臨海学校2014~夏の北海道でキャンプを

    作者:天木一

     北海道興部町。緑茂る大地を進むと一面の青い海が広がる。
     夏の日差しが色鮮やかに海を照らしていた。
     そんな中、『HKT六六六』とロゴの入った一台の黒塗りのバンが止まる。
     ドアが開き中からぬっと出てきたのは、鍛え抜かれた太い手足にシャツやカーゴパンツがパンパンに膨れ、服の上からでも分かる筋骨隆々な男だった。
     肌は白く頭髪は金髪。サングラスの下は薄い色素の青い瞳。北欧系の人種の特徴が現われていた。
    「日本にしてはここはそれ程暑くないな……」
     男が周囲を見渡すと、香辛料の香りが漂ってくる。
    「この匂い……カレーか」
     その匂いの元を目で追うと、少年少女が騒いで料理をしている姿があった。
    「次の対戦者はあいつらなのか? 戦いの場で悠長に料理とは……ふん、舐められたものだな。まるでバカンスに来ているようではないか」
     サングラスの奥の瞳を細くして睨みつける。
    「いいだろう、我が祖国ロシアのサンボの力でその余裕の笑みを消し去ってやる……!」
     男は殺気を放ちながら大きく踏み出した。
     
    「突然な話だけど、北海道の部町で臨海学校を行う事になったんだ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)の言葉に、教室に集まった灼滅者達は驚いた顔を見せる。
    「どうも武神大戦天覧儀が、次の段階に進もうとしているみたいなんだよ」
     その言葉に灼滅者の顔が真剣なものになる。
    「天覧儀を勝ち抜く最後の席を巡って、業大老が沈むオホーツク海の沿岸の海岸でバトルロイヤルが行われるようなんだ」
     日本各地から天覧儀を勝ち抜いた猛者が、北海道興部町の海岸に集まろうとしている。
    「そこでみんなに、興部町の海水浴場、沙留海水浴場周辺でキャンプを行なって、ダークネスを迎え撃って欲しいんだ」
     敵がいつ来るかははっきりとしない。だからキャンプをして待っていれば敵の方から戦いを仕掛けてくるだろう。
    「臨海学校を楽しんで、敵が現われたら倒して欲しいんだ」
     敵が現われるまでは存分に遊んで待てばいいだろう。もちろんバラバラになったりするのは危険だ。だが問題ない程度には遊ぶ事が出来る。
    「こちらが少人数でキャンプを行なっていれば、ダークネスは警戒せずに攻撃を仕掛けてくるはずだよ」
     それぞれのグループが離れた場所で敵を待ち構える事になるだろう。
    「それと、今回は倒しても闇堕ちをする事はないんだ。その点は安心して戦えるね」
     止めを刺しての闇堕ちが無いなら、存分に力を発揮して戦う事が出来る。
    「後1つ、今回は特別に戦いを支援してくれるチームがあるんだ。戦闘開始して、少し持ち堪えればそのチームが駆けつけて、一気に攻勢に移る事が出来るよ」
     支援が到着すれば一気に戦力が倍増する。敵を倒すのも容易くなるだろう。
    「今回はこちらが優位に戦える状況だからね。敵を倒すのが目的だけど、みんなで臨海学校も楽しんできて。せっかくの海なんだからね」
     楽しまないと損だと言う誠一郎の言葉に、灼滅者達の緊張も解かれ北海道の海へと思いを馳せた。


    参加者
    宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)
    式守・太郎(ブラウニー・d04726)
    風花・蓬(上天の花・d04821)
    雑釈谷・ヒョコ(光害・d08159)
    七峠・ホナミ(撥る少女・d12041)
    レナ・フォレストキャット(山猫狂詩曲・d12864)
    天里・寵(プライド・d17789)
    プリュイ・プリエール(まほろばの葉・d18955)

