ら・みかにーな

    作者:魂蛙

    ●少女風怪人柑橘系
     まるで、蜜柑のような少女。
     天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)がそう感じたのは、潮の香りに微かに混じる柑橘系の香りのせいだろうか。
     いや、少女ではないのかもしれない。背格好も麒麟に近く、ぱっと見た印象は同じ年頃のようにも見えるが、どこか子供の物とは思えぬ超然とした雰囲気を纏っている。
     つばの広い緑色の帽子を被ったその少女は麒麟に気付くと、オレンジ色のワンピースを翻して弾むように駆け寄ってきた。
    「あなた、みかんは好き?」
     麒麟は話しかけられるとは思わず少し驚き、ややあってからこくんと頷く。
    「私もみかん大好き! 皆、もっと愛媛のみかんを好きになればいいのにな!」
     麒麟の戸惑いを余所に、少女は無邪気に両手を広げて満面の笑みを弾けさせる。
    「もうすぐお祭りがあるの!」
    「お祭り?」
    「そう、みかんのお祭り! 町も人もみーんなみかんの香りで一杯になるんだよ! ね、とっても素敵でしょう?」
    「きりんもみかんの香りは好きかな」
     どんなお祭りなのか想像を巡らせながら頷いた麒麟に、少女は喜びを全身で表現するように身を震わせて柑橘系の香りを振り撒く。
    「あなたも参加してね! はい、これあげる!」
     少女はぱっと取り出した伊予柑を麒麟に差し出した。
    「あの……」
     麒麟が受け取った伊予柑を見下ろし、顔を上げると既にそこに少女はいなかった。右を見ても、左を見ても、煙の如く消えてしまったかのように少女の姿はない。
    「お祭り……いつやるのかな?」
     もう一度伊予柑を見下ろし、ただ首を傾げるしかない麒麟であった。

    ●ら・みかにーな
    「愛媛でご当地怪人が事件を起こすみたいなんだ」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、教室に集まった灼滅者達に事件の説明を始める。
    「怪我人が出たりするわけじゃないんだけど、町1つまるごと巻き込む事件で、怪人をどうにかするまで事態を沈静化する事はできないんだ。放ってはおけないし、みんなに解決をお願いするよ」

