●ブーメランパンツを纏いし雄猿たち
温泉大国、日本。山奥など管理されていない場所に湧き出ている温泉では、動物たちが体を休めていることもある。そう前置きした上で、老婆は語り始めた。
「これは確か……そうそうあの山の話じゃった」
奥まった場所に湧き出ている温泉に、度々猿がやって来る。その中に、いつしかブーメランパンツ……なるものを履いた雄猿が現れるようになった。
「嫁を探しているのじゃろう。ブーメランパンツを履いた雄猿は、女性に擦り寄っていく。邪険にされたなら、仲間と連携してさらっていく」
人間に、抗うすべなど存在しない。
「じゃからな、今は近づいてはならんよ。景色も、猿が浸かっている光景も、それはそれは素晴らしいものではあるのじゃがな……」
「……なんとなく気になりますね」
街中に設けられている木陰のベンチに腰掛けて、弓塚・紫信(暁を導く煌星使い・d10845)は老婆の去っていった方角を眺めていく。
メモにまとめ直した後、小さくうなずき立ち上がった。
「知らせてみましょうか、何かあってからではいけません」
エクスブレインへと伝え、解決策を導くために……。
●夕暮れ時の教室にて
「それでは葉月さん、後をよろしくお願いします」
「はい、紫信さんありがとうございました! それでは早速、説明を始めさせていただきますね」
紫信に頭を下げた後、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は灼滅者たちへと向き直った。
「とある山奥の秘湯を舞台に、次のような噂がまことしやかにささやかれています」
――ブーメランパンツを纏いし雄猿たち。
纏めるなら、猿がやって来ることもある秘湯に、時々ブーメランパンツを履いた雄猿たちが混じっている。女性に擦り寄り、邪険にした者をさらってしまう。
「はい、都市伝説ですね。ですので、退治してきて下さい」
地図を取り出し、葉月は説明を続けていく。
「現場は、山道から外れて一時間ほど歩いたこの辺り。有志が作成した男女別の更衣室が有りますので、それが目印になりますね」
後はそこで水着に着替え、温泉に浸かれば良い。
女性か、女性に見える男性が浸かっていれば、程なくしてブーメランパンツを履いた雄猿たちが五匹出現する。後は温泉から脱出し、戦いを挑めば良いという流れになる。
ブーメランパンツを履いた雄猿五匹、総員攻撃役。
連続ひっかきや加護を砕く体当たり。襲いかかり服を破く……と言った攻撃を仕掛けてくる。
「以上で説明を終了します」
地図などを手渡し、葉月は続けていく。
「色々と言いたいことはあります……が、それは皆さんに任せます。ですので、どうかこの危険な雄猿たちに鉄槌を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
---|---|
水月・鏡花(鏡写しの双月・d00750) |
明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578) |
蓬莱・烏衣(スワロー・d07027) |
皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424) |
白鳥・悠月(月夜に咲く華・d17246) |
セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444) |
韜狐・彩蝶(白銀の狐・d23555) |
鷹取・眞白(白華炎舞・d26062) |
●護るための戦い、小さなトラブル
「泉質は弱アルカリ性低張性高温泉、効能は神経痛、リューマチ、筋肉痛、疲労回復、頭痛に腹痛、後は……何だっけ? 忘れた」
山奥にて、白い湯気を立ち上らせている秘湯。薄手の布地で作られた黄緑色のパレオから覗く太ももが、上部を隠し下部を見せる白花柄のブラが魅力的なな水着を纏う明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)ははカメラの前で適当な解説を行っていた。
口調ががレポーターっぽかったからだろう。傍らで浸かるセレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)がほう、と感心の声を漏らしていく。
「なるほど、この温泉にはそんな効能が……」
「あ、うん。他にも……」
さらなる言葉を重ねようとした瑞穂は、瞳を細め山頂の方角へと視線を向けた。
気づかぬうちに五人の雄猿が……ブーメランパンツを履いた猿達が、温泉の縁に佇んでいた。