    ■リプレイ

    ●海水浴
     見渡す限りの青がどこまでも広がる。遠く水平線まで何も遮ることなくずっと青と白の景色が続いていた。
     ここは北海道興部町。広大な大地に拓けた景色は東京では味わえない風景だ。
     そこへ水着姿の灼滅者達がやってくる。
    「ホッカイドー!」
     海を目の前に白と緑の水着を着たプリュイ・プリエール(まほろばの葉・d18955)が両手を広げ、気持ち良さそうに風を感じる。
    「とりあえずは遊ぼう!」
     雑釈谷・ヒョコ(光害・d08159)が海に向かって走り出す。すると仲間達も笑顔でその後に続き海に足を踏み入れる。
    「ノマも一緒に、行きまスよ」
     プリュイは一生懸命ビニールイルカを膨らませると、ナノナノのノマと共に海に乗り出す。
    「うにゃ~!」
    「やりましたね!」
     元気良く白と水色の水着を着たレナ・フォレストキャット(山猫狂詩曲・d12864)が水を掬って飛ばすと、黒いワンピースの水着を着た風花・蓬(上天の花・d04821)もお返しと掬って飛ばし返す。
    「まーぜーてっ」
     そこへ赤いビキニの七峠・ホナミ(撥る少女・d12041)も加わり、3人は笑いながら水を掛け合う。
    「そーれクラゲだよひょこちゃん!」
     シャツにサーフパンツ姿の天里・寵(プライド・d17789)は海で見つけた小さなクラゲをヒョコに投げ付ける。
    「ぐえっ」
     それを顔で受け止めたヒョコはカエルが潰れたような声を漏らす。
    「ひょこちゃん、ちゃんと警戒しなきゃだめなんですよー! そーれベシーン!」
    「……なるほど! 海での遊び方がわかったぞ!」
     更に投げてくる寵に向かい、ヒョコは拾ったワカメを思い切り投げ返した。
    「うわっちょっ、天然のワカメ大き過ぎじゃないです?」
     ワカメ攻撃を受けた寵が逃げ出すと、ヒョコはそれを追いかける。
    「完成!」
     大きな砂山を作り貝殻で飾りつけた宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)は、満足そうに頷いて眺める。だがその光景を維持できたのも僅かな間。そこにクラゲとワカメが飛来して突き刺さった。
    「……お返しだよ!」
     絢矢は走り回る寵とヒョコに水を飛ばした。不意を突かれた二人は頭でワカメとクラゲをキャッチしていた。
     一泳ぎした式守・太郎(ブラウニー・d04726)が海から出てくる。その姿はトランクス型の水着に防水加工した白いマフラーといったものだった。そのまま荷物が置いてある場所まで歩いていく。
    「ビーチボールで遊びませんか?」
     そこに置いてあったビーチボールを手に仲間を誘う。
    「いいですね、やりましょう!」
     最初は戦いがあるからと硬い表情だった蓬も、皆の雰囲気に当てられ笑みを浮かべて水辺から駆け戻って来る。他の仲間達も面白そうだと集まってきた。
    「それじゃあ行きますよ!」
     太郎がビーチボールを打ち上げ、みんなでビーチバレーが始まった。

