津軽三味線怪人はモテたかったのだ。

    ●闇堕ち
    「くそっ! ギターを弾いてる奴はモテるのに、何で津軽三味線じゃダメなんだよ!?」
     彼は工藤・奏太郎(くどう・そうたろう)と言う高校1年生。去年、父の転勤で青森から東京へと引っ越してきた。現在も、いまいち訛りが取れずにいる。
     軽音部でギターを弾いているイケメンたちがモテモテな一方、津軽三味線を弾く奏太郎はいまいちモテない。と言うか、全然モテない。
    「ギターなんて、津軽三味線より弦の数が多いだけじゃねぇかっ! 6本だからか? 6本だから六本木な感じがしてイケイケな感じなのか!?」
     モテないからか、わけのわかんないことを口走る始末だ。
    「……はぁー……東京の女の子って、津軽三味線を田舎くせぇとか思ってんのかなぁ……」
     自分のルックスだとかヴィジュアルだとか見た目だとかはこれっぽっちも問題にしない奏太郎少年である。
     ちなみに、彼の見た目は「ブサイクじゃないんだけどイケメンには程遠いかなー……」ぐらいの見た目。中の中~中の下くらいだ。
    「……モテてぇなぁ……」
     彼に限らず、高校生の男子なんてこんな感じかもしれない。モテたい。モテモテになりたい。その情熱(?)が、少年を突き動かすのだ。
    「……オレ……何人にフラれたんだっけ…………もう数えるのもやめちまったぜ!」
     涙目になりながら……いや、涙を流しながら、奏太郎が津軽三味線を弾く。しかし、その音色が彼の涙を拭うことはなかった。
    「ちくしょぉぉぉっ! この世から、ギターなんてなくなっちまえばいいんだぁぁぁぁぁぁっっっっ!」
     少年が叫び声を上げたとき、その姿が自分のものではなくなっていた。首から上が津軽三味線の形になっていたのだ。

    ●教室にて
    「皆さん、大変です!」
     灼滅者たちに向かってそう言ったのは、武蔵坂学園ではない高校の制服を着てギターを持ったツインテールの少女──野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)だ。
    「ある男子生徒が、津軽三味線怪人というご当地怪人になりかけています。まだ完全なダークネスとなったわけではないので、もしかしたら、ダークネス化を阻止できるかもしれません!」
     彼はまだ人間としての意識を保っている。しかし、放っておくとダークネスと化してしまうだろう。
    「その人──工藤奏太郎さんに灼滅者としての資質があるなら、闇堕ちから救って欲しいのです。奏太郎さんを説得できれば、救えるかもしれません。ですが……ですが、完全にダークネスとなってしまうようなら……ダークネスとなる前に、灼滅してください」
     救出するにしろ灼滅するにしろ、戦闘は必須となる。奏太郎を救うためには、奏太郎をKOしなくてはならないのである。
     奏太郎に灼滅者としての資質があったなら、ダークネスの部分だけを灼滅することで彼を救うことができるのだ。
    「奏太郎さんは、ここにある商店街に白昼堂々と現れます」
     そう言って、迷宵が黒板に張られた地図を示した。戦場となるのは都内にある商店街だ。
    「商店街には楽器屋さんがあるのですが、奏太郎さんはそのお店にあるギターを破壊するつもりです」
     つまり、その店の近くで待っていれば、奏太郎の方からやって来るというわけだ。
     さびれた商店街なので人通りは少ないが、店員・客・通行人などを戦闘に巻き込まないように注意が必要だ。
    「奏太郎さんはモテたいようですが……現在のところ、モテる気配がないようです。軽音部のイケメンさんがモテているせいか、ギターに恨みがあるようです」
     ギターへの恨みを晴らすため、また、津軽三味線の地位向上のため、彼はギターの破壊を試みる。ギターがなくなれば津軽三味線がちやほやされるはず……という考えなのだろう。
    「津軽三味線や津軽三味線を弾く人のことを褒めれば、奏太郎さんの心を動かすことができるかもしれませんね」
     奏太郎はモテたいのである。自分はモテるんだという自信を身に付ければ……彼は、津軽三味線怪人から灼滅者へと生まれ変われるだろう。
     なお、津軽三味線を弾くことは彼のアイデンティティーである。「モテたいなら、津軽三味線じゃなくてギターを弾けばいいんじゃない?」と言ってしまうと、ダークネス化を促進しかねない。
    「奏太郎さんはご当地怪人としての力だけでなく、バイオレンスな津軽三味線でも攻撃してきます」
     バイオレンス津軽三味線は、バイオレンスギターの津軽三味線バージョンだ。そのまんまである。ちなみに、攻撃に使うのは自分の顔ではない。
    「説得して救出するか、ダークネスになる前に灼滅するかは、実際に戦う皆さんにお任せします。それでは、準備をお願いします」


