武蔵坂学園内掃討戦~マゾヒスティック・スレイヴ

    作者:志稲愛海

     三竜包囲陣を灼滅者達に食い破られ、戦争の勝敗が決した今も尚。
    「ボスコウ……ただ特殊能力があるだけで成りあがった、あのろくでなしのクソ野郎め」
     あてもなく武蔵坂学園の校舎内を彷徨うその男は――奴隷であったヴァンパイア。
     ボスコウが灼滅され、嵌められた首輪が消滅したその時。
     奴隷ヴァンパイアの多くは、解放の喜びに一瞬、気持ちを高揚させた。
     だが、そんな奴隷の中にも例外はいたのである。
    「く、しかしヤツのあの『奴隷の首輪』は格別だったのに。あんな成りあがりの高慢ちきな小物男爵如きに、縛られ、蔑まれ、辱められるパラディ……! あの屈辱感と恍惚感の絶妙なアルモニー……!! それをもう味わえぬとは、何たることだ!!」
     興奮気味にそう叫んだ後、血が滲むほど唇を噛み締め、ギリィッと歯を鳴らして。
     趣向が極端に歪んでいるらしい『シヤン』と名乗るそのヴァンパイアが、追い詰められ、辿り着いたその場所は――学園の音楽室であった。
     そしてこれまで校舎内を逃げ続けていた彼は、その足をふと止めて。
    「ふふふ……ははは、灼滅者、か! なり損ないどもが今度は、あのろくでなしなボスコウ以上に、この私の欲求を満たすようなエクセレントな存在と成り得るのか!!」
     狂ったように笑い出すと、作り出した闇に潜み、マントをバサリと翻して。
     悪趣味な意匠があしらわれた、冷たく閃くナイフを構えるのだった。
     

    「あの爵位級ヴァンパイア3体の襲撃を防ぎきったなんて本当にすごいね! サイキックアブソーバーを護ってくれて、みんなありがとう!」
     武蔵坂学園の勝利を喜び、集まった皆を見回して礼を言ってから。
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は、その後の学園内の状況を語る。
    「それで作戦が失敗したことでね、爵位級吸血鬼と一緒に、大体の敵戦力は武蔵坂学園から撤退していったんだけど。でもね、撤退できなかった一部のダークネスが、まだ学園内に取り残されているんだ」
     現在、取り残されたダークネスは、校舎内や校内施設に籠城や潜伏している状態なのだという。勿論、そのようなダークネスをこのままにしておくわけにはいかない。
    「だからみんなには、そんな残敵の掃討をお願いするね」
     そして今回倒すべき相手は、学園に取り残された奴隷ヴァンパイアの一人。
    「そのダークネスは、シヤンって名乗っている、ボスコウの奴隷だったヴァンパイアなんだけど。ちょっと、趣向や思考がイッちゃってる野郎なんだよね」
     マゾヒスト、いわゆるドMってやつ? と。遥河は苦笑しつつも、未来予測を語る。
    「シヤンは戦闘になると、ヴァンパイアのサイキックと、得物の解体ナイフのサイキック、シャウトを使ってくるよ。相手はヤツひとりだけど、首輪の束縛から解放された強力なヴァンパイアだし、色んな意味でちょっとぶっとんでる性格みたいだから、十分気をつけてね。そしてシヤンは音楽室で戦闘準備を整えつつ、灼滅者のみんなを迎え撃とうと潜んでいるから。油断せず接触して、灼滅をお願いするよ」
     戦場となる音楽室内は、机や椅子は片付けられた状態で、ピアノなどの楽器も教室の隅の方に置かれており、戦闘の障害になるようなものは特にないという。ただ、分厚い防音カーテンを全て閉めきり、教室内の灯りを消した状態でシヤンは潜んでいるようなので、接触する際どう動くかなど、慎重に作戦を立てて欲しい。
    「敵は追い詰められた状況だけど、窮鼠猫を噛むって言葉もあるしさ……充分に注意が必要な相手だよ。それにもしも勝利が難しい場合は、学園外への退路をあけて逃走が可能な状態にすれば、ヴァンパイアは逃走を優先するかもしれないから。念のため、色んな状況に対応できる作戦を考えておいてね」