    ●カレー作り
     海での遊びも一段落すると、次はお腹を空かせて夕食を作る事になる。
    「カレーには北海道の特産品を沢山入れましょう!」
     絢矢がそう言って用意したのは蟹だった。
    「そうですね、北海道なのでやっぱりシーフードカレーでしょうか」
     太郎の手にはエビとホタテがあった。
    「美味しいもの一杯の北海道、その海の幸を使ったシーフードカレーを作りましょ!」
    「僕、シーフード大好きなんですよね、ヤッター!」
     ホナミが北海道の具材を使ったシーフードカレーを作ろうと提案すると、寵は喜んで賛成する。
    「私はイカが好きだからイカを入れるといいと思うよっ」
     ヒョコは味見と称してあれこれとちょっかいを出しつつ、自分の好きなイカを薦める。
    「ひょこちゃんイカ好きなの? じゃあタコ入れよっか。じょーだんだよ」
     寵がヒョコをからかうと、怖い顔で睨まれた。
    「タコじゃなくてイカね! タコだと宇宙的パワーが足りない!」
     ヒョコはそう言って用意したイカをまな板に置いた。
     真剣な表情で蓬がジャガイモを剥いていると、隣で玉葱を切るホナミの姿が目に入る。動く度に揺れる胸元。それを見て蓬は自分の胸元を見下ろす。それは見事に断崖絶壁だった。
    「はぁ……」
     溜息を吐きながらも包丁を動かす手は鮮やかで、次々とジャガイモの皮が山積みになっていく。
    「手伝いまス」
     そこへプリュイが来ると、蓬は胸元を見て仲間が来たと安堵して、人参を用意した。
     大きな鍋に切った野菜を投入していく。そして水を満たすと火を点ける。
    「そろそろご飯を炊きますね」
    「僕も手伝うよ」
     太郎が米を研ぎ、絢矢が飯盒を用意する。そして分量どおりに米と水を入れて火にかけた。
    「コーンも入れてみるにゃん」
     レナが続けてたっぷりのコーンを投入する。
     ぐつぐつと煮立ったところへシーフード系の具材を投入する。火が通ると最後にカレールゥを溶かしながら入れる。すると一気にスパイスの香りが漂い、カレーらしくなった。
     後は味が染みるのを待つばかり。その時だった。足音が近づいてくる。警戒していた灼滅者が振り返れば、堂々と一人の男がこちらに向かって歩いて来た。金髪に白い肌、北欧系と思われる外見。鍛え抜かれた体から発するのは鋭い殺気。
    「お前達が次の相手か、俺の名はヤーコフ。この名を刻んで死んでゆけ!」
     男はサングラスを外して放り投げると、獲物を狙う獣のように灼滅者に向かって駆け出した。