    参加者
    朝山・千巻(スイソウ・d00396)
    紀伊野・壱里(風軌・d02556)
    三日尻・ローランド(尻・d04391)
    東堂・イヅル(デッドリーウォーカー・d05675)
    津軽・林檎(は寒さに強い・d10880)
    石見・鈴莉(逢魔の炎・d18988)
    ロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・d24010)
    アガーテ・ゼット(光合成・d26080)

    ■リプレイ

    ●津軽三味線怪人、現る!
     さびれたこの商店街に、闇堕ちした少年──工藤・奏太郎がやって来るはずだ。彼を救出するために、灼滅者たちが集結している。
    「同郷の方を見捨てるわけには参りません! 絶対に工藤さんを救い出してみせますっ!」
     津軽・林檎(は寒さに強い・d10880)は青森のご当地ヒーローだ。奏太郎とは同郷なのである。
    「赤裸々な欲望と伝統芸能への純粋な愛の道を歩む奏太郎くんを、なんとしてもお助けしたいねえ」
     そう言ったのは三日尻・ローランド(尻・d04391)だ。彼の隣では、ナノナノのえくすかりばーもやる気に満ちた表情をしている。
     灼滅者たちの目的は奏太郎の救出だ。その決意を新たにしたところで、津軽三味線の音色が聞こえてきた。
    「この世から、ギターなんてなくなっちまえぇぇぇっっっ!」
     津軽三味線の音だけでなく、泣き叫ぶような声も聞こえる。その声の主の顔は津軽三味線の形をしていた。間違いない。津軽三味線怪人と化した奏太郎だ。
    「ギターを壊して壊して壊しまくって、このオレがモテモテになるんだぁぁぁっっっ!」
     奏太郎がこの商店街に来たのは、ギターを破壊するためだ。彼がギターを破壊しようとするのは、ギターを弾いてる軽音部のイケメンがモテているからである。そりゃまぁ、イケメンならモテるだろう。
    「……高校生男子って大変なんだね」
     かわいそうなものを見る目で言ったのは、中2女子の石見・鈴莉(逢魔の炎・d18988)だった。ちなみに、ここにいる男性陣も高校生ばかりである。
    「私も人並みにモテたいのに、ロシアにいた頃は女性には見向きもされず悲しい思いを……いやいや」
     ライオン獣人姿のロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・d24010)が言った。顔立ちが女性的だからか、男性にはモテモテだったようだが。
    「なんか、野球やってる子がモテなくて、サッカーやってる子がきゃーきゃー言われてるのを横目で見ているのと同じような感じだな……。覚えがあるような……。売り物のギターを壊されちゃ店主もたまらないだろうし、弦楽器は高価だから、死守しないとな」
     とは球技観戦を趣味とするバイト戦士な紀伊野・壱里(風軌・d02556)の弁である。
    「人払いはお任せするね」
     朝山・千巻(スイソウ・d00396)がそう言うと、東堂・イヅル(デッドリーウォーカー・d05675)とアガーテ・ゼット(光合成・d26080)がうなずいた。
    「楽器屋に近付かれる前に接触だな」
    「そうね。一般人を巻き込みたくないわ」
     イヅルはサウンドシャッターを、アガーテは殺界形成を使用した。これで一般人を巻き込まずに済む。

