武蔵坂学園内掃討戦~三つ編み少女は抗う

    作者:雪神あゆた

     武蔵坂学園の通路内に響き渡る足音。
     三つ編みされた髪を振りみだしつつ、朱雀門高校の制服を着た少女は、学園内を走る
    「これはピンチ? とてもピンチ? どうしましょう。どこに逃げたらいいのでしょう。いいのでしょう」
     顔面蒼白。額には大粒の汗。
    「とりあえず、隠れる場所を。隠れる場所を。隠れてやり過ごして……その先は、その先はっ?!」
     少女はそこでしばらく黙る。ぎゅっと拳を握りしめ、
    「……とにかく、一分一秒でも長く、一分一秒でも長く生きのびてみせますからっ!」
     少女の足が向かうのは、生徒たちがいない空き教室。
     
     別の教室で。
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は灼滅者に頭を下げ、彼らの戦いを労う。
    「サイキックアブソーバー強奪作戦の阻止、お疲れ様です。
     皆様の奮闘の結果、爵位級ヴァンパイア3体の襲撃を防ぎきり、サイキックアブソーバーを防衛できました。本当に本当にありがとうございます!」
     笑顔でお礼を述べた後、姫子は表情を引き締めた。
    「けれど、問題は残っています。
     作戦が失敗したことで、爵位級吸血鬼と共に、多くの戦力は武蔵坂学園から撤退していきました。
     が、いくらかのダークネスが、武蔵坂学園に取り残されてしまったのです。
     現在、取り残されたダークネスは、校舎内や校内の施設に籠城・或いは潜伏しています。
     そこでここにいる皆さんにお願いしたいのは、学園内の残敵の一人――吸血鬼の、空川・りむの討伐」
     
     空川りむは朱雀門高校に所属する女吸血鬼だ。
     髪は三つ編みで、同じ言葉を繰り返すなど、芝居がかった口調を好む。武器は刀。
     同じ高校の面々と武蔵坂に襲撃に来たが、取り残されてしまった。
     今は、空き教室で息を潜ませている。
    「この空き教室に向かい、空川との戦闘をお願いします」
     空川の戦闘能力は高い。
     クラッシャーの位置に立ち、紅蓮斬、雲耀剣、月光衝、居合斬りに相当する、4つの技を駆使してくる。
     どの技も高い威力を持っているが、特に強い威力を持っているのが、居合斬り相当の技だ。
     警戒しないと、一気に体力を削られてしまうだろう。
     また、体勢が大きく崩れれば、シャウトで体勢を立て直してくる
    「残敵とはいえ、彼女はダークネス。侮る事は出来ません。しかも彼女は決死の覚悟で攻撃してきます。
     もし勝利が難しい場合は、退路をあけ逃がしたりすることも必要かもしれません」
     説明を終えると、姫子は、まっすぐに灼滅者を見つめた。
    「くれぐれも油断せず、事に臨んでください。どうかよろしくお願いします!」


    参加者
    向井・アロア(お天気パンケーキ・d00565)
    神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)
    神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012)
    刀狩・刃兵衛(剣客少女・d04445)
    深廻・和夜(闇纏う双銃の執事・d09481)
    海原・河音(好好エクソシストガール・d15211)
    ライオ・ルーネス(勇敢なる者・d16633)
    浅木・蓮(決意の刃・d18269)

