喧嘩!

    作者:宝来石火


    「ッ、メんじゃねーぞ、オラァ!」
     ――ドガシッ!
    「イキガってんじゃねーぞ、サンシタぁ!」
     ――ドボゥ!
    「ギャハハハハハッ!」
     ――べぐっ!
    「ガハッ、ハァ、ハァ……こっち忘れてんじゃねぇぞオラァ!」
     ――バギィッ!

     黄昏時の路地裏に、少年達の行き場を失ったエネルギーが渦巻いている。
     各々が自身の主張を具現したような尖った装いを身に纏い、四つ巴で殴り蹴り合い叩き付け、思い出したように怒声を交わす。傷の痛みも手足の震えも、滾る血流と脳内麻薬が怒涛となって押し流していく。
     要するに、不良の喧嘩である。
     事の起こりはカクカクシカジカと物語ることもできなくもないが、それに大した意味は無い。
     何故ならば、重要なのは彼らが本気で喧嘩をしていたという要素、それのみであり――。
    「喧嘩上等――!」
     ――その為に、彼を呼び出す条件を満たしてしまったのだから。
    「ンだァ……? 誰だ、テメーは。ジダイサクゴな格好しやがって」
     不良の一人が拳を止めて、ゆっくりと彼の方へと振り返る。
     ポマードでガチガチに固めたポンパドールにリーゼントのヘアスタイルに、ダークブラウンの色眼鏡。漆黒の学生服は膝下まで丈を広げた長ランで、下から覗くシャツの色は勿論、赤だ。
     手にした学生鞄の持ち手には、赤いテープがグルグルとキツく巻かれている。
    「……ッ!?
     コイツ、まさか……『買い占めのコージ』!?」
    「あぁ……? ヒトがガチで喧嘩してるトコ首突っ込んじゃあ、軒並みブッ飛ばしてくって、アレか?
     ケッ、あんなのただの噂話――」
    「キャハハハッ!」
     突然現れたオールドファッションな男を前に不良達が毒気を抜かれそうになる中。四人の中でも格別イカれた少年が一人、『コージ』に向けて拳を振り上げ跳びかかった。
    「テメーが誰でもイんだよォ! 血ィミせろぉ! 血ぃヒヒハハハハッ!」
     人を殴り慣れた拳が一直線に『コージ』の顔面に向け繰り出される。躊躇いのないその一撃を、『コージ』は難なく骨太な掌で受け止め、そのまま少年の手を握り込んだ。
    「キヒヒハハハッ! イてぇ……イテぇヘヘヘハハハ!」
    「喧嘩上等――その喧嘩、纏めて買い占めだコラァっ!!」
    『コージ』が叫んだ、次の一瞬。
     路地裏に吹き荒れる、暴風。

     ――ドゴルグシャベキボッ!!!

     それは正しく、暴力の風。悲鳴を上げる暇もなく、不良達は路地裏に打ち捨てられた襤褸屑と化す。
     最初に飛びかかったあのイカれた少年が『コージ』に『武器』として振り回され、その場に居た全員がその『武器』の一振りで薙ぎ倒されたのだ……と、理解できるまで意識を保てた者は彼らの中にいない。
    「カハッ……ハハハッ……きゅ、きゅうきゅうしゃ……よんで……」
     一際グシャグシャになった『武器』の不良少年を放り捨て、『コージ』は路地裏の奥へと消えていく。
    「喧嘩上等……喧嘩……けんかァ……!」
     

