武蔵坂学園内掃討戦~暗闇倉庫

    作者:陵かなめ

     戦火の匂いの残る校内を、3匹のコウモリが飛んでいく。
     人気の無い場所を選び、暗がりに紛れ込むように静かに。
     それは、逃げ場所を探すようにも見えた。
     偶然か、それとも上手く逃げたと言うのか。コウモリ達が辿り着いたのは、明かりの届かない体育館倉庫の前だった。
     勿論、彼らは普通のコウモリではない。
     体表面に描かれた眼球状の『呪術紋様』により魔力を強化された、コウモリの姿をした眷属だ。
     逃げる機会を失ってしまったコウモリ達は、体育館倉庫に身を潜めることに決めた様子だった。
     
    ●依頼
    「みんな、サイキックアブソーバー強奪作戦お疲れ様でした。サイキックアブソーバーを無事防衛できたね。本当に良かった。それから、僕達エクスブレインのことも、守ってくれて有難う」
     千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)はくまのぬいぐるみを握り締め、皆にぺこりと頭を下げた。
    「それでね。作戦が失敗したことで、爵位級の吸血鬼と一緒に、沢山の戦力は学園から撤退して行ったんだ。でも……」
     目を伏せた太郎が、話を続ける。
    「全員が撤退できたわけじゃなくて、取り残されたダークネス達は学園の校舎内とか校内の施設に籠城、あるいは潜伏している状態なんだよ」
     そこで、と。太郎が依頼内容を口にした。
    「皆には、学園内の残敵を掃討するための作戦をお願いしたいんだ」
     次に太郎から、今回の敵の詳細が説明された。
     今回見つかったのは、3匹のコウモリ姿の眷属だ。人気の無い体育倉庫に隠れ潜んでいると言う。
    「3匹のコウモリは、魔法弾や石化の呪い、それからギルティクロスのような攻撃も仕掛けて来るんだ」
     また、回復手段を持つ個体もいる。攻撃手段が豊富で、各個体の連携も取れている様子だ。
     だが、1体1体確実に仕留めていけば、勝つことが出来るはず。
     体育倉庫に踏み込んだ瞬間から戦闘になる。倉庫の中には入り口から僅かに光が差し込むが、暗闇での戦闘が気になるなら光源を用意しても良いだろう。
     それからと、太郎がこう付け足した。
    「もし、どうしても勝てそうに無いなら、学園外へ逃走できる様に退路を開けてあげたらいいと思う。逃げることが出来るなら、敵は逃走を優先するかもしれないよ」
     それでは、十分に状況を検討し、無事討伐がなるように。
     太郎は皆を見回して、再び頭を下げた。


    参加者
    巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)
    霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)
    四季咲・青竜(句芒のフェーガト・d02940)
    壱越・双調(倭建命・d14063)
    宵神・羽月(星月夜の欠片・d15493)
    クラウディオ・ヴラディスラウス(ドラキュリア・d16529)
    風見・真人(狩人・d21550)
    空月・陽太(魔弾の射手の弟子・d25198)

