青い寄生体を纏ったデモノイドロードは、己の身の危険の認識から生じている高鳴りを押さえるかのように胸を掴みながら、人気の少ない体育館裏に身を潜めていた。
敵の陣地を攻め入ったまではよかった。
けど、結果はどうであれ、負けた。
ヴァンパイアの勢力に所属していた彼は、かの戦い後の混乱の中、逃げ遅れたのだ。
デモノイドロードはずるずるとその場に座り込んで、悔しそうに眉間に皺を寄せて歯を軋ませ、ひとつ舌打ちを響かせた。
「ここまでとはな……。灼滅者ァ!」
逃走中の身だというのに、思わず叫び声がもれる。
どうしても吐き出しておきたかった苛立ちだったのだ。
そうして男は上がった息を整えるように、深く呼吸を整え、用心深く辺りを見渡す。
また灼滅者の影も気配もない。
しかしデモノイドロードは己の利き腕に飲み込んだ武器を露にする。
そしてひとつの決意をする。
見つかるようならば、戦うのみだ――。
「みんなのおかげで、無事に爵位級のヴァンパイアからサイキックアブソーバーを守ることができたよ! 本当にありがとう!」
天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)は教室に集まった灼滅者たちを笑顔で迎えた。
敵軍のサイキックアブソーバー強奪作戦が失敗したことにより、爵位級吸血鬼と共に多くの勢力は学園から撤退していった。
けれど撤退できずに取り残されたダークネスがまだ学園内に潜んでいる。
「それでみんなには、学園に取り残されたダークネスを倒して欲しいんだ」
それぞれはばらばらに潜んではいるが、相手はダークネス。放っては置けない。
「みんなにお願いしたいのは、デモノイドロード一体だよ」
デモノイドロードは、デモノイドヒューマンと龍砕斧のサイキックを使用する。
「彼がいる場所は、体育館裏。植え込みで息を潜めて隠れているけど、みんなの姿を見つけると先手を取ろうとするから気をつけてね」
もし灼滅者が先にデモノイドロードを見つけることができれば、相手に先手を取られることはまずないだろう。
「取り残されたダークネスだけど、戦闘能力が高いダークネスが多いから油断しないでね。みんなが無事に戻ってくることを祈ってるよ」
参加者 | |
---|---|
大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263) |
平・等(眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡・d00650) |
アリス・ドルネーズ(バトラー・d08341) |
リステア・セリファ(デルフィニウム・d11201) |
リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973) |
クリスレイド・マリフィアス(魔法使い・d19175) |
時雨・翔(ウソツキ・d20588) |
有坂・一弥(雨奇晴好・d28503) |
●蒼を思う
『サイキックアブソーバー強奪作戦』。
灼滅者たちはその凶行を、一致団結して見事食い止めることに成功した。
しかし学園内には、逃げ遅れた残党たちが潜んでいるという。
このチームが任されたのは体育館裏に潜んでいるというデモノイドロード一体。
「デモノイドロード、ですか。逃げ遅れは残念でしたね」
体育館の壁に体をつけて息を潜める五人の灼滅者の一人、アリス・ドルネーズ(バトラー・d08341)は小声で呟く。
「でも私は、敵に情けをかけてあげる様な人種ではないので、速やかに駆逐させていただきます」
学園に残る異分子。それは何としても除かなければならない。
「まったくだ。殲滅しないと気持ち悪くてやってられん」
有坂・一弥(雨奇晴好・d28503)は小声ながらもため息混じりに呟いた。
「それもデモノイド関係ならなおさらだ。問答無用でたたきのめすとしよう」
「リリーの大事な人達に怪我させた報い……、受けてもらわないといけないわ」
立ち膝でしゃがみ身を低くしたリリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)はDSKノーズを使いながら静かに決意を固める。
あの日、敵の襲撃は退けた。
けど、多くの灼滅者が傷ついたのも事実だ。
