●ロシアン!
「ねえ、みんなでロシアンパーティーに参加しない?」
真夏の暑さなど何のその。三国・マコト(正義のファイター・dn0160)は元気いっぱいだ。
「ロシアン?」
「相馬先輩がね、ロシアンパーティーを開くんだって。面白そうでしょ?」
話を聞く灼滅者の言葉にマコトは面白そうに話しだす。
マコトが言うには結城・相馬(超真面目なエクスブレイン・dn0179)が流しそうめんのパーティーを開くというのだ。
しかも、ただそうめんを流すだけでは面白くないからと、うどんや蕎麦、デザートも流すという、ちょっと変わったロシアンパーティーだ。
「流さないけど、どら焼きと大福もあってね、中身は分からないんだって」
ちなみに飲み物も水以外は中身が見えないようにフタがしてあり、ストローで飲むのだという。
「面白そうだね」
「で、いるやるんだ?」
「8月10日だよ! もし予定がなかったら来てね!」
そう言うマコトだが、妙にそわそわしているような……
話を聞く灼滅者達はマコトがそわそわする理由を知っていた。
●重要任務だ!
マコトが話す少し前。
「お前達に重要任務がある。心して遂行して欲しい」
灼滅者達を前に相馬は真剣な眼差しをむけていた。
その様子に強力なダークネスでも表れたかと気を引き締めるが……
「俺の後輩の誕生日パーティーに参加してくれないか?」
「誕生日?」
その言葉に思わず目が点になってしまった。
聞くと8月10日は後輩――マコトの誕生日らしい。なのでパーティーを開くから予定がければ参加して欲しいという。
しかもマコトには自分の誕生日パーティーだと悟られないように参加して欲しい、との事だ。
「誕生日というものはサプライズあってこそだ! ドッキリで驚かした方が楽しいに決まっている!!」
「あ? ああ……」
要は『後輩の誕生日パーティーをするんだけど来ない? でも本人にはナイショね』という事らしい。
机を叩かんばかりの力説に灼滅者達は頷くしかなかった。
●みんな来てね!
「面白そうでしょ? もし暇だったらみんな来てね! 絶対楽しいから!」
マコトはニコニコしながら言い、それからちょっとそわそわした。
ちょっぴりロシアンなパーティ。皆さんも楽しんでみませんか?
●ようこそパーティーへ!
爽やかな空の下、灼滅者達は川原に集まっていた。
ダークネスや都市伝説などが現れた、という訳ではなく、エクスブレインが企画したロシアンパーティーに参加する為である。
見た目はごく普通の流しそうめんなのだが、何が流れてくるか分からない流しロシアンに飲み物から食べ物まで中身が分からないという予測不能のパーティーだ。
その実態は――三国・マコト(正義のファイター・dn0160)の誕生日パーティーなのだが、本人はその事を知らない。
●真夏のロシアン!
「小早川……お前さっきから物凄い気合い入ってないか?」
さらさらと流れる川のせせらぎを耳に竹を半分に切った樋の前に立つ迫水・優志(秋霜烈日・d01249)は隣にいる小早川・里桜(花紅龍禄・d17247)に声をかけた。
「さっ、迫水さん? 別に気合は入っていないからな!?」
羽目を外し過ぎないよう、気を付けなければと意識はするが、早く食べたいという里桜の様子にくすくすと笑う優志の手には水。そして二人の前には確保した大福とどら焼きがあった。
「流れてくるのを待てないなら大福やどら焼き喰えば良いと思うぜ? これは真剣勝負でロシアンだけど」
そう、優志が言うように、この大福とどら焼きの中身は不明なのだ。ついでに言えば今、手にしている水以外の飲み物も中身は不明である。
「おっ、流れてきた!」
水が流れるの中、目の前を白い糸のようなそうめんが流れてきた。待ってましたとばかりに里桜はすくい上げ、めんつゆにくぐらせ口にする。
「おいしい! っと、また流れてきたな……?」
新たに流れてきたそれはそうめんとは程遠いものだった。細長い糸状のものではあるが、妙にぐにゃぐにゃしている。興味津々にそれすくい、めんつゆにくぐらせ、ぱくり。
妙に弾力あるこの歯応えは……
