はっ、はぁ……!
肩で大きく息をしながら、蒼を纏うその男は走っていた。
退路は何処か。人目につきそうな場所に出れば、あの灼滅者どもに見つかってしまう事だろう。校舎の外には出られない。
人気の無い場所、人目につかない場所。ただそれだけを求めて、男は直走った。
「あ……」
校門の塀が、男にとっては監獄の塀よりも高く感じられた。塀の片隅の焼却炉の近く。行き止まりであるこの場所から逃れるには、校庭など、開けた場所に出るより他に無いだろう。
「くそ、くそ……っ! こんなところで、死んで堪るか!!」
忌々しげに吐き捨てた男の腕に蒼が纏わりつき、そして異形のそれへと形を変えてゆく。
彼は、覚悟を決めた。退路を開く為には、戦うより他に無いのだ。
じゃきん、とバスターライフルを構えて、男はじっと、灼滅者たちの訪れを待つ。
●退路無き蒼
「みんな、サイキックアブソーバー防衛、お疲れ様! ゆっくり休んでね、って言いたいところなんだけど……」
灼滅者たちを労ってから、天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)がその表情を引き締めた。
「……戦争で逃げ遅れたダークネスが、まだ学園内に残っているんです」
普段の明るい調子では無く、緊迫した声でカノンが告げる。
作戦が失敗した事で、爵位級吸血鬼と共に、大半の戦力は武蔵坂学園から撤退した。しかし、撤退する事叶わず取り残されたダークネスたちが、武蔵坂学園の敷地の中に籠城、或いは潜伏しているのだという。
「このまま放ってはおけません。そこで、学園内の残敵の掃討を、皆さんにお願いしたいのです」
勿論、殆どの敵戦力が撤退した今、学園内に残るダークネスの数はさほど多くは無い。だが、このまま放っておけば、学園に少なからず被害が出る可能性もある。
「人目につくような場所には潜んでいないでしょう。その場合はすぐに誰かに見つかってしまうでしょうから……恐らく、キャンパスの敷地の奥の方にいる筈です」
確か、そこは焼却炉があった筈だ、とカノンが呟いた。
「その焼却炉の傍に、デモノイドロードが1体、潜んでいます」
孤立無援で袋小路に追いやられた状態の敵は、既に戦う覚悟を決めているらしい。灼滅者たちが辿り着けば、すぐにこちらに刃を向けて来るだろう。
「相手は、デモノイドとしての能力と……それから、バスターライフルを扱うようですね」
そして、とカノンが付け加えて灼滅者たちをじっと見つめた。碧玉のような大きな瞳には、心配そうな色が宿る。
「戦争で取り残された残敵とは言え、相手はダークネスです。追い詰められたと言っても、けして油断は出来ません」
袋小路の蒼き窮鼠は、それでもダークネス。こちらと互角か、或いはそれ以上の能力を持つ強敵であるという事実は、この状況であっても変わらない。
「もしも勝利が難しい、と判断した場合には、あえて退路を作ってやるのも、対処法の一つだと思います。その場合は、皆さんを更に傷つける事よりも、逃走を優先するかもしれません」
こちらに甚大な被害が出るくらいなら、それも已むを得ないだろう。無理は禁物だ、とカノンが真剣な表情で忠告する。
「無理はなさらず……どうか、気をつけて下さいね」
参加者 | |
---|---|
鏡・剣(喧嘩上等・d00006) |
日向・和志(ファイデス・d01496) |
夜空・大破(白き破壊者・d03552) |
亜寒・まりも(メリメロソレイユ・d16853) |
閼伽井・武尚(錆びた歯車・d17991) |
鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655) |
九形・皆無(僧侶系高校生・d25213) |
