とても暑くて長い日

    作者:のらむ


     何となく、今日はロクな事が起きないだろうと起きた瞬間に思った。
     うだる様な暑さに目を覚まし、テレビを付けたらいきなり占いで俺の星座が最下位だと言われた。
     ラッキーアイテムはマウンテンバイクだそうだ。持ってねえよ。
     その後俺はすぐに彼女とのデートの待ち合わせ場所に向かう。家中の時計の電池が切れていて、予定より30分も遅く家を出る羽目になった。
     時計を壁にぶん投げたら、跳ね返ってきて顔面を強打。
     待ち合わせ場所まで必死こいて全力疾走している途中、マウンテンバイクに轢かれた。それを皮きりに、色んなものにぶつかった。
     電柱、ガードレール、軽自動車。もう一回マウンテンバイク。俺は多少怪我したが、相手に怪我はさせなかった。
     それが、今日唯一の幸運な出来事だっただろう。
     待ち合わせ場所についたら、いきなり彼女に振られた。
     他に好きな人が出来たとか言っていた様な気もしたが、真っ白になった頭ではあまり理解できなかった。悲しかった。
     気が付いたら彼女が居ない。長い間その場に立ち尽くしていたのだろう。日の光も更に強くなっていて、喉がカラカラだった。
     頭がボーっとしていたが、とりあえず喉の渇きを癒そうとコンビニへ向かう。
     レジの前で財布を空けたら2円しか入ってなかった。俺は店員にガンつけながら店を出た。
     仕方無しに家へ向かって歩いていると、突然路地裏に引っ張り込まれた。
     いわゆるカツアゲだ。いい加減にしろ。
     2円しか持ってない俺にカツアゲをする馬鹿な不良達が俺を取り囲む。怖かったが、それよりも全員死ねと思った。というか言った。
     不良達が一斉に俺に殴りかかる。今日何度目かの痛みを感じた瞬間、俺の中の何かがキレた。
    『…………グオォォォッォォォォォォォォオォ!!!!』
     視界と意識が蒼に染まる中、思った。俺の人生に、不幸な出来事はもう二度と訪れないだろうと。


    「いたたまれない」
     女子高校生エクスブレインはそう呟くと、説明を始めた。
    「とある街中の路地裏にて、ある男がデモノイドに闇堕ちして暴れまわり、多くの人間を虐殺します。現場へ向かい、灼滅してください」
     男の名前は井原・幸治。高校二年生。
    「闇堕ち後も、幸治にはまだ人間の心が僅かながら残っているようです。そんな彼の心に訴えかけ、彼自身が人間に戻りたいと強く願えば、灼滅後も死亡せず、灼滅者として生きる道が開けるかもしれません」
     ただし井原が人を殺してしまえば、人間に戻りたいという願いは薄まってしまうらしい。
    「彼にはこの日色んな出来事が起きます。それらに大きなストレスを受け、闇堕ちしてしまうのです」
     特に大きなストレスを受けたのは、恋人に振られた悲しみと、カツアゲをされた怒りと恐怖らしい。
    「皆さんが彼に接触出来るのは、不良達が幸治に殴りかかり、闇堕ちした直後。その一瞬です」
     井原の戦闘力は、8人の灼滅者相手に十分戦える程度。
    「彼の類まれなる忍耐力も相まって、とても防御が硬く、とてもタフです」
     ここまでの説明を終えると、エクスブレインは資料を閉じた。
    「幸治は本来気のいい、明るい男性です。人を殺す事なんか望んではいません」
     エクスブレインは灼滅者達を見据える。
    「何を目的にするにせよ、全力で事に当たってください。皆さんの無事を祈っています」


    参加者
    ポンパドール・ガレット(祝福の枷・d00268)
    古室・智以子(中学生殺人鬼・d01029)
    大條・修太郎(メガネ大百科・d06271)
    水澄・海琴(かっとおふすたいる・d11791)
    クロード・リガルディ(眼鏡が本体・d21812)
    アレス・クロンヘイム(刹那・d24666)
    ガーゼ・ハーコート(自由気ままな気分屋・d26990)

