●とあるゴリラ化したご町内
ウホ。ウホホ。ウッホーウッホー、ウホホーン。
そんな声がそこかしこから聞こえてきそうなご町内。いや、幻聴じゃなくて実際に聞こえてきてる、しかも明らかな人間の声で。
ふと公園傍に目をやれば凄く大きな焚火を囲んで、スーパーのパックから肉を無理矢理引き裂き取り出して焼いてるわ、ターザンルックな服の残骸を着たおしゃべり好きの方々がウホホ、ウホウホと日本語で話せと言わんばかりの言語で会話してはウッホッホと笑ってるわ。だから日本語話せ。
空に目を移せば屋根から屋根に飛び移って鳥を一生懸命追い掛け回しているゴリラ、じゃなくて人間がいるわ、用水路では水浴びしているゴリラ達が。
家の一角が轟音を立てて崩れ去り、何かが飛び出して来た。冷蔵庫だ。電子レンジだ。シンク台だ。
確かに路上には文明の利器だった残骸があちこちに散らばっていますがちょっとシンク台まで家から投げ捨てるとかやりすぎじゃないですかね。
さて、もう一度公園に視線を向けよう。さっき見た焼かれている肉が良い感じに焼けてきた。と思った瞬間、火が動いた。
火の中から巨大な口が、そう、ワニのそれを太くしたような口が現れ、肉を一飲み。焚火をしていたゴリラが、ウホホー!? と悲鳴を上げて逃げていく。
あ、イフリートだこいつ!
●教室
「っていうのが視えたんだけど」
「お、おう」
相変わらずの無表情で視えた光景を淡々と告げる田中・翔(普通のエクスブレイン・dn0109)。視えた内容の色んな意味での異常性にたじろぐ竜蜜・柑太(蜜柑と龍のご当地ヒーロー・dn0114)。
「ええと、つまりそいつを灼滅すればええんじゃな?」
「うん」
何とか持ち直した柑太の言葉に、カップ麺に電気ケトルからお湯を注ぎながら翔は頷く。シールで蓋をしてから、地図を取り出した。
「この町の……この辺り。ここ一帯がゴリランド化してる。あんまり大きくないけどじわじわと大きくなっていってるね」
「ゴリランドて」
「まぁ、巻き込まれた人達はゴリラ化していても人間だし……あ、見た目は原始人でウホウホ言ってるだけなんだけどね。ちゃんというと原始人化してるだけなんだけどね?」
「じゃあそう言えよ!」
「だってあまりにもゴリラだったんだもん」
凄くウホウホしてたらしい。
微妙な沈黙が教室を包む。
「ええと、それで……ゴリランドの中心、この辺りにある公園の中央に、例のイフリートがいるんだけど」
「イフリート……ゴリラけ?」
「いや、燃えるワニと言うか……恐竜と言うか」
そこはゴリラじゃないのか。そんな空気。
「このイフリートを灼滅すれば、この異常な原始化も収まるよ。ただ、敵はイフリートだけじゃなくてゴリラ、じゃなくてこの原始人化した人達の中にもいるんだ」
どうやら原始人化した時に強くゴリラ化に中てられたのか、強化ゴリラ、もとい強化一般人となってしまった人もいるらしい。数は5体で、ゴリランド内部を歩き回っているようだ。いつどこで遭遇するかは分からないが、身に纏うオーラが違っているので見ればすぐにそれと分かるだろう。
現代文明を敵と思っているので、普通の姿で遭遇したら襲われる可能性が非常に高いとのこと。文明の利器が路上に散乱している光景も視えたというし。
この原始人化した人達の攻撃方法だが、素手、もしくは手に持っている物で殴ってくる、以上。
「それで、問題のイフリートなんだけど。公園に足を踏み入れた時点で気が付かれると思って」
攻撃方法は以下の3つ。
近くの集団に対し猛烈なタックルを仕掛け炎をまいてくる。
鋭い牙で噛みついてくる。抵抗する気力体力がないとそのまま食い千切られかねないのでとても注意が必要だ。
咆哮で衝撃を叩き付けると共に、ある種文明の利器たる殲術道具の力を封じてくる。音なので当たり前といえばそうだが、遠く、広くまで広がる。
