湖の勢力争い

    作者:天木一

    「このままではお主、地獄に堕ちるぞ」
    「そんな!? どうしはったらええんです?」
     古びた屋敷に住む一人の老人に、黒い袈裟を着た慈眼衆が説法を行なっていた。
    「欲を捨てよ、我等が門派に帰依するのだ。僧となって今までの人生を悔い改めよ」
    「わしが僧に……」
     慈眼衆の言葉に老人は眉を寄せた。僧など思ってもみなかったと驚いた顔を見せる。
    「お主の人生を思い返してみよ、それは人に誇れるものか? 胸を張って正道を歩いて来たと言えるのか?」
     老人が思う浮かべるのは金、金、金と金を稼ぐ事ばかりに追われた人生だった。
    「妻も子も逃げ出してもうた。そんなわしに僧が務まりますかいな?」
    「酸いも甘いも噛み分けたお主じゃからこそ務まるのだ。平々凡々と生きた者に僧など出来ぬ」
     諭すような言葉に老人は目を閉じて考える。
    「なら、わしは……」
     熟考していた老人が頷き覚悟を決めて顔を上げたところで、障子が勢い良く開かれた。
    「待てぇーーーい!」
     鋭く遮る声が老人の言葉を掻き消す。入ってきたのは頭部がペナントの怪人3名。そして声の主である着物姿の男がゆっくりと入ってくる。
    「待てそこの破戒僧! 弱き老人を不安に陥れ、自らの勢力に取り込もうとはふてぇ野郎だ。我が和泉守国貞の名に懸けて成敗してくれる、そこへなおれ!」
     そう啖呵を切ったのは笠を被り着流しに下駄という時代掛かった格好の男。その笠からは刀が突き出ている。笠から覗く頭部は刀の形をしていた。
     
    「やあ、集まってくれたね。どうやら琵琶湖での戦いが次の段階に進んでいるみたいなんだ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が灼滅者に声をかける。
    「天海大僧正と安土城怪人の戦いは、みんなが多く加勢した天海大僧正側が優勢になっているみたいでね。それを盛り返す為に安土城怪人側が新戦力を投入したみたいなんだよ」
     投入される怪人は刀剣怪人軍団。琵琶湖の湖西地域で勢力増強の為に慈眼衆が強化一般人を増やすのを妨害しようと行動を起こすようだ。
    「このまま両者がぶつかり合えば、その被害は一般人に及ぶからね、何とかして被害を少なくして欲しいんだ」
     どちらかの勢力に協力するのか、それとも両方と戦うのか、どの方法が最も良いのかは分からない。
    「方法はみんなに任せる事になるよ。この戦いの結果で琵琶湖の戦いの流れに影響が出るかもしれないんだ。現場で戦うみんなが決めた事なら、その結果に納得できると思うからね」
     誠一郎が灼滅者を見渡す。それに灼滅者が頷いて返事をした。
    「戦闘が起きるのは滋賀県西部にある古い民家。時間はお昼過ぎだね」
     慈眼衆が一人住まいの老人の宅で説法をしているところへ怪人達が現われて戦闘となる。
    「慈眼衆は1体。だけど状況次第では老人が強化一般人となって味方する可能性があるよ。そして怪人側は、刀剣怪人とペナント怪人が3体だよ」
     戦力は怪人側が上だろう。だが状況次第ではどちらが勝っても可笑しくはない。
    「今は天海大僧正が有利な状況だけど、今回の結果次第ではまた変わってくると思うよ。今後の戦況に影響する戦いだからね、みんなでどうするのか考えて欲しい」
     琵琶湖の戦いは着実に動き出している。どのような結末を迎えるのか、それは全て灼滅者たちの行動にかかっている。


    参加者
    椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)
    マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)
    ヴィルヘルム・ギュンター(ザイテンゲヴェール・d14899)
    鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)
    八神・菜月(徒花・d16592)
    龍造・戒理(哭翔龍・d17171)
    四波・宿儺(伽藍の化生・d27986)