斥谷・巧太(マリモのあんちゃん・d25390) |
●袋小路
ざ、と土を踏み締める複数の足音に、男が顔を上げた。
荒い呼気を吐いて、ごくりと唾を飲み込んで。双眸を細めた男の視線と、足音の主たちの視線が交わる。
「灼滅者、来たか……!」
じりじりと後退しながら、こちらを睨みつけて来る男の姿は、哀れですらあった。
亜寒・まりも(メリメロソレイユ・d16853)の胸中に同情の念が過るものの、ここで敵を逃せば、今後一般人へと被害が出てしまう可能性もある。
(「……うん、がんばろうね、ヘペレ」)
同情は押し殺して、しっかりと敵へと向き合うべく、少女は傍らのライドキャリバーへと、心中で呼び掛ける。
僅かな同情を覚えたのは、鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655)も同じだ。けれど同時に脳裏を、『撃って良いのは撃たれる覚悟があるものだけ』――そんな、聞いた事はあるハードボイルド小説の言葉が過る。
先に学園へと攻め込んで来たのはダークネス達なのだ。
「他人の居場所荒らしといて、覚悟は出来てんだろうなぁ!」
斥谷・巧太(マリモのあんちゃん・d25390)がゴーグル越しに男を睨みつけ、威圧する。その意識は焼却炉の隣、掃除用具を仕舞い込んだ倉庫へと向けられたが、視線はけして男から外さない。
「よー、兄ちゃん。死にたくねぇんだろ? だったらうちら全員倒してみろよ」
そしたら良い逃げ道教えてやるぜ、と日向・和志(ファイデス・d01496)が挑発してみせた。彼の傍らで、霊犬・加是もぐるると唸り声を上げて威圧する。
「……俺も甘く見られたモンだな」
己を追ってやってきた灼滅者の数は5人と、サーヴァントが2体。この人数であれば、けして突破出来ない事は無い、と踏んだか。呆れたように溜息を吐いてから、男が笑みを浮かべる。
「さて、んじゃ楽しい喧嘩しようぜ。生き延びるにせよ、ここで灼滅されるにしろな」
鏡・剣(喧嘩上等・d00006)が浮かべた獰猛な笑みは、獲物を追い詰めた獣のよう。銀色の獣へと向き直り――デモノイドロードが一人、癸がバスターライフルの銃口を灼滅者たちへと向ける。
「いいぜ、やってやらぁ!!」
癸のバスターライフルから円盤状の光が放たれる。戦場を駆け巡る円盤が、剣、まりも、ヘペレ、加是、ベスパを薙ぎ払う。
「へっ、上等……ッ!」
敗走から置いて行かれた敗残兵と言えどダークネス。その一撃は確かに重く――だからこそ、剣の心を湧き上がらせる。口端を釣り上げて笑いながら、高揚した彼は稲妻を纏う拳で癸の頬を全力で殴打する。
巧太のライドキャリバー、ベスパが機銃の銃口を癸へと向けて、掃射を行う。
「行くよっ!」
一瞬相手が怯んだその瞬間、地面を蹴り上げて跳躍したまりもの小さな身体が、その勢いと重力とに任せて癸へと迫る。普段は戦闘時でさえも遊ぶように大胆に動き回る少女の表情はどこか重い。憂いを帯びながら、それでも手加減など一切無い、全力の蹴りを癸へと叩き込んだ。
「何だ、この程度……っ!」
戦闘での経験を積んだ実力者である2人の攻撃は十分に相手へと通じていた。だが、まだ耐え切れる、この事態を乗り切れるという勝算があったのだろう。男が笑みを深めたが――それとほぼ同時に、倉庫から影が飛び出して来た。
●蒼き窮鼠
飛びだして来た影の主の腕が鬼のそれへと変じ、癸を殴り飛ばした。辛うじて、の一撃を顔面に腕を突き出す事で受け止めた男は、ちっと舌打ちした。
「新手か……!」
その答えに返答をする事も無く、急襲してきた襲撃者――夜空・大破(白き破壊者・d03552)が癸から距離を取り体勢を整える。
