夏の置きみやげとスクール水着

    作者:黒柴好人

    「なあ兄弟、知ってるか?」
    「どしたー?」
     2人の中学生が公園の樹の下に腰を下ろし、それに背中を預けていた。
     8月。
     カレンダーの日数はほぼ底をついており、もはや彼らの夏休みライフも終焉を迎えようとしていた。
    「俺たちの学校の――」
    「やめてくれ!」
    「な! まだ話の途中だぞ、兄弟」
    「すまねぇ。だが、夏休み中に学校の話は、な……」
    「無粋だったな。謝罪しよう。しかし聞いてくれ」
    「ああ、聞こう」
    「俺たちの学校のプールに幽霊が出るって噂に覚えは?」
    「おぼろげに。だがそんなのはどこにでもある話だろう?」
    「それが、信頼出来るスジからの情報によると……その幽霊に会う方法があるらしい」
    「ほー」
    「幽霊はスクール水着を着た美少女らしい」
    「話を続けろ、迅速かつ的確にだ」
    「まあ慌てるなよ兄弟。その幽霊少女は元水泳部だって話でな」
    「ふむ」
    「自分のタイムが伸びない事に悩んでいたという」
    「ほお」
    「ならばいっそこうしてやろうじゃないかと考えたわけだ」
    「は、果たしてそれは!?」
    「タイムを縮めるんじゃなくて、思いっきり伸ばしてやろう。とな」
    「……ほ?」
    「彼女は50mを90分かけて泳ぎ切ろうとした。が、途中で足をつってプールの底に沈んでしまい……」
    「アホの子だな」
    「愛すべきアホの子だ。まあ、実在していたとは思えないがな。あくまでも都市伝説のようなものだし」
    「ところで一つ確認したい事がある」
    「何だ兄弟」
    「その幽霊少女は……旧型スクール水着なのか?」
    「いや、新型らしい」
    「悪魔め!!」
    「兄弟!」
    「ハッ! す、すまねぇ。取り乱してしまったな」
    「いいんだ。それで兄弟、その少女に会うためには彼女と同じようにプールをゆ~っくり泳げばいいらしいが……試してみるか?」
    「フ、愚問だな」
    「……」
    「試さんよ」
    「そっか」
    「うん」
     
     武蔵坂学園のとある教室。
    「今日も暑いねー。みんなはこの夏プールとか行った?」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は集まった灼滅者たちににこにこ顔で話をはじめる。
    「まだ行ってないならちょうどいいかもしれない事件がコチラ!」
     と、まりんは片腕を広げる。
     その方向に何かあるのかと一行は首を動かす。
    「……みんなどうしたの?」
     何もなかった!
    「今回は『都市伝説』を解決してもらうんだけど、その舞台はなんと中学校のプール!」
     都市伝説は人々の負の思念がサイキックエナジーを受けて実体化したもので、場合によっては一般人に危害を加える危険な存在である。
     場合によっては、というのは条件を満たさないと都市伝説は出現しないから。
     逆に言うと決められた条件を達成しないと都市伝説を倒せないという事になる。
    「その条件とは、プールをものすご~くゆっくりと泳ぐことだよ」
     明確な時間が設定されているわけではない。しかし最低でも……最速でも、25mを10分はかけて泳がないといけないらしい。
     とにかく早く泳ぎきるよりは楽かもしれないが、これはこれで疲れそうだ。
    「そうすると水着姿の中学生くらいの女の子が出てくるよ」
     そこそこかわいいらしいが、これこそ実体化した都市伝説なのでくれぐれも油断し過ぎないようにしたい。
    「ちなみに早口」
     最遅タイムを狙っていたにも関わらず……!
     主にプールサイドを高速で走り回ったりするらしい。
     もうプールとか水着とか関係なくなってきている気がしないでもないが、それはそれである。
    「都市伝説は1体だけだけど、それだけにちょっと強めかな? あ、でもみんなが協力して戦えばそんなに苦戦はしないかも!」
     それよりも、この都市伝説少女は妙にテンションが高いようなので色々と注意したいところだ。
    「それじゃ、頑張ってきてね! ……なんだかプールの話してたら私も入りたくなってきちゃったな。この後学園のプールでも……って、ああ! 水着持ってきてないよー!」
     まりんはガクリと膝を付いた。
     教室の床はわりと綺麗だった。