    ■リプレイ

    ●滋賀県西部
     古い民家で一人の老人が袈裟を着た僧から説法を受けていた。だがそこへ闖入者が現われる。
    「待てそこの破戒僧! 弱き老人を不安に陥れ、自らの勢力に取り込もうとはふてぇ野郎だ。我が和泉守国貞の名に懸けて成敗してくれる、そこへなおれ!」
     それは頭が刀の形をした怪人。だがそこへ更に新たな人影が現われた。
    「助勢いたそう」
     鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)はペナント怪人に向けてガトリングガンを構え、無数の銃弾を撃ち込んでペナントを穴だらけにする。
    「慈眼衆……貴方達に、話がある。けど……まずは、そいつらを、片付ける」
     マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)は無表情のまま慈眼衆に言葉を投げかける。
    「何奴!? 敵襲か!」
     刀剣怪人が突然の乱入者に驚き、振り向いた。
    「そうだ、お前の敵だ」
     その一瞬の隙に踏み込んだヴィルヘルム・ギュンター(ザイテンゲヴェール・d14899)は、拳を固めて怪人の胸に押し当てる。次の瞬間、踏み込んだ足元がドンッと地響きを立てて地面がへこむ。蹴る力が拳に伝わり、迸る紫電と共に刀剣怪人の背中に衝撃が徹った。
    「外で戦いましょう」
     そこへエネルギーの盾を構えた椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)が突撃し、体当たりするように和泉守国貞を庭へと吹き飛ばす。それを追って灼滅者達は逃げ場を塞ぐように展開する。
    「おお! もしや灼滅者殿か。手伝っていただけるのか、ご助力感謝いたす!」
     慈眼衆は灼滅者を目にして頭を下げた。
    「無礼な横入りで失礼だけれど。セッション開始、いくよ!」
     シリェーナ・アルシュネーウィン(鳥籠の歌・d25669)は剣を振り下ろす。刀剣怪人はその一撃を頭の刀で受け止めた。だがシリェーナはそのまま力を込めて怪人を押し退ける。
    「猪口才な!」
     庭へと下がった怪人は仕切りなおすように、灼滅者達を見渡して笠を投げ捨てる。
    「そこの坊主諸共始末してくれる!」
     頭部の刀で斬り捨てようと、頭を振るう。その一撃をシリェーナが受け止めた。
    「一時とはいえ、慈眼衆の好きにさせるのは、気に食わんがな」
     そう吐き捨てるように呟きながら、鬼のような姿の四波・宿儺(伽藍の化生・d27986)は怪人の胸目掛けて槍を突く。だがその一撃は刀に弾かれ肩を抉るに留まった。
    「隙ありぃぃ!」
     ペナント怪人が飛び蹴りを放とうと跳躍する。
    「隙だらけなのはお前の方だ」
     龍造・戒理(哭翔龍・d17171)は駆け寄り跳躍する。そして拳を打ち下ろす。拳がペナント怪人の顔面を捉えると、拳の連打を放ち地面に叩き付ける。同時にビハインドの蓮華が背後から攻撃を加える。
    「この暑い中よくやるわね」
     八神・菜月(徒花・d16592)はむっとする暑さの中、面倒くさそうに緋色と秘色の輝きを持つ槍を構えた。そこから放たれる突きの一撃は、態度とは裏腹に速く鋭いものだった。地面に倒れるペナント怪人の胸を貫く。そして螺旋に捻った力が傷口を拡げて命を捻じ切った。
    「先程までの勢いはどうした? 多勢に無勢では手も足も出んか?」
     慈眼衆がシャランッと錫杖を掲げ雷を放ち、ペナント怪人を打ち据える。
    「お坊様、わしもお手伝いしますわ」
     よろめくペナント怪人に、老人が杖を振り下ろして叩きのめした。

