ヒーロー&ヒール

    作者:邦見健吾

    「ふははは! この町は我が輩のものだ!」
     夜の公園に突如現れた黒い影。それは蜘蛛のような手足を生やし、悪の手先みたいな笑い声を上げた。
    「待てダークカンパニー!」
     そこに駆け付けたのは赤いヒーロースーツを纏った何者か。マスクをしているが、体形と声からして一応男のようである。
    「お前達の好きにはさせないぞ!」
    「ここで逢ったが百年目。バスターマン、今日こそ貴様の墓標を立ててくれるわ!」
    「うおおおお!」
     そして今日も、悪と正義の戦いが始まる。

    「よく来てくれたわねみんな! 事件の説明をするわ!」
     灼滅者たちが教室を訪れると、ピンク色の特撮ヒーローっぽいスーツを纏った野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)が待っていた。
    「都市伝説が夜の公園に現れるのを特定したわ。みんなにはその都市伝説を倒してきてほしいの!」
     ヒーローと悪の秘密結社が日夜暗闘を続けている、という内容の都市伝説で、ヒーローと悪の怪人が出現して戦闘を行う。このヒーローと怪人はセットで1つの都市伝説という特殊な性質を持っている。
    「今のところ被害は出ていないが、いつ人間が巻き込まれるか分からない。だから今のうちに倒してきて!」
     このヒーローと怪人は体力を共有しており、また相手側に与えたダメージはそのまま自身の体力になる。つまり、都市伝説同士で戦っても永久に決着がつくことはない。またどちらかを倒せばもう片方も自動的に消滅する。
    「ヒーローでも怪人でもかまわないわ。どちらかについて相手側を倒せばいいの。一応挑発して両方を相手取ることもできるけど、あまりお勧めしないわ」
     ヒーローはWOKシールドとバトルオーラ、怪人は鋼糸及び影業と同様の性能のサイキックを使う。
    「あと、敵側の数が多い場合はヒーローは相棒っぽい女の子キャラクターを、怪人は戦闘員を呼び出してくるわ」
     呼び出された女の子キャラクターや戦闘員はヒーローや怪人と違い、特殊な性質はないので普通に倒すことができる。戦闘能力はそこまで高くないので、あまり脅威にはならないだろう。
    「正義が勝つか、悪が勝つか、それはあなたたちにかかっているわ。頑張って!」
     ピシッと腕を伸ばし、ヒーローっぽいポーズを決めながら迷宵は灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)
    武月・叶流(夜藍に浮かぶ孤月・d04454)
    竜胆・山吹(緋牡丹・d08810)
    ゼノス・アークレイド(フルメタルリッパー・d13119)
    園観・遥香(蒼き墓守・d14061)
    久条・統弥(槍天鬼牙・d20758)
    春島・空斗(目指すは変身ヒーロー・d28600)
    氷月・楓(恋する乙女・d29470)

