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「師匠……、ああ師匠……」
武蔵坂学園のプールの女子更衣室の一つ、そこにも襲撃したダークネスの一体が潜んでいた。その様子からするとおそらくヴァンパイア、それもボスコウの首輪付きだった存在だと思われる。もっとも開放されたことに喜ぶ様子は見当たらない。
「ミリオンパンツァー師匠、あなたは私に束縛された生活の中でも生きがいを教えてくれた。戦場でも紳士ぶりは最期まで健在でした……」
無駄に美女なヴァンパイアは涙を拭いていた、なんかこの部屋の戦利品で。
「……は! もうここまで……!」
彼女のいる部屋の扉越しから足音が複数聞こえて来る。おそらくもう追手が来たのだろう。
「我が師、ミリオンパンツァー師よ……貴方の万分の一程しか歩めなかった弟子の不出来をお許し下さい」
ハンドレッドパンツァーはそう言って立ち上がり、この部屋で手に入れたもので装備を整えた。
「みんな! サイキックアブソーバー防衛お疲れ様!」
有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)は灼滅者達を前にして今回の戦いを労った。ただエクスブレインである彼女がそれだけで灼滅者達を集めることはない。
「みんなの活躍のお陰で本隊は撤退していったんだけど……学園の中に取り残されたり留まったりしているダークネスがいるの。そういったのが籠城したり、隠れたりしてるからみんなにはそれを倒してきて欲しいんだ」
「それで、自分たちの相手は?」
灼滅者の問いかけにクロエは複雑な表情をした。あわれみとか気持ち悪さとかそいうのが混じったような。
「今回の戦争の敵の中にミリオンパンツァーっていたでしょ。その弟子の女の人、ちなみに長髪黒髪の美人。名前はハンドレッドパンツァー……何を間違えちゃったんだろうね」
なんか微妙な空気が周りにたちこめた、今回はそういう話である。
「潜伏してるのはプールの隣にある女子更衣室、出入口が複数あるから同時に突入すれば相手の退路を断つ事ができるよ」
とりあえず逃さずに倒せることはできるらしい、戦いに勝てばだけれど。
「使うサイキックはボスコウスレイブの使うものにソーサルガーダー、ポジションはディフェンダーだね。……師匠を守りながら戦うつもりだったみたい」
きっと真面目な人なんだろうね……とクロエは遠い目をした。
「戦術的には耐えながら不意の一撃を狙ってくるタイプだから、防御には気をつけてね。ダークネスには違いないから」
戦場と違って殲術再生弾の効果はないので、力量差は大きくなっている。その点は改めて踏まえておいたほうがいいだろう。
「こちらから見れば倒すチャンスだけど、相手はピンチ。こういう時って相手も底力を見せる時があるから気をつけてね。それじゃ、行ってらっしゃい!」
参加者 | |
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因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497) |
月代・沙雪(月華之雫・d00742) |
ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019) |
四方屋・非(蛮勇の凱歌・d02574) |
三日尻・ローランド(尻・d04391) |
竹間・伽久夜(月満ちるを待つ・d20005) |
竜胆・幸斗(凍牙・d27866) |
浦河・浅葱(しろがねオオカミ少女・d28756) |
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「これで良いいですね」
「「「良い訳ないだろ!」」」
灼滅者達が更衣室に飛び込んだと同時に、ハンドレッドパンツァー――長いのでハンパンでと呼ぶ――に返した第一声がそれだった。灼滅者達の心の叫びはハンパンの今の姿を見れば分かる。
頭部にパンツは基本、両腕にそれぞれやはりパンツを装備しおそらくグローブっぽくしているのもそう。下半身はスカートが故見えてないがおそらくそうなのだろう。現れた灼滅者達に向かいハンパンは疑問の声を上げる。
「何故!?」
それはこっちの台詞だ。
「分かる、分かるよ!」
何故理解者が灼滅者側に居る。三日尻・ローランド(尻・d04391)よ。あ、今すっげえ目で仲間の特に女性陣から睨まれた。
「ボクもパンツ大好きさ!」
「あ、貴方も……、まさかこんな敵陣に同じ志を持つ仲間がいるなんて!」
なんかドラマが始まったぞ。
「ハンドレットパンツァーくん……美しい名前だねえ!」
「そう、そうなのよ! 今まで誰も私の言葉に耳を傾けてくれる人は誰もいなかった! この名前を美しいと言ってくれる人も!」
そりゃそうだろうと彼ら二人を除く全員が思った。
「……ねえ。何が楽しいの? ていうか女だよね? 何で女物ほしがるの……?」
目の前で行われている頭の悪い茶番を見せられてミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)は当然の疑問をぶつけた。
「……楽しいんじゃない、崇高な行為なのよ!」
「……は?」
竹間・伽久夜(月満ちるを待つ・d20005)まるで意味がわからないと言うように首をかしげた。
「私達ボスコウの下僕達には首輪という枷があった、でもそれをまるで無いように振る舞ったのがミリオンパンツァー様だったの!」
長くなるので割愛。
「というわけでパンツァーの名は自由な魂を世界に示すための気高き名前なのよ!」
戦いが始まる前から灼滅者達の何かが削れた!