瑞穂は立ち上がり、温泉から脱出。
「あら、来た来た、盛りのついた猿達が。そんじゃま、こちらも盛大に歓迎してやるとしましょうか~」
武装を整え、雄猿たちを手招きする。
他の仲間達も次々と温泉から脱出し、スレイヤーカードを開放した。
温泉に浸かっていたメンバーの中で最後に脱出した水月・鏡花(鏡写しの双月・d00750)、皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)、韜狐・彩蝶(白銀の狐・d23555)の三人に至っては、声を揃えて同時に得物を手にしていく。
総員雄猿からも距離を取り、こちら側へ誘導しようと画策する。
全ては温泉を汚さぬため。
願い通じたか、雄猿たちは温泉を飛び越え灼滅者たちの元へとやってきた。。
後は戦い倒すだけと、鏡花は意気揚々と踏み込んで――。
「ちょっ!?」
「へっ?」
――彩華の悲鳴が聞こえた時、槍に仄かな重さを感じて立ち止まった。
重さの源を確認すれば、柄が彩華の水着を……紐で腰元を結ぶ形の太ももも露わな紫色の下、豊かな胸の先端のみを隠すかのごとく布地が少ない上の内、上の正面紐を谷間の半ばまで持ち上げてしまっていた。
下手に動けば、脱がしてしまう、脱げしまう、危うい状態。故に動けぬ二人を、雄猿たちが見逃す理由はない。
二匹が、紐で結ぶ形の太ももも露わなローライズと気品を程よく残す上と行った構成の水着で豊かな肉体を包んでいる鏡花へと、別の二匹が彩蝶へと殺到した。
二人の危機を察知して、零桜奈が肩越しに振り向いていく。
「二人とも! だいじょ……」
言葉の半ばにて、零桜奈は目を見開いた。
青き瞳の中、紫色の布地が三つ、黒色の布地が三つ、風に乗り中を舞ったから。
雄猿たちがいやらしい笑い声と共に飛び退けば、その先には開放的な二人の姿が……。
「あ……」
「ひにゃあっ!?」
零桜奈が顔を真赤に染めた時、彩蝶が悲鳴を上げ慌てて胸を隠していく。
が、今だ挟まったままだった槍に触れたからかさらなる混乱へと陥って、柄を握り手前側へと引っ張った。
「ちょ、ちょっと!」
引き寄せられる形となった鏡花は慌てて前に手を伸ばし、零桜奈を掴む。
「うわっ……」
結果、三人が絡みあう形で転倒。彩蝶が暴れたからか、傍目には零桜奈が二人を押し倒したように思える状態となっていた。
もっとも、とうの零桜奈は視線を塞がれ何も見えない。
ただ、弾力のある何かの谷間に顔をうずめていることと、誰かの早鐘の如き鼓動が耳の奥まで伝わってきていることだけは分かった。
故に、状況を確かめるために手を忙しなく動かし――。
「んぐっ……!? ……」
――ひときわ隆起している場所を探り当て、訳もわからぬままに指を沈めていく。頭に感じているものと同様の弾力を感じたから、無意識のうちに揉みしだいていく。
「ひゃん! ちょっと、どこ触ってるのよっ!」
「ふえ……?」
零桜奈が顔を上げる前に、鏡花は彼を押しのけ飛び退いた。
予め用意しておいたバスタオルへと手を伸ばし、体に巻きつけていく。
一方、彩蝶は声を上げることもできずに赤面。やはり零桜奈を押しのけ離れ、胸を隠したまま雄猿たちを睨みつけていく。
「……殺す」
白銀の九尾へと変身。低い姿勢を取り始め、鏡花と共に、仕掛ける機会を伺った。
さなかには、水着から忍装束へと着替えた白鳥・悠月(月夜に咲く華・d17246)が残る一匹が振るってきた爪を弾き、お返しとばかりに回転刺突を放っていた。
「……犠牲者が増える前にさっさと退治してしまおう」
悠月の言葉に示されるがまま、その雄猿に攻撃が殺到していく。
せめてもの反撃とでも言うのか、その雄猿が手を伸ばし――。
――零桜奈たちのトラブルから目をそらしていた男、蓬莱・烏衣(スワロー・d07027)がその腕をガッチリと掴み取った。
「よぉ、男で残念だったな!」
快活な笑みと共に握る腕に力を込める。
「猿の癖にブーメランパンツとか気持ち悪い見た目しやがって! 服破くとか見た目通りの変態野郎だぜ!」
暴れる雄猿を反対側の手で押さえつけ、空高々と放り投げた。
「これ以上のピンチは許さねぇ、覚悟しな!」
自身も跳躍して後を追い、落下してきた雄猿を蹴り上げる。
雄猿は甲高い悲鳴を上げながら、再び地面に触れることなく消滅した。
「そんじゃ、次はどいつにするかねぇ」
烏衣はニヤリと口の端を持ち上げながら、改めて雄猿たちを観察していく。
仲間を失ったからか、雄猿たちはいきり立つ。忙しなく戦場を駆け回り始めていく。
もう、互いに遊びはない。山奥の秘湯を護るための戦いが、汗ばむような熱さをもたらす湯気の中で開幕した……!