    ■リプレイ


     夜の廊下。窓から月光が差し込んでくる。
     灼滅者八人は、教室の前に立っていた。
     神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)は扉を開け放つ。
    「臭う、臭うぞぉ……朱雀門の吸血鬼の臭いがなぁ!」
     扉の向こう側には、朱雀門の制服を纏う三つ編みの少女。服は赤く汚れている、自身と他人の血で。
     少女、空川・りむの瞳には、恐怖と――決意。
     三成は「ヒャッハーッ」雄叫び駆ける。炎纏わせた斧を一閃、空川を炎上させる。
     残り七人の灼滅者も、教室内に入る。
     執事服の深廻・和夜(闇纏う双銃の執事・d09481)は入口付近に立った。
    「臭うのでしたら、臭いの原因はどうしましょうか?」
     柔らかな口調で話す和夜。けれど、和夜の眼光は冷たく鋭い。
     和夜はululaを持ち上げた。銃声。追跡する弾丸で、空川の左胸を射抜く。
     燃やされ、撃たれ、けれど空川は、
    「そんなに臭うならお風呂にお風呂に、いきませんと。――あなた達を殺してね!」
     強張った笑みで言い、腰にさした刀を抜いた。刀から衝撃波を飛ばし灼滅者前衛を襲う。
     さらに空川は刀を上段に構えた。斧を構えなおしている三成へ、刃を叩きつける! 三成の顔が痛みに歪む。
     海原・河音(好好エクソシストガール・d15211)は中衛の位置で、状況を観察している。敵の攻撃の鋭さに、額に汗が浮かんだ。
    「つ、強い……でも、私だって負けてられない。頑張らなきゃ! 神楽さん、今回復するからね!」
     自分と仲間を鼓舞しつつ、剣を掲げジャッジメントレイ! 光で三成を癒す。
     一方、刀狩・刃兵衛(剣客少女・d04445)は朱塗りの鞘から御神刀を抜き放った。
    「相手にとって不足なし。同じ剣士として勝負致そう。――いざ、推して参る!」
     軽やかなフットワークで相手の側面をとり、足に刃の切っ先を刺し、かっ切った。黒死斬。
     動きが鈍った空川を灼滅者はさらに攻めたてる。
     攻撃を受け続ける空川は、しかし吠えるように言う。
    「生き残る、生き残る、生きてここから、ここから出るんです!」
     声には必死さと狂おしさ。
     ライオ・ルーネス(勇敢なる者・d16633)と神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012)が空川に言う。
    「生き残りたいと思うのは当然だが、灼滅させてもらう」
    「そうだよ。大切な場所を荒らされて怒ってるんだから!」
     静かに告げるライオと、怒気を込めて言葉を投げつける希紗。
    「なら、私だって、私だって言います。怒るのは当然だが、生き残らせてもらう!」
     返す空川。
     ライオは、
    「それはできない、いや、させない」
     白と黒、二振りの刀を操った。刀身に宿る『畏れ』が空川の胴に深い傷を作る。
     体をくの字に折り曲げる空川。彼女の後頭部へ、希紗は杖を振り落とす。鈍い音。フォースブレイクだ。
     床に崩れ落ちる空川。が、コンマ一秒で立ちあがった。激痛を感じてはいるはず、が意志で堪えているのだろう。
     浅木・蓮(決意の刃・d18269)は眼鏡をかけていない目で、空川を見る。
     空川は息を大きく吸い込みだす。攻撃の予備動作か?
     蓮は足で地面を叩いた。影が動く。影が立体化し、空川の足に巻きついた。
     が、空川は強引に足を動かし、跳び上がる。
     空中で刀を振りあげる空川。標的は――向井・アロア(お天気パンケーキ・d00565)。
    「向井、くるよ!」
     叫ぶ蓮。
     アロアはとっさに、体を捻ってよけようとするが――間に合わない。肩に激痛。落下と同時に放たれた空川の雲耀剣が、命中したのだ。
     アロアは横を向く。
    「っ……むむたん、お願いできる?」
    「ナノ!」むむたんは一鳴きすると、ふわふわハートでアロアを癒した。
     回復したアロアは右足を半歩前へ。左足をあげ空川の側頭部を、蹴りつける!


     一進一退の攻防が続く。共に傷が増えていく中、空川は刀を再び鞘におさめた。
    「とっておき中のとっておき、お見せします!」
     抜刀と同時に、斬る。目視できぬほどの剣速!
     斬られたのは、三成。腹から大量の血を散らし、三成は地面に倒れる。
    「やりましたか?!」
    「……んなわけねぇだろ、残念でしたぁ! 次は――手前の番だぁぁ!」
     三成は集気法を己に施しながら、立ちあがる。塞がりきらぬ傷口から血を零しながら、喚きたてる。その気迫に、空川は息をのむ。
     空川が気圧された隙に、蓮は隣の刃兵衛と希紗に話しかける。
    「刀狩、神泉……いける?」
    「無論だ。空川の剣技の冴えは侮れない。だが……」
    「けど、協力しあえば、突破口はきっと開けるよね。わたしも了解だよ!」
     蓮が刀の柄を握りしめる。風の刃を生成。
     刃兵衛は姿勢を低くして走り、相手の防具を断つべく刃を走らせた。
     希紗は相手の背後に回り込み、腕を巨大化させる。
     はたして――蓮の風が空川の足を斬り、刃兵衛の技が防御を削り、希紗の拳が背を猛打する!
     連携攻撃に空川の足がよろめく。空川は剣を床に突きたて、倒れるのをこらえた。
    「まだ、まだです!」
     空川の声から闘志は損なわれていない。

     空川は居合斬りを軸に攻めてくる。今も、斬撃が河音に迫りつつあった。
     が、
    「やらせるわけにはいかない!!」
     ライオが河音を突き飛ばす。刃に斬られ、血を流すライオ。シャウトで己を癒すが、癒せる傷だけではない。痛みは残る。
     それでも、一分かけ体勢を直し、ライオは二刀をふるった。
    「今度はオレの番だ!」
     白い刃で雲耀剣を相手の手首に叩きつけ、さらに黒の刃に畏れの力をこめ、腹に斬撃!
     空川の腕と腹から血が噴き出した。がああああ、獣じみた悲鳴。
     ライオは追い打ちをかけようと、二刀を持つ手に力をこめるが――次の刹那。
     空川の腕が動いた。緋色のオーラを宿す刀身がライオの腹を貫く。ライオはそれでもなお攻めようとするが、できない。前のめりに倒れた。
     空川は悲鳴を止め、勝ち誇る。
    「はははははっ、まずは一人、まずは一人。この勝負もらいました!」
     一分後にはまた刀を振ってくるが、「……あ、あれ?」空川が足をもつれさせる。刀は大きく空ぶる。ライオが与えた圧力のためだ。
    「ルーネスさんが与えてくれたチャンスね。畳みかけて、さっさと狩らせてもらうわ!」
    「というわけです、空川さん? 抵抗しないでくださるとありがたいのですが」
     河音が噛みつくようにいい、和夜が小首をかしげて見せる
     河音は十字架を召喚。十字架から光を放ち、空川を撃つ。
     空川はたまらず後ろに跳んだ。距離を稼ごうとしている?
     その動きを予測したように、和夜がRavenの引き金を引く。十二の砲門からブレイジングバースト!
     二人の射撃に、空川は余裕を消す。
    「……つ、強い」
    「私達が強いのは当然でしょ? だから、ここからは私達のターンだよ。覚悟は良い?」
     空川が漏らす言葉にアロアが答えた。むむたんに仲間の手当てをさせつつ、自身は前進。
     拳を前に突き出す。殴りさらに霊力で縛る、縛霊撃!