    「ご当地怪人のイヨ・カンキッツとその配下の強化一般人達は、パニックテレパスに似たEPSを使いながら町中にみかんを積んだトラックを配置して回るんだ。EPSの影響を受けた町の人達は、みかんを投げ合いお祭り騒ぎをするようになってしまうんだ」
     物凄く目にしみそうな祭だ。
    「午後1時過ぎ、みんなが現地に到着した時点で既にお祭りは始まっているよ。だから、騒ぎの中からイヨを見つけ出して接触しないといけないんだけど……」
     まりんは机の上に地図を広げる。地図には3×3のマス目が書き込まれて区分けされており、左上のマス目から順に1から9までの数字が割り当てられている。携帯電話のキーを想像すればわかりやすいだろう。
    「この1から9の各エリアの赤い印のある場所に、みかんを満載したトラックと配下の戦闘員2人ずつが配置されているよ。最初にイヨがいるのは真ん中のエリア5。そこに5分間は留まっているんだけど、それ以降は気紛れに移動を始める可能性があるんだ」
     移動するかもしれないし、留まるかもしれない。6分目以降のイヨの行方は予測不可能だ。
    「ただ、イヨはトラックと配下がいる場所周辺に現れ、9つに区分けされたエリアより外には出ず、そして一度エリアを移動すると最低2分はそこに留まるっていう行動パターンがあるんだ」
     エリア移動については、現在地から地図でいう上下左右に隣接するエリアにのみ移動が可能で、移動には1分かかる。これはイヨだけでなく、灼滅者も同様だ。
    「現地に到着した時点では敵はみんなに気付いていないから、みかんを投げ合いただのお祭り参加者のフリをしていれば、配下達に攻撃される事なくエリアを通過できるよ。一度現場に着いたら、9つのエリアより外には出ないように気を付けてね」
     また、参加者のフリでイヨを素通りする事はできない。多少の時間稼ぎくらいは可能だが、一度接触したら完全に撒く事は不可能になる。
    「イヨとの戦闘が始まると、イヨは周囲の配下に召集を掛けるんだ。できる限り、怪人との接触前に配下を倒しておいた方が、イヨとの戦闘は楽になるよ」
     召集がかかると、地図上の上下左右に隣接するエリアから1分後に、更にもう1分後に斜め隣りのエリアからも配下が駆け付けてくる事になる。
    「もう1つ注意して欲しいのが、イヨと接触するまでに時間をかけ過ぎない事。あまりに時間が経過すると、イヨは配下達を全員呼び集めて合流してから各エリアを回り始めるんだ」
     こうなると極めて危険だが、灼滅者達が配下を倒しつつ移動していれば、イヨも異変に気付いて灼滅者達を探すように移動をし始め、結果として遭遇する確率は上がっていく。灼滅者達が極端に長時間1つのエリアに留まらない限りは、この全員召集は発生しない事態だと考えていい。
    「戦闘時、イヨはキャスターのポジションにつくよ。使用するサイキックはご当地ヒーローのご当地ビーム、魔法使いのマジックミサイル、マテリアルロッドのフォースブレイクに似た3種類だよ」
     少女のような容姿とは裏腹にイヨの戦闘力は高く、油断は禁物だ。そもそも、不老の存在であるダークネスに、見た目と実年齢が合致している保証などない。
    「配下達の方は、龍砕斧の3つのサイキックに似たものを使用するんだ。ポジションは地図上の偶数のエリアがディフェンダーとメディック、エリア5を除く奇数エリアがクラッシャーとスナイパー、そしてエリア5は2人ともジャマーだよ」
     配下の戦闘力は2人を相手に灼滅者全員でかかれば1分で片付けられる程度だが、数が集まってイヨを支援するとなると、侮れない戦力となるだろう。

    「きっとたくさんみかんを投げつけられる事になると思うから、着替えとか用意した方がいいかもしれないね」
     教室を後にする灼滅者達を、まりんは苦笑混じりに見送るのであった。


    参加者
    三日尻・ローランド(尻・d04391)
    松下・秀憲(午前三時・d05749)
    小鳥遊・葵(ラズワルド・d05978)
    明日・八雲(十六番茶・d08290)
    黒芭・うらり(高校生ご当地ヒーロー・d15602)
    栗元・良顕(ゆれゆられ・d21094)
    夕鏡・光(万雷・d23576)
    アリア・ローベル(流され娘・d29068)