「イフリートは現代文明を凄く嫌っているみたいでね。説得とかは無理だと思う」
「……ところでそのイフリートを灼滅すれば、原始人化は治る、んじゃよな?」
「うん、徐々に治るね」
と、翔が頷いたところでキッチンタイマーが鳴った。カップ麺の蓋をはがし、ふと、気が付いたように目線を上げる翔。
「……カップ麺も、凄い文明の利器だよね」
ま、それはそうとして、皆、灼滅頑張ってきてね。と頭を下げる翔だった。
参加者 | |
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三兎・柚來(無垢な記憶の探求者・d00716) |
九条・雷(蒼雷・d01046) |
神虎・闇沙耶(悪鬼獣・d01766) |
領史・洵哉(和気致祥・d02690) |
遠野森・信彦(蒼狼・d18583) |
プリュイ・プリエール(まほろばの葉・d18955) |
ユメ・リントヴルム(竜胆の夢・d23700) |
宍戸・源治(羅刹鬼・d23770) |
●誰かが言うと思った
「ゴッゴッゴリランド!」
って言っておかなきゃいけねえ気がしたんだが何でなんだか。と振り向くのは宍戸・源治(羅刹鬼・d23770)。ツッコんだら色んな意味で危ないと判断した他の灼滅者達は一様に顔を逸らす。
そんな灼滅者一行ですが、現在ゴリランドと日本の住宅地の境目まで来ています。目の前では文明の利器が散乱していたり、ウホウホしている人が見えたりとちょっと理解しにくい光景が広がっています。熱気がむんむん伝わってきます。
光景もそうですが、熱気にげんなりとした様子を見せたのは九条・雷(蒼雷・d01046)。
「うわ、何ここ暑苦しい……やだー熱帯?」
いいえゴリランドです。
「止めてよね日本の気候にこの暑さとか殺す気なの?」
ゴリラにする気です。
「しかしゴリラ、ねぇ……。やーね、こういう時期にゴリラとか暑苦しくて」
「人間ですけどね」
領史・洵哉(和気致祥・d02690)の苦笑に、一瞬キョトンとした顔をする雷。
「え? 元人間……?あ、うん人間だよね大丈夫分かってる」
「今、あ、うん、って」
「イフリートの方がメインだってわかってるよ!」
「いや、その」
「とりあえず無事にゴリ……イフリート倒して帰ろうね!」
「今確実にゴリラって」
「はいはい、ゴリラさん方はあっち行っててねー」
全力でスルーして殺界を形成する雷。凄く色々言いたげな洵哉。
「……ゴリランド、テーマパークみたい?」
「これのどこがテーマパークなんだ」
目の前を見据えながら三兎・柚來(無垢な記憶の探求者・d00716)のぽつりと呟いた言葉に、神虎・闇沙耶(悪鬼獣・d01766)が思わず真顔で返す。ふと視界の端に小さな影が見えて、そちらを見てみれば屋根を跳ぶゴリラ。
「しかし、イフリートの討伐が目的とはいえ……ゴリラ……」
ゴリラ化……何だか嫌だな。と呟いた言葉はここにいる大体が思っていた。
「楽しそう」
屋根を跳ぶゴリラを見て柚來が素直な感想を漏らす。周りから、いやちょっと待てと言いたげな視線が飛ぶ。
「だけど、一般人かわいそ、だから助ける、ね」
続く言葉はまだまともだった。でも大学生とは思えないですわ……。
プリュイ・プリエール(まほろばの葉・d18955)がプルプルと震えていた。
「ゴリラ、ニホンの市街で会えるなんテ、チョット感動でス!」
この子何か勘違いしてる。俗世と隔てられた島で育ったのなら仕方ないね。
「イエ、そうじゃなイでスね!」
と思ったら自分の発言を否定した。良かったちょっと天然入ってるけどちゃんとした良い子だった。
「ヒトは進化して行く生き物なのでスよ! 猿さンじゃなくて何故ゴリラに!」
あ、やっぱちょっとじゃないレベルで天然だった!
