北海道興部町、北海道のオホーツク海に面したこの町は362平方キロの面積を誇る。これは、東京23区の半分に相当する広大さだ。が、これが人口になると一転、4000人を僅かに超える程度で人口密度で考えれば武蔵野市の1万分の1以下なのだ。
10km以上にわたる真っ直ぐな海岸線は、武蔵坂学園の臨海学校が快適に行なえるほどの広さがある。そこへ、一台の黒塗りのバンがやって来た。『HKT六六六』とロゴの描かれたドアが開くと、そこに降り立つ者がいた。
「んー、ここが『会場』?」
長身の女だ。身長は一九十近くはある。艶やかなロングの黒髪、いっそ愛らしく整った顔立ち、その体躯も女性らしいラインをしっかりと描いていた。そんな目立つ女が黒いジャージで目をこすりながらバンから降りてくる姿は、いっそコメディと言った方が似つかわしい。しかし、その動きを隙と呼べる者はなかった。もしも隙と見て襲い掛かる者がいれば、逆に打ち倒される事となるだろう――それほどの力量を持っているのだ。
「お、一杯いるねー、いいねーいいねー。でも、ちゃーんと常在戦場は、出来てるかなー? アタシが確かめてあげよー」
常在戦場――その信条が、彼女から隙を奪っている。どんなにだらけて見えても、彼女は常に自身を戦場に置いているのだ。だからこそ、臨海学校で遊ぶ者達にもそれを求めた。
「ひゅー、どっかーん!!」
巻き起こるゲシュタルトバスターの爆炎が、砂浜に吹き荒れる。女は短距離走で言うクラウチングスタートの体勢を取ると、ニコリと無邪気に微笑んだ。
「あんぶれいかぶる、烈火奏、いっくぞー!」
ドン! と、一気に加速した女――奏が、爆炎の中へと自ら突っ込んだ。
「北海道の興部町で臨海学校を行う事になったんすよ」
湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)の言葉は、楽しい行事には似つかわしくない苦々しさに満ちていた。
「ただ、武神大戦天覧儀が、遂に、次の段階に進もうとしているらしいっす。予測していた人も多かったっすけど、天覧儀を勝ち抜く最後の席を賭けたバトルロイヤルが、業大老が沈むオホーツク海の沿岸の海岸で行われるんす」
翠織の視線は、杠・嵐(花に嵐・d15801)に向けられる。彼女も、そんな予測をした一人だからだ。
「日本各地から天覧儀を勝ち抜いた猛者が、北海道興部町の海岸に集まろうとしてるっす。皆には、興部町の海水浴場、沙留海水浴場周辺でキャンプを行い、やってくるダークネスを迎え撃って欲しいんすよ」
敵がいつ来るかはわからない。ただ、海岸でキャンプをしていれば向こうから襲撃してくるのは間違いない。なので、臨海学校を楽しみつつ、だが、警戒も怠らないようにして欲しいっす、と翠織は前置きしたままで続けた。
「少人数にわかれてキャンプを行うことで、ダークネスを警戒させずに、戦闘を仕掛けさせることができるはずっす」
敵は、烈火奏というアンブレイカブルの女だ。見た目や言動は気が抜けそうだが、かりの強敵だ。
「今回は幸い、止めを刺した灼滅者が闇堕ちするという事は無いっす。思いっきり戦えるっすよ」
また、臨海学校で敵を待ち受けるのとは別に、戦闘を支援するチームも編成されている。戦闘開始後、ある程度持ちこたえれば、支援チームが駆けつけて戦闘に加わってくれる。そうなれば、いくら強敵と言えどダークネスを圧倒することも出来るだろう。
「臨海学校が、天覧儀に邪魔されてしまったのはあれっすけど、ダークネスを倒しつつ、出来る限り臨海学校も楽しむといいっす」
翠織は一つ大きくうなずき、そして真剣な表情で締めくくった。
「集まったダークネスを全て撃破することができれば、武蔵坂学園は天覧儀の勝者の権利を得られるっす。そうなれば、武神大戦の真相を暴くチャンスになるはずっす。どうか、頑張って欲しいっすよ」
