武蔵坂学園内掃討戦~さまよう男

    作者:カンナミユ

    「うーん、まいったなあ……」
     遠くに聞こえる喧騒を耳に、男はのんびりとした声で言いながら癖の強い黒髪をかきあげると周囲を見回した。
     戦場とならなかったのか、廊下も教室も戦いの傷はひとつもない。教室を見て回り、廊下を歩くと夏休みの学校にふらりと入った気分になるが――
    「こんな事なら、ちゃんと見取り図くらい確認しておればよかったよ」
     周囲を見回し、男は再び歩き出す。
     Tシャツにジーンズ、スニーカーという年齢の割にラフな格好の男だが、その正体は――HKT六六六に所属する淫魔だ。
     彼はつい先ほどまでこの学園内で戦っていたのだが、どうやら迷子になってしまったらしい。一緒に戦っていた仲間達ともはぐれてしまい、どうしていいものやら。
     とりあえず人気のない所を探そう。どうするかはそれから考えよう。
     そんな事を考えながら刀を手に男は一人、学園内を歩く。
    「それにしても……」
     ぴたりと足を止め、長身の男は着ているシャツをつまみ、ぽつりと呟く。
    「このTシャツ、もうちょっとデザインが良ければなあ」
      
    「爵位級ヴァンパイア3体の襲撃を防ぎきり、サイキックアブソーバーを守ってくれてありがとう。礼を言う」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)はそう言うと、今回の戦いを最後まで戦い抜いた灼滅者達へと視線を向けたが、
    「……何かあったのか?」
     話を聞く灼滅者達の一人が疑問を口にした。
     礼を言うだけならわざわざ集める必要もない。それなのに何故、自分達が集められているのだ。しかも、ヤマトの表情は少し緊張しているようにも見える。
     話を聞く灼滅者達の一人が疑問に答えるかのようにヤマトは机に置いた資料を手に取った。
    「お前達の活躍により、サイキックアブソーバーの強奪作戦は防ぎ、爵位級の一人『絞首卿ボスコウ』も灼滅し、爵位級吸血鬼と共に多くの戦力は武蔵坂学園から撤退していった。
     だが、全ての戦力が撤退できた訳では無いようでな。取り残されたダークネス達は武蔵坂学園の校舎内や校内の施設に籠城・或いは潜伏している状態だ」
     学園内の残敵を掃討する為の作戦に加わってもらいたい。その言葉に灼滅者達は頷いた。
    「お前達が掃討するダークネスはHKT六六六所属の淫魔だ」
     そう言いながら資料を開き、ヤマトは説明をはじめる。
     名前は井上・直樹。20代前半でそれなりに整った顔立ちというが、30代くらいに見えてしまう、ややふけ顔の男だ。
    「どうやらこのダークネスは撤退の際に道に迷ったのが原因で取り残されてしまったようだ」
     説明によれば直樹は教室の中を覗いたり、廊下の掲示物や外の風景を眺めながらふらふらと人気のない場所を求め、さまよっているという。
    「『HKT六六六』とプリントされたTシャツを着ているし、外見からして学生でもないからすぐにわかるはずだ」
     日本刀を武器に直樹はサウンドソルジャーと基本的なサイキックに似た能力も駆使し、確実に攻撃を当ててくるよう動く。強さは全員で戦って互角かそれ以上だ。
    「勝利が難しい場合、直樹は学園外へ逃走できるように無理にでも退路をあけるかもしれない。それで逃走が可能となれば、戦闘よりも逃走を優先するだろう。……もしもの時は、頼んだぞ」
     その言葉に三国・マコト(正義のファイター・dn0160)は頷いた。
    「取り残された残敵とはいえ、戦闘力の高いダークネスだ。くれぐれも侮らないようにしてくれ」
     言い終えたヤマトは資料を閉じ、灼滅者達をぐるりと見渡すと言葉を続けた。
    「窮鼠猫を噛む、という言葉もあるが、くれぐれも噛まれないようにな。頑張ってくれ」


    参加者
    蓮華・優希(かなでるもの・d01003)
    高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)
    ウェア・スクリーン(神景・d12666)
    八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)
    廣羽・杏理(ソワレリエーブル・d16834)
    柳葉・司門(痕隠し・d21040)
    姫川・小麦(夢の中のコンフェクショナリー・d23102)
    銀城・七星(銀月輝継・d23348)