    ●アンブレイカブル
     迫るヤーコフの前に太郎が剣を構えて立ち塞がる。
    「俺の全身全霊をもって相手になります」
     放たれた右拳を剣で受け止める。剣は白光に輝き拳を弾き返した。だがそれを想定していたようにヤーコフは左手で太郎の右腕を掴んで背後に回りながら捻り上げる。そして躊躇なくそのまま腕を折った。
    「ぐっ!」
     太郎は痛みに耐えながら振りほどこうとする。だが巧に姿勢をコントロールしたヤーコフは、肘打ちを太郎のこめかみに向けて打つ。
    「そうはさせない!」
     絢矢がエネルギーの盾を拡げてその一撃を受け止める。その隙に太郎は足元の影を伸ばす。影は無数の腕となってヤーコフの足元から襲い掛かった。
    「フンッ!」
     足を摑む影をヤーコフは払い除ける。だがそのタイミングで太郎は宙で回転して捻られた腕を正常に戻す。そして左手に持った剣を突き出した。
    「チィッ」
     ヤーコフは手を離して仰け反るように躱す。そこへ焦がさぬようカレー鍋を火から下ろし終えたホナミが、槍を振るい氷柱を飛ばす。氷の塊は敵の足に当たり凍りつかせる。
    「今よ!」
     ホナミの声に合わせ、足を止めたヤーコフの背後から人影が近づく。
    「風花蓬、参る……!」
     蓬は刀を鞘走らせ白刃を抜き放つ。刃は敵の太股を横一線に斬り裂く。赤い血が転々と砂浜を染めた。
    「ちょこまかと!」
     ヤーコフは蓬を捕まえようと腕を伸ばす。だがその腕は途中で止まった。
    「うにゃにゃ~!」
     レナの影が触手のようになって体に巻きつき、動きを阻害していた。
    「さあ、ガンガンいこう!」
     そこへ死角から寵が槍で脇腹を貫く。筋肉の鎧が引き締められて穂先が深くまでは入らない。ならばと捻って傷口を拡げる。
    「太郎さん大丈夫?」
     仲間が気を引いている内にヒョコが縛霊手から光を放ち、太郎の折れた右腕を治療する。
    「ありがとうございます」
     太郎は右手で刀身の無い柄を握る、すると太陽のような光が放たれ刃を形成する。その剣を振るうと刀身が撃ち出された。
    「数が多いか、ならば一人ずつ仕留めてやろう」
     ヤーコフの光刃を腕で受け、槍を掴んで寵を引き寄せようとする。寵はバランスを崩す前に槍を手放す。
    「テヤァ!」
     逆に槍を引く勢いで腕が開いたヤーコフに向け、プリュイがローラーダッシュで突っ込み炎を纏った蹴りを放つ。その一撃は胸を捉えた。ヤーコフは攻撃を受けながらもその足を掴む。そして倒れ込むように引き込んだ。一瞬にして足首を捻られる。プリュイも極められないよう回転しながら自由な方の足で蹴りを入れるが、体勢が悪く満足な一撃とはならない。ヤーコフは押し倒すようにプリュイの体を地面に押し付けた。
    「イ、痛イでスッ」
    「女の子を押し倒そうなんて、変質者ですか?」
     寵が剣を振るう。刀身が伸びて鞭のようにしなり襲い掛かる。ヤーコフは手を放して転がるように寵に接近すると、そのまま足にタックルし、押し倒しながら足首を獲る。
    「今度は男って、ほんとに変質者です!」
     嫌そうに叫びながら寵は剣を突き立てる。刃はヤーコフの肩を抉ったが、止まることなく足を捻られ右膝の関節を壊された。
     挫いた足を引き摺るプリュイに、ノマがハートを飛ばしてその怪我を治療する。
    「ノマのオ陰で助かりまシた」
     プリュイは足の怪我を確かめると、雷を纏った拳を固めて駆け出す。そして寝技を行なっているヤーコフの顔に叩き込んだ。だがその腕を摑まれ次は腕を捻られそうになる。しかしその前に蓬が上段から腕目掛けて刀を振り下ろす。ヤーコフは咄嗟に手を離して逃れようとするが、刃は鋭くその腕を斬りつけた。
    「ホームラン打つにゃん!」
     レナが猫の前足のような杖をフルスイングする。立ち上がって避けようとしたヤーコフの体を影が縛る。
    「逃さないわよ」
     見ればホナミの影が縄のように体を縛っていた。動きを封じられたところへ杖が脇腹に直撃し肋骨を打ち砕いた。
    「足が変な方向に曲がってるよ!」
    「ちょっとカルシウムが足りなかったみたいです?」
     ヒョコが寵の足を指差して治療を始めると、寵は軽口で返す。
    「フン、やるではないか。日本の戦士も弱くは無いということか」
     血の混じった唾を吐き捨て、笑みを浮かべたヤーコフは拳を固めて殴り掛かってくる。
    「あんたは何で戦うの?」
     楽しそうに戦う敵を見て、前に出た絢矢は放たれた拳を盾で受け止めながら不思議そうに問いかける。
    「戦いに理由など無い。戦士と出会ったならば、ただ拳を交わしてどちらが強いか語るのみ!」
     盾を貫くような拳の衝撃を受け、絢矢は後ろに下がりながら花柄のストールを振るう。すると鋭く布槍となってヤーコフの足を貫いた。
    「やっぱり聞いても分からないや」
     布を引き抜く。だがそれを追いかけるように敵が迫る。それを防ぐように太郎が間に剣を差し入れた。ヤーコフは先と同じように太郎の腕を獲りにくる。
    「そう来るのは予想通りです」
     だがそれを読んだ太郎は雪のように白く輝くオーラを纏って足払いをする。バランスを崩したところへ剣を突き刺す。刃が腹を貫通した。
    「やるな、ならば俺の得意技を見せてやる!」
     剣が刺さったままヤーコフは跳ぶ。そして太郎の腕を掴み跳び関節を仕掛ける。勢いに押し倒され腕ひしぎ十字固めで右腕を折られる。太郎は反対の手で光剣を突き出す。ヤーコフはそれを左腕に食い込ませて受け止め、右の拳を心臓に叩き込んで太郎の意識を奪った。
    「この後食事の時間なんで、そろそろご退場願いますね」
     寵は腕を砲台に変形させて光線を放つ。ヤーコフはその光に呑み込まれた。しかし体中を光に蝕まれながらも前進し、寵の足元にスライディングして光線から逃れると、そのまま蟹挟へ移行して寵を転ばせる。
    「それなら、代わりにお前達の命を喰らってやろう」
     馬乗りになってマウントを獲ると顔面を殴りつける。腕で庇うと胸に拳を叩き込まれる。
    「ソレ以上、仲間をヤらせません」
     プリュイが背後から鋼のような拳を撃ち込み、ホナミが横から槍を突き、レナが杖を叩きつける。だがヤーコフはどれだけ攻撃を受けようとも拳を止めずに、腕を叩き折り拳を眉間に打ち据えて寵を昏倒させた。