    「夏休みには……夏も夏を休めばいいと思わないかい……?」
     虚ろな瞳で胡乱なことを口走った鳥・想心(心静かなエクスブレイン・dn0163)は、ペットボトルの炭酸水を喉を鳴らして飲み干すと、少しだけ正気を取り戻し、灼滅者達を見回した。
    「……ある地方都市で、都市伝説に襲われる不良少年が何人か確認されている。
     君達には、その都市伝説を退治して貰いたい」
     ――都市伝説、『買い占めのコージ』。
     彼は、とある地方都市で『本気の喧嘩』が起こった際に現れ、喧嘩の参加者全員を再起不能に叩きのめして去っていくという。巷に溢れる全ての喧嘩を買い占める、古き時代のツッパリの具現なのだ。
    「コージの出現条件は、その出現地域内で本気の喧嘩を行うこと、ただそれだけだ。
     そんなわけで、君達にも一つ、本気の喧嘩をしてもらいたい」
     出現地域内であれば場所はどこでもいいのだが、一般人を巻き込む恐れが少なく、思い切り喧嘩をしても被害が出にくい――などの要件を鑑みれば、不良少年達が喧嘩をしていた路地裏がベストだろう。
    「後の戦闘を考えて、如何にも慣れ合いのじゃれ合い染みた喧嘩をしてたんじゃあ、コージは現れない。
     ……でも、君達は幸い灼滅者だ。サイキックさえ使わなければ、どれだけ派手にやりあったってかすり傷程度で済むはずだよ」
     つまり、サイキック以外のあらゆる手段で本気のど突き合いをしろ、ということなのだ。喧嘩で大切なのは気迫の有無であるので、武道の心得などはこの際気にしなくてもいいのではなかろうか。
    「日頃の鬱憤を思う存分ぶつければいいんじゃないかな。
     暑いとか暑いとか蒸し暑いとかあと暑いとか」
     茹だった頭に不穏な顔で、想心は微笑う。
     肝心のコージが用いる攻撃手段だが、基本的にはストリートファイター及びバトルオーラのサイキックと同種のものである。
     ただし、一度に多人数を相手取ることになるその性質のためか、攻撃手段は全て一度に多数を巻き込めるようにアレンジされている。
    「大切なのは君達の連携だ。
     喧嘩をしたその勢いで、チームワークを疎かにしてはいけないよ」
     灼滅者達にそう言い残すと、想心は冷たいジュースを求めて教室を後にした。


    参加者
    古関・源氏星(オリオンの輝ける足・d01905)
    葉月・十三(高校生元殺人鬼・d03857)
    新妻・譲(灰羽・d07817)
    ファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880)
    夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)
    ミカ・ルポネン(水平線を目指して・d14951)
    木場・幸谷(純情賛火・d22599)
    型破・命(金剛不壊の華・d28675)