    ■リプレイ

    ●突入、開戦
     普段ならば人の気配の無い、静かな体育倉庫前。
     風見・真人(狩人・d21550)が皆を代表して倉庫の扉に手をかけた。
    「さて、コウモリ狩りといこうかね」
     この中には、3匹のコウモリが潜んでいる。
     学園に潜む吸血鬼とは、何かちょっとばかりシュールな気もするけれど。綻ぶ口元を、きゅっと引き締め真人が仲間を見た。
    「思い切り窓とかから空高く飛んで逃げればいいものを、わざわざ室内に逃げ込むとは」
     全身黒ずくめの衣装を身に纏った霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)が、ゆらり揺れる。
    「デストローイせねば……」
     その姿、まさしくRB団の一員である。
    「コウモリ、ね」
     傍らに霊犬のシュビドゥビを従え、クラウディオ・ヴラディスラウス(ドラキュリア・d16529)が小首を傾げて見せる。
    「あの眷属って、サーヴァントにはできないの、かしら」
     一匹くらい、飼えないものだろうか?
     それを聞いて、四季咲・青竜(句芒のフェーガト・d02940)が瞳を輝かせた。
    「コウモリ格好いい。わたしも使役してみたくなっちゃうのは、ダンピの血が騒ぐせいなのかな」
     できることなら、コウモリのサーヴァントが欲しい様子だ。
     とは言え、今は学園に潜む敵を排除しなければいけない。
     クラウディオは手持ちのライトを確かめ、青竜は武器を手にした。
    「僕たちを滅ぼすつもりで来たんだ。滅ぼされるぐらいの報いは受けてもらわないとね」
     空月・陽太(魔弾の射手の弟子・d25198)は、そう言うとフードを脱いだ。現れた顔には、何の表情も浮かんでいない。日常とは違う、全ての感情をそぎ落としたような無表情だ。
     最初に突入する仲間が、扉を慎重に開く。
    「蝙蝠が隠れている倉庫……誰かが入ってしまう前で良かったです」
     開いていく扉を見ながら、宵神・羽月(星月夜の欠片・d15493)が緊張気味に呟いた。
     最前列の仲間が突入すれば、すぐに敵が襲ってくるかもしれない。
     同じように考えていた巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)も、十分に注意を払い体育倉庫に身体を滑り込ませた。
     聞いていた通り、倉庫の中は暗い。
     微かに、何かが羽ばたく音が聞こえた。
     仲間が明かりを灯すのと、それらが急降下してくるのは、ほぼ同時だった。
     それを見て、灼滅者達はすぐさま戦う距離を取る。
    「悪いですけど、我らが学び舎に物騒な蝙蝠は要りません」
     キィキィと、敵意を剥き出しにするコウモリに、壱越・双調(倭建命・d14063)が武器を向けた。
    「退治させて頂きます!!」
     言葉と共に、妖の槍・氷塵を突き出す。
     螺旋の如き捻りを加えた鋭い突きが、1匹のコウモリを穿った。
     最早確かめる必要も無い。
     灼滅者達の用意した光源だけがあたりを照らす中、戦いが始まった。

    ●狙い定めて
    「みぃつけたぁ……」
     無駄にホラーっぽい口調でくっくと肩を揺らし、刑一がコウモリたちににじり寄る。ニタリと、覆面の裏で瞳が笑った気がした。
    「てことでリア充相手じゃないですけど掃除せねば!」
     言って、どす黒~い殺気で敵を覆い尽くす。
     キィキィと、コウモリ達が人の言葉ではない声を上げた。
     それぞれの個体の位置を確認し、冬崖が己の片腕を半獣化させる。
    「……っ」
     じくりと、頭痛。
     冬崖はそれでも、回復の技を持つコウモリの身体に鋭い銀爪を突き立てた。
     そのまま爪を進め、力任せに引き裂く。
    「まずは、足止めだね」
     続けて青竜が飛び上がり、大鎌を振るった。狙いは、翼だ。
     狙われたコウモリが、たまらずその場でもがく。
    「キ、ィィ、……―――っ」
     聴域を越えた超音波を発し、コウモリは傷を癒した。
    「好きなようには、させません」
     次に羽月が影を伸ばす。
     コウモリの真下まで延びた影は、無数の剣の形を取り、飛んで敵に襲い掛かった。いくつもの斬撃がコウモリを斬り裂いていく。
     逃げる場所も無く、ただされるまま斬り裂かれるコウモリの前に、クラウディオが立った。
    「ほら、選びなさい。ワタシのモノになるか」
     口元だけで笑い、出現させた赤きオーラの逆十字がコウモリの体を裂く。
    「ワタシの獲物になるか」
     その翼は、撃ち落すことが出来るのだろうか。
     見ると、ダメージを負ったコウモリを庇うように、他の2匹が攻撃の体勢を取った。
    「来ます、気をつけてください」
     羽月が叫ぶ。
     コウモリ達の呪術紋様がほのかに光った気がした。
     狙われていることに気付き、青竜が防御の構えを取る。
    「……ッ、ィ……」
     コウモリが旋回し、魔法の弾が勢い良く打ち出された。
    「危ねェっ!!」
     敵の攻撃から青竜を庇うように、冬崖が走りこんでくる。
     魔法の弾丸は、仲間を庇った冬崖を撃ち抜いた。
    「ず……、ぁ」
     撃たれた場所から痺れが襲う。
    「次が来るぞ」
     シールドを真人が広げようとするが、それよりも前にコウモリのギルティクロスが冬崖の身体を裂いた。
    「なるほど、痛んだ者に追い討ちをかけるコトくらいは出来るんだね」
     敵を見据え、陽太がマジックミサイルで敵を撃ち抜く。
     取り決め通り、回復を使うコウモリを狙った一撃だった。
     コウモリの身体が、今までに無く不自然に揺らぐ。
     続けて魔弾の射手が霊障波を飛ばし、追い討ちをかけた。
    「今のうちに、傷の回復をしてください」
     クルセイドソード・R.I.Pを構え、双調が冬崖に回復を促した。自身は、すでに虫の息のコウモリへと走り距離を詰める。
     双調の声を聞き、クラウディオと真人が各々の霊犬に回復の指示を出す。
     仲間の傷が回復していく様を横目で確認し、双調は神霊剣を放った。
    「貴方達の事情はあるでしょうが、いつまでも、他人の居場所に居続けるのも失礼でしょう……」
     霊魂と霊的防御を破壊する撃だ。
    「とっとと消し飛んでくださいませんか?」
     確かな手応えを感じ、再び敵と距離を取る。
     回復手段を持ったコウモリは、一度だけ震え、身体ごと消え去った。

