武蔵坂学園内掃討戦~夜の校舎でかくれんぼ

    作者:天木一

    「クソックソックソッ」
     悪態を吐きながら、足を引きずる男が校舎の暗闇を急ぐ。
    「どうしてこうなった! 勝てる戦いじゃなかったのか!?」
     男は窓から校舎の外を見下ろす。そこには仲間の吸血鬼の軍勢ではなく、学園の灼滅者達が戻ってくる姿があった。
    「どうする、どうする、どうする!? このままだと……ああっクソッ」
     誰も居ない教室で、ぶつぶつと独り言を言いながら行ったり来たりしていた男は、悲鳴を上げて頭を抱える。
    「何故だ、吸血鬼たるこの私が、何故こんな窮地に追い込まれねばならぬ……! 足に怪我を負わなければ逃げ切れたものを……!」
     その時だった、遠くから階段を上ってくる音が聴こえる。
    「クソッ! 一先ずは隠れよう。数日を凌げば警戒も緩くなろう。それから逃げればよい」
     男は足を引きずりながら暗い教室に身を隠す。その時、月が男の姿を映す。艶の無い黒い髪。青ざめた白い肌。そして血のように鮮やかな瞳をしていた。
     
    「やあみんな、お疲れさま!」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が戦いから帰ってきた灼滅者を出迎える。
    「3体もの爵位級ヴァンパイアがやってきた時はどうなるかと思ったけど、みんなの活躍で撃退することができたね。お陰でサイキックアブソーバーも守り通せたよ。本当にありがとう!」
     興奮したような誠一郎の言葉に、灼滅者達は照れたように頷く。
    「作戦の失敗で、敵軍は武蔵坂学園から撤退を始めたんだけど、指揮系統も戦いで分断したんだろうね、どうも取り残されたダークネス達が居るみたいなんだ」
     そのダークネス達は学園から逃げることも出来ずに、抗戦か潜伏しているという。
    「ここに集まったみんなで、そのダークネスを掃討して欲しいんだよ」
     敵は単独のヴァンパイア。学園の3階教室のどこかに隠れている。
    「校舎は分かっているんだけどね、残念だけどそこから絞り込めなかったんだよ。敵は隠れてやり過ごすつもりみたいなんだ。だから探し出す事から始めて欲しい」
     敵地で動くリスクから、敵はその校舎の3階の範囲から動く事はない。
    「ただ、電気系統は潰されてるみたいでね、教室の灯りは点かないから気をつけて」
     校舎は暗い。何か自前で光源を用意しておくと便利だろう。
    「敵は既に足を負傷してるみたいでね、強行突破は考えてないはずだよ、もし見つかったら口封じに襲いかかってくると思う」
     ヴァンパイアといえど、既に戦いで疲労しダメージを受けている相手だ。全員で戦えば倒す事が可能だろう。
    「疲れているところ申し訳ないけど、このままだと新学期もまともに迎えられないからね。もう一仕事お願いするよ」
     頭を下げる誠一郎に、灼滅者は軽く手を振り、任せろと夜の廊下を歩き出した。


    参加者
    風早・真衣(Spreading Wind・d01474)
    伊織・順花(追憶の吸血姫・d14310)
    内山・弥太郎(覇山への道・d15775)
    椛山・ヒノ(ハニーシュガー・d18387)
    藤堂・恵理華(紫電灼刃・d20592)
    御嶽・千風(風切羽の巫・d21301)
    夜伽・夜音(トギカセ・d22134)

