武蔵坂学園内掃討戦~蝙蝠乱舞

    作者:君島世界

    「――――――!」
     武蔵坂学園の廊下を、三条の黒線が急ぎ横切っていく。それらは人の耳には聞こえない、しかし間違いなく悪影響をもたらすであろう超音波を発しながら、軌道に近接したガラスを無差別にひび割れさせていた。
     三条の飛行体は、どうやら人のいないほうへと逃げ続けているらしい。校庭にはいまだ多くの学園生徒たちが控えており、ならばと向かう先は校舎の上階側だ。しかし……。
     何度目かの階段へと入ろうとした時、彼らの行く手は分厚い防火扉に阻まれた。飛行体たちの能力をもってすれば、これを破壊して突破することは可能だ。無論、満足な時間さえあれば。
     背後には追っ手の足音が数多く響いている。もはや逃げ道はないと、彼らは逃走をやめ闘争へと思考を切り替える。彼らがはばたきの速度を下げると、呪術紋様の走る黒い翼があらわになった。
     眷属・タトゥーバット。その眼球を模した紋様と破壊力を持つ超音波とが、学園の灼滅者たちを待ち受ける!
     
     武蔵坂学園内の、安全が確認された一角にて。灼滅者たちの前に現れた鷹取・仁鴉(中学生エクスブレイン・dn0144)は、まず深々と一礼した。しばらくして面を上げた彼女の表情には、明らかな安堵が見て取れる。
    「皆様、この度は本当にお疲れ様でした。爵位級ヴァンパイアであるボスコウを仕留め、三竜包囲陣の完成を食い止めたことで、学園の危機はひとまず去りました。サイキックアブソーバーが奪われてしまっては、同時に私たちエクスブレインの力も発揮できなくなってしまいますから、そういう意味でもお礼を申し上げますわ。……これまでと同じように、皆様の為に働けますからね」
     そう言う仁鴉の背後には、どこから引っ張ってきたのか、キャスターつきホワイトボードがあった。仁鴉はマジックを手に取ると、なにか『二重丸が中についた蝶ネクタイのようなもの』を3つ描く。
    「学園に攻めてきた戦力のほとんどは、生き残りの爵位級ヴァンパイアと共に撤退していきましたわ。しかし、中には取り残されたダークネスたちや眷属たちもいますの。命令が行き届かなかったり、あるいは撤退する気のない者が、校舎内や校内の施設に篭城・潜伏しているようですの。
     現在、それら残敵を掃討する作戦が各所で進行中でして、こちらの皆様には、『これ』の担当をお願いいたしますわ。……ええ、ご覧いただけますとおり、眷属・タトゥーバットですの」
     
     仁鴉の解説は続く。
    「タトゥーバット。体表面に描かれた眼球状の『呪術紋様』により魔力を強化された、コウモリの姿の眷属ですわね。今回の戦争にも多数投入され、中でも『ボスコウの雨傘』といった強力な個体については、まだ記憶に新しいかと思われます。
     皆様の担当される個体群は、幸いなことにそこまで強力なものではありません。トップからの指示はありませんので、現在は校舎内をあてもなく逃げ惑って、邪魔なものを攻撃しているだけですわ。接触し、戦闘に持ち込むことは極めて容易ですの。
     それらが使うサイキックの種類については、戦争時に見られた物に準じますわ。即ちプレッシャー効果を持つ『超音波』、催眠を与えてくる『紋様の瞳』、そして妨アップをもたらす自己回復の『呪術紋様』の3つ。また、3体全てがクラッシャーですの。
     手元のデータによりますと、どうやら弱点属性は破壊力であるらしいですわ。これを増やす殲術道具を用いれば、戦いを有利に運ぶことができるかもしれませんわね。飛行中でもありませんから、皆様が使うサイキックに制限はありませんわ」
     
    「――さて、故事に曰く『窮鼠猫を噛む』と。ここにいらっしゃる皆様で充分に勝利を収めることに出来る相手ではありますが、油断をされますと無用なお怪我をされるかもしれませんわ。作戦を立て戦列を整え、確実を期して事に当たっていただけますよう、お願いいたします」