    ■リプレイ

    ●心なしか空気が黄色い
     人々の手にみかん、壁に地面に叩き付けられたみかん、そしてひっきりなしに頭上を飛び交うみかん。町の北側、エリア2から突入した灼滅者達は、早くもみかんまみれになっていた。
    「一瞬だけ、みかんの良い匂いだなあなんて思った僕が間違ってたよ……」
    「食べ物を投げるよりも涼しくなるようなお祭りをした方がいいのに……ホラー以外で」
     威勢のいい掛け声や子供達の嬌声、そして柑橘類の爽やかな香り満ちる町の中、小鳥遊・葵(ラズワルド・d05978)は嘆息し、アリア・ローベル(流され娘・d29068)もやっぱりため息をついた。ビタミンCたっぷりの空気が目にしみる。
    「痛ッ!? ちょっとこれいよかんは危なうわっ怖っ」
     人々の手にはみかんに限らず、愛媛で生産される柑橘類が握られている。その中にはご当地怪人イヨ・カンキッツが愛する伊予柑も含まれていた。多少握り潰してから投げられてはいるが、松下・秀憲(午前三時・d05749)を狙う伊予柑の皮の分厚さはそれだけでどうにかなるものでもなかった。
    「やりやがったな!」
    「ヒカちゃんいっちゃえ! ぶちかまうひゃあ!」
     祭にすっかり馴染みきっているのは夕鏡・光(万雷・d23576)と明日・八雲(十六番茶・d08290)だ。
     勝負服を翻し光がみかんを周囲の人々に投げまくり、何故かその反撃の的にされた八雲が逃げ回る。
    「オカユタスケテ!」
     助けを求める主人を冷めた視線で一瞥した霊犬のおかゆは一つ嘆息するように鼻を鳴らし、飛んできたみかんを――、
    「おかゆー! なんでー!」
     ――八雲の顔面目掛けて尻尾で打ち返した。
    「うわーもーさっさとなんとかしようぜこれ」
     頭を下げてみかんから逃れながらの秀憲の言葉に、黒芭・うらり(高校生ご当地ヒーロー・d15602)が同意を示す。
    「あまり時間に余裕もないし、急ぎましょう」
     うらりがイヨの配下の戦闘員が待機しているポイントを目指して駆け出すと、足元に転がるみかんを眺めていた栗元・良顕(ゆれゆられ・d21094)がつられるように後に続く。
     自分も迷子にならぬよう誰かについて行こうと辺りを見回すアリアと、ナノナノのえくすかりばーの柔らかなほっぺたにみかんを押し付け悦に入っていた三日尻・ローランド(尻・d04391)の目がばっちりと合った。
    「うんうん、ついて来るといいよ――」
     何故かそれだけで察したローランドがアリアに手を差し出し、
    「――ボクのお尻に!」
     お尻をキュっと持ち上げた。
    「えと……はい」
     思わず視線を10cm程下ろしてから、ローランドの隣に立とうと決めたアリアであった。

