常世様

    作者:四季乃

    ●Accident
    「常世様はね、子供がお好きなの」
     それは、欲しくて欲しくてたまらなかった子供を自分で産む事が叶わなかったがゆえなのだと、伯母は言った。語り部と化した伯母はふかふかな座布団の上で瞼を閉じたまま正座をし、揺れる蝋燭の明かりを受けて幽鬼のような佇まいで言葉を続けた。
    「子供が欲しい。子供が欲しい。熱に浮かされたように、それこそ狂ったような熱意を持って、常世様はこの世を彷徨っている。人にはね、そういった目には見えない狂気が渦巻いているんだよ」
     すぅと睫毛を持ち上げた伯母が、枕を並べて川の字になって布団にもぐりこむ自分達と視線を重ね合わせる。
    「だから、遊び半分で裏山の廃校に忍び込んだりしたら駄目だよ。あそこは常世様のお気に入りだからね」
     夏休みも終わりを目前に控えた夜。ひと夏の思い出に肝試しでもやろうかと話していたのは、どうやら伯母には筒抜けであったらしい。
     背筋にじっとりと嫌な汗が滲むのが分かった。

    ●Caution
    「これはとある山深い村に暮らす人達によって、密やかに囁かれている噂です」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は古びた茶色い地図を広げながら、山中に位置する小学校をトントンと指で示した。
     彼女が言うにはこの小学校、数十年も昔に廃校となった以来、村から巣立って行った若者達が里帰りのついでに肝試しを行った事から、心霊スポットとして知れ渡った地であった。
    「学校の肝試しと言うのはオーソドックスですし、特に施錠もされておらず規制は緩かったそうなんです。けれど、地元の子供達がそれを真似て、深夜に家を抜け出すと言う事が多々ありまして」
     肝を冷やしたのは親兄弟の方だった。
     やや閉鎖的で付近住民との交流も篤いとは言え、このご時世何があるか分からない。ただでさえ夜の森に入ると言うだけでも危険なのだ。野犬だって居る。
    「いつしか子供たちを戒める為に出来た話が常世様、その人なのです」
     最初は怖がらせるだけで良かった。けれど、語り部がなまじ本職を思わせる雰囲気を放っていたせいか、効果が強く出てしまったらしく、常世様は都市伝説として実体を得てしまった。
     みなにはその常世様の灼滅をお願いしたい。

     常世様は長い黒髪を背の中ほどで結び、大振りの牡丹が咲く着物を召しているらしい。
    「今回、肝試しにやってきた子供を装いましょう」
     きっと子供好きの常世様ならば、吸い寄せられるように現れる事だろう。
     ただし、常世様は子供をあの世へ連れて行ってしまうと語られているので、背後からの接近や、ふいの出現にはくれぐれも注意して欲しい。
    「見た目が子供っぽい方のほうが出現しやすいと思われますが、それが難しければ振る舞いや言動でそれらしく見せる事も出来ると思われます」
     敵を誘き寄せて誘導した先で奇襲を仕掛けると有利に事が運ぶだろう。今回はそのポイントを中庭にして、囮には職員室や一年生、二年生の教室がある一階を歩いてもらい、敵が出現すれば、逃げる風を装い教室のベランダから、あるいは渡り廊下へと続く昇降口から中庭へと飛び出し、誘導してもらう。
     中庭には小さな瓢箪池や、銅像、飼育小屋の残骸などが点在し、隠れる場所は多い。また、子供が沢山いれば常世様もどの子にしようかと、思考や動きを鈍らせる事が出来るやもしれない。
    「敵は着物の袂を硬化して打ち付けてきたり、風を操った攻撃を仕掛けてきます」
     みなが一丸となって上手く連携すれば、そう強い敵ではないだろう。
    「皆さんどうかご武運を。……廃校の肝試し、頑張って下さいませ」
     姫子はにこりと微笑んだ。


    参加者
    勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)
    黒洲・智慧(九十六種外道と織り成す般若・d00816)
    赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)
    黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)
    多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)
    ヴォルペ・コーダ(宝物庫の番犬・d22289)