    ■リプレイ

    ●  
    『…………グオォォォッォォォォォォォォオォ!!!!』
     路地裏に、咆哮が響き渡る。
     男の身体が、蒼き寄生体に飲み込まれる。
     極めて希薄な、僅かに残った男の意識も、あと少しで蒼色の闇に染まり切る。
     それを止める為、8人の灼滅者達はこの路地裏へやって来ていた。
    「う、うわああああああああ!!」
     目の前の異常な光景に、不良達が一斉に悲鳴を上げる。
    「…………」
     デモノイドになった男、井原・幸治が不良達の方を向く。その右腕は巨大な刃に、その左腕は巨大な銃身へと形を変える。
    「ヒィッ……」
     デモノイドが右腕を振り上げた、次の瞬間。
    「待て、コウジ!!」
     ポンパドール・ガレット(祝福の枷・d00268)がデモノイドと不良の間に割り込む。
    「とりあえずやつあたりはコッチにしろ!」
     ポンパドールは盾を構えると、デモノイドの身体の中心を殴りつける。
     それに続くように、大條・修太郎(メガネ大百科・d06271)が幸治の前に飛び出し、拳を硬く握り締める。
    「別にあの不良達の肩を持ってるんじゃないんだが、まずは僕らを倒してからにしないか?」 
     修太郎がデモノイドの頭を数度殴りつけると、デモノイドの身体がよろめいた。
     デモノイドの意識がポンパドールと修太郎に向いた隙に、アレス・クロンヘイム(刹那・d24666)が不良達に近づく。
    「大人しくしていろ」
     アレスがそう言葉を発すると、先程まで叫びながら逃げ惑っていた不良達が一斉に大人しくなる。
    「はいはい、こっち来てねー」
     その不良達の首根っこを掴み、路地裏の外まで無理矢理引きずっていくのは、ガーゼ・ハーコート(自由気ままな気分屋・d26990)。
     水澄・海琴(かっとおふすたいる・d11791)も同じく不良の襟元を掴み、引っ張っていく。
    「これに懲りたら、馬鹿なことはやめておくがいいの」
     古室・智以子(中学生殺人鬼・d01029)は不良達に目を向けてそう呟くと、周囲に殺気を放つ。
    「人は時折、数人分の不運を背負うた程に不運な日があるが……君にとっての今日は、確かに不運が過ぎたな」
     エリスフィール・クロイツェル(蒼刃遣い・d17852)はそう言って、不良達を運ぶ仲間達を庇うように幸治の前に立ち塞がる。
    「なんというか、本当にいたたまれないが……随分とど派手にキレたものだ」
     クロード・リガルディ(眼鏡が本体・d21812)はサウンドシャッターを周囲に展開しつつそう言い、殲術道具を構えた。
     もはやデモノイドにとって、相手が不良かどうかは関係がなかった。
    「……オォオオオォオオオオオオ!!」
     目の前に立ち塞がる灼滅者達に、デモノイドは再び咆哮した。


