魔人生徒会~納涼肝試し、惨劇の学校

    作者:かなぶん

     武蔵坂学園のとある教室。
     カーテンを閉め切った暗い室内で、数名の生徒が会議を開いていた。
     灯りは蝋燭だけ。その炎が頼りなく揺れる。
     彼等は現在、この夏の納涼イベントについて話し合っている最中だった。
     そんな中、一人の生徒が手を挙げる。
     肌の露出を包帯でガードした女生徒だ。
     彼女はしっかり制服をきこな……せていない。その胸は実際奥ゆかしかった。
    「そんなこと今はどうでもいいんです」
     胸のことは置いといて、と咳払いを一つ。
    「納涼ならば、やはりアレですよね。生徒の皆さんには、暑さも忘れて背筋も凍るような恐怖を味わっていただきましょう……ふっ」
     薄い笑みを浮かべ、彼女は蝋燭の火を吹き消した。

     後日、学園の廊下に以下のようなポスターが掲載されることになる。
     そこには太字におどろおどろしいイラストをまじえて、こう書かれていた。

    『納涼肝試し大会開催!!』
    ●1.舞台は廃校
     真夜中の真っ暗な校舎で恐怖の一夜を過ごそう。
     今回の肝試しはかつて廃校になったある中学校で開催。
     現在は町が、校舎を公共施設として再利用しているらしく、使用許可もバッチリ。
    ●2.ルールは簡単
     普通参加者は2~3人のグループを作って下さい。
     度胸のある人は1人での参加もOK。
     グループには懐中電灯が一つ与えられます。
     懐中電灯の灯りだけを頼りに、校舎内のコースを巡ってもらいます。
     廊下、教室、階段の踊り場に潜む何かの気配。懐中電灯の光の中に不意に浮かび上がる影……それらの恐怖を君は耐えられるか。
     それぞれの教室にはデジタルカメラが置いてあるので、好きな教室で記念写真を一枚撮って帰って来たら肝試し終了!
    ●3.もちろん脅かし役も大歓迎!
     趣向を凝らした恐ろしい仕掛けで、参加者を恐怖のどん底に叩き落そう。
     物陰や暗闇に潜み、無防備な参加者を脅かすも良し。
     教室をおぞましく飾り付けて、訪れた参加者をびびらせるも良し。
     普通参加ではカップルの参加も大歓迎。きっと脅かし役の気合も一層増すでしょう。
     肝試しの後にはキンキンに冷えたスイカも用意してあるのでお楽しみに!

     怖がりな君も、そうでない君も、友達を誘ってさあおいで。
     その学校は待っている。
     恐怖に震える生贄を。悲鳴と絶叫に彩られた授業が始まるのを。


    ■リプレイ

     鐘の音が響く。恐怖の始まりを告げるあの鐘の音が。
     キーンコーンカーンコーン。

     小夏と心、大好きな二人とおでかけのともの。
    「二人に遊んでもらえるのはひさ……きもだめし……?」
     が、肝試し大会と知った瞬間、思考がフリーズした。
    「最近心配かけちゃったから、精一杯二人に楽しんでもらおうとあれぇ!?」
     魂が肉体を凌駕した如くとものは走り出した。
    「あ! キング、急に走ると危ないですよ!!」
    「怖いの大嫌い! はーなせー!」
    「とものちゃん待って大丈夫だからこれ大丈夫なやつだからヨシダ(霊犬)もふっていいから落ちついてー!?」
     心と小夏の制止を振り切って教室に飛び込む。
     しかし中には竹林が広がっていた!
     チリン、チリン。
     鈴の音が響き、灯篭の明かりが燃える。
     出口が見えた。そう思ったとき、呻くゾンビと共に鈴莉がライトアップされた。
    「トンカラトンは死ねぇ……」
    「ギャー! トン殺さんだぁー!!!」
     包帯を投げつける心の絶叫が響いた。
     数分後。
     魂の抜けた顔のとものが、ロボットのような動きで出てきたという。