    ●援軍
    「これは拙い状況だね」
     太郎と寵、続けて二人の仲間が倒れたのを見て、絢矢は急ぎ救援要請の青い花火を打ち上げる。
    「それは何のつもりだ?」
     そこへ迫るヤーコフに対して蓬が死角から刀を振るう。
    「キャンプに花火を上げるのは普通だろう」
     表情も変えずに言う蓬に、敵は口元を曲げて睨み付ける。
    「フン、舐められたものだ」
     ヤーコフが蓬に向かってタックルを行なう。蓬は跳躍してその腕を蹴ると、飛び越え逆さになりながら刃を降らす。ヤーコフは屈んで避けるが首筋に赤い線が奔る。
    「にゃにゃん!」
     蓬に意識が向いている間に、レナが影を伸ばしてヤーコフを捉える。
    「遠距離攻撃はないみたいね」
     そこにホナミが氷柱を撃ち込んで動きを止めた。
    「タァー!」
     続いてプリュイが蹴りを放つと、合わせてノマがしゃぼん玉を飛ばす。避けられぬと、ヤーコフは少しでもダメージを減らそうと腕でガードした。
     そこへ絢矢が背後からストールを振るい氷柱を飛ばした。背中を凍らされて振り向いたところへヒョコが魔力を込めた杖を打ち込んだ。
    「後6人か、次はお前を潰そうか」
     ヤーコフの手がヒョコに向かって伸びる。だがその腕をプリュイが蹴って弾いた。ならばとプリュイに伸びる手をノマがしゃぼん玉で弾く。
     だがまだ諦めずにヤーコフは屈むようにしてから脚を伸ばし蟹挟で引き込もうとする。だがその脚を遠くからの攻撃に弾かれた。
     攻撃の飛んで来た方を見る。すると新しい人影がこちらに向かっていた。
    「伏兵だと?! まだ仲間が居たかッ」
     起き上がるヤーコフの視界に入ったのは灼滅者の救援チーム8名。
    「庇え、鉤爪! 攻撃を通させるな!」
     煌理がそう言うとビハインドが立ち塞がるように割って入る。
    「だが数だけ多くとも仕方あるまい。お前等がどれほどのものか、試してやろう!」
     気合を込めて迫るヤーコフの拳の連打をビハインドと飴が続けて受け、華乃と有栖が横手から攻撃する。途切れなく続く攻撃に敵は間合いを開けようと跳び退く。だがそこへ煌理はビハインドと連携して挟撃を仕掛けた。
    「ならこれはどうだ!」
     ヤーコフがタックルを行なうとビハインドが受ける。そのままマウントを獲って殴るところへ暦が巨大な杭を撃ち込む。衝撃に前のめりになったところへ葵が仕掛けてビハインドを解放させた。その間にチセはすぐさま回復を行なう。
     そうして敵が援軍に仕掛けてる間に、大勢を整えた灼滅者達は一気に勝負を仕掛ける。
    「天覧儀に勝者は現れない。あんた達に与えられるのは惨めな敗北だけだ」
     絢矢はストールを背中に突き刺す。ヤーコフは裏拳を放つが、ビハインドが代わりに受け止める。
    「遅くなるとカレーが冷めちゃうにゃ!」
     レナが杖を振るう。
    「寵さんの仇、討たせてもらうよっ!」
     ヒョコが杖を振り下ろす。ヤーコフは左腕で受け止めて、右の手で掴み掛かってくる。
    「花火のように散れ」
     低い姿勢で踏み込んだ蓬の刀が跳ね上がり、銀閃がヤーコフの右腕を斬り落とした。
    「片腕が使えぬ程度で!」
     だがヤーコフは引かずに左手で掴もうと腕を伸ばす。
    「天覧儀ハ、ココで終わりでス」
     プリュイが残った左腕を鋼の拳で殴りつけ、無防備になった胸元へ、拳を振り抜いた勢いのまま後ろ回し蹴りを打ち込んだ。
    「ぐぐぅあ!」
     何本もの骨が折れる音。それでも堪えてプリュイの足を掴んだ。そして蹴りを放つがビハインドに阻まれる。
    「これで終わりよ!」
     ホナミが腕を鬼の如く変化させ全力で打ち抜く。拳はヤーコフの顔面を捉え、頭を吹き飛ばすような勢いで吹き飛ばした。
    「こんな、ロシアのサンボ使いである俺が……あり、えん……」
     仰向けに倒れたまま、ヤーコフは息絶えた。
     戦いは無事に勝利を得る事が出来たが、救援チームの前衛は消耗し、酷使したビハインドは消滅してしまった。
     そしてゆっくり治療する暇も無く次の戦場へと走り出す。
    「がんばって!」
     そう声をかけ走り去る背中にヒョコ、絢矢、プリュイが回復のサイキックを撃ち込む。すると任せろと手を振って救援チームの仲間は視界から消えた去った。

