―地球の足跡ミュージアム― カラーコレクション!

    作者:りん

     九州某所。
     ここにはかつて一つの博物館があった。
     広大な敷地にはに500台以上止められる駐車場に、噴水のある広場、そして広い芝生。
     かつては賑わっていたであろうこの場所は今は寂れ、駐車場には枯葉が重なり、水の止まった噴水では水が淀み、芝生は雑草が生えて荒れ放題。
     経営悪化の末の閉館だった。
     だが閉館後は解体する費用もなく……誰も寄りつかなくなった博物館には蔦が生い茂り、不気味な雰囲気を醸し出していた。

     再び足を踏み入れた博物館には見慣れないモノがかかっていた。
    「中生代ゾーン……」
     標野・春喜(葵上・d26338)がそれを読み上げ通路の先を覗けば、海から陸へと上がってきた生物の進化の説明パネルと中生代の説明が書いてある案内板。
     水中から徐々に陸上へと進化してきた生物たち。
     コケ植物やシダ植物、昆虫類は古生代から陸上に進出していたらしいが、爬虫類系の大型のものはこの中生代から。
    「……この先に恐竜の展示ゾーンが……?」
    「案内しようか?」
    「!!」
     声と共に薄暗い通路の先から現れたのはもちろんディノ介。
     おいで、と春喜に声をかけ、ディノ介は奥へと進む。
     着いていくべきか、仲間を呼ぶか。
     一瞬悩んだが、残って後悔するよりはと彼女はディノ介の後に続いた。
    「そこの案内板にもあるけど、中生代は三畳紀、ジュラ紀、白亜紀の3つを合わせて中生代って呼ぶんだ」
     巨大な恐竜がのっしのっしと闊歩していた弱肉強食の世界。
     今回はその入り口。
     ぴたりとディノ介が歩みを止めた場所には1つの骨格標本。
    「エオラプトルの骨格標本だよ」
     大型恐竜に先駆けて出てきたエオラプトルは全長1メートルほどと小型で軽量。
     エオラプトルを恐竜に含めるかどうかは未だに議論がなされているが、形状としてはほぼ小型の恐竜と言って差し支えない形をしている。
    「そして、あれがヘレラサウルス」
     ディノ介がある場所を指差すと、そこにぱっとスポットライトが降り注ぐ。
    「……!」
     全長約3メートル、大きな頭は肉食恐竜のソレとほぼ同じ。
     自身よりも頭一つ二つ高いヘレラサウルスの骨格標本に春喜が思わず身構えれば、ディノ介は安心させるようにウインクをし、
    「ああ、大丈夫! まずはこの子たちがお相手するよ」
     この子たち、と言われて出てきたのはカラフルなトカゲらしきもの。
     赤、青、黄色とチューリップのようなはっきりしたカラーに今年のトレンドの花柄(ひまわり)、見本のようなくすんだ緑色の5体だ。
    「エオラプトル?」
    「正解!」
    「……随分カラフルだね」
    「体の色はどうしても想像上のものになるから、緑色だけじゃ可愛くないでしょ? これ準備するのにちょっと時間かかっちゃったんだ。どうかな?!」
    「パリコレならぬディノコレみたいだね」
    「あ、いいね、それ!」
     春喜のディノコレという単語にディノ介は嬉しそうに笑いパンパン、と手を叩くと5体は春喜の前に横一列に整列する。
    「まずは彼らがご挨拶して、それからヘレラサウルスちゃん2体がお相手するよ!」
    「……ちなみにヘレラサウルスの色は?」
    「春夏のトレンドの大きな花柄(赤)と、秋冬のトレンド色のラディアント・オーキッド(無地)だよ!」
     春夏は白地に花柄は大きなハイビスカスの花で、秋冬のトレンド色のラディアント・オーキッドは紫系の色だ。
     兎にも角にも、ヘレラサウルスに辿りつくにはまず目の前でこちらを威嚇しているエオラプトルを倒さなければならない。
     じゃあ、頑張ってねと言う声に振り向けば、ディノ介の姿はどこにもなく。
     春喜は小さく溜息をつくと軽く重心を落とし、エオラプトルと対峙した。