    ■リプレイ

    ●かくれんぼ
     夜の暗闇にコツコツと足音が響く。階段の下から灯りが漏れ、少年少女達が校舎の3階へと上がってくる。
    「真っ暗な校舎って、少しわくわくしませんか?」
     普段とは違う校舎の雰囲気に、御嶽・千風(風切羽の巫・d21301)は楽しそうに周囲を見渡す。
    「ふぇっ」
     その声にびくっと驚いた夜伽・夜音(トギカセ・d22134)は可笑しな声を上げる。
    「あ、ごめんなさい。大丈夫?」
     千風 が驚かせたかと心配そうに尋ねると、夜音はコクコクと頷いた。
    「だ、大丈夫さんなの……頑張るさん……うぅ」
     声を震わせながらも、きょろきょろと敵を探す。
    「夏休みの宿題は終わりましたか?」
     話題を変えようと藤堂・恵理華(紫電灼刃・d20592)が仲間に声をかける。
    「ああなんとか、今年はのんびり宿題したせいでギリギリだった」
     それに応じたラシェリール・ハプスリンゲン(白虹孔雀・d09458)が答えると、千風と夜音もそれぞれ宿題の話を始める。
     そんな話を賑やかにしながらも、教室を調べようと鍵を開けて中に入った。
     ロッカーや机の下、シャッとカーテンを引いて隠れられそうな場所を探す。
    「ここには居ないか」
     ロッカーを閉じたラシェリールが振 り返る。
    「外れみたいですね」
     恵理華も頷き、周囲を照らす照明を下ろした。
    「つ、次の教室に……行くの」
     恐る恐る机の下を覗いていた夜音が顔を上げた。
    「それでは捜索済みのシールを貼りますね」
     千風が蛍光塗料のシールを教室の扉に張り、一行は隣の教室へ向かう。

     同じ時間、校舎の反対側の階段を照明で照らし、もう1グループの少年少女が3階へと上って来ていた。
    「まったく、残党が校舎に隠れてるとはな」
     伊織・順花(追憶の吸血姫・d14310)は軽く悪態を吐いて、周囲を灯りで照らす。
    「どこかに隠れているデスね?」
     椛山・ヒノ(ハニーシュガー・d18387)が無駄に音を立てぬよう慎重に足を運ぶ。
    「かくれんぼとは違いますから、ね」
     風早・真衣(Spreading Wind・d01474)は見逃さぬよう、気をつけながら周囲を窺う。
    「これで……鼻が効くわけじゃないんですけど……」
     そう言いながら内山・弥太郎(覇山への道・d15775)は自分の獣耳と尻尾を動かした。
    「サイゾーも頼むよ」
     隣の霊犬の頭を撫でる。するとサイゾーは任せろとばかりに尻尾を元気良く振った。
     4人は声を潜め、静かに教室を調べ始める。
    「異常はなさそうです、ね」
     隠れられそうな場所を粗方探し、真衣が声を落としながら仲間を顔を合わせる。
    「撤退するなら撤退するで残党は残していくなっての」
     順花は掃除道具の入ったロッカーを閉じ、埃で汚れた手を叩いて呟く。
    「いない方がよかたでしょうか?」
    「いや、残党狩りでヴァンパイア勢力の戦力を削れる から良いんだけどさ」
     ヒノの声を潜めて尋ねると、順花は日常の場所に入って来られる事が嫌なのだと不快そうな顔をする。
    「待って今隣の部屋で物音が……」
     しっと口の前で人差し指を立て、弥太郎はぴくぴくと耳を動かす。
     4人が息を潜めると、隣の教室で僅かな何かを引きずるような音が聴こえた。
     顔を見合わせ、手振りで行こうと合図を交わす。
     隣の教室の前でドアをそっと開け、中を懐中電灯で照らす。
     慎重に部屋に入るとロッカーや机の下、隠れられるところを探す。
    「誰もいないデス」
    「ん、隠れる場所は他にはなさそうだし、ね」
     ヒノが緊張で止まっていた息を吐き出し、真衣も警戒を緩める。
    「気のせいだったのかな」
     弥太郎はそう言って隣の サイゾーの頭を撫でる。サイゾーは弥太郎を見上げ、何かに気付いたようにその袖に噛み付いて引っ張った。
    「どうし……」
     バランスを崩し言葉を続けようとした時、先程まであった頭の位置に風を切り裂く音が通り過ぎた。
    「上だ!」
     天井を見上げた順花が鋭く警告を発した。