    ■リプレイ

    ●ヒーロー見参!
    「今日こそ息の根を止めてやるぞ! バスターマン!」
    「正義は負けはしない! 来い、ダークカンパニー!」
     公園で相対する、メタリックスーツの正義の味方バスターマンと蜘蛛の姿をした悪の怪人。今まさに、正義と悪の戦いが始まろうとしていた。
    「お待ちなさい、そこの悪党。真のヒロインである私が許さないわ!」
    「!?」
     そこに響き渡る声。怪人が天を見上げると、竜胆・山吹(緋牡丹・d08810)が電灯の上に立っていた。山吹は華やかな衣装を身に纏い、長い黒髪を風になびかせ怪人を指差す。
    「とう!」
     山吹は電灯から高くジャンプしてバスターマンと怪人の間に着地。衝撃を吸収したローラーシューズが火花を散らした。
    「微力だけど手を貸すよ」
     続いて、さながら忍者のように黒いマフラーをはためかせ武月・叶流(夜藍に浮かぶ孤月・d04454)が飛び降りた。近隣の平和のため、近所迷惑な悪は倒さなければならない。
    「フルメタルリッパー・ゼノス! 見! 参ッ! さぁ……死合うとするぜ!」
    (ヒーローと怪人の飽くなき戦い……悪ィが灼滅させてもらうぜ!)
     ヒーローと怪人の姿を目にし、ゼノス・アークレイド(フルメタルリッパー・d13119)の心はロマンと正義に燃えていた。全身を覆うスーツを身に纏い、剣を構えてポーズを決める。
    「俺の名はバスターキッドっす!」
    (ヒーローになりきって戦うなんて燃えるっす! 都市伝説とはいえ惜しいっすけど、人に被害が及ぶなら仕方ないっす……!)
     新たなヒーローを名乗り、ビシッと決めポーズをとる春島・空斗(目指すは変身ヒーロー・d28600)。都市伝説を倒せばバスターマンは消える。けれどそれが正義の、バスターマンのためと拳を握る。
    「ボクの名はえっと……トーヤ! 悪のあるところ正義の味方現る。新たな風がふき……さっさと戦うか」
     久条・統弥(槍天鬼牙・d20758)の名乗りは中途半端になってしまうが、ちゃんとするのは面倒くさいというか、恥ずかしい。でもポーズは決める。
    「何だ君たちは……うわっ!?」
    「あなたの味方よ」
     バスターマンの前で猫が突然女の子になり、ロッドを構えた。氷月・楓(恋する乙女・d29470)だ。ちなみに猫の尻尾を揺らしているのは、猫から変身したということを演出するためである。
    「私はヒーロー支援用アンドロイド、エンミーです」
    「アンドロイド? 博士、そんなものまで作っていたのか!」
     アンドロイドを名乗りさくっとポーズを決めたのは園観・遥香(蒼き墓守・d14061)。バスターマンには博士なる支援者がいる(という設定)らしい。
    「バスターマン。私たちが敵を抑えている間に貴方はパワーをチャージすることを推奨します」
    「チャージ?」
    「あの怪人は貴方の攻撃を吸収する能力があります」
    「なに!?」
    「今のままじゃヤツにアンタの攻撃は通じねぇんだ! ここは俺たちを信じて任せてくれねぇか?」
    「今の貴方では奴を倒すことは出来ないっす! ここは俺達に任せるっす!」
    「俺達が隙を作るから、あんたはトドメのために力をためておく……OK? ヒーローは助け合いってな」
     犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)が仮面を装着すると、雰囲気が年相応の少年から戦士のそれへと一変する。
    「……わかった。君たちを信じよう」
     遥香、ゼノス、空斗、沙雪の説得に応じ、バスターマンが後方で待機する。
    「貴様らが我らの相手をしようというのか。よかろう、ダークカンパニーの恐ろしさ思い知らせてやる。来い戦闘員ども!」
    「「イー!」」
     怪人が手をかざすと、無数の戦闘員が現れ一斉に奇声を上げた。

    ●VS戦闘員
    「覚悟するっす、ダークカンパニー! この町は、お前の好きにはさせないっす!」
     空斗はバスターライフルの機能を使用し、演算能力を最適化。必中の攻撃を放つべく、狙いを定める。
    「闇の力を解放する」
     統弥の胸に紋章が浮かび上がり、内に秘められた闇が肉体を巡り強化を施した。無数に現れた怪人に対し、灼滅者たちが猛攻をしかける。
    「足止めは任せて!」
    「イー!」
     叶流が戦端を切った。銀に輝く銃を連射し、戦闘員の群れを牽制。敵の動きを制限して後続の攻撃を促す。
    「この世に悪の栄える予定はないわ」
    「イー!」
     山吹のエアシューズが火を噴いた。摩擦を利用した一蹴が、戦闘員を薙ぎ払う。吹き飛ばされた戦闘員が木に叩きつけられ、空気に溶けた。
    「私は魔法少女マジカルメイプル……よ?」
    「イー!」
     楓が戦闘員に手をかざすと、戦闘員たちの動きがたちまちに止まった。ピシピシと戦闘員の体が凍り、砕けて散っていく。
    「纏めて倒す……唸れ、ドラグブレイド」
    「イー!」
     沙雪がウロボロスブレイドを振りかぶると、刀身が竜のように渦を巻く。そして刃の渦を敵に向かって解き放ち、戦闘員を切り刻んだ。
    「へっ、ザコがぞろぞろ来やがったか。食らいやがれッ!」
    「イー!」
     ゼノスは沙雪とは対照的に、ウロボロスブレイドを荒々しく振り回す。渦巻く刃が戦闘員を呑み込み豪快に切り裂いていく。
    「アンチスペクターフィールド展開。目標を攻撃します」
    「イー!」
     遥香はアンドロイド「エンミー」に成りきり、淡々と攻撃。霊縛手から展開した祭壇がロボットらしさを演出し、さらにロボットっぽい付け耳が目立つ。
    「鬱陶しい!」
    「イー!」
     統弥のエアシューズのローラーが激しく回転し、勢いのまま周りを取り囲む戦闘員を蹴散らした。吹き飛ばされた戦闘員が彼方へと消えていく。
    「バスター・ビィーーム!!」
    「イー!」
     空斗が必殺技名(サイキック名)を叫び、ライフルから迸った光の束が戦闘員を貫いた。光条は勢いを増し戦闘員を焼き尽くす。
    「戦闘員なんかに負けてられないっす!」
    「むむむ、やるな。ならば我が輩が相手をしてくれよう!」
    「戦闘員がやられるまでじっとしてるなんて怪人の鑑っすね!」
     あっという間に戦闘員を倒した灼滅者たち。しかしその前に怪人自らが立ちふさがった。