「……ところでプリュイのその恰好はなんじゃ?」
竜蜜・柑太(蜜柑と龍のご当地ヒーロー・dn0114)が頭に疑問符を浮かべながら聞く。
プリュイは裾がぼろぼろになったお古のワンピ着て、どこから調達してきたのか手にはしっかり焼けたマンガ肉を持っていた。既に呼び出しているナノナノのノマにも小さな腰ミノ付けてターザンルックだ。
「チョト恥ずかしイでスが、警戒さレないためでス!」
「やっぱりそう言うのは大事だよね!」
横からゴリラが割り込んで来た。いや、原始人化した一般人とかじゃなくて、デフォルメされたゴリラが。
「普通の姿で遭遇するとまずいらしいので、ゴリラの着ぐるみを借りて着て来たよ!」
ユメ・リントヴルム(竜胆の夢・d23700)である。狙ってくるのは文明相手とか、もうどうでもよくなる斜め上なレベルでゴリラである。誰かがやると思ったけど! そうじゃないから! なんかお猿さん大好きそうな黄色い物体まで脇に抱えてるけどそうじゃないから!
「原始人化現象を見るのは二度目だな」
そんなギャグ空間を尻目に、ゴリランドを見据えて困ったように頬を掻く遠野森・信彦(蒼狼・d18583)。
「……毎回思うけど、どうやったらこんな状況に出来るんだか」
イフリートパワーじゃないですかね。
隣に並んだ洵哉が、でも凄いですよね、と口を開いた。
「原始人にしても、ウホウホで会話出来るのですから」
「ん? あー……んー、まぁ、そうだな?」
一般人がうっかりゴリランドに近付いてこない様に、一応殺界形成やら何やらでサポートしていた人達に、大丈夫かと一抹の不安がよぎった。
●いつから類人猿がバナナが好きだと
「つーかほんと老若男女関係なくゴリラだこれー!」
意を決してゴリランドの中に飛び込んでみればゴリラだらけである。雷が驚くのも無理はない。
「もしこの場にバナナとか投下したらどうなるんだろうなァ……」
いやバナナ持ってる訳じゃないけど、と呟いた視界に投げ込まれていく黄色くて細長い物体。
思わずその投擲元を見ればゴリラ(着ぐるみ)が、ゴリラ(人間)に向かってお猿さん大好きそうな黄色い物体千切っては投げていた。
「ほーら、これなんだかわっかるー?」
「何してんの!?」
「あ、そうか。言葉が通じない状態なんだ」
「いや何してんの!?」
「ウホー? ウホホウホホホー? ウッホホ?」
「何言ってんの!?」
ユメ、絶好調。餌に釣られて集まってくるゴリラ。
「今日の相手はゴリラさンとワニさンでスよ、ノマ」
ウホーン、ウホホーン、とバナナに集まってくるゴリラ達を見ながら、絶対食べられちゃダメだかラね。とプリュイはノマに注意をするが、当のノマは集まってくるゴリラに冷や汗だらだらのマナーモード状態だ。
震えてるノマに興味津々のゴリラが。目の前に突き出されるマンガ肉。
「ウホン」
「ウッホー!」
プリュイがウホン、と差し出したそれを奪い取って即行で距離を取るゴリラ。ゴリラが原始人で本当に良かった。……何言ってるかちょっとよく分からないですね。」
「すごい、ホントに……ゴリラ、なりきってる」
「なりきってるとかそう言う次元じゃねえぞこれ。……見た目は普通の人だけどさ」
柚來の純粋かつずれたコメントに、同意しそうになりながらも、けどゴリラの見た目に何とか現実に目を向けられる信彦。
と、一歩、巨漢が前に踏み出した。
「来いよゴリラ! 文明なんか捨ててかかってこい!」
「いや、この人達、既に捨ててるんですけど」
その辺に落ちている鉄パイプを拾って投げかねない源治に洵哉の正論が重なる。って鉄パイプ?