    ●夜の校舎
    「チッ犬が居なければやり過ごせたものを……」
     暗い天井に人影があった、男がまるで蝙蝠のように逆さに立っている。
    「見られた以上、生かしてはおけんな。向こうから来る連中に気付かれる前に、死んでもらおう」
     その真紅の瞳を光らせ、男は襲い掛かってくる。
    「下等なる灼滅者よ、我が贄となれ!」
     爪が伸び、刃のように鋭く迫る。
    「見つけたぜ、ヴァンパイアさん」
     その 一撃を、順花が白い刀身の刀で受け止めた。そして刃を奔らせると男の腕を斬り裂く。
    「敵を見つけました!」
     弥太郎は声を張って通話中のまま持っていた携帯電話から、反対側を捜索している仲間へ敵の襲撃を報せる。
    「風よ……私を運んで。そして教えて、世界を」
     真衣の持つカードから風が巻き起こる。力を解放すると、腕を鬼の如く変化させて拳を頭上目掛けて叩き込む。
    「フンッその程度、当たるものか」
     男は逆さのまま天井を移動し拳を避ける。
    「なら! 避けられない攻撃をするデス!」
     ヒノが元気良く剣を振るう。すると刀身が伸びて鞭のようにしなり、天井を薙ぐように斬りつける。刃が男の背中を斬り裂いた。
    「チックソ女め! よくもこ の貴族たる私に傷をつけたな。その血で贖え……!」
     天井を蹴り男が落下しながら爪を伸ばして襲い掛かる。
    「させるか!」
     順花が先と同じように爪を弾く。だが今度は続けて反対の爪が振り降ろされ、順花の肩を抉った。男は爪に付いた血を舐める。
    「灼滅者などクソのような存在だが、その血だけは価値がある。私の食事としての価値がなっ」
     男はニタリと哂うと、更に爪を構えて襲い来る。首を狙う鉤爪が途中で止まった。
    「そんなお強い吸血鬼サマが、何故逃げる事を考えていたのですか?」
     爪の前には恵理華の腕が差し込まれ、そこから展開するエネルギーの盾が爪を受け止めていた。
    「もう来たというのか!?」
     援軍に驚き引こうとする男の周囲を影の蝶が舞う。
    「トギカセ」
     夜音の足元から生まれた影が舞い飛び、男の視界を奪う。そこへ夜音は腕を巨大化させて拳を叩き込んだ。
    「げっ」
     腹を殴られ口から息を漏らしながら男は吹き飛ぶ。机にぶつかり薙ぎ倒しながら壁で止まる。
    「お待たせしました。学園内のお掃除、しっかりせねばなりませんね」
     千風は男をちらりと見てそう告げると、傷ついた順花に向けて弓を構えると矢を放つ。矢は傷口に吸い込まれ、あっという間に傷を塞ぐ。
    「手負いであっても油断はできない、ここで必ず仕留めよう」
     ラシェリールが倒れた男に駆け寄り、星空の如き輝きを放つ剣を振り下ろす。男は爪で受けようとしたが、その爪を切り落とし肩へと食い込む。
    「ぐぅぉっ」
     男は苦悶の声を上げながら、反対の手から爪を伸ば して薙ぎ払う。ラシェリールは剣を盾にして受けながら後退する。
    「クソッぞろぞろと害虫のように現われおって。ならば全員血祭りにあげてくれる!」
     両手の爪を伸ばして連続して周囲を薙ぎ払う。
    「やれるものならやってみろ!」
    「隠れてコソコソしていたくせに、見つかったら強気だなんて恥かしくないんですか貴方は」
     順花と恵理華が前に出て攻撃を受ける。爪が二人の身体に幾筋もの傷を作る。だが順花は刀で致命傷となる攻撃を受け流し、逆に男の腕を斬りつける。そして盾で爪を受け止めた恵理華はそのまま全身を使って押し返す。
    「チッ」
     舌打ちと共に男は後方に下がり、その身から霧を発する。
    「襲撃の後片付けをさせていただき、ます」
     その霧に飛び込み突 っ切ると、真衣はダメージを追いながらも追いすがる。そしてオーラを纏った右拳でそのボディに一撃を加える。男が唾を飛ばしながら前屈みになったところへ、左拳が男の顎を捉える。そのまま拳の連打を浴びせると、男は腕をクロスさせて身を守りながら倒れこむように飛び退いた。だが男は負傷している足の踏ん張りが利かずに体をよろけさせる。
    「クソッ万全ならば貴様らなんぞ!」
    「手負いであろうと容赦はしない!」
     そこへ加速して跳躍したラシェリールが鋭く低い軌道で飛び蹴りを放つ。男は引きずる足を打ち抜かれ、バランスを失い手をついて倒れた。
    「今が好機です、一気に仕掛けましょう」
    「頑張りますぅ」
     白い炎を纏った弥太郎は机の合間を抜けて男の背後に回り込み、左腕を狼化させ篭手を装着すると、その獣の鋭い爪で男の背中を切り裂く。更に夜音の影の蝶が弾丸となって、男の腹を穿った。
    「調子に乗るな、下等なクズどもが!」
     男から流れる血が広がる、そして刃となって弥太郎と夜音を襲い足を貫く。
    「怪我はお任せください」
    「すぐに治療するマス!」
     千風とヒノの体から穏やかな風が吹き抜ける。すると2人の負った傷を一瞬で塞ぎ癒した。

