武蔵坂学園内掃討戦~残され淫魔ハント

    作者:小茄

    「あー、マジこれやばたんなんだけど!」
     サイキックアブソーバー強奪作戦は失敗に終わり、ボスコウは灼滅され、爵位級ヴァンパイアも既に撤退した。しかし学園の敷地内には、逃げ遅れたダークネスが一定数存在していたのだ。
    「外は敵ばっかだし……こっちに逃げるしかないっしょ」
     HKTのTシャツを纏った茶髪の淫魔「アヤ」もまた、そんな逃げ遅れの一人である。
     人の少ない方少ない方へと移動するうち、アヤは校舎の中へ逃げ込む事となった。
    「こんな所で死なないし! 私だけは絶対に生き延びてやるんだからっ!」
     軽くフラグを立てつつ、彼女はひたすら走るのだった。
     
    「爵位級ヴァンパイア三体を相手取っての見事な戦いぶり、またサイキックアブソーバーを守り抜いた事に対し、最大限の賛辞を贈らせて頂きますわ!」
     有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)はパチパチと手を叩き、少し興奮気味でそう讃える。
    「それで……知っての通り、多くの敵戦力は武蔵坂学園から撤退していきましたわ。ただ、撤退しそびれた残敵がある程度校舎や敷地内に潜伏、または籠城している状態ですの」
     むろん放置する事は出来ない。速やかに掃討する必要があるだろう。
    「休む間もなく申し訳ないのだけれど、是非お願い致しますわ」
     
    「貴方達に担当して頂きたいのは、HKT六六六所属の淫魔。アヤと言う名前の敵ですわ」
     彼女は、現在ある校舎の二階に逃げ込んでいる。灼滅者と接触したなら恐らく逃げようとするだろう。
    「それを利用して屋上に追い込めば、逃げ場もないし広くて戦いやすいのではないかしら?」
     しかし窮鼠猫を噛むと言う言葉もある。敗残といえどダークネスなので、最後の瞬間まで油断は禁物だ。
     アヤは投げキッス(遠単ダメージ+【催眠】)やウィンク(遠列ダメージ+【催眠】)と言った技の他に、敏捷性に優れ格闘もこなすと言う。
    「加えて、相手は淫魔……人の心につけ込むのも得意としているから、命乞いとか口車に乗って隙を作ってしまわない様にね。もっとも、乗ったフリをすると言うのは一つの手かもしれないけれど」
     ともかくも、学園内にダークネスの存在を許す訳にはいかない。一刻も早い対処が求められる。
     
    「一応淫魔が学園外に逃走した場合も作戦は成功ですけれど、今後の事を考えるとやはり倒せる時に倒したいですわね。貴方達ならぬかりはないでしょう、いってらっしゃいまし」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)
    神條・エルザ(クリミナルブラック・d01676)
    喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)
    瀧瀬・和佳奈(アルクストリガー・d02190)
    北逆世・折花(暴君・d07375)
    霧月・詩音(凍月・d13352)
    ユーリ・エールウィング(見習いシスター・d14753)
    フィアッセ・ピサロロペス(睡蓮の歌姫・d21113)

    ■リプレイ


    「はぁ、はぁ……何なのもう。マジ有り得ない。負けるとか聞いてないんだけど」
     武蔵坂学園が戦場となった今回の戦は、灼滅者の勝利に終わった。いや、正確にはまだ終わって居ない。
     大多数のダークネスは退却して行ったが、学園の敷地内に取り残された者も多少存在していたのである。HKT六六六所属の淫魔である彼女――アヤもまた、そんな逃げ遅れの一人だった。
    「外は敵だらけだし……この校舎のどこかに隠れて、チャンスを伺うしか……」
    「伝令! 遊撃・補給部隊は一階に全て配置完了!」
    「?!」
     人目を避けながら、どうにか校舎の二階に逃げ込んだアヤだったが、下から聞こえてくるのはそんな声。
    「この校舎にも逃げ込んだ敵が居るかも知れないぞ」
    「一階の人達は階段で待機して置いて下さい! 私達で二階を調べます!」
    「やばっ……」
    「上の方の備えはどうなってますか?」
    「いや、まだ誰も……」
    「下はもう、人数、いらないっ……上、早く、増援送って……にげられ、るっ!」
     風に乗って聞こえてくるそんな会話に耳を澄ませていたアヤは、大急ぎで上り階段へと走り出した。
    「……これで、上手く乗ってくれるかな?」
    「恐らく。いずれにせよ、逃げ道は上にしかないのだからな」
     割り込みヴォイスによって、上階への逃走を促した喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)と、小さく頷きつつ応える北逆世・折花(暴君・d07375)。
    「さぁって……残党狩りしますかね?」
    「はい……では予定通り、二班に別れましょう」
     久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)の言葉に頷いた一階の追い込み班は、ユーリ・エールウィング(見習いシスター・d14753)が示したとおり、二手に分れて階段を上って行く。
    「校舎内は走らない様にと言いますが、今日は特別ですね」
     普段学生生活を送っている学び舎が、今また命のやり取りをする戦場となっている。フィアッセ・ピサロロペス(睡蓮の歌姫・d21113)は、そんな現状を動揺無く受け入れた様子で、小さく呟く。
     自分達の拠点であり、学生生活の場でもある武蔵坂学園。そのテリトリーを完全に奪還する為、淫魔と灼滅者の命懸けの鬼ごっこが始まったのだ。