     悠はすでに帰りたかった。
    「やべぇって、絶対ココ出るって!!」
     というか血みどろお化けが出るたび、逃げる、七星に捕まる、を繰り返している。
     表情も動きもぎこちないひより。
     彼女の頭を七星が撫でる。
    「えへ、ありがと」
    「そそそそうだみんなで手を繋ごうぜ……!」
    「手? うん、繋ぐ繋ぐっ」
     三人が手を繋ぎ、放送室に入った時だった。
    「……ぁ……ぁ…」
     何か聞こえる。
    「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
     突然の七星の呪いボイスに、ひよりと悠は耳を塞いでしゃがみこむ。
    「ーっ…! 七星くんてば意地悪ー…」
    「ごめんごめんっ、怖がるふたりが可愛くてついなっ」
     けらけら笑う犯人に涙目で抗議する二人であった。

    「ちょ、ちょっと。1人で先に行かないでよ……」
    「ああ、済まないね。でも今の所首なしの影や髑髏位で別段変わった事もないよ」
     言うと百花が血の気の引いた顔で謡の服の袖を引っ張った。
     首を傾げる謡。
    「……置いていったら許さないわよ」
     不意にダダダダっと何かの足音が響く。
    「ひっ……なんでもないわよ」
     なるほど怖がっているのか。
    「しっかり私を守ってよ、ナイトさん?」
    「任せて。その可愛らしい仕草の分は働こう」

     待ち時間の間、彩歌達は怪談話で盛り上がっていた。
    「姿を消した彼はまだ廃校を彷徨っています……。彼はなくした腕を捜して……今もあなたの後ろからじっと……!」
     なんとなく冷えてきた空気に、ティオは思わず身震いする。
     眷属やダークネスに慣れているせいか、あまりピンと来ない様子のセレスティ。
    「全ての不思議がサイキックエナジーで解決するとは限りません。まあ、平常心を失わずに歩けばへーきですよ」
    「平常心…そう、そうだよね」
     その時どこからともなく彩歌の顔面にこんにゃくが。
     べちゃり。
    「うにゃあああっ!?」
    「彩歌!平常心です!平常心!」

     ぐぎぎぎ……。
     学校の入り口では、どっちが先頭になるかで雅とアイスバーンが取っ組み合っていた。
    「アイちゃん、こう言うの得意だって言ってたじゃ無いっすか!」
    「きょ、今日の占いで先頭はよくないって……」
    「自分は怖いっすから、できればアイちゃんに先に入って欲しいんっすけど……」
    「えっと、わたしは大人なので全然怖くないんですよ? でも怖くない人が最初に入っても面白くないと……全然怖くないんですよ?」

     家庭科室の扉を開けた途端、ひんやりと白い冷気が漂ってきた。
     突然冷たい手が頬をに触れる。
     振り向くと雪女「祇音」が、
    「氷漬けにしてやろうぞ……?」
     悲鳴を上げて廊下に出ると、蝋燭に照らされて白い着物の紅染が「はないちもんめ」を遊んでいた。
     手には千切れた人形の手を握って。
    「…お人形じゃ、なくて、きみの手、ほしい」
     ぽた、ぼた、ぼたぼた……。
     首から血を流し、紅染は不自然に微笑んだ。
     踵を返しトイレに駆け込む参加者。
     そこには、壁中を赤く染める血痕。
     正面の壁にはべったりと赤黒い文字で、
    『うしろをみるな』
     バタン! ……ぺた、ぺた。後ろから何か近づいてくる!
    「んばぁ~!」
     振り向くと血塗れの十四行が!
     参加者は学校の奥へと逃げる。
     そこは美術室、なのだろうか。壁にズラリと並んだ人物画はどことなくデッサンが崩れていて、不気味さを掻き立てる。
     ガタガタガタッ。突然壁中の絵画が落下。
    「ぎゃああああ」
     参加者が逃げ帰ったあと、合流したクラスメイトをこんにゃくで脅かすリン。
    「…ふふふ、隙だらけですよ…!」
     彼の無防備な背中に不意に氷が滑り込んだ。
    「ひっ! 天崎さん!?」
    「む? 拙者、何もしてないぞえ?」
    「あ、そうそうハンカチありがとなー!」
     幸谷の手には古びた女物のハンカチが。しかし誰もそれに見覚えが無かった。
     しかもポケットには赤く染まった人形の手。
     これは、一体……。

