夏の終わりにスイカ会

    作者:陵かなめ

    「はー、今年の夏も色々あったねえ。本当、色々あったよ」
     空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)がスイカを抱え話し始めた。
    「ところで、皆はもうスイカ沢山食べた? 良かったら一緒に食べない? 夏と言えば、スイカだもんねー♪」
     少し遠出して、川のそばでスイカを食べながらのんびりと休日を満喫するのはどうだろうか。
     この夏の出来事を語り合うも良し、ただ涼を取るも良し。のんびりとした時間をすごし、日ごろの疲れを取るのも良いかもしれない。
     川に足を浸して遊ぶことも出来る。
     スイカを食べて涼やかに遊ぶ、スイカ会のお誘いです。


    ■リプレイ


     その日一行の訪れた川のほとりは、穏やかな日差しが降り注いでいた。皆それぞれ、仲間達とスイカの準備をする。
     夏の終わりとはいえ、まだまだ気温は高く感じられ、川の水の冷たさがありがたかった。
    「いやはや、たまにはこうやって息抜きも必要ですかねぇ」
     スイカをかじりながら、紅羽・流希(挑戦者・d10975)が言う。
    「うんうん。スイカ、美味しいよねぇ」
     空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)が頷きながらスイカを口に含んだ。
    「あ、熱い緑茶をお持ちしましたので……。よろしければ……」
    「わあ、ありがとう!」
     差し出されたお茶を飲むと、身体がほっと温まる。
     今日は一日、のんびりと過ごせそうだ。
    「あれ?要お兄ちゃんどこ?」
     スイカ嬉しいとはしゃいでいた蛍雪・静(藍の紫陽花・d21447)が、きょろきょろと辺りを見る。
    「な、あいつは……!」
     それを聞いて、蛍雪・湊(半月ウィステリア・d21451)もその姿を探した。
     その頃。
    「紺子ちゃーん、どのスイカがあまいかナ?」
     蛍雪・要(半月ラヴァンデュラ・d21460)はにこやかな笑顔で紺子に近づいていた。
    「どうかな? 今切ったスイカは、結構甘かったよ!」
     並んだスイカを見比べて、紺子はすでに切ってあるスイカを要に差し出した。
    「一緒にスイカ食べられたら嬉しいなー、パイナップルの時は一緒に食べられなかったし!」
     スイカを受け取り、その場に座ろうとした要の首を、しっかりと掴んだのは湊だった。
    「空色さん、誘いありがとう」
     湊は丁寧に紺子に挨拶をしてから要を引っ立てる。
    「あはは。またねー!」
     湊に引きずられていく要を見ながら、紺子は大きく手を振った。
     結局、並んで3人スイカを食べる。
    「オニーチャンも静もテスト勉強してんのー?」
     要の言葉に、静の表情がこわばった。
    「べ、勉強は……うんと、一応……」
    「まーテスト近いし、わかんねーとこあれば教えるけど?」
    「ほんと? 教えて欲しいなー!」
     静の表情が、ぱっと明るくなる。
    「必要ない」
     湊はぴしゃりと即答した。勿論、湊とて、妹や弟の勉強は教えるつもりだけれども。
     スイカを食べ終わった3人は、家族へのお土産にスイカを吟味する。
    「帰ったらまたスイカ楽しみだなぁ」
     みんなで食べると、きっと美味しい。静はニコニコ笑った。
     川のそばで小さなレジャーシートを敷き、篠守・鎮(暢気な恠鳥・d00349)と奏・律嘩(漆闇の現・d01011)が並んでスイカを食べている。
     ついに夏休みも終わってしまった。
     延長戦は無いのだろうか……? 鎮はぐっと拳を握り締める。
    「まだだ……まだ……! 夏は! 僕達の中で死んでない……!」
    「現実を見ろよまもちゃん」
     夏休みに延長戦なんてないとすぐに律嘩からツッコミが入った。夏はもうすぐ終わる。
     そんな事は分かっていたと鎮が頬を膨らませた。
     愉快な友人の姿に笑いながら、律嘩は人差し指を膨らんだ頬に突き刺す。
    「ねぇりっちゃん、どっちが遠くに種が飛ぶか競争しよう!」
