臨海学校2014~晩飯前の落ちこぼれ

    作者:聖山葵

    「まだだ、ここで勝てば……」
     車の座席に座り、組んだ手に額を乗せるようにして一人の青年は呟く。
    「ん、着いたのか?」
     車が止まったことに気づき、顔を上げたのは、その数分後のこと。
    「世話になったな……さてと」
     短く運転手に声をかけ、黒塗りのバンから降りた青年は、首を巡らせた。
    「なっ」
     その視線が一点に止まった瞬間、青年は驚きの声を上げ、驚きはそのまま怒りへとシフトする。
    「なんだあれは?」
     顔を険しくした青年が見る先に居たのは、臨海学校を楽しむ灼滅者達の姿であり。
    「これから戦いだというのに……落ちこぼれの俺が相手なら飯の支度ついでで十分とでも言う気か?」
     吐き捨てた青年はべきべきと拳をならすと、憤怒の表情のまま歩き出す。
    「良いだろう、その余裕を後悔させてやる」
     鋭い眼光を戦いとは無縁そうな臨海学校の一幕に向けた青年は、完全に勘違いしていた。
     
    「話は聞いてる? 武神大戦天覧儀が、遂に、次の段階に進もうとしているらしいってものなんだけど」
     エクスブレインの少女は集まった面々に問うと、答えも待たずそのまま説明を始めた。
    「えっと、予想していた人も多かったみたいだけど、天覧儀を勝ちぬく最後の席を賭けたバトルロイヤルが業大老の沈んでるオホーツク海の沿岸にある海岸で行われるみたいなの」
     そう言う訳で天覧儀を勝ち抜いた猛者が、日本各地から北海道興部町の海岸に集まろうとしているのだとか。
    「私の予想したのは、『業大老一派一の落ちこぼれが天覧儀を勝ち抜いているのでは』というものでしたが」
    「うん、実際集まってくるダークネスの一人がその落ちこぼれさんだから間違っていないんじゃないかしら?」
     口を開いた川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)の言葉へ少女は素直に頷く。
    「それで、みんなには興部町の海水浴場……沙留海水浴場周辺でキャンプして、やって来るダークネスを迎撃して欲しいのよ」
     敵がいつ来るかの予測は出来なかったものの、海岸でキャンプをしていればダークネスの方から襲撃してくると思われるので、ある意味問題ない。
    「臨海学校の方を満喫して貰っても構わないけど、警戒は怠らないように」
     そんなに難しいお願いじゃないと思うのだけど、と続けた少女は「お願い出来るかしら」と首をかしげた。
    「少人数に分かれてキャンプを行えば、ダークネスを警戒させずに戦闘に持ち込むことが出来ると思うし……侮られたって怒るかもしれないけれど、冷静さを欠いて判断を誤らせることが出来るかも知れないし」
     敵もここまで生き残っている強敵ではあるが、臨海学校で待ち受ける面々とは別に支援用のチームも編成されることになっていると少女は言う。
    「ついでに言うなら、今回戦うダークネスにトドメを刺してもその人が闇堕ちすると言うことも無いみたいだから、後顧の憂いもないし」
     戦闘開始から暫く持ちこたえれば、支援チームが駆けつけてくる筈なので、ダークネスを圧倒することとて不可能ではない。
    「臨海学校が天覧儀のせいで場所の変更を余儀なくされてしまったのは、残念だけど興部町も良いところだと思うの」
     ダークネスを倒して臨海学校も楽しむと言う余地はまだ残っているのだ。
    「集まったダークネスを全部倒すことが出来たら、武蔵坂学園は天覧儀の勝者の権利を得る事が出来るわ」
     上手く行けば、そこから武神大戦の真相を暴くことも出来るかも知れない。
    「それじゃ、みんなお願いね」
     戦闘能力のない少女は、そう言って君達へ頭を下げたのだった。


    参加者
    江田島・龍一郎(修羅を目指し者・d02437)
    三影・幽(知識の探求者・d05436)
    海東・秋帆(デジタルノイズ・d07174)
    ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)
    竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)
    天瀬・ゆいな(元気処方箋・d17232)
    神隠・雪雨(人造スルイヤー・d23924)
    高坂・透(だいたい寝てる・d24957)