    「こんな暗い中、写真撮ってくるなんて無理じゃー!」
     ぎゅうっと握った手を明莉に引かれ、心桜は廊下を全力疾走で逃げる。
    「……なかなか、カッコいい彼氏ってワケにはいかないねぇ」
    「それでも明莉先輩、かっこいいのじゃよ……ってまたでたあああ!」
     なんとかカメラを見つけた明莉は、しがみつく心桜を呼んで、顔を上げた瞬間に写真ぱちり☆
    「こ、こんな顔写真に撮らないでー!?」

     ガタッ。
     ビクッ。
     小さな物音にも肩を震わせる桜に、花織と春が手を差し出す。
    「怖いなら、みんなで手、つなご」
    「つないでもいいのですか…?」
     道中、美味しいものの話で怖さを紛らわせる。
     夏といえばカキ氷。肝試しのあとはスイカも待っている。
     ぐぅ。安心したらお腹がすいた。
    「頼もしいナイト君のお蔭で花のドキドキ飛んでっちゃった」
     窓から星を見上げて歩いていると、怖さもどこへやら。
    「ふふっ、夜のお散歩みたいだね」
     学校七不思議の定番といえば、音楽室。
    「…あの、カメラお願いしても良いでしょうか…?」
     近くの人にカメラを渡し、無人の音楽室で、三人はカメラにピース。
     あれ、じゃあ今カメラを持っているのは?
    「……え?」

     さっき閉めたはずの扉が開いている。
     暗闇に潜む気配に紡は時折振り返る。
    「心霊が何だ、ダークネスに比べれば少しも怖くない」
     亜里沙は余裕だった。
     紡と奏詩のリアクションを観察できるくらい余裕だ。
     だから入ったトイレが怨念こもった血文字だらけでも、
    「わっ」
    「ひゃあっ」
    「わひゃいっ!?」
     重なった悲鳴に三人は顔を見合わせ、笑い出した。
    「気のせいだからこっちを見るんじゃない」
    「いやいや、何を仰います亜里沙さん」
    「手を借りても良い?」
     恥ずかしそうに伸ばされた紡の手を、奏詩が取ると、亜里沙も素直に手を繋ぐ。
     そして照れくさそうに横顔をフードで隠した。
     最後は人体模型と一緒に記念撮影。
    「何か写ってたらいいな」

    「いいか、二人とも俺からぜってー離れんなよ!…離れないでください!お願い!」
     オバケにハイタッチする奏哉とサクサク先頭を歩いてく碧衣。の後ろで遵が二人の背中をぐいぐい引っ張っていた。
     後ろは後ろで怖い気もするが、
    (それも肝試しの醍醐味だね、うん)
     奏哉は黙っておくことにした。
    「ぎゃああやんのかコラァ!」
    「……あの、しっしーさんうるさいです」
     背後で悲鳴を上げる遵を引きずって二人は理科室で記念撮影。
     骨格模型と一緒に三人寄り集まって、シャッターを切ろうとした瞬間、
     スーッ。
     ふーっ。
    「ひぎゃああーっ!」
     首筋をなぞる奏哉と、耳元に碧衣の息を吹きかけられ、遵の悲鳴がこだました。
    「しっしーさんの悲鳴、頂きました」

    「学校の怪談と言えばトイレの花子さんとか走る二宮金次郎とか血の涙を流す肖像画や動く人体模型やろか」
     道中、怪談話をしながら歩く沙雪と智恵理。
     その横で脅かし役にぶるぶる震えるなの美。
     だが話に夢中で二人は脅かし役に気づいていなかった。
    「こういう話すると集まってくるって言うよな。何か写ってたりして」
     沙雪が撮影した画像を確認すると、こちらを睨む肖像画が……。
    「なーーのーーー!」
    「…って、なの美待ってーっ!」

