暗い路地に、2人の少女の姿が浮かび上がる。1人は幻想的な衣装に身を包んだ少女。もう1人は、十代半ば頃に見えるツインテールの少女。
ただしツインテールの少女は首が切断されており、自分の首を両手で持って支えている。
「あはは、運の悪い時に戦うもんじゃないね~」
「大丈夫、私にはあなたが見えます。灼滅されて尚、残留思念が囚われているのですね」
「アンタ誰? 幸運の女神様?」
「私は『慈愛のコルネリウス』。傷つき嘆く者を見捨てたりはしません」
「へえ、そうなんだ。もしかして私ってラッキー? 不幸中の幸いってやつ?」
「……プレスター・ジョン。この哀れな殺人者をあなたの国にかくまってください」
「強力なシャドウ、慈愛のコルネリウスが倒されたダークネスの残留思念に力を与え、プレスター・ジョンの城に送っているのはご存じの方も多いと思います」
冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)の言葉に、教室に集まった灼滅者が頷く。
「コルネルウスが以前灼滅された六六六人衆、当時六四〇位のヒガノ・センカの残留思念に接触するのを予知しました。センカを再び灼滅してください」
コルネリウスに力を与えられた残留思念はすぐに事件を起こすわけではないが、放っておけば何をしでかすかわからない。特に六六六人衆は危険であるため、早急に灼滅することが望ましい。
「なお、コルネリウスは幻像であり戦闘力はありません。灼滅者に対して不信感を持っているため交渉も不可能でしょう」
また、コルネリウスによって力を与えられたセンカは、生前と同等の力を発揮する。以前は無事灼滅できたとはいえ、相手は六六六人衆。油断や慢心は即ち命取りとなる。
「センカの武器は鋭く伸びた爪です。殺人鬼と同様のサイキックのほか、爪を使っての連撃やシャウトも使用しますので注意してください」
撤退しやすいよう立ち回るなど、生前は狡猾な面もあったセンカだが、今回は逃走はしない。センカがそっくりそのまま蘇ったわけではない、ということなのだろう。
「慈愛のコルネリウス……あくまで個人的な感想ですが、彼女の慈愛が全く理解できないとは思いません。同時に理解しがたいとも思いますが」
人間の内より出でるものとはいえ、ダークネスの思考は人間のそれとはかけ離れている。ダークネスを理解するには相当の困難を要するだろう。
「コルネリウスの意思がどうであろうと、センカは危険なダークネスです。くれぐれも油断されないように。……それではお気を付けて」
緑茶を一口含み、蕗子は教室を後にした。
参加者 | |
---|---|
伊舟城・征士郎(弓月鬼・d00458) |
椿森・郁(カメリア・d00466) |
黒崎・白(黒白の花・d11436) |
八神・菜月(徒花・d16592) |
白鳥・悠月(月夜に咲く華・d17246) |
山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836) |
天道・雛菊(天の光はすべて星・d22417) |
ハレルヤ・シオン(ハルジオン・d23517) |
●少女の残滓
灼滅者たちが現場へ向かうと、そこには2人の少女がいた。1人はシャドウ、コルネリスス。そしてもう1人は、六六六人衆元六四〇位、ヒガノセンカ。その姿はまだ蜃気楼のようにおぼろげだ。
「あれあれ? もしかして私を殺した人達の仲間かな?」
センカが灼滅者たちの姿を認め、手に持った首だけを動かして振り返る。
「うふっ、見事に首、切れちゃってるんだねえ。ボクも身体ツギハギしてるから、センカチャンとお揃いだあ♪」
「なんか君、見るからに危なそうじゃない?」
ハレルヤ・シオン(ハルジオン・d23517)は体中に刻まれた傷跡をなぞりながらサウンドシャッターを発動。嬉々とした表情のハレルヤに、センカが少し引きつった笑みを浮かべる。
(「懲りませんね。コルネリウスも、六六六人衆の彼女も」)
センカの様子を眺めながら、伊舟城・征士郎(弓月鬼・d00458)が眼鏡の位置を直した。どうせ言ってやめるような相手ではない。飽きるまで何度でも付き合ってやるだけだ。
(「一方的に哀れまれるのってなんか癪に障るね」)
救済として正しいのかはさておき、椿森・郁(カメリア・d00466)がそう思ったのは事実だ。コルネリウスのやることをすんなりと認める気にはならない。
(「もう一度倒してやれば良いだけの話ではあるのだが……苦労して倒した相手が復活するとなるとやはり厄介だ」)
白鳥・悠月(月夜に咲く華・d17246)は殲術道具をその手に握り、集中力を高める。センカは一度倒したとはいえギリギリの戦いだったと聞く。油断すれば怪我どころでは済まない。
