槍一本~朱角~

    作者:相原あきと

     山頂付近のその開けた場所で、白い道着に黒い袴を着た壮年の男が1人、朱色の槍を手にしたまま夜空に浮かぶ月を見つめていた。
    「……無念。あの力を完璧に使いこなしていれば……」
     誰にも見えない姿のまま、残った想いだけで男は呟く。
    「それとも、戦いの場にまで礼儀を持ちこんだ故か……」
     男の言葉に応える者はいない――そう、今までは。
    『灼滅されて尚、残留思念が囚われているのですね……大丈夫、私にはあなたが見えます』
     かけられた声に、朱色の槍を向け。
    「誰だ、貴様」
    『私は慈愛のコルネリウス。傷つき嘆く者を見捨てたりはしません』
     現れた少女に壮年の男は槍を納め。
    「見捨てぬと言うなら……私はこの力を使いこなし、今まで学んだ槍術にてどこまで人を殺せるか……」
     壮年の男、縫村委員会にて六六六人衆となりつつも武蔵坂学園の灼滅者達によって倒された双海・流一郎(ふたみ・りゅういちろう)の残留思念は、少女から力が流れ込むのを感じ……やがて完璧に力を得たのを知る。
    「これは……」
     朱色の槍――男が『朱角』と名付けた槍――を構え、双海は月に向かって叫ぶ。
    「私は、再び戦える! この力を使いこなし、私の槍術で人を殺せる! 全力で殺し合いができる!」
     双海が思い描くは8人の学生達。
     あの時は力を使いこなしていたとは言い難い……だが、今なら――。
    『プレスター・ジョン、この哀れな男を、あなたの国にかくまって下さい』
     実体化した双海を見つめながら、少女――コルネリウスの幻影はそう呟いたのだった。

    「縫村委員会で六六六人衆となった者が復活する……ワタクシの予測が当たったようですネ」
     おどけたように霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)が呟き、苦虫を噛み潰したように横の鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が説明を始める。
    「みんな、もう知ってると思うけど……慈愛のコルネリウスが灼滅されたダークネスの残留思念に力を与えているわ」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながらがそう話し出す珠希。
    「今回、皆が相対する残留思念は……かつて縫村委員会で六六六人衆となった、双海流一郎という槍使いよ」
     双海流一郎、彼は六六六人衆として本格的に覚醒する前に武蔵坂学園の灼滅者達によって灼滅された男だった。
     今回、灼滅者たちが山の頂上付近の開けた場所に向かうと、朱色の槍を持った双海が実体化して待っていると言う。
     ちなみに慈愛のコルネリウス自体は現実世界へ出てこれない為、双海流一郎に力を与えたのは幻のような存在で接触はできないらしい。
    「双海流一郎は、前の時と違って六六六人衆としての力も完全に使いこなせる状態になっているわ」
     だが武蔵坂学園の灼滅者達も強くなっている。戦術を間違えなければ……と言うラインだろうか。
     双海は防御を捨てて攻撃に特化した戦い方をし、殺人鬼と妖の槍、シャウトに似たサイキックを使うらしい。
    「蘇った残留思念、放置しておいたらどんな事が起こるか解ったもんじゃないわ。なんとか、再度灼滅して」
     珠希が決意を込めて灼滅者を見つめ。
    「双海流一郎は全力で戦う事を望んでいるわ……でも、それはあくまで自分の技で人を殺す事が目的……絶対、負けないで」


    参加者
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)
    霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)
    アリアーン・ジュナ(壊れ咲くは狂いたがりの紫水晶・d12111)
    日凪・真弓(戦巫女・d16325)
    御印・裏ツ花(望郷・d16914)
    石見・鈴莉(逢魔の炎・d18988)
    神桜木・理(空白に穿つ黒点・d25050)