●悪しき猿を滅ぼして
ブーメランパンツを黒く鈍く輝かせ、雄猿たちはバラバラに、軽快に動き回る。時には体当たり、時には爪を振り回し、灼滅者たちを攻めていく。
「しかしまぁ、ハデなブーメランパンツだこと。狙ってくれって言ってるよーなモンだわ」
仲間たちが首尾よくいなし続ける中、瑞穂はスコープを覗き込み先頭に位置する雄猿に……ブーメランパンツに狙いを定めていく。
照準が真ん中を捉えた刹那にトリガーを惹き、熱き光線を解き放った。
焼かれながらも、その雄猿は跳躍。
振り下ろされた爪を、セレスティはバックステップを踏んで回避。バランスを崩して地面に激突した雄猿を、炎熱した脚で蹴りあげる。
炎で包まれながら頂点へと達し、己の下に落ちてくる雄猿を眺めながら、素早く槍を横に構え、一戦。
落ちてきた雄猿を横一文字に両断した。
「二匹目。この調子で行きましょう」
「そうだね。次は……この子だよ」
即座に鷹取・眞白(白華炎舞・d26062)が右側の雄猿の懐へと踏み込んで、炎を宿せし焔と大輪の華が刷り込まれた剣を振り下ろす。
「もう一回」
胸元を切り裂いた勢いのまま回転し、頬に裏拳を叩き込んだ。
ふっとばされ、一回、二回とバウンドしながらも着地。立ち上がっていくその雄猿。瞳に怒りの炎を宿せし鏡花が、無数の魔力の矢を解き放った。
「Herausschiessen Blitz des Urteils!」
「……」
白銀の九尾を逆立てている彩蝶も凍てつく炎を解き放ち、雄猿達を凍てつかせる。」 しばしの後、魔力の矢を浴びた個体が蝕む氷に耐え切れなくなったのか消滅の時を迎えていた。
残るは二体。
悠月は左側からの体当たりを槍で受け止め、弾く。
手首を返し、回転刺突を放っていく。
胸元を貫き、引きつけば、その雄猿も倒れて消滅。残る一体を前にして、仲間たちへと視線を送る。
呼応し、烏衣が駆けだした。
「了解。そんじゃまぁ、行くぜぇぇ!」
烏衣が全速力で走り回り、残る一体の下へと向かっていく。
道中炎で包んだ脚を振りかぶり、切り上げた。
炎に包まれながら、虚空に浮かんでいく雄猿。斬撃が、打撃が魔力が重なりあった果て、その小さな体が零桜奈の下へとやってきた。
先の一件以降、顔を真赤にしながら戦っていた零桜奈は、呼吸するまもなく淡い桜光を放つ刀に炎を宿して振りぬいた!
「手応えあり……これで……」
顔を上げれば、両断された雄猿が水蒸気に変わって消滅。
戦いの終わりを告げる静寂が、灼滅者たちを包み込んでいた……。
●戦いの疲れを癒やすため
岩に囲まれた窪地を満たす、白く濁った湧き出る湯。立ち上りし湯気、心安らぎし仄かな匂い。
ブーメランパンツを履いた雄猿たちを殲滅した以上、脅威はない。灼滅者たちは武装を解き、あるいは有志の用意した更衣室の中で着替え、改めて落ち着いた調子で温泉に浸かっていた。
例外は彩蝶、鏡花、零桜奈の三名、
彩蝶は肩まで浸かり赤面しながら、鏡花はジト目で睨みながら、零桜奈へと詰め寄っていく。
「……」
「さてと……辞世の句は読み終わったかしら」
近づく二人に先ほどの光景を、感触を思い出したのか、零桜奈は耳まで真っ赤っ赤。
「ごめん……なさい……」
絞りだす声音と共に謝罪しつつ、居心地の悪い時を過ごしていく。
一方、瑞穂はなぜか残ったブーメランパンツをライフルの先端でくるくる回していた。
「誰か記念に持って変えるー?」
返答はない。
拒否だと判断し、瑞穂は肩をすくめながらライフルを温泉の縁へと投げ捨てた。
ひと通りのやりとりが終わった後、悠月は改めて温泉に身を沈めていく。
「……たまにはこういうことも良いな」
「ええ。ゆっくりと、ゆったりと……」
セレスティもまた肩まで浸かりながら、頬をゆるめ静かな息を吐き出した。
一呼吸分の間を置いた後、眞白もまた頷き大きく伸びをする。
「一仕事した後の温泉って最高!」
「だなぁ……気持ちいいぜ……」
烏衣もまた体を伸ばし、遥かな空を見上げていく。
雲ひとつない青空で、燦々と輝く太陽一つ。陽射しは緑に濾過されて、心地良い熱となって大地へと降り注ぐ。冷気すら帯びている風が、温泉に浸かる者たちの心をも癒していく。
和やかな雰囲気に誘われたか、ブーメランパンツなど履いていない本物の猿たちが、どこからともなくやって来た。彼らは灼滅者たちに遠慮するよう遠い位置に集った後、一匹ずつ静かに、穏やかに浸かり始めていく。
安らぎたいのは、人も猿も変わらない。安らかな時を共有し、心ゆくまで堪能しよう。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年8月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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