(「ここで油断して失敗しないようにしないといけないですね」)
全体としては、この戦争は武蔵坂学園が勝利している。だからこその掃討戦だが――学園内にダークネスが残っているというこの状況は、けして油断は出来ない。
(「置いていかれた奴らもある意味可哀想ではあるけど、ね」)
僅かな同情を覚えつつも、閼伽井・武尚(錆びた歯車・d17991)は倉庫の屋根から壁伝いにエアシューズで駆けて、摩擦熱から作り出した炎を纏った蹴りを癸へと見舞う。
「逃げ遅れ、いわば敗残兵ではありますが、窮鼠猫を噛むといいます。気を引き締めてまいりましょう」
九形・皆無(僧侶系高校生・d25213)もまた、倉庫の影から飛び出し、地を蹴って駆け出したその勢いに載せて、鬼の腕で癸を殴りつけた。
「……はい!」
3人の仲間たちが合流した事で、ほっと安堵したように笑んだ音々が、右腕を巨大なデモノイドの蒼き刃へと変えて、それを地面に突き立てる。ぱりん、と砕かれた破片は酸へと変わり、じゅっと音を立てて癸が纏う蒼き寄生体を腐食させる。
「ちっ……挟み撃ち、ってか」
正面には5人の灼滅者と3体のサーヴァント。癸から見て左、倉庫の影、あるいは上から現れたのは3人の灼滅者。右と背後には、高い塀がある。
先程までは自信に満ちていた男の顔に、苛立ちが過った。
「8人か……だが、俺はこんなところで死ぬ訳にはいかないんだよ!」
生への執着を高らかに叫んで、癸は脳の演算能力を最適化させてゆく。
「自分たちから仕掛けておいて挙句の果てに死にたくないだぁ?」
アァ? と露骨に怒りを露わにしてみせたのは和志だ。
学園へと攻め込まれ、自分たちが日々を過ごす場所をこうして荒らされた怒りは抑えようが無い。それでも冷静に、如何に相手をうまく潰すかを考えながら、彼は防護符を剣へと飛ばす。和志にならうようにわん、と大声で吼えながら、加是も瞳に霊力を宿して自身を癒す。
そのドスの効いた声も、殺気だった癸を怯ませる事は無い。代わりに驚いたのはまりもと武尚だ。
「日向おにーちゃん、すごく怒ってる」
「びっくりしたね、少し」
年上のお兄さんの凄んだ声、というのは迫力があるもの。その怒りに一瞬圧倒されるも、まりもが聖なる風を起こして仲間たちの傷を癒し、武尚は積極的に、癸が攻撃し辛くなるくらいに距離を詰め、そこから、刃を非物質化させて癸の魂を打ち砕く。更にヘペレがフルスロットルで自身の体勢を立て直す。
「ははは、そら、もっと楽しく喧嘩しようぜっ!!」
高揚する剣の勢いは止まらない。癸のバスターライフルに撃ち抜かれても背を向ける事も無く、体勢も崩す事無く、鋼鉄の如き拳を癸の腹部へと叩き込んだ。
「……っ」
己の守りを省みない、攻撃に特化したその一撃は流石に相手がこちらより遥かな強力なダークネスと言えど応えたか。
痛みに癸が顔を歪ませるのを、巧太はその瞳にしっかりと焼きつけた。
(「どんな見た目でも、ダークネスな以上は灼滅しなきゃ、だな」)
苦悶の表情を浮かべるその様子は、人となんら変わらない。けれど相手は既に人である事を完全に捨ててしまった者だ。それを念頭に置きながら、巧太が篭手を装着したその指先に集めた霊力を剣へと放ち、傷を癒す。
その横顔をちらりと心配そうに一瞥して、皆無が縛霊手に覆われた右手を振り上げる。
「戒めの鎖よ、縛り上げろ!」
振り下ろす膂力と自重とが重なれば、それは強力な一打となる。ごっ、と鈍い音を立てて癸の横っ面を張ったその瞬間、霊力が網のように広がってゆき、蒼き闇を拘束した。
●塞ぎ、防ぎ
「いい、から……俺を、通せっ!!」
徐々に身体に降り積もっていた負荷が、いよいよ癸も無視できないレベルに達していた。その動きも、攻撃の威力も徐々に精彩を欠いている事は自分が誰よりも分かっていたのだろう。苛立ちながら、その身に纏う蒼を蠢かす。
