夏だ! 花火だ! ピンクハートちゃんだ!!

    作者:悠久

     夏! 海! めいっぱい遊んだ日の……夜!!
     すっかり暗くなった海岸に集まるのは、男女混合、10人ほどのグループだった。1泊2日で海水浴に来ている大学生である。
     砂浜に水の入ったバケツをいくつも用意して、心地よい気怠さを感じながら、買ってきた花火に火を付ける。
     途端、いくつもの光の洪水があたりに生まれて。
     はしゃぐ声。ねずみ花火に逃げ惑うビーチサンダルの女性。打ち上げ花火に照らされる彼らの表情は、夏を思いっきり満喫しているそれだった。
     派手な花火に疲れたら、しっとりと静かに線香花火。
     暗がりに屈み込んで、垂れた火花を見つめるうちに、気になる彼と――彼女と距離が近付いていく。
     高鳴る胸の鼓動は、本当? それとも気のせい?
     気付けば花火の先はぽとりと落ちて、視線はお互いに吸い寄せられていく。
     指先が絡まり、唇と唇が近付いて――やがて、2つの人影が、1つに合わさった。

     不意にあちこちで始まった大人の雰囲気。妖しく響く嬌声。
     それぞれの大学生の背後では、いつの間にか現れたピンクハートちゃんが、にょろにょろとその触手を伸ばしていた。


    「いやー、夏だねえ」
     予測された光景をひととおり説明し終えると、宮乃・戒(高校生エクスブレイン・dn0178)は感情の窺えない微笑と共にそう一言。
     夏と言えば海、海と言えば水着、水着と言えば女の子で、女の子と言えば男の子……と言い切るのも乱暴だが、要するに不純異性交遊が起こってもおかしくない場に、強制的に不純異性交遊を起こしてしまう眷属が現れるのだった。
     ピンクハートちゃん。持ち前のピンクの触手で、相手をエッチな気分にさせてしまう、淫魔の眷属である。
    「出現場所は夜10時頃の砂浜。周囲には男女合わせて10人の大学生がいて、花火をしてる真っ最中……だったんだけど、君達が駆け付ける頃にはもう、すっかり妖しい雰囲気が醸し出されているみたいなんだよね」
     ピンクハートちゃんはエッチな気分にさせた一般人から生命力を吸い取り、最後にはその命を奪ってしまう。
     すぐに命の危険があるわけではないものの、それを防ぐためには、ピンクハートちゃん達と交戦しつつ、一般人の男女を引き離したり、眠らせたりしてエッチな気分から解放する必要があるだろう。
    「たぶん、放っておいたらどんどん盛り上がって、眷属にガンガン生気を吸い取られちゃうと思うんだ。色々と目の毒だとは思うけど……そのへんの対処も、よろしくお願いするね」
     ちなみに、事件発生時、現場の周囲に被害に遭う大学生以外の一般人は存在しないようだ。とはいえ、妖しい光景が広がる都合上、人払いをしておいた方が色々と気が楽かもしれない。
     ピンクハートちゃんは全部で6体出現する。5組の大学生それぞれに触手を伸ばしている個体の他、人間で言えば頭の部分に麦わら帽子を被った個体が1体。これが他の5体よりもひと回り大きな体格で、強い力を持つそうだ。群れのボスといったところだろうか。
     使用サイキックはサウンドソルジャーに似たものの他、ブレイク効果を持つ体当たりを仕掛けてくる。
     ポジションは3体がクラッシャー、2体がディフェンダー。ボスがスナイパーに位置する。強さは、6体合わせて灼滅者8人とほぼ互角。
    「色々と目の毒というか、いかがわしい光景が広がっているかもしれないけれど……くれぐれも油断せず、気を付けて向かって欲しい。大丈夫、僕は君達の活躍に期待しているよ」
     それに、と戒はにっこり笑って。
    「見えたらいけない部分は、きっと触手が隠してくれるから」