    参加者
    七咲・彩香(七色原石・d00248)
    氷上・里紗(黄昏の氷華・d00287)
    柳・真夜(自覚なき逸般人・d00798)
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    陽愛・ひかる(フレンジャー・d02976)
    鳴神・月人(一刀・d03301)
    神無・空(中学生サウンドソルジャー・d04681)
    アレクサンダー・ガーシュウィン(中学生ご当地ヒーロー・d07392)

    ■リプレイ

    ●偉業への挑戦
     ある中学校のプールの水面が揺れていた。
     このプールには美少女の幽霊が現れるという噂があった。そして今、その白い――。
    「ふうっ、夜のプールは最高だな!」
     褌一丁の海の男、アレクサンダー・ガーシュウィン(中学生ご当地ヒーロー・d07392)だった。
     ビート板を抱えて仰向けになり、水に身を任せるアレクサンダーは帽子の下で爽やかな笑顔を浮かべている。
    「なんで一番目がいく所で泳いでんだよ」
     思わず凝視してしまったらしい影道・惡人(シャドウアクト・d00898)が頭を抱えながら唸った。
    「ん? 何か言ったかー?」
    「いや、何でも……」
     プールサイドに腰を落ち着けている惡人は気を取り直して他のコースに視線を移す。
     そこでは。
    「だれが一番遅く泳げるか競争ね!」
    「いいのですよ。準備運動もしましたし、その勝負、受けて立ちましょう!」
    「正直こんな条件こなす人いないと思うんだけどの。でもとりあえず頑張って遅く泳ぐの」
    「決まりね! それじゃあ一旦端っこまで移動しましょう?」
    「任せるの」
    「って彩香さん、今はゆっくり泳がなくても大丈夫ですよ?」
     陽愛・ひかる(フレンジャー・d02976)は男……いやいや乙女なのだが、それはともかく。
     ひかるを中心に柳・真夜(自覚なき逸般人・d00798)と七咲・彩香(七色原石・d00248)が水と戯れる妖精のような錯覚さえ覚える可愛さ空間を醸しだしていた。
    「あら!? まよちゃんの水着……もしかして!」
    「あ、これはおばあちゃんが用意してくれた旧型のスクール水着とやらですね」
     プールの中で濡れた旧スクの肩紐を直しながら真夜が応える。
    「これがあれば勝利間違いなしなのですよね!」
    「そうね、間違いないわ!」
     真夜とひかるはがっちりと握手を交わした。
     真夜の祖母、一体何者なのだ。
    「タイム管理はあたしに任せてくださーいっ。それじゃあ、頑張って泳いでね~♪」
     ひかるたちの近くのプールサイドで控えるのはスク水のパーカー姿の氷上・里紗(黄昏の氷華・d00287)。
    「どう思うよ、月人」
    「ん?」
     ふと、惡人は傍にいた鳴神・月人(一刀・d03301)に声を掛ける。
    「どうって……何がだ? ああ、都市伝説が出てきた時の対応か何かか?」
    「俺がそんなマジメな話するタマかよ。そんな時間があるなら水着ギャルをこーやって見てたいからよ」
    「だと思ったわ」
     月人は肩をすくめ、ひとまず惡人の隣に腰を下ろした。
    「まあ俺も暇してたのは確かだけどな。にしても水着ギャルって、惡人お前……」
     アレクサンダーは論外として、赤い布地に白いドットが入った可愛らしいタンクトップビキニに下はショートパンツを履いたおと……めのひかる。見た目はどう見ても女の子なのだが。
     そして旧スク中学生の真夜に、学園指定水着小学生の彩香。それからプールの外にはスク水パーカー中学生の里紗といった面々。
    「わりと年齢層が低め、なんだが……」
    「まあ気にすんな」
    「お巡りさーんコッチです!」
     いや気にするわ。そう返そうとした月人の声は褌、もといアレクサンダーにかき消された。
    「おま、馬鹿! 何言って!?」
    「無闇に国家権力に頼るな!」
     海坊主の如くプールからせり上がってきたアレクサンダーに月人と惡人は腰を抜かしたような格好でじわりと後退した。
    「高校生が小学生の水着姿見て鼻の下伸ばすのは……なぁ?」
     帽子の下で双眸を光らせるアレクサンダー。
     無条件に謝ってしまいたくなる衝動をなんどか抑え、
    「……そ、そんな事よりも」
    「早いとこ都市伝説を出してくれよ、な?」
     話を見事にすり替えるのだった。
    「それもそうか。この件は後でじっくりと尋問させてもらおうか。とおッ!」
     アレクサンダーは褌をなびかせながら、どぱーんと大きな水音を立てながらプールへと消えた。
    「そういえばわし、一度プールから出たから最初からやり直しなのか?」
    「……それならわたしがタイム管理をするわ」
     いつの間にか近くにちんまりと座っていた神無・空(中学生サウンドソルジャー・d04681)がそう名乗りをあげた。
    「それから2人には、はい」
    「水筒?」
     どうやら温かいお茶のようだ。
    「まだ少し時間かかると思うし、戦うのに体冷えて鈍ったら大変だから。さっき里紗にも持っていったわ」
     向こう岸にあたるプールサイドでは里紗が水筒を片手に手を振っていた。
    「わざわざ悪いな」
    「これで水着だったら完璧だったけどなー」
     惡人はちらりと空を見るが、当の空は「恥ずかしいから、やだ」と愛用のヘッドフォンを深くかぶり込んだ。
    「じゃ、わしも張り切るとするか。スタートの合図を頼む!」
    「よーい……」
     空はプールのゆらぎを見つめながら、
    「スタート」
     手元のボタンを押下した。