「糸こんにゃく?!」
パーティーの説明を聞いていたとおり、流れてくるものはそうめんだけではなかった。うどんにそば、ちぢれ麺からきしめんといったのが流れてくる。里桜それを確保しては食べ、また流れてくるものを確保し、食べた。
「その喰いっぷり……。どんだけ腹減ってたんだよ、お前……」
「……しまった、食欲に負けて自重するのを忘れていた」
見事な食べっぷりに優志は言うが、ふと、ごろごろと流れるてくものを目にし、
「ゆで卵……?」
思わず口にした。
本当に何でも流すのか。
「迫水さんは食べないのか?」
「俺の心配は良いから、ちゃんと食っとけよ?」
里桜の食べる様子を見ながら優志は大福を口にするが――
「っ!」
大福とは小豆でできた餡を餅で包んだ和菓子である。なので本来は甘いものなのだ。
なのにこの大福は――甘くない。
一口目に吃驚するものの、優志は無言で黙々と完食すると水を一気飲み、
「甘いつもりで喰ってそうじゃなかった時のこの感じをどういえば良いのか判らん……!」
表現しようのない、微妙な顔つきになった。
「甘くない大福だったのか」
その様子を目に里桜もどら焼きをぱくり。
どら焼きとは円盤状のカステラ風生地2枚に小豆餡を挟み込んだ和菓子である。なので大福同様、本来は甘いものなのだ。
なのにこのどら焼きは――辛い。
「……嗚呼、私も理解した。言葉にし難い感覚だな、本当に。……水を、貰えないか?」
「ああ、ほら……お前の分」
差し出された水を一息に飲み干し、里桜もまた微妙な顔つきになる。
本当にロシアンだ。甘いはずの和菓子なのに何故、甘くない。
二人はそんな事を考えていると、マコトがやって来た。手にはフタがされ、ストローがさしてある飲み物を二つ。
この飲み物も大福とどら焼き同様、何が入っているか分からないという代物だ。
「迫水先輩、小早川先輩。飲み物いかがですか?」
にこりと言うその言葉に二人は顔を見合わせたが、せっかくの好意を断る訳にもいかない。
「ありがとうな?」
「……何が入っているか楽しみだな」
そう言いながら、にこりと受け取った。
神妙な顔つきで優志と里桜が顔を見合わせ、ストローから飲み物を口にする様子を目にマコトはどら焼きを選んでいると、結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)の姿が目に入った。
さらさらと流れる水を泳ぐように流れてくるそうめんの間に箸を通し、すくう。簡単なようで難しい作業は取りこぼしなく全部すくえると何だか面白い。
そうめんすくいに思わず静菜は夢中になってしまい、
「結島先輩、あふれちゃいますよ?」
「え! いつものまに!!?」
マコトの言葉に真剣に驚き、そして盛大に顔を赤くした。いつの間にか器から麺があふれそうになっている。どうやら夢中になりすぎてしまい、気が付かなかったようだ。
そうめんを食べようこぼさないよう注意しながら静菜は樋から一旦離れて箸を伸ばす。めんつゆの中には流れてきた色々な麺が色々と混ざった不思議な空間ができているが気にせず、口にする。
「美味しいですね」
そうめんとひやむぎと蕎麦を一緒に食べるという、滅多にない状態に舌鼓を打っていると、
「……!」
隣でマコトが悶絶していた。どうやら食べたどら焼きの中身が大変な事になっていたらしい。あわてて水を飲むマコトに何が入っていたか聞いてみると、
「梅干が……」
との事だった。食べかけのどら焼きを良く見ると、確かに餡にまぎれて真っ赤な梅干の姿が見えた。
もしかするとこれも? などと考えるが、冷水片手に大福に静菜は挑戦する。見た目は美味しそうな大福だが、果たして中身は――ぱくり。
「あら、こちら意外と美味しいですよ。次の学園祭で出しても良いかもしれません」
すっきりした甘さの餡の中には苺が入っていた。苺大福に舌鼓を打ち、それからマコトへと視線を移しながらこっそりと用意したプレゼントを手に静菜はプレゼントを渡すタイミングを図る事にした。
さて、いつ渡そう。
考えながら、残りの大福をぱくり。
●みんなでロシアン!