    ■リプレイ


     灼滅者達は人気の無い学園内の廊下を歩いていた。
    「仕掛に来ておいて迷子ってのは、どういうアッパラパーな脳してんだか……」
     仲間達と歩きながら銀城・七星(銀月輝継・d23348)は見慣れた場所を見渡すが、いつもと違う雰囲気を漂わせているように感じられた。
     サイキックアブソーバーを強奪すべく武蔵坂へと襲撃したダークネス達。結果として撃退するに至ったが、撤退できずにいる残敵がいるのだ。
     今回、灼滅者達が追っているのはその作戦に参加した淫魔だが、七星が言うように、迷子になったのが原因で撤退できずにいるという。
    「迷子だなんてダークネスらしくない、ですね」
     緊張を隠せずにいる三国・マコト(正義のファイター・dn0160)は言い、エクスブレインが示した方向へ仲間達と歩いていると、止まるよう八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)は合図する。
    「……いましたね」
     ぽつりと宗次郎は言い、視線を階段へと向けた。
     癖の強い黒髪にジーンズとスニーカー。そして『HKT666』とプリントされたTシャツというラフな格好。
     ダークネス――井上・直樹だ。
     学園内で迷い、人気の無い場所を求めてさまようダークネスを二手に分かれて空き教室へ誘導し、戦い、そして灼滅する。
     作戦の為、二手に分かれた灼滅者達はその姿を追っている。
    「迷子の案内先が外でないのは、少々可哀相かもしれませんけどね」
    「哀れな迷える20代を冥府に導きマショウ。フフフ」
     教室内や廊下をうろうろと歩くダークネスを目に、廣羽・杏理(ソワレリエーブル・d16834)と柳葉・司門(痕隠し・d21040)は言葉を交わすともう一組へと目線で合図し、作戦を開始する。
    「男性淫魔、ね。随分とラフでダンディだけれど、HKT六六六どんなことをやっていたのかな?」
    「HKT六六六に淫魔も居たのですね……」
     年齢は20代前半だという直樹だが、30代に見える外見というダークネスを目に、蓮華・優希(かなでるもの・d01003)が言う横でウェア・スクリーン(神景・d12666)もぽつりと口にした。
     HKTは六六六人衆だけというイメージがあったウェアはその意外さに驚きはするが、それだけだ。
    「ともあれ校舎内ですし必ず倒しましょう……」
    「うん、平和な学園生活の為にも頑張りましょう」
     ウェアの言葉に高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)も頷くと、階段で足を止めた男へと視線を向けた。
     階段を下る途中で足を止めた直樹はこちらの気配を察したのか、下ろうとした階段を上っていく。
     二手に分かれた灼滅者達は階段を上り、追うが、すぐにその姿を追うことができた。
    「あそこにいるの」
     指差す姫川・小麦(夢の中のコンフェクショナリー・d23102)の声が聞こえたらしい。直樹は周囲を見渡すが、灼滅者達の姿を目に前後を抑えられいる事に気付いたようだ。
     廊下は塞がれている以上、教室の中へ入るしかない。自分を追う者を目に、ふらりと直樹は手近な教室――空き教室へと入っていく。
     ここまでは作戦通りだが、すべてが作戦通りに進まるか。
     灼滅者達も二手に分かれたまま、二箇所から教室内へと踏み込んだ。
     