参加者 | |
---|---|
灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085) |
逢坂・兎紀(嬉々戦戯・d02461) |
神威・天狼(十六夜の道化師・d02510) |
久織・想司(錆い蛇・d03466) |
エリ・セブンスター(壊れかけのシャボン玉・d10366) |
村井・昌利(吾拳に名は要らず・d11397) |
杠・嵐(花に嵐・d15801) |
白石・作楽(櫻帰葬・d21566) |
●
「ん……いい朝だね」
小さく背伸びして、神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)は朝の海岸線を眺めた。
北海道興部町、北海道のオホーツク海に面したその真っ直ぐな海岸線こそ、武蔵坂学園の臨海学校の場所でもあり、武神大戦天覧儀の舞台でもあった。
「おはようございます、いい天気になりましたね」
「うん、おはよう」
しっかりと身支度を整えた久織・想司(錆い蛇・d03466)が、テントから姿を現わす。その足元には、霊犬の奈落が影のように付かず離れず付き従っていた。
「ったく、休む暇もねーなぁあたしらは。……まあいい。今日は一人じゃねーカラな」
「まさか天覧儀の対策と臨海学校を同時に行うとは思わなかったけど……楽しみつつ本分を全うするという意味では、これ以上にない臨海学校……かな?」
杠・嵐(花に嵐・d15801)の言葉に、白石・作楽(櫻帰葬・d21566)が微笑む。仲の良い、信じられる仲間が居る――それは、とても心強く、楽しい事だった。
「おはようございます、どうやら現在どうやら――」
携帯電話を手にテントから現われた、灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)は見た。
陽のすっかりと昇った、穏やかな海。砂浜。仲間たちの姿。満面の笑みを浮かべた、長身の黒ジャージの女。青い空。白い雲――本当に些細な、あまりにも自然にそこに立っていた女の姿に、全員の視線が集中した。
「やっほーいっ、何かぁ、私が最後っぽいよ?」
「そのようですね」
大きく手を振る黒ジャージの女――烈火奏に、フォルケも携帯電話を操作してうなずいた。
「うっわ、でっけー。いーなー」
三十センチ近く高い奏を見上げ、逢坂・兎紀(嬉々戦戯・d02461)が羨望の声を上げる。それに対しての奏の反応は、単純だった。それに、作楽はすかさずスレイヤーカードを引き抜いた。
「一期は夢よ、ただ狂え」
「どっかーん!」
ゴォ!! と、盛大に爆風が吹き荒れる。しかし、それに対処できない者はいない――爆炎の向こうから、楽しげな笑い声が響き渡った。
「常在戦場、出来てるね~!」
「まあ、いつもと変わらないな」
相手が何者であろうが、状況がどうあろうが関係ない。村井・昌利(吾拳に名は要らず・d11397)は、その身に行住坐臥造次顛沛をまとった。――相手を選ばず、時を選ばず、場所を選ばず――昌利にとって、それこそが常だった。
「名乗るよ、エリ・セブンスター。アンタを止める者の名だ。不意打ちなんて、せこい真似はやめて、正面から来たらいい」
エリ・セブンスター(壊れかけのシャボン玉・d10366)の言葉に、奏もまた応じた。
「あんぶれいかぶる、烈火奏、いっくぞー!」
ドン! と、一気に加速した奏が、爆炎の中を突っ切った。
●
一九十近い長身が、跳躍する。その高さ、軌道、動きに緩慢さは無縁だ。鋭い蹴りの一閃、旋風輪が灼滅者達を襲った。
「おやや?」
ヴォ! と巻き上がる砂塵。その中を駆け抜ける一匹の兎を、奏が目敏く見つけていた――うさぎ耳のパーカーを揺らして、動く天狼だ。
「行くよ」
