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表通りから二本離れた裏道を、心持ち足早に少女は帰路につく。
真昼の酷暑を図書館の効きの悪い冷房で耐え凌ぎ。ようよう日の傾いてから、コンビニで買ったアイスを手にして我が家へと帰る。そんな夏休みのお定まりの一日の締めくくりを遮ったのは、艷やかなる一房のプラチナブロンドだった。
「少々、ヨロシイかしら?」
「ふぇっ!? は、はいっ?」
一体いつの間にそこに現れたのか。少女の行く手にその身を翻す、金髪紅眼の美女。白のリボンでアップにまとめたその髪が、夕日の照り返しで赤みがかって輝く。シミひとつ無い輝かんばかりの白く透ける肌に、シックなデザインの黒いワンピース。スカートの裾から僅かに覗けるお御足は精緻なレースの装飾がされたストッキングで飾られ、そのまま光沢ある白のハイヒールへと優雅に収められている。
全体的に上品なコーディネートで整えられた中、禍々しい意匠のチョーカーがアクセントとしても些か不釣り合いだと少女は感じた。
「ワタクシ、この辺りには不慣れなもので。聞きたいことがあるのだけれど――」
混じりけのない氷のような、高く澄んだ――それでいてどこか鋭いソプラノボイスで、その美女は尋ねる。
平々凡々の見本であるような図書館帰りの少女は、コンビニ袋を抱え直しておどおどと首を傾げた。
「な……なんでしょうか?」
こんな、美人さんの外人さんに、一体何を聞かれるというのだろう。
近くの駅までの道のりをぼんやりと思い描いていると、その金髪の美女は上品に朱の引かれた唇を開いて、はっきりと言った。
「ロシアンタイガーってご存知?」
「は?」
聞き取り損ないようの無いよく通る声で、そう問われ。
一匹だけ人喰い虎の混じったシベリアトラの群れのイメージを頭に浮かべながら、少女は眉を顰めて頭を掻いた。
「ええっと……お店か何かですか? ごめんなさい、ちょっとわからないです……」
「あらそう。ザンネンだわぁ、残念残念」
少しも残念でないような、満面の笑みを浮かべて金髪美女はパン、と手を叩く。
「じゃ、知らなくてもいい事を知っちゃった貴女は、口封じしないとイケナイわね♪」
「へ?」
少女の目の前で金髪美女がくるりと体を回転させた。ふわりとスカートの裾を舞い上げ、ポニーテールが弧を描く。
ギュキュルルルルル! ――と、甲高い機械音が辺りに響いた。
どんなマジックだというのだろう。美女の細くしなやかな両の手には、よく手入れされた白刃輝くチェーンソーが握られていたのである。
ソプラノの轟音を奏でつつ、チェーンソーは高々と右上段に振りかぶられた。
「さて。貴女はどんな音色でヒカレてくれるのかしら?」
「……へ?」
目を見開いた少女の手から、コンビニ袋がバサリと落ちた。
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「鋸に引き刃を使うのは、世界的には珍しい文化なんだそうだよ」
チェーンソーはそもそも押しも引きもしないけど、と付け足して、鳥・想心(心静かなエクスブレイン・dn0163)はブリーフィングを開始した。
「新しい奴隷級ヴァンパイアが、事件を起こす予測が出た。
皆には、このヴァンパイアの殺戮を止めてもらいたい」
ロシアンタイガー捜索のためそれぞれ各地に放たれた、奴隷として力を奪われているヴァンパイア達。彼らに与えられた報酬は、奴隷という屈辱的な立場からの解放。
「だが、まずは仕事の前に、一先ず与えられた自由を思う様謳歌したい――と、そういう心積りの者も居るようだね」
今回予測されたブロンドのヴァンパイア――ゾプラン、という綽名で呼ばれる彼女もそうした者の一人であるようだ。
他の奴隷とされたヴァンパイア同様、配下も仲間も持たず単独で動く彼女は、本来の目的もそこそこに一般人を惨殺して回っている。
「律儀なのか何なのか……彼女はまず、襲う相手にロシアンタイガーを知っているかどうか尋ねるんだ。
勿論、ただの一般人がダークネスのことを知っているわけもない」
そうして彼女は「余計なことを知ってしまった」一般人を、自慢の得物であるチェーンソーで持って切り裂き殺すというわけだ。
