炎龍昇華~十勝川花火大会

    作者:那珂川未来

    「沙汰さーん」
    「ん? どうしたの、レキちゃん」
     レキ・アヌン(冥府の髭・dn0073)がにこにこ笑いながら、仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)の傍へとやってきて。
    「じゃーんっ♪ 夏休みということで、ちょっと遠くにお出かけしましょうよ」
     と言って、レキが見せたのは花火大会の告知ポスター。 
    「あのですね、僕のおかーさんの故郷である北海道の十勝平野の河川敷で、花火大会があるんですよっ!」
     この花火大会は北海道一とも言われ、最先端コンピューター技術によって花火を打ち上げ、音楽と照明、レーザー等の特殊効果とリンクし、さらに今年は最大25メートルまで噴き上がるファイアーストームを初導入。高いエンターテイメント性を誇るデジタルリンク花火。そして芸術玉による匠の技、クレーン車三台を使用した巨大ナイアガラ滝、そしてこの花火大会のフィナーレは夜空が黄金に包まれる――。
     光と音の演出で北の夜空が彩る、最高に沸き立つ一大イベント。
    「僕もおとーさんが生きている頃はずっとエジプトに住んでいたけれど、おかーさんの希望で毎年避暑も兼ねて北海道に里帰りして、必ず見にいってたんです」
     だから、今年も見に行きたいので、沙汰さんもどうですか、と。
    「是非ご一緒したい」
     沙汰もノリノリで。
    「ねぇところでレキちゃん。大きな打ち上げ花火が上がる様って、まるで炎龍が天へと昇っていくみたいだなって思わない?」
    「龍が?」
    「そ。炎の筋がさ、まるで天へと昇華しに駆け上がる龍みたいで。そして吼えると、煌めきの雨を降らせて……天へ返る」
     レキにはまだちょっと、沙汰の感性がよくわからないけれど。ただ、上りゆく炎の玉が尾を靡かせる様は、確かに龍の天昇にも見えなくもないなって。
    「えへへ、じゃあ今日は北海道に沢山の龍神様がいらっしゃるんですね」
     わくわくしますねと、レキは笑って。

     人気の花火大会。河川敷に陣取って間近で見るのもいいし、混雑が苦手な人はちょっと離れた河川敷からでも十分楽しめる。

     涼みがてら、最高のエンターテイメントショーで、夏の思い出作りに行きませんか?


    ■リプレイ

    ●会場
     散りばめられた星、紺色の浴衣纏う千代を、壱とみをきが両側からエスコートするように。
     うきうきな千代。お目当て見つけ訴えようとしたら、射的や金魚すくいにはしゃぐ男子。
    「じゃあねじゃあね、私はりんごぁ……!」
    「見て見て、光る腕輪!」
    「どこで買ったんですか? 俺も欲しかったのに」
     見せつけながらはしゃぐ壱に、呆れるみをき。千代さんはほっぺぷくぅ。
    「も、もう二人ばっかりずるい!」
     ごめんと笑う二人。大きいりんご飴、機嫌治してねと差し出して。
     さ、みんなで食べながら花火見よ!

     金魚袋には赤に白模様、愛嬌たっぷりの出目金。涼しげな色の浴衣、揺らして。
    「香乃果ちゃんの美味しそう!」
    「うんうんっ、半分こしようね。仁奈ちゃんも、あーん!」
     甘いカステラとジャガバター。互いにあーん。美味しさにほわっ。
     大きな音につられて空を見上げれば。昇華しては夜空を染める黄金に、一緒に見上げてわあと歓声をあげて。

    「わ、色々ありますね~。どこ行ってみましょうか?」
    「まぁ、とりあえずわたあめ辺りをまず買い求めましょう」
     フォルケと瑠璃、手を繋いで。幾つかのお店を巡ってゆく。
     お祭りの喧騒と夜空を彩る光に溜息零し。
     互いに微笑みあいながら、いつもとは違う火薬の匂いにも夏の記憶を印象付けた。

     おそろいの浴衣。巫女に手繋ぎを促されて、なんだか照れくさいような恥かしいような、璃耶はそんな様子で。
    「何度見ても花火はいいものよね。勿論、あなたと一緒だからだけど」
    「巫女さん……あの、ありがとうございます……これからも、よろしくお願いしますね」
    「私は浮気者だけど、愛した人は絶対に裏切らない。だから――」
     弾ける花火の中、誓いを込めて。