    ●刀剣怪人
    「この和泉守国貞を舐めるな! おめぇらみてぇな外道は許しちゃおけねぇ。全員一刀両断にしてやらぁ!」
     刀剣怪人は威勢良く咆え、慈眼衆と老人を一纏めに斬り捨てようと頭を横に薙ぐ。前に出たなつみが盾で受け止めようとするが、盾を斬り裂かれ刃が左腕に食い込む。
    「私達はただ、一般人を巻き込む戦いを止めたいだけです」
     刃が骨を断つ前に、右の拳に雷を纏わせて刀剣怪人を殴りつけ、反動で距離を取る。するとマリアの霊犬がすぐさま瞳を輝かせて腕の傷を癒した。
    「一刀両断か、やれるものならやってみせろ」
     入れ替わるように突進したヴィルヘルムは、地面を抉るように螺旋を描きながら紅い刀身の銃剣を振るう。刃が腹部を貫いた。
    「やってやらぁ!」
     刀剣怪人は鋭く刀を振り下ろす。その刃を横から飛来した氷柱がぶつかり軌道を逸らす。
    「事情は、知らないし……興味も、無い。邪魔だから……消えて」
     マリアが続けて槍を振るい氷柱を放つと、直撃した刀剣怪人の顔が凍りつく。怪人は慌てて手で氷を払う。
     その刀剣怪人を守るように2体のペナント怪人が立ち塞がった。
    「この戦力相手に逃げぬは勇敢というより蛮勇であろう!」
     神羅が魔法の矢を射る。矢は正確にペナントの顔を射止めた。既に穴だらけだったペナントはその一撃で破れ、棒立ちとなった体は倒れた。
     もう一体のペナント怪人が神羅に向けて光線を放つ。それを盾を構えた戒理が受け止める。
    「悪いが、速攻で終わらせる」
     戒理は盾を構えたまま、反対の腕を変異させて巨大な刃と化して突進する。近づかせまいとする光線を蓮華が弾き、刃をペナント怪人の胴体に突き刺した。
    「隙だらけだね」
     菜月が槍を抜こうとするペナント怪人を殴りつける。オーラを纏った拳の連打が怪人を打ちのめし、その場で崩れるように倒れた。
    「死ねぇい!」
     そこへ刀剣怪人が必殺の気合を込めて刀を振り抜く。
    「させないよ!」
     その一撃をシリェーナが剣で弾いた。だが刃は宙で反転してシリェーナの首を狙う。だがその刃は途中で大きな手に摑まれる
    「先に俺の相手をしてもらおう」
     それは巨大に膨張した宿儺の腕だった。握った手に刃が食い込む。だが宿儺は構わず持ち上げ、刀剣怪人を地面に叩き付けた。
    「ぐぅっ……きっさまぁ!」
     刀剣怪人は怒りに刀身を赤く染めながら宿儺を襲う。だがその一撃を錫杖が受け止める。
    「かっかっ、こうなっては怪人も憐れなものよのぉ」
     慈眼衆はそのまま杖を叩きつけて刀剣怪人を地面に転がす。土にまみれたその姿を見下ろして慈眼衆は哂う。
    「貴様……! たとえ刺し違えても、貴様だけは殺してやる!」
     刀剣怪人は起き上がり、上段に構えて慈眼衆に迫る。その間合いに入るよりも先に、シリェーナと宿儺がその背中を剣で斬り槍で突く。だが怪人は動きを止めずに踏み込んだ。
    「イィエエエエーッ!」
     踏み込むと電光石火の如く刀が振り下ろされる。慈眼衆の構える錫杖を断ち斬り、刃は頭を叩き割ったように見えた。
    「ご無事ですか、お坊様!」
     刃は慈眼衆の右肩に食い込んでいた。老人が咄嗟に杖を差し込んで切っ先を僅かにずらしていたのだ。
    「邪魔立てするな!」
     刀剣怪人は老人を斬ろうと刀を薙ぐ。その軌道上にヴィルヘルムが槍を差し込んで刃を逸らす。その隙に神羅が風の刃で腕を切り裂き、マリアが飛び蹴りで吹き飛ばすと、怪人は地面を転がる。
    「き……さまらぁ!」
     寝転がったまま怪人は迫る灼滅者に地を這うように頭を振るう。脛を狙った刃が襲い掛かる。その攻撃をなつみがトンファーを地面に突き立てて受け止める。そのまま刃を滑らせるように近づいてトンファーを叩き付けた。
    「ぶぉっ」
     仰け反ったところへ、待ち構えていたように菜月が槍を変形させて杖にして構えていた。フルスイングする一撃が後頭部に叩き付けられる。
    「終わりだ」
     戒理が腕を砲台に変え、目の前で構えていた。放たれる光線が怪人の胸を貫いた。
    「がっ、ふっ」
    「かっかっかっ、憐れ憐れ、せめてもの情けじゃ、今楽にしてやろう」
     瀕死の状態で倒れる怪人を見下ろし、慈眼衆は役に立たなくなった錫杖を投げ捨てると、腕を巨大化させて振りかぶる。振り下ろされる拳に合わせ、閃光が跳ね上がった。怪人が最後の力を振り絞って突きを放ったのだ。刃は胸を貫く。だが貫いたのは心臓からは遠い右の脇に近い場所だった。
    「惜しかったのう?」
     拳が頭に直撃し刀は折れた。
    「む、無念……」
     悔しさの籠もった声を残し、怪人は倒れた。