    「きゃあああ!!」
     絶叫に駆けつけると教室の入り口に夢羽が倒れていた。
     ぽとり。彼女の顔から何かが落ちる。ピンポン球くらいの、白い……目?
     周囲に血だまりが広がっていく。
     くす、くすくす……。
     笑い声に気づくと、赤く濡れた鋏を持った燐花が立っていた。
     目には包帯がぐるぐるに巻かれている。
    「ボクの目……これじゃない……ねぇ、キミの目……ちょーだい?」
     燐花の頬を血が伝う。
     襲い掛かる彼女から逃げて廊下を曲がろうとした瞬間、白衣のマイスが姿を現した。
    「保健の、先生?」
     狂った笑みを浮かべてマイスが膿盆を傾けると、べちゃっと零れた血が床に飛び散り、参加者の足に冷たい感触が。
    「ひっ濡れ……あれ、水?」
     引き帰そうとすると通路を豪奢な打掛と着物の作楽姫が塞いだ。
    「口惜しや…恨めしい……」
     恨み言を繰り返し、彼女は参加者を睨み付ける。
    「そなた、あの者の首を取ってまいれ…!」
     侍大将琥界が襲い掛かった。
     這うようにして教室に逃げ込むとそこは、古めかしい和室だった。
     普通教室だったはずなのに。
     能面の浅木がじっと座っている。
     横にはツギハギだらけのフランケンシュタインが立っている。
    「お、襲ってこないよね?」
    「魔除けの御札です」
     手渡された札には赤く汚れた字で『呪呪呪呪呪呪呪呪呪』という文字がびっしり書かれていた。
     もうここから早く出たい。
     サ――ザ――ッ。
     途切れ途切れにノイズが聞こえる。
     おぎゃぁあ。
     赤ん坊の泣き声、どこから?
    「今、視界の隅に白い布が見えたような……」
    「さっさと写真撮って戻ろう!」
     慌てて撮った写真の左隅には、ホッケーマスクを被ったおぞましい人影とお面犬が。
    「うばー」
     その瞬間、さっきまで動かなかったフランケン統弥が動き出した。
     叫んで逃げる背中を見送り、愛華と瀬川、ルーちゃんはハイタッチ。
     最後は【あおぞら空想部】で記念撮影。
     さっきから見られている様な気がするけど、
    「……気のせいだよね?」
    「ん……あれ、ここの手、誰の手だ?」
     お分かりいただけただろうか。
     暗闇から伸びる白い手。
     愛華の手だとでも言うのだろうか……。

     呻くような音がする。風か、それとも……。
    「志良、もっと慎重に歩きたまえ! この先何があるか分からッうあぁぁ……っ!」
    「いちいち立ち止まってたら陽がのぼっちゃうよ?」
     ただの物音にもびびる天龍をニヤニヤからかう志良。
    「く……くそ……お化けなど俺様の恐ろしさを思い知らワアアアッッ」
     突如廊下を徘徊していた布のオバケが、ダダダダッと、足音を立てて迫ってきた。
     悲鳴を上げ、天龍は志良の手首を掴んで走り出す。
    「うあああ教室通り過ぎちゃいましたけどー!?」
     布を脱いでシャルはほっと息をつく。
    「ちゃんと怖がってもらえたでしょうか……」
     結局二人は散々遠回りして校舎中のオバケを全てコンプリートした。

     くすくす……。闇から響く笑い声。
     怖い。瑠音は今すぐ逃げ出したかった。
     けれど年下の琥雨にそんな姿見せたくない。
    「クーくん大丈夫? 怖くない?」
    「さすけねよ、全然怖ないー」
     肩の上の友達を撫で、琥雨は笑う。
     暗闇の中でも、遠慮がちに繋いだ手のぬくもりが伝わる。
     安心した途端、鋏を持ったゾンビが追いかけてきた。
    「きゃぁぁぁぁ!? 来ないでぇ!!」
     カメラで切り取った一枚は、とびきり輝いてちょっぴり苦い夏の一瞬。