    ●戦闘中もみかんは飛んでくる
     うらりは町の人々とみかんを投げ合いながら、少しずつ公民館前に停められたトラックに近付いていく。トラックの傍に控えるイヨの配下との距離を測り、うらりと霊犬の黒潮号が飛び出した。
     配下は不意打ちに対応できず、黒潮号の斬魔刀とうらりのシールドバッシュをまともに食らう。
     地面を転がる配下に、鬼神変を発動させた光が間合いを詰めて巨拳を叩きつけ、襟首を掴み強引に立ち上がらせて更にもう一撃叩き込んだ。
     前蹴りで配下を突き飛ばした光と入れ代わり飛び込んだ葵が、マテリアルロッドの群青を振り上げ配下の顔面を打ち抜く。葵はフォロースルーからスタンスを踏み替え、上体を切り返し、群青を逆水平に振り抜き配下に叩き付ける。瞬間、爆裂が閃光を撒き散らし配下を吹き飛ばした。
     倒された仲間を見て慌てて武器を構えたもう1人の配下を、既にアリアとローランドが挟み撃ちにしていた。
     飛び出したえくすかりばーが配下の頭上をひらひらと飛び回って翻弄しつつしゃぼん玉を浴びせ、更にビハインドのローズが霊障波で畳みかける。
     同時にクルセイドソードを構えたローランドが一気に間合いを詰める。アリアが放ったギルティクロスが配下を直撃し、そこにローランドが踏み込み旋転からの逆水平切りで配下の胴を薙ぎ払った。
    「おっと?」
     配下が2歩、3歩と大きく後退するも踏み堪え、斧を振り上げローランドに迫る。
    「かはっ?!」
     が、配下はその斧は振り下す事なく呻きを漏らし、そのままばったりと倒れる。倒れ伏した背後をいつの間にか取っていたのは、殺人注射器を構えた良顕であった。
    「やあ、助かったよ良顕くん。これでエリア3も突破だねえ」
     笑みを浮かべるローランドに、良顕がこくりと頷いた。
     エリア2に続きエリア3の配下を倒した灼滅者達は、南下を開始する。灼滅者達がエリア6の配下と戦闘に入ったその頃、隣のエリア5ではイヨが抱えられるだけみかんを抱えて手当たり次第に投げまくり、投げ返されては楽しげな悲鳴を上げて逃げ回っていた。
     交差点に出たイヨは十字路の真ん中に立って周囲を見渡す。
    「あっちの方が楽しそうかな!」
     イヨは国道沿いに、西へと向かって駆け出した。
     一方、灼滅者達は予定通りのペースでエリア6と9の配下を倒して西進し、撰果場前に到着していた。
     灼滅者達は撰果場前に多数停められたトラックを利用し、死角から配下に接近して強襲をかける。
     配下の迎撃態勢が整うより早く間合いに捉えた秀憲が、敵の初動を潰す左ジャブから踏み込み右ストレート、更にボディとテンプルを狙って上下のフックを叩き込む。
    「ピカリン、任せた!」
    「任されたァ!」
     秀憲が飛び退くと同時に、光がトラックの天板の上へ駆け上がり、トゲを備えた巨大な金棒を大上段に振りかざして跳躍する。落下の勢いを乗せて振り下ろされた金棒は配下の脳天を直撃し、打ち抜く衝撃が地面を割り砕き、めくり上げ、巨大なクレーターを形成する。
     倒された仲間に慌てて駆け寄ろうとしたもう1人の配下の前に、うらりが立ちはだかった。
     うらりはWOKシールドを展開して配下の斧を受け、旋転で捌きつつサイドに回り込む。
    「大人しくしてなさい! マグロビンタ!」
     遠心力を乗せて逆水平に振り抜くシールドが配下の体側をぶっ叩く。
     尾鰭が水面を叩くような景気のいい音に弾き飛ばされる配下を、良顕が投げ放ったチェーン状の鋼糸が錆の粒子を撒き散らしながら追撃し、空中で捕縛した。良顕はチェーンを手繰り寄せ、締め上げるように配下の全身を切り裂く。
     八雲は良顕が動きを抑え込む配下に狙いを定め、手の中で練り上げたオーラの塊を掌を突き出し投射する。放たれた光弾はうねるようにブレながら急速にホップアップし、配下を直撃した。
     配下が気絶したのを確かめて息をつくうらりに、アリアが駆け寄り祭霊光の回復を施す。ここまでの連戦で多少のダメージは負ったが、これで半分以上のエリアを制圧した事になる。
    「次はエリア7、駅の方ね」
    「駅はえっと……こっちだっけ?」
     灼滅者達はエリア7を目指して走り出す。アリアが指差した方とは逆に方向へ。
     人とみかんを掻き分け駅前まで来た灼滅者達は、先程と同じように配下の死角から接近する。配下を間合いに捉えた灼滅者達は、頷き合ってから飛び出そうとする。
    「お兄さん達、何してるのかな?」
     頭上から少女の声が降って来たのは、その時だった。