    参加者
    二夕月・海月(くらげ娘・d01805)
    荒野・鉱(その眼差しの先に・d07630)
    君津・シズク(積木崩し・d11222)
    金岡・劔(見習いヒーロー・d14746)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)
    菊水・靜(ディエスイレ・d19339)
    ザフィアト・シェセプ(幽世のアメンヘテプ・d24676)
    狼久保・惟元(白の守人・d27459)

    ■リプレイ

    ●バットハント
    「たああああぁぁぁぁっ!」
     少女は叫びながら、窓枠から教室内へと飛び込んだ。足音も軽く机上に着地したのは、灼滅者である金岡・劔(見習いヒーロー・d14746)。だが既に、目標の蝙蝠は教室から逃げ出している。
    「逃がさないよ、タトゥーバット!」
     すかさず劔は追跡を再開した。並ぶ机を飛び越え、廊下に飛び込んだところで、彼女は別働の仲間たちと合流する。
     武蔵坂学園校舎内。その一角で、灼滅者たちは蝙蝠を追い立てていた。ペースを上げる追跡者の呼吸、曲がり角を蹴り飛ばす狩人の気配、それらが獲物どもに達するのは、間も無くのことだろう。
     それでも、蝙蝠――タトゥーバットは逃げ続けた。廊下の空間を多角線で突っ切り、すれ違うオブジェクトを揺らす。その最中、一つの曲線がタトゥーバットたちに被さった。
     猫だ。
    「――――――!」
    「ニンポー・猫変身ダイブ……ありゃ?」
     その牙は、しかしタトゥーバットを捕らえるには至らない。着地した猫に、ザフィアト・シェセプ(幽世のアメンヘテプ・d24676)をはじめとする一行が追いついた。
    「お、今のは惜しかったぜハリー。しかし今、どこから出てきたんだ?」
     と同時に、ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)はESP『猫変身』を解く。
    「ふ、日頃より学園内に潜み、のぞ」
     ザフィアトの目が、ハリーを睨んで細まった。
    「に、忍術の修行に勤しむ拙者に分からぬ道など無いでござる!」
    「……感心しないねェ」
     言いつつ、両名は敵群にスパートをかける。その前方、廊下の中程にある階段側から、菊水・靜(ディエスイレ・d19339)が姿を見せた。
    「協力に感謝する。もう数手で『詰み』だ」
     靜がその位置を固めることで、タトゥーバットの逃走経路が1つ潰される。そして彼らが否応なく進まされた先には、防火扉で作られたデッドエンドがあった。
    「まだだ! まだ、奴らは諦めちゃいない!」
    「窓を背に! 行き止まりを塞ぐんだ!」
     ザフィアトに応じ、二夕月・海月(くらげ娘・d01805)が走行レーンを変える。防火扉の前で戸惑うタトゥーバットを、彼女らの一歩一歩が確実に取り囲んでいった。
    「さて、学校を荒らしてくれた礼は、きっちりしてやらんとな」
     影業『クー』を呼び出し、漂わせる海月に並んで、荒野・鉱(その眼差しの先に・d07630)もガトリングガンを腰だめに構える。回転し始めた銃身が、夕陽を受けて鋭く輝いた。
    「1、2……任されたのはこれで全部っすね。ここで倒して、安心して登校できる学園を奪還っす!」
    「キッ! キィイイィィイイイッ!」
     聞こえるレベルの、しかし極めて高音の鳴き声が、タトゥーバットから発せられる。狼久保・惟元(白の守人・d27459)は、これを『黒板を引っかいたような』と連想した。
    「僕達学生の本分は、学業に勤しむこと」
     ――聖域を汚されているようで、気に入らない。
    「……邪魔すんのも大概にせんとな」
     惟元の言葉に鋭い棘が混ざる。が、彼の表情そのものは、冷徹な狼のそれであった。
    「――、――――!」
    「全く、愛嬌のない面構えね。……気味が悪いわ」
     タトゥーバットは飛行速度を落とし、翼の呪術紋様をこちらに見せ付けてきた。文字通りに牙をむいた眷属に、君津・シズク(積木崩し・d11222)は不敵に微笑む。
    「それに、ここは朱雀門じゃないんだから。蝙蝠は似合わないの」
     言うが早いか、シズクは前方に、敵に向けて身を飛ばした。――先手を取る!