    ●2匹の舞
    「っし、まずは1匹、だな」
     傷を回復させた冬崖は、休む事無く走り始めた。
     消えない頭痛をねじ伏せながら、拳に雷を宿す。次に狙うのは、魔法の弾丸を撃ち出すコウモリだ。
     狙いを定め飛び上がり、強烈なアッパーカットを繰り出した。
     攻撃を受けたコウモリが、逃げるように空を旋回する。
     しかし、狭い倉庫内で逃げ場は無く、灼滅者の灯した明かりで動きはすぐに知れた。
    「あの、飛び回ると鬱陶しいので大人しくして貰えます?」
     黒のサバト服を揺らし、刑一が縛霊手を掲げる。
     2匹のコウモリの動きを阻害するべく、縛霊手の祭壇を展開させた。霊的因子を強制停止させる結界が、飛び回るコウモリを捕らえるのを、しっかりと見届けた。
    「そこですっ」
    「バッドステータス漬けよ、覚悟しなさいな」
     羽月とクラウディオが、共に槍を構える。
     槍の妖気を冷気のつららに変換し、2人が妖冷弾を撃ち出した。無数のつららが煌き、四方からコウモリに襲い掛かる。
     コウモリは逃げ場所を探して、ばたばたと羽を動かした。
     しかし、どのつららも、正確にコウモリの身体を貫く。
    「ッ、ィ、ッ……――」
     攻撃を受けたコウモリが、ギチギチと嫌な音を立てた。
     バランスを崩し、空中で何度か回転を繰り返す。
     続けて攻撃しようとした灼滅者の前に、まだ傷の浅いもう1匹のコウモリが躍り出てきた。
    「――――ッ」
     可聴域を越えた超音波による擬似的な呪文詠唱で、石化をもたらす呪いを呼び起こす。
     呪いは、刑一に向けられた。
    「むう。そう来ましたか」
     攻撃を受け止め、ダメージを振り払うように一歩後退する。
     だが、その間に体勢を立て直したもう1匹のコウモリから、重ねて攻撃が飛んできた。
     同じく擬似的な呪文詠唱から、赤きオーラの逆十字を出現させたようだ。
    「……えっ……と?」
     宙に舞うコウモリの呪術紋様の効果もあるのだろうか、刑一は意識がぼんやりとするのを感じた。
    「すぐに回復しよう」
     それを見て、真人が動く。
     2匹のコウモリによる連携攻撃と、それに伴うバッドステータスの積み重ねは厄介だ。
     だが、落ち着いてすぐに対処すれば、そこまでの被害は出ないはず。
     指先に霊力を集め、真人は癒しの光を刑一に撃ち出した。その光は、不利なステータスをも打ち消していく。
     コウモリ達は、互いを補うようにひらひら宙を舞い、次の攻撃に備えているようだった。
     そんなコウモリに、陽太は自身の武器、Anti-Materiel-Rifle <<BarrettM99M>>を向けた。
    「どこに飛んでも、狙うよ」
     彗星の如き強烈な一撃を撃ち放った。
     狙ったのは魔法の弾丸を打ち出す個体。
     言葉通り、正確にダメージを与えた。魔弾の射手も攻撃を続けた。
     陽太と魔弾の射手の息の合った攻撃に、撃たれたコウモリの身体がまた少し傾く。
    「確実に一匹ずつ仕留めていきましょう」
     今度は立て直す間を与えまいと、双調が槍を手に走った。
    「そうだねっ、畳み掛けるよ!」
     青竜も、両手にオーラを集中させ、狙う。
     まず青竜がオーラをコウモリ目掛け放出した。
     飛んで逃げるコウモリに、オーラの束が命中する。キィキィと、コウモリが勢いに押されのけぞった。
     そこへ、狙いすました双調の槍が突き刺さる。
     手元で器用に槍を繰り、敵の身体を穿った。
     コウモリは苦しげに身を捩る。だが、すぐに再び宙を舞い始めた。