    ●交渉
    「改めて、ご助力を感謝いたす」
     慈眼衆は深く頭を下げる。
    「戦いは終わったのですから、そのお爺さんを解放してもらえませんか?」
     なつみが慈眼衆に話しかける。
    「この者をですかな?」
    「学園は一般人保護が最優先である。もし協力を望むならその老人を解放されたし」
     慈眼衆が老人に目をやると、神羅は強い口調で言い放つ。
    「そうは申されるが、この者に無理強いした訳ではありませんぞ。この者の意志でここにおるのです」
     慈眼衆の言葉に老人は深く頷いた。
    「何があったのか、知らないけど……戦って、殺して、殺されて……それで、お爺さんの願いは、叶うの?」
     マリアは老人に向けて拙いながらも、懸命に言葉を紡ぐ。
    「わしを心配してくれるんか、お嬢ちゃん」
    「今なら、間に合う……こんな事に、関わらないで」
     表情は変わらないが想いを込めたマリアの言葉に、老人は悩むように目を閉じる。
    「拙者達の要求は今後の協力という形で其方にも理が有るが如何に?」
     神羅は言葉を重ねて老人の解放を要求した。
    「残念じゃが、それはならん。今が琵琶湖の戦いの正念場。ここで勢力を増強せよとの命を受けておるのじゃ、拙僧の一存で勝手に判断は出来ぬ」
     首を横に振ると慈眼衆は前に出て、灼滅者の目から遮るように老人を後ろにやった。
    「そのような行為を続ければ、武蔵坂をいつか完全に敵に回すことになるぞ」
     連れては行かせないと、戒理は強い口調で投げかける。
    「それは本意ではない。が、このまま何もせずに安土城怪人の勢力と戦い続けるわけにもいかぬ」
    「強化一般人化は、やっぱり見過ごす事は出来ないよ。予てから話があった通り、学園との共闘という形は取れないかな」
     シリェーナは無益な戦いを避けたいと、真剣な表情で慈眼衆を見つめる。
    「手助けしてもらったのに申し訳ないのう。これは大僧正様の命。拙僧はその命を果たすが役目じゃ」
     じりじりと、慈眼衆は老人と共に外へ通じる道を窺う。
    「なら、これ以上は言わないよ」
     シリェーナはそう告げると黙して間合いを縮める。
    「ここは見逃してはもらえんかな?」
     そう言いながら慈眼衆は周囲を見渡す。既に灼滅者達は逃げ道を断つように立っていた。
    「決裂したか、なら戦いだ!」
     宿儺が突っ込むと、手にした杖を振り抜く。
    「ぬぅ!」
     慈眼衆は腕を巨大化させてそれを受け止める。宿儺は勢いのまま押し切って慈眼衆の体を浮かせて押し退けた。老人との距離が離れる。老人は慈眼衆を守る為近づこうとする。
    「少し手荒にいくぞ」
     殺気を消して様子を見ていたヴィルヘルムが、その身に闘気を纏って老人と間合いを詰める。振り回す杖を身を低くして避け、拳を鳩尾に当てる。そして地面を蹴る力と共に衝撃を徹した。老人の口から息が漏れ、手に持っていた杖を落とす。
    「ふぁ……」
     日当たりいい縁側に腰掛け、その様子をぼんやりと眺めていた菜月は、よろめいて後ろ向きに近づく老人に、背後から槍の柄で首筋を叩き、一瞬で意識を奪った。