    ●VS蜘蛛怪人
    「俺はいつまでこうしていれば?」
    「敵はきっと奥の手を隠しているわ。あなたは切り札だから待っていて!」
    「わ、わかった」
     バスターマンが待ちかねて楓に尋ねると、楓は再び待機を促した。バスターマンは渋々ながらも引き下がる。楓もどこか魔法少女っぽい振る舞いが板についてきたようである。
    「悪の秘密結社ダークカンパニー! お前たちの野望もここまでだッ!」
    「その程度で我が輩を倒そうなど笑止!」
     一気に距離を縮め、刀で一太刀浴びせるゼノス。しかし怪人は足を束ねて斬撃を受け止めた。
    「最後に笑うのは悪だ!」
    「危ねぇ! バスターマン!」
     怪人の放った蜘蛛の糸が雨のように降り注ぎ、バスターマンと遥香を襲う。バスターマンへの攻撃は咄嗟にゼノスが受け止めた。
    「ありがとう、フルメタルリッパー・ゼノス! 大丈夫か、エンミー?」
    「……損傷率30%。想定範囲内、戦闘継続可能です」
     心配するバスターマンに、あくまでアンドロイドとして返答する遥香。どうやらバスターマンは灼滅者たちが考えた設定を信じきっているらしい。
    「炎一閃……我が槍に貫けぬもの無し!」
     真紅の槍が怪人の眼前に迫った。沙雪が槍を振り抜き、炎を帯びた切っ先が蜘蛛の体を貫くと、怪人が全身に纏った糸に炎が燃え広がる。
    「あなた自身の闇に呑まれるといいよ」
     叶流が影の込められた拳で怪人を打ちつけた。怪人から黒い影が抜き出て怪人自身を襲った。
    「怪人を倒すには合体攻撃っす! いくっす、バスターマン!」
    「バスターキッド! 了解だ!」
     バスターキッド、もとい空斗の呼びかけに応じ、バスターマンが前に躍り出た。ここが決め時と判断し、灼滅者たちが次々に攻撃を繰り出す。
    「この間合い、取った!」
    「ぐおっ!」
     沙雪のウロボロスブレイドが怪人を捉えた。絡み付いた刀身をコマのように引き抜くと、無数の裂傷が刻まれ、怪人が空中に放り出された
    「貴方達の野望もここまでよ!」
    「ごふっ!」
     山吹は高く跳び上がり、空中で怪人をホールド。そのまま重力の力を借りて地面を砕かんばかりの勢いで地面に叩きつけた。
    「隙だらけだ!」
    「ぐえっ!」
     さらに統弥が懐に潜り込み、光る拳を連続で打ちこむ。度重なる攻撃に蜘蛛の足がへし折れた。
    「狼の力、あなたに耐えられる?」
    「ぎゃああっ!」
     叶流の腕が狼のそれに変じた。銀に光る鋭い爪が深く食い込み、怪人をズタズタに引き裂いた。
    「これでお終いよ、マジカルメイプルの魔法見せてあげるわ!」
    「行くぞ! バスタァー! スマァッシュ!」
     バスターマンが光の盾を展開し、渾身の力で叩きつける。そしてバスターマンの一撃が炸裂する刹那、魔法によって呼び出された雷が天から怪人を貫いた。
    「ぐおおおおおっ!!」
     断末魔を上げくずおれる怪人。ゆっくりと地面に倒れ、そして轟音ともに爆発を上げた。
    「悪は滅びたわ」
     爆炎を背に、山吹がポーズを決める。清々しいくらい、虚空に向かってカメラ目線を決める山吹であった。

