見習いパティシエールの苦悩

    作者:猫御膳

    「やばいやばいやばいやばい! 全然間に合わないよ~!?」
     夜遅くの製菓学校。そこで何とか調理実習室を借りた女性が、泣き顔のまま頭を抱える。何度壁に掛かったカレンダーを何度見ても、時間が足りないと思えてしまう。お盆前には課題の、夏のデザートを作らなければならない。しかし、ありきたりのデザートでは点数はどうしても低くなるのだ。
    「アルバイトに帰省に夏の課題! どれも外せないし、このままじゃ落第しちゃう!!」
     元々、親の反対を押し切って上京したのだ。これで落第でもすれば、直ぐに帰って来いと言われるに違いない。
    「皿をマイナス直前まで冷やして、シャーベットを……駄目駄目っ! 果物が限られるし見栄えが……誰かアイデアをー!!!」
     そんな彼女の叫びが調理実習室に響き渡る。それを先生と両親の格好をしているシャドウ達が、楽しそうに嗤って眺めるのだった。

    「夏のデザートと言えばアイスクリームだなー」
    「同意だ。かき氷も外せまい」
     灼滅者達が集まれば、希・璃依(シルバーバレット・d05890)と曲直瀬・カナタ(中学生エクスブレイン・dn0187)の2人がカップアイスクリームを食べていた。
    「暑い中、集まってくれてありがとう。実はだ、とあるパティシエールがシャドウに狙われている。これを皆で助けようじゃないか」
     カップアイスクリームを手にしたまま、璃依がそう告げる。
    「詳しい話は私がしよう。製菓学校に通う、畑上・泉(はたかみ・いずみ)という一般人が、シャドウに取り憑かれた。だからみんなは精神世界(ソウルボード)に侵入し、彼女を救って欲しい」
     説明を代わったカナタがカップアイスクリームを食べ終え、説明を続ける。
    「どうやら彼女は時間に追われ、特に課題の夏のデザートに頭を悩ませてるらしい。そこをシャドウに狙われたようだな。『このまま夢を諦め、実家に帰れ』、と言って彼女を苦しめている。故に、みんなに頼める事は、夏のデザートのアイデアを出す、もしくはどんな状況であろうと、夢を諦めないという事を語って説得して欲しい」
     そんな説明がされると、灼滅者達の中には、素人の意見で良いのか?という声が上がる。
    「素人だからこそ、という話もあるだろう。但し、あんまり奇抜過ぎると……彼女が泣くぞ。メンタルが脆いようだからな。アイデアが無ければ、説得でも良いだろう。それこそ帰省やアルバイトを諦めれば、彼女は自力で課題を成功出来る力を持っているのだから」
     どれも外せないと思ってるからこそ彼女は悩んでいるのだがな、と呟くカナタ。
    「重要なのは、課題を出してる先生や親に化けているシャドウに対し、『このままだと邪魔だ』と思わせる事だ。そうすればシャドウは焦れて襲い掛かってくる。敵は『先生』に化けているシャドウに、『両親』に化けている配下という3体が相手となる。シャドウはシャドウハンター、そして麺棒でマテリアルロッドのように攻撃するようだ。配下は両方共、殺人注射器のようなサイキックを使う」
    「既にイズミの住んでいる場所は分かっているので安心してくれ」
     カナタの説明が終わると璃依が、後はソウルボードに乗り込むだけだ、と告げる。
    「よっしゃ! 俺の出番やな!!」
     教室の隅で黙っていた露草・八吹(高校生シャドウハンター・dn0197)が、漸くシャドウハンターらしい事が出来ると意気込む。
    「……? アタシがシャドウハンターだから、別にヤブキのソウルアクセスは必要無いぞ?」
    「えっ」
     そ、それでも!と言いながら八吹は灼滅者達に着いて行き、カナタと璃依が苦笑するのだった。


    参加者