    「みつけ、た……! 皆、こっち、いたよ!」
    「こっちだ、いたぞ!」
    「屋上に逃がすな!!」
    「ちょっ……!」
     ユーリの引き絞った天星弓から放たれた矢が、アヤの眼前を掠めて踊り場の壁に突き刺さる。折花と翔も声を上げて、多数の追跡者が存在する事を匂わせる。
    「と、とにかく屋上に……」
     下から聞こえてきた声を信じ、とにかく階段を駆け上がるアヤ。屋上から脱出する手段が有るかどうかは棚上げし、今はとにかく追っ手から逃げる事に集中する。
     ――バンッ!
     最後の階段を駆け上がり、扉を蹴破る様にして屋上へ飛び出した彼女が見た物は……
    「ここがお前の終着点だ、淫魔アヤ」
    「やっときたね、待ってたよ」
     ――バッ!
    「なっ!?」
    「……下品な格好ですね。所詮は淫魔という事ですか」
    「格好は関係ないし! ってか、なんで居るの! 屋上は手薄なはずでしょ!」
     手足に絡みつく霊力の糸。そして、万全の態勢で待ち構えていたのは、神條・エルザ(クリミナルブラック・d01676)、瀧瀬・和佳奈(アルクストリガー・d02190)、そして霧月・詩音(凍月・d13352)の三人。
     聞こえてきた情報と話が違うと、抗議がましく声を上げるアヤ。
    「残念ながら、ここが終点です」
     背後からは、フィアッセ始め追い込み班の姿。今更下へ引き返す事も出来ない。
    「くっ……わざわざアタシの為に、そんな小細工までしてくれたってワケ? 嬉しくって涙が出そう」
     挟み撃ちを避けるように屋上へ上りきり、フェンスを背負うようにして、臨戦態勢を取るアヤ。視線を忙しなく動かしながらも、軽口を叩いて動揺を隠す。
    「ウゼェんだよさっさと消えろカス」
    「はぁ?! 誰がカスだって? わらわらと数ばっか多い虫けらの分際で……」
     眼鏡を胸ポケットにしまい、解体ナイフを抜き放つ翔。彼を初めとして、八名の灼滅者がジリジリとその間合いを詰める。
    「っ……ま、まぁそれはそれとして……闘うのはいつでも出来るわけだしー、少し話でもしない? 意見交換っていうか、異文化交流っていうか?」
     反射的に悪口雑言を返したものの、冷静に考えれば極めて不利な状況にある事は疑いない。アヤは、灼滅者達の様子を窺い、可能ならば油断を誘う様にそんな言葉を掛けてくる。
    「ならば、HKT六六六が此度の戦争に介入した理由や、ミスター宍戸の居場所について聞かせて貰おうか」
    「……い、いやそんな事アタシが知るわけないし。って言うかほら、どうして戦争になったかよりも、これから先戦争が起こらない様にしていくみたいな、そう言う未来志向の関係が大事なんじゃないかな。うん」
     ならばとばかりに情報を引き出そうとした折花に対し、アヤはごにょごにょと歯切れの悪い言い逃れを続ける。
    「戦いも終わったわけだし、これ以上無益な血を流す必要は――あぐっ!?」
     彼女がまともに情報を寄越すはずが無いと読んでいたのだろう。有無を言わさぬタイミングで跳躍したエルザの跳び蹴りがアヤの側背を突く。
    「HKT六六六だったか。その時点でお前は既に、人に仇なす罪人に過ぎん。……私は、その罪を滅ぼしに来た」
    「ひ、人が話してる途中に攻撃してくるとか――ぎゃっ!」
    「私達……もう、喧嘩を買っちゃったから……あなたを後戻りさせてあげない……」
     よろめきながら抗議するアヤに対し、間髪を入れず今度は波琉那のスターゲイザーが直撃する。
     淫魔がどの様な存在なのか、誰よりも良く知っている彼女だからこそ、ここでアヤを逃したとしてメリットが無い事を知っている。
    「トラップ成功♪ 掛かったね!! ガンガン行くよ」
     封縛糸の不意打ちによってアヤの動きを制限した和佳奈は、続いてバスターライフルの引き金を引く。
    「そっちがやる気だって言うんなら……こっちだって!」
     とっさに投げキッスのポーズを取るアヤ。放たれたハート型の何かが、バスタービームと接触して眩い閃光を放ちながら互いを打ち消す。
    「うぅ……、投げキッスやウィンクで一体どう戦うの……と思いましたが……」
     顔を顰めつつも、バイオレンスギターを掻き鳴らしてソニックビートを放つフィアッセ。
     追い詰められたとは言え、相手もダークネス。窮鼠が猫を噛む危険は十分にある。
    「これ以上、学園に、手出し、させないし……誰も、傷つけさせ、ないっ!」
     ユーリも癒しの矢を放ちつつ、一層の覚悟を決める。
    「……逃げ遅れの無様な淫魔。貴方がどう足掻こうと、此処で灼滅します」