    「どうせ私はぼっちですよ。……みんな爆発すればいいのに」
     死んだ魚のような目で校舎に消えていく斎。
     あれは本気で脅かすつもりだ。

    「わたくし達の番ですよ」
    「は、離れないでね、りんご…?」
     りんごにしがみつくようにして歩くタシュラフェル。
     視線を感じて窓を見ると、そこには巨大な顔が張り付いていた。
     腹の底から悲鳴を上げてりんごの胸に顔を埋めるタシェ。
     歳相応で可愛らしい所が見られた気がする。
     安心させるように軽く抱きしめて……ついでにお尻をさわさわ。
    「んぁ。もう、こんな時にりんごったら」
    「いつもの調子が戻ったかしら?」

     朔眞は征士郎とはじめてのお出かけ。
     ドキドキするのは緊張と怖さから?
     征士郎は笑いかけ朔眞が安心できるように手を引く。
     登る階段がギシギシ軋む度、朔眞が奇声を上げた。
    「ピッ! はわわっ! い、今音が一つ多かったような!?」
     夜の音楽室で写真に写る朔眞はすっかり涙目だった。
     なのに征士郎は最後まですまし顔なのが悔しいので、
    「わっ!」
     自ら脅かしてみる朔眞だが、そんなところも可愛らしい先輩だと征士郎は思った。

     影薙の可愛い姿を期待して肝試しに参加した祐一だが、
    「全く、これだから男子は……。ほら、早く行きましょう。とっとと。駆け足!」
     彼を置いて、彼女はずんずん進む。
     懐中電灯をチカチカ明滅させてみると、
    「ちょっと! 暗いでしょう!」
    「わざとじゃないんだよーデンチがー。あれ? あそこ何かいねぇ?」
    「ッ……な、何もいないから、何も見えてないから!! 早く行くわよ早く!!」
     影薙は祐一の手を引っ張って歩き出した。

    「ヘキャキャキャ、やっぱこーゆーんはチビッ子連れてくんがオモロいんやでー」
    「…部長、顔と笑い声がゲスいです」
     右九兵衛を無表情で睨む結衣。
     パン! パパン!
     響く炸裂音と共に廊下からゾンビ化した流希が現れた。
    「ウゥウゥゥ」
    「ラヒャヒャヒャ!」
     呻き声を上げる流希と狂笑を上げる右九兵衛が一緒になって結衣を襲う。
    「……っ!?」
    「どや、怖いか、怖いやろー、泣いてええんやでー」
    「……。何で、あなたが驚かせているのですか」
    「おにーさんがよしよししたろー、クカカカ!」
    「馬鹿なのですか。撫でないで下さい。眼鏡…割りますよ」
     普段物静かな結衣とのギャップが見られた、のかもしれない。

    「おいていっちゃうよー」
     にあは振り向き呼び掛ける。
    「何故オレがこんな事を」
     ブツクサ文句を言いつつも一緒に来てくれた珠枝。
     そういえばこういうの苦手だったっけ。
    「それにしても、静かですね…暗闇に、得体の知れない何かが潜んでいるという感じ。これが恐怖、ですね」
    「おい、撮ったか?まだなのか、さっさとしろ。撮ったらさっさと帰るぞ、さっさと!」
     にあが構えるカメラには、粗暴だけれど、年相応の少年が写っていた。

     余裕余裕と言ってた譲と煉火は、
    「い、いや! 全然びびってねーし!?」
    「うわあぁ!? べ、別にビビってなんかないぞ…今のノーカンな…」
     どちらからともなく手を繋いでいた。
    「「は、はぐれたら困るから!」」
     青ざめた顔で写真を撮り終え、ほっと胸を撫で下ろす二人。
     その瞬間ゾンビがぬっと、
    「っきゃああぁ!?」
    「おあぁああ!?」
     思わず抱き合う二人。
    (可愛い悲鳴だったな)
     後日、煉火は部屋中を転がりまわることになる。