    参加者
    天鈴・ウルスラ(踊る朔月・d00165)
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)
    瑠璃垣・恢(キラーチューン・d03192)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)
    カリーナ・ランドルフ(パラサイトナース・d17268)
    天草・水面(神魔調伏・d19614)
    湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)

    ■リプレイ


     日の高いうちは海水浴客で賑わう海岸と言えど、夜の10時ともなればひっそりと静まり返る。
     駆け付けた灼滅者達は、響き渡る波の音に紛れ、妖しげな声が聞こえることに気付き、それぞれの表情を強張らせた。
     砂浜を照らす月と星。人の姿は影のようにうずくまる。けれど、どこか淫靡に蠢くシルエットは、妙な想像を掻き立てるには十分で――。
    「おどりゃひと夏の思い出ぇェェ!」
     駆けるその足を止めることなく、天鈴・ウルスラ(踊る朔月・d00165)は素早くロケット花火を勢いよく打ち上げた。
     途端、映し出されたのは密着した5組の男女と、触手を伸ばすピンクハートちゃん5体。奥には麦わら帽子を被ったボスの姿もある。
    「破廉恥ダメ、絶対! でゴザルよ!!」
     肝心な部分はピンクハートちゃんの触手が絶妙に隠しているものの、ウルスラの頬はほんのり染まる。だが、被害者の大学生達はなおも狂乱を繰り広げ、駆け付けた灼滅者達には目もくれない。
    「こんな時間まで外に居るからこうなるのだ」
     嘆かわしい、とニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)は人払いの殺界形成。こんな状況に無関係の一般人を巻き込むのは避けたい。
    「泊まりでも夜も9時には宿に戻れ、後は好きにしろ。……違うか」
     確かに夜の10時は花火をするには遅い気がする。ぶっちゃけ観光地であっても近所迷惑だ。
    「いかがわしい真似をするリア充など、阻止! 断固阻止するぞおらー!」
     どこか鬼気迫った様子のワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)が放つのは、荒ぶる心とは正反対の魂鎮めの風。途端、被害者達が次々と眠りに落ちていく。
     被害者達が眠ることで、ピンクハートちゃん達は生命力を吸い取ることが不可能となる。
     だが、意識を失った被害者達を揺り起そうと、敵はなおも触手を伸ばそうと企んだ。
    「そこ! 強制不純異性交遊は、めっ!」
     それを阻止すべく、今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)は人差し指の指輪に口付け、魔力の弾丸を生み出した。敵を跳ね飛ばし、離れた場所へと制約する。
    「……というか、不純異性交遊って、どんなのは不純なの?」
     きょとんとした表情で首を傾げる。男女がぴったりくっついている状態こそ理解したが、あちこち触手に隠されていたため、肝心な『不純』の意味がよく分からない。
    「引き離せば純潔になるの?」
    「さあ、それはどうでしょうか?」
     戦場の音声を遮断したカリーナ・ランドルフ(パラサイトナース・d17268)は微笑を浮かべ、エアシューズで敵を牽制するように移動。
    「男女2人きりならまだしも、10人も怪しい雰囲気なのはいけませんわね。男女交際はちゃんとした意識のもとで、しっかりするものですわ」
     セクシーな外見だが、その発言は至極真っ当だ。
     一方、天草・水面(神魔調伏・d19614)はビハインドのペケ太の股間からしゅっしゅっと白い何か……もといティッシュペーパーを取り出している。エッチな場面に出くわすと止めどなく鼻血を流してしまう体質なのだ。
    「だが、目の前でどんな痴態が繰り広げられようとも、鼻血を拭く紙さえありゃあ怖くない。クックック……今日のオラは一味違うぜ!」
     と、水面は力いっぱいフォースブレイク。敵を被害者から離すように吹き飛ばすと、抑え切れなかった鼻血が海岸に散る。
     視界を確保すべく、持参した照明で海岸を照らし出した湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)は。
    「……割り込みづらいです……」
     眠った被害者達と触手が複雑に絡み合った光景を認め、赤面。明かりを点けたことを少しだけ後悔した。だが、視界の確保は必要だし、何より被害者達を放っておくわけにもいかない。
    「……あなたのお相手は私達ですよ、眷属さん」
     足元から伸びた影が敵を食らう。トラウマに敵が怯んだ隙を突き、ひかるは被害者達を敵から遠ざけた。
     ピンクハートちゃん達を順調に引き剥がし、追い立てていく灼滅者達。
     その最中、瑠璃垣・恢(キラーチューン・d03192)は安らかな表情で眠る1組の男女へと視線を向けた。
    「起きてもその恋は、まだ燃えているんだろうか」
     刹那の情動か、それともふとしたきっかけで浮かび上がった真実か。
     どちらであっても――恢には理解できない感覚だから。
    「ミュージック、スタートだ」
     静かに告げ、戦場を駆ける。敵を撃ち抜く閃光百裂拳。
     人の恋路を食い物にするならば、馬に蹴られて落ちた先よりも怖い地獄を見せるまでだ。