よくよく見れば鉄パイプはそのまま捨てられているシンク台に繋がっていた。
「シンク台まで捨てられているのは蛇口を捻れば水が出るからでしょうか?」
確かに文明の利器ですけど。と一人考える洵哉の目の前で。源治の挑発に、ウホォウッホハヘホハァァァァア! と叫びながら怒りに身を任せたゴリラ達が、飛び掛かった勢いそのままに地面に激突しては豪快な寝息をたてていく。魂鎮めの風の安眠効果凄いですね。
「ゴリラ化と言えど、普通の人だな……」
「この手に限る」
闇沙耶がまじまじと、見事に眠っているゴリラを見る隣でドヤ顔の源治だった。
周囲のゴリラは皆眠ってしまっていた。殺界形成も発動しているので、他の一般ゴリラも来ることはなく、ただこの場には灼滅者だけがいた。
そこで取り出したるは携帯、音楽プレイヤー、そして爆音に定評がある目覚まし時計。それとラジコン飛行機。
「何でラジコン飛行機?」
「ゴリラさん達がワイワイ追っかケて誘導できナいかなト」
スイッチを入れながら疑問符を浮かべた雷に、プリュイが自動操縦でラジコンを飛ばしながら答える。
様々な電子音を背に上空に飛んで行くラジコンだった。
●ゴリラまっしぐら
騒音を出す文明の利器の効果は凄まじかった。
「ウホホォォォーン!!」
殺界形成にも、魂鎮めの風にも怯まないゴリラが屋根の上からログインしました。道路をまっすぐ突き進んでくるゴリラも見かける、と思った瞬間、近くの家屋の壁が粉砕された。
瓦礫と共に現れたゴリラがそのまま騒音の元に向かって手を伸ばそうとして、雷が咄嗟に遠くにそれを放り投げる。まるで骨を投げられた犬のように踵を返して追いかけていくゴリラ。ジャンプして空中でキャッチもとい粉砕するゴリラ。
それでも灼滅者達の元からは様々な電子音が鳴り響き、さらにゴリラが2人現れた。襲い掛かるゴリラ達に、闇沙耶が槍を構え突進し迎撃する。
弾き飛ばされたり、手に持っている武器で何とか槍を防いだゴリラ達。武器何ざ使ってんじゃねえと言わんばかりに闇沙耶へと目線を向けた瞬間、その身体が蒼色に凍りつく。
「これだけ音出せばなんらか反応するとは思ってたが……こうも一斉に来てくれるとはな」
氷と同じ蒼色のオーラを身に纏き呟いた信彦の視界が、凍らないまま駆けてくるゴリラ2人の姿を捉える。1人はヘッドホンをつけている柚來に、もう1人は時計を更に取り出している雷に。
鉄パイプを振り上げたゴリラ。その顔面に異形化した腕が叩きこまれた。
「だめ、これは……大事なものだから」
綺麗に正拳を突き込まれ、鼻血を噴き出しながら飛んで行くゴリラを、異形化してない片手でヘッドホンを押さえて見つめる柚來。
一方の雷はこちらに近づいてくると知るや否や、目覚ましを放り投げた。雷を無視して騒音時計に跳んで行くゴリラ。時計を叩き壊し、満足そうに振り返ったその眼には鬼の身体が映っていた。
隙がありまくりなゴリラを殴りつけつつ、網状の霊力で絡めとり、振り回して柑太に向けて投げ飛ばす。助走を付けて放たれたドラゴンキックがわき腹にめり込み、ラジコンヘリのそばを掠め飛んで行く。
洵哉が防御を固めてる隣を、プリュイがしゃぼん玉と並走していく。寒さに震えつつも走り出したゴリラの懐に潜り込み、抗雷撃の一撃を顎に叩き込む。
「テェェイ!」
今デす! と振り返りユメを見るプリュイ。
「あ、あれっ!? この着ぐるみ脱げなっ、ふんぬぉぉー!!」
「何やってんだ!?」
ユメは着ぐるみを一生懸命脱ごうとしていた。
「よし! 諦める!」
「着てくんなよ!」
「さて、じゃあ大人しくなってもらうよ!」
周りからのツッコミを華麗にスルーしつつ、ゴリラの癖に結界を張り巡らせるユメ。突如現れたそれに動きを止められたゴリラ達に踏み込んだ信彦と柚來の拳が迫る。