    ●さらばヒーロー
    「ありがとう。君達のおかげでダークカンパニーの怪人を倒すことができた」
     バスターマンの体が光に包まれ、その輪郭がぼやけていく。バスターマンと怪人は2体で1つの都市伝説。怪人が消えれば、バスターマンも消える運命にあるのだ。
    「……どうやら俺はここまでのようだな」
    「アンタはずっとここで戦ってくれてたんだよな。ありがとうバスターマン。お疲れさんだぜ」
    「こちらこそ。俺からも礼を言わせてくれ、フルメタルリッパー・ゼノス」
     バスターマンと握手を交わしたゼノス。バスターマンは虚構の存在に過ぎない。けれどこの手には確かに正義の味方の手を握った感触があった。
    「バスターマン、ご苦労様でした」
    「エンミーもありがとう。博士によろしくな」
    「かしこまりました。伝えておきます」
     遥香、いやエンミーが機械的に答えた。ヒーロー・バスターマンとサポートアンドロイド・エンミーにとって、やり取りはそれで十分なのだ。
    「この街はボク達が守る。だから君は心配しないで」
    「ありがとう、トーヤ。君のように少しダーティなヒーローもかっこいいな」
     ダークヒーローを意識していたことは、バスターマンにも伝わったらしい。戦っている最中はノリノリだったものの、指摘されると照れてしまう。
    「バスターマン、拳を」
    「こうか?」
     空斗の真似をして、拳を突き出すバスターマン。空斗は拳を突き合わせ、心で握手を交わした。
    「この町の平和と人々の夢は、俺達に任せてくださいっす!」
    「ああ、任せたぞ。バスターキッド」
     バスターマンとバスターキッド。2人のバスターの約束はきっと守られることになるだろう。
    「魔法少女という可愛らしいヒーローもいるのだな、知らなかったよ」
    「ヒーローというより、ヒロインかしら?」
    「あっはっは。それは失礼」
     楓の指摘に、バスターマンが謝罪を述べた。ヒーローとともに戦ったことは、楓にとってある意味貴重な経験になるかもしれない。
    「俺はもういなくなるが、悪はまだまだこの世に蔓延っている。だが俺は悔しくはない。俺なんかよりよっぽど強い正義の味方がいるって知ってるからな」
    「お褒めに預かり光栄ね」
     山吹が不敵に唇を歪めた。言葉とは裏腹に、その笑みは強くて当然という自信の表れだ。
    「さらばだ! 少年少女たち! この世界の平和は任せたぞ!」
     バスターマンが背を向けて公園の外へ歩み出す。
    「君達ならできる! 俺はそう信じてるぞ!」
     バスターマンが背中越しに手を振った。一歩離れるごとにバスターマンの姿が透けていき、やがて空気に溶けて消えた。

    「ホントに「イー!」って鳴いてたな~」
     背伸びをしながら、沙雪がぼやいた。戦闘が終わり、仮面を取ればそこにいるのは年相応の少年である。
    「今日は早く帰ってゆっくり休もうかな。明日のためにも」
     と叶流が呟くが、疲れたからであって、さっきの戦いを思い出すと恥ずかしいからではない。きっと。
    「早く帰るっす! 朝起きられないとヒーロー失格っすから!」
     空斗の言葉にどっと笑いが起きる。そしてそれぞれの正義を胸に、灼滅者たちは正義と悪の戦場を後にした。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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