    ■リプレイ

    ●始めよう
    「……臨海学校って何なんでしょうね?」
     誰に向けてか不明な問いかけを発しながら、江田島・龍一郎(修羅を目指し者・d02437)は空を仰いだ。
    「これが『普通の』臨海学校ならば楽しめるのになぁ……」
     独り言をかき消せるほど海は近くなく。
    「あ、そういえば依頼でした」
     ただ三影・幽(知識の探求者・d05436)に一つのことを思い出させるには充分だった。
    「臨海学校の雰囲気が楽しくて、つい依頼を忘れそうになっていました……」
     青い空に白い雲、夕飯の準備はまだだが、そこに至るまでも臨海学校の一幕であるのは間違いない。
    「せっかくの臨海学校なんだし、誰一人欠けることなく楽しみたいよねぇ」
     携帯電話を弄りながら高坂・透(だいたい寝てる・d24957)はパーカーのフードから覗かせた瞳を海に向けた。
    「大丈夫、警戒は怠らないわ」
     アンブレイカブルがやって来ることは既に知っている。ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)は携帯電話をしまうと歩き出す。
     今日の夕食は二班に分かれて別々のメニューを作ることになっていたから予定通りの行動ではある。
    「……お肉に鶏肉は欠かせません。……後でカレーも食べに行きたいですし……あちらの食材にも、こっそり混ぜておきましょうか……?」
     食材入りの保冷容器の前で何やら企んでいた幽に気づいたかどうかは別として。
    「確かに妥当な位置だよな」
     仲間が足を止めたのを見て荷物を下ろした海東・秋帆(デジタルノイズ・d07174)は、目視の出来る場所に居るもう一方の班を視界に収めつつ思い出す。
    「私料理できないけどお手伝いはがんばりますね!」
     そう宣言した神隠・雪雨(人造スルイヤー・d23924)が「そういえば一泊二日でしたっけ」と呟いたのは少し前のこと。
    「テント張ったりしましょうか!」
     何て雪雨が提案したいたのも覚えていた。
    「あっちも始めたみたいだな」
     迎撃すべきダークネスを倒しても臨海学校は終わらない。秋帆も一夜を過ごすテントの支柱を組み立て始め、それが完成すれば待っているのは自由時間を挟んで夕食の支度。
    「新鮮だねぇ。さてと、こっちも……」
     取り出した野菜に目を落とした透は、程良い大きさに切り分けると今度は肉の塊へ手を伸ばし。
    「ま、こんなとこか。野菜? BBQの真髄をわかってねえな、肉だ肉」
     慣れた手つきで具材を通し、肉ばかりの串を作り上げた秋帆の手は再び肉へと向かう。
    「ん? 鶏肉?」
    「……はい。……お肉に鶏肉は欠かせません」
     米を洗っていた幽が二度言うことになったのは、きっと重要なことだからだろう。
    「だよな、肉はいいよな。俺達気が合うんじゃね? じゃ、さ……」
     会話のとっかかりを見つけた秋帆は幽をナンパし始め。
    「あ、えっと」
    「わうっ」
    「……ケイ」
     異性に近寄られ、挙動不審に陥った幽を救ったのは、間に割り込んできた霊犬のケイで。
    (「……そうですね。依頼は、油断無く成功させましょう……ね、ケイ……」)
     波音の中我に返った幽はすすっと秋帆から距離を取ると、再びお米を洗い始めた。