     似合ってる。
     律の本音に、ちょっぴり照れながら芝生に腰掛けて。
     シャルロッテがかき氷片手に興奮している姿を見たら。こういうトコ、可愛いと律は思う。
    「食べないととけちゃうよ? 俺,食べちゃおっかなー」
    「わ、食べちゃだめデス!?」
     悪戯っぽく笑うから、慌てて食べたら頭がきーんと。律は冗談だからと、笑いながら頭をなでなで。

     蒼衣はアリスが逸れない様にと、指を絡めて。
    「そうやってはしゃいでいると年頃の女の子みたいで可愛いぞ、『アリス』」
     アリスが祭りの熱気に目を輝かせていたら、耳元でささやかれた言葉。真っ赤になって何も言えず、誤魔化すように綿飴を。
     花火を眺めるアリスが躓いたりしないよう、手は繋いだまま。支えるように蒼衣は寄り添って。

    「夏休みってだけあって、人が沢山いるね」
     夜は寒いと思ったけどやっぱり蒸し暑かったと、ジュースを配るカーティス。
    「あ! 打ち上がったよ!」
     初めの花火に潤子は歓声をあげて。
    「……花だ」
     こんな人混みの中で見るのか。そう言って、若干具合が悪そうにしているリアンだけど。表情は変わらないが目は輝いて、打ち上げては咲く花に見惚れ。
    「うん。花の様だね」
     ギルドールは同じ様に空から目が離せずに。拍手しながらはしゃぐカーティスと潤子。
    「外国のファイアワークスとは一味違った美しさがあるよね」
    「わ、すごいね。凄く綺麗」
    「真上から見たらどんなだろうなー」
     儚き瞬間、されど、貴き時間。

     互いに選んであげた浴衣。白地に鴇色や紅色の牡丹が咲く浴衣でご機嫌な玖。淡い色のお花畑に白い蝶々が遊ぶ紺地の浴衣、優花の気持も弾むよう。
    「わぁあ! すっごい近い感じがするっす」
    「綺麗ですー……! 本当、すごく近くて体に音が響きますね」
     止めどなく降り注ぐ黄金の雨は、届かんばかりに。夏の思い出も、止むことなく心に刻んで。

    「春翔、今の見た?! 大きくて凄く綺麗」
     大きな花火を間近にして、律花はつい子供の様に。
     約束を叶えたくて。春翔は少し無理を言って連れ立つことを申し訳なく思いながら。けれど連れて来て良かったと実感しどおしで。
     花火綻ぶ音の中、連れて来てくれてありがと、好きよ、と。律花の囁き聞こえたかどうかは定かじゃないけど。春翔の顔も、花火の様に綻んだ。

    「きれいな花火ね!」
     デジタル一眼カメラを構え、大輪の綻びを切り取るまぐろ。
    「最近の花火って凄くハイテクなのですね~!」
     空はいつものインスタントカメラで撮っていたら、香ばしい匂いが隣から。
    「……あ、保戸島ぶちょー! トウモロコシ、一口だけ頂けませんか?」
    「いいわよ空、少し焼きトウモロコシ食べて。りんご飴、もらうわね」
     がぶり。残るりんご飴の面積やいかに!

    「いやはや、一度は見ておきたかったのですよねぇ……」
     流希は見事な花火に感服して。

     人混みに埋もれ、折角のメイン会場なのに、ちっちゃなましろじゃ仕掛け花火が見えそうになくて。
    「あ、そうだ! 倭くん、おんぶして!」
    「……だな。人混みだけ見て帰りましたじゃああんまりだもんな」
     おんぶしてもらって、倭の肩に顎を乗せ。だけど顔が近くてどきどきのましろ。気付いてないかの様に振舞う倭もどきどきは同じく。でも今は同じ目線で見る喜びを。

    「似合ってるな、浴衣」
     期待を裏切らず、お互い眼福に与り。はぐれないように、天嶺は宝の袖を握って。
    「えへへ。頼もしいおにいさんなり」
     宝は終始にこにこ。金色のカーテン見上げ、ふと隣の天嶺を見上げ、ふひ、と笑って。
    「いいものを見られてよかったよう」
    「間違いなく、この夏一番の思い出になるな」


    ●河川敷
     バイクで近くを通りかかった凜は、メットを脱いで空を見上げ。
    「花火か。そういえばそんな話もあったな」

    「こっちも相当なもんだな!」
    「はいっ。フィナーレは本当に凄いですっ」
     周とレキは並んで座って。
    「あ、よかったらこれ、食べるか?」
    「じゃあ僕のいももちどうぞなのです」
     たこ焼きと交換したり、はしゃいだり。二人で花火を楽しんで。