    九条・茨(白銀の棘・d00435)
    希・璃依(銀木犀・d05890)
    狼幻・隼人(紅超特急・d11438)
    上土棚・美玖(高校生デモノイドヒューマン・d17317)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    三園・小枝子(トリカゴノユメ・d18230)
    ナターリヤ・アリーニン(夢魅入るクークラ・d24954)
    獅子鳳・天摩(謎のゴーグルさん・d25098)

    ■リプレイ

    ●見習いパティシエールの悪夢
    『泉、貴女には向いてないわ』
    『家族、地元、友人達を捨ててまで叶えるような事か? 無理だ、諦めろ』
    「う、うぅぅぅぅぅ~!!」
     両親の厳しい声が胸に突き刺さる。泣きそうな声を上げながら、それでも何とか泉は堪えようとする。
    『畑上・泉、もう諦めてしまえ。失格だ。パティシエールに成るだ? お前では叶う事は無い。実に才能が無いな』
     心が潰される感覚に涙が溢れる。向いてない。才能が無い。パティシエールに成れない。一番聞きたくない言葉が、一番聞きたくない人達から言われる事で、彼女はキッチンの前で泣き崩れそうになる。
    「あ、あたしじゃ、……パティシエールには、……成れ」
    「いた。悩める見習いパティシエール。スイーツ好き現役学生達が助太刀いたそー」
     そんな呑気とも思えるような希・璃依(銀木犀・d05890)の声が、泉の精神世界に響き渡り、心が折れそうであった泉の言葉を遮る。泉が振り返ってみれば、10人以上の泉よりも年下の少年少女達が集っていた。
    「な、え、え……? あ、貴女達、は?」
    「テンパってるようだね。良かったらオレ達も手伝うよ」
     突然の事で軽いパニックになり掛けていた泉に、九条・茨(白銀の棘・d00435)が冷静と思えるような声を掛ける。その後ろでは、間に合ったと安堵している露草・八吹(高校生シャドウハンター・dn0197)の姿もあった。
    「泉さんってお菓子が作れる人なの?」
     きらきらとした笑顔を浮かべて泉に詰め寄る上土棚・美玖(高校生デモノイドヒューマン・d17317)が、その手を取って自己紹介を交えながら純粋に凄いと言うと泉は感化されたのか、また泣きそうになる。
    「わたしはお菓子作りのことはあんまり分からないけれど。でも、一つだけ絶対に言える事があるよ。それは、夢は諦めちゃったらダメって事」
     更に純粋たる声を掛ける、三園・小枝子(トリカゴノユメ・d18230)の言葉。彼女達の言葉が、泉の心に染み渡る。
    「思い出してみて、あなたがその夢を志した日を。きっと、それは希望に満ちた想いの中にあったと思うよ!」
    「折角パティシエールの勉強できる機会手に入れたんやろっ! 何が大事かよく考えや」
     彼女達だけでは無く、狼幻・隼人(紅超特急・d11438)の叱咤激励が、泉の心に打つ。
    「きっと今は追い詰められて自分の事で精一杯になっちゃってるんじゃないかな。でも料理はそれを食べる人の事を考えるのが大事じゃないすか」
     獅子鳳・天摩(謎のゴーグルさん・d25098)が言う、それは根本的な事。パティシエールを目指したのだって1つの切っ掛け。
    「泉っちは自分の料理で食べる人をどんな気持ちにさせてあげたかったっすか。それを見失わなければきっと大丈夫っす」
     今まで課題だけに囚われた泉が、大事なことを思い出す。思わず泉が灼滅者達を見てみれば、全員が頷くように返す。
    「ターニャ、なりたい、もの。まだまだ、わかりません、が。ユメ、もつこと。とてもとても、ステキ。泉様にしか、できない。アイデア。きっと、いっぱい」