身震いをした蒼から放たれた酸液が和志へと放たれたが、斜線を加是が遮った。ばしゃ、と少々重みのある水音に次いで加是が吼えて――そして、その姿が霧散する。
既に形勢は完全に灼滅者へと傾いていた。掃討戦という、残敵を追い込んでトドメを刺すというこの戦いは、大破にとってはあまり気持ちの良いものでは無い。
「……とはいえ、戦争に参加した以上、灼滅される覚悟は少しはあったでしょう?」
一方的に蹂躙される程、武蔵坂学園は甘くない。己の言葉に癸がくっと呻き声を上げたその瞬間、大破が駆けて癸の懐へと潜り込み、至近距離からマテリアルロッドで殴りつける。鈍い音と衝撃が起きたその瞬間、膨大な魔力が癸の体内へと流れ込み、爆ぜた。体勢を立て直す暇も無く、音々の寄生体に捕食されたマテリアルロッド、つまりは右腕で殴り飛ばされる。
「覚悟も無く、戦場になんか来るかよ……!!」
それでも、最後まで生きる為に、見苦しくとも癸は足掻く。よろめきながらもバスターライフルから放つ光線で、自分の前に立ちはだかる灼滅者たちを薙ぎ払ってゆく。
「通りたけりゃ、喧嘩に勝てよ」
あっさりと言い放った剣が、自身の傷口から零れる血になど目もくれず、オーラを纏う拳の連打を繰り出す。
巧太が縛霊手を纏う拳を癸へと叩き込み、ベスパが突撃する。骨まで砕かんばかりの一撃は、殲術道具越しに確かに彼自身へも、敵を傷つける感触を返した。その感触をしっかりと記憶に焼きつける。――自分たちは、ダークネスを灼滅する。かつて人であったモノを殺める行為なのだ、という事実を忘れないように。
努めて冷静に、皆無は癸の様子を観察した。
「ここ、ですね」
バスターライフルの引鉄を引く為の右手。弱点を見出したのと、皆無が動いたのはほぼ同時。すかさず、正確な斬撃で、癸の右手を切り裂いた。
痛みは痺れとなって、更に癸の攻撃を鈍らせた。けれどその戦意は未だ鈍らず、引金を引いて光線を放つ。大破を狙ったその一撃を、光線の前に躍り出たまりもが受け止めた。
窮鼠猫を噛む。その一撃は思った以上の熱量で小さな身体を襲った。その痛みを和らげるべく、オーラを集めてまりもが自身の傷を癒し、ヘペレは主を守るように、どーん!と 癸へと突撃してゆく。
粘るなぁ、と、未だ折れない癸の様子に、武尚が息を吐いて、エアシューズで地面を滑る。少年の軌跡を辿るように砂埃と煙が続いて行った。炎を帯びた蹴りを、癸の脇腹へと叩き込むと、衣服、そして蒼き寄生体へと引火した炎が燃え上がる。
「てめぇの落とし前、ここできっちりつけさせてもらおうか!!」
和志の怒りを現したかのような激しい炎を纏う縛霊手が、蒼を裂き、更なる炎を闇へと齎した。
「そうです。攻め込んで来た責任は……取って貰います」
音々が、巨大な刃をやや振り回され気味に大振りに振り翳し、癸を切り裂く。男が身に纏う深い蒼さえも塗り潰すように、溢れ出した鮮血がぼとぼとと飛び散った。
●真なる終戦
「くそ……っ!」
一人か、二人か――それくらい倒せただけでも、強引に突破する事は出来た筈だった。けれど、その段階に至る事さえ出来ない。己の無力を嘆いて、苦悶に表情を歪ませながら癸はバスターライフルの引き金を引いた。
光線が宙を走り、ヘペレを貫いた。灼滅者たちの守りに徹していたヘペレの胴部に穴が飽き、そのまま消えてゆく。ちらりと一瞥したまりもは、激昂するでもなく、ただ悲しげな視線を癸へと向けた。
「まりもはごめんって言わないから、まりもの事恨んでいいよ」
互いに為すべき事を為すだけだ。まだ幼い少女は、敵の恨みを受け容れる覚悟で――縛霊手を振り上げて闇を打つ。