    「って本当に子供か……種飛ばしなんて」
     ならば、後ろ髪引かれるような夏へ思いをこめて。
     鎮の提案に、律嘩がニヤリと笑った。
    「まぁ売られた喧嘩は買うけどな?」
    「そうそう勝負事は熱くならないと!」
     2人、視線を合わせる。
     夏の終わりに、暑くなってみるのも面白そうだ。
    「スイカ割りしよう! スイカ割り!」
     神楽坂・奏(ナインテイルトランサー・d22742)の提案に、薄紅色の浴衣を着た姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)が首を傾げた。
    「スイカ割りですか。はい、初めてですが頑張らせて戴きま……!?」
     と、言葉の途中で奏がいそいそとセカイに目隠しを始める。
    「あ、あの……神楽坂さん? スイカ割りに本当にその様な準備が必要なのですか?」
     戸惑うセカイの身体をぐるぐる回す。
    「目隠ししてぐるぐる回すのは定番。そしてセカイさんのスイカももいじゃうぞ♪」
     奏はここぞとばかりに、セカイの胸に手を伸ばした。
    「?!」
     激しく動揺したセカイは、ふらふらと千鳥足で進み、見当違いの場所を叩いてしまう。
     してやったり。奏がドヤァとふんぞり返った。
    「あらあら」
     その様子を見て、黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)が苦笑いを浮かべる。
     さて、それでは奏にお返ししようかとも思ったが。
    「ってことは奏ちゃんにもいたずらしていいのかな?」
     牛房・桃子(おだやか桃花姫・d00925)が手をわきわきしながら奏の背後に近づく。
    「今回は桃子さんに譲りましょう」
     りんごが言うと、桃子が奏の胸を持ち上げた。
    「あくまで軽く、ね?」
    「ひゃあんっ!」
     甘い声を上げる奏。
     こうなったら、やられる前にやれだと、奏が桃子に反撃を開始する。
     じゃれ合う仲間を見ながら、りんごはスイカを均等に分けた。
     セカイも、スプーン、紙皿、ナプキンなど手際良く準備を手伝う。
     夏の終わりに食べるスイカはとても甘くて、とても美味しい。
    「甘いだけじゃなくて、ほら、みんなで食べるのも美味しい秘訣だよね」
     桃子が言うと、奏が頷いた。
    「やっぱり夏はスイカだよね。もう終わっちゃうけど」
     実家の近くで取れたスイカが懐かしい、と、しばしふるさとを懐かしむ。
     セカイは赤くなった顔をパタパタと仰ぎ、風を送った。
    「スイカ、ですか」
     自分の胸とスイカを交互に見比べる。
    「セカイさんのはスイカではなくマシュマロですけどね?」
    「えっ?!」
     りんごがくすりと笑うと、セカイの頬は再び真っ赤に染まった。
    「ひゃっほう川辺でスイカとか、ちょー風流じゃん!」
     素足を川に浸した住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)が科戸・日方(高校生自転車乗り・d00353)と長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)を両手で手招きした。
     3人並んで、スイカを頬張る。
     今年の夏は慌ただしく、すぐに終了した気さえする。
    「初っ端から、ダレカさんがどっか行っちゃうしさっ!」
     慧樹が肘で日方を小突いた。
    「つーか、スミケイも兼弘もありがとな。全力で連れ戻しに来てくれたり、こーやって我儘に付き合ってくれたりさ」
     あらかた食べ終わったスイカを脇に置き、日方が2人を見る。
    「二人と知り合えて本当良かったって思ってる」
    「おいおい、今さら何水臭いことって……」
     ぼんやりとスイカを食べていた兼弘が日方へ向き直った。
    「そりゃ、全力で取り戻しにも行くよ。大事なセンパイなんだから……」
     慧樹が頷く。
     瞬間。
    「……てーいっ」