    ●津軽三味線怪人、叫ぶ!
     津軽三味線を弾きながら、津軽三味線怪人が目的の店へと向かっていた。そのとき、彼の目の前に灼滅者たちが立ちはだかった。
    「……何だお前ら……え? ライオン?」
     ロジオンを見て、津軽三味線怪人が驚く。
    「……東京さ来てからカルチャーショックの連続だばって……まさか、ライオン人間がいるとは……!」
     顔が津軽三味線になっている奴が何を……という感じだが、普通はライオン人間が街中を歩いたりはしていない。埼玉にあるドームに行けば会えるだろうが。
    「東京……なんて恐ろしい街なんだ……! ポテトサラダさソースかけねぇし、おでんさ生姜味噌かけねぇし、電車はちょっとの雪で動けなくなるし!」
     奏太郎の言葉に林檎がうなずいている。
     青森ではポテトサラダにソースは当たり前。おでんに生姜味噌は王道。積雪数センチで電車が動かないとか考えられない。
    「つーか、東京って暑い!」
     この言葉には、林檎だけでなくロジオンもうなずいた。
    「まだまだ暑いですねぇ」
    「日本の夏は、蒸し暑うございます……」
     青森では最高気温が35度に達することなんて滅多にない。ロシアでも30度を超えることはあるようだが、日本よりは過ごしやすいのだろう。
    「しかも……しかも! 東京にはGがいるっ!!!」
     その言葉に、女性陣の顔が青ざめていく。
     青森では黒いアレはほとんど目撃されないのだ。奏太郎も東京に来るまで見たことがなかった。どうやら、奴に耐性がないのは青森県民だけではないようだが。
    「くそっ! 東京に来てからイヤなことばっかりだ! フラれるしフラれるしフラれるしGは出るしフラれるし……ぐすっ……フラれるしっっ!!!」
     ……どんだけフラれてるんだ、お前は。
    「オレは! オレがモテモテになるために! 世界中のギターを破壊して破壊して破壊し尽くしてやるんだぁぁぁっっっっ!」
     めちゃくちゃな演奏をしつつ、奏太郎が叫び声を上げた。
    「津軽三味線だって、かっこいいと思うんだけどね」
     鈴莉が携帯型音楽プレイヤーを操作すると、そこから津軽三味線の音が流れてくる。しかし、津軽三味線怪人のギターへの恨みは晴らせなかったようだ。
    「そこをどけ! 邪魔をするつもりなら……容赦はしねぇぞ!」
    「津軽三味線、俺はいいと思うぞ。だから落ち着け」
     壱里が言うが、津軽三味線怪人が落ち着く気配はない。どうやら、戦わなくてはダメなようだ。
    「Almaz rezhet almaz」
     ロジオンがスレイヤーカードの封印を解除した。
     奏太郎を救うための戦いが始まる──。

