた。何とか、自分へ目を向けさせたい。それに、実際、蹴矢も癒せぬ傷で体力が減っているはずだ。いくつかの攻撃は、確かに手応えがあったのだから。
    「煩い」
     しかし、蹴矢が狙ったのは秋夜だった。
    「く……そっ」
     そんな蹴りなど効かないと、言いたかったけれど。
     吹き飛ばされ、地面に身体を打ち付けられ、秋夜の意識が一瞬飛んだ。
    「秋夜先輩……っ!」
     雪音の叫びが響く。
     急いで駆け寄り、出来る限り傷を癒す。
    「ふ、あっはっは。さあ、次はお前だ!!」
     蹴矢は笑い、次に優樹へと迫ってきた。
     その時、敵と優樹の間に、新たな人影が滑り込んできた。
    「待たせたね」
     救援チームクレミスのアストルだ。
    「増援?!」
     舌打ちをする蹴矢。風香、白と白の霊犬・黒子、アプリコーゼも次々飛び込んでくる。
    「は、良いよ。まとめて蹴散らす!!」
     それを見て、蹴矢が跳躍した。勢いに任せた攻撃にも見えたが、狙いは正確だ。
     穿つような鋭い蹴りを覚悟した仲間達の前に、黒子が躍り出る。
    「な――」
     仲間を庇った黒子の身体が、一瞬で砕け散り消滅した。
    「いい子ですね……。その程度ですか? どこを狙ってるんです?」
     白の言葉を聞き、蹴矢は気分を害したように表情をゆがめる。
    「じゃが、手傷を負っているようでもあるの」
     強大な敵だが、決してかなわないわけではない。風香が言うと、皆慎重に武器を構え直した。
    「よっし、ボク達もまだ、行けるよね♪」
    「せやな」
     夜霧とラックスが頷き合う。
     救援チームからの回復を受け、今癒せる分は、全て癒された。
     ここから押し返す。
     灼滅者達は、勢いを取り戻したように攻撃を再開した。
     その間に、一旦後方へ下がっていた昴も、傷を癒し前線に戻ってくる。
     入れ替わるように夜彦が後方へ下がり、体制を整えた。

    ●終焉
    「もう一押しだよ」
     仲間を鼓舞するような優樹の声を聞き、皆が顔を上げる。
     優樹は素早く敵の背後に回り込み、ここぞとばかりに斬り付けた。
     蹴矢の顔が歪む。
     前衛が増え、狙われる頻度が減り、回復の心配も無くなった。
     攻撃の手が増えたことにより、再び互角の戦いができるようになったのだ。
     チームクレミスの残りの4人が駆けつけた頃には、灼滅者達が蹴矢を押し始めていた。
    「皆、無事帰るんだ」
     祈りにも似た、雪音の言葉。招いた優しい風が、前衛の仲間を癒していく。
     その間も、攻撃の手は休めない。
    「あはっ☆ もっとボクに愛を教えてっ!」
     器用にナイフを操り、夜霧が蹴矢の身体を斬り裂いて行く。
    「う、ぁ、ああああぁ」
     はじめて敵が苦痛の声をあげた。
    「よし、続くぞ」
     低い姿勢で走り込む夜彦の姿は、さながら獣のようだ。炎を纏ったエアシューズで蹴り上げれば、敵の身体が宙に舞った。
    「ボクの足技はちょっとどころじゃなく可愛いよ♪」
     足技には、ちょっと自信があるからねと、へる。エアシューズを煌かせ、軽やかに跳ぶ。
     空中で身体をひねり、鮮やかな跳び蹴りを炸裂させた。
    「ち、ぃぃぃっ」
     砂浜に打ち付けられた蹴矢は、両手で地面を押し身体を起こす。
     それをめがけて、ラックスと昴が走った。
    「随分暴れてくれたが、終わりだ」
     上段の構えから、昴が真っ直ぐ刀を振り下ろす。
     重い一撃に、蹴矢のうめき声が聞こえた。
    「全力で吹っ飛べ!!」
     続けてラックスが死の光線を浴びせると、蹴矢の身体が吹き飛んでいった。
     すでに受身を取ることもできないのか、勢いのまま地面を転がる。
     仲間からの回復を受け、秋夜も再び立ち上がった。
    「俺が真っ二つにしてやんぜ!」
     勢い任せにマテリアルロッドで殴りつけると、蹴矢はピクリと一度痙攣し動かなくなった。
     夕日が地平線に吸い込まれ、いつの間にか辺りが薄暗くなっている。
     アンブレイカブル・蹴矢は、ただ静かに消えていった。

     未だ、次の救援要請の花火は見えない。
    「時間があるなら、回復するよ♪」
     へるの申し出に、クレミスの皆が頷く。
    「皆、ありがとね♪ 愛してるよっ☆」
     夜霧がサイキックを潰し、心霊手術を施した。
     皆が来てくれたから、敵を倒すことが出来た。
     次の戦場へ向かう仲間のため、優樹や昴、雪音に夜彦と、次々にクレミスのメンバーを回復させる。
     ともあれ、この場所での戦いは終わった。
     仲間達は明日へと続く臨海学校を思い、キャンプへと向かった。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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