     日方が照れ隠しをするように2人にバシャリ水を飛ばした。
    「って、不意打ち水掛けズルい!」
     水を滴らせながら、慧樹が立ち上がる。
    「冷てっ! マジ水かよ!」
     受けた水を払う兼弘。その顔に、さらなる追撃の水が襲って来た。ニヤリと笑う慧樹の顔が目の端に写る。
    「って言うかスミケイもか!」
    「あ、兼弘サンにも掛かっちゃったぁー? ゴメンゴメン!」
     日方サンへのお返しのつもりだったのになーと、わざとらしく慧樹。
     しかし、どう見ても二人を狙った一撃だ。
    「スミケイやったなー、つか当然ヒーローも参戦だよなっ」
     顔に飛んだ水を拭い、日方が笑う。
    「テメーラ、俺を本気にされたな!」
     兼弘は食べ終えたスイカの皮を持って腰を落とした。
    「喰らえ! ローリングスイカ大回転!」
     そして、思いっきりスイカの皮で水をすくい、2人へぶっ掛ける。
     3人はじりじりと互いの距離を測りながら、水掛合戦を楽しんだ。
    「スイカの種、昔は遠くに飛ばしたりする、なんてことをやった様な気がしますね」
     蒔絵・智(喪失万華鏡・d00227)についた果汁をハンカチで拭きながら、椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)がふと口にした。
    「スイカの種飛ばし、やったもんだねえ」
     のんびりと川に足を浸し、2人でスイカ。たまにはこう言うのも良いものだと思っていた智も、頷く。
    「そうだ、ちょっとやってみようかなつみ!」
    「はい」
     2人で、交互に種を飛ばし合う。
    「おー。飛んだねえ!」
     そこへ紺子が通りかかった。
    「空色先輩、良かったらスイカをどうぞ」
    「わ、ありがとう!」
     紺子が嬉しそうに手を伸ばした。
    「もうすぐ夏も終わりね」
     智は感慨深げに川を見る。
     のんびりまったりと、戦争の疲れが癒えていく様だった。


    「よっしゃスイカだコラァァ!!」
     威勢の良い雨井・戦争(青天の辟易・d04799)の掛け声と共に、デスポエム部のスイカ会は始まった。
    「ス・イ・カ! ス・イ・カ!」
     平賀・直政(シャッテンリッター・d18953)がリズムを取りながら持参した黄色いスイカを掲げる。
    「すげーな、こんなのもあるんだァ」
     直政のスイカを見て雨宮・音(継接硝子・d25283)が目を輝かせた。
    「まあ私の乳のほうが勝ってるけど」
     暁星・成美(コトダマカブル・d04525)がドヤァと胸を張る。色々あって、成美は開き直ってこの台詞をひたすら口にする女になろうと思っているのだ!
    「空真後輩これもカット頼んまーす」
     しかし、わりとスルー気味で直政はスイカを白鐘・空真(デッドマン・d19702)に手渡した。
    「おい先輩がた、あんまはしゃぐなよ? あと食い散らかすなよな」
     直政からスイカを受け取り、空真は周囲を見回す。曲者ぞろいの部員達だ、どう考えてもまともには終わらないと思う。
    「スイカと言えばスイカ割り、という事ですね」
     空真が言っているそばから、ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)が50口径のガンナイフを懐から取り出した。至近距離で当てれば、スイカの一つや二つ霧状に粉砕楽勝と言うわけ。
    「って何やってんだよお!?」
     慌てて空真がツッコミを入れる。
    「スイカ割といえば、古式ゆかしいルールにのっとり、バットを持って回転回転!」
     清潔なブルーシートに優雅に座りこみ、その様子を眺めていたハロルド・ウッドフォード(哀しき吸血鬼・d04433)が声を上げる。
    「って、ハロルドは割らないのかよ?」
     戦争に声をかけられ、ハロルドがポーズを取った。
    「ん? 炎天下でバットを振り回すのはこの儚い美形殺人吸血鬼には似合わないだろう?」
     そうだろうそうだろうと、一人頷く。
     しかしながら、どこからも同意の声は上がらなかった気がする。気のせいだろうか?