     そっと泉に触れるように、ナターリヤ・アリーニン(夢魅入るクークラ・d24954)は拙なくても言葉を届ける。
    「かぞくのかた、おともだち、に。えがお、しあわせ、ほわほわ。とどける、こと。おもい、えがいて、みたら、きっと」
     小さな女の子の精一杯な言葉に、泉は顔を逸らす。大事なことを思い出した。また頑張ろうと思える。しかし、まだ彼女は弱気の檻に囚われている。それを言葉に出して良いのか悩んだのだ。
    「課題のアイデアに悩んで居るのだな。だったら」
    「アタシ達に任せてもらおう」
     山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)が逸早くその事を見抜き、指摘する。そして璃依と共に顔を見合わせて、頼もしく笑うのだった。

    ●皆でアイデアを
    「甘くって美味しくって硬くって、ボーリング玉の代わりにも使える新感覚デザートを……っていうのはさすがに冗談だけど、メロンをくり抜いたドームカバーを作って夏らしい清涼感を出してみるのはどうかな?」
     透流のアイデアに頷き、一生懸命メモをする泉。
    「日本の伝統的建築美と西洋菓子の和洋折衷で、しゃちほこの形に作った砂糖菓子のお人形さんを乗っけてみるのもいいんじゃないかな」
     素人と自覚している彼女は、味よりも見た目重視のアイデアを出してみれば、おぉ……、と泉は感嘆の声を挙げる。
    「和洋折衷であれば、私もこんな感じであるわ」
     いつもとは違うように、真面目に美玖が図のようなイラストを見せる。そこには、ガラス瓶に彩られる2匹の金魚。藻や底石は寒天や練り切りで作り、炭酸ソーダゼリーで箱庭を青と透明のグラデーションで、泡なども表現と事細やかに描かれている。
    「これを冷やして提供するの。金魚鉢みたいなガラスの器やグラスで作っても素敵よね」
    「みなさんと一緒に考えれば、良い案が出ます……」
     にっこり微笑む美玖に、頷くように桜も提案を出す。彼女は対照的に、青いゼリーの中にイルカ型やヒトデ型の寒天を浮かばせるという、夏らしい提案である。その2人に泉は凄い勢いで食い付く。
    「えっと、これは璃依からのアイディア、だけど」
     私もあるよ、と小枝子も身振り手振りで伝えようとする。
    「カラフルなわらび餅とかどうかな? ビー玉とか、金魚を模って夏っぽく、色とりどりのソースに絡めて家族と一緒に食べれたら素敵、って思うんだ」
    「夏っぽくと言うのならば、冷たいハイブリッドスイーツが流行ってるよな。クロナッツやムースゼリーシュー(クリーム)とか、アイスマカロンも良いな」
     そんな風に璃依と小枝子はお互いのアイデアを、ワイワイとはしゃぎながら提案する。もう泉は嬉しいのか忙しいのか、目を回し始めていた。
    「なんや混乱しとるみたいやから、これでも食べて落ち着き」
     そんな風に横から実物のアイスクリームを差し出す、七音。彼女は出来る事から始めて、工夫次第でシャーベットだって見栄えが良くなる事を主張しながら、他にも色々なアイスクリームを取り出す。
    「暑いからただ単純に冷やそう、その考えが罠……ワンパターン……! 表面は熱そうでサクサク、歯を通してみるとひんやり冷たい……このギャップが、甘さを印象付けますのよ……! それが、天ぷらアイス!」
     そのアイスクリームを横目に、天ぷらアイスというのを提案するリィザ。彼女自身食べた事があるような衝撃を力説されると、気圧される泉。
    「和を強調した、葛きりを使った透明の麺と梅と梅のジュレとを使ったスイーツ。とかどうすか。見た目もきれいだし味もさっぱりすっきり。ちょっと冷麺ぽくも見えて面白いすよ」