     一方の女子たちは。
    「――みたいな事がありまして。ほら、私は一般人ですから」
    「わかる! わかるわ、真夜ちゃん!」
    「よくあるの」
     競争と言いつつも、やる事はとてつもなく……それこそ水にぷかぷか浮かんでいるだけと何も変わらない速度で泳ぐだけなので自然と女子トークに花が咲いていた。
    「あるあるネタだね~。あ、今のところは3人ともいいペースだよっ」
     ストップウォッチに視線を落とし、タイムを確認する里紗。
     目標タイムの10分まであと数十秒。残す距離はまだ5mはある。
    「よく耐えたの。自分に感動なの」
     そんな彩香はひかるから奪取したらしいビーチボールを使ってこっそりと遊んだりしていたのだが……それはここだけの秘密だ。
    「都市伝説って何か害を及ぼす物がほとんどですよね。やはりそういう話のほうが残りやすいのでしょうか」
    「人のマイナスの思いが元になって出てくるみたいだから仕方ないのかもしれないね……」
     真夜のふとした疑問に里紗が応える。
    「ともあれ、害を成すなら退治しないとです」
     決意を固めた真夜はぴとっ、と水色に塗られたコンクリートにタッチした。
    「お疲れさま~♪ タイムは10分45秒だよっ」
    「なんだかこれはこれで達成感があるわね!」
     次いでひかるが、そして最後に彩香がフィニッシュ。
    「遅泳ぎ競争は彩香ちゃんの優勝ね♪」
    「勝因はビーチボールなの」
     小さくピースサイン。
     と、勝利の余韻に浸る間もなく、どこからともなく声が聞こえた気がした。この場にいる誰でもない声が。
    「ようやくお出でになったようだな」
     ライドキャリバーのザウエルに搭乗し、タイヤを滑らせながら女子グループの近くに停止する惡人。
    「わしらも急ぐとするか! ……ちなみにここまでのタイムはどうだった?」
     プールから飛び出たアレクサンダーは、何となく気になって空に尋ねた。
     空は傍らに置いておいた時計を手に取ると、そのまま何秒か見つめた。
    「あ、ごめん時間みてなかった」
    「何ッ!? ストップウォッチのスタートボタンを押したのではないのか!?」
    「あれは音楽プレイヤーの」
     アレクサンダーは口を真一文字に結び、帽子のつばを持った。