    ●あととりあえずゆるキャラ作ったり
    「ダメだよ、お祭りの邪魔をしちゃ」
     声の主、イヨは駅舎の屋根の上に腰かけて灼滅者達を見下ろしていた。
    「待ち伏せされていたみたいだね」
     油断なく見据える葵にイヨは笑顔で頷くと、立ち上がり虚空から引き抜くように取り出したロッドを掲げた。
    「折角盛り上がってるんだから、水を差す人達には退場してもらうよ!」
     灼滅者達に気付いた配下達が駆け寄ってくると、同時に灼滅者達が散開する。
    「やいコラ、イヨ! 食べモン粗末にすんな!!! 農家の人に謝れ!!」
    「お祭りは神事だよ? 神様に捧げてるんだから、粗末になんてしてないんだよ」
     配下に殴り掛かりながらの秀憲の言葉に、イヨは全く悪びれずに答えながらロッドを振るい、オレンジ色の光球を投射する。
     放物線を描いて飛来する光弾に飛び掛かり、シールドで叩き落としたのはうらりだった。
    「あなたの相手は私よ!」
    「お姉さんが相手をしてくれるの?」
     イヨが駅舎の屋根から飛び降り、ふわりと着地してうらりと対峙する。
     軽いステップから跳躍したイヨが飛び掛かり様に振り下ろすロッドを、うらりはシールドで受け捌く。
    「って言うかミカン投げ祭りってトマト投げ祭りパクってるわよね! どうみてもパクリよね国際問題になるわよ!」
    「え? お役所仕事の町興しなんてそんなもんでしょ」
    「とりあえずあなた全国の地域振興課の皆さんに謝りなさい!」
     うらりは上段から振り下ろされるロッドをシールドで受けて外に流し、間髪入れずシールドを逆水平に振り抜きイヨを突き飛ばした。
     追撃しようとしたうらりの前に、隣のエリアから駆け付けた配下達が立ちはだかる。
     斧を構えてうらりに突撃するが配下を、横からディーヴァズメロディの衝撃波が直撃した。ローランドは歌声に力を乗せて配下を怯ませ、そこに飛び込んだ葵が妖の槍の刺突を連続で叩き込んだ。
     その間に間合いを取ったイヨは、配下と戦っていた八雲を狙ってロッドを突き出す。
    「余所見してると危ないよ!」
     放たれた光線が、八雲の背中を直撃する。死角からの攻撃によろけた八雲に、イヨは畳み掛けるように光線を連射する。
    「させないよ!」
     八雲の元に駆け付けたアリアが縛霊手で地を叩き、展開した祭壇が放つ光で盾を形成してイヨの光線と、ついでに遠くから飛んでくるみかんの流れ弾も弾き飛ばした。
    「ちゃんとみかんも防ぐんだね、それ」
    「どうせならみかんを色々料理して美味しく食べるお祭りにして欲しかったよ!」
     手を叩いて笑うイヨに、アリアが文句で返す。
    「食べればいいんじゃないかな? お祭りで汗をかいた後に飲むみかんジュースは、きっとがいに美味しいと思うんよ!」
     駆け付けたおかゆの六文銭射撃を躱し、光線を乱射しながらイヨが後退する。
     直後にエリア5からの増援が駆け付けた事で戦況は乱戦の様相を呈していった。イヨの放つ光線と光弾と時折飛んでくるみかんにペースをかき乱されながらも、灼滅者達は各個撃破で確実に攻めていく。
     前に出て良顕と武器をぶつけ合う仲間を盾に、良顕の死角へ回り込もうとした配下の肩を、光の手がむんずと掴んだ。
    「そりゃあ!」
     慌てて振り返った配下の顔面に、光は拾ったみかんを全力で投げつける。弾ける果汁に目をやられて呻く配下を、光は雷撃を纏わせた金棒を豪快に振り抜きぶっ飛ばした。
     良顕は背後の光をちらりと見やり小さく頷くと、両手の間で渦巻く風を刃へと練り上げ配下を切り裂く。
     刃の嵐に切り裂かれながら吹き飛ぶ配下に、葵が妖冷弾の連射を叩き込む。ダメ押しの氷弾で配下を撃ち抜き、葵はそのままイヨに向き直った。
    「さあ、これで残るは君1人だ」
    「そうだね。でも、お兄さん達も疲れているみたいだよ?」
     イヨは大きく跳んで電柱の上に飛び乗ると、灼滅者の頭上から光弾を乱れ撃つ。
     灼滅者達は散開して降り注ぐ光弾を躱し、光弾の雨が途切れた瞬間に一斉に飛び掛かった。
     電柱を蹴り跳び逃げるイヨをアリアとローズが追撃する。後退速度を維持したままのイヨが放つ光弾を前に出たローズが弾き飛ばし、ローズを追い越したアリアがクルセイドソードで斬りかかる。
     イヨはアリアの斬撃をロッドで受け止めた。が、その直下からローランドが跳び上がり様にクルセイドソードでイヨを斬り上げ、バランスを崩した所に良顕の赤い光輝に染まったチェーンが振り下ろされる。
     地面に叩き落とされたイヨに、うらりが巨大なマグロを模したアルテマグロウェポンの切っ先を向け構える。
    「正義は勝つ! 必殺☆漁港ビーム!」
     うらりが放った光線に、体勢を立て直したイヨもロッドから光線を放って対抗する。真っ向から激突した光線は、激しい光を撒き散らしながら拮抗する。
     光線の出力を高めようとイヨが足を止めたその瞬間、横から飛び込んだ葵が群青をイヨに叩き付ける。イヨが体勢を崩した瞬間を見逃さず、うらりはアルテマグロウェポンに力を込める。 
     一気に勢いを増したうらりの光線はイヨの光線を押し切り直撃、爆裂した!
    「そら、もう一丁だ!」
     受け身を取って踏み止まるイヨに息つく間を与えず、光が追撃する。光は金棒を振り下ろしてロッドを構えたイヨのガードを叩き割り、間髪入れずに振り上げる一撃でイヨを上空へ打ち上げた。
    「松さん、行けるか!」
     光に頷き応えた秀憲が、マテリアルロッドのRegulusを天に突き上げる。
    「あっすううううう!」
    「はいはーい! 任しといて!」
     魔導書を開いた八雲の背後に、魔法陣が翼の如く展開される。
     魔法陣から放たれた光条は螺旋を描いてRegulusの先端に集束する。瞬間、Regulusから新緑色の光が噴き出し天を衝いた。
    「ヒデノリ、やっちゃえ!!」
     秀憲は両脚を開いて踏ん張り、巨人の剣の如きRegulusを振りかぶる。
     天を切り裂き振り下ろされた光の柱はイヨが放つ光弾も掻き消しながら迫りイヨを捉え、そのまま地を二つに割ってイヨを――、
    「これでトドメだ!!」
     ――叩き潰した!!