「……この人を野に放つわけには行かない」
ぼそっと因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)が呟いた、万が一にでも逃げられたら迷惑な新興宗教でも起こしかねないし。
「……思ったより重傷だった……」
主に頭の中が。浦河・浅葱(しろがねオオカミ少女・d28756)は頭の中でぐわんぐわん音が鳴っていた、
「残念な相手なのです。言動と外見のギャップが」
今の外見も無残だけどな。月代・沙雪(月華之雫・d00742)のダメージはまだしも軽いらしい。ほら内面を重視する流派という話だし。
「……なんだ、何この変態師弟。やる気削がれる……」
四方屋・非(蛮勇の凱歌・d02574)の方は割りと効いていたらしい。そりゃ自分が闇堕ちしたらアレらと同じ種族になるのだから嫌にも程がある。
「皆、とりあえずこいつの灼滅始めない?」
ブレない少年、竜胆・幸斗(凍牙・d27866)が武器を手にして皆を待っていた。ハンパンの精神攻撃の間にも殴る機会を伺っていたが、なんか他の灼滅者達のダメージが思いの外強く打って出られなかったらしい。
「それでは始めようか!」
「な、何故、同志よ! 貴方とは分かり合えるはずよ!」
「……ここはボクも含めてみんなの大切な場所だからねえ。土足ではいってきたお客さんに傷つけてほしくないのさ」
少し憂えるような表情でローランドは言う。ここがダークネスとそうでないものの差である。こんなところで分かりたくなかった。
「女だが女の敵! 覚悟!」
「パンツァーの名の元に! 最後まで恥じない戦いをさせてもらうわ!」
非の啖呵にハンパンが応える。斯くして戦いは始まった。
「……恥ってなんだっけ」
浅葱が遠い目で呟いた。色々頭が痛くなる敵であることは違いがない。
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で、実際に戦闘が始まって数分。意外とハンパンは粘っていた。なんだかんだで戦力として目立っていたミリオンパンツァーの弟子である、それなりの戦闘力は有していた。
「思ったより手強い……!」
大鎌の刃を弾かれて後ずさるミルドレッド、その際に翻ったスカートの中身をハンパンは見逃さない。
「ガータベルトで防御されたレースの黒!」
「ちょ、待って?!」
肉食獣の目でハンパンはミルドレッドを睨む。
「キモイわっ!?」
非が全力で飛び蹴りを放つ、がモードに入ったハンパンはカウンター気味に手を彼女のスカートの中へと伸ばす。
「桜の花弁の如きパンツ……もらった!」
「あ? え? ……おい、ふざけんな!」
ダメージ覚悟のハンパンの魔の手が彼女に迫る。今更攻撃をやめられない非、ピンチ。
「ハンドレッドパンツァー! 新しいパンツよ!」
彼女らの危機を察した沙雪がパンツ(新品)を投げる、するとどうしたことかハンパンはそちらに首を向ける。
「反応……しちゃうですか」
ぐきっ、どしゃあ。
ハンパンの首が変な方向に曲がりながら吹っ飛んだ。滑りながらも彼女の手には先程沙雪が投げた新品のパンティが握られていた。そんな彼女につかつかと歩み寄りながら幸斗がドクマスパイクを放ち相手に大穴を空ける。
「コイツ、このまま放っておいたらねえちゃんのもこんな風に狙ってたのかな」
ハンパンは何故か親指を立てた。立てんなよ。
「……決めた、絶対にコイツを灼滅してやる」
刺さった杭が唸りを上げて回転し始める。なんかハンパンの手足がビクビクと動いているがまだ生きてるっぽい。
「狩りは相手を絞めるところまで終わらないからね」
「ぐげげぎぎごごご」
やはり偏月刀を回転させながら浅葱も攻撃を加える。なんかすごく形容しがたい声が漏れてくるが大丈夫なんだろうか。
「とうっ!」
ぼっこぼこにされてた彼女の体が跳び上がる。そのまますたっと間合いを置いて灼滅者達の前に再び立ち上がる。
「私の、パンツァーの意思は、この程度では砕けない!」
あの胴体にどでかい穴が空いているんですが。あと足元に伽久夜の影が噛み付いてますよ。
「さっさと終わってよ! こんなにしぶとくなくていいからさ!」
亜理栖は慣れない場所にいることでもダメージがあるらしい。だがそんな都合はハンパンの知ったことではない。
「ここは戦場……! 耐えられない者はさっさと引くがいいわ!」
格好いい事言ってますが要するに下着泥棒する場所って事です。
「ここは戦場じゃない、武蔵坂学園女子更衣室さ。力いっぱい守らせてもらうさ!」