     机と椅子もなく、がらんとした空き教室の窓際に逃げ込んだダークネスはいた。二手に分かれて入ってくる灼滅者達を目に、緊迫感なり緊張感を漂わせるかと思いきや、
    「……どうも」
     妙にのんびりとした声。手に武器を持っていなければ、どこにでもいる、ごく普通の男にしか見えなかった。
    「ボクは蓮華・優希。あなたの名は?」
     灼滅者達はそんなダークネスが逃走されぬよう陣形を取る中、優希は男に話しかける。
    「何か求めているのがあれば聞くけど」
    「僕? 名乗るほどの者でもないけど……求めているもの、ね。昇降口、どこか知らない?」
     この学園って広すぎるんだよと頭をかき、直樹は言う。
     学園内で迷い撤退もできず、灼滅者達に囲まれているというのに、この男は緊張感の欠片も無い。
    「その見た目で迷子とは……目立ちマスネ」
    「ホントだよ。もうちょっといいデザインにして欲しいよね、これ」
     癖の強い黒髪に実年齢より上に見られてしまう外見、そして『HKT666』とプリントされたTシャツ。クルセイドソードを手にする杏理と目が合うと、ふと軽い笑みを浮かべた直樹は司門の言葉に同意した。
    「……これが宿敵とか、頭が痛ぇ」
     あまりにもダークネスらしくない振る舞いに七星は言い、スレイヤーカードを手にすると、
    「この身、一振りの凶器足れ」
     解除コードと共に猫と鴉の影が現れる。
    「ここでぜったいたおすの」
    「そうですね。マヌケな淫魔さんはこの場で倒してしまいましょう」
     うさぎのぬいぐるみを背負いなおし、小麦は護符を手にすると黒猫の影を伴い紫姫も盾を構えた。
     宗次郎もとマコトも武器を手にし、灼滅者達の戦闘態勢は整った。あとは戦うだけだが、窓を背に直樹は相変わらず緊張感もなく、灼滅者達をぐるりと見回すだけだった。
     これから戦い、その末に灼滅されるかもしれないというのに。
     迷い続けて戦意も薄れたか、或いは負けるなど微塵にも思っていないのか。
    「ただでさえ見栄えの悪いTシャツに加えて迷子で取り残されるのは少々格好が悪いです……。せめて最後の戦い位は格好良くお願いしますね直樹さん……」
    「最後の戦い、ね」
     ウェアの言葉に直樹はため息をつくように言うと、だらりと持つ刀をひゅんと鳴らして構え、言葉を続けた。
    「格好良いかは分からないけど、作戦を最後まで生き残ったくらいの力はあるよ。……いつでもどうぞ」
     