音もなく膨れ上がった漆黒の殺気が、夜の津波のように奏を襲う。天狼の鏖殺領域が、着地した奏を飲み込んだ。直後、殺気を内側から食い破るように、奏の長身が跳び出す。
「っと」
が、すぐさま奏は急停止、砂場を踏みしめて背後へと右回し蹴りを放った。しかし、その軌道をしゃがんでかわした想司は蹴りの風圧に口元に微笑を浮かべる。
「ふ、確かに首を刈り落とされそうですね」
言い捨てるのと同時、想司は軸足で拳を押し付け殺意の闘気を刃に――。
「頭を叩き割るのも出来るよん?」
回し蹴りの軌道を急激に変えた、唸りを上げる踵落としに想司は横へ跳んだ。黒死斬の手応えが、浅い――敵は、紙一重でこちらの動きを見切ってくる。
「常在戦場ねえ。こちとら頭の中はいつも殺戮場です。その戦場で、あなたはおれを殺してくれますか?」
「ころしあいは、そうでなきゃ嘘じゃない?」
砂場を蹴り加速する想司に、奏は長い蹴り足で牽制。物騒な、空を裂く音だけが響き渡った。その音に、確かな死の足音を感じる――だからこそ、想司の笑みは濃さを増した。
「常在戦場か」
そこへ奈落による回復を受けた昌利が呟き、喧嘩用の指貫グローブを嵌め、手首を軽く揉む。そして、踏み込みながら名乗りを上げた。
「村井昌利。手合わせ、願おうか」
真正面から滑り込むように間合いを詰め、昌利の雷を宿した拳は自身の頭上にある奏の顎を正確に狙う。その名乗りに、奏は笑った。
「うん、烈火奏だよー!」
応じた奏がそれを両腕で受け止めると砂場から、足元を宙へと引き剥がされる。しかし、昌利はすかさず拳を引き戻し、頭部をガードした。
直後、牽制で放たれた回し蹴りが来る。その衝撃を完全に受け切り、昌利は前へと踏み出した。回し蹴りとは、腰や股関節の稼動域を利用する回転、遠心力が生み出した威力が肝だ。間合いを詰めて接触してしまえば、その回転の軌道も制限され、また打撃箇所も威力の低い場所になってしまう――とはいえ、その間合いに踏み込むのには恐れを踏み越える胆力が必要なのだが。
「お?」
「隙ありです」
昌利に密着され奏のバランスがわずかに崩れる。そこへ、ドン! とフォルケの放った魔法の弾丸が、奏の右肩を打ち抜いた。隙と呼ぶにはわずかな一瞬を、狙い打たれた。その事を強く感じながら、奏はバク転で大きく間合いを開ける。ザン! と砂地へと滑らかな動きで着地すると、長い黒髪を振り払い奏はようやく目を丸くした。
「うーん、いい目だね。油断がないっていうか、抜け目がないっていうか?」
それは、奏なりの最大限の賞賛だ。フォルケの視線は、今もこちらの動きをつぶさに観察している――その心構えへの賞賛だ。
「くっそ、間近で見ると、やっぱでかいな」
その奏の懐へと一気に潜り込んだ兎紀が、言い捨てる。そして、下段から燃え盛るマテリアルロッドを青いパーカーの兎耳と名前が示すように、兎がごとき跳躍と共に振り上げた。
「ちゃ~んと、食っちゃ寝しないと伸びないぞっと!」
それを肘と膝の交差法で受け止めた奏は、そのまま横回転。兎紀は振り回されながらも、体勢を崩さずに着地した。
「まだまだ!」
そして、エリがそのシールドに包まれた拳を奏へと叩き付ける。それを、奏は素手で受け止めた。ズシャ、とエリのシールドバッシュの威力を抑え切れずに後方へと跳んだ奏を待っていたのは、作楽の桜帰葬 ~衣通姫~が巻き起こした影の桜乱舞とビハインドの琥界が放つ霊撃の斬撃だった。
「わわわっと!?」
奏はそれを長い足で振り払い、琥界の斬撃を両腕で受け止める。火花を散らして鎬を削る、そこで作楽は友へと呼びかけた。
「嵐さん」
「了解ッ」
そこへ、すかさず嵐が飛び込む。渾身で放つ一撃に、奏の長身が舞う――着地した奏は、ふと視線を横へと向けた。
「ん?」
「私達が最後なら、何の遠慮をする必要もないでしょう」