ローランドの言葉は、きっと普段の言動さえ違っていればもっと説得力があったんだろうなあと思います。
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とまあ割りとグダグダな戦いが続いているわけですが、敵地で退路を絶たれたちょっとだけ強いダークネスが囲まれてボコられれば、大体趨勢は見えているもので。無論それには事前の情報があったからというのもあるけれど。それらを含めて行動を定めればこんな状態である。
「くっ……こんなにも敵意を向けられるなんて……。あなた達にはこの崇高さが分からないの!」
「別に君に恨まれようがなんだろうが知った事じゃないし、そんな事どうでもいいよ」
幸斗は淡々と言ってのける、彼からは一分の油断も見えてない。というかここにいる灼滅者全員彼女を逃すつもりがさらさら無い。
「……敵だから灼滅する、それだけ」
幸斗はずいっと踏み出す。ハンパンを中心に灼滅者達は周りを取り囲む。
「……きもい持論はもう結構……! 殺す……!」
ついさっき犠牲になりかけた非の目が座っている。もしもあの攻撃が成功していたらトラウマ(バッドステータスじゃない方)を受けていた事は必至だろう。
「あんな大物……是非とも確保しておきたかったのに……!」
「……手に入れるのも大変なんだぞ……!?」
財布と労力も無駄になっていたのなら更に目も当てられない事になっていたのだろう。
「……もうそろそろ終わらせない?」
浅葱が懐中時計を取り出して時間を見た、なんか普通にダークネスと戦う時よりも時間がかかっているようだ。きっと相手がディフェンダーってだけの話じゃないだろう。
「そうですね。いい加減終わらせましょう」
亜理栖の顔もだいぶ赤くなってきた事だし。灼滅者達は一斉に駈け出した。
「最後の最後まで私は負けごふっ!?」
まず最初に突き刺さったのは幸斗の飛び蹴り。胴に綺麗に入ったかと思うと燃え上がる。
「行くよ、えくすかりばー!」
一応防御に回っていたローランドもサーヴァントと共に攻撃に加わる。そこに浅葱と伽久夜の援護射撃が飛ぶ。次々と放たれる攻撃に対してダンスを踊るようによろめくが、要するに頑丈なだけである。
「ちっ、これだから変態はしぶとい!」
散々色々された非が神霊剣で切りつけながらぼやく。別にしぶとさと変態性の関連は立証されたことはないと思います。
「でもそんなものだと思うのです。変態って」
まるで台所とかにいる虫みたいのです。と続く。どうしてもこの世の中から無くならないもの、変態。
「いい加減倒れてよ!」
「踏み込みが足りない!」
亜理栖の剣閃をざっくりと受けているのにも関わらずまだ動けそうなハンパンである。
「……ならその首もらうよ」
ミルドレッドの言葉よりも早く、死を呼ぶ鎌が彼女の首を二つに切り裂いた。
「………!?」
驚いた表情の彼女の首が宙を舞う。それに向かってローランドは最後の言葉を投げかける。
「君はパンツより大事なものを見ていなかった……、それは全裸さ!」
ハンパンの顔はすぐさまに絶望の色に染まり、床に落ちると同時に消滅していった。
「えくすかりばーも思い切りの良い全裸で、キュートだし、ねー!」
あ、コイツ相手の最期見てねえ。
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「というわけで僕達はこの部屋から出るよ」
亜理栖と幸斗はローランドの両腕を持って引きずりながら出て行った。ここ女子更衣室なんで。やっと亜理栖は一息つけたことだろう。
「悪いけど私も先に帰る……」
非も相当に疲れた顔である。よろよろとした足取りで扉を開ける。
「……今日見たこと、聞いたことは忘れろ」
やはり吸血鬼は碌な存在じゃないなとぶつぶつ言いながら彼女も外へ。
「………。後片付け、します?」
「……うん」
沙雪がそう切り出しミルドレッドが頷いた。残った4人は色々と荒れた女子更衣室の後片付けを始める。
こうして灼滅者達の戦いは終わった。ダークネスとの長い戦いの中で時折こういうこともあるだろう。だが負けるな灼滅者! 頑張れ灼滅者! 社会の平和は君達の力にかかっている!
作者:西灰三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年9月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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