    ●スレイヤーズアレイ
    「ねえ。あなたたち、破壊力が弱点なんだって?」
     さして広くはない廊下を、しかしシズクは巨大な武器を振り回しながら疾走する。彼女ら灼滅者にとって、戦場の狭さは障害にはならないのだ。バトンのように、鉄塊が踊る。
    「私のロケットハンマーは、破壊力に優れた武器なのよ。味わいなさい!」
     そこからの両手持ちアッパースイングが、予想以上の手応えをシズクに返した。タトゥーバットは吹き飛ばされ、乱れた宙返りでこちらに向き直る。その周囲を広く、結界の光芒が取り囲んだ。
    「ニンポー・除霊結界! 今度は外さないでござるよ!」
     片手に素早く印を結んだハリーが、逆の縛霊手を展開する。タトゥーバットは逃れられぬまま、結界に閉じこめられた。
    「さあ、どうでござるか!?」
     白い光がタトゥーバットを覆い尽くす。が、結界とは異なる邪悪な光が、内部で複雑な文様を描いて浮かび上がった。見開いた目を思わせるそれは、タトゥーバットの呪術紋様――。
     例えようのない『音』が、逆方向から響いてきた。別の敵からの支援攻撃か。
    「――――――!」
     狙われた鉱は反射的に耳を塞ぐ。だが、精神を直に揺らしにかかる超音波は、その程度で防ぐことは叶わない。直撃を受けた彼の視界は、その影響でぐるぐると不快に回り始めた。
    「~~~~っ! やかましいっす!」
     鉱は眼前をWOKシールドで払い、守護の防壁を拡大させた。いくらか楽にはなったが、タトゥーバットを見ようとしても、ピントが上手く定まらないことに気づく。
    「こ、これは厄介っすね……。一人で相手するんじゃなくて本当によかったっす」
     複雑な笑みを浮かべる鉱。あざける様に飛び回るタトゥーバットに、惟元は一歩を踏み出す。
    「…………」
     空気が重く緊張した。右腕を黙って異形化させる惟元に、同列の靜が声をかける。
    「解っているな、惟元」
    「……先の一体を放っておけば、間違いなく、今以上の攻撃が来ます」
    「では、急ぎ潰すぞ」
    「ええ!」
     頷いて、惟元は己を瞬発させた。二発のフェイクで敵の注意を反らし、本命のストレートを中心に叩き込む!
    「……シッ!」
    「ギャ!」
     鬼の拳が蝙蝠を打つ。その先に貼り付いたタトゥーバットに、靜が追撃を仕掛けた。
    「これで、仕留める……!」
     パァン!
     惟元が退いて作る間隙を、靜の鬼神変が通過する。紅い、湿った霧が、その暴風を彩っていた。
    「いよォし、残り2体!」
     小さなガッツポーズと共に、ザフィアトが快哉を叫ぶ。そして、位置取りに動き回る仲間達の中から、彼女は鉱の姿を拾い上げる。
    (「一番ダメージが重いのは、まあ鉱だろうしね……」)
     彼に意識の焦点を合わせ、注目し――その視線上に、ふと異物が挟み込まれた。
     ザフィアトが気づいた時には、その『紋様の瞳』を見つめてしまっていた。彼女を催眠状態に陥らせたタトゥーバットは、そのまま彼女の思考を誘導しようと、蠢く。
    「キ……キ、キ!」
     指が、己の意図を離れて動き出す。それらが、腕の縛霊手へ伸びようとするのを――。
    「あ……あ、あァアアアアアアァァァ!」
     ――ザフィアトは力技で捻じ伏せた。魔力を込めた叫びで、体内の呪いを掻き消す。
    「味な真似するなァ、おい!」
     言い捨て、後ろへステップアウトする。入れ替わるようにして、劔がそこに飛び出した。
    「私に答えを示せ、『予言者の瞳』!」
     バベルの鎖が、青白の輝きで劔の瞳を縁取っている。それと同色の魔力が、彼女の両腕から滲み出した。と、栓が決壊した蛇口のように、魔力が一気に迸って。
    「フリージング、デス!」
     劔が伸ばした腕を手首で交差させると、タトゥーバットたちは即座に霜の束縛を受けた。その上方、天井すれすれに、壁を蹴った海月が浮いている。
    「ギ――」
    「水底に、沈め!」
     後ろに回した海月の腕から、さらに大きな弧を描いて、WOKシールドが叩きつけられた。タトゥーバットの全身を包んでいた氷が、衝撃で粉々に打ち砕かれる。海月はさらに全力を押し込み、拳先からの着地を果たした。しかし。
    「……仕留め損なったか」
     瀕死のはばたきが、海月から離れていく。その全身に描かれた回路は、やはり怪しく輝いていた。