    ●津軽三味線怪人、戦う!
    「モテたいという爆発する青春のリビドーはとてもよく解るよ。ボクも毎日、この可愛いえくすかりばーに熱い情熱を滾らせているからね! だけど、妄想したり願ったりするだけじゃ難しいみたいだよ」
    「ナノ!」
    「キミには津軽三味線男子というカッコイイ武器があるじゃあないか! 一芸に打ち込む姿は男女関係なく美しく、人を魅了するものだからねえ」
     ローランドがエネルギーシールドを展開。その輝きが自身のみならず仲間をも包んだ。えくすかりばーは竜巻を発生させ、津軽三味線怪人を攻撃する。
    「何を言うかと思えば、津軽三味線を弾いても女の子にはモテねぇんだよ!」
    「母に連れられてコンサートを聴きに行ったことはあるが、俺は触れたこともないんで、津軽三味線を弾けるのは素直に凄いと思うし尊敬するけどな。それにせっかくの縁、弾き方を教えてほしいぐらいだ」
     盾を構え、イヅルが津軽三味線怪人に突っ込んでいく。体ごとぶつかるように、盾で殴りつけた。
    「ちっ! ギターを破壊する前に、まずはお前たちをブッ倒してやるっ! くらえっ!」
     津軽三味線怪人がバイオレンス津軽三味線を掻き鳴らす。激しい演奏でロジオンを攻撃。
    「く……! 空ろなる雲、浮かべや浮かべ!」
     ロジオンが夜霧を展開。これにより、体力を回復する。
    「いいじゃないですか、津軽三味線! 素敵ですっ! 津軽三味線を弾く工藤さんは、凄く格好良いと思います! 工藤さんの良さをわかってくれる人がきっといるはず。心の闇に負けないで、どうか自分を信じて下さい!」
     林檎が光の輪をロジオンへと飛ばし、その傷を癒していく。
    「オレの良さ? そんなもの、誰もわかってくれなかったさ! だからオレはフラれたんだっ! なしてギター弾いてら奴ばしモテるんず!? オレもモテてぇのに!」
    「津軽三味線使うミュージシャンで人気出てる人もいるんだし、多分、楽器の問題じゃあないと思うんだ。誰にも引けをとらない技術を持ってる? ルックス少しは気にしてる? 自分に辛くあたる他人にも優しくするようにしてる? そういうところからやってみなよ。あたし達が見ててあげるから!」
     雷を拳に宿し、鈴莉が津軽三味線怪人に叩き込んだ。
    「楽器の問題じゃない……? それだばなして、ギター弾いてら奴がモテるのにオレがモテねんず!? オレだってイケメンなのに!」
     ※個人の感想です。実際には中の中~中の下くらいです。
    「楽器は習いが無いのであまり詳しくはないが……ギターならモテるものなのか? 自分がやってる事に誇りを持てず、楽器が悪いとかギター持ってるからモテる奴が憎いとかは、本末転倒な気がするぞ」
    「そうね。自分自身と津軽三味線に誇りと自信を持つべきよ。津軽三味線とギターは志向してる音楽が基本的に違うんだし、比べるものではないというか、目の敵にする相手ではないと思うわ。津軽三味線は、津軽ならではの厳しい感じや激しい感じが凄く格好良いわ。独自の魅力を主張できる文化って素敵ね」
     破邪の聖剣を手に、壱里が肉迫。その剣を非物質化し、津軽三味線怪人を斬った。一方のアガーテは敵の死角へと回り込み、斬撃を放った。
    「オレがギターを憎むのは間違いだと……!? オレがモテないのは……」
    「キミがモテないのは、津軽三味線のせいじゃない!」
     炎を纏った千巻の蹴りが、津軽三味線怪人を襲う。
    「モテないのを津軽三味線のせいにし、他の物を逆恨みする、その根性がいけないのだ!」
    「そんな……! オレがモテなかったのは、津軽三味線のせいじゃない……?」
     津軽三味線怪人が動揺する。自分がしようとしていることが正しいのか、悩んでいる。
     ギターがあるから悪い。ギターのせいで津軽三味線がちやほやされない。そんな風に思っていた彼は、自分がモテない原因を自分以外のもの──津軽三味線に押し付けていた。
     しかし、津軽三味線のせいでないとすると──自分が悪いのだとすると、どうすればいいと言うのだ。
     鈴莉が言ったように、演奏テクニックを身に付ければいいのか? ルックスに気を遣い、他人に優しくすればいいのか?
    「……違う。オレがするべきは、ギターを破壊することだ……!」
     津軽三味線怪人は、迷いながらもそう言った。
     津軽三味線怪人の心は──奏太郎の魂は、まだ闇に囚われている。