「応、実は先日の戦い、俺は私用で学園を離れていて、間に合わなかったんだよなぁ」
残党狩りはきっちりやらせてもらわないと、学園を防衛した戦友たちに顔向けできない。
そんな心残りと決意を秘めて、大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263)は、なお一層表情を引き締めた。
その最後尾に構えたのは、リステア・セリファ(デルフィニウム・d11201)。その手にはスマートフォンが握られており、校舎裏の動きに最大限の注意を払いながらも画面チェックも怠らない。
他の四人の灼滅者の手にもそれぞれ、携帯電話やスマートフォンの通信ツールが握られている。
彼らはデモノイドロード対処班。もう一斑の連絡待ちだった。
もう一斑、デモノイドロード捜索兼囮班の三人は、対処班とは反対側から体育館裏の植え込みを覗き見る。
「学園に潜んだままとか、なかなか怖いね~。誰かに危害を及ぼされる前に、危ない相手は倒しておかないとね」
体育館裏を除き見る時雨・翔(ウソツキ・d20588)は、DSKノーズを駆使しつつ小さく呟いた。
特に大事な人に危害が及ぶ前に。そんな気持ちも籠める。
「ホント、まだ残りがいたのね……。無駄に殺す趣味はないけれど、ダークネスとあらば話は別ね」
クリスレイド・マリフィアス(魔法使い・d19175)も小さくつぶやきながら、植え込み付近の足跡やデモノイド寄生体の破片の有無を注意深く確認する。
「くっくっく、勝手に攻め入っておいて逃げ遅れた挙げ句にヤツは今もイライラしてるんだろ? まったく身勝手にも程があるぜ」
平・等(眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡・d00650)は、四面楚歌、しかも己の身の危険を感じ冷静さを欠いているであろうデモノイドロードが愉快で仕方ない。
「お仕置きをしなくちゃな。これもオレ達、灼滅者の仕事だ」
そう口の端をあげて笑うと、メガネの奥の瞳を輝かせた。
この三人の手にも、各々の通信ツールが握られている。
こちらの三人がデモノイドロードの居場所を特定したら、対処班の五人に詳細な居場所を知らせる。その後、三人はデモノイドロードを挑発して誘き出し、出てきたデモノイドロードを対処班が奇襲する。という作戦を取ったのだ。
捜索兼囮班の三人の灼滅者は、可能な限り体育館裏の植え込みを見張り続ける。
一方の、対処班の五人の灼滅者たちも連絡が入るのを待つ。
しかし、刻一刻と時間ばかりが流れていった。
●蒼を狩る
「……時雨クン、デモノイドロードの居場所は特定できたかい?」
いくら待ってもデモノイドロードの尻尾をつかめない。
痺れを切らして等が小声で翔に問う。
「……それが、臭いは感知できるんだけど、細かい居場所までは……」
焦りの色を隠せない翔は、鼻を利かせると同時に目も凝らして植え込みを注意深く見る。
クリスレイドも地面の荒れを注意深く観察し、植え込みの些細な揺れにも注意を払ったが、デモノイドロードがどこにいるかまでは特定できない。
これより先に足を踏み入れなければ、確実に敵がどこにいるかまではわからない。
そう。今回の敵がデモノイドだったらもっと簡単に事は運んでいただろう。
だが、今回の相手は頭のキレるデモノイドロード。
相手も必要以上に近づいてこない灼滅者の前に、ご丁寧に姿を現してくれるほど愚か者ではない。
灼滅者の焦りとは裏腹に、秋口の爽やかな風が木々を、植え込みを揺らす。
灼滅者とデモノイドロードの我慢比べ。
と言う名の、膠着状態が続く。
と、共有していたインスタントメッセンジャーにメッセージが入る。
対処班の勇飛からだ。
『策敵状況は大丈夫か? 何かつかめたか?』
それはなかなか連絡が入らない状況を心配してのものだった。
クリスレイドは小さくため息をつきながら文字を打つ。
『どうやら敵は、こちらから近づかなければ尻尾を出しそうになさそうね』
そう返して数分、対処班から返信が入る。
『奇襲作戦を中止して、正面を切るしかないな』
それは誰もが感じはじめていた路線変更だった。
対処班でも、しばらく話し合われた結果のこの返信だったのだろう。
そして捜索兼囮班の三人も、膠着状態の打開するには、作戦変更が必要だと感じていた。