    ■リプレイ

    ●闇夜に想ふ
     それは闇という闇を、廃校の一か所に閉じ込めたような濃密な暗さだった。虚空には僅かばかりに顔を覗かせていた月も今は厚い雲がかかり、光は殆どない。
     己の吐息の他には揺れる木の葉の囁きが聞こえるだけ。この空間に共に身を隠しているはずの仲間たちすら、気配が辿れない。
     そんな世界に一人取り残されたような錯覚を覚えるヴォルペ・コーダ(宝物庫の番犬・d22289)は、その大きな身体を小さく丸め、中庭の物陰でぷるぷると小刻みに震えていた。
    (「あーやだやだやだなんでこんな恐ろしい場所で事件が起こるんだよ都市伝説ももうちょっと考えて出現しようぜっていうか変な話を作るな実態化するなもうやだ帰りたい」)
     学生にすら見えぬ見た目にも関わらず、恐らく彼はこの場に居る誰よりも怯えていた。
    (「本物とか出てきませんように…!」)
     そんな風に怖がっているヴォルペのすぐ傍に潜んでいた黒洲・智慧(九十六種外道と織り成す般若・d00816)は、闇に慣れて来た双眸を細め、校舎に出入り出来る扉のじぃっと見つめている。
     そのポイントから右方に逸れた箇所には、己のビハインドを傍らに、囮の番号を登録した携帯電話と、今は消灯しているライトに視線を落とし、微かな吐息を交えて呟く勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)が居た。
    「子供……と言い張るには矢張り身長がネック、ですね」
     せめてもと思い、良家の子息風の装いをして来たものの、さて女はこれをどう見受けるだろうか。夜風にさらわれた言葉は掻き消され、誰の耳にも届かない。
    (「肝試し、いささか慣れてませんが、案外平気ですよ」)
     一方、霊犬の絆と共に飼育小屋の残骸に身を隠していた黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)は、到着するなりササッとサウンドシャッターを使用し、ことのほかケロリとした顔だった。絆の瞳に至ってはキラキラと宝石のように輝かせている。
     また建物の壁に背を預けるように息を潜めていたダグラス・マクギャレイ(獣・d19431)は、額に落ちる髪をグイと掻き上げ、悲しげに吹きすさぶ風にまだ見ぬ女の姿を重ね、微かな吐息に交えて呟いた。
    「子が欲しくて堪らなかったが故に奪う女、か。……正直理解出来ねえ…いや、したくねえ、だな」

    ●肝試す
     ギシ…ギシ…ギシ…。
     一歩を踏み出すたびに木製の床板が恐ろしいほど軋み、今にも抜け落ちてしまいそうで、コルネリア・レーヴェンタール(幼き魔女・d08110)はその度に肩を震わせていた。
    (「うう……正直物凄く怖いです……。もしかして、本気で怖がっているのって私だけなんでしょうか……?」)
     左を歩く赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)は小さな身体に大きな勇気を併せ持っているらしく怖さなど微塵も感じられぬし、右を歩く多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)に至っては子供っぽさが失われてはいけないと、ボロが出ぬようにあまり喋らないようにしているしで、たまらない。
    「この世には、テストの点数よりも怖いものがあるのですね……!」
     いい加減大人にならないと、となんとか姿勢を正そうとするコルネリアだったが、怖いものは怖い。
     薄く開いた窓の隙間からは、教室の中に立ち込める闇が覗いている。その隙間から何かがこちらを覗く瞳が見えてしまうのではないかとすら思ってしまう。
     前も後ろも分からない暗闇の中、千幻はグラウンドをチラリと見やり、胸の内で呟いた。
    (「夜に子供が出歩くなんて心配しねえ大人がいねえことはわかっけど、ちょっと大事になっちまったな……」)
     彼にとって肝試しは慣れたもの。
     さて常世様とやらは一体どこから現れるだろうか。肝試しを愉しんでいる振りをして見せながら、しかし辺りを注視する事に余念が無い。腰に下げたLEDランタンが所在なく揺れている。
    (「私肝試しとかやったことないかな。でも今回のみたいなゆーれい? とかよく都市伝説で出るよね」)
     一年一組と書かれた教室のプレートを見上げた緋色が、そんな風に胸の内で呟いた時だ。
     …ザリ、ザリ、ザリ。
     耳に慣れぬ足音が一つ、自分達のそれに混じっている事に気が付いた。
     背後に感じるその異様な気配を察知して小さく息を吸い込み、お互い目配せし合った三人。すぐに視線が近くの扉に向けられ、自分達からとの距離を計る。そうしてゆっくりと後ろを振り返り、その先に居たのは――。
    「愛い子等じゃ…こっちへおいで」
     闇の中からじわりと姿を現した女の仄かな笑みを見て、コルネリアの口から悲鳴が零れ落ちた。
    「あ、常世様がでたーにげろー!」
     何だか楽しそうにも思える緋色の台詞であったが、三人はその場から弾かれるように駆け出した。そしてコルネリアはこけた。