     天摩もまた笑いながら提案すると、泉は思い浮かべて、顔を見合わせて笑いながら頷く。
    「梅ジュースを使うのはどうかなぁん?」
     梅と聞いて、ミィナが便乗するように提案する。細かいゼリーにしてアイスクリームに混ぜるとか、シャーベットやするのも良し。またシロップに最適だと彼は言う。
    「かきごおり、に。ブルーハワイ、の、シロップ。まわりに、おほしさまの。かたち、きりぬき。の、ゼリー、くだもの。バニラ、の。アイス、クリーム。のせて、も、いいやも……?」
     ブルーハワイは夜を。七夕の時期は過ぎたけれど、夜空に浮かぶお星様をイメージを込めたと伝えるナターリヤ。
    「おほしさま、に、ユメ、や。おねがい、ごと。な、イミ。こめて、の、イメージ。ですです」
     お星様も色んな色、味。中にゼリーを入れ、金箔や銀箔で彩るのも良いという提案に、目を輝かせる泉。
    「そういうのはあんま詳しくないんやけど、ソフトクリームには七味ソフトとか、あるらしいで。夏だからこそピリッと辛いのとかはどうや?」
     隼人の提案に、そんなのがあるのかと目を瞬く泉。
    「メインやなくても添え付けかなんかでも使えると思うんやけどな。メインに涼しげな青とか、そっち系つかうんなら赤っぽいのは彩り的にもええんやないやろか」
     そんな主人を支持するように尻尾を振っている、霊犬の超霊犬あらたか丸。
    「オレ的デザート案といえばジェラートとか、切り分けたイチゴを添えたのにチョコソースをかけたのとか。マンゴーを添えてオレンジソースとか、ね」
     甘党である茨も、こんな風なのがあるよねと微笑む。
    「あぁ、喋ってたらすごく食べたくなってきたし、ここは作ってみない?」
    「我も賛成じゃの! 色んな味のあいすくりぃむをいっぱい並べ、色んな形のけぇきや飴細工で仕切るのも良いと思うのじゃ!」
     そんな風に提案すれば、落葉は両手を上げて賛同する。その後ろでちゃっかりと八吹も賛同していた。
    『素人達の戯言に付き合うぐらいなら、課題を早く終わらせろ!』
     とうとう痺れを切らしたのか、『先生』の声が響き渡る。実際は色々と野次を飛ばしたりしていたのだが、灼滅者達のアイデアや談笑によって、その声は掻き消されていたのだ。
    『どれだけ素人達の意見を集めようと、お前には才能が無い。夢を諦め、実家に帰れ!』
    「ッ……!」
     怒鳴り散らす『先生』と『両親』に身を竦ませる泉。3人は泉を取り囲もうとするが、灼滅者達が立ち塞がる。
    「フシギだよな。枷が無く楽しめてる時はアイデア出てくるのに、やらなきゃと追いこまれると出てこなかったり。素人だし勝手なコトばっか言っちゃってるケド、アナタなら明確なビジョンが描けるんじゃないか?」
     泉の傍には璃依が立っており、襲い掛かってくる『両親』を縛霊手で呪を練り込みながら殴り飛ばして捕縛する。
    「浮かんでこないか? 作りたいスイーツ。人を笑顔に出来る物やアナタ自身の理想の物」
    「あ、当たり前です! 皆から貰ったアイデアに負けないぐらいなのを、私だって作ってみせますから!」
     顔だけ振り向きながら問う彼女に、泉は正直な想いを告げる、そうすれば、アナタならできる、という優しい言葉が精神世界に響く。
    「ここからはオレ達のお仕事だ。キミは向こうで、引き続き課題やってな」
    「泉さん、あれはご両親や先生の姿を取った夢の中の悪魔よ。ここからは私達に任せて!」
     『両親』の片割れに、茨と美玖がバトルオーラを纏わせた幾つもの拳打と、エアシューズに炎を纏わせながら下段から跳ね上げるような蹴りで迎撃する。その隙に悠夜が泉を下がらせる。それを追うように『先生』が追いかけるが、