    ●怒涛の攻撃
     戦いは、終始灼滅者優位に進んだ。
     最初に回復の出来る個体を撃破したことが大きい。
     回復の手段を失ったコウモリ達は、ただ攻撃を繰り返すだけだった。その攻撃も、決して一撃で沈むほどの強力なものではない。用意していた回復手段で十分対応できるものだ。
     それは、仲間の回復に力を注いでいる真人も良く分かっていた。
    「これで大丈夫、立てるかい?」
    「ああ」
     仲間を庇いダメージを負った冬崖に、真人が手を差し出した。苦痛に顔をゆがめていた冬崖が、その手を取り立ち上がる。
    「まだ行けるさ」
     そう言うと、冬崖は見るからに弱っているコウモリにグラインドファイアを放った。
    「行くよ!!」
     続けて青竜がティアーズリッパーを繰り出す。背後に回りこみ、傾ぐ身体を斬り刻んだ。
    「……ィ」
     小さな断末魔を残し、コウモリは消え去った。
    「残り、一匹ぃ~」
     間をおかず、刑一が最後のコウモリの急所を目掛け攻撃を繰り出す。
    「蝙蝠の更に弁慶の泣き所!」
     と言う事は、どう言う事なんだろう?
     少々疑問が残るけれど、放たれた黒死斬は、確実に敵の身体を斬った。
    「――ッ、――ッ」
     だが、敵も黙ってやられているわけではない。擬似的な呪文詠唱から、石化の呪いを発動させる。
     纏わりつく呪いに、しかし陽太は表情を変えずオーラを癒す力に転換した。
    「大丈夫だよ。自分で何とかするからね」
     癒しのオーラを集め、受けた傷を癒す。
     念のためと、シュビドゥビと銀からも癒しの力が届いた。
     陽太の様子を確認し、仲間達は再び攻撃を仕掛ける。
     羽月の影がコウモリの真下に伸び、無数の剣の形を取った。
    「もう少しです。頑張りましょう」
     仲間を励ましながら、斬影刃で敵を斬り刻む。
     ダメージを負い、逃げるように飛び回るコウモリ目掛け双調が神霊剣を繰り出した。
    「ええ、あともう一息ですよ」
     非物質化させた剣が、敵の霊魂と霊的防護を直接破壊する。
     すでに列攻撃で何度かダメージを負っていたコウモリは、少ない攻撃で目に見えて衰えていった。
     終わりを感じ、クラウディオがチェーンソー剣を手にする。
    「これで最後、ね」
     チェーンソー剣の刃が、コウモリの身体に突き刺さった。
     キィキィ不快に鳴くコウモリの、身体を斬り裂いて行く。傷口を広げるように、左右に剣を動かすと、やがてコウモリは動かなくなった。
     そして声も無く、消えていく。
     コウモリが消滅する姿を、クラウディオは少し残念そうに見送った。
    「いいわ、ワタシにはこの子がいるもの」
     言いながら、足元のシュビドゥビを撫でる。
     最後のコウモリも、倒した。
     倉庫には、僅かな明かりだけが残る。

    「ふぅ……やっと、学園内を安心して過ごせるね」
     陽太はフードを被りながら仲間を見回した。すでに、いつもの笑みが戻っている。
    「何とか終わりましたね」
     皆無事で終わったと、羽月は安堵の表情を浮かべた。
    「他の掃討戦はどうなったのでしょうか」
     それも気になるところではある。
     ともあれ、誰も深い傷を負わず、無事敵を撃破した。
     灼滅者達はその結果に頷きあった。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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