     戦争で勝利を掴んだみんなが、ダークネスを学園から無事に追い出してくれれば、と。
     そう遥河は、改めて灼滅者達を見回してから。
    「オレ、みんなのこと信じてるからさ。敵の掃討、よろしくお願いするね」
     そうモーヴの瞳を細め、皆を送り出すのだった。


    参加者
    周防・雛(少女グランギニョル・d00356)
    黒咬・昴(叢雲・d02294)
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)
    虹真・美夜(紅蝕・d10062)
    雁音・夕眞(夜陰の向・d10362)
    雨霧・直人(はらぺこダンピール・d11574)
    中津川・紅葉(咲き誇れや風月の華・d17179)

    ■リプレイ

    ●漆黒オーバチュア
     漆黒の闇に覆われた世界を好むという、夜の貴族・ヴァンパイア。
     いや、闇を好むのは、貴族だけではないらしい。
     身も、そして心も首輪に支配されていた元奴隷でも、例外ではないようだ。
     廊下からは何も窺えぬ、暗闇に支配された音楽室。その闇の中に、1体の元奴隷ヴァンパイアが潜んでいるというのだ。
     それに。
    「……オベロン、ティタニア。ヒナはどうしてこう、頭がキ印な御方とご縁があるのかしら」
     ……嗚呼、頭痛が、と。
     細い指で操る糸の先、じゃれる様に遊戯ばせたドールズにそう呟くのは、周防・雛(少女グランギニョル・d00356)。
     雛がそう零すのも無理はない。イカれた兎を先日漸く灼滅出したかと思えば、今度の相手は、偏った性癖を持つ吸血鬼だという。
    (「マゾい人って話だけどどんな感じかな?」)
     既にマゾい人にはいまいち興味ないんだけど、と。
     そうふと首を傾けるのは、水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)。
     そう……今回は、強いマゾヒズムを持っている相手なのだという。
    (「ふうん……俺の知っている吸血鬼は、皆どちらかというとサディスティックな趣味の持ち主が多かったが。……こういう奴もいるんだな」)
     一見すると優し気な雰囲気を纏うが。先天的な吸血鬼であるという彼自身も、本質は実は、加虐嗜好寄りであるからだからなのか……雨霧・直人(はらぺこダンピール・d11574)は、マゾヒストな吸血鬼に物珍しさを感じながらも。
    (「……だが、結局は自分の気に入った奴が自分の思い通りに行動しないと気が済まないタイプなのだろう。道楽に付き合う義理はないな」)
     ……まあ、せっかくならノらせてもらうが、と。
     母の祝福を宿し、彼の身にも受け継がれ流れる血の色と同じ。その手に握るロザリオを繋いだ数珠と良く似た赤の瞳を、ふっと細めれば。
    (「わたしは……M男さんを……悦ばせる事……に……専念させて……頂きましょう……」)
     見た目のんびりおっとりしている西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)も、そんなサディズム心を無意識的に抱きつつ、仲間と共に音楽室の前で足を止めた。
     敗戦の際、学園から撤退し損ねた吸血鬼。
    「なぁんで残ってまうんよ、どんくさ。さっさと逃げればええのにねぇ……」
     いつも浮かべる薄ら笑いこそ絶やさぬも、学園内の残党に嘆息する雁音・夕眞(夜陰の向・d10362)だが。仕事は仕事、一つずつ確実に片付けるべく、近くの教室で抜かりなく灯りのスイッチの位置を確認して。
    (「本来ならヴァンパイアには聞かないと行けない事あるんだけど……先の戦いの中でも弟は居そうになかったし」)