    「人の夢を諦めさせようとするシャドウなんて、許せないよ!」
     一発は殴らないと気が済まないと思っていた小枝子が己の片腕を異形巨大化させ、凄まじい膂力で殴り吹き飛ばす。
    『クソッタレが! 貴様等全員、悪夢に取り込んでやるよ!』
     吹き飛ばされた『先生』がシャドウとして正体を現し、同時に『両親』であった配下も正体を晒す。その姿に、灼滅者達は身構えて本格的な戦闘に備えるのだった。

    ●悪夢の正体
    『俺達ダークネスにとって、人間は餌にしか過ぎん。夢だの希望だの、実にくだらん!』
    「お前らはちょっと黙ってるっす」
     シャドウが一筋の雷光を撃ち出すしたと思えば、天摩が黒く禍々しい三又のガンナイフ、トリニティダークを目にも止まらぬ早業でいつの間にか左手に持ち、虚無を喰らう竜の指輪から流れる魔力を魔法弾として撃ち出して、雷光と電光が相殺し合う。その横ではライドキャリバーのミドガルドが、配下に突撃して撥ね飛ばす。
    「ステキ、とてもとても、ステキ、な、ユメ。ひてい。ダメ、です」
     ナターリヤが縛霊手から祭壇を展開させ、結界内にシャドウや配下達を閉じ込めると同時にビハインドが顔を晒してトラウマを植え付ける。
    「泉には頑張ってもらわんとなっ!」
    「素敵な夢を邪魔するシャドウは絶対に許さないんだから!」
     超霊犬あらたか丸が六文銭射撃で牽制し、同時に隼人と美玖動く。転輪の如く全身を回転させた斬撃と、己の利き腕を巨大な刀に変えた斬撃が、配下の1体を斬り裂き、上半身と下半身を分かれさせて灼滅させる。
    「夢を諦めるも諦めないも選択はその人の勝手だとは思うけれど……、私達にはダークネスを灼滅するって選択しか残されていないから、ここで灼滅させてもらう!」
    「ワルギリアス、合わせてな」
     鋼糸で編み込んだ糸の結界を展開させ、閉じ込めながら攻撃を抑制させる透流。その攻撃に合わせるように、茨とビハインドのワルギリアスがオーラと霊障波を放ち、集中攻撃によって残った配下を灼滅させる。それを見たシャドウは、焦ったように巨大な麺棒で殴り掛かる。
    「わたしとリック、それに璃依と王子が揃ってるんだもんっ。負けるわけないよ!」
    「そうだな。サエコ、頼んだぞー」
     そのシャドウの一撃を庇うように防御するが、殴られた瞬間に爆発するような衝撃に吹き飛ばされる。だが、吹き飛ばされながらでも璃依はカウンター気味に漆黒の弾丸でシャドウを貫き、リックが斬魔刀で斬り裂く。そんな彼女の行動が分かってるかのように、小枝子と王子が指先に集めた霊力とふわふわハートを撃ち出して傷を癒やし、色んな状態異常までも浄化させる。
    『夢は夢だ。その人間はこれからも何度も挫折を味わい、現実に蝕まれるだろう! だったら今の内に、夢の中で諦めさせた方が本人の為だと思わないのか!』
     劣勢になっても惑わすように怒鳴り声を上げるシャドウ。しかし同意する灼滅者は居ない。
    「戯言っすね。蝕まれるのはお前の方っすよ」
    「ったく、身内に変身の上、そんな身勝手な台詞。本当に性格悪いね。キミにはお仕置きが必要、かな!」
     自身の闇で漆黒に輝く思念弾を作り出し、トリニティダークで発射させる天摩。茨もまた、高純度に詠唱圧縮された魔法の矢を幾つも展開させて撃ち出す。漆黒の弾丸と無数の魔法の矢を避ける事も出来ず、撃ち抜かれるシャドウ。
    「それを決めるのは、畑上さんだ。お前じゃない!」
     目に見えない程の速度で鋼糸を繰り、シャドウの四肢を斬り裂いて更に動かせないようにする透流。
    「努力すれば、どんな事だってきっと叶うよ!」
    「要するに、シャドウ。イズミはお前に負けないって事だ」