     大学生達の生命力を奪うことを諦め、ピンクハートちゃん達は灼滅者達へと殺到した。
     刹那、その歩みを留めるように構築される除霊結界。縛霊手「鉄拳制裁」を構え、ニコは呆れたように息を吐いた。視界の端、遠く映る肌色成分多めの光景。ピンクの触手は離れてなお、それらを完全にガードしているのだ。
     だが、隠されていた方が想像が膨らむことも世の中には存在する。事実、水面の鼻血は止まる様子もなく、断罪転輪斬を放てば敵ごと赤い飛沫が飛び散っていく。
    「しかし、オラにはペケ太の股間があるっス!」
     と、敵へ顔を晒すビハインドからティッシュを引き出す水面。色々と酷い光景である。薄い本や深夜アニメのシチュエーションのようだ。
    「だが、良い子の諸君には残念だが、先程から良い仕事をしているこの触手がBD版で削除される訳ではない」
     とは、ニコの言。無表情のため、本気か冗談かの判別が難しい。
     一方、ピンクハートちゃんは心臓の形をした体全体を振るわせるように次々と前衛へ体を躍らせた。
     だが、ウルスラは素早くシールドを広げ、仲間達を庇った。位置取りは常に被害者と敵を断つかの如く。伸びる触手を強引に払い除け、不敵に笑う。
    「拙者達と出会ったのが運の尽き、不埒な輩は逃さず灼滅デース!」
    「あと、その触手はちょっと邪魔なのよ」
     間髪入れずに紅葉が生み出す煌めく十字架。光に焼かれ、苦しむ敵の触手がぐにゃぐにゃと絡まっていく。ディーヴァズメロディを放つも、その威力は確実に弱められて。
     攻撃後の隙を突くように肉薄するのは恢。誘い、隙を織り交ぜ、確実な瞬間を見計らって繰り出す螺穿槍が、敵の体を回転させつつ大きく吹き飛ばす。
    「叩き潰してやるよ」
    「さあ、大人しく我らの前に膝を突くがよい……どこが膝なのかは知ったことではないがな!」
     どこか愉快気に笑いつつ、ワルゼーは力いっぱいVuscuray-Ⅱ【双子の暴君】を振り抜いた。内側から爆発する魔力が周囲に敵の血肉を撒き散らす。
     だが、ピンクハートちゃんのエンジェリックボイスが、吹き飛んだ仲間へ集中的に響き渡る。ドクン、ドクンと唱和する心臓の音を遮るように、カリーナが縛霊手を突き出した。刹那、構成される除霊結界が、敵の動きをはっきりと鈍らせる。
    「少し大人しくしていて下さいまし、眷属さん?」
     だが、結界を掻い潜った1体がカリーナへと迫り、豪快な体当たりを繰り出した。彼女のビハインドが咄嗟にそれを庇う。
    「お婆様!」
    「一気に回復します……っ」
     即座に西洋剣を掲げるひかる。風に変換された祝福の言葉が、ビハインドをはじめとした前衛の仲間達をまとめて癒す。傍ら、ナノナノはそれを補うようにふわふわハート。言葉を交わすことなく的確な回復を行う。
    「お次はこちらから行きマース!」
     傷を癒したウルスラは踊るようにまとめて敵を攻撃。情熱のステップが、ダメージと共にウルスラ自身の能力をも高めていく。
     間髪入れず深々と敵を抉るのは、ワルゼーの閃光百裂拳。立て続けに放たれた水面の拳が、やがて敵の1体を地へと沈めた。
    「さあ、次はどいつが我が元に跪くのだ!?」
    「オラ達の実力、その心臓にしっかり刻み込むっスよ!」
     ――灼滅者達の攻勢は、なおも続く。