「生きていたら良いことも悪いこともあるって言うけど……死んじゃってる場合はどうなるんだろう?」
綺麗に切り離されたセンカの首を見て、山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)がぽつりと呟いた。良いことも悪いことも死者にもあるとしたら、生と死の境は何なのだろうか。
「ねえねえ、幸運の女神さん。あの人達にやり返したいんだけど、どうにかならない?」
「わかりました」
コルネリウスが答えると、センカの体が光に包まれる。
「来た来たー! なんか力がみなぎってくる!」
光が収まるとともにセンカの体が実体を取り戻し、そして切断されていた首が繋がり、センカが元の姿を取り戻した。この場でやるべきことはもうないと判断したのだろう、コルネリウスの輪郭がぼやけていく。
「待て、コルネリウス」
天道・雛菊(天の光はすべて星・d22417)の呼びかけを無視して、コルネリウスの姿が消えていく。雛菊としては尋ねたいことがあったのだが、問うことができたとしても答えてくれなかったかもしれない。
「ヒガノセンカ復活記念占い! さ、殺し合いを始めよう!」
指から鋭い爪を伸ばし、センカが灼滅者たちに躍りかかった。
●占う先は
センカの爪が征士郎のビハインド、黒鷹を襲った。次々と刻まれる爪の連撃に、黒鷹の体力が一気に削られる。征士郎が回復に回るが、これでは次の攻撃を耐えるのは難しいかもしれない。
「幸先いいね~。吉かな?」
深く食い込んだ爪に手応えを感じたのか、センカは上機嫌に笑った。
「まったく、懲りないことですね」
半ば呆れた表情をしながら、黒崎・白(黒白の花・d11436)が雷を帯びた拳をセンカに繰り出した。その隙に、彼女の霊犬の黒子がダメージを負った黒鷹に癒しの眼差しを送る。
(「コルネリウスも残留思念ももう飽きた。コルネリウスって他にやることないの?」)
コルネリウスが残留思念に接触する事件はこれで何度目か。八神・菜月(徒花・d16592)はめんどくさそうに溜め息をつきつつ、バベルの鎖を瞳に集中、センカの次の手を予測できるよう備えた。
「力に目覚めたせいで青春を戦いに投じている私たちも、灼滅されて残留思念になっちゃったヒガノさんも不幸……これって、もしかして不幸な人たち同士の戦いなのかな」
透流がセンカめがけて拳を振り抜く。しかしセンカは身を低く倒して眼前に迫った拳を軽く躱した。さらに懐に潜り、両の爪で切りつける。
「そう? 死んだらハッピーって私の占いが言ってるよ?」
センカが爪についた血を舐め、透流の顔が苦痛に歪んだ。
「中々しぶといヤツだな。だが安心しろ、今回は蘇ってこれないようにしてやる」
悠月の拳が巨大化。センカは地を蹴り鬼の拳から逃れようとするが、悠月がわずかに早く、避けられなかった拳がセンカに叩きつけられた。
「ツッ! もしかして今日も運悪い?」
「うふふっ、ご苦労サマア。ボクが丁寧に斬り刻んであげるから、またぐっすり眠ると良いよお……♪」
「君、ホントに灼滅者だよね? なんか見た感じダークネスっぽいんだけど」
舌舐めずりしながら迫るハレルヤに、センカはまたも引きつった笑いを浮かべるしかなかった。ハレルヤは背後に回って槍を突き立て、センカの背を襲った。
(「強く思ったことが残り続けて、それが人の形をしているのかな」)
1年以上前に灼滅されたにも拘わらず、なお少女の姿を保ち続けるセンカを見て、郁は思った。手に持つ刀を振り下ろしながら、自分が死んだらどんな思いを残すのだろうとそんな疑問がふと頭をよぎった。
雛菊はセンカ目掛けて踏み込むと、抜刀と同時、横薙ぎに見舞った。刀がセンカに触れた瞬間、刃に秘められた影はひらひらと舞ってセンカに吸い込まれていく。
「相変わらずめんどくさいね、君達。でも私もわかってきた。これで……」
センカの姿が消える。次の瞬間には黒鷹が爪で貫かれて消滅した。
「1つ」
センカは爪をじゅるりと舐め、次の狙いを定めた。
●凶の運勢
六六六人衆とはいえ、元々上位でなかったセンカでは数の不利を覆しがたく、灼滅者たちは次々とセンカを攻めたてる。
「菜月、行きますよ」
「はいはい」
白の呼びかけに、菜月がいやいやといった感じで応えた。菜月は杖を構えて踏み込み、白はローラーシューズを駆って背後に回り、同時に攻撃を放った。フォースブレイクとグラインドファイアが前後からセンカに直撃する。
「もっと予測を超えた行動できないの?」
「しっかりしてくださいよ」
「灼滅者ごときに……とでも言わせれば満足なのかな……?」
前後から非難され、思わずセンカから本音が漏れた。
「これがあなたに送るあの世への片道切符。トールハンマー……!」