その視線を追わなくても、フォルケには反応の意味がわかる。出会った瞬間に、メールを送ってあったのだ。
「救援班『KREMITHS(クレミス)』、援軍っすよー!」
アプリコーゼのしたっぱ口調と共に、騎兵隊ならぬ救援班『KREMITHS』が参戦する、それに奏はニッコリと無邪気に笑った。
「うんうん、うっれしいなー。すっごく久し振りに、本気でやれちゃいそうだよー」
奏の炎のようなオーラが、空中に無数の弾丸を生み出していく――それを見て、エリが叫んだ。
「来るよ!」
「ぱらららららららららららららら~」
気の抜ける声とは裏腹に、ドドドドドドドドドドドドドドドンッ! と鈍い砲声を鳴り響かせて奏のバレットストームが灼滅者達へと着弾していった。
●
砂場の戦場に、激しい剣戟が鳴り響く。
「およよ?」
鍔に蒼薔薇の装飾がある愛刀を手に迫る作楽を奏は見た。滑るような踏み込みからの流れるような居合い一閃、それを奏はオーラを込めた手で受け止める。ギィン、と弾かれた刃、作楽は刃を返して振り下ろした。そこへ、琥界も羽織をはためかせ加わる。その斬撃を一つ一つ、奏は笑顔で受け止めていった。
そこへ白焔の鍛え上げた拳の一撃と、アストルの異形の怪腕の一撃が重なる。奏が大きく後方へ跳ぶと、想司の横回転の遠心力を込めた裏拳が奏を捉えた。
「――ォオ!!」
守りの力を打撃に変えて、想司は振り抜く。奏はそれに吹き飛ばされるも、空中で即座に体を入れ替えた。その着地点に、アプリコーゼのマジックミサイルが降り注ぐも、奏は即座に放ったバレットストームで魔力の矢を相殺する!
「っと!?」
その間隙に、懐に潜り込んだ昌利の手刀が肋骨と肋骨の間へと正確に放たれた。それに、奏は強引な肘打ちを昌利の頭へ下ろし横へと跳ぶ。
「行って!」
「おお!!」
エリの女子力を注がれる集気法による回復を受けた兎紀が、一気に駆け込む。ボォ! と加速によって燃え盛る蹴り、兎紀に合わせてミストも同じくグラインドファイアを左右から叩き込んだ。
「うりゃ~!」
それを両腕でガードした奏は、燃える両腕で兎紀とミストの足首を掴んで強引に放り捨てる。そして、胸の前で両手をパン! と合わせた瞬間――ズドン! とゲシュタルトバスターの爆炎を巻き起こした。
「ちょーっと動かないでくださいねー?」
その爆炎を撃ち抜き、天狼の制約の弾丸が奏の脇腹を捉える。奈落の回復を受けて、死角へと忍び寄ったフォルケがその手刀で爆炎ごと奏の太ももを切り裂いた。
しかし、切り裂かれながらも奏は素早く振り返り、膝をフォルケへと叩き込もうとする。それを紙一重で邪魔したのは、風香のバスタービームだ。
「助かりました」
「何の、お安い御用じゃ」
その間隙に、フォルケは間合いを開ける。バランスを崩して膝が空を切った奏に、白のシールドリングの回復を受けた嵐が砂地を駆けた。畳み掛けるように放たれたフランキスカの妖冷弾を奏が掌で迎撃、砕いた瞬間に嵐は非実体化させたクルセイドソードで奏の胴を切り払った。
「まったく、手強いな」
「うん、キミ達もね~♪」
手応えはあった、その神霊剣の斬撃を受けてなおすかさず奏は前蹴りで牽制する。十六人と三体は、間合いを開けて奏を囲み直した。
(「甘く見たつもりはないが、押し切れなかったか」)
昌利は、胸中でそう判断する。八人と二体では、押し切れなかっただろう。これだけの人数、戦力があったからこそ、今優位に事を進められている――その事実を、昌利は素直に受け入れた。自身と未熟は鍛えればいい、敵の強さは称えればいい、昌利の思考はシンプルだった。
「本当、楽しいね~!」
奏が、駆ける。昌利は、それに応じた。繰り出される奏の抗雷撃に、昌利は渾身の右拳で返した。ドン! と闘気を瞬間的に打点へ圧縮集中し爆発させた一撃が相殺、そのまま奏の腹部へと突き刺さる!