    ●慈眼衆
    「後はお前だけだ」
     戒理は腕を剣に変えて胴を狙って振り抜く。
    「むぅ……流石に強い! だが!」
     慈眼衆は転がる杖を拾い上げて剣を受けると、押し返して戒理を吹き飛ばす。更に追い討ちを仕掛けようとしたが、割り込んだ蓮華が舞うように攻撃を受け流す。
    「罪のない人を、道具のように、利用する……そんな事は、許さない」
     マリアは槍から氷柱を次々と飛ばす。慈眼衆はそれを杖で弾いていくが、弾き損ねた一本が左足を凍りつかせた。
    「多勢に無勢だが、許されよ」
     僅かに動きが止まったところへ、神羅が狙い済ましたようにガトリングの銃口が向けていた。発砲。放たれる無数の弾丸が慈眼衆の体中に穴を穿っていく。
    「ええい! この程度で!」
     慈眼衆は杖を振り回して少しでも被弾を押さえながら射線から逃れる。だがそこに立っていた菜月が杖を振り抜く。
    「行動が安直、分かり易いね」
     杖の一撃は慈眼衆の頭を直撃してたたらを踏ませる。
    「お爺さんは返してもらいます!」
     そこへなつみがトンファーを腹部に叩き込んだ。
    「がっ……これ程とは……だが大僧正様の命は必ず成し遂げる!」
     口から血を吐きながらも、慈眼衆は杖で体を支えて雷を放つ。
    「残念だが、それは無理だ」
     ヴィルヘルムは黒いマシンピストルを構える。そこから連続で放たれる炎の銃弾は慈眼衆の体を燃やす。
    「くぅっ」
     苦しみながらも燃える袈裟を脱ぎ捨て、老人を確保しようと慈眼衆は駆ける。だが老人は倒れた場所に居なかった。
    「もう貴様の好きにはさせん。ぶちのめしてやる」
     すでに宿儺が老人を確保して家の中へと運んでいた。宿儺は部屋に老人を寝かせると、獣が咆えるように牙を剥き出しにして慈眼衆に迫る。
    「お主も鬼か、はぐれ者が歯向かうか!」
     迎え撃つ慈眼衆は正面から腕を巨大化させて構える。宿儺も腕を巨大化させる。拳と拳がぶつかり、両者が吹き飛ぶ。
     だがいち早く体勢を立て直したのは慈眼衆だった。老人の居る部屋に飛び込もうとする。
    「お爺さんを連れて行こうとするなら、容赦しないよ」
     そこに待ち構えていたシリェーナの影が狼となり、慈眼衆を呑み込む。
    「おのれぇ!」
     慈眼衆が影を突き破ったところへ、なつみが拳の連打を叩き込む。反撃に杖を振るうのをヴィルヘルムが槍で受け止める。
     そこへ戒理と蓮華が左右から仕掛けた。腕を砲台と化し、光線が貫き、波動が押し寄せ慈眼衆の体を吹き飛ばす。
    「はぁはぁ……」
    「あんまり強くないね」
     起き上がったところへ、菜月が槍を背中から突き刺す。穂先が腹から突き出た。
    「がっァ……ああ!」
     背中に回した手で槍を引き抜き、慈眼衆はよろけながらも杖を構える。
    「らぁ!」
     放たれる雷を宿儺が放った拳で相殺した。
    「全力で参る」
     神羅が錫杖を振り下ろす。慈眼衆は腕で受け止めようとした。だが刀剣怪人に受けた傷が重なる負傷で深手となり、動きが僅かに遅れる。
     杖は頭に直撃し、慈眼衆は千鳥足でふらつく。
    「過去の因縁も、天海の信念も、好きにすれば良い……けど、一般人を、巻き込むな……」
     そこへマリアが槍を突き刺した。胸が貫かれ、慈眼衆は倒れた。

    「お爺さんが無事でよかったです」
    「はい」
     老人の無事を確認したなつみが安堵したように息を吐くと、マリアも隣で表情を変えぬまま頷いた。
    「だがこれで慈眼衆との関係もどうなるか分からんな」
    「致し方無し」
     ヴィルヘルムの言葉に、神羅は仕方が無いと首を振った。
    「下っ端とでは、交渉も限界があるからな」
     戒理も同意する。
    「話し合いができればいいけど、無理なら……」
     シリェーナは最後の言葉を濁す。言えば本当に成ってしまうような気がしていた。
    「面倒な事にならないといいけど」
     菜月は疲れたと座っていた。
    「敵となるなら戦うだけだ」
     宿儺はシンプルに言い切る。
     互いに違う立場の存在。今後がどうなるかは分からない。だが人々の為ならば何者であっても戦うと、灼滅者は覚悟を胸に歩き出した。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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