    ●カレー
    「では作るか。味はまぁ頑張るよ」
     取り出した材料を前にして宣言すると、龍一郎は苦笑しつつ動き出す。
    「自信がないなら手伝うけど? 家が商売だからご飯を作る事も多かったし」
    「いや……それよりも、その格好は動きづらくないか?」
     一応料理は出来るよと言う竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)に頭を振って問うたのは、柔道着姿の登がカツラを着けた上、胸に詰め物までしているからだろう。
    (「料理はマジで包丁すら握ったこと無いけどが、がんばってみようかな……」)
     調理を始めた男性陣に触発されたのか、二人を交互に見ていた雪雨は意を決して口を開いた。
    「得意な方、教えていただけませんか?」
     だが。
    「野外料理ってなんでこんなにワクワクしちゃうんでしょうねっ!」
     先を越されていたと言うか、何と言うべきか。二人には既に天瀬・ゆいな(元気処方箋・d17232)が話しかけていて。
    「材料ザクザク切りましょうっ! 不揃いだっていいじゃない! 個性!!」
     三人目として野菜の下拵えをすると、いかにもわざとやっていますと言わんがばかりに身体を寄せた。
    「どうです? 上手く出来てます?」
    「す、少し近すぎないか?」
     女装している登ではなく龍一郎をターゲットにしてるのは、きっと、これからやってくる拳鬼に冷静さを欠かせる為なのだろう。
    「まだ来ないね。火にかけてから出て来られると大変だから、出来れば材料を切り終わったころに出てくると嬉しかったけど」
     フライパンに具材を移しつつ登は陸地の方に視線をやったが、人影も車もまだ見あたらず。
    「そろそろ肉を入れるか」
    「野菜もしっかり炒めると型くずれしにくくなるよ」
     バターを馴染ませたフライパンでタマネギを炒めていた龍一郎の横には、他の野菜も炒めている登の姿。
    「火を落とそう。焦げたらかなわん」
     龍一郎が提案したのは、炒めた具材を鍋に投下し、灰汁を取りながら煮込み始めた後のこと。
    「もう、ルーを入れても良さそうですねっ」
    「確かに、頃合いかな」
     頷きを返し、ついでにソースや二種類のチーズを投入し。
    「ん?」
    「うわー、海に道着とか、シュールさ加減がたまりませんねー……」
     振り返って、鍋を見ていないゆいなの視線を辿れば、確かに怒りの形相を浮かべた道着姿の男がこちらへ歩いてくるところだった。
    「連絡、しておきますね」
     砂の上の花火を一瞥した雪雨は、念力で電話をかけ。
    「来たか。食事前の運動だ。覚悟しな」
    「……ほう、やはりそう言うこ」
     怒りを滲ませた拳鬼の視線が、龍一郎を突き刺し横にぶれて登へ固定される。
    「なんの……つもりだ?」
     かすれた声を吐き出した男の意識は、龍一郎から外れ、身体から漏れ出る怒りの質まで変わったかのようだった。
    「何のつもりだぁぁぁぁっ!」
    「今だっ」
     ある意味で、それは好機。冷静さを失い、激情のまま飛びかかろうとした拳鬼は他者を見ていなかった。だから、死角に回り込んだ龍一郎の斬撃は男の急所を捉え。
    「ぐっ」
    「こんなバカバカしい誘いに乗るなんて、本当に落ちこぼれなんだね」
     黒死斬が決まった瞬間、登はカツラを外して更に挑発する。
    「つつじ、ねぇ……。ライバルだったそうで」
    「どうせつつじさんには、ライバルとは思われて無かったんだよね」
     雪雨と二人がかりの挑発は道着の拳鬼へ悟らせた、登が事情を知った上であの格好をしていたことを。
    「うがああああっ」
     同時に冷静さを完全に失わせたところまでは、作戦通り。
    「こんなもんか。単純だな」
     ただ、一つ忘れていたこともある。男は、天覧儀で何度か勝利したアンブレイカブルなのだ。
    「道を空けろぉっ」
    「ダルマ……仮面?」
     進路を遮るように突っ込んでいったライドキャリバーが殴り飛ばされて宙を舞う。
    「拙いですね、これは」
     落ちこぼれという言葉に引っ張らて、敵を弱く見積もりすぎた。
    「これで」
     分裂させた小光輪を雪雨は障害物が消え、狙われ出した登の盾にするが、何処までもつものか。
    「うおおおっ」
     絡み付いてくる影の触手を避けることさえせず、男は掴みかかる。
    「させんっ」
    「ぐぅ、くたばれええっ」
     阻止すべく斬りかかる灼滅者にも構わず、傷を増やしながら投げ飛ばした登が海に消え。
    「……次は誰だ」
    「くっ」
     振り向いた拳鬼が残る灼滅者達を見。
    「まあいい、俺をこけにしがっ」
     突然巨大な腕に押し潰される。
    「青春の思い出を邪魔すんなよ、ぼっち野郎」
    「待ってたわ、ダーリン!」
     それは、三人にとって待ちかねた、仲間達の到来。
    「く、ぐおおおおっ」
    「これでも急いできたんだけどねぇ」
    「がっ、ぐおっ」
     身を起こしつつ獰猛に唸る拳鬼に透が回し蹴りを叩き込み、更に男の身体は突如、凍り付く。
    「なのは怪我人を頼むよ」
    「ナノナノ」
     更に秋帆のライドキャリバーである檣が突撃して行く中、透はナノナノに指示を出し。
    「ケイも――」
     腕に装着した殲術道具を振りかぶりながら、幽もまた霊犬へ指示を出そうとした瞬間だった。
    「ぬおおおおっ」
     一方的に攻撃へ晒されていた男が砂を蹴ったのは。両拳にはオーラが収束し、拳鬼の瞳に映るのは、最初に対峙した三人のみ。
    「檣」
     連続で繰り出される拳の嵐を一度目はライドキャリバーが盾になって受け止めた、だが。
    「あああああっ」
     残骸を踏み越えて突き進んだ拳鬼の二度目が、更なる犠牲者を求めた。
    「っ」
    「ぐっ」
     幽に殴りつけられても、止まらない。
    「大丈夫? 元気出して」
    「がうっ」
     すかさず、ゆいなと霊犬のケイが回復に回る。
    「これで何とかなりそうね」
     半分の人数のままだったら一方的な展開になっていたのは間違いない。だが、今の人数なら先程のようには行かないだろう。ただしそれは駆けつけてきた面々の見解。
    (「あれが必要になるかもしれませんねぇ」)
     横目で花火を見た雪雨は、苦戦の予感へ密かに顔をしかめ。
    「頓着しないなら牽制はあまり効果もなさそうだけど」
     当たりやすいなら意味はある。
    「があっ」
     ヴィントミューレがバスターライフルから撃ち出した魔法光線は次の獲物しか見えていない男の背中へ突き刺さった。