     虹真・美夜(紅蝕・d10062)も一緒に、スイッチの位置等を把握した後。
    「何かこんなのが宿敵かと思うとイライラするから、さっさと殴ちゃっていいかしら?」
     二手分かれた内、音楽室の前の扉の方へと、素早く位置取る。
     今回の作戦は、前後二つある扉から同時に突入、敵を引きつける班と照明を点ける班に役割分担するというもの。
     中津川・紅葉(咲き誇れや風月の華・d17179)はめーぷると一緒に、後ろの扉の前で待機しつつも。 
    「どえむさんの相手は初めてだけどこっちはどえす揃いよ、負けないわっ♪」
     頑張りましょう♪ と、前方扉班の先陣を切る黒咬・昴(叢雲・d02294)に微笑んで。
    「おねーさんにまかせなさい!」
     昴は後方扉班の先頭に立つ夕眞とタイミングを合わせながらも、たのもう! と。
     闇に支配された音楽室へといざ、足を踏み入れる。

    ●偏狭パラフィリア
     暗闇に交差するのは、懐中電灯の灯りと揺れるカーテンから洩れる光。
     そして……確実に、元奴隷ヴァンパイアはこの教室のどこかで息を潜めていて。
     今か今かと、自分達に襲い掛かるタイミングを窺っているに違いない。
     決して気を抜かず、室内へと素早く突入してから。
     闇の中、スイッチを探す前方班とシヤンを探す後方班。
    「別の教室だと、確かこの辺に……あっ」
     そして予め皆と下見していた瑞樹のヘッドライトが、壁にあるスイッチを照らして。
     すかさず駆け寄り、腕を伸ばした――その時だった。
    「!」
     いち早く物音を察知した直人が視線を向けたのは、彼自身日頃からよく触れているピアノ。仲良しな友人とピアノで合奏協奏曲を楽しむ事もある昴も、ハッとその顔を上げると。
    「……ッザケンナゴルァ!!」
     避ける事は叶わぬまでも、急に襲ってきた刃を凌ぐべく得物をぶん回して。
    「貴方なんてどえむさんで十分っ!」
     瑞樹の手によって灯りが点いたと同時に、紅葉はめーぷると一緒に、そう指さしビシッ!
     昴へと護符を飛ばしながらも、姿を現したシヤンへと言い放つ。
    「存分にいぢめてあげる、楽しんでいってねっ!」
     既にマゾい人には興味はないけれど、反抗的な目で見てくれるのならば好みだと。
     イグニッション――そうカードを掲げ能力を解放した刹那、瑞樹は、容赦なく顔面を狙った凄まじい膂力の拳を繰り出しつつも。
    「既にマゾい人にはいまいち興味ないんだけど。ああでも、貴方はどっちの方かな?」
     精神的な方? 肉体的な方? そう、シヤンに尋ねてみる。
     そしてひらりと強烈な殴打をかわした後、血の如き色をした目を爛々とさせながら。
    「どっちとは……決まっているだろう? そのどっちも、だ!」
     プレジール! と両手を天高く突き上げつつもやたらどや顔で答えたシヤンに。
    「それだけ言い切るのなら、少しは楽しませてくれるってことなんだろう?」
     ふふ、それは楽しみだ、と。
     そう、むっつりサディストな本性を垣間見せた直人は。
    「さあ……断罪の、時間だ」
     胸にロザリオの十字架を抱き、赤き月の様な加虐さを密かに孕む瞳を敵へと向けて。彼の被虐性欲をくすぐるかの様にその身を縛らんと、ぐんと闇夜に飛ぶ蝙蝠かの如き影を伸ばす。
     そして、スッと仮面で顔を覆いつつも。
    「嗚呼、滲み出るこの残念さ。……いたぶり甲斐がありそうですこと」
     丁度いいわ、ここは音楽室よ、と笑みを宿した雛は。
    「精々よい声でお啼きなさい。貴方の嬌声はさぞよいBGMになるでせう?」
     ――オイデマセ、我ガ愛シキ眷属達! サァ、アソビマショ!