「別段、襲う相手は老若男女の区別も無いらしい。予測されたタイミングに君達の誰かが一人か二人で歩いていれば、彼女の方から声を掛けてくるだろう」
事前に人払いも済ませ、灼滅者自身が囮になれば、一般人の被害を気にせず戦闘に持ち込むことができるだろう。
「ゾプランの使う技は、ダンピールとチェーンソー剣のサイキックと同系統の物のようだね。
特に、どちらかと言えばチェーンソーを用いた攻撃の方を好んで使うみたいだ」
ヴァンパイアはダークネスの中でも特に強力な力を持つが、彼女ら奴隷となった者達は比較的その力が制限されているらしい。強敵であることに変わりはないとはいえ、上手くすれば灼滅することは可能だ。
「彼女が演奏に満足するまで待ってやる義理もない。君達の手で、彼女に挽かれる人々を一人でも多く減らして欲しい」
そう言い終えて想心は、コンビニで買ってきた棒アイスをしゃくりと食べた。
参加者 | |
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三兎・柚來(無垢な記憶の探求者・d00716) |
御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461) |
シェリー・ゲーンズボロ(白銀悠彩・d02452) |
鎮杜・玖耀(黄昏の神魔・d06759) |
碓氷・炯(白羽衣・d11168) |
八葉・文(夜の闇に潜む一撃・d12377) |
十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170) |
鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655) |
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夕闇の裏道を、ただ二人の少年が並んで歩く。
烏の濡れ羽の黒髪に色白の肌がコントラストとなって良く映える。
大人しげで、どこか気品ある彼らの前にふわりとブロンドの美女が立ちはだかる、その光景は極めて絵になった。
美女は言う。
「少々、ヨロシイかしら?」
「成る程。確かに綺麗なソプラノボイスだね」
裏道につながる路地の一つに身を隠し、シェリー・ゲーンズボロ(白銀悠彩・d02452)は苦笑気味に呟いた。
彼女の腕の中で抱かれている、一匹の兎に変じた三兎・柚來(無垢な記憶の探求者・d00716)が静かに同意するように、くんっ、と首を上向けた。
「それにしても」
また、別の陰では鎮杜・玖耀(黄昏の神魔・d06759)が、ゾプランの後ろ姿を視界の端に捉えつつ、ぼそりと漏らす。
「勝手気ままに動く奴隷級ヴァンパイアを用いるなんて、厄介なことをしてくれたものです」
アパートの屋上でやはり兎に変化して様子をうかがっていた鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655)も同じ事を考えていた。
(「奴隷化しているとはいえ、好き勝手に動くようなヴァンパイアを野に放って……あまりに杜撰で、適当な方法ですよね」)
もっとも、そんなストレートな悪口を言うのは自分のキャラでもないので、口には出さないが。
「聞きたいことがあるのだけれど――ロシアンタイガーってご存知?」
(「……一語一句、予測と変わらない言い回し、ね」)
犬変身のESPで立看板の陰に隠れる八葉・文(夜の闇に潜む一撃・d12377)は心の中でそんなことを思った。
ゾプランにとってのこの会話は眼前の相手を挽く前の前座に過ぎず、話し手に合わせて言い様を変えるほど拘る必要もないということなのだろう。
同じように拘りのない者が、自分達の仲間にもいる。
文の隠れる看板よりももう一歩陰に踏み込んだ路地裏から、ゾプランの影を見つめる十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)は、ただただヴァンパイアに対する殺意のみを抱いて静かに時を待っていた。ボスコウの思惑やゾプランの嗜好などに興味はなく、ただ、邪悪な吸血鬼を殺して殺す。その一念が哀しみの復讐者を駆り立てている。