     去年を思い返せば、治胡が丁度堕ちた日。
     相棒と呼び合いながらも、知らないことが多すぎて。しかし新たな事実に変わるわけでもなく。けど一緒に同じものを見れた幸せの意味は深く。
    「来年もまた花火見に行こうな。ドコのでも良いからさ。な、イイだろ、約束」
    「あぁ」
     言葉に頷きながら、
    「……来年なら行ける。またぞろお前が堕ちてなければな」
     まだ離す気はないから。

     レキと沙汰に差し入れした後。
    「ひおの作ったお菓子もどーぞ。煌介おにーちゃんイメージのふわふわお月様なの♪」
    「……感謝、陽桜。凄く嬉しい、よ」
     無機質な表情の代わりは、瞳に映る刹那の輝きと、嬉しそうに笑み返す変わらない君の眩しさと。
     花火の音。陽桜は空見上げ。
     君の未来もあれ位華やかである様にと、煌介も続く花火を眺めた。

    「毎年そうだけど、今年もあっという間だったな」
    「……このクラスで集まるのも、あと半年強ってとこか」
     八雲と悠一は連なるように昇ってゆく炎の軌跡に、時の瞬きの速さを重ね、なんとなくしんみりと。感慨深くもあって。
    「その一瞬の為に情熱を傾ける人が居るというのも美しさの遠因なのかも知れませんね」
     刹那の花咲き乱れる空。絶奈は見惚れつつ。
     どの花火も美しいけれど、いつも印象が違うのは、其処にいる人が違うからか。そんなことをぼんやり考えながら樹は、拓馬に寄りかかろうとしたら。
    「花火より輝く俺の全裸を見るがいい!」
    「一緒に打ちあがってらっしゃい」
     拓馬花火が今にも地上で暴発しそうだったので、樹はナイスタイミングでホームラン!
    「たーまやーって言えばいいのかな?」
    「拓馬君、弾けるのは花火だけでそっちまで弾けていいわけやないんやで……」
     麗羽は何故かランチマットを手に。相変わらずやなーと、シジマはにこやかにツッコミ入れて。
    「ゴミとか纏めてちゃんと持って帰えろな」
     もちろん忘れ物(者)もないように。思い出も、ちゃんとしまって。

     ユエファが膝をぽふぽふしながら膝枕勧め。アルヴァレスにはゆっくり花火を見てほしいから。
    「……ひ、膝枕ですか?!」
    「嫌……だたろ、か?」
     照れながらも結局、膝枕してもらって。
     開放的な空間なのに、二人っきりの時間と感じるのは花火が美しいから?
    「ユエファの方がもっと綺麗だけど……」
    「今、何かおっしゃっただろ、か?」
     きょとり。そんな顔も愛しくて。

     辺りにカップルちらほら。爆発と書かれた団扇、菖蒲はゆらりと。
    「……夜になってもあついですね、爆発させないといけませんが……人目がありますし……」
    「夜襲には持って来いの暗さではあると思うけどね……って、対象は俺もかい!?」
     そういえばと悪戯っぽく笑った菖蒲の冗談に、旭は心底ほっとして。残り少ない夏、気軽に旅行に誘える間柄に感謝して。

    「こうして皆さんで集まるのも、何度目でしょうね」
    「昇る龍、とはうまいこといったもんや。綺麗やねぇ……」
     たまの息抜きも悪くない。近頃そう思えるようになった自分に、氷霧はふと笑い。伊織はゆるりと扇を仰いで。
    「繊細で、綺麗……なのに力強くて……」
     幼いころサーカスで見たそれとは違う音や迫力、美しさに、チェーロは心奪われながら。
    「……一度咲いたらすぐに消えてしまうが。こうして心に残り、またこうして眺めたいと思わせる。羨ましいとすら思えてしまうな」
     キースが囁く様に零した言葉に、伊織も小さくせやねと返し。
     思うところは一緒なのも何かの『縁』なのか――。
    「また、みんなで、来たい、です……」
     まだ心痛むときあっても、チェーロはもう一人じゃないと。
     今のように大切な人、仲間を隣に感じながら。