     デモノイドの視界から外れた路地裏の外の曲がり角に、海琴とガーゼが不良達を放り投げた。
    「さて、と……」
     パンパンと手を払い、海琴は不良達を睨みつける。
    「ダセーことしてんじゃねえよお前ら!!帰って宿題でもやってな!」
     海琴が壁に拳を壁にめり込ませてそう叫ぶと、不良達が気圧された様に顔を引きつらせる。
    「君たちに構ってる暇はないんだ。怪我したくなかったら早く失せてね」
    「は、はい!」
     ガーゼの言葉に従い、不良達が走って逃げ去っていく。
     それを見届けた海琴とガーゼが、戦闘が行われている路地裏へと戻っていった。
    「グォォォォオオオ!!」
     デモノイドが刃に変形した右腕を振り上げ、一気に振り下ろす。
    「…………」
     自身に向けられた攻撃にアレスが身構えるが、アレスのビハインド、イグニスがその攻撃を受け止めた。
    「いくら不運であろうと、全てを諦めなくてもいいと思うがな」
     アレスはそう呟きながら間合いを取ると、その右足に炎を纏わせる。
    「今は無理かもしれないが、少し時間を置いて考えてみるのもいいいのではないか?」
     そういい終えたアレスが、デモノイドの身体に熱い蹴りを放った。
    「そうそう、生きてれば次があるんだかんさ!」
     アレスの傷を癒しつつ、ポンパドールが幸治に笑いかけた。
    「同情はするの。でも、力の使い方を間違えているの」
     智以子が幸治に言葉を投げかけながら杖を構え、デモノイドに接近する。
    「無意味に命を奪って、それで満足なの?こころが晴れるの?」
     デモノイドの身体に叩きつけられた杖から魔力が流し込まれ、デモノイドが苦しげに呻く。
     それは決して痛みだけでなく、智以子の言葉を噛み締めているようにも見えた。
    「グウウウ……」
     灼滅者達の言葉にデモノイドの様子が落ち着いてきたようにも見えたが、未だその攻撃は強烈。
     銃身に変形した左腕をクロードに向け、デモノイドが鈍く光る死の光線を撃ち放った。
    「くっ……!!」
     攻撃が直撃し、クロードが膝を付く。だが説得を諦めず、幸治に語りかける。 
    「今ならまだ、後戻りは出来る……死ぬ程後悔する前に、自分の可能性をもう一度信じてみる気はないか?」
     エリスフィールがクロードの言葉に頷き、説得を続ける。
    「その通り、君はまだ引き返せる。かく言う私も……」
     そこで一旦言葉を切り、エリスフィールが寄生体を自身の腕に纏わせる。そして大きな刃となった腕を幸治に向かって掲げる。
    「……こういう者だ。新たな力を手に、もう一度人間をやってみないか?」
     更に畳み掛けるように、修太郎が説得を重ねる。
    「大概不運だったみたいだが、まだ間に合う」
     それに、と修太郎は言葉を続ける。
    「そこから戻れるっていう最大のチャンスと幸運が最後に残っているじゃないか」
     灼滅者達の言葉に幸治は応えないし、応える事も出来ない。
     だが確実にそれらの言葉に何らかの影響を受けている事は、見て取る事が出来た。