『いいだろう。タイミングはそっちに合わせる』
等はそう返信してスマートフォンをポケットに突っ込んだ。
サーヴァントを加えれば、対処班と捜索兼囮班の人員は六・六の同数。
しかし捜索兼囮班はサーヴァント使い揃い。
火力的にも対処班に合わせた方が、若干ではあるが有利だ。
その旨のメッセージを受け取った対処班は気を引き締め、リステア、アリス、リリー、一弥はスレイヤーカードの封印を解除する。
勇飛も封印を解除すると同時にライドキャリバーの龍星号を呼び出すと、龍星号は敷地内いっぱいに響く爆音を轟かせ。
合図だ。
それは反対側、同じく封印を解除し武装・サーヴァントを呼び出していた捜索兼囮班にも聞こえ、八人の灼滅者とサーヴァントは一斉に体育館裏に飛び出した。
すると次の瞬間、植え込みの影から青黒い影が飛び出してきたかと思ったら、前衛に立っていた灼滅者を龍の如きスピードで薙ぎ払う。
「……ぐっ!」
「きゃぁぁ!」
灼滅者たちの叫びと倒れる音が響く。
地面に降り立ったのは、デモノイド寄生体で利き腕に斧を飲み込ませたデモノイドロード。
「……やっと出てきやがったか……。灼滅者……!」
猫背気味の肩ではぁはぁと息をして、目は血走り赤くギラギラと輝く。
「……待ちくたびれたぜ」
鼻で笑い、にやっと笑う。
「ナノーっ」
等のナノナノの煎餅衛がふわふわハートで等の傷を癒すと、等はゆっくりと立ち上がった。
「……オマエこそ、オレらの気配に怖気づいて動けなかったんじゃないのか?」
挑発しながら白光を放つ剣で強烈な斬撃を繰り出す。
デモノイドロードは後ろに飛んだが間に合わず、腹に裂傷を受けた。
「……ふっ、ぬかせ! そういうお前たちこそ、なかなか姿を現さなかったじゃねぇか。ビビッて撤退の相談でもしてんじゃねぇのかって思うと、愉快で笑いを堪えるのに精一杯だったぜ」
灼滅者を嘲笑うようにからから笑う。
傷ついても、そのギラギラした表情に変化は見られない。
一見、あまり余裕が無さそうに見えるが、能力はそれなりに高いようだ。
「逃げ遅れであっても立派なダークネスということか。そいつは重畳」
若干不利な状況に、勇飛はあえて笑ってみせる。そして藍の星賢”ソゥ・ユーヒ”を掲げ自分に絶対不敗の暗示をかけて傷を癒す。
龍星号も主人と同じようにフルスロットルで回復。
「『追いつめられた相手ほど恐ろしいものはない』とは、よくいったものね」
「わんっ」
霊犬のリーアの浄霊眼の恩恵を受けたクリスレイド。
「でも、これ以上の油断はしないわよ。完膚なきまでに叩いてあげるわ」
相手を見据えて冷静に告げると、螺旋の如き捻りを放つ槍でデモノイドロードの腕を穿ってみせる。
「……っ!」
「そう、あなたはここでリリーたちに倒されるのよ」
デモノイドロードの背後からDNCブレイカーのドリルを高速回転させ、その身を捻じ切ろうとするリリーだが。
「……そう簡単に、ヤられてたまるかァ!」
寸でのところでその強靭な斧に阻まれ、鈍い金属音が重なり火花が散るが、もう一押しして敵の腕の寄生体を捻じ切る。
「くっ……!」
苦痛に顔を歪めるデモノイドロード。その前に立ちはだかったのはアリス。
「アリス・ドルネ―ズ。九条家執事兼九条家ゴミ処理係り。さぁ、小便はすませましたか? 神様にお祈りは? 隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?」
静かにデモノイドを睨み、己の片腕を半獣化させて鋭い爪を剥き出したが。
「命乞い? 悪いが、まだする気にはなってねェな……!」
デモノイドロードはふっと笑いながらそれを避けて見せた。
「でも、君はここで倒させてもらうよ!」
「わんっ」
霊犬の一心に傷を癒してもらった翔は、クルセイドソードをデモノイドロードめがけて振りかぶる。
その白光の剣は振り向きざまのデモノイドロードの背を裂く。
「そう、ヴァンパイアに利用された挙句、取り残されたバカに、私たちの学び舎に居座ってもらっては困るのよね。だから、切り裂かれてボロ雑巾になってしまいなさい」
リステアはArioch Scytheを構えながら、カミの力によって生み出された強靭な刃をまた背後から食らわせる。背後からの攻撃に一瞬判断が遅れたデモノイドロードの背に一層深い傷がついた。