「いや……生憎と、知りませんね。碓氷さんは?」
囮役を買って出た御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)がそんな風にトボケれば。
「ろしあんたいがー……ごめんなさい、横文字には弱くて。ちょっと、分からないですね」
碓氷・炯(白羽衣・d11168)も揃えた髪を揺らして小首を傾げる。
そんな囮二人の様子に満足げに頷いて、ゾプランは言うのだ。
「ザンネンだわぁ、残念残念――じゃ、知らなくてもいい事を知っちゃった貴方達は、口封じしないとイケナイわね♪」
ワンピースの裾を翻し、くるりと優雅にターンして、その両の手に自慢の『楽器』を握りしめる。
儚げな少年二人の肉が裂ける音を思い描いていたゾプランが耳にしたのは――二つのチェーンソーが奏でるハーモニーだった。
●
高速回転する刃と刃がけたたましい金属音を響かせながら閃光のように火花を散らす。
ゾプランの手にしたチェーンソーは、裕也が袈裟斬りに振り下ろしたチェーンソー剣を寸での所で鍔迫り合いの形で抑え止めていた。
まるで予想していなかった人間という『楽器』の反逆に、ゾプランは目を剥いてソプラノの声を上げる。
「――ッ、灼滅者!?」
その、視界の端。炯が何処からか取り出した脇差を構える姿も目に入る。
嵌められた――そう動揺しながらも、ゾプランは眼前のチェーンソーを押し返さんとその細腕に力を込めた。
「貴女は、チェンソーに拘りがお有りとか」
弱まれといえどヴァンパイアである。驚くべき膂力で押し返される鋸の刃を、しかし裕也は一歩も退くことなく、挽かせず耐える。
「どちらが強いか、勝負致しましょう」
「その程度の音しか出せないワザで、傲慢なッ」
プライドを刺激されたゾプランの瞳孔がキュッ、と窄まり、チェーンソーに掛かる力がぐいっ、と増す。
裕也のチェーンソー剣が半音高い音を上げ、堪える。
「四肢を、掲げて」
――その、視界の外。横合いから飛び来る深月紅の姿に、ゾプランは気付くことができなかった。
「息、絶え」
跳びかかりつつスレイヤーカードを解き放つ。深月紅の左目から流れ出た赤い血が、彼女の軌跡をなぞるように散る。
「――眠れ」
穿ち貫く刃の打撃。
「キあっ!?」
ゾプランの横腹を撫で斬るように撃ち出されたスターゲイザーの一撃に、彼女は甲高い息を漏らしながらたたらを踏んだ。
深月紅の装備した蹴撃装甲が持つ刃が鮮血の赤に染まる。
「ワタクシの体に、キズがっ……!」
己の体から血が流れていることを、ゾプランは信じられない物を見る目つきで見下ろす。
その視界の八割が突如出現した拳の影に奪われた。
「――ッ!?」
悲鳴の漏れ出るべき口ごと顔面をアッパーカットの要領で強打され、ゾプランの体が宙へと舞う。
それは、兎の姿のまま地を這い駆け出し、人の姿へと戻りながら繰り出された柚來の鬼神変の一撃だ。
「Alea jacta est」
続けざま。そう言葉を紡いでシェリーは手にしたクルセイドソードを凛と振るう。
同時、逆袈裟にクルセイドスラッシュを繰り出した炯と期せずして重ね刻まれた斬撃が、逆十字の血飛沫を描く。
ゾプランが眼前の『楽器』を碌に品定めもせずチェーンソーを取り出した、その瞬間に賽は投げられていたのだ。
シアッ、と車輪の廻る音が鳴る。
「……殺技、陽炎」
ごう、と立ち上る着火音。赤い牡丹がはためいて、炎がしなやかに天を突き――落ちる。
赤い羽根の幻影を軌跡に残し、文の踵が焔を纏ってゾプランの体を後背からアスファルトへと叩き蹴り落とした。
「一気に、決めさせてもらいますっ!」
土と血の煙が上がる着弾点に、上空から続けざま撃ち込まれる、音々のDESアシッド。
変異した右腕を抑えながら、精一杯に凛々しい顔付きをしている愛らしい少年の顔をして。その上で、えげつなく狙いすまされたその攻撃で、じゅうっ、と有機物の溶ける音とにおいと煙が立ち上り始める。
その一帯を飲み込むように、影が覆った。
路地の陰から歩み出た玖耀の影が夕日を背にして長く長く伸び、煙幕のように辺りを包み始めた煙ごとゾプランの体を喰らったのだ。