     千尋はゲイルに寄り掛かって。出店で買って大地の恵み舌鼓しながら。
    「……間接キスだけど、別に気にしないよね?」
     齧りかけの玉蜀黍を差し出し勧める千尋へ、ゲイルは満面の笑みで、
    「口移しがいいです」
     そのまま吸い寄せられるように重なる唇。
    「いやまあ、花火よりはあなたの方が綺麗だ……」
     瞼の裏の色鮮やかな光の飛沫を見ながら、君に酔って。

     秋から始まる二年目の「いっしょ」へ向けて。羽衣と慧樹は締めの思い出作り。
     光に照らされる顔がかわいーなー、なんて慧樹が隣に見惚れていたら。
    「ういあれが好きなの、ふわーって雨みたいに振ってくるかんじの!」
     不意に羽衣のキラキラ視線がぶつかって。
    「あぅ、いつから見てたのー!」
     照れ隠しにペシペシ。一緒だからこその、幸せ。

    「てか、また随分と買い込んだなぁ……」
     ラムネを手に、アヅマは唖然としつつ。
    「ちゃんと花火も楽しむんだから花より団子状態ではないよー?」
     胸張る夕月。何よりアヅマと一緒に居れることに喜び感じつつ。アヅマはささやかに心の中でツッコミ入れつつ、これも彼女なりの楽しみ方だと納得しながら。寄り添い、美しい花を瞳に映して。

    「ご家族で花火を見に行かれたりするんでしょーか?」
     自分はこういう経験がないですからーと笑う流零へ、今度案内するぞと胸を張って得意げな表情を浮かべる和茶。背後に咲いた花火は緑色。
    「次見に来た時は、きゅうりのお漬物も食べようね。大きな花火に負けないくらい美味しくて、大きなの!」
     流零は言葉にぱちくり。思わず噴き出して。
    「大きく出ましたねー?」
     来年の楽しみ、一つ増え。

     鮮やかに描かれる光の軌跡。咲く間の長短は違えども、散る様は名残惜しいものだと。藍は落ちる軌跡に手を伸ばすように。
     紡は照らされる横顔を時折眺めつつ、「私、今、幸せなの」と微かな声と共に、大きな掌に手重ねれば。
     藍は努めて柔く返し。大丈夫だと短く応えれば。掌伝わる優しい力に応え握り返す――この先も、ずっと積み重ねていけるように。

     輝く炎の軌跡を目で追いながら。アレキサンドライトは初めての花火に興味は尽きない。
    「日本の花火もいいもンだな。向こうじゃ馬鹿騒ぎしてばっかりだったから、物足りなく感じるんじゃねェかと思ったが……」
     そんなことなかったなと、バジーリオも空のステージに釘付け。
    「おまつり、ボク、はじめて。ひと、たくさん。たいへん。けど、たのしい。ね?」
     アレキサンドライトが綿飴食べつつにっこりと。海碧は頷きつつ、
    「……そうですね。私も普段は静かな場所にいる事が多いですが、いつもと 違う景色、空気、雰囲気……新鮮で、どこか心浮き立つような」
     海碧は儚き炎を時と重ねながら、
    「いつまでも終わって欲しくない、なんて思ってしまうけれど、終わりがあるからこそこの時間が愛しいのかもね」

     女の子五人が浴衣とならば華やかではありますが。淑やかに座っているなんて無理って事で。
    「りんごさん、将来いいお嫁さんになるよー♪ 」
    「甘くて美味しいです」
     麻美はりんごのクッキーはむはむ。悠花は静香のフルーツサンドをもぐもぐ。甘いものも霊犬もセットなものだから、とっても賑やか。
    「あら、麻美さん、褒めすぎですよ♪」
     絶賛されて、嬉しげなりんご。コセイを抱っこしてもっふもふ。
    「わふっ♪」
     フレーズも混ぜてといった具合に、コセイとりんごにじゃれじゃれ。
    「りんごさんをこまらせちゃだめだよ?」
     静香は飼い主らしくフレーズに言い付けつつ、花火を見上げ。
    「あたしももふもふするー♪」
     さらに麻美まで追加され。どさくさに紛れて、タシュラフェルに抱きついたり、もふもふにもみっとちょっとカオスな感じ!?
    「あら。程々の範囲で反撃しちゃおうかしら……♪」
    「にゃーん」
     反撃(?)される所までお約束。