    ●吸血鬼
    「貴様ら下等種は、黙って我らに血を捧げていればいいのだ」
     男が爪の伸ばす。その爪もよく見れば血で作られていた。そのまま伸びた爪は真っ直ぐに突剣のようにヒノに向かって襲い来る。
    「人の血を吸うとか、まるで蚊ですね。駆除しましょうか」
     その前を遮った恵理華が、斜めに構えた盾で受け流す。
    「私たちは、ヴァンパイアさんの食糧ではありま、せん」
     真衣が大鎌を横に薙ぐ。胴体を真っ二つにしそうな勢いに、男は慌てて身を躱す。だがその後頭部を黄金の鉄扇で殴られる。目から星が飛びそうな衝撃に動きを止めた男の胸を、大鎌が深く抉った。
    「ぐぉあ!」
    「隠れんぼで見つかったなら、そこで負けだ」
     鉄扇を優雅に開く見下ろすラシェリールに、男は膝をつきながらも血の刃を向ける。
    「なら次は私が鬼となって貴様らを皆殺しにしてやろう」
    「だったらこちらは鬼退治といくぜ」
     長く伸びた血の刃が届く前に、男の背後より近づいた順花が刀で背中を斬りつける。衝撃に男の手元が狂い、刃は壁に突き刺さった。
    「左右から行きますよサイゾー」
     横から踏み込んだ弥太郎は、蒼く板のような刀身の剣を振り抜く。同時に反対側から駆け寄ったサイゾーが口に咥えた刀で斬りつける。男は体のあちこちから血を流し、足元に血溜まりができた。
    「灼滅者なんぞにこの私がこれほどの傷を負う事になるとは……この傷を癒す為に貴様らの命で贖ってもらおう」
     ゆっくりと男の足元から広がった血が倒れた机の下を伝い、順花の元へと届いていた。血は鋭く長い刃となって順花の足を貫いた。
    「くっ血か!」
     順花が刀を振るい爪を斬り捨てて逃れようとする。だが次々と爪が生えて太股まで串刺しにして動きを封じた。溢れ出た血が地面へと流れる。するとまるでその血を運ぶように地面に広がっていた血が動き、逆再生するように男の下へと戻る。
    「ククッ……やはり若い女の血は一段と甘美なものだ」
     男は口元に笑みを浮かべて戻った血を掬い上げると立ち上がる。その体の傷が幾つも癒えていく。
    「順花ちゃん! よくもやってくれたねぇ、お返しするの!」
     夜音が影の蝶を羽ばたかせ、頭上から弾丸として次々と放つ。
    「うつデスね。お任せよ、えんごしマス」
     それに続いてヒノもオーラの塊を手から撃ち出した。
    「クソッ次々と鬱陶しいことを」
     男は血の爪でそれを斬り捨てる。だがオーラの塊を腕に食らい、動きが止まったところへ影の弾丸が太股を貫いた。
    「傷は深いですね、まずは止血いたします」
     千風が弓を構えて矢を放ち、順花の体に吸い込まれると、脚から流れていた血が止まった。
    「貴様らは黙って血を差し出せばいいのだ。無駄な抵抗をするな」
     男は爪を伸ばして薙ぎ払う。
    「そちらこそ、この学園で抗うのは無駄だと理解するんだな」
     その範囲内へ踏み込むラシェリールは左手に持つ鉄扇で爪を受け止め、更に踏み込み剣を薙いだ。刃が男の左手を斬り落とす。
    「ぐぉおおお!?」
     失った腕を見て男は呻く。
    「もう夜も遅い、帰る時間です」
     その隙に弥太郎がローラーダッシュで近づき、勢いよく炎を纏った蹴りを放った。顔面を打たれた男は顔に火傷を負い、よろけて壁まで下がる。そこへサイゾーが六文銭を撃って追い討ちを掛けた。