    「ヒャハハ! それでは冥府へと導きマショウ!」
     エアシューズを駆け司門は狂声と共に蹴りかかると腕を変化させウェアも殴りかかる。
    「巨腕に沈んで貰います……」
     司門の蹴りを払い、目前に迫るウェアの腕は寸前でかわされてしまい、髪が数本が宙を舞うだけだった。
    「格好良いかな?」
     相変わらず緊張感が無い直樹の言葉だが、ウェアは瞳を伏せたまま反応はない。
    「悪いけど、ボクの方を見て貰おうかな」
     ウェアへ向いたままの直樹へ優希と紫姫は盾で攻撃するも刀で払われ、杏理が構える突きはTシャツの袖を裂くだけだ。
     その様子を目に小麦は自らに護符を向けて耐性を高めると槍を構える宗次郎が妖冷弾を放つ。直樹は刀でそれを弾こうとするも刃をかすめて頬に一筋の朱を引いた。
    「うん、悪くないかな。でも、もう少し欲しいかな……これくらい、さ」
     攻撃を受ける直樹だが、物足りなかったらしい。言い終える間もなく構える刀を閃かせると、
    「仲間達には傷一つ付けさせません」
     武器を手に杏理はそれを庇い、防ぐ。
    「ありがとうございます……」
     礼を言うウェアに優希と紫姫は頷き応える中、直樹は七星とマコトの攻撃を受けて傷口から血を滲ませた。だが、そのダメージはダークネスからすれば痛くもなかったのだろう。
    「うーん、やっぱもう少し、欲しいね」
     攻撃を向けられたというのに平然とした顔で直樹は言い、窓際を背に刀を構えなおした。
    「フフフ、ではもっと激しくお相手いたしマショウカ!!」
     戦闘狂めいた声を上げると司門は仲間達と共に余裕のある直樹へと攻撃を再開させた。
     二班に分かれたまま灼滅者達はこの場での灼滅を、そして、逃げられないよう退路を断つよう立ち回りながら戦闘を続ける。
    「昇降口以外に何か求めているものはあるの?」
    「それ以外? ……まあ、どうだろうね」
     一定の距離を保ちつつ、優希から再びの問いかけに直樹は曖昧な反応。そして踵を踏み鳴らし転びそうな様子に油断したのか、ロッドからの攻撃を受け、顔をしかめるもののまだ余裕のようだ。
     直樹は時折、回復を行い目前の灼滅者達の攻撃を受け、払い、そして捌く。背後を取られそうになるもその度に上手く立ち回り、それを許さなかった。
    「どうかな? 少しは格好良く戦えてる?」
     立て続けの攻撃を受け流し、刃を閃かせて言うその姿を目に杏理はなんかちょっと勿体ないと内心で思うと、それに感づいたのか自身へ向く瞳が優しいものになったような。
    「淫魔でなきゃなあ」
    「……残念だね、それは」
     オーラを纏い、放つ拳は正面を打つ。その手応えに杏理は性格故か複雑な表情になってしまった。
    「あなたHKT六六六に所属しているんですよね……。中心メンバーは一体誰ですか……」
     続く戦いの中、ロッドから雷を放ちウェアは直樹へ問いかけた。もちろん、答えが返ってくるとは思っていない。
    「中心、ねえ」
     轟雷をギリギリでかわし、隙を見た優希のフォースブレイクを刃で受ける直樹だが、
    「ラブリンとは違うのですね」
     その顔は猫の影と共に向けられる言葉の主へと向く。紫姫だ。
    「ラブリン? ……ああ、ラブリンスターね」
     自分と同じ淫魔であるダークネスの名に直樹はさほど反応せず、呟くように言うと杏理の拳を払う。
     サイキックアブソーバーを強奪すべく強襲をかけたダークネス達との戦いに、淫魔・ラブリンスターは本来ならば敵対する存在である武蔵坂を助けるべく手を貸したのだ。
    「彼女が君達に協力する事を選んだのは、考えがあっての事じゃない? ……少なくとも僕は他人がどう動こうと気にはしないよ」
     言いながらも直樹は隙を見せる事はなかった。小麦の回復を挟んでの宗次郎の攻撃を受けつつ言葉を続ける。
    「君達にだって共存を望む人がいるかもしれないだろ? まあ、ヒトそれぞれ、ってやつだよね」
     意外な考えだと思うが、その言葉を真に受けないだけの冷静さは持ち合わせている。言葉と共に凪ぐ刃は火花を散らし、紫姫は攻撃を受け止めた。
    「昇降口がどこか教えてくれないならさ、そろそろ終わりにしたいんだけど」
     灼滅者達の攻撃を受けつつも、まだ余裕のあるダークネスは守りをかいくぐると後衛へと攻撃を向ける。確実さがあるそれは避ける事ができなかったが、
    「もう、何やってるの?」
    「姉さん!」
     姉であるシアンからの癒しを受け、七星の傷はすぐに塞がった。
    「ナナー、一発ガツンって決めちゃいなさい!」
     サポートに来てくれた姉を嬉しさ半分心配倍増の気持ちで見守る中、契約の指輪からアヅマが放つ弾丸が直樹の腕を貫き、シャツが血に染まる。
    「大丈夫か? 杏理君」
    「大丈夫、ありがとう」
     礼を言う杏理の横を武器を手にサポートに来た仲間達が駆け、ダークネスへと攻撃を仕掛けると、
    「これで大丈夫ですわね」
     ルナと夕月の霊犬の癒しが攻撃を受けた仲間達を回復させる。
    「ルナおねえちゃんに夕月おねえちゃん、かいふくありがとうなの」
     二人の癒しに小麦はにこりと礼を言うと、ロッドを手に雷を放った。
    「……ちょっと多すぎじゃないかな、まったくさ」
     サポートを加えて攻撃を続けるが、それでもダークネスの背後である窓側を押さえる事はできなかった。退路を断とうと紫桜里と流希が攻撃するも、それを察したのか上手く牽制して立ち回られてしまうが、
    「みんな、頑張って!」
     断罪輪を手に戦闘支援に全力を注ぐミレーナと共に灼滅者達は戦いの手を緩めなかった。
     全員で戦って互角かそれ以上の力を持つダークネスとはいえ、さすがにこの人数を相手にするのは堪えるようだ。
     宗次郎への攻撃を杏理に防がれた直樹はライドキャリバーと共に行動する芥と槍を手にヒビキの攻撃を続けて受けてしまう。蓄積していくダメージに苦しそうな表情になると、その目線はちらりと動く。
     ――逃げるつもりだ。
     それを七星は見逃さなかった。
    「逃げようとしても無駄だ! マコト!」
     放たれる紅糸は直樹の腕を捕らえると、呼応するようにマコトの影がその姿を狙いを定めて放つ。
    「さあ、そろそろお帰りの時間デスヨ?!」
    「あの世にだがな」
     油断をしたのか、紅色の雷の闘気を纏う司門の連撃を受け、流希に投げ飛ばされてしまう。
    「あとすこしでたおせそうなの」
     攻撃を受け、傷口から血を流すその姿を目に言う小麦の言葉に仲間達は残る全ての力を直樹へと向けた。回復し、なんとか立て直そうとしても間に合わない。
     そして、
    「これで最後です!」
    「……っ!」
     立て続けの猛攻を受け続け、最後に宗次郎が放つ渾身の一撃にその身がぐらりと揺れる。
     切り裂かれ、腕を庇う直樹の手からするりと刀が抜けると高い音を立て、床へ落ちた。
     