     打ち上げる花火を見るのは初めての葎と、ずっと闘争に身を投じてきたナイ。そして、4月以前の記憶を持たぬ白姫。屋台巡りも楽しんだあとは、寄り添いあいながら光の華咲く夜の思い出を。
    「……うん、やっぱり、すごいな」
     葎は言葉少なに、空に咲く花火に目を奪われる。
     こうして笑あって過ごせる日々を……大切に守って行くことを。
     戦いしか知らなかった私に人の温もりを教えてくれた2人に。
     私の一番大切な……二人と、ステキなものを見れたこの夏を。
     ――永遠に忘れない。

     場所取りのため、体育座りしている紘一、ぽつんと。
    「兄さん、寂しそうじゃの」
    「別に寂しくなんかねーよ!」
     憐みっぽい言いっぷりに振り向けば、亜門が意地悪そうに笑っていて。
    「皆ー! 色々美味そうな物、買って来たー!」
    「私達はりんご飴やたこ焼き」
    「これは北海道ではメジャーな「もちポテト」だそうです!」
     どっさり買い込んできた亜門に続き、孝優がホタテバターやらジンギスカン串やら北海道らしいものを。六花と鈴菜も定番の物から北海道独特の物まで。
    「……狩野さん、何だか食べ物以外のモノも満載ですね~」
    「だから一番遅かったんだな」
     鈴菜につっこまれ紘一にからかわれて、翡翠はヨーヨーや金魚を後ろへ隠しつつ、
    「何のことでしょうか? って、あっ、花火が始まりますよ!」
     翡翠の見上げた先、空に咲く大輪。
    「ふむ、一瞬で散る大輪の花か……良いな……」
    「夏の夜と言えばやっぱり花火ですよね」
     亜門が玉露を淹れた遥斗が皆に配る手も止まって。皆が夜空に集中している時、六花はそっと。
    「不躾ですが、奏真様? ……恋人さん、いますか?」
     ――花火綻ぶ時のあと、地に咲く花のような線香花火、儚き祭りのピリオドのように輝いて。

     過ぎ去る夏そのもののような炎を、葉がスマホで一枚。その音と重なるように、近いな、と啓が呟く声が思いのほか嬉しげに響いたかのような。
     そういや、去年コイツと徳用花火を燃やす約束もしたななんて葉が思った矢先、何かの勘が働いたのか啓は、
    「……つーか焼きそばいい匂いだな。ひとくち」
    「じゃあ、お前のチョコバナナ一口くれよ」
     また、ドンと響く音。
     何故か、唐突に夏の終わりが近いことを実感して。

     遊は芝生に転がりながら、へらりとした顔を向けて腕枕勧めて。桃香は照れつつ、お言葉に甘えて、煌めく花火に歓声を上げていたけれど。不意に近くなる距離。
     ――キス、しちゃうのかな……!?
     桃香は心臓の音が耳元で聞こえるくらいドキドキしていたら。
    「好きだぜ、桃香……っ!?」
     ひょこっと覗き込んできたまっちゃにもふっ。瞳が純粋過ぎて、何も言えず。

     こんなに近い距離感で花火を観に来るようになるとは――時の流れは、まるで瞬く間に駆けあがる炎の軌跡にも等しく。
     手持無沙汰になれば、自然と落ち付かなくなっている貴明と直人は似た者同士にも見えて。
    「花火、綺麗ですね……」
     二人自然に身体を寄せ合って。隣に貴方が居てくれて良かったな、と。貴明は、改めて思った。

    「間近で視界いっぱいに見るのもいいけど、離れてても綺麗ね」
     打ち上げ花火の全景を瞳に映せる贅沢、七は見惚れて。
    「来年はオレら大学生か……」
     このクラスもあと少しだと思えば、紅太もちょっとしんみり。エアンと百花はお互いを見遣って、
    「すごく未来のことみたいに思っていたけど……」
    「真剣に考えないといけない時期ではあるよな」
    「俺は海洋学か観光学に行くかなーってぼんやり思ってるくらいだな……」
     大和へ、あたしもその予定よと七。
    「仙景はどんなん?」
     大和が尋ねれば、沙汰は建築か音楽かな、と。
    「高校卒業しても皆と遊びてーな」
    「会いたいと願う想いがある限り、俺達はこのままなんじゃないかな」
    「ふふ、そうね」
    「卒業しただけで、関わりなくなるなんてサミシーしなあ」
    「もちろん大学生になっても、こうしてみんなで集まろうねっ」
     来年も同じ時を楽しもう。約束を花火と共に打ち上げる様に。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月28日
    難度:簡単
    参加:91人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 5
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