     夜の校舎で暗躍する円と真人。
    「ふっふっふ、す準備は完璧だなッ!」
     でもちょっと怖いのでナノぐるみは手放さない。
    「おっ、若葉、あいつら来たぞ…」
     二人が待つ教室へ近づいてくる夜音、允、昴の三人。
    「……あれ。何か聞こえた」
    「どーせ真人と円が怖がらせよーとしてんだろ」
    「ふぇっ、違うよぉ。僕このメンバーさんの声は聞き間違えないもん。……あ。」
     それはそれで怖い。
    「ただの学校がこんなおどろおどろしい訳ねえ。昔生徒が自殺したとか七不思議の呪いが数々の悲劇を産んだとかで廃校になったに違いねー……」
    「マコくん大丈夫さん?」
     護符を握り締める允を、夜音がなでなでする。
     昴的には挙動不審の允の方が面白い。
     ピュイーィイー。突如法螺貝の音が響く。
    「ギャアァ何だ今の音!」
    「ちょ、しがみつくな、苦しいって……あ、今何か白くてぼわっとしたものが」
     ぬるい風と共に般若面のナノナノが三人の周りをふよふよ。
    「空飛ぶ生首ぃ!」
     たっぷり怖がったあとは【C∴C∴】の全員で記念撮影。
     カシャッ。
    「………………」
     円は写真を確認すると一瞬停止して、画像を消した。
    「悪いね、手ブレしたからもう1回」
    「嘘だッ!何か写ったんだ!もーヤダ帰るうう!!」

    「怖いなら手とか繋いでおく?」
     照れ隠ししつつ手を差し出すナハトムジークに、雪雨は内心ガッツポーズをした。
     これはどさくさに紛れて抱きつくチャンス!
     ギィィ……バタン。
     その時、扉が軋んで閉まる音が響いた。トイレからだ。
     モーリスの仕業だと直感したナハトムジークはあえてその挑戦に乗る。
     ピチョン、ピチョン。水の滴る音がする。
     個室の扉を開けてみる。誰もいない。
     首筋に水が落ち、見上げると、天井にずぶ濡れの紅華がいた。
     丈の長い白いワンピースには血の染み模様。
     振り乱した髪の隙間から覗いた目を見た途端、「にぃ」と彼女が笑った。
     逃げようと後ろを振り向くと、そこには同じ姿の女が。
     しかも足が、無い……!
    「奇術師チックなサプライズかっ!!」
     個室の扉が閉まり、オバケごと閉じ込められ、パニックホラーと化した。
     なんとかトイレから脱出したのも束の間、宙に浮かぶ火の玉が二人を囲む。
     火の玉が激しく燃え上がると、
    「きゃー」
     棒読みな悲鳴で雪雨はナハトムジークに抱きついた。
    「いやんいやん、くーちゃんこわーい♪(……ぐっじょぶっ!!!!)」
     彼氏にめためたに甘えた後、雪雨は密かに天井裏に隠れる天牙にサムズアップでその職人技を称えた。

     勇騎は思った。
    「何でよりによって肝試し……いや夏の定番だが、定番だけど……。って、里桜、何で竹刀?」
    「本物が出たら倒せるかなって」
    「アハハ」
     ギャアアァ!
     ビクッ!
     遠くで響く叫び声に恐怖を堪える勇騎。その手がぎゅっと握られた。
    「その……手を繋いだら、怖くないと思って。勘違いなら、ごめん」
    「……ありがとな」
     ボソリと呟く勇騎に里桜は微笑み返す。
     恐怖に引きつった記念写真も、きっと大切な思い出になるだろう。