    参加者
    森野・逢紗(万華鏡・d00135)
    アイレイン・リムフロー(スイートスローター・d02212)
    夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    攻之宮・楓(攻激手・d14169)
    音森・静瑠(翠音・d23807)
    ブリジット・カンパネルラ(金の弾丸・d24187)
    標野・春喜(葵上・d26338)

    ■リプレイ


     ディノ介に紹介されたカラフルな恐竜たちを前に、灼滅者たちは立って居た。
    「今回は慧がいないから……わからないことがあったら困るわ」
     不安げな表情のアイレイン・リムフロー(スイートスローター・d02212)が少し俯くと、それに合わせて頭の大きな黄色いリボンがふるりと揺れた。
     黄色の肩だしドレスのアイレインを護るように、タキシード姿のビハインドのハールが前へと出る。
    「今回は恐竜に詳しい人はいないかしら?」
     私もいまいちですし、とアイレインの言葉に同意するようにあ呟いたのは黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)。
     今回の黒一点……のはずだが、ビハインドのアリカとお揃いのヒマワリ柄のドレスを身につけたその姿はまさに女の子。いや、男の娘。
    「けー……いいやつだったのに……」
     赤と黒のゴシック服のブリジット・カンパネルラ(金の弾丸・d24187)は胸の前で拳を握り、
    (「けーはあの戦いで膝に矢を受けてしまってもういない」)
     前回の戦いを思い出すにそれはまったくの嘘ではあるのだが、話しの中のけーは前回彼女を怒らせていたような気がしなくもない。
    「けーは死んでないけど! いない! カタキは取らせてもらうわよ!」
     その膝の矢は一体誰から受けたものかはまったくわからないが、彼女はきっと前を見据え言い放った。
    「で、パリコレって何?」
    「有名なファッションショーのことですよ。こちらもスレ(イヤー)コレで対抗しましょう!」
     ブリジットの問いに応えると共に音森・静瑠(翠音・d23807)はにっこりと微笑んだ。
     彼女の服装は緑を基調とした森ガール風。
     森での活動を主としているので大変動きやすいが、女の子らしい可愛さは捨ててはいない。そんな服装だ。
    「ふふ、それにしてもディノ介君も面白いことを考えるものだね」
     ふわりと扇で口元を隠し、標野・春喜(葵上・d26338)は微笑む。
     上品な藤色の直垂を身に纏った春喜は、昔絵巻にでも登場するような雰囲気を醸し出している。
     可愛らしい服を着こなす面々に多少の憧れはあるものの、自分にはこれが一番しっくりくる。
    「ディノコレですか……でもわたくしだって色には自信がございます」
     春喜の隣に同じように直垂姿なのは攻之宮・楓(攻激手・d14169)。
     だが春喜と違い、彼女の直垂は楓色。
     夕焼けのような暗く赤い色に黒い瞳がきらりと光った。
     同じ赤でも燃える様な赤を身に纏っているのは夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)だ。
     治胡が着ているのは特攻服。
     それぞれの服装に大変個性が出ていて、本当のファッションショーのようである。
    「ま、戦いなのは変わらねーけど」
     その言葉に同意する森野・逢紗(万華鏡・d00135)は青を基調とした和風ドレス姿。
    「では始めるとしましょう。役割は、きっちり演じきるわ」
     逢紗の言葉を合図に、照明と音楽が一斉に動き出したのだった。