    ●  
     不良達を撤去した海琴とガーゼも合流し、戦いは続いていた。
     デモノイドが、再び左腕から光線を放つ。その威力は先程のものよりは弱くなっている。
     その攻撃を受けた海琴が地面を転がる。しかしすぐに立ち上がると、幸治に向き合った。
    「……人間生きてりゃ悪い日だってあるさね。でも、溜め込みすぎは身体に毒だぜ! 叫びたいときは存分に叫んじゃえ! こんな風に!!」
     そこまで言うと海琴は大きく息を吸い込んだ。
    「うわああああ! なんであたしの淹れるコーヒーはことごとく苦くなるんだよオオおお!!」
     その叫びはなんか違う。と、誰かが呟いた気がした。
    「隙が無ければ作るって事で」
     修太郎が槍を構え、デモノイドの身体に鋭い突きを放つ。だがデモノイドはまだ倒れない。
    「しかし全然倒れないってか、かったい身体だな! 敵だと全くありがたくないなあ」
     修太郎はそう言い、軽くため息を吐いた。
     デモノイドが右腕の刃を振り上げ、灼滅者に向かって突撃する。
    「させるか!!」
     仲間に向けられたその攻撃を、ポンパドールが受け止める。若干表情が歪んだが、耐え切った。
    「おれはコウジみたいに我慢づよい性格じゃないけど……からだの丈夫さには自信があるぜ!!」
     そのポンパドールに、ガーゼが癒しの力を込めた矢を放った。そして、幸治の方を向く。
    「井原先輩、本当はこんな風に、誰かを傷つける事なんか望んでいないんでしょ?」
    「…………」
    「戻りませんか?愚痴ならいくらでも聞きますよ」
     幸治を見据え、ガーゼがそう言い切った。
    「グウゥゥゥゥッ…………」
     デモノイドが、右腕の刃を振り上げる。
     しかしそのまま硬直したように動きを止める。その身体は何故か震えている。
    「これは……己のダークネスに抵抗しているのか?」
     アレスがどこか驚いたように呟く。
    「だとすれば、すごい精神力なの」
     アレスの言葉に、智以子が応える。
    「そろそろ、決着をつける時だな……」
     クロードが殲術道具を構えなおし、幸治と向き合う。
    「ああ、そうだな……では、邪魔な寄生体には退場願おう!」
     エリスフィールの言葉を切欠に、灼滅者達が一斉に攻撃する。
     智以子の蹴りがデモノイドの腹を蹴り、
     ポンパドールが背中を蹴る。
     クロードが放った魔の弾丸が身体を痺れさせ、
     海琴が刀でその身体を叩き切る。
     修太郎が炎を纏わせた蹴りを顔面に放ち、
     アレスが頭を挟むように後頭部を盾で殴りつける。
     ガーゼの魔法が身体を凍りつかせ、
     エリスフィールが寄生体で形成した刃を十字に振るい、凍った身体を砕いた。
    「グゴゴガァイタアアアァァァアアア!!!!!」
     デモノイドが今日一番の咆哮。に近い悲鳴をあげ、その身体が地面を転がった。
     身体に纏わりついた寄生体が、徐々に収縮していく。
     そして最後には消えてなくなり、後に残ったのは、井原・幸治と、その命だけだった。


    「い。…………ん?」
     幸治が目を開け、身を起こす。そこには、8人の灼滅者が立っていた。
    「やあ、起きたみたいだねー。ちょっと待って。今回復するから」
     幸治の身体の傷を、ガーゼが癒す。
    「……大丈夫か?」
    「……ああ、全身が痛いけどな……」
     クロードが手を貸し、幸治がゆっくりと立ち上がった。
    「お帰り、人として人と共にある道へ。少なくとも私達は、君を歓迎するよ」
     エリスフィールが幸治に微笑みかける。
    「ああ、お前達が助けてくれたんだよな……ありがとう。俺に生きる道を開いてくれて」
     そう言って幸治は灼滅者達に頭を下げる。
    「おれも『なんでおればっかこんな目に』って思うときもあるけどさ、こういう時は気が済むまで泣いたらスッキリするんだ。コウジも似たようなコトしてけ!」
     ポンパドールが、コウジに励ましの言葉を投げかける。
    「ああ、ありがとう……だけど大丈夫だ。さっきまで散々泣いてたからな」
     幸治はそう言って、ポンパドールに笑いかけた。
    「混乱するとおもうの。でも、落ち着いて聞いて欲しいの」
     智以子が幸治の前に進み出て、武蔵坂学園について簡単な説明を行う。
     さすがに全て理解できた訳ではなかった様だが、幸治はその話を真剣に聞いていた。
    「うちの学園は新しく始めるにはいいところだと思うよ。一緒にこないか?」
    「ああ、分かった。行くよ、俺も武蔵坂学園に」
     幸治は何か決心したように頷いた。それを見た海琴が幸治に声をかける。
    「多分一番の不幸は、今から始まるのかもしれないぜ?ひひひっ!」
    「そうかもな。ま、楽しそうだからいいさ」
     幸治が静かに笑う。 
    「不幸な日か……しかし、たまにはこんな日もあるだろう。過去を振り返ると、そう思えるな」
    「ああ、こんな日もあるさ。たまにはな」
     アレスの言葉に応えて、幸治が歩き出す。
     その歩みは、灼滅者としての一歩。闇に勝利した者の一歩だった。
    「俺の名前は井原・幸治。彼女に振られたばかりの男子高校生だ。今後ともよろしく頼む」

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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