「いつの間にか信頼しちまってた、頼もしいヤツだよ」
その拳に合わせた嵐のグラインドファイアの一撃が、くの字になりそうだった奏の首を薙いだ。吹き飛ばされた奏を、琥界の振るった枝から放たれた霊障波と、作楽の鬼神変が押し潰す。
「すっごいな、もう!」
それでも起き上がる奏に、エリが真正面から殴りかかった。闘気が、螺旋を描くその一撃に、奏は目を丸くしながら殴打される。
「もう一つ、お願い!」
「了解です」
奏の長身が生んでしまった死角から、身を低く構えたフォルケのティアーズリッパーが奏のジャージを大きく切り裂いた。そこへ、天狼はすかさず道化がごとき影を巨大化させて握り締める!
「兎紀先輩、想司先輩!」
「おう、これで終わらせてやんよ!」
兎紀と想司が、同時に地面を蹴った。そこへ、奈落が合わせて六文銭を射撃する。奏はそれを拳で叩き落とす――が、同時に兎紀のオーラを集中させた連打が防御をかいくぐって放たれた。
その閃光百裂拳に混ぜるように、想司は腕の延長に殺意の刃を形成――薙ぎ払う!
「楽しかったですよ」
「……うん、アタシも楽しかったー」
奏が、その場に大の字に倒れ込んだ。アンブレイカブル烈火奏、その灼滅は臨海学校における武神大戦天覧儀の戦いの終わりを意味していた……。
●
ジュッ! と、爽快な鉄板の音がする。お昼時、昌利は鉄板を使って軽い焼きそばを焼いていた。そのソースの香ばしい匂いを感じながら、フォルケは笑顔でロブスターを串刺しにしていく。
「皆で作ると楽しいですね~」
切り分けた肉や野菜、そしてアルミホイルの包みやマシュマロなど大き目の鉄板が手狭に感じるほど、豪華なバーベキューがそこにはあった。
「先輩、肉だけじゃなくて野菜も食べなきゃダメじゃないですかー?」
「お前だって大して食ってねーだろ! つーか肉食った?」
野菜を問答無用で兎紀の皿に盛った天狼に、兎紀は肉を頬張りながら野菜を天狼の皿に返していく。その微笑ましい光景に、想司は小さく笑った。
「こっちは、焼けたよ?」
「ん、そっちの分もくれ」
林檎&桃のシナモンホイル焼きとホットケーキを手にした作楽に、焼きマシュマロを一つ食べ切った嵐が口を開く。それに、微笑ながら作楽はシナモンを一切れ差しだし、代わりにマシュマロを一つもらった。
一噛みしただけで、口の中に甘味が広がっていく。それは、戦いが終わった体の芯にまで染み渡る甘さだった。
「嵐さんと一緒に臨海学校に参加できて嬉しい」
「ああ、あたしもだ」
笑みを交わす作楽と嵐は、そのまま甘味尽くしのループへと突入する。エリは、そんな仲間達の光景を眺めながら、呟いた。
「群れとしての強さか……その群れからはぐれたら……」
奏というアンブレイカブルは、八人で押し切る事は出来なかったかもしれない。救援がなければ、一人や二人はこんな穏やかな時間は過ごせなかっただろう――それがアンブレイカブル、ダークネスと灼滅者との厳然たる実力差なのだ。
「いかなる相手であろうと、いかなる戦いであろうと、全力を尽くすのみだ」
焼き終えた焼きソバを皿に盛りつつ、昌利は呟く。そうしている日常の中でも、昌利は戦いを忘れた事はない。
常在戦場とは、非日常の覚悟ではない。日常でこそ意味のある覚悟なのだ、確かにあのアンブレイカブルの女が残した覚悟は正しく戦った者達の胸へと刻まれた。
天に高く、夏の太陽が輝いている。武神大戦天覧儀は終わりを告げ次のステージへ、そして、臨海学校の終わりも近づこうとしていた……。
作者:波多野志郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2014年8月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|