    ●心の弱み
     まるで屋内運動会だった。静寂を突き破ったのは少女の悲鳴と駆ける足音。軋む床板に、荒々しく開け放った扉がもろい校舎を震わせた。
     最初に女の姿を確認したのは智慧だった。
     パンッと乾いた音を立てて扉が開かれ、暗闇の奥から千幻に庇われるようにしてコルネリアが転がり出て来た。その背後に紅を差した女の顔が、ゆるりと闇の中で白く浮き立っている。まるで発光しているかのように、白い指先が逃げ惑う彼女の長い髪に触れそうになった、その刹那。
    「失礼しますよ」
     高速の動きで女の死角に回り込んだ智慧は、その躯体をえぐるように切り裂いた。その一ミリも無駄の無い洗練された動きに、女の目が驚愕に染まる。
     目の前を駆け抜けて行った二人の向こう側。
    「ひっかかったね常世様! 被害が出る前に小江戸の緋色が灼滅してあげる!」
     どこから降りて来たのか、高い位置から飛び降りて来た緋色の小さな身体が、華麗な着地を決めて、ビシィッと一言。
     得意げな表情を視界の端に捉え、後ろ足で壁を蹴って身を起こしたダグラスが雷に変換した闘気を拳に宿し、女の背面に向かって駆け出した。
    「子供好きってこったからよ、俺じゃ趣味にゃ合わねえだろうが相手してくれや!」
     援護するべく、飼育小屋から姿を現した空凛が除霊結界を構築すれば、その後を追うように絆が斬魔刀で追撃する。
    「くぅっ…お前達、あっちへお行き!」
     怒りと共に振り払われた右腕に添うように、突如現れた風が舞う。それは絆の身体を切り裂くと、天に向かって吹きぬけて行った。その一陣の風に、あっと息を呑む。
     だが女の意識が逸れているその隙に、千幻が霊犬のさんぽを、コルネリアがナノナノのふぃーばーを呼び出すと自身は予言者の瞳を発動。腰のランタンにスイッチを入れた千幻がくるりと身を翻せば、ダグラスの拳が女の背面にめり込んでいる所だった。そこへ、千幻はきょとんととぼけた表情をしているさんぽに指示を出す。
    「ねぇ、俺とビハインドと遊びましょうよ。常世様」
     その間に、ふらりと足元がよろけた都市伝説の側面から、みをきがスターゲイザーを繰り出し、その細長い身体がゆらりと傾いた所へ、ビハインドが霊撃を、さんぽが斬魔刀で、ワンテンポずらしたタイミングで攻撃を仕掛ければ、無防備な所を次々と突かれた都市伝説の躯体が荒れた地面に崩れ落ちた。
     牡丹が描かれた袂がふわりと宙を舞い、そしてゆったりと地の上に落ちて来る。
    「そなた達…一体なんぞ…」
     解せぬ、と憎々しい言葉が口唇の端から落ちて来る。
     キッと鋭く吊った両目が、眼前でずらりと己を囲う灼滅者達に向けられるが、その悪鬼の如く、筆舌に尽くしがたい。
     物影から顔を出してげんなりとした表情を浮かべていたヴォルペは、もういっそ開き直ると炎の翼を顕現させて、
    「あああああ! さっさと退治してさっさと帰る! 1秒だって長くこんな場所にいられるか!!」
     と、その勢いに乗せて同列に向けてフェニックスドライブをブワリと広がらせてみせた。闇の中に燃え上がる紅い炎が辺りを照らし出す。
     千幻はそんな彼を横目に見やり、縛霊手を装備した拳をキュッと握り締めると、まるで雪女のように冷たい息吹を吹きかけて来る都市伝説目掛けて駆け出した。
    「つっめた」