    ■リプレイ


     バルゥン、とマフラーを吹かせる音が路地裏に響く。
    「よぅ、全員揃ってんな?」
     ライドキャリバー・黒麒麟に跨って、古関・源氏星(オリオンの輝ける足・d01905)は先に来ていた仲間達の顔を見回した。
     一人一人の瞳に真っ正面からガンをくれる。鋭く睨み返す者もいれば、苦笑を浮かべる者も、ぼんやりとした表情を崩さない者もいる。が、誰一人として臆して視線を外すような真似はしない。
     源氏星の頬が鮫のように吊り上がった。
    「どいつも良い面構えしてんじゃねぇか……だがなぁ。
     ――この俺が最強だァッ!!」
     吠えて源氏星は黒麒麟を蹴り、拳を振りあげ、跳んだ。
     溢れ出る殺気が、展開した殺界形成によるものか、はたまたこれから始まる喧嘩への昂揚によるものなのかは、本人を含めた誰にも分からない。
    「ッしゃあ! オレに来いッ!」
     たまらず飛び出した新妻・譲(灰羽・d07817)は、源氏星の拳を腕で受ける。
     服の上からでも腕に食い込む鋲の痛みが譲の神経を昂ぶらせた。
    「だらァ!」
     ――ばぎぃ!
     逆の腕で振り抜いた拳が源氏星の顔面を横薙ぎに張り飛ばす。源氏星はそれを、防ぐでも捌くでもなく、ただ、足を広げて踏ん張り、堪える。
    「っな、モンかオラッ!」
     ――バジンッ!
     右の頬を打たれた返答に、右の頬を殴り返す。譲もまた、真正面からその拳を受け入れた。
    「ヘッ――くすぐってぇ!」
     口の中の血の味を噛みしめながら拳を握り直す。
     言葉は要らない。拳の会話が喧嘩のルールだ。
     路地裏に高まる喧嘩の熱。居ても立ってもいられないとばかりに、型破・命(金剛不壊の華・d28675)は、吠えた。
    「――こいつぁたまんねぇや! どうだい、己れらもひとつ、戦り合わねぇかい!」
     くすんだ金髪を振り乱し、命は拳を振るう。拳の向かった先は木場・幸谷(純情賛火・d22599)。ただ隣に立っていた――彼を殴ったことにそれ以上の理由はないし、今、この場ではそんなモノは必要なかった。
     ばきぃ、と吹き飛ばさんばかりの拳を受けて、幸谷は赤くなった頬を笑みに歪める。
    「ガハッ……ハハッ、殴りながら言う台詞じゃなくね?
     同感だけど、さ!」
     口端を拭い、渾身の力でアッパーカットを振り上げる幸谷。
     狙い違わず命の顎を打ち抜いた、その腕を命が両手でがしりと掴む。顎を上げたまま、命の頬が緩む。
    「効いたぜぇ……お返しといこうかぁ!」
     掴んだ腕を引き寄せながら、繰り出される命の前蹴り。幸谷の腹に下駄の歯が、深々と食い込んだ。
    「がは……ッ!」
     腹の中身がまるまる逆流するような不快感。
     それを堪え、幸谷は腕を捕まれたまま強引に命の着流しの襟を掴みあげ、思い切り引き寄せた。
    「クッソ重てぇなぁ……いいぜ、お前の生き様、全部受け止めてやる。
     でもな。俺も軽い拳で済むような、お手軽な生き方はしてねぇぜ」
    「……嬉しいこと言ってくれるねぇ。
     思う存分、ぶっつけ合おうやぁ!」
     鼻の付き合うような距離で、獣の笑みを浮かべる二人。
     その傍らから、別の高らかな声が朗々と響く。
    「おぉっと! タイマンだけが喧嘩じゃないよね!」
     高まる二人の横合いから、ひょぅ、と飛び出した靴底が、二人の体をドロップキックで思い切り蹴り飛ばした。
    「うぉっ!?」
    「ずぁっ!」
     たまらず吹き飛ばされる二人を尻目に、ミカ・ルポネン(水平線を目指して・d14951)が愛用の白衣を翻らせてすたり、と地面に足を着ける。
    「さっ、インドア派の本気を見せてあげるよ!
     そして廃盤、プレミア価格、通販でのトラブルその他色々のストレス! 発散させてもらう!」
     高らかに宣言するミカに、幸谷と命はすぐさま立ち上がり、揃って歯を剥き出し、笑った。
    「三つ巴か……上等!」
    「いいねぇ、粋だねぇ!
     もっともっと、もっと派手にいこうやぁ!」