    ■リプレイ


     薄暗い夜の山、月と星明かりの下で目を瞑ったまま何かを待っていた男がゆっくりと目を開ける。
    「……久しぶりだね、流一朗さん。会いたくなかったよ」
     現れた8つの気配、その中の1人である石見・鈴莉(逢魔の炎・d18988)が声をかける。
    「待っていたぞ」
     見知った顔である鈴莉に、男――双海流一郎が答える。
    「前にも言ったよね、あなたを放置しておくことはできない」
    「また、私を止めに来たか」
     双海の言葉に鈴莉は首を横に振る。
    「ううん、止めに来たんじゃない……殺すよ。おいで、陽蝋」
     変化武器RefeniXをカードから出現させる鈴莉に、双海が僅かに笑みを浮かべる。戦いはつい先程だったと言うに、思わずその成長具合に笑みを浮かべるは道場で師範代として門下生を教えていた過去ゆえか。
    「美しき終焉を! azurite!」
     右手の人差指と親指でカードを挟み、左胸に当てて祈りながら叫ぶはアリアーン・ジュナ(壊れ咲くは狂いたがりの紫水晶・d12111)。
    「……初めまして、槍使いさん……。僕はアリアーン・ジュナ、よろしくねー……?」
    「わたくしは御印・裏ツ花(望郷・d16914)と申します。双海流一郎、貴方様の殺人技、全て受け切らせて頂きますわ」
     アリアーンの言葉に続けて優雅に挨拶するは出自の良い裏ツ花だ。
    「ほう、今回の面子はなかなか礼儀がなっているようだ……私の名は双海流一郎、我が双海流槍術が殺人術としてどこまで通用するかを試みる求道者だ」
    「槍術で人を殺したい、ネェ?」
     双海の自己紹介に、おどけるようなジェスチャーを交えて返すは霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)。双海が鋭い視線を向けるもそれをいなして言葉を続ける。
    「正直理解し難いデスけれど……まぁ、ワタクシとひとつ死合ってくださいませ。殺意を向けてくださるなら、相応の好意でお返しますヨ」
    「死合か……望むところだ」
     双海の殺気が傍から見ても膨れ上がってくるのを感じ、霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)がラルフの横に並び。
    「殺人には積極的で礼儀に厳しい方だと……事前に仲間に聞いた通りですね」
     ちらりと双海が鈴莉を見て、再び視線を刑一へと戻す。
     刑一は優雅にお辞儀をすると。
    「霈町刑一と申します。それでは、此方からもその礼儀に則って堂々と、槍術に負けないよう全力尽くすので宜しくお願いしますね」
    「礼儀を尽くすのは悪いことではない。だが、戦いの中での気遣いは無用……雑念に囚われれば勝てる物も勝てなくなるぞ」
     双海の皮肉に「それはそれは」と飄々と肯定する刑一だが、強い否定は別の所から――。
    「コルネリウスの甘言に乗る程度の男に負けるものか、絶対にな」
     双海がそちらを向けば、柄が長めの黒曜石で出来たような見た目の長剣を構える神桜木・理(空白に穿つ黒点・d25050)が。
    「鍛え上げた技、それを試したい気持ちだけは分からなくもないが、道を違えたな。それとも最初から間違っていたのか」
     僅かに黒い風を纏いだしつつ理が睨めば、双海は「その通りだ」と呟き。
    「最初から間違っていた……私はもっと早く、この力を得、我が技術にて人を殺すべきだった」
     理の黒い風に対抗するように、双海の足元から黒い殺気が吹き上がる。
    「どーでもいんだよ」
     緊迫した空気をものともせず、そう言って踏み出すは影道・惡人(シャドウアクト・d00898)。
    「あんたの言う通り、感情も礼も相手の事情や経歴も、戦いの前と後にだけありゃいいんだ」
     素顔を隠した惡人の口元が、不敵ににやりと笑い。
    「今は欠片もいらねぇ……だろ?」
    「ふっ、ああ、その通りだ」
     ぐるんと朱い槍を頭上で回して構える双海。
     惡人は双海から意識を外さぬまま、俯瞰で戦場を見まわし。
    「おぅヤローども、準備は良いな」
     味方の準備が整っているのを確認。
    「念の為です。アレだけはやっておきましょう」
    「ん? ああ、そっちは頼むぜ」
     即座に意を汲んだ惡人の言葉にコクリと頷き、日凪・真弓(戦巫女・d16325)が仲間に目配せ、鈴莉と理が一般人の邪魔者が入り込まないようESPを発動させる。
     それを確認した真弓は、カードから妖の槍を取り出し双海へと構える。
    「人払いだけさせて貰いました。ですが、それ以上の搦め手は致しません」
     真弓の言葉に双海が口元に笑みを浮かべ。
    「いいのか? 腰に差した得意な獲物で構わないのだぞ」
    「幼い頃より様々な武道を習いましたから……これも得意な獲物の1つです。遠慮無く、正面より堂々とぶつかりましょう」
    「気にいった。名を聞こう」
    「日凪真弓……参ります……!」