     僅かに目を眇めるが、彼は腕に氷が付着するのも構わず懐に飛び込み、その胸部に縛霊撃の一撃を叩き込んだ。女の内部からボキ、と鈍い音が立ち、レンズの下から見上げて見れば、唇の端から血を垂れ流し、激痛を堪えるような哀の色を灯す瞳と目が合った。
     咄嗟にその場から飛び跳ねるように後退した彼と入れ違いに、今度は緋色が妖の槍「華槍」に螺旋の如き捻りを加えて駆けて来る。その様子を見た都市伝説の動きが鈍る。どうやら一番幼い彼女の姿を見て、気を奪われたようだ。攻撃される寸前と言うに、「ああ、愛い奴じゃ」と溜め息まで零れ落ちている。
    「いっくよー! そぉーっれ!」
     だが、その切っ先が脇腹を深く穿ち、貫けば流石の都市伝説の顔色を変えた。「うぐ」と短く呻き、眉間に深い皺を寄せて血を吐き出す。咄嗟に口を押さえた女だったが、暗闇の中でもはっきりと分かるほどボタボタと落ちて来るそれは、軽傷のそれでは無かった。
    「ふ、ふふふ……元気なのは善い事じゃ。…しかし、少々おいたが過ぎるようじゃな」
     乱れた髪の隙間から、ちらりと覗く双眸が緋色を見る。しかしそれはどことなく――。
     女の様子を窺っていたダグラスの身体が癒しに包まれる。どうやらふぃーばーがふわふわハートで回復を試みてくれたらしい。小さく礼を口にした彼は、袖の柄を見せるように腕を広げた女に向かってダンッ、と力強く地面を蹴り上げた。
    「生憎とな、お前さんに連れて行かせる訳にゃいかねえ。引導なら渡してやる、あの世へ行くなら独りで逝きやがれ」
     吼えるような言葉に、眉間に皺を寄せ唇をへの字に曲げた女が視線を寄こす。しかし女が振り上げた袂が硬化を見せても、その矛先は眼前の緋色であった。させるものかと妖の槍「Ruaidhri」を突き出すと、ガギン、と小気味良い音が弾けた。咬ませた槍のせいで振り払われた女の攻撃は打ち消され、しかしダグラスが放った妖冷弾が都市伝説の肢体を貫き、傷口から血飛沫が湧く。
    「子を奪われれば親が泣く。そんな単純な事すら解らねえシロモノをのさばらせておく訳にゃいかねえ。その牡丹、枯らさせて貰うぜ」
    「ぐ、ぅ……このっ、貴様ッ!」
     ブンッ、と腕を振り払い、灼滅者達から距離を置こうとした都市伝説だったが、死角からぶわりと身を包んだ濃い影に身を喰われ、思わずと云った風に悲鳴が零れ落ちた。どうやら空凛の影喰らいが見事命中したらしく、そこへ更に絆の斬魔刀が叩き込まれると、いよいよ女の表情が厳しいものになってくる。
    「星が見たいですか? 炎が見たいですか?」
     くすり、と微笑みを湛えたみをきの上目遣いに、女の顔が僅かに揺れる。
     常世様、と呼ばれる所以は定かではない。しかし、時々ちらりと見せるその瞳には情と呼ばれるものが込められていた気がした。己が生まれた理由など本人は露とも知らぬのだろう。
     笑みを湛えたみをきの姿に気を取られたのか、そちらに向かってゆるりと歩が進められる。グッ、と後ろ足に力を込めたみをきは、女の背後から音も無く姿を現した智慧を見て、彼がフォースブレイクで背面から殴りつけるのを見ると同時に、正面から挟み込むようにグラインドファイアの蹴りを炸裂させた。
     摩擦によって炎を纏った一撃と、体内に流された魔力が暴れ出す。ゴポリ、と血を吐き出した都市伝説は胸を押さえて、ふらりとよろめいた。女はやられてばかりではおらぬと、血の混じる息吹を吹きかけると、灼滅者達の腕を足を氷漬けにしてゆく。すかさずふぃーばーがふわふわハートで回復に取り掛かる、その一方で。