     そう、オベロンとティタニアを戯れる様に伴いながら。潤沢なフリルを躍らせ、音も無くシヤンの死角に入った瞬間、その足を奪うべく鋭い斬撃を繰り出して。
     さらに眼前の宿敵を狙うは、美夜の銀に閃く鋭い爪の一撃。
    「あんたの性癖なんて別に聞きたくもないし、イライラするから早く消えて」
     突入した扉に鍵をかけ背にしながらも、自分の異常嗜好を恥ずかし気もなく言い放った変態へ、容赦ない衝撃と冷たい視線と言葉を投げれば。
    「M男さん……首輪が欲しい……の……ですよね……?」
     事前に色々と下調べをしたという玉緒の影が、ノリノリでM男を虐めんと伸ばされた瞬間。
    「ふ……んっ!」
     首輪、という言葉にぴくっと反応を示し、幾重もの影に縛られて思わず声を漏らすシヤン。
     そんな彼を十分にいぢめて弱らせれば、もしも逃亡を許したとしても、少なくとも一般人を襲う可能性は低いのではと。玉緒は露出過多な巫女装束の袖を翻し、たゆんと色々たわわな部分を揺らしながら、徹底的に相手を責めるべく最前線へと位置を取って。
    「俺、苛められて喜ぶ子は趣味やないんよねぇ……」
     逆に、興味がなさそうに言った後。
    「どうしてもってんなら、奴隷にしてあげてもええけど?」
     鬼儺――そう静かに紡がれた刹那。
     まさに追儺を成すかの様に、夕眞から放たれた破邪の白光が戦場に満ちる。
    「なり損ないの奴隷か。確かに、その屈辱感を考えるとゾクゾクするな……!」
     シヤンはそんな灼滅者達の言葉に、ふっと笑みを宿しながらも。
    「しかし……それは、私に屈辱感を味あわせる程のエクセレントな力を貴様等が持っていれば、の話だがな!」
    「!!」
     前衛の灼滅者を一気に巻き込む、強烈な竜巻を発生させて。全身を駆け巡る毒が、受けた者の身をじわじわと侵していく。
     その力は、元奴隷であってもやはりダークネス。
     虐めるにしても、一筋縄ではいかないようだ。
     だが強敵だからといって、怯んでなどいられない。
    「そんなにどMというなら物理的にも精神的にもぼっこぼこに苛め抜いてあげるわ!」
     戦争による残党をできるだけ逃がさず掃討すべく、皆と連携し合って。
     カバディカバディ包囲包囲、と昴はシヤンの周囲をぐるり囲んでいきながらも、炎燃え盛る蹴りを相手へと繰り出す。

    ●享楽ラファン
    「ノン! もっともっと熱いパシオンを感じるように、深く奥まで……こう! こうだッ!!」
     大きく首を振ったシヤンが持つ刃が。変形し、禍々しい緋色を帯びたと思った瞬間。
    「……!」
     飛び散るは、鮮やかな赤き飛沫。
     シヤンの振り下ろした紅蓮斬から、咄嗟に仲間を庇った夕眞だが。
     血が飛沫いたその傷を塞ぐべく、すぐさま青白いダイヤを浮かび上がらせて。
    「勝手に自分の趣向に走るのはかまへんけど、人にまで押し付けんといて」
     めんどくさーと呟きつつも、余裕に見える薄笑いを絶やさない。
     灼滅はあくまで仕事、命を懸けるつもりもないが。確実に片付けるべく盾に徹し、今回担う役割に対して、細心の注意は忘れていない。
     そしてマゾヒストではあるが、シヤンはただ誰彼構わず痛めつけられればそれでいいというわけではないようで。直人が見抜いていたように、結局は自分の気に入った相手が自分の思う通りに行動しないと気が済まないという、傍迷惑で面倒臭い拘りを持っているようだ。しかも元奴隷とはいえダークネスであるその力は決して侮れず、気を抜けば逆に血の海に沈められてしまうかもしれない。
     だが。
    「そちらのシュミ……は……ありませんので……わたしもご遠慮させて……頂くのです……」
     そんな面倒な趣味に合わせる義理はない。
     相手が拘りのドMならば、此方もそれぞれ拘りのドSに徹するのみ!