ロケット推進器を噴射し、透流が真上から雷神の名を付けた強烈な一撃を見舞う。センカは爪を重ねて防御を試みるが、鉄槌は爪をへし折りセンカの体を撃った。
「君、散々邪魔してくれたよね」
自身の防御を無視してでもセンカを妨害しようとする透流の存在は、回復する暇のないセンカにとって非常に鬱陶しいものだった。
「だけど」
センカの爪が再び鋭く伸びる。
「これでさよなら!」
「!!」
センカが爪を振るう。何重にも重なった斬撃が刻まれ、透流が地に伏した。透流が自身の身を顧みなかったこと、そして中衛への回復が薄かったことからセンカは攻撃を集中させ、ダメージが蓄積したところを一気に刈り取ったのだ。
「ふう~、これでやっと1人か~」
しかし今までにセンカが負った傷も少なくない。以前の戦いから灼滅者たちが成長していることもあり、戦況は依然として灼滅者有利といえるだろう。
「君達の運勢はどうかな?」
「占いはあんまり信じてないの。良いことでも悪いことでも振り回されないように」
郁はうろたえず、足元から影を伸ばしてセンカを狙う。影は植物のツタのようにセンカの四肢に絡み付き、締め付けるとともに動きを奪った。
「そろそろ終わらせよう」
悠月が弓、いや弓状に湾曲した杖を携え、センカに肉迫する。低い姿勢から突き出された杖の一撃がセンカの体を打ち、同時に体内に魔力を流し込んで追撃を加えた。強烈な衝撃が走り、全身の傷口から瘴気が溢れ出る。
「これじゃ勝つのは無理そうだね。だから――」
度重なる攻撃を受け、数々の呪縛を食らい、センカは既に満身創痍。だが敗北は決定的にも拘わらず、センカは口だけで不敵な笑みを浮かべた。
「一緒に死んで! 君、大凶♪」
そして目を見開き、爪を立てて倒れた透流に迫った。
●夢より覚めて
「どうやら今回も、「運が悪かった」ようですね、ヒガノ様」
「またこのパターンかー」
透流の命を絶とうとした爪の一撃を、間一髪、征士郎が受け止めたのだ。光の盾を振るって爪を払うと、至近距離から霊体化した剣を突き立て、センカの黒い魂を深々と刺し貫いた。
「もう終わりですか」
「そっちが終わらせるんでしょ」
白の放った鋼の拳が、センカの胸を打った。センカは半ば諦めたように、棒立ちのまま衝撃ではね飛ばされる。
「結局、つまんなかったね」
「やっぱ8体対1ってずるくない? コルなんとかちゃんも手伝ってくれれば良かったのに」
螺旋を描く呪怨の槍がセンカを串刺しにする。菜月のやる気のなさそうな言葉に、センカが負け惜しみのように反論を返した。
「キミの身体、もっとバラバラにしたくなるなあ! その痛み、教えてよ、ねぇ!」
敵を追い詰め悦とするのか、不気味に笑うハレルヤの足元から、漆黒の影が伸びた。影は鋭利な刃へと形を変え、センカを切り抉った。噴き出す鮮血と瘴気が暗い路地を赤黒く汚す。
「介錯だ」
雛菊は地を蹴り壁を蹴り、縦横無尽に跳んでセンカの死角に潜った。そして刀に手をかけ――一閃。占いは嫌いではない。けれどツキは自分の行動で引き寄せるものだと雛菊は信じているから。
「あはは、やっぱこうなったかー」
センカの首がゴロリと地に落ち、一瞬だけ遅れて体が倒れた。
「占いでもなんでもなくて、私の感想なんだけどさー、1つ言わせてよ」
首だけになっても、センカはケラケラと笑う。
「死ねよ、マジで」
そして一言だけ憎悪をぶちまけ、夜闇に消えた。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう……」
倒れた透流を、征士郎が助け起こす。幸い、傷は深くなさそうだ。
「すまない、私がもっとしっかりしていれば……」
「いや……そんなことは」
謝罪する悠月の言葉を、透流がやんわりと否定する。妨害能力の高くないセンカが数に勝る灼滅者に勝利するには、1人ずつ沈めていくしかなかった。回復の薄い中衛にいた透流が狙われたのは当然のことといえるかもしれない。
センカが攻撃を集中した結果、大きなダメージを受けたのは透流と防御に回った灼滅者たちだけだった。センカがこちらの情報を持っておらず、戦闘中に目標を定めたことを考えると、情報と作戦の重要さが分かるというもの。
「とりあえず、帰ろっか」
郁の呼びかけに、灼滅者たちが頷く。より強い敵だったなら、全員無事だったかどうかどうかわからない。それでも今日の勝利を胸に、灼滅者たちは帰還した。
作者:邦見健吾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年9月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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