     身の丈ほどもあるバスターライフルを構えたヴォルペは、常ならば様になっているだろうが、今夜に限っては恐怖からやる気の無さと都市伝説に対する八つ当たりじみた感情が綯い交ぜになって、溢れていた。
    「ほらっ! さっさとやられてしまえ!! もう十分だろ! 満足だろ!?」
     ライフルを構え、魔法光線をぶっ放しながらヴォルペは祈りにも似た台詞を吐きだした。一定以上の距離を保ち、決して近付かない。都市伝説が一歩近付けば、二歩離れる。
     その傍らで雷を引き起こしていたコルネリアが轟雷を撃ち込むと、常世様が膝から崩れ落ちた。それには本人も驚いているらしく、目を白黒させている。どうやら己の身体に蓄積されたダメージの予想を越えていたのだろう。
     隙を見つけたビハインドがするりと近付き、その力の入らぬ躯体目掛けて霊障波を放つと、千幻とさんぽが並行して走り、女の細い背中に流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを喰らわせ、大きく仰け反った所へ斬魔刀が追い打ちをかける。
     都市伝説が地面に右手を突き、起き上がろうとした。だがそれは、凍った花がボロボロに砕けてゆくように、指先から脆くも崩れ落ちてゆく。
    「あぁっ…! 何と言う事じゃ…手が、手が無ければ子に触れられぬ!」
     悲痛な叫びを上げ、女はうろたえた。既に瞳に闘志の色はなく、常世様は悲しげに声を震わせた。
     終わりが近い。そう気付いた緋色は、女から少し離れた距離から一直線に駆け出した。パタパタと地面を踏みしめる音が、常世様には届いておらぬ。重たく立ちこめる闇を切り裂くような軽やかさを持って、緋色は高く飛び上がると――。
    「とどめの小江戸キーック!」
     ハッと息を呑んでこちらを振り返った女の瞳に映り込む、夢にまで見た子の姿。身体に見合わぬ強烈な一撃に、しかし最期に見たのが彼女で満足したように、その口元には笑みが薄らと乗っていたような、そんな気がした。
     空を仰ぐように倒れ込んだ常世様の御髪が、袖が、地面を彩るように広がっている。暫くか細い呼吸が繰り返されていたが、彼女は夜の風に溶けるようにゆるりと消えて行った。

    ●残り香
    「とにかく一刻も早く帰ろう!!」
     サングラスの下で涙目になりながら訴えるヴォルペを見、智慧と千幻達は顔を見合わせた。花を供えて鎮魂の祝詞をあげていた空凛と、その隣でちょこんと座っていた緋色も振り返って、きょとんと首を傾げている。
    「本当に怖い思いをしましたが……なんだか切ない気もします。来世では子宝に恵まれると良いですね、常世様」
     そんな彼等を横目に小さく笑みを零したコルネリアは、ふと思い出したように空を見上げ、朽ちていった女の細い背中を思い出していた。その言葉を耳にして、ダグラスは胸の内で思案する。
    (「狂おしい程の熱望を持ってるってのは、ちとばかり羨ましいかもしれねえな。いや……都市伝説相手にそんな感想持つのもおかしい気もするけどよ」)
     すると、傍らからにっこりと柔らかな笑みを湛えたみをきが顔を出した。
    「折角だから肝試ししていきたいな……って、ダメでしょうか?」
     その夜、もっとも情けなく、一番恐怖に染まった悲鳴が廃校に響き渡った。

    作者:四季乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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