「ふむ『隠匿されし生誕祭(サプライズバースデー)』とな? 『ヤツら』に勘付かれ無いよう『計画』を進める必要がありそうだな!」
わいわいと楽しみながらパーティーを楽しむ仲間達を目に中島・優子(飯テロ魔王・d21054)は呟くが、
「計画?」
「いや?! 何でもないよ!」
クラスメイトのマコトから声をかけられ、慌てて首を振った。首を傾げるその様子に全部を聞かれていなかったと分かり、優子は内心でほっと息をつく。
いけない、いけない。もう少しで計画を悟られてしまうところだった。
参加者達の様子を見るからに、祝うのはもう少し後だろう。その時まで優子はみんなとロシアンそうめんを思いっきり楽しむ事にする。
樋の中をさらさらと水が流れ、色々な食材が流れている。その様子を目に優子の気合は十分だ。
「そうめんマスターと呼ばれし我が秘技見せてくれようぞ!」
気合を入れて箸で掴もうとするが、するりと逃げてしまう。掴み損ねたそうめんはダバーと流れてしまった。隣で掴もうとするマコトの失敗し、流れていってしまう。
「今度こそ! って、何これ!? そうめんじゃないよね?!」
「何だろうね、これ」
樋の中を流れる水の中を、何か不思議なものがちらちらと流れていく。優子が言うように、どう見てもそれはそうめんではなかった。
幅の広い、ちょっと短い短冊状のそれを優子は掴み、口にする。味付けされたそれは軟らかく、それでいて筋があるような……
「……メンマ!?」
目を丸くする優子だが、次に流れてきたものをマコトが掴む。茹でたほうれん草だった。
二人でじーっと眺めていくと、メンマが流れ、ほうれん草が流れ、ゆで卵。そしてちぢれ麺。
「なんだか不思議なものが流れてくるみたい? ……ラーメンじゃん!」
優子とマコトが眺めるそれを目に、新舞子・海漣(じゃーにーするー・d21141)は思わず言ってしまった。流しそうめんなのに流れてくるものがラーメンとはこれいかに。
ごろごろと転がるゆで卵をキャッチし、ぱくり。
「味付け卵じゃん!」
しかも黄身は半熟で、しっかり味のついた味付け卵だ。
「スイカとかゴロゴロ流れてくればいいのになー! でも、カラいのはイヤだなぁ……」
ちぢれ麺の後をカラフルなそうめんが流れてくる。それを上手くすくい、食べながら海漣は樋を流れていく様々な食べ物をじっと見つめた。
いつの間にか野菜類が流れており、プチトマトやズッキーニ、セロリが流れている。もしワサビが流れてきたらどうしよう。そんな事を考えていたが、
「あ! 流す係もやってみたいな!」
これならワサビは流れない。お手伝いは不要との事だったが、聞いてみるとやってもいいとの事だった。
「やったー! じゃんじゃん流すじゃん!」
みんなで楽しく過ごし、そしてサプライズをするべく海漣は嬉しそうに色々な食材を流す事にした。
流す食材は麺類からそうでないものまで様々なものが揃っており、デザートまで用意されていた。見るとカットしたスイカや梨、ブドウなど様々な果物類も用意してあり、ワサビはなかった。
「どれから流そうかなー! いっぱい流すじゃん!」
流れてくるものに驚く仲間達の顔を思い浮かべ、まずは麺類から流す事にした。
「わああ!? すごいものが流れてきたんだよ!? た、食べていいのかな……」
桃咲・音愛(奏でる音色は桃の花のように・d24887)は海漣が流したそれを目に、目を丸くする。マコトも流れてくるそれを見て驚きを隠せないでいた。
二人の目の前を細長い麺が流れている。音愛は恐る恐るそれをつかみ、食べてみる。
「うわ?! これってパスタ?」
「あ、ホントだ」
驚く音愛に続いてマコトも口にする。つるつるした食感のそれは間違いなくパスタだった。しかも樋の中を様々な種類のパスタが流れていく。
しばらくすると蕎麦や幅の広いうどんが流れてきたのでそれをすくい、次々と食べていく。
「おいしいね、これ」
隣で食べるマコトは頷きながら新たにひやむぎをつかんでいた。その様子を目にちらりと音愛は視線を木陰へと向ける。
視線の先にはこっそりと隠した誕生日プレゼントがある。手作りしたそれをいつ渡そうか考えながら、
「喉乾いたー……何か飲み物あるかなぁ?」
きょろきょろと見渡すとマコトが飲み物を持ってきた。冷水じゃない、中身が分からない飲み物だ。
「あ、これあまーい! 美味しいっ」
程よい甘さのグレープジュースを飲み、それから一緒に持ってきてくれた大福も受け取り大福も受け取り、ぱくり。