    ●工藤奏太郎、救われる。
    「奏太郎くん、不特定多数にモテモテというのもなかなかムラムラするものだけれど、たった1人の愛する人に全生命力をかけるというのも幸せなものさっ!」
     ローランドが手にした聖剣が、白き破邪の光を放っている。その斬撃が、津軽三味線怪人を襲った。呼吸を合わせるように、えくすかりばーはしゃぼん玉で攻撃。
    「ボクはえくすかりばーの為に頭より尻が高いまま移動するアビリティを体得したり、格闘技マニアのえくすかりばーの為、どんな体位にも耐えられる気持ち悪い程にやわらかい身体を手に入れたよ! 解るかい? これが愛だ!」
    「……愛……? 愛だと……!?」
    「津軽三味線には津軽三味線なりの良さがあるはずだ。ギターにはない津軽三味線だけの良さが」
     ローラーダッシュの摩擦が炎を生む。イヅルの蹴りが炎を帯びて、津軽三味線怪人を焼いていく。
    「……津軽三味線の良さ……? ギターにはない良さ……?」
    「津軽三味線の音色は、ギターにはない趣と味わいがあるものでございます。それを十分に引き出すには、ただ弾くだけではいけない。あなたが楽器に見合う人間になるのです!」
    「オレが……津軽三味線に見合う人間になる……?」
    「刃に奔る鮮血、刻めや刻め!」
     津軽三味線怪人の弱点を見極め、ロジオンが正確な斬撃を放った。
    「特に何もしないでモテる人だって実際いるけど、普通は、何かを成したいならその為のベストを尽くさないと。あなた自身とあなたの津軽三味線が持っている魅力をきちんと引き出してあげて、それを磨き上げて行く事が1番重要だと思うわ」
     アガーテが槍を構える。槍の妖気を冷気へと変換。津軽三味線怪人に向けて、氷柱を撃ち出す。
    「わからない……わからないわからない! わからないっ! オレは……どうすればいいんだ……!?」
    「恋をしたら、頑張れるよ。きっと」
    「え……?」
     昔を懐かしむように、鈴莉が言った。
     彼女が思い出すのは灼滅者になる前の自分。幼馴染に不器用ではあるがアプローチをしていた自分だ。鈴莉は好かれたいと思っていた。当然だろう。恋をしていたのだから。
     当時の彼女は気付いていなかった。自分が恋をしていたことを。その恋心に気付いたのは最近のことだ。本当に最近のことだ。
    「だから、勇気を出して!」
     エアシューズのIcarusに炎を纏わせ、鈴莉が津軽三味線怪人を蹴り飛ばす。
    「……何をすればいいんだ……? オレは、どうすればよかったんだ……?」
    「思い出すんだ!」
     螺旋状の回転を加えながら、壱里が槍を突き出す。
    「奏太郎君位の年齢で三味線の嗜みがあるのは珍しいと思うんだが、奏太郎君はどんなつもりで今までやってきたんだろう? 好きだから続けてたんじゃないのかな?」
    「そうだ……オレがギターじゃなくて津軽三味線を弾いていたのは、津軽三味線を好きだったから……」
    「喰らえ! 愛の鉄拳!!」
     無数の拳が津軽三味線怪人を打つ。千巻の攻撃だ。
    「好きなものに自信持ってる人は、それだけでカッコイイよっ。人を気にして好きなものにコンプレックス押し付けるのなんて、すっごいカッコ悪い! 郷土の伝統芸能を守ってるのって、イケてるって正直に思うよぉ。だから今度、キミの演奏聞かせてね!」
    「俺も聴きたいな。工藤さんが立ち直ってくれたその時には、是非とも演奏を聴かせてほしいものだ」
     千巻とイヅルに言われ、津軽三味線怪人は自身が手にした津軽三味線を見る。禍々しく変貌したそれは、演奏するためのものではない。
    「どうしてオレは……こんなものを持っているんだ……? オレは……オレは……! うあああぁぁぁっ! オレは! オレは! ギターを破壊する! そのためにここに来たんだぁぁぁっ! 邪魔をするなぁぁぁっっっっ!!!」
    「させませんっ!」
     そう言ったのは林檎だ。津軽三味線怪人を──奏太郎を止めなくてはいけない。彼を救わなくてはいけない。
    「そんなことしても……そったらこどしでも、もでるようにだっきゃなんねぇど!」
     熱が入ったのか、津軽弁が出てしまった。それは、奏太郎が聞き慣れた言葉だ。
    「……んだばって……オレは……オレは……どうせばいいんずや……?」
    「──大丈夫だはんで」
    「え……?」
    「津軽三味線も、津軽三味線ば弾く工藤さんも、どっちも素敵だはんで。自信持って大丈夫だはんで。心の闇さ負けねぇで、自分ば信じてけぇ!」
    「……信……じる…………!」
    「おらは愛の戦士ピュア・アップル! ぜってぇに、工藤さんば救い出してみせらっ!」
     林檎が魔法の矢を放つ。
     その矢は津軽三味線怪人を射抜き、津軽三味線怪人は姿を消した。そこにいるのは、何の変哲もない、津軽三味線が好きな少年だ。
     ──こうして、津軽三味線怪人へと化した少年は救われた。それは、新たな灼滅者の誕生を意味する。
    「一緒に行くべ」
     倒れている少年に、林檎が手を差し出す。
    「どこさ?」
    「武蔵坂学園さ」
     少女の優しい手を、奏太郎がしっかりと掴んだ。

    作者:Kirariha 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