     ギィィ……。耳障りな音を立ててトイレの個室のドアが開く。
    「……かっぷる……うらやまぁぁぁ……私に、貢ぐ……彼氏はいねぇかぁぁ……」
     ぶつぶつと呪わしげに呟きながら祐梨が出て行った。
     カポーン!
     どこからともなく響く獅子脅しに杏子は肩をすくめる。
    「あ、あのね、お服の裾、つまんでていい? ココココワクナイヨ? 本当よ? 度胸対決もね、あたしよゆーで勝っちゃうの!」
     かちんこちんの杏子に理利は笑って頷く。
     自分が頑張らねば。気合いを入れるが、
    「妬ましい、あぁ妬ましい妬ましい! イチャイチャしてんじゃねぇ!」
     暗闇の中から血塗れで下半身の無い史鷹が匍匐前進で迫ってきた。
    「ひゃああ!!」
    「お、落ち着いて! あれはただの仕掛けですから…!」
     杏子は裾ごと理利を道連れに逃げ出した。
     その後、理科室に逃げ込んだ杏子は、
    「ばあっ! 人体模型っ!」
     嬉しそうに記念写真を撮っていた。
    (人体模型は大丈夫なのですね……)

     彩蝶のしっぽにしがみつくシュトレイン。
     怖いのについつい窓の外を見てしまって、
    「ひぃ、今、屋上から落下する幽霊と目が合った!」
    「あれは写真だよ」
     心霊体験豊富な彩蝶はその初々しさに苦笑する。
    「でも本当、彩蝶ちゃんは耐性あるのねーってちょっと! 血糊、跳ねたらどうしてくれるのよ!!」
     幽霊役に怒るシアンも大したものである。
     音楽室を見つけたシアンは二人を引っ張って中へ。
     カメラをセルフタイマーにして、三人はポーズを決める。
     撮った写真を確認すると、真っ暗な空間に白くぼんやり、長い黒髪の女の影が立っていた。
    「あ、結構綺麗に映って、ってシュイちゃん!?」
    「…………」
    「あっ、落ちた。シュイ、大丈夫ー?」
     シュトレインは立ったまま失神していた。
     彼女達が帰った後、白いヴェールを脱いで紗夜は悪戯っぽく微笑む。
    「暑い中おつかれ様、少しだけれど涼しさのお裾分けよ…ふふ…」

    「なんで音楽室って一番奥なんだ……」
     文句を言いつつ、恵は愛の手をガッシリ掴んでいた。
     何かの視線を感じながら二人がカメラを探していると、
     ポローン。
    「おわあぁ!!」
     突如鳴り響くピアノ。
    「チカぁぁぁ」
     愛に助けを求める恵。
     だが、目の前には青白い顔の音楽家の顔が!?
     愛はというと、逃げ惑う恵を遠巻きに見守っていた。
    「手間の掛かるお子様っすね」
    「でも姫抱っこは恥ずかしいヤメテ!」

     繋いだ七緒と玲仁の手は、赤い紐でぐるぐるに縛られていた。
    「これで来世も一緒だね。えへへ、幸せ…絶対離さないからね?」
    「……うむ、なかなかに幸せだ」
     記念撮影は一番奥の教室で。
     背後の黒板には血糊で「ずっといっしょ」の文字と赤い手形付き。
    「……これは明らかに呪われた写真なのだが……まあいいだろう。さあ、早く帰ろう今すぐ帰ろう」
     ガシッ。
    「……逃がさないよ」
     七緒は嫌がる玲仁を引きずって暗闇へと消えていった。

     おろおろきょろきょろ。
     心もとない灯りを頼りにしんと静まり返った校舎内を散策するなおと唯空。
    「ひっ! 早目に写真撮って戻ろう! ね!」
     怖がる唯空を見てるとなおの悪戯心がむくむくと。
    「わっ!」
    「うわあああ!」
     なおが脅かすと唯空は絶叫して逃げ出した。
    「あとできちんとごめんなさいしないとですぅ」
     その後、出口付近でブルブル震える涙目の唯空が発見された。