     スポットライトがモデルたちを照らし、レーザー照明が博物館の壁や床を移動する。
     ズン、ズン、と言う低音がお腹に響き、音楽は耳に痛いほど。
    「思った以上に本格的ですね」
     目を丸く見開いた静瑠だったが、驚いてばかりはいられない。
     すでに目の前ではエオラプトル5体がこちらに牙を剥いているのだ。
     エオラプトルたちは素早く灼滅者たちの前に走り込み、狙われたのは前衛の3人。
     逢紗に赤と青、治胡に黄色と緑、楓に花柄の牙が突き立てられた。
     すかさずアイレインが3人の傷を回復するが、逢紗と治胡は完治には至らず。
     ちょろちょろと動くカラフルなエオラプトルを逢紗は目で追い、魔導書を開く。
    「一筋縄じゃいかない、っていうのは承知の上よ。その上で、やらせはしないわ」
    「エオラプトルが勢ぞろいしたのなら、こちらも火計で勝負をせざるを得ない! いでよ! 私の黄色い炎!」
    「向こうがいくら派手な格好でも、燃やしてしまえば黒1色ですよね♪」
     逢紗が魔導書を開くと同時にいちごとブリジットも同じく魔導書を開き、3人が発動させたのは禁呪。
     赤と青のエオラプトルの体で爆発が起こり、その体は跡形もなく吹き飛んだ。
     飛び散る炎に高揚する気持ちを抑えきれず治胡は不敵に笑う。
     治り切らなかった傷口に炎を灯し、治胡は目の前の黄色に向かい長い足を振り上げた。
     炎を纏ったその蹴りは黄色のエオラプトルを見事に捉え、その体に炎を宿す。
    「わざわざ近付いてくれてありがとさん」
    「まだ終わりじゃありませんわよ」
     楓の言葉と共に振り回されるのはウロボロスブレイド。
     彼女の頭の上で大きく回されたそれは刀身を伸ばし、残った3体のエオラプトルの胴体に傷を付けていく。
     紅い炎に飛び散る鮮血。
     レーザーライトも赤い色を発しながら灼滅者たちを照らし出す。
    「皆容赦がないね……」
     手加減?何それ美味しいの?と言わんばかりの容赦のなさに呆気にとられた春喜だが、負けていられないと魔導書を開く。
    「私もご一緒します」
     春喜に合わせて静瑠が魔導書を開けばエオラプトルたちはぴょんぴょんと通路を跳ね回る。
    「すばしっこいんだから……逃げちゃダメ!」
     ナノナノとビハインドの攻撃、そしてアイレインのガトリングガンから弾丸が逃げようとするエオラプトルの足を止めれば、春喜と静瑠の禁呪が彼らの体を爆発させた。

     エオラプトル5体が消えたのを確認し、アイレインはステージへと歩み出る。
     黄色のドレスの裾がふわりと揺れて愛らしさをアピールすれば、同じくステージの上を歩いた静瑠はにっこりとほほ笑む。
     何だか本当のモデルになった気分ではあるが、その気分は長くは続かない。
    「来ましたね……」
     ビハインドのアリカと共にスポットライトの下に立って居たいちごが声を上げる。
     その声に振り向けば花柄とラディアント・オーキッドのヘレラサウルスの姿。
     ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくるヘレラサウルスをいちごはびしぃっと指さすと、高らかに宣言した。
    「スポットライトは私たちのものです!」