    ●救い 
    「どうした、こんなモノかっ」
    「っ、勝ち誇るのはまだ早いんじゃねぇの?」
     雪雨が花火を上げてから一分と少し。吼える拳鬼を前に秋帆は殴られた場所へ手を当てながら立ち上がる。
    (「少々見くびり過ぎていたかもしれないわね」)
     縛霊手に内蔵された祭壇を展開しつつ、ヴィントミューレは目の前の敵を見つめた。落ちこぼれと聞いてはいるが、このアンブレイカブルは同時に天覧儀で何度か勝利しここまでの死闘で生き残ってきた猛者なのだ。
    「フン、鬱陶しいっ」
    「もう少しおとなしくしてて欲しいんだよ」
    「ちいっ」
     構築された結界を力ずくで突破し、死角に回り込み小型のナイフで斬りかかってくる透には牽制するように回し蹴りを放つ。
    「大丈夫? これで元気になってねっ」
    「サンキュ」
     攻防が繰り広げられる中、ゆいなの矢が秋帆に飛び。
    「これで、どうよ?」
    「くっ、うおおおおっ」
     長く伸ばした秋帆の影に片腕を絡め取られつつも、拳鬼は砂を蹴って間合いを詰める。
    「まずっ」
     オーラを収束させた拳は完全にを射程へ捕らえており、回避は不可能。
    「散れぇっ」
    「シキテ、行って!」
    「がうっ」
     ただ、拳鬼が叫んだのと同時だった。聞き覚えのある声と視界に何かが割り込んできたのは。
    「棲天か、助かるぜ!」
     霊犬の姿にしろ、声にしろ間違いようがない。
    「新手だと?」
    「行きますよっ」
     動揺を声に滲ませた拳鬼に飴が襲いかかり。
    「大丈夫ですか?」
     葵は殲術道具を振り下ろしたまま横目で一同の姿を見て問う。
    「割と危ないところだったかも知れませんねぇ、ありがとうございます」
     確かに追い込まれては居たが、駆けつけてくれた面々の前衛も明らかな消耗が見られ。
    「そっちも大丈夫? 必要ならゆいな回復するよっ?」
    「どちらかと言えばこれから回復が必要なのはあちらの気もするがな」
    「……なんだと」
     答えで茶化された拳鬼がもの凄い表情で灼滅者達を睨んだ。
    「そんな暇は無いと思いますけどねぇ」
    「ぐあっ」
     雪雨の生み出した渦巻く風の刃に斬り裂かれ、道着が血で染まる。
    「そろそろ腹減ったんで、倒れてくれねえ?」
    「舐めるなぁっ」
     リングスラッシャーを射出しつつ秋帆の向けた言葉へ吼え、アンブレイカブルは両手にオーラを集めると前方に突き出し。
    「はぁっ」
    「っ」
    「がるっ」
     放出されたオーラは砂浜の一部を真っ白に染め、秋帆を突き飛ばした霊犬を飲み込んで海の彼方へ消えた。
    「くそっ、邪魔を」
     苛立たしげに歯をむき出す拳鬼へライドキャリバーが突撃をかけたのは、まさにこの瞬間。
    「ぐうっ」
    「今よっ」
     他のサーヴァントと残る灼滅者達の反撃がバランスを崩した男を襲う。
    「空白の理……!」
    「があっ、ぁぁぁああああっ」
     非物質化した殲術道具を手に幽は斬りかかり、苦痛の呻きを漏らしながら放った雷を纏うアッパーカットに引っかけられ、粉砕されたライドキャリバーのパーツが雨のように降り注ぐ。
    「ぐっ、がぁ、ただでは死なんっ」
     体中に傷を作り、道着を血で染めさせる代償を拳鬼は求めた。
    「あの女より、一人でも……多くっ」
    「形勢は逆転したのに……」
     気がつけば救援の灼滅者達を含めてかなりの数が居たサーヴァントは半数以下に変じている。救援チームが来てから倒れた灼滅者はおらず、ヴィントミューレの眼前にいる男も満身創痍ではあったが。
    「うおおおおおおっ」
     拳鬼は吼え、地面を蹴る。死期を悟ったのかもしれない。
    「どんなに落ちこぼれでもけじめはつける必要があるわ。今こそ、あなたの行いに対する裁きの時ね」
     鍛え抜かれた拳を振るわんと腕を引き、砂を散らして駆けてくる男を見据え、放たれるは鋭い裁きの光条。
    「受けなさい、これがあなたに対する洗礼の光よっ」
    「がっ、ぐぅっ」
     光は男の胸を貫き、つんのめった拳鬼の一撃は地面に突き刺さって砂を巻き上げる。それが、展覧儀をここまで生き残ってきた男の最期だった。