     頻りに挑発的な言葉を紡ぎつつも、表情は全く変えることの無い詩音。石化をもたらす禍々しい呪いをアヤ目掛けて放つ。
    「ぐっ……ちょっと、多勢に無勢とか卑怯だと思わないわけ!?」
    「もう小細工はおしまいか?」
     苦戦を強いられ切羽詰まった口調で喚くアヤに対し、雷を纏わせた拳を繰り出しつつ問う折花。
     時に左右からの同時攻撃、時に息つく暇さえ与えぬ波状攻撃と、自在の連携を取りつつ集中的に攻め立てる灼滅者。
     ジリジリと屋上の隅、事故防止のフェンスに追い込まれて行く淫魔。
    「……くうっ……わ、解った! じゃあこうしよう。降参しまーす」
     元々武器は持っていなかったが、両手を挙げて降参ポーズを取るアヤ。
    「でも、貴方がそのTシャツを着てここに居るのは、私たちを張り切って殺しに来たからでしょう?」
    「え、いや……これは無理矢理っていうか、配られたから着ただけっていうか……」
     相変わらず穏やかな口調だが、鋭いツッコミを入れるフィアッセ。
    「……わ、解った。ほら脱いだ!」
     HKTのTシャツを豪快に脱ぎ捨てるアヤ。夏の淫魔らしく、シャツの下には水着を着込んでいた。
    (「うわ、大人っぽいなー……でもこっちの女の子たちの方が可愛いよね」)
     大胆なビキニトップと、より露出度の高まる小麦色の肌を見て、思わずそんな感想を抱く和佳奈。かくいう彼女自身も、高校一年生とは思えないレベルの大人っぽいスタイルを有しては居るのだが……。
    「ね、これでもうアタシ達が戦う理由はなくなったでしょ? 過去の遺恨は水に流して、これからは仲良くー」
     アヤはくねくねとしなを作り、胸の谷間を強調したりしつつ、そんな言葉を紡ぐ。
     が――
    「流石に、同性の色香に惑わされたりはしないさ」
     ――バシュッ!
    「なっ、ぐううっ!?」
     ロッドをアヤの腹部に叩き込み、魔力を流し込みつつ言う折花。
     この掃討班は八人中七人が女子。いかにアヤが魅惑的な肉体で色仕掛けを試みても、かなり分が悪そうだ。
    「ま、待ってよ! 降参だって言ってるでしょ!」
    「それを殺人鬼に言って聞くと思うか?」
     いや、仮に男子が多かろうと結果は同じだっただろう。翔は薄く浮かべていた笑みを消し、冷徹な口調で問う。
     ――ヒュッ。
     そして返答を待つよりも早く、ナイフを閃かせた。
    「く、あっ……」
     首筋を抑えるアヤの手の間から、鮮血が溢れる。
    「トドメを、行くよ!」
    「滅び去れ、淫魔アヤ。その罪ごと撃ち抜く!」
     霊犬と共に、渾身の力を籠めて縛霊手を繰り出す波琉那。エルザもまた、サイキックソードを最上段より振り下ろす。
    「ぐあぁっ! ……はっ……アタシだけは……生き残るつもりだったのに、ね……」
     やや自嘲気味の笑いを浮かべてそう呟くと、アヤはそのまま地面へ崩れ落ちた。
    「一丁上がりか」
     動かなくなった淫魔に眼を向けること無く、ナイフを鞘に収める翔。
    「うん、汚名返上くらいは出来たかな!!」
     戦では重傷を負って思う様に活躍出来なかった和佳奈だが、今回の快勝に胸を張る。
    (「お前ももう少しましな出会いがあればよかったのだろうにな」)
     宿敵たる淫魔であれ、立場一つで共闘する仲間にも、この様な敵同士にもなる。エルザは複雑な想いを抱きつつも、多少の哀れみを感じつつ心中で呟く。
    (「ごめんね……今度生まれ変わったら、うっかりと仲良しの友達にでもなろうよ……」)
     淫魔という存在に対し複雑な想いを抱く波琉那もまた、静かにアヤの魂を弔う。
    「蒼空の下、響くは断末魔 残されし者、望みは叶わず 其の命は、儚く消えゆくのみ――」
     静かに鎮魂の歌を紡ぐ詩音。その旋律が淫魔に届くか否かは、知る術も無い。
    「他の校舎も掃討戦を終えた頃だろう。やっと学園が元通りになるね」
     フェンス越しに、学園を見渡して呟く折花。
    「はい……まだまだ戦いはこれからですけれど」
     エイティーンを解除し、本来の姿になったユーリ。ともあれ、一つの戦いに終止符を打ち、表情を和らげる。
    「それでは、参りましょうか」
     扉に手を掛け、促すように言うフィアッセ。

     かくして灼滅者達は、学園内に取り残された淫魔の掃討に成功した。
     一行は作戦成功の報告をすべく、もはや戦場ではなくなったその校舎を、後にするのだった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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