「!? こ、これは……! まだ見ぬ宇宙の味……? ぐふっ」
甘い筈の大福は甘くなかった。これは想定外すぎる。
「大丈夫? 音愛さん」
「あ、ありがと」
咳き込む音愛だが、マイケル・ウォーロック(マジックビート・d17353)から水を受け取り、飲み干した。
今日のパーティーはマコトの誕生日パーティーでもある。今のところ、まだ本人にはバレていないので一日を楽しんでもらえるよう、盛り上げようと決めていた。
「今回の大福とどらやきって、ロシアン的に一番危なそうな物が入っている気がするんだけど……」
水を飲んで一息つく音愛の様子を目にマイケルはごくりと息を飲む。どうやら嫌な予想は見事に的中してしまったようだ。
危険すぎる大福とどらやきだが……
「これは立ち向かわずにはいられないねっ」
言いながら大量に並ぶ大福とどらやきを手に取ろうとすると、マコトが声をかけてきた。
「駄目だマイケル! これは……危険すぎる!」
梅干入りのどらやきを食べているマコトはこのデザートの危険性を知っていた。なので、チャレンジしようとするマイケルを引きとめようとするが、
「万が一僕に何かあったら……後は頼んだよ、マコトさん!」
「マイケル……」
固い決意の眼差しと言葉を聞き、
「その時は……オレも一緒に散るよ!」
マコトも力いっぱい頷いた。いや、パーティーの主役が散っては困るのだが。
そんな訳でマイケルとマコトの前には大福とどらやき。どちらも美味しそうに見えるが、それはあくまでも外見だけの話であって、中身は何が入っているかは分からない。
音愛が食べたように、まだ知らぬ未開の味が隠されているかもしれないのだ。
マイケルは大福を、マコトはどらやきを手し、二人は頷くと先にマイケルが口にした。
「……うん、普通の大福だねっ」
その言葉に安堵し、マコトも食べようとするが――
●おめでとう!
色々とロシアンなパーティーを堪能している仲間達だが、サプライズで誕生日を祝う事も忘れていなかった。
どのタイミングで祝うかを全員が見計らっていたが、我慢の限界である。
「マコトくん、これ、プレゼント!」
木陰に隠してた手作りクッキーを音愛は差し出した。
「ハッピーバースデー! マコトくん!」
「ありがとう、音愛さん」
にぱっとした明るい笑みと共に受け取ったマコトは礼を言い、それから手にしたままのどら焼きを一口。
「……!!」
二回目のどら焼きの中身は赤味噌だった。一口で半分食べたマコトは眉間にしわを寄せて悶えていると、すっと水が差し出された。優志からだ。
「ありがとうございます」
一気に飲み干し、礼を言うマコトだが、
「三国は誕生日おめでとうな?」
「誕生日おめでとう、三国さん」
優志と里桜からの言葉に言葉に目を丸くした。
「え? 先輩達もオレの誕生日、知ってるんですか?」
今日がマコトの誕生日なのはこの場にいる全員が知っている事だ。
二人の言葉をきっかけに、他の参加者達も次々とマコトへと言葉をかける。
「マコトっ! お誕生日おめでとう! はっぴばーすでーとぅゆー!」
「お誕生日おめでとう」
「おめでとう、マコトさん!」
海漣も元気いっぱいに言うと優子も言い、ギターを取り出したマイケルが誕生日ソングの伴奏をはじめた。
「マコトさん、14歳のお誕生日おめでとうございます!」
びっくりしたまま言葉が出ないマコトだが、静菜が用意したプレゼントを受け取ると、すぐに包みを開けた。プレゼントは猫の根付ストラップだった。
まさかこのパーティーが――いや、うん、何となく、薄々感じてはいたけれど。
「みんなありがと! オレ、すっごく嬉しい!」
全員を前にマコトは言う。サプライズは大成功だ。
「やったじゃん! これからデザートじゃんじゃん流すよー!」
海漣の声に目を向けると、そうめんやらゆで卵が流れていた樋の中を缶詰から開けたと思しき果物やゼリーが流れていた。慌てて樋の前に立ち、全員でデザートを平らげる。
こうして何気ないロシアンパーティーは幕を閉じるのだが、全員にとって思い出となる夏休みの1ページとなったのだった。
作者:カンナミユ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年8月25日
難度:簡単
参加:9人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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