     灼滅者達の的確な攻勢により、ピンクハートちゃんはクラッシャーの2体とボスを残すのみとなっていた。
     中衛目掛け繰り出されるパッショネイトダンスは、しかし水面のビハインドがすかさず受け止め。間髪入れず、ニコは敵の隙を突くように広い袖の内側から無数の手裏剣を放った。
    「事前に聞かされてはいたが全く以て目の毒だ」
     毒を持って毒を制すとばかりに、手裏剣に塗られた毒は確実に敵の体を蝕む。やがて、敵の1体が体をどす黒く染めて地へと伏した。
    「……ほら見ろ、皆もそう言っている」
     とはいえ、ニコの表情に変化はなく。言葉と共に彼の横を通過したのは、紅葉の放ったデッドブラスター。黒き想念は、前衛最後の1体を毒と共に撃ち抜いた。
     残るは後衛に陣取るボスのみ。人間で言うところの頭部に乗せられた麦わら帽子に、紅葉は興味津々だ。
    「麦わら帽子、可愛いね。誰かから貰ったのかしら?」
     夏の盛りを思わせるその姿はどこか微笑ましく、紅葉の口元には微かな笑みが浮かぶ。
     だが、気を抜くわけにはいかない。ファンシーな姿をしていても相手は眷属、おまけに群れのボスだ。
    「たかが眷属の分際で我が前に立ち塞がるとは、よい度胸だ!」
     妖の槍を携え、ワルゼーは好戦的に戦場を駆ける。同時に、眼前のボスも彼女目掛けて突進し――交錯。互いの攻撃が相殺される。
     小さく舌打ちして背後を振り仰げば、間髪入れずエアシューズで飛び出したカリーナの姿があった。ワルゼーと入れ替わるように、摩擦熱で炎を生み出す蹴りがボスの体に掠る。闇の中、ぱっと灯る炎。
    「さあ、心も体も燃え上がって下さいませ」
     妖艶に笑むカリーナ。同時に、ビハインドの霊撃が敵を吹き飛ばした。
     追撃すべく走り出す水面。被害者達の痴態が遠ざかったおかげでひとまず鼻血は止まっている。ならばこそ、今が好機!
    「一気に決めるっスよ、ペケ太!」
     強烈な一撃がボスの体を内側から爆発させ、ビハインドの霊障波が触手を切り刻む。
     だが、ボスは未だ倒れる様子は見せず。その体から発せられる旋律が、後衛、ひかるへと狙いを定めた。――避けられない!
     だが、息を詰めるひかるの前へ、シールドを展開させたウルスラが飛び出して。
     付与された催眠に、彼女の体がぐらりと揺れる。しかし、瞳に宿る戦意は消えない。
     人の心を好き勝手に操り、よこしまな行いから命を奪う眷属。サウンドソルジャーのルーツを持つ者として、その存在、その行いを許すわけにはいかない。
    「恋というのはもっとこう……ワクドキしながら自然に生まれるもので。無理やり蹴り込むのは違うデース!」
     傷の痛みを物ともせず、即座に敵へ肉薄するウルスラ。Under Footで放つ素早い蹴りが、敵の纏う炎を一層強めた。
     負傷のためか、敵の体勢が大きく崩れる。
     訪れた好機。ひかるは即座に想念の弾丸で敵を深々と貫いた。ウルスラの負傷はナノナノがハートを飛ばして対応する。
     戦場に立つのは未だに慣れない。それでも戦うのは、かつて自分を助けてくれた『あの人』をがっかりさせたくないから――期待に応えたいから。
     胸の奥、抱くのはとても大切な想い。ウルスラの言葉にもあったように、それは自然に生まれるべきものだ。気持ちを操り、形だけを模倣し、あまつさえ人の命を奪うなど。
    「……ここで、止めます」
    「そろそろさよならよ、ピンクハートちゃん」
     ごめんね、と静かに告げる紅葉。放たれた裁きの光線は深々と敵を撃ち抜き、大きく傾ぐボスの頭から麦わら帽子がぽとりと落ちる。
     自らの傷を癒そうと天使の音色を響かせるも、時すでに遅し。
    「終わりだ」
     音も無く滑り込んだ恢が、激しい炎を纏った蹴りを叩き込む。
     ピンクハートちゃんの全身が炎に包まれ、その心臓は激しく脈を打ち――やがて、ぴたりと全ての動きを止め、地面へと倒れ込む。
     訪れた静寂に、恢は感情の読めない無表情で夜空を見上げた。