    「! ぐふ……っ」
     固められた玉緒の重い拳が容赦なく腹部に突き刺さり、思わず瞳を見開いたシヤンに。
    「敗残兵の癖にこそこそと、隠れて生き恥晒しやがって……この、このど低能ぐぁー!!」
    「絡め取って、ぎっちぎちに縛ってキュッ☆ よ」
     たたみかけるように昴が炎の拳でぶん殴りにかかり、同時に楽しそうな笑顔を宿しながらノリノリで、相手を伸ばした影で縛りにかかる紅葉。めーぷるも盾となり前に立ちながらも、一生懸命皆がシヤンを集中してボコれるよう頑張り、ぷーっとふわふわハートを飛ばして。
    「くふ……今のはちょっとパシオンを感じたぞ! でもまだまだ、もっとだ……!」
    「フェルムタギョル! その汚い御口を塞いでお仕舞い、アーレ!」
     そのお人形のような顔からは想像もつかないほどに。お黙り! ときつく一喝して。
     ドールズを向かわせつつ、ご要望通り、さらに状態異常を付与しにかかる雛。そしてシヤンの瞳に、屈辱と恍惚の色が徐々に滲み出てきて。
    「その表情は悪くないかな? 気の強い人の身体の自由を奪ってイロイロして、それでも反抗的な目で見られたらゾクゾクするよね」
    「! あぐっ……!」
     内側からじわじわ攻め立てるべく、傷を抉るように神霊剣を見舞う瑞樹。
     心の底から屈服させたいってすごく燃えるよね、と。
     だが、シヤンもただ衝撃を受けるだけでなく。もっと強い攻撃を仕掛けて来いと煽るかのように、毒を帯びた強烈な竜巻を巻き起こし、変形した鋭利なナイフの刃でさらに灼滅者達の傷を広げ、緋色の斬撃を繰り出してきて。回復を担う紅葉は勿論、手が足りない場合は自ら傷を塞ぎ、倒されぬよう必死に踏ん張る灼滅者達。
     しかし時間が経つにつれ、色々な意味で攻めの姿勢を崩さず手数も圧倒的に多い灼滅者達が、シヤンを心身ともに追い詰めていく。
     そして、女性陣のドSっぷりに負けじと。
    「格下に蹂躙されるのがそんなに気持ちいいか? はしたないな」
     敵の懐に飛び込み、魂と肉体の境界を穿つように。サンザシの木で作られた杭で、敵の死の中心点を貫いた直人は。
    「どうしたいんだ? どうしてほしいか、ちゃんとその口で言わないとわからないだろう?」
     衝撃だけでなく、言葉でもシヤンをじわじわと攻めにかかって。
    「もっと、もっと! エクセレントな刺激を……!」
    「……黙っていろ、興が醒める」
     ふっと、普段穏やかな印象である瞳に一瞬蔑んだような色を浮かばせ、今度はそう冷たく突き放す。
     そして、相手を赤に染める為だけに在る注射針が、シヤンの身体にクリムゾンの毒を注入して。
    「ね、あんた。紅魔ってヴァンパイアを知ってたら答えなさい」
     思わず倒れこんだ相手の頭をぐりぐりとヒールで踏みつけながら、そう見下ろし尋ねる美夜。
    「あ……ああ!」
     だが恍惚の表情を浮かべるだけのシヤンの様子を見て、役立たずと言わんばかりにガッとその身を蹴り転がして。
    「灼滅者風情……に……良い様にされて……さぞかし……お悔しい……でしょうね……? んん……そんなM男さんには……おしりペンペン……も……良さそう……ですね……」
     転がるシヤンに見舞われたのは、玉緒のおしりぺんぺんという名の眩い拳の連打。
    「――あら……? もしや……悦んで……おいで……なので……? ふむ……とんだ……○○野郎……なのです……」
    「てめぇのよーなぁっ! 負け犬もやしがっ! はむかうなんてなーっ! 100光年早いんだ、スッゾコラーッ! ヤキイレタル!」
    「全然! これで終わりじゃないわっ♪」
     玉緒に言葉でもなじられ、さらに手を抜かない昴と紅葉の連携攻撃に、堪らず天を仰ぎ鳴くシヤン。
     だが、それでもまだダークネスは懲りず、強烈な攻撃を放ってくるも。
     傷を抜かりなく塞いできた灼滅者達の致命傷にはならず、逆に、先端に円錐や角錐を備えた鎖を成した瑞樹の影に縛られ、さらに追い詰められて。
    「立派な御口を叩いていたのに、今ではこのザマ。動けないでせう? 悔しいでせう? しかも……ほぉら、こんな姿を皆が見ている」
     サヴァ……いかが? と。
     めーぷるのふわふわハートが飛ぶ中、にっこりと地に這い蹲る彼に微笑んでみせる雛。
     だが――もうそんな戯れも、いい加減終わり。
    「お楽しみのところ悪いんやけど、ちょっと飽きてきたわー」 
    「!!」
     『仕事』を終わらせるべく放った夕眞の魔力を帯びた一撃が、モロにシヤンの身に叩き込まれ、大きく爆ぜた刹那。
    「気持ち悪い変態野郎は、いい加減消えて」
     堪らずその身を激しく揺らした宿敵に美夜が見舞ったのは、纏った『畏れ』を解き放つ鬼気迫る斬撃であった。
     そして。
    「! は、あ……っ!」
     その重い一撃を浴び、びくりと一瞬その身を震わせた後。
     屈辱感に染まった赤の瞳から光が消えて。
     元奴隷ヴァンパイアは、無様に地に崩れ落ち、灼滅されたのだった。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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