    「そうそう、スイカといえば、チクワでスイカ」
     西・辰彦(ひとでなし・d01544)がチクワを手にスイカへ近づく。
    「スイカ割れ……ねえだろ流石に」
     流石にネ。
     と言う訳で、辰彦はチクワとスイカの食い合わせについて実際に食べることによる研究を開始した。
     他のメンバーも、スイカを手に取って食べ始める。
    「いいか、スイカの種食うとな、三日後ヘソからスイカの芽が出てくるんだぜ……?」
    「なっ……」
     神妙な顔つきをして、戦争が音に語りかけた。
    「マジかよ……。種、飲んじゃったよ……」
     そんな恐ろしい事が起きるなんて……! 音は一人青ざめた。しかも、もう、種食べちゃったし。
     呆然とする音の傍らに置かれたスイカが、みるみる他の部員によって強奪されていくが、それさえも気づかない。
    「いや、そんなわけあるかよ」
     塩やすりゴマなどを配っていた空真がツッコミを入れると、ようやく音が我に返った。
    「アレ?! 俺のスイカは?」
     音は辺りを見回し、ただ無言でスイカにかぶりついている成美を見た。
     スイカの皮の山が、一人だけ段違いに違う。
     まさか、犯人では? 音は物凄い勢いでじっっっっっと成美を見た。
    「ワタシ スイカ クウ」
     しかし当の成美は、ただひたすらスイカを食べるだけだった。
    「うんうまいスイカだ。アレだな、チクワの適度な塩分がまたスイカの味を引き立てて……うん……」
     うん、なんだろうか。何ともいえない不思議な顔で、辰彦はチクワとスイカの食い合わせについて研究結果をひっそりと報告した。
    「そりゃー! 水いくぜー!!」
     さて、川に足を浸しながら食べていた直政に、戦争が水をかける。
    「至福のスイカタイムを邪魔する不届き者め! 成敗してくれる!」
     食べていたスイカを脇に置き、直政が応戦の構えを見せた。
     水を掛け合いながら、じりじりと距離を詰め、最後に。
    「って?!」
    「あれ?!」
     2人仲良く、川に転び落ちた。
    「だいじょーぶ?」
     それを見て、助けようと音が手を伸ばした。
     しかし、2人が掴まった瞬間、今度は3人で仲良く川に転び落ちる。
     冷たい川の水に、思わず飛び上がった。
     皆が騒ぐ様子を見ながら、辰彦がポツリと呟いた。
    「夏も終わりだなー」
     それを聞いて、ハロルドが頷く。
    「大変な戦いの後だと、こういう楽しみは日常を深く感じさせるよ」
     スイカ割りに、種飛ばし、川遊び。皆で楽しめるアクティビティだ。
    「ま、こういう騒がしいのも悪くはない」
     表に出すのは恥ずかしいけれど、空真はそう思った。
    「身体が冷えた方は、温かい紅茶を用意していますよ」
     川から上がった仲間に、ジンザが声をかける。
    「あれっ 俺あんまスイカ食べてなくね……?」
     ようやくそのことに気づいた戦争の言葉は、皆の楽しい笑いに変わった。


    「しかし夏も終わりですね」
     しゃくりと、由津里・好弥(ギフテッド・d01879)がスイカをかじった。
    「皆さんはどうでした? ひと夏のアバンチュールとかありました? ふぅーぅ」
     いや、決して、特に思い出が無いのに気づいたわけではないのだ。
     好弥が隣の2人を見た。
    「お、おかしいな。わたし、この夏でオトナのオンナになってる予定だったのに……」
     浴衣姿の武野・織姫(桃色織女星・d02912)が、深刻な表情でうつむく。
    「アバンチュールなんて欠片も……」
     無かった気がする。
    「うん、悲しい思い出は忘れよ! ニア君はどうだった?」
     気持ちを切り替え、織姫はイーニアス・レイド(楽園の鍵・d16652)を見た。
    「アバンチュールかぁ、僕も冒険はなかったかな」
    「ニア君なんてモテモテだったんじゃない?」
    「えっモテモテな思い出!?」
     そんな不埒なこと、あるわけないと、げふげふイーニアスが咳き込む。
     そして、赤面を誤魔化す様に、スイカにかぶりついた。
    「とりあえずスイカを食べるという謎の儀式によって夏を退散、秋を召喚しましょう」
     好弥がまた一口スイカをかじる。
    「今回誘ってくれた織姫さんはスイ閣下の称号をあげます」
    「そっか~わたしはスイ閣下か~わたしを崇めなさい!」
     お礼にと、織姫がスイカを差し出した。
    「イーニアスさんには夏休み明けにハワイで焼いてきたんだって言う役をあげます」
    「ハワイ……それ僕どんなキャラなの!?」
     好弥の言葉にイーニアスがビクッとなる。
    「ほらほら、ニア君、お水とすいかと一緒にどうぞ~♪♪」
    「スイ閣下、スイカありがとうーって、わああ閣下ご乱心……!?」
     織姫から飛ばされた水しぶきを受け、イーニアスが笑った。
    「お返しにえいっ。ついでに好弥くんにもっ」
     スイカを受け取った反対の手で、イーニアスが反撃する。
     冷たい川の水が心地良く、仲間との水かけ遊びはそれだけで楽しい。
     グッバイサマー、こんにちは秋。
     夏が終わり秋が来る。読書にハロウィン。全てが楽しみだ。
     川のほとりでは、まだまだ皆のはしゃぐ声が響いていた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月11日
    難度:簡単
    参加:26人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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