    ●再開
    「戦闘がこれで終わりなら、夕食でも一緒にやってく?」
    「気持ちだけ頂いておくんよ」
     チセが首を横に振ったのを見てヴィントミューレは悟る、まだ戦いは終わっていないと。
    「場合によっては援護にゆくことも考えていたけれど」
     これではちょっと厳しそうですねと、顔をしかめた。
    「ここまでやられたのはちょっと想定外だったねぇ」
     助けに来た面々のサーヴァントは全滅、透の中にも傷つき戦えない者が複数出ている。
    「なら、せめて心霊手術だけでもさせて貰えないかしら?」
    「どうやら俺達に出来そうなのはそれぐらいだからな」
     助けて貰ったこともあるが、これからまだ戦いに出向くというなら尚のこと。秋帆は心霊手術の準備を始めつつクラブの仲間であるチセを見て。
    「なら、お言葉に――」
     答えが返ってこようとした時だった。夜空に花火が上がったのは。
    「花火ですわ」
    「お呼びみたいだね」
     声を掛け合う救援者達の顔を見れば、ただ臨海学校を楽しむ為にあげたモノでないことは明らか。
    「BBQ、お前らの分も取っといてやる。だから無事で帰って来いよ」
     秋帆は本来なら心霊手術をしながら言うつもりだった台詞を走り出した面々へ投げ。
    「……行っちゃったね」
     砂の上に横たわったまま、登は呟く。
    「さぁキャンプの続きと行きましょうかっ!」
     ことさら明るくゆいなが言ったのは、気を遣ったのか単なる素か。
    「そっか、料理の続きをしないとね」
     襲撃は準備中、つまり夕食はまだ出来上がっていなかった訳で。
    「お、お鍋焦げてませんよねっ!?」
     慌ててゆいなの駆け寄った先には、とりあえず美味しそうな匂いを漂わせる鍋。「どうやら戦ってる間に火が通ったらしいな。さてメシだメシ。腹一杯食べようぜ」
     即座に食べ始められるのは、戦場になったB班の特権か。
    「BBQも美味しいと思うけど、カレーもいいよね」
     両方楽しみたいから皆でわけっこしない、と透は提案し。
    「ですね」
     同じA班の幽も同意をしながら期待のこもった目をB班の面々へ向ける。
    (「最終的には……お肉よりもカレーを食べてみたいですし」)
     そも、二カ所に別かれた結果、A班の面々はこれから戻らないと行けないのだ。
    「では、食べ始めようか?」
     そして、B班の面々はよそったカレーを前に夕食を向かえる。
    「いっただっきまぁーっす!」
     ゆいながにぱっと笑顔で手を合わせれば、龍一郎もスプーンを手にしてライスとルーを口へ運び。
    「これ美味いね。いったい何?」
     発した問いに答えられる人は生憎バーベキューの元へ去っていったところ。
    「……こういう時間が続くといいのにな」
     戦いが終わり再び動き出した臨海学校の時間の中で、水を一口飲んだ龍一郎は海を眺め小さく息を漏らした。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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