     縛霊手での拳と巨大異形化した拳が、同時にシャドウを突き破って、シャドウが夢の姿から消えていったのだった。

    ●スイーツパーティ
    「アタシは欲張りだからな。ムース、ゼリー、シュー、アイス、マカロンも外せない」
    「本当に欲張り過ぎだよっ。だけど、それっぽいよね! そう言えば前に食べたかき氷とかも」
     シャドウが居なくなった今、ソウルボードは綻び始めているが、そんなのお構い無しのように談笑に満ちていた。特に璃依と小枝子が絶好調。王子は紳士的な所作で相槌を打ち、リックもまた相槌を打つように頷いているのも愛嬌である。
    「……つまり、あの2人はこういうデザートはどうかと言ってるみたいだ」
     そんな2人の言ってる事を通訳するのが茨。彼はとても慣れているようだった。
    「くぅ……皆の貰ったアイデアに、腕が追いつかない……」
    「ひんやり、で。さっぱり、が、いいです。ね」
     出来る限り灼滅者達のアイデアを採用し、片っ端から作った泉はキッチンに項垂れている。その横では、ナターリヤが美味しそうに食べて感想を言いながら見上げている。
    「そんな事ない! どれもすっごく美味しいわ!」
     絶対にプロになれると、食べながら励ましている美玖。そして徐ろに、泉の手を取る。
    「皆で食べると美味しさも増すわ。泉さんの指は魔法の指ね」
     作り手にとって嬉しい言葉に、思わず照れてしまう泉。そんな彼女に灼滅者達は微笑ましく見守る。
    「パティシエールと言えば、お菓子職人やったっけ?」
    「そうっすね。パティシエが男性、パティシエールが女性という風になってるっす」
    「やっぱ職人の世界はお菓子と違って甘くはないんやろなぁ」
     その道は険しいのは、泉を見てみれば分かる。だからこそ追い詰められていたのだ。
    「年下にこう畏まって言うのも何だけど、本当にありがとう」
    「私達は灼滅者だ。他に選択肢が無かっただけの事で、お礼を言われる事は無い」
     そんな風に泉が頭を下げれば、透流が真面目に返す。
    「……だけど、夢を諦めないで有名なパティシエールさんにもしもなってくれたら、私達の戦いも少しは報われているって励みになるかな」
     そんな風に顔を逸して言う透流に、泉は大きく頷く。
    「私、絶対になるから! 有名になって皆のアイデアをもっと上手く、美味しく作ってみせるよ!」
     泉が涙を堪えながら宣言すると、現実へと戻される灼滅者達。
    「……帰って来れたか。なあ、打ち上げにスイーツパーティーしよ?」
    「良いねっ。やろうやろう!」
    「ほむ、パーティやろか。どや? さっき言ってたアイデアあわせたようなの試しに作ってみんか?」
    「ターニャ、も、サンセイ。です」
     帰って来たと思えば、早々に璃依が提案する。その提案はあっさりと賛同する声が上がる。
    「ほな俺は材料買ってくるわ。誰か手伝ってや」
    「パーティ楽しみっすね。手伝うっす」
     八吹がそう言えば、ぞろぞろと全員が動き出す。
    「あれ、261円しかない。……イバラぁ」
    「ん? まぁ璃依も頑張ったし奢ってあげても良いけど……、どうしようかな」
     縋るような璃依の視線。そんな視線を受けた茨が焦らすように、フッ、と微笑む。
    「わんわん。忠犬リイ公を労れー」
     そんな彼女の台詞に、全員が笑うのだった。

    作者:猫御膳 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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