「これで、終わりでもないだろう。
早く立て――倒されるためにな」
冷め切った玖耀の挑発に応じるように、影の中から赤い霧が吹き出す。
掻き鳴らされるチェーンソーの調べが一際高く鳴った時、霧の中からゾプランの姿が現れた。片腕にチェーンソーを構え、もう一方の手で自身の禍々しい首輪に爪を立てながら、ゾプランは灼滅者達の包囲の中心に立つ。
その体には先ほど刻まれたはずの傷はない。
「楽器フゼイが、小生意気ね……思い出させてあげるわ。誰が、この世界の支配者か」
●
それがヴァンパイアのプライドなのだろうか。
1対8の状況下にも関わらず、ゾプランは退く素振りさえ見せず灼滅者達に対峙し続けていた。
幾合かの撃ち合い。ゾプランは確かに徐々に追い込まれているはずだが、その余裕ある態度だけは崩そうとしない。
「そんな演奏、は……悪趣味」
そう言って柚來が繰り出した、指揮棒のように細いマテリアルロッドの先端を、ゾプランは身を翻し、紙一重の間合いで躱してみせる。
「まぁ、ランボウなテンポ。そんなタクト捌きでは、ワタクシの演奏が映えないわね!」
「音楽性の、不一致……?」
避けられながらも柚來は地面に手をつき跳ね上がり、踊るように姿勢を整え素早くゾプランへと向き直る。
一方、姿勢を崩したままのゾプランに向けて、一切の躊躇なく深月紅は拳を握り飛びかかった。
血霞のオーラを纏って繰り出された百の痛撃が、一つ残らずゾプランの体へと深く叩き込まれる。
かろうじて、正にかろうじて膝もつかず弾き飛ばされもせず、その技を受けたゾプランの耳に、チェーンソーの轟音をすり抜けて深月紅の吐いた悪態が届いた。
「音楽家を気取るなら、ご主人様の靴の裏でも音を立てて啜っていろ」
「ッ、ナリソコナイが、ワタクシに舐めた口をっ!」
ソプラノの声で激昂し、ギィリリリッ、と騒音を響かせ、チェーンソーを振り上げ、下ろす。
深月紅目掛け振り下ろされたその一撃はしかし、間に立ち入ったシェリーの持つバスターライフルの銃身によっていなされ、彼女の体に幾らかの衝撃を残しながらもアスファルトを削った。
「が、頑張ってっ! そんな、ちょっと怖いだけの攻撃なんかに負けないで! ボクがついてます!」
しかし、その衝撃も忽ちの内に音々が起こす清めの風が癒していく。加えて。
「それでは私も、及ばずながら」
玖耀の撃ち出した暖かな祭霊光の光が、音々だけでは回復しきれないダメージも念押しのように癒していった。
ちぃ、と憎々しげに舌打ちするゾプランに、狙われそうな癒し手達を庇うような立ち位置を取りながらシェリーは言う。
「そんな無粋な演奏より、貴女の歌声を聴かせて欲しいな。
そう――悲鳴とか」
手にしたライフルを体の前でぐるりと回す。ぶおん、と重く風を切り、影を纏った銃把がゾプランの顔を強か打ち据えた。
「カハっ……!」
トラウナックルをまともに喰らい、チェーンソーを離した片手で首を抑えるゾプラン。
「此方も、お忘れなく」
言って、今度は裕也の伸ばした影が再度ゾプランの総身を喰らった。
影の中で悶える彼女へと、すかさず手にした得物の刃先を向けたのは、文だ。
「……自由になれた間、好き勝手なことしたんや。
……そのツケは――アンタの、命や」
文の手の中で、得物――黒焔鳳凰が本来の姿を取り戻す。その穂先を踏み込み突き出し、撃ち出されたのは氷の弾。
「……殺技、雹」
「キィっ……!」
既に幾度もの炎、氷の技を受け続けたゾプランの体に、新たな凍傷が刻まれる。
その体に確かに無数のダメージを残しながらも、ゾプランは尚も顎を上向け嘯いた。
「――ワタクシに、払うべきツケなんてないわ。
ヴァンパイア以外のあまねく全ての生き物は、ワタクシ達の余興のためにあるのよ……!」
「そうですか」
「――ぐぅッ!?」
音もなく、斬光が疾走った。
下段横薙ぎに繰り出された炯のクルセイドスラッシュが狙い違わずゾプランのスカートに隠されていた両膕を背後から深々と抉るように裂き、彼女の黒衣に血の染みを更に足した。
ヒトであるならば痛覚の密集した急所であるそこを斬り裂かれ、無様な悲鳴こそ上げぬものの、ゾプランの体はビクン、と跳ねる。
「どうですか。余興として狩られる側に狩られる気分は?