「……くっ」
完全なる挟み撃ちにデモノイドロードは顔をゆがめた。
一弥が放ったのは白き炎。その炎はアリスとリリーに更なる力を与えると、
「安心しろ。すぐに終わらせてやる」
デモノイドロードに淡々と言い放った。
●蒼を薙ぐ
前に六、後ろにも六。
本来の作戦通りとは行かなかったが、相手を挟み込む布陣で、灼滅者は着々とデモノイドロードの体力を奪っていく。
だが相手も黙ってやられている相手ではない。
「……小賢しいわ、クソガキ共!」
斧を飲み込んだ腕を、リステアに振り下ろす。Arioch Scytheでその攻撃を防ごうとするが間に合わず。
「……きゃっ!」
攻撃をモロに食らったリステアは飛ばされて、地面に叩きつけられる。
「今、回復する」
一弥は縛霊手の指先に集めた霊力をリステア目掛けて打ち出す。
「煎餅衛も回復してやってくれ」
「ナノーっ」
等に指示された煎餅衛も回復に徹すると、リステアの傷が癒える。
翔が飛び出して、殺人注射器の針先をデモノイドロードの肩口に突き刺して生命エネルギーを奪いながら。
「女の子に刃を振るうなんて、最低!」
軽く頬を膨らませると、一心もその背に斬撃を食らわせる。
「……まったく、小賢しいのはどちらでしょう? この際はっきりさせましょうか」
鋼糸のレクイエムを操るのはアリス。巻き付けた糸はデモノイドロードの動きを封じる。
「……くっ」
デモノイドロードの動きを封じている隙に。
「うおおおおおお!!」
勇飛はその懐の飛び込むと、激しい連打を繰り出す。
龍星号はキャリバー突撃で、デモノイドロードの傷をさらに抉り。
「一気に畳み掛けるわよ」
高純度の魔法の矢を生成して、敵に向けて飛ばしたのはクリスレイド。
リーアも六文銭射撃を飛ばし、光の矢と共にデモノイドロードの貫いていく。
「……ぐッ……!」
「どうした、逃げ遅れたマヌケなデモノイドロードサン。最初の意気はもうないのか?」
にやりと不敵な笑みを浮かべる等。マテリアルロッドをぐっと握るとデモノイドロードに殴りかかった。その魔力は敵の体内で爆発し。
よろめくデモノイドロード。
その体に絡んだのは、蒼く燃え盛る蜘蛛の糸。
糸を操るリリーは、それを思い切り引いて切り裂くと、デモノイドロードに付いた傷がさらに深くなる。
「……く、クソがァ!」
叫ぶデモノイドロード。その叫びは空しく。
「さっきはよくもやってくれたわね」
リステアは静かに言うと、Arioch Scytheに青い炎を纏わせて敵を斬る。
「ホント、さっさと消えてくれないかしら? もちろんこの世から」
その言葉通り、デモノイドロードは崩れ落ち、再び起き上がることは無くドロドロと溶けて地面に消えていった。
●蒼を弔う
「一時はどうなることかと思ったが、何とかなったな」
安堵のため息をついた一弥は気だるそうに小さく髪を掻き揚げた。
「来世はバケモノなんかに魅入られないといいわね」
リリーは独り言のようにつぶやくと、髪に飾っているスパイダー・リリーの花をデモノイドが溶け消えていった砂の上にそっけなく落とし、供えた。
「……さよなら」
俯くその頬には人知れず涙が光る。
自分もそちらに傾いてしまっていたら、今後傾くことがあったなら、なってしまうかもしれないデモノイドロードという存在。
その存在に思う気持ちがあった。
「……それにしても、他のダークネスにとって彼はどういう立場だったのかしらね。仲間だったのか、ただの駒だったのか……」
クリスレイドはあごに手を当てて考える。
「……逃げ遅れた味方への回収もないなんて……」
今となってはそれもわからぬまま……。
ひとまず、デモノイドロードを無事に倒したという報告は必要だろう。
八人の灼滅者は、それぞれの思いを胸に、体育館裏を後にした。
秋の風が体育館裏の木々を揺らす。
空も青く高い。
残された地面には、供えられた花が微風に吹かれてゆらゆらと揺れていた。
作者:朝比奈万理 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年9月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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