蒼く燃える拳の一撃と、空を切る手加減した拳がそれぞれ別のゴリラに叩き込まれた。蒼い炎に包まれつつ吹き飛んでいくゴリラと、その場で崩れ落ちるゴリラ。
「手加減は、した、から、大丈夫」
「どう見てもワシの全力より痛そうな手加減なんじゃが」
手加減はするが痛くないとは言っていない。
立て続けに2人のゴリラがやられてたじろぐゴリラ3人。
投げ込まれる騒音目覚まし時計。
一斉に時計に襲い掛かるゴリラ達。
時計を叩き壊すのに夢中になっていたゴリラ達。数秒立ってはっと気が付いて周りを見れば、自分たちを取り囲む灼滅者の姿。
「う、ウホォーーーン!!」
まぁ、逃げられない状況まで持ち込まれていることに気が付いたゴリラ達は悲鳴を上げました。
●ジュラ紀ックパーク
さくっと残りのゴリラ達も気絶させ、公園まで直ぐに移動した灼滅者達。
「うっわ、これが竜種……? でっか……!」
口からスーパーで並べられているような仕分けされた肉の欠片を覗かせつつ、炎を纏った恐竜のようなイフリートが、唸り声を上げて明らかな敵意を向けて待ち構えてました。
「……あー、まぁ大音量でしたし」
「電子音既に聞いていたってことか」
ふと遠くを見れば屋根の上を、ラジコンを追ってゴリラ達が走り回っている。まぁ一般人だから放っておいていいだろう。
一同が公園に足を踏み入れる。距離が縮まるごとに敵意は殺気に変わっていき、熱源はより燃え上がり熱気が肌を焼いていく。
と、熱が少し収まった気がした。同時にイフリートの胸腔が膨れ上がり、灼滅者達が公園の砂利を蹴り駆けだした。
恐竜の咆哮が前衛陣を、その得物を強かに打つ。それでも足を止めないプリュイが右手の拳に雷を迸らせた。
「ワニさンとゴリラさンの夢の共演、ッテ」
ココは一体ドコなのでスかー!
叫びと共に放たれたツッコミは硬い鱗によって大したダメージを与えられないが、続く闇沙耶の、視る事を否定する影が足に食らいつく。
「さぁ、恐竜退治と参ろうか!」
声と共に、影が巨体を揺らがせる。その足元に潜り込む2つの人影
「何このジュラシックパークみたいな!」
「喰らいなっ!」
雷の拳に纏わりつく電撃、信彦の足に絡みつく炎。2つの蒼が強かにイフリートの身体を打つ。
衝撃を受け、それでももう片足を踏ん張り持ち直すイフリートから素早く離れる2人に変わり、着ぐるみを華麗に投げ捨てつつ武器を閃かせるユメが踏み込んだ。頭上からは大地を強く蹴って跳び上がった柚來が拳を引いて構えている。
「さて、じゃあ大人しくなってもらうよ!」
振り下ろされる異形腕。頭を振ってそれを回避したイフリートは、次いで飛んできたユメの攻撃を前脚で受け止め、はじき返した。
洵哉が周囲にシールドを展開していくその隣を巨大な光が通り過ぎ、信彦の身体に突き刺さる。衝撃はないが突然のことに驚く、その身体にできていた傷が癒えていく。
光が飛んできた方を見れば、源治の姿。
「今日の鬼さんは癒し系だぜえ」
きゃるるん、とでも擬音が付きそうな調子で言う源治だが、その手に持っている弓はどうみても射抜き殺すってくらい剛弓だった。怪我したら矢を刺していく系メディック超怖い。
と、足にまとわりつく影を焼き払うように、恐竜の身体を覆う炎が強まった。足に力がこめられ、次の瞬間イフリートが加速する。
炎が通り、灼滅者達が跳ね、走り、得物を振り回す。
「やァん、臨場感溢れすぎィ!」
「強い……だが、負けはせぬ!」
「そうだねっ! 竜を名乗るものとして、負けられない!」
双方、隠し切れない疲労と怪我が蓄積していく。咆哮や突進だけでなく、何度か噛み付きを受けた者もいるが、即座に源治やノマから治療が飛んでくることで最悪は防げていた。