    ●スクール水着オーバーフロー
    「オマエたちか超絶なる偉業を達成しようとしているヤツらはー!!」
     更衣室の屋根からジャンプし、それから全速力でプールサイドを一周してきたスクール水着を着た少女――都市伝説の第一声がそれであった。
     そして早口だった。
    「偉業って……遅く泳ぐ事がか?」
     それは偉業と呼ぶ事ができるのだろうか。月人は訝しむが、彼女の中ではそうなのだろう。
     まだまだツッコみたい所が多々あるが、
    「きゃー、スク水ちゃんかわいい! お名前なんて言うのかしら?」
     瞳を輝かせながらずずいと前に出るひかるがインターセプト。
    「ククフハハハ! オマエたちに名乗る名前なんてないわー!!」
    「三段笑いも早口かよ。……ん?」
     ザウエルの上に乗っかっている惡人は何かに気が付いた。
     この都市伝説少女、偉そうに胸を張っており、そこから判断できる胸のボリュームはそこそこ……いや、そこではない。胸の中央に白い何かが見える。
    「クミ?」
    「クミか」
    「クミちゃん!」
    「ハッ!? なぜその名前を!」
     書いてあります。その名札に。あなたの名前が。それはトムではありません。
     きっとスクミズの間2文字から取った名前だね。
    「いくらアホっぽくても倒さない事には終われないからな」
     アレクサンダーはサウンドシャッターを使用し、外部へ響く音を遮断する。
    「謡え」
     それを確認した空はスレイヤーカードから殲術道具を顕現させる。
     空に続き、灼滅者たちは各々の武装を展開。
    「馬鹿かわいい話だけど……当てるわ」
    「え、なにその……わあお!!」
     すぐさまバスターライフルを担ぎ、容赦のないビームを照射する空。
     バスタービームの射線からすこし逸れるような角度から怒涛の弾丸を繰り出すのはガトリングガンをフル回転させる惡人。
    「オラッ、やっちまいな!」
     ザウエルも機銃を掃射し、まさに弾丸の雨あられ。
    「ああいう奴が相手だとちょっとは躊躇うのかと思ったが」
     一通り弾をバラ撒き、赤熱した砲身を空転させる惡人に月人が話しかける。
    「ん、萌でも敵な時点でただの倒すだけの『物』さ」
    「ヒドイ言いようだ!」
     突然ビームやら弾雨やらが襲いかかり、舞い起こった白煙を切り裂くように現れたクミは少しボロボロになりながらも元気だった。
    「コチラをどうにかしようとするならばこれで一気に始末してくれようとうッ!」
     クミはプールの外周部を覆っている金網のフェンスまで走ると、それに向けて跳躍。フェンスを蹴ると、どこからか取り出したビート板を大きく大きく振りかぶっていた。
    「ビィィィトバァァァァアアン!!」
     そしてうるさかった。
     その狙いはひかる!
    「きゃ!」
     日本刀を斜めに構え、叩きつけられたビート板の衝撃をどうにか受け流す。
     ビート板は時として凶器と化すのだ。
    「大丈夫?」
    「ええ……これくらいならどうにか凌げるわ」
     ひかりの無事を確認した里紗は、マテリアルロッドの先端をクミに向ける。
    「ビート板は叩くものじゃないんだよ~」
     ロッドから弾ける電撃。
    「可愛いけど、容赦はしないよっ」
     やがてそれは意志を持った一筋の刃のようにクミの体を貫いた。
    「月の名所の力を知れ! 桂浜ビィィィム!」
     カッ! と目を見開き、ご当地ビームを炸裂させるアレクサンダー。
     ビームが終わったと思いきや、鰹のようなカラーリングと装飾が施されたライドキャリバーが突撃し、攻撃の手を緩めない。
    「ぐぐう、よくもやってくれたな! しかしコチラにもまだまだ手はあるていやー!!」
     背中に手を回したと思いきや、そこから数メートルはあるかというコースロープを抜き出すクミ。
     それを振り回すと、アレクサンダーへと投げつける。
    「この程度、よさこい鳴子おどりで鍛えられた体には……!」
     コースロープにぐるぐると巻かれたアレクサンダーは、しかしそれを打ち破った。
    「なん……だと……」
     愕然とするクミを警戒しながらも月人はふと、思い出す。
    「よさこいって北海道の方にもそういうのが――」
    「ほォ……?」
    「よさこいといえば高知だわ、やっぱり」