    「後悔あるからこその残留思念。今度こそ後悔残らないように倒しきりますよ~」
     刑一の言葉と共にサイキックの矢が放たれ、刺さったラルフは眠っていた超感覚が呼び醒まされる。
     高まった感覚のまま、ラルフが赤水晶の細身の槍を突きだすも。
     ギギンッ!
     双海がラルフの槍を絡めるように槍を突き出し、同時に火花が散る。
     そして、首を傾けたラルフの頬の横を朱槍が貫き、逆にラルフの赤水晶の槍は双海の頬の横を貫く。
     一歩も譲らぬクロスカウンターに、個人の力では上をゆく双海が驚く。
    「やるな……」
     呟きつつ双海が槍を引き、合わせてラルフも腰元へ槍を引き戻す。
    「お前は……槍使いのようだな。槍に銘はあるか?」
    「『Grief of Tepes』……串刺し公よろしく、苛烈に参りまショウか♪」
    「悪くない。私の『朱角』も、お前を串刺しにしたいと鳴いている!」
     赤と朱、2つのアカが再び火花を散らし、何合と打ち合うラルフと双海。
     だが、個の力では六六六人衆に分がある。大きく槍を弾かれたラルフがバランスを崩し――。
     双海が容赦なくラルフの急所目がけて槍を突き出す。
    「まず1人」
     ガッ!
     しかし双海の朱角は割りこんで来た影、アリアーンの無敵斬戦刀によって防がれる。
    「任せますヨ、アリアーン」
    「背中は任せな、ラル」
     息の合った連携で双海を押し返す2人。
     さらに下がった双海を、最後衛から一気に距離を詰めて来た理が、鬼の腕へと変化させた拳を振り下ろす。
    「相変わらず連携が上手い……」
     苦々しくもどこか認めるように双海が呟いた。

     ダララッと自動追尾式の弾丸をバラまいた惡人が、双海の動きを観察し仲間達に聞こえるように叫ぶ。
    「おぅ、どうやら力押しでの攻撃が効果的なようだな」
    「それで優位になったつもりか」
     双海が槍を捩り込むよう引き絞り、それが一気に解き放たれる。
     不得意と見破られた気魄の技、されど双海の突きを見て侮る者は灼滅者にはいない。
    「本当ならば攻撃手を努めたかったのですが……初めての護り手、実戦にて修練を積むのもまたよし」
     裏ツ花が己の槍を双海の槍に絡めるように突き、なんとか相殺する。
    「それは、私が先ほど使った返し技」
    「槍には槍で。その技をわたくしも学びたく、けれど殺す為の技で無く、守り生かす技を知りたい。貴方様が槍術を学んだ理由をお教えくださいませんか」
     双海は裏ツ花から距離を取り、仕切り直すように槍を構える。
     だが声は有らぬ所から。
    「ねぇ、それはあたしも知りたい。あなたの強さってどっから来てるの? 槍術の修行? 精神性?……それとも、殺意?」
     鈴莉の質問に、双海が過去を思い出すかのように遠い目をし――。
    「簡単な話だ。私が生まれたのがこの流派の本家だった……それだけだ。もしそんな私が強いと思うなら、それは……」
    「それは?」
    「私が学んだ双海流槍術が……殺人術に他ならなかったという事だ!」
     双海が言い捨てつつ鈴莉に向かって槍を突き刺し、鈴莉はそれを何とか防ぎさばききる。
    「あなたの受け継いだ技は確かに人を殺せる……けど、それだけのための技だったの?」
     鈴莉の質問、いや追及。
    「武術は所詮殺人術、いかに人を殺せるかだ」
     双海の躊躇無い答えに鈴莉が口を噤み、代わりに口を開くは真弓だった。
    「武を人を殺める事の為に振るう者に屈するわけには参りません! 貴方の妄執もその槍も、ここで砕いて差し上げましょう」
    「やってみるが良い。だが……私は強いぞ!」