     スポットライトが今年のトレンド色を纏ったヘレラサウルス2体を捉える。
     体が大きいので光りが当たらない部分もあるがそれには目を瞑ってほしい。
    「恐竜もオシャレすんだな。これってどーやって色付けたんだろ……ペンキ?」
     素直に疑問を口にする治胡だがディノ介からの返答はなく、恐竜に詳しいメンバーは誰一人としていないので答えは不明。
     その間にもゆっくりと迫りくる巨体に、アイレインはガトリングガンの砲口を向ける。
    「いきましょう逢紗。掩護をお願い!」
    「ええ、任されたわ。道は作るからしっかり決めなさい、アイ」
     大きく口を開けた花柄のヘレラサウルスの横顔を異形化した逢紗の腕が殴りつけ、アイレインの放った弾丸が花柄の体に無数の穴を空ける。
     その攻撃にもめげず、花柄と紫色のヘレラサウルスたちはその大きな口を逢紗へと向けるが、それはナノナノやビハインドのハールとアリカが身を挺して彼女を護る。
     その隙に楓は爆炎の魔力を弾丸に込め、
    「炎色に染めて差し上げますわ」
     花柄のヘレラサウルスへ向かい連射した。
     体の中に埋め込まれた弾丸は爆炎を解放し、体の中に炎を残す。
    「先程は爆発してしまいましたが、今度こそ黒一色にしてあげましょう」
    「そうだな」
    「これから毎日恐竜の肉を焼こうぜ?」
     言葉と共にいちごと治胡、そしてブリジットは床を蹴る。
     床との摩擦でエアシューズに炎が灯り、3人の蹴りがそれぞれ胴体、顔、足へと繰り出された。
     ―グゴオォォォ!
     激しい痛みと熱い炎に巻かれ、花柄のヘレラサウルスは黒く焦げ臭い匂いを残し灰と化す。
    「恨みはありませんが……負けるわけにはいきません!」
     紫色のヘレラサウルスへ向かい静瑠は走り、その胸に高速回転させた杭を深々と打ちこんだ。
     杭が引き抜かれた後の傷跡に、春喜の蹴りがさく裂する。
     ふわりとした蹴りはしかし重たく炎を纏い、ヘレラサウルスの体を蝕んでいく。
     ―ガアアァァア!!
     一声吼えたヘレラサウルスが体を大きく回転させれば、灼滅者たちに迫るのは紫色の尻尾。
     固い皮膚に覆われた尻尾はヘレラサウルスの周りに居た灼滅者たちを打ち据える。
     距離を取っていたアイレインと楓、そしてナノナノとビハインドたちが守った逢紗、いちご、ブリジットはなんとか難を逃れたが、治胡、静瑠、春喜の3人は腹部を押さえて激しく咳き込む。
    「……一撃で……これ、ですか……」
     息を整えながら、静瑠は傷の具合を確認していく。
     骨は折れていないようだが、痛みからするとヒビくらいは入っていそうだ。
     それは治胡と春喜も同じようで、2人荒い息を整えきれていない。
    「アイがついてるわ」
    「私の歌で癒しますよー♪」
     その3人の傷をアイレインといちご、そしてナノナノがすかさず癒していくが、この攻撃をそうなんども受けてはいられない。
     二度目の攻撃を受けたサーヴァントたちはもう限界に近い。
     次の攻撃を耐えきることはできないだろう。
    「これで決めるわよ!」
     ブリジットの声に全員が頷いた。
     逢紗が魔導書を開いて禁呪が発動すれば、静瑠は踊りながら攻撃を仕掛け、楓のガトリングガンが再び弾丸を連射する。
     痛みに身を捩るヘレラサウルスに治胡とブリジット、そして春喜の蹴りが炸裂すれば、その体は煙を上げながらゆっくりと燃え尽きて行ったのだった。


    「花柄も紫も綺麗だったけど、アイたちのカラフルの勝ちね♪」
     そう言ってアイレインがポーズを取れば、その横で逢紗が優雅に礼をした。
    「はい、皆さん一色になって……いただけたでしょうか」
     楓が辺りを見渡せば燃えた彼らは黒を通り越して灰に、そしてそれらは時間と共にふわりと消える。
     何も無かったように消えたのは恐竜たちだけではなく。
    「スポットライト、消えちゃいましたね」
     いちごの言う通り、ヘレラサウルスが消えると同時にスポットライトやレーザーライトの照明、そして音楽がぷつんと消えた。
     急な静けさは何となく居心地が悪いが、博物館はこの静けさが普通なのだ。
     スポットライトの消えた中、春喜はそっと虚空へと手を伸ばす。
    「ディノ介君。僕と共に舞台に立ってみる気はないかい?」
     そう問いかけるのは春喜だけではなく。
    「此度の舞台、いかがかしら? 次はディノ介、貴方にも上がってもらえると嬉しいのだけど」
     逢紗の声にも答えはない。
     どこかで聞いているのか、それともすでに次のステージの用意をしているのか。
    「応えを待っているよ――僕の手ならいつでも空いているからね」
     そっと置くのは扇の片割れ。その隣には赤いリボン。
    「アイから記念のプレゼントよ」
    「さて、帰るとしますか」
    「そうだね」
     博物館に静寂が落ちる。
     先程までスポットライトが当たっていた場所で、扇とリボンは無い返事をただただ待つ。

    作者:りん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