     怖い話をしながら教室を回る【outsiders】の三人。
     両耳を塞いでいた麻美はふと気づいた。
    「って、弥咲部長どこ!? 消えた! これが連続殺人事件のはじまり!? どうしよう、ハガネくん!?」
    「わっ!」
    「ぎゃぁぁ!?」
     突然暗闇から脅かす弥咲に、麻美の回転回し蹴りが炸裂した。
    「ま、まさかけりを食らうとは予想だに……ぐふ」
     ばたり。
    「怖かったあ……」
    「俺にゃ今の蹴りの方が怖かったっつの…!」
     あまりの蹴りの鮮やかさにハガネは恐怖した。
     何はともあれ記念写真である。
    「…あれ?七里センパイの方になんか手が映ってねェか…?」
     確かに白い手が。麻美とハガネの視線が弥咲に注がれる。
    「いやいや、私は何も……って、まさか……ハハハッ……?」

     校舎に響き渡る悲鳴を聞いて龍之介は、おどおどしてるゆまににっこり。
    「いやー、結構すごそうですね、これは」
    「あうう……何かいる……絶対いる……。日和さん、体調悪くなったらすぐに言ってね? ……何で楽しそうなの……?」
    「怖いな~♪ 肝試し怖いな~♪」
     日和はとても楽しそうだった。
     真夜中の校舎に、ゆまの悲鳴と日和の楽しそうな絶叫が響く。
     数分後。ぺそぺそ泣きながらスイカを食べるゆまがいた。
    「水瀬さんも見ませんか? 結構綺麗に撮れてますよ?」
     龍之介の差し出した写真には、ピースの日和と、恐怖でぺたんと座り込むゆまの姿が。
    「綺麗に、ってわたし恐くて変な顔だしー!」
     これも、夏のいい思い出になりそうだ。

     震えながら宵帝の腕にくっついて歩く羽衣。
    「大丈夫?」
    「だ、だいじょぶです…まだ……」
     人一倍怖がりだけどホラーは好き。でも、こわくて進めない足と、早くゴールしてしまいたい気持ちで頭がぐるぐるしてもう何がなんだか。
     音楽室に辿り着く頃にはよれよれで記念撮影する羽目に。
    「でも羽衣の新しい一面を見れて俺としてはよかったし楽しかったかな」
    「もしや宵帝さんのアルバムにこの先ずっと、あの情けない顔のわたしが…?」

     ぎゅっと手を握り合う観月と乃絵。
    「全然怖くないけど」
    「雰囲気、雰囲気出すために」
     二人がそそくさと写真を撮り終えて帰ろうとすると、
    『もう帰るの?もっとここにいてよ』
    「ギャアア?! ごめんなさいイケメン先輩置いていくんで許して下さい?!」
     肝試しを終えた二人は、
    「なにこのバカップルみたいな写真」
    「いいじゃないスか今だけバカップルで!」
     涙の残った笑顔で乃絵はスイカにかぶりついた。

     涙目の丈介を無理矢理先頭にして進む【井1C】の三人。
    「おや、人魂ですね」
    「何かあそこで動いた様な……」
    「変な音楽が聞こえます」
     一番怖いのは璃羽の発言だった。
    「怖くない怖くない怖くない、お化けなんていないもん。大丈夫だいじょーぶ」
    「よしよし、大丈夫ですよ」
     抱きついてくる燈をあやす璃羽。
    「ぎゃーっ! もう駄目!許してくれ!俺もう一番前で歩きたくねぇよお…」
    「ほら、ジョジョくん。前歩いて、前」
     抱きついてくる丈介をげしっと蹴飛ばす璃羽。
     この態度の差は……。
     ようやく出口が見えた頃、
    「終わりです。良かったですね、二人とも」
     二人に振返る璃羽の顔が真黒いのっぺらぼうで。丈介は完全に固まった。

     こうして恐怖の一夜は終った。
     しかしいつかまたあの鐘が鳴る時、恐怖の授業が始まる……かもしれない。
     キーンコーンカーンコーン……。

    作者:かなぶん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月25日
    難度:簡単
    参加:99人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 18
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