     双海が朱角を回転させつつ前衛を薙ぎ払えば、最低限のダメージに抑える為にアリアーン達盾役が庇い、そこを即座に治癒役の刑一が風に換えた祝福の言葉でまとめて回復する。
    「簡単にやられさせはしませんよっと」
     もちろん、防御や回復だけが活躍しているわけではない。攻撃役は互いにフォローし合い、声を掛け、常に連携して双海へとダメージを与え続ける。
     着物を翻し真弓が双海へと駆け寄り神速の槍を突き出す。それに脇腹を抉られつつ、突かれた槍の勢いを利用し、双海がそのまま弧を描くように朱色の槍を横一文字に振るう。
     だが冷静に双海の戦い方を分析していた鈴莉がバトルオーラを纏った脚で、朱色の槍の柄を蹴り上げ防ぐと、僅かに流れた槍の下を理が潜り懐へと入り込む。
     咄嗟に背後へ飛び退く双海だが、同時に地を蹴りぴったりと付く理との距離は近接の間合いのまま。
     ドドドドドドッ!
     黒き風を纏い輝く拳が幾度と双海の腹へとねじ込まれ、森にある大樹の幹へと吹き飛ばされた双海が衝撃に血を吐き……。
    「これしき……」
     その目は未だ生気に溢れ、朱色の槍を水平に構えると自身の中の殺気を練り上げ、一気に解き放つ。
     黒い奔流となって灼滅者へ迫るソレに、誰もが回避行動を取る中、逆に突っ込む影1つ。
    「おいっ!?」
     仲間の制止の声。だが影――惡人は鼻で笑う。
    「ぁ? なもん知るかよ!」
     自身が受ける傷と、敵へ追撃するチャンス、天秤に掛ければ後者を取るが明白、ならばと惡人は迷わない。
     自らの身体が傷つきながらも黒い殺気の波を突破し、驚く双海の眼前へと肉薄。
    「馬鹿な、自ら突っ込んでくるとは!」
    「ぁ? 来ちゃ悪ぃか!」
     ガチャリと目前で構えられたガトリングガン。
    「戦いの基本を知らんのか」
    「知るか、勝ちゃなんでもいんだよ」
     ダララララララッ!
     双海の身体が弾丸の連射に跳ね、背後の幹に押しつけられ、それでも止まらぬ弾丸は幹をへし折り双海の身体を吹き飛ばす。
     だが。
    「ぐっ」
     惡人もまた無茶をした代償か、思わず込みあげて来た赤いものを吐きだす。
    「さすが……と、言っておきマス」
     水色の兎を惡人にし向け、回復を行ないつつ横にラルフが並び立つ。
    「おぃおぃ、今のは突っ込む所だろうが」
     自分しか無理に追撃しなかった結果に不満そうに惡人が言うが、ラルフはどこか楽しそうに笑みを浮かべる。
    「ずいぶん……愉し、そうだな」
     折れた幹を押しのけ、血を流しながら双海が立ち上がりラルフへ問う。
    「そうデスか?」
     双海流一郎は強い、だから……愉しくてしょうがないのだ。つい笑みもこぼれる。
    「だが、私も同じだ。磨き続けて来た技を、目覚めた殺意の力を、こうして思う存分発揮できるのだからな」
     流れる血と反比例するように、ますます覇気と殺意を強める双海。
     だが。
    「嘆かわしい……」
    「なに?」
     吐き捨てるように呟いた裏ツ花に双海が目を向ける。
    「師範代ということで敬意を払っておりましたが……既に武道見失ったならば、尊ぶ理由も無し」
     地面に落ちた朱色の槍が消え、再び掌から朱角を生みだし構えを取る双海が裏ツ花を睨む。だが、その視線を正面から見据え裏ツ花は言う。
    「武術を磨くのは自身との戦い。礼儀尊ぶのも、相手に敬意払い、強大な力を振るえることでの奢りを防ぐ為。貴方は唯の殺人狂。畜生に堕ちた愚者」
     黙って聞いていた双海が、朱角を頭上で振り回しながら裏ツ花へ駆け寄り。
    「畜生、愚者、殺人狂……大いに結構! 戦いを前にして、そのような事は些細な事だ」
    「なら……貴方は、万死に値しますわ」