     いよいよ始まった喧嘩祭りに、ファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880)はしかし、少々困り気味に苦笑を浮かべていた。
    「俺は暴力とか、ちょっと好かないんだけど……」
    「いやあ、全く。暴力なんて野蛮なことは本当はしたくないんですが都市伝説を出現させるためですからしょうがないコトなのでここで会ったが百年目!
     黒鉄の騎士団団長ファリス・メイティス、タマぁとったらぁ!!」 
     ――ドバギィッ!
     何一つしょうがなくない勢いで、葉月・十三(高校生元殺人鬼・d03857)が横合いから思い切りファリスの顔を殴り付けた。
    「いやぁホント、他意はないんですけどね! 顔をやりな! フェイス、フェイス!」
     他意のない怒濤のラッシュが他意はないがファリスだけを襲う。他意はないが明らかに狙いは顔面であり、十三がファリスをリア充だと思っていることとは何の関係もない。
    「……うん。さて、まぁ、ほんとは気乗りしないんだけどな。ほんとに、ほんとに仕方なくなんだけど」
     ガードしきれない拳のラッシュを受け、ファリスはしかし平静と変わりない口調で言葉を紡ぐ。
    「十三、覚悟して」
     ――どぼぉ。
     そんなエクスキューズを残して繰り出されたファリスの『手加減された攻撃』は、十三のガラ空きのボディを打ち抜いて壁まで吹っ飛ばした。
    「うぼっふ!?
     ……ちょ、待て、タンマ!? 無しだろ、サイキックは無しなんですよね!? ちゃんと話聞いてた!?」
     ノー、ノーのポーズで訴える十三を前に、ファリスは申し訳なさげに頭を掻いた。
    「ごめん、十三。手加減攻撃はサイキックだったね。
     いやぁ。うっかり」
    「明らかにうっかりするための準備してきてるんですけどこの人! くっそぅ、面白いコト考えるなぁ!」
     吐き捨てながら十三は身を起こし、挫けることなくリア充へと立ち向かう。
    「せめてその顔ボコボコにするしかない! 他意はないけど!」
     迫りくる十三に対し、ファリスは口の中の血を唾と一緒に吐き捨てて、身構えた。

     ――そんな血沸かせ肉踊らせている面々の傍らで、夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)はぼんやりしていた。
    「……これが、ケンカですか。
     インドアならぬインコタツの私にもできるでしょうか?」
     かくも凄絶な喧嘩の只中においても心穏やかなこたつの心を捨てきれない炬燵。
     と、そんな彼女の足下に、喧嘩の勢いで吹っ飛ばされたミカが仰向けになって滑り込むように倒れてきた。
    「おや、大丈夫ですか?」
    「……喧嘩、しないの?」
    「出そびれました」
     うぅん、とミカは唸る。
    「いまいち、この熱に乗れないのかな?
     それなら……そうだなぁ、ここにいる全員、何か夢代さんの大切なモノをバカにしたんだ、ってそう思ってみたらどうかな?」
    「大切なモノ、ですか」
     ミカからの適切なアドバイスを受け、炬燵は瞑目し、呟いた。
    「大切な、こたつをバカに……。
     それは許せませんね、許せないので踏みます」
    「えっ、ちょ」
     仰向けになったミカの顔面に靴底をめり込ませ、炬燵は喧嘩に明け暮れる灼滅者達へと顔を向ける。
    「あの人達もこたつをバカに……許せませんね」
    「うぇ、ぐぇ、ぎゅぅ」
     うぉー、と炬燵は腕を振り上げ、ミカの体を頭からつま先まで丁寧に踏みつけながら、喧嘩の輪の中へと突入していった。