    ●柑橘類の香りをお土産に
    「あーあ、お祭りもお終いかぁ」
     よろめきながらも立ち上がり、ため息をついたイヨは灼滅者達に向き直って手を振る。
    「ばいばい」
     直後、イヨはオレンジ色の粒子を残して消えていった。
    「ヒデノリ、緑と橙のコントラストが素敵みたいなことになってる」
    「べとべとでかなわんね。早くどこかで着替えたいよ」
     イヨの灼滅を確かめ、安堵する秀憲に八雲が駆け寄る。
    「今年のいよかんも美味しく出来てそうですこと」
     服に染みついた柑橘類の香りを嗅ぎながら、秀憲はため息混じりに呟いた。
    「これ後始末どうすんのやろ……」
    「本当にね。まだ皆正気に戻ったばかりだし……」
     みかんまみれの町の惨状を眺める良顕の呟きに、うらりが同調しつつ嘆息する。人々も正気に戻ってはいるが、子供など一部の者達がまだみかんを投げ合っている。
    「町の人達に任せるしかないんじゃないかな」
    「そうだねえ。流石に町1つまるごとキレイにするのは、ボク達だけじゃ無理だよねえ」
     苦笑する葵にローランドが頷いた。と、思い出したようにローランドが1つ手を打つ。
    「ああ、でも帰る前にいよかんをお土産に買いたいね。美味しくイタダイテこそご当地名物だよ」
    「そうだな。よく考えたら投げてばっかで1個も食べてないな」
     ローランドの提案に光が頷き笑う。
    「とにかく、とりあえずここから離れ……と、アリアはどこだろう?」
     辺りを見回す葵達の耳に、疲れ切ったか細い悲鳴が届く。
    「た、助けてぇー……」
     振り返ると、何故か子供達の標的にされたアリアが、容赦なく投げられるみかんから頭を抱えて逃げ回っていたのであった。

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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