    ●みんなでカレー
     ぐつぐつと煮える音。そして香辛料の効いたカレーの香り、それに魚介類のものが混じって食欲をそそる。
     それらに刺激されて太郎が目を開けると、そこには料理を行なう仲間達の姿があった。
    「目が覚めたのね」
    「戦いはどうなりました?」
     近くに居たホナミに太郎は尋ねる。
    「救援班と一緒にちゃんと灼滅できたわ」
    「カレーが完成しましたけど、食べられますか?」
     蓬がカレーを盛った皿を手に尋ねると、太郎は痛む体を起こした。
    「大丈夫、いただくよ」
     顔をしかめながらも笑顔を作ってカレーを受け取った。
    「ゼヒ特盛りデ!」
     プリュイは山のように盛って貰ったカレーを前に頬を綻ばせ、ぱたぱたと隣でノマも楽しそうに飛んでいた。
    「いただきますだにゃ」
     レナはふーふーと息を吹きかけてぱくりと食べる。
    「からいにゃ。でも、おいしいにゃ」
     汗を掻きながらも目を輝かせ、楽しそうに小さな口を一杯にしていた。
    「蟹が美味しい!」
     絢矢はスプーンを咥えて満足そうにカレーを頬張る。
    「ご飯もちょっとおこげがあって美味しいですね」
     蓬も自分の分をよそって味わう。戦いを終えて漸く心から楽しむ笑顔を見せた。
    「ほら、起きて起きて! カレーだよっ!」
     ヒョコが寝ている寵をつついて起こす。
    「痛い痛い、ひょこちゃん分かったから、つつかないで。ああっカレーが垂れてる!」
     寵は襲い来るカレーの飛沫から逃れようとするが、痛む体に思わず硬直する。その隙にカレーがぽたりと顔に直撃した。
     賑やかな食事は続く。キャンプで自分たちで作る食事はどんな一流店にも出来ない味わいを生み出す。
     広大な海に星の輝きが映る。北海道の味と景色を堪能し、灼滅者達のキャンプは続く。

    作者:天木一 重傷:式守・太郎(ブラウニー・d04726) 天里・寵(超新星・d17789) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