     今の殺気は明らかに月人に向けられていた……!
     アレクサンダーから逃れる為にも刀を振るい、前に出る月人。いざサイキックを発動しようとした刹那。
    (「ん? スク水にティアーズリッパーは大丈夫なのか? ……考えても仕方ないか」)
     そんな考えが頭を過ったが、気にしない事にした。
    「人格なんかないんだろうが、安らかに眠れや」
    「ッ!」
     一瞬の踏み込みで側面に回り込むと全力で斬り掛かった。
     飛び散る紺色。飛散するナイロン。
    「…………あ」
     ちらりと覗かせるのは肌色の……。
    「ぎゃああああ!?」
    「お巡りさーん! ココでーす!」
    「いや、これはサイキックの力で不可抗力だ!」
     お巡りさんを呼びつつも、目では「どういう事だ」と訴えかけている。月人の方が年上なのだが、なにこの威圧感。
     アレクサンダーの後ろから惡人は立てた親指を月人に伸ばしていた。
    「新スクだったからこうなるのです」
    「そこがポイントだったのかの?」
     何かを悟ったような真夜と彩香、それから彩香の霊犬のシルキーがクミを取り囲んだ。
     シルキーの毛並みはシベリアンハスキーに似ていてとても愛らしい。
    「旧スクと新スクが対峙するならば、間違いなく旧スクが勝つはずなのですから!」
     そういうものなのかと彩香とシルキーは首を傾げるが、ともあれ真夜はバトルオーラを全開にしてクミに迫る。
     プールサイドは走ったら危ないので歩いてだが、これはこれで凄い圧力を感じる。
     十分距離を詰めたところで真夜の拳が唸る。更に唸る! もっと唸る!
    「旧スク、恐るべしの。シルキー、ボクと一緒に攻撃をお願いするの」
     シルキーはこくりと頷き、閃光百裂拳を放ち終えた隙を埋めるように六文銭を投げ掛ける。
     防御すべくビート板をかざすクミだが、それは彩香にとって大きなチャンスとなる。
    「同じスクール水着だけど、きっとボクの方が上手なの」
     何故なら学園指定水着はちょっと旧型っぽいから!
     緋色に輝くナイフで一閃。
     紺に緋のコントラストは、それは美しいものだったがクミにとってはたまったものではない。
     対する彩香は生命力を吸い取ってちょっとつややか。
    「おのれなんとやらここで終了する我が方ではないわ!」
    「ごめんね、ごめんねクミちゃん! 痛いよね! すぐに終らせるからね!」
     強がっていてももはや限界だろう。
     彼女の苦痛を一寸でも早く終わらせるためにひかるは刀を上段に構えた。
     クミもビート板を構え、応戦の構えを見せる。
     ひかるは両目に涙を湛え――大きな一歩を踏み込んだ。
    「……今まで寂しかったよね、これで最後にするからね」
     優しく語られ、クミは薄っすらと笑った。
    「……ま、こんな終わりも悪くは……」
     のだが。
    「い、いややっぱこう派手にやってほしかったー!!」
     雰囲気ブレイクにも程があった。

    「生き物として生まれてくる事があれば、その時は思い切り安全に遊べよ」
    「そうね……その時は目指せ水泳選手ねっ♪」
     月人と並び、まだ涙が残った瞳で消えたスク水都市伝説に思いを馳せるひかる。
    「さて、それじゃ道具や散らかったものを片付けて帰りましょうか」
    「その前に」
     ぐいっと伸びをした真夜に待ったをかける空。
    「思い出に一枚、どう?」
     空の手にはカメラが。
    「んー、戦い終わった後に動くってのもなー」
    「なら、こちらから向かうまでだな!」
    「なるほど」
    「って、そうくるか」
     ザウエルに寄りかかる惡人のまわりに集まる一行。
    「着替える前でよかったの」
    「今年も全然プールに入らなかったけど、こういう思い出の残し方もありかなっ」
     彩香や里紗も集い、
    「撮るわ」
    「今度はプレイヤーのボタンじゃないだろうな?」
    「……大丈夫」
     こうして灼滅者たちは一つの事件を解決し、夏の思い出を残しながらプールを後にするのだった。

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 15
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