    「ふ、っ……」
     攻撃を受け、戦う力すら残らない直樹は痛みに顔を歪め、うめいた。
     咳き込む度に床にぼたぼたと血が落ち、足元は血の池と飛沫がいくつも出来上がる。血の気が失せるその顔からは、長くはない事が伺えた。
    「やるね、君達……」
     もはやこれまでと諦めたのか、自分を取り囲む灼滅者達を前に、ダークネスは抵抗するそぶりすら見せない。
     激しい咳と吐血に加え、出血。直樹は痛みに耐え、すと前に立つ優希を目に最期を覚悟するが――伸びた手は血濡れた男の手を取る。
    「とどめ……ささない、ん……だ?」
    「誰であれ最後を見送る人も必要だろう?」
     絞るような言葉に優希は言うと、直樹はため息をつくように浅く息をつく。
    「面白いね……君」
     自らが流す血で服を濡らし、ぽたぽたと雫を落とす中、男は自分を見つめる瞳を見つめ返し、何かを思ったのだろう。
    「そう、いえば……答えて、いなかった……君、の……」
     ぐいと血が伝う口元を拭い、言いながら弱る視線を優希から紫姫へと向けた。
     ――HKT六六六の中心メンバーは一体誰か。
     それを消える間際に答えるというのか。灼滅者達の視線が集まる中、直樹は言葉を紡ぎ出す。
    「き、君達、が……僕と、お、同じ……立場、なら……」
    「答えないでしょうね……」
     ウェアの言葉は彼の答えだった。苦悶の表情が和らぎ、ふと柔らかい笑みを浮かべて優希の手を払うと死の淵に立つ男の体は後ずさり、窓へと乗りあがる。
     ――逃げる気か!
    「待て!」
     声を上げ、七星が引き戻そうとも間に合わない。優希が伸ばす手も届かず、血まみれの体は窓の外へと吸い込まれていった。
     慌てて駆け寄り、直樹が落ちたその場所で灼滅者達が見たものは、叩き付けたように広がる大量の血。ダークネスの姿はどこにもなかった。
     あの状態では学園から逃げられる訳がない。それでも万が一に可能性はある。灼滅者達は用意した手段で下り、その場所へと向かう。
    「足跡はありませんね」
     杏理は周囲を見渡すが、足あとはなく逃げた形跡が見当たらない。おそらく地に落ち、絶命したのだろう。仲間達も注意深く調べるが、やはり逃げたと思われるものは何一つ見当たらなかった。
    「灼滅できたようだな」
     その様子に七星は口にし、仲間達も確信する。
    「無事に終わりましたし、エクスブレインに報告に行きマショウカ」
    「そうですね」
     司門と宗次郎の言葉にマコトも頷き、エクスブレインに報告すべく歩き出がその場に立ち止まる者がいた。紫姫だ。
    (「でも、本当に戦わず協力し合えるのなら……」)
     あの男がいた最後の場所を紫姫は見つめてある思いと可能性を胸に秘め、そして内心で呟くが、
    「紫姫おねえちゃん、はやくしないとおいていっちゃうの」
    「ごめんなさい、すぐ行きます」
     小麦の言葉に振り向き、仲間達の後へと続く。
     
     こうしてダークネスは灼滅された。
     彼が最後に残した血痕も灼滅者達がその場から姿を消す頃には灰となり、風に吹かれて消えていった。

    作者:カンナミユ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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