僕が貴女を、貴女以上に凄惨に壮絶に殺害してあげますよ――殺人鬼として」
忌々しげに炯の顔を睨み付けたゾプランだったが、その瞳の色は長い睫毛と落ちていく日の陰に隠れ覗くことはかなわなかった。
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「皆さん、あと一息ですよ! 回復はボクに任せて、畳み掛けてください!」
ゾプランのソプラノに負けじと天使の声で皆を鼓舞する、音々の言葉。少なくともその内容に偽りはない。
「挽かれなさい、ワタクシにっ! 千切れて裂けて崩れるネイロを聴かせてっ!」
そう叫び、繰り出されたゾプランのジグザグラッシュはしかし、炯によって真正面から受けられ、そのまま流れるように神霊剣をカウンター気味に入れられる。
「体だけ殺したのでは、片手落ちですからね」
そうしてたたらを踏んだゾプランの体をまたも、玖耀の影が包むのだ。
「――奴隷にまで堕ちた貴様は、闇の深淵に何を見る?」
「う、ぎぃゥゥゥっ……!」
玖耀の言葉に応えることもなく、淑女らしからぬ声を上げ、奥歯が砕けそうなほど歯噛みして、己の首に付けられた首輪に爪を立て掻き乱すゾプラン。
どれほど愛しいチェーンソーを響かせようと消すことのできなかったトラウマが、着実に彼女からエネルギーを奪い取っていたのだ。
「ワタクシが……奴隷などと――! その為に、こんな、こんな……忌々しい……!」
「……おつかいも満足にできんねや。まぁ、その程度の器ってコトなんやろーね」
「そう……期待もされず戯れに使い捨てられる、粗悪な楽器、といった所かな?」
「クぅぅぅっ、ナあぁぁぁ……ッ!」
文の黒焔鳳凰が、シェリーの影業がゾプランを撃つ。
「解放されたい、は……わかる。でも、それで殺すの……共感できない」
そう言う柚來によって刻まれるのは、ゾプランの否定した、ダンサブルなビート。
思わずその身が揺れてしまうようなリズムに乗って繰り出される、閃光百裂拳!
「だから、倒す……ね」
「グッ、か、ウグゥ……!」
怒涛となって撃ち込まれる連撃に体を晒しながらもしかし、ゾプランは傷つき膝を折りこそすれ、歯噛みした隙間から漏らす以上の悲鳴を上げることはなかった。
――これまでは。
「これで」
崩れるゾプランの前に立つ、裕也の手にしたチェンソーがガォン、と鳴いた。
半ば反射的に、ゾプランは己の手の中にある傷だらけのチェーンソーを掲げて、盾にする。
「僕たちの、勝ちですね」
――ギィ、キィ、カッ、ギィィィィィィィィィイイイインッッッ!!
「ガッ、ぎ、がぁっ――あがあぁぁぁぁあぁぁあぁああああああッ!?」
裕也の騒音刃が、ゾプランのチェーンソーを断ち斬る。当然にそのまま鋸刃はゾプランの右の肩口へと食いこんで、肉を断つ音を響かせる。刃の響く音に負けぬほどゾプランがソプラノの悲鳴を上げれば、裕也の騒音刃の音もまた高らかに鳴り響き、それに劣らぬほどゾプランの声も高音へと高まりそして――
「さっさと死ね」
とすり、と。
深月紅の贖罪の剣がゾプランの心臓を背後から貫いたと同時。
ソプラノは止み、ゾプランは一握の灰と化した。
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「お疲れ様、柚來」
「ん……」
優しい微笑を浮かべたシェリーに、柚來はコクン、と頷いて応える。
「少し疲れましたね……何か、甘いものでも食べて帰りたいです」
「わっ、いいですね! ボクも、一緒に行っていいですか?」
肩に残った倦怠感を振り払うようにして言った裕也の言葉に、音々が明るい声で食いついた。
「……この件もこれで、落ち着くのでしょうか」
そう呟きながら、炯はその場で簡単にできる最低限の清掃に取り掛かっている。
血溜まりと土埃。そしてゾプランであった灰を散らしたその中から、禍々しい意匠の首輪が転がり出た。
「残ったものはこれだけ、ですか……」
玖耀は、その灰の中から慎重に首輪を摘み上げる。
この戦利品が学園に何らかの情報を齎すかどうかは、学園で調べてみなければわからないだろう。
仲間達に大きな傷を負ったものがいないことを改めて確認し、深月紅と文は頷きあった。
「もう、ここに、用は、ない……帰ろう、か」
「……そう、ですね」
斯くして、灼滅者達は学園へと凱旋を果たした。
作者:宝来石火 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年8月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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