     戦いは終盤へと以降していた。
     双海の傷も相当深く、しかし灼滅者側も決して楽ではない。理はすでに1度魂の凌駕を行なっているし、それに――。
    「これで壁役は残り2枚」
     双海がアリアーンの胸に刺さった朱角を引き抜きつつ告げる。
     ドサリと倒れたアリアーン。
     だが。
    「……待って、まだ……まだだよ! 僕と、僕と遊んでぇえ!」
     胸の傷を押えながらも肉体の限界を越えて立ち上がるアリアーン。
     トドメと動こうとする双海を、裏ツ花が割って入って背後に庇う。
     もっとも、裏ツ花ももう1人の盾役である鈴莉も決して傷は浅くない、次に一撃をくらえば倒れる可能性もあった。
     今回、灼滅者達が取った作戦は手堅いものだった。だが、それ以上でも以下でも無い。
     五分五分のまま終盤までもつれ込み、あとは一気に押し切るナニカがあれば……。
     そして、その時が来る。
     ラルフの持つ赤水晶の槍が宙へと跳ね飛ばされ、双海がトドメだと心臓を狙って――その瞬間、全身が見えない糸に絡め取られたように痛みが走る。
    「なっ!?」
     それはいつの間にか自身に巻きついていた鋼糸だった。
     鋼糸を使っていた者など……双海が糸の出所を目を凝らして探る。
    「おや? 槍しか使わないと言いましたっけ?」
     おどけたように鋼糸を繰り出したラルフが言う。
    「っと、これは攻撃した方が良さそうですね……って、もうしてますが」
     鋼糸に捕まり隙を作った双海に、刑一が摩擦の火を纏った蹴りを突き込む。
    「朱の槍以上に赤く燃えるべし」
     ドゴッ!
    「それじゃ、お手合わせどうもでしたよっと!」
    「ま、まだだ!」
     朱角を地面に突き刺しギリギリ耐えきる双海。
     だが、刑一を追い越し双海に接敵する着物の女性。
    「いえ、これにて終幕です」
     その手に槍は無く、片手は腰の鞘口に、利き手は柄に――。
     居合い、一閃!
     パキンッ……ドサッ。
     朱色の槍ごと、真弓の居合いが双海を上下に断ち切り……それが、残留思念に引導を渡す最後の1撃となったのだった。

     倒れ、脚先から光の粒子となって消えていく双海流一郎。
     だが、まだ意識があるのか灼滅者達の顔を眼だけで見ると。
    「お前たちは……何を想い、戦っている……」
    「ぁ? 知らねーよ。灼滅なんざただ溜まったもんスッキリする為のもんさ、まぁ毎日の用足しと一緒さ」
     言葉の悪い惡人が答える。
    「戦う事が……日常、か」
     どこか納得したように呟く双海。
     今や完全に下半身は粒子と消えた残留思念の横に、二度目の別れとなった鈴莉がやってきて。
    「ねえ、あなたの培ったその精神は、殺意すら御せないものだったのかな?」
    「………………」
    「だとしたら、あなたが頼りにしてる『槍』っていったい何? ただの棒きれと何が違うの?」
     鈴莉の言葉におぼろげながら双海は思い出す。
     殺意の力に目覚めたあの日は、1本の枝を槍として使い戦い続けた。
     自分は最初から――。
    「……お前達は……勝ち、続けろ……」
     月と星の薄い明かりに誘われるように、双海流一郎だった光の粒子は……高く、高く昇って行ったのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