「オイどうしてゴリランド作るんだ、鬼さんに言ってみろよ?」
本当は攻撃しながら言うつもりだったが、回復の手を休めるわけにはいかないので、回復を求めたユメを射抜き癒しながら源治はイフリートに顔を向ける。
返答は鼓膜を震わせる何度目かの咆哮だった。信彦がサウンドシャッターを公園を囲んでおろしてなかったら今頃騒音騒ぎになっていたかもしれない。
「喋れよ、口も聞けねえのか竜っぽい見た目の癖に!」
「どちらかというと恐竜ではないか?」
存在の価値を否定する斬艦刀を構えつつ、闇沙耶がそれとなく言っておく。
「この一撃、人の勇気、受けてもらうぞ!」
突進してくるイフリートに対し、気合と共に真正面から振り下ろされた斬艦刀が軋み音を上げ、持ち主の踵を後ろに滑らせ、砂利を掘り埋めつつ突進を受け止める。洵哉がシールドを飛ばし受け止める力に添え、結果勢いの弱まった突進の横に回ったのは、ユメだ。
「口が聞けないなら、聞けるようにすればいいかなっ!」
色々仕込んだ手甲から何かが閃き、次の瞬間、横からイフリートの口へと駆けたユメが、通り過ぎて反対側で急停止。
「キミの炎より熱く! キミの牙よりも鋭く! ……ん、間違ったかな?」
「何をですか?」
「いやぁ口を改造するつもりがやっちゃったっ!」
見ればイフリートの口が半開きになり、ぶるぶると痙攣している。震えは全身に伝わり、足がわずかに沈みこんだ。殲術的執刀の改造失敗率怖い。
その沈み込んだ足の後ろに、いつの間にか雷がいた。
「臨場感あるのはいいけど、暑苦しいどころか熱いのはいらないねっ!」
妖の槍が鱗を割り、肉に突き刺さる。
「悪いコにはオシオキでース!」
さらに飛び掛かったプリュイの鋼鉄拳が炎を突き破り眉間を穿ち、苦悶の声を上げながら地面に倒れるイフリート。その前に立つ、蒼い炎。
「お前の炎もなかなかだけどよ……」
構え、そして振りぬかれるレーヴァテイン。
「俺の炎もなかなかだろ?」
蒼い炎に包まれ、咆哮を上げながら消えていくその巨体を前にして、残心のをゆっくりと解きながら、口端を軽く上げながら、信彦は呟いた。
イフリートが消えれば、蒼い炎もやがて収まっていく。何もなくなった目の前の空間を見て、プリュイが近くまで飛んできたノマを抱きしめる。
「暗黒時代は終わったのでスね!」
ノマに頬をすりすりするその視界に、ラジコンを追いかけ続けるゴリラ達が入ってくる。ゴリラ化、もとい原始人化はすぐには解けないようだ。
ノマから手を離し、ゴリラな人々を追いかけ始めるプリュイ。
「皆さン、文明社会に帰りまスよ! イヤならステキな森まデご案内しまス!」
「保護なの!?」
「勝ったが、どうフォロー入れようか……」
「早く帰ろー……すごい疲れた……」
フォローすべきか否か、と言われてもこんなゴリランド跡地でどうフォローすればいいのか。
「寝てたほうが、幸せ……だよね」
「……そうだなあ」
ということで。
多数決により、寝ている人たちを起こそうとしていたユメと、追いかけ続けていたプリュイを捕まえて、そそくさとゴリランドを後にする灼滅者達。
多数決もまた、文明が生んだ利の一つなのだろう。などと思ったかどうかは、それぞれの心の中で。
作者:柿茸 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年9月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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