     やがて喧嘩は当然のように八つ巴の様相をなしつつあった。
    「この男、コタツのミカンなんてウナギゼリー以下だって言ってました!」
    「それは本当に許し難いですね」
    「言ってない、言ってないよ!?」
     炬燵をけしかけ二人がかりでファリスをボコろうと企む十三。
     ゴンッ。
    「うげっ」
     そんな十三の後頭部に、打ち捨てられたスナックの電飾看板が流れ弾となって直撃する。
    「ん、わりぃ」
     体の動くままにそれを放り投げた幸谷は、膝から崩れ落ちる十三を一瞥だけして、すぐに本来の喧嘩相手へと向き直った。
    「んぐ……ッ、いいね。
     ボクは痛いのは嫌いではないよ。さあ、もっとぶつかってきなよ!」
     正中線上にくっきり靴跡をつけたままミカが吠える。相対する命も声を張り上げ拳を振り上げ応じて見せた。
    「見てくれの割に丈夫だねぇ! 気に入ったぁ!」
     上段から降りおろすようなフックがミカを打ち抜く。
     たまらず後ろにたたらを踏んだミカと位置を入れ替えるように、命の眼前へと駆け来る幸谷。
    「どぉっ……りゃあっ!」
    「ぐっぅ!?」
     駆け抜ける勢いそのまま、ラリアットの要領で命を一息に吹き飛ばす。
     ふぅ、と一息ついた幸谷の体に、またも横合いから叩きつけられる体がある。
     源氏星がヤクザキックで蹴り飛ばした譲が体ごと吹き飛ばされ、幸谷を巻き込みながら地面に叩きつけられていた。
    「どしたぁ、もう終わりかコラァ!?」
     倒れた譲に跨るようにして、源氏星は譲の胸ぐらを掴み上げ、額を突きつける。
    「譲らねぇ……ッ!」
     ぎっ、と食いしばった歯から言葉を漏らし、譲は源氏星を睨みつけ――。
    「オラァッ!」
    「ダアァッ!」
     ――ゴガンッ!
     同時、二人は一瞬だけ上体を反らせ、互いの額と額を強かぶつけ合う!
    「――ッ、ンまだまだァ!!」
    「――ンなくそォッ!」
     ――ガンッ! ヅガンッ! ダガンッ!
     二撃、三撃、四撃……頭突きのぶつけ合いは互いの額が割れ、赤い血が辺りに飛び散っても止まることはない。
     目に血が入ろうと、真正面から相手を見据えた瞳は反らすことも瞑ることもなく。互いの気力と根性が尽きるまで――すなわち永遠に続くかと思われるほどのパチキ合い。
    「……って、いつまでも俺の上でヤリ合ってんじゃねぇ!」
    「うぉっ!?」
    「おわッ!?」
     腕立ての要領で譲と源氏星の二人を纏めて跳ね飛ばしながら、幸谷が吠えて身を起こす。
     発せられた怒声に比して、幸谷の表情は実に生き生きとした笑みで満たされていた。
    「楽しいなぁ……超楽しいじゃんッ!」
     ナマの感情を全力の全力でぶつけ合う。喧嘩の醍醐味に幸谷はいつになく感情を昂ぶらせている。
    「ケッ……吠えてんじゃねぇ、トーシロー!」
    「ッ……いいぜ、来いよ!」
     源氏星が叫んで幸谷にキックを見舞う。受けて幸谷も拳を振るう。オレを忘れるなと譲が体ごとぶつかって二人を纏めて薙ぎ倒す。命が再度立ち上がり、下駄を鳴らして飛びかかる。ミカも続いてその身を晒す。ファリスに誘導された炬燵が今度は譲達の側へと腕を振りあげ駆けてくる。
     と。
    「――っ、みんな、来たよ!」
     十三の後頭部を踏みつけつつ、クン、と鼻を鳴らしてファリスが高らかに声を上げた。
     その声に、灼滅者達は互いに振りあげていた拳を降ろし、揃って同じ側を見つめた。
     リーゼンスタイルに色眼鏡。改造学ランに赤いシャツ。赤いテープの巻かれた薄っぺらの学生鞄。
    「喧嘩上等……! その喧嘩、纏めて買い占めだぁ!」
     本気の喧嘩に魅入られた『買い占めのコージ』が姿を現したのである。