    「クソックソッ速く腕を繋げなくては……」
     男が腕を拾おうとすると屈むと、その腕を誰かが踏みつける。見上げればそこには順花が立っていた。
    「やられたからには、きっちりとやり返させてもらうぜ」
     男は失った腕から血の刃を生やす。順花はそれを左肩で受け、刀を振り抜く。刃は男の両脚を断ち切っていた。
    「ぐぅあああああ!? 私の脚がぁ!」
     男は傷口から血を伸ばして両脚を繋げようとする。
    「くっつける時間なんてあげないよぅ」
     そこへ夜音が影の蝶を飛ばすと、蝶は傷口に付着して傷を抉る。血は生きているように、異物を排除しようと動き回る。
    「血がいきものみたいデ、気持ちわるいデスねー」
     ヒノが風を巻き起こす。風の刃が男を切りつけ、風の勢いで血が飛び散った。
    「クソどもがぁ!」
     飛び散った血が刃となって男の周囲を護るように突き立つ。そして男は窓ガラスを割ると曲がって繋がった足を窓枠に乗せる。
    「どうしました? まさか不利になったからと逃げるつもりじゃないですよね?」
     恵理華は血の刃を盾で吹き飛ばして接近する。更に生える刃に足を貫かれた。だがその傷は背後から飛来した矢が癒してしまう。
    「怪我をしてもわたくしが癒します。ですので行って下さい」
     弓を構える千風の声に、恵理華は真っ直ぐに突っ込む。
    「近づくなこのクソ虫が!」
     男は手の刃を振るい、目の前に迫る恵理華を吹き飛ばす。だが入れ替わるように人影が飛び込んできた。
    「招かれざるお客さんには、お帰り願い、ます」
     真衣の鬼のように巨大な腕が、貫き手で矢のように放たれる。男は胸に大きな穴を開け、地上へと落下した。
    「っぐぇぅ、このヴァンパイアたる、私が……こんなクソみたいなところで……」
     衝撃に体中が砕け真紅の瞳から生気が失われる。男は塵となって消え去った。

    ●平穏
    「襲撃の後片付けも終わり、です」
     真衣は戦いで暑くなった体を冷ますように、窓から入る夜風にあたる。
    「これで安心して学園に来れるな」
     順花は晴々とした表情で、足の痛みなど忘れたように窓から消えた敵を見下ろす。
    「お手柄でしたよサイゾー」
     弥太郎が敵を見つけた事を褒めてサイゾーの頭を撫でると、サイゾーは得意そうに尻尾を振っていた。
    「明日からは、いつもどおりの学園生活デスね!」
    「でも、荒らされた教室の片付けが大変そうです」
     ヒノは終わったと元気に伸びをする。恵理華は机や椅子が薙ぎ倒され、窓ガラスが散乱した教室の惨状に目をやると、掃除道具を取り出した。
    「夜の校舎で隠れんぼ……案外楽しかったな」
    「そうですね、夜の校舎はいつもと違ってわくわくしました」
     ラシェリールと千風も荒れた教室を片付け始める。
    「うぅ、早く片付けて帰りたいよぅ」
     皆で机を動かす音が静かな教室に響き、夜音はビクッと体を振るわせながら、掃除を手伝う。
     夜の校舎に賑やかな生徒達の声が響いていた。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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