剣の拳が炎を纏い耀いた。膨大な熱量を帯びた拳が癸を殴打すると、身に纏うデモノイド寄生体の蒼色が燃やされ、失せてゆく。
武尚の腕が、寄生体によって鋏に似た刃へと変じてゆく。どこか禍々しい刃で宿敵を切り裂きながら、それでも少年の瞳はただ冷静に、熱を持たずに癸を見つめていた。少年の赤い瞳に、切り裂かれてゆく蒼が映る。
「此処ではない場所へ還りなさい、蒼き獣よ」
大破の腕が、ふたたび鬼の剛腕へとめきめきと変化する。
それを目の当たりにして、癸は双眸を伏せた。もう体勢を立て直す余力も無い。彼にはもう、この攻撃をまともに浴びるより他に無かった。
厳つい拳の一撃が、蒼を打ち破る。――デモノイドロードと言えど、もはや耐える事は叶わなかった。
癸が纏う蒼が、ぼろっと崩れ落ちて行く。
「この喧嘩……俺たちの勝ち、だな」
追い詰められ、灼滅者たちと戦い血路を開くより他に無かったダークネスは、元よりこの結末はある程度は予想していたのだろう。剣の言葉に、ああ、と頷くだけ。苦痛の言葉さえ漏らすこと無く、癸の身体はそのまま塵と化して消えて行った。
「……おやすみなさい」
消えゆく姿をまりもが見送った。謝罪なんてしない。けれど代わりに、安らかな眠りを祈ろう。
「やっと終わったな……」
静寂の戻った戦場を見つめる和志の、しみじみとした言葉には重みがあった。
サイキックアブソーバーを狙いやってきた大群のダークネスを退けてからの、残敵の捜索と殲滅。やっとそれが一段落した安堵で、彼が大きく息を吐くと、どこか心配そうに加是が主人を見上げる。
「名前も知らねーけどちゃんと覚えててやるから、ゆっくり休めよ」
そう、形も残さず消えて行った癸の、人であった頃の人格の冥福を巧太は祈る。闇より救い出す術は他に無いと分かっていても、灼滅すると言う事は、相手を滅ぼす事だ。その重さを、忘れる事など出来やしない。
けれど、ただ祈りを捧げ――あるいは物思いに耽るだけの時間も無い。
「……これ、掃除しなくて大丈夫なんでしょうか」
音々が困ったように小首を傾げてみせた。戦いの余波で、焼却炉の蓋が開いてしまっていたらしい。火こそついてはいなかったが、前に燃やしたゴミの燃えカスが衝撃や風に煽られて舞い上がったらしく、あちこちに黒い燃えカスが散らばっている。
「掃除、しましょうか……」
皆無の言葉に頷いて、皆で暫しの清掃作業が始まった。とはいえ、まだどこかで掃討戦が行われている可能性もある。のんびりと掃除するという状況でも無いので、あくまで大きな燃えカスを拾う程度だ。
「でも、今はこれくらいにした方が良さそうかな……」
武尚がちらりと掃除用具入れに使われているらしい倉庫へと視線を移した。中にある掃除用具があればもう少し綺麗に清掃も出来るだろうが、今はまず、無事に残敵掃討を終えた事を報告しなければならない。
日常を守り切ったなら、掃除は明日にでもまた行われるのだ。掃除ができる、そんな平和な明日が訪れる――それは、どんなに幸福な事だろう。
「まったく……吸血鬼たちもこれに懲りて、武蔵坂へ手を出さなくなるといいのですが」
蓋を閉じて息を吐いた皆無の言葉は、他の灼滅者たちの想いでもある。願いを胸に抱きながら、彼らは教室へと踵を返し、向かってゆく。
程無くして、掃討戦が終わった事が伝えられるだろう。それをもって、今回の戦争は完全に終結する。
明日もまた、皆でこの学園で、笑い合う事が出来る。――それは、間違いなく彼らが戦いに勝利して勝ち得た宝物だった。
作者:瑞生 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2014年9月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|