     喧嘩の勢い冷めやらぬまま、灼滅者達はコージとの戦闘に突入した。
     数合の撃ち合い。コージは都市伝説として、決して弱い存在ではなかった。しかし、闘争心を昂ぶらせていた灼滅者達は、コージの攻撃に怯むどころか逆に士気を上げんばかりの勢いで猛攻を重ねていく。
    「オラオラ、どうしたいっ!?
     己れらの喧嘩ぁ、買い占めるんだろぉ!?」
     コージの眼前に仁王立ち、閃光百裂の拳を真正面から叩き込んでいく命。
     既に幾度かの攻撃を受け傷ついた体をものともせぬそのラッシュに、ガードを固めたコージの体が後ろへ退がる。
     そこへ、一息に飛びかかる十三。
     初手で予言者の瞳を使い、バベルの鎖の行動予測力を高めた十三は、ついでにファリスから受けた手加減攻撃の傷も癒し、何だかんだで万全の体制で戦いに臨めていた。
    「この喧嘩の御代は、高くつきますよ?」
     嘯き十三の振るった拳は、ファリスに幾度も叩きつけたそれとはまるで違う形と重さをしている。
     鬼神変によって腕に宿った鬼の力が、コージの体を横合いから一息に吹き飛ばした。
    「全くだね。こっちは割と痛い思いしつつ待ってたわけだから、がっかりさせないで貰えると嬉しいな」
     コージが吹き飛んだ、その先ではファリスが静かに佇んでいる。
     一閃。払うように振り抜かれたDMWセイバーがコージの胴を一文字に薙ぐ。
    「今だッ! ブッ飛ばせ、黒麒麟!」
    「ブラックナイト!」
     ギョウッ、と二台のライドキャリバーがホイールを回し、アスファルトを削る。
     黒麒麟が唸りを上げてコージへと突っ込んでいく。それを背後から援護するように、ファリスのブラックナイトが機銃掃射でコージの動きを抑えた。
    「上等……喧嘩、上等だコラァ!」
     猛攻の中、それしか言葉を知らぬように幾度も口にしたそのフレーズを叫びながら拳を振るうコージ。
     一度に無数を振るわれたように見える、その拳。閃光百裂拳――では、ない。灼滅者の使う技に当てはめるなら、その技は鋼鉄拳。常に一対多の状況で喧嘩を買い占めるコージならではの喧嘩殺法である。
     決して油断ならないコージの技だがしかし、灼滅者達は恐れない。
    「大丈夫ですよ、今、こたつみたいに暖かい風で治しますから」
     ふわり、と心地よい清めの風が拳を受けた前衛の面々の傷を癒す。
     ……真夏にこたつみたいな風はちょっと、と思う者もいたが、口に出すことは決してない。
    「随分大味な攻撃ばかりだよね? 買い占めっていうより、まとめ買い?」
     軽やかに飛びかかって、ミカは手にしたクルセイドソードを袈裟切りに振るう。
    「ッ、上等!」
     両腕を交差して受けに回ったコージの脇から、飛びかかる白い影!
     ――ザシィッ!
     ミカの霊犬、ルミが斬魔刀でコージの足を薙いだのと、ミカの神霊剣がコージの霊体にダメージを与えたのは全くの同時。
     跳び退きざま、目が合ったルミに、ミカはこっそりパチンとウィンクを送った。
     完璧なユニゾンに怯むコージに、源氏星と譲が飛びかかる。
    「これが、俺の本気の拳だ!」
     コージが無数に放ったそれとは違う、ただ一つきりに魂を乗せた鋼鉄拳を叩きつける、源氏星。額からだけでなく鼻からも血を吹き出しているのは最高潮に昂ぶっている証だ。
    「オレと一緒に、燃えてみろ!」
     額から、そして全身の傷から流れる血を文字通り燃やし、炎を武器に纏わせ振り降ろす譲。燃える得物はその精神同様折れず曲がらず、コージの体を焼き砕く。
    「ケ、喧……カ……」
    「どんなつもりで、人の喧嘩横から買ってるのか知らねぇけどさ」
     膝から崩れ落ちていくコージ。その眼前に、幸谷が一歩歩み出る。
    「喧嘩して、救われる感情だってあるんだよ。
     買い占めなんざ、有難迷惑だぜ!」
     幸谷のマテリアルロッドの先端が、コージの胸元を着く。瞬間、コージの大柄な体躯が内側から崩れるように爆ぜていく。
    「……上等、だ……ッ!」
     絞り出すようにその言葉を残し、コージはその色眼鏡の下で満足げな笑みを浮かべ、爆散する。
     その笑みは、心からの喧嘩で互いを曝け出しあった灼滅者達が浮かべていたそれと、全く同質のものだった。

    作者:宝来石火 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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