    「まだまだここからっ、ここからああ!」
     空川はシャウトする。気合を入れ、姿勢を立て直そうとしているのだ。
     蓮と三成は視線を交わし合う。
    「俺は足を攻めるよ。だから、神楽は――」
    「頭だな? 任せろ。鬱陶しい三つ編みごと、ぶっ潰してやるよぉ!」
     蓮の影が空川の両の足首を掴み、三成は跳びこみ、恋の予感壱号の杭を顔面に突き刺した!
     空川は苦悶の表情を浮かべた。
     脂汗と血を顔から零しつつ、腕を振る。衝撃波を飛ばし、三成や蓮を牽制。
     空川は教室の扉をみる。逃げる事を考えたか。
     しかし、希紗と刃兵衛は彼女を挟みこみ、進路を遮るように立つ。
    「逃がすつもりはないんだよ。りむちゃんだって必死だけど、こっちだって必死。だから全力で――」
    「――全力で、心も刃も断ち切り、捻じ伏せる!」
     希紗が両手で杖を握りしめ、フルスイング! フォースブレイクで空川を吹き飛ばす。壁に激突する空川を、刃兵衛は追う。ふらつく空川へ、渾身の居合斬り!

     戦況は灼滅者有利に傾いた。数分後。
     空川は全身傷だらけになっていた。呼吸も大きく乱れている。けれど瞳は闘志を失っていない。
     空川は再び刀を鞘に納める。力を溜める。
     その空川にアロアが跳びかかる。足を高く上げ、振り落とす。踵で相手の脳天を打つ!
     ぐらり、空川の両膝がゆれた。だが手は刀の柄を掴んだまま。空川は抜刀する。着地したアロアを斬りつけてくる。
     胸部を斬られ、アロアは尻餅をついた。
     むむたんに癒してもらいつつ、アロアは仲間へ声を飛ばす。
    「あとちょっと……トドメを……お願いっ!」
     河音がその声に応じるように、片手をあげた。
    「おっけー。――空川さん、女優兼アイドル志望として身につけた、キョンシー退治の技、見せてあげるわ!」
     河音の掌が輝き、空川を照らす。その輝きは、敵を滅ぼすジャッジメントレイだ。
     光をまともに浴びた空川は声もあげられず、前のめりに倒れた。
     仰向けになった空川は、顔だけをあげ、灼滅者を睨む。
    「生き残る、いきのこる、い……のこ……」
     うわごとのようにくりかえす空川。
     くすくすくす。和夜は笑い声を零しながら歩み寄る。
     倒れた敵の頭に銃口を突きつけ――。数秒後、床に赤い液体が広がった。
     そして和夜の黒の瞳が見つめる中、空川は消えていく。


     空川が完全に消滅したのを見て、三成は武器を構えを解いた。肩で息をしつつ、呟く。
    「空川……手前は強かった。けど、相手の実力を過小評価した結果がこれだ……この手前の灼滅って結果がな」
     河音は胸を押さえ、壁にもたれ込む。
    「……て、手ごわかった……これで全勢力じゃないなんて……朱雀門……侮れないわ……」
     対照的に、希紗は明るく笑い、Vサイン。
    「でも、今回は勝利なんだよ! 当然の勝利。学園で負けるなんて、カッコ悪い真似はできないしね!」
     一方、アロア、蓮は、倒れた仲間の前にたっていた。
    「ライオ、大丈夫? 怪我はない?」
     呼びかけるアロアの声に、ライオの肩がかすかに動いた。見る限り、大きな怪我はないようだ。
    「大丈夫そうだね。敵も無事倒せたし、これで一息つけそうかな」
     蓮はふぅ、吐息を吐く。
     しばらくして、ライオへの手当ても終えて。和夜は皆に言った。
    「そろそろ他の皆さんのいる所に行きませんか? 報告もしなければいけませんし」
     彼女の提案に従い、灼滅者たちは空き教室を後にする。
     廊下に足音を反響させつつ、刃兵衛が呟く。
    「……ともあれ、敵は倒せた。これで安心して、今までどおりの学園生活に戻れると良いな」
     刃兵衛の声に、その場にいたうちの数人が、うん、と頷いた。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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