    「……まったく、酷い敵だったでゴザルな」
     ピンクハートちゃんの灼滅を確認し、ウルスラは肩を竦めた。と、不意に背後を仰ぎ、疲れた顔でため息ひとつ。
     砂浜、少し離れた場所には、あられもない恰好の被害者達が眠っている。
    「うん、全員無事みたいなのよ」
     戦闘の痕跡を片付け、紅葉は被害者達の様子を確認した。少々不健全な光景はすかさずウルスラとニコが目隠しする。
     だが、これからどうしたものかと、ニコは無表情で腕組み。
    「……そっとしておくのが上策か?」
     なにせ相手は大学生10人。下手な説明を行うより、放っておいた方が丸く収まる気がする。
     とはいえ、ピンクハートちゃんの触手も消滅した今、彼らは完全に目の毒だ。事実、水面は鼻血を再び噴出させて。
    「だ、だがしかし、オラにはペケ太のティッシュが……って、うわあああ! もう無い!」
     だばだばと砂浜に広がる赤い血の海。仲間達はそれぞれポケットティッシュをそっと差し出し、ひかるは近くに落ちていた衣服で被害者達の素肌を隠す。
     騒ぎに目を覚ました彼らへ、ワルゼーは高圧的に言い放った。
    「まず離れろ、服を着替えなおせ、そして速やかに解散せよ!」
     最初こそ驚いていた被害者達だったが、すぐに色々と思い出したのだろう。ワルゼーの言葉に従い、そそくさとその場を後にする。
    「なんだ、つまらん。せっかく夜空に輝く打ち上げ花火にしてやろうと思ったのに」
     一方、恢は静けさを取り戻した砂浜を眺めながら。
    「……恋って、どんな感覚なんだろうな」
     呟きに、カリーナは唇を僅かに吊り上げ。
    「さあ。愛人なら男女共にいつでも募集中なのですけれど」
    「……私には、手の届かないものです」
     ひかるが呟く。憧れている人はいる。けれど、気持ちを伝えられるか、と言えば。
    (「おかしいな。あの人に、私の可能性を狭めてるのは私自身って教わったのに……」)
     そのまま黙り込んだひかるへ、恢は静かに肩を竦めた。
     と、大学生達が残していった花火を、ようやく鼻血の止まった水面が見つけて。
    「せっかくだから皆で花火でもどうっスか?」

     潮騒だけが響く中、ぱちぱちと火花散り、夜が更けていく。
     麦わら帽子はいつの間にか波にさらわれて、紅葉が見守る中、遠くへと流されていった。

    作者:悠久 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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