    ●カースストライカー
    「逃げる……いや、まさしく手負いの獣でござるな」
     ハリーは油断無く構え、タトゥーバットを睨みつける。口元を隠す赤いスカーフが、その時、ゆらめく端側から滑らかに延長したように見えた。そう、彼は動き始めている。
     傷を癒したタトゥーバットは、さらにはばたいて天井へ昇った。しかし。
    「その高さは拙者の間合いにござる! ニンジャケンポー・グラインドファイア!」
     ハリーの蹴り上げる超高熱の軌道が、瞬時に追いついて交錯する。と、タトゥーバットは炎熱帯をかろうじて抜け、空中でバランスを取り戻した。
     そこをまず、靜の殺気が貫く。
    「喰ろうて見よ」
     一拍遅れて、今度は実際の槍撃が突き込まれた。靜は妖の槍『rdeca』を素早く抜き戻し、反撃に備える。
    「来い」
    「ギ――ギギギギギギィ!」
     床に打ち捨てられていたタトゥーバットが、残る力を振り絞って飛び上がった。両の翼が螺旋を描き、またしてもザフィアトを狙う方向で止まる。
     呪術紋様の目が、嗤う様に歪んだ。見下ろしてくる敵の邪視は、本来視線の合う合わざるに関わらず、対象に呪いを投げかけてくるものなのだ。
     しかし、干渉できぬ類のものでもない。
    「今度こそ引き受ける!」
     海月がその真っ只中に飛び込んだ。どくん、と血流に刺し込まれるような呪いを、彼女は腕に絡む影業の感触を頼りに堪える。
    「ク……ウゥッ!」
     その手の中で、影業は使い手の意に従い、刃と化した。海月は進み、よろめく足取りを逆に利用する。倒れかけの体勢から、垂直方向にタトゥーバットを切り裂いた。
    「……私たちの力、思い知れ」
     笑う海月の眼前に敵は落ち、蒸発して消える。残るは1体。
    「逃げ遅れたって状況は不憫だがよ。容赦なく黄泉送りにさせてもらうぜ、コーモリさんよ」
     ザフィアトは抜き身の聖剣で肩を叩きながら、タトゥーバットに近寄っていく。ふと、その剣先を地面に向け、剣自体も逆手に持ち替えた。
    「ッと、その前にー、だ……」
     彼女が口中で何事かを短く呟くと、剣は祝福の風を開放し始める。
    「万が一にも、仲間の誰かと刺し違えられちまうワケにはいかないしな」
    「そうね。こいつら、しぶといと言うか、ねちねちとスッキリしないと言うか……」
     まあ面倒な相手だったわね、と、シズクは過去形で語った。その言葉の通り、戦いの流れは決したも同然だろう。彼女は紫電の走る拳から人差し指を立て、皆の注目を集める。
    「もう一度確認、窓を背にして。いい? ……それじゃ、終わらせましょっ!」
     そこからの抗雷撃を、シズクはスピード頼みで強引に当てた。抜き打ちながら、威力は充分。
    「ギャ……!」
     タトゥーバットは、床で無様にバウンドした。それが宙に浮きなおすと、二人分の照準が合わさっていく。劔と鉱、どちらも重火器であるガトリングガンを携えていた。
    「大きく翼を広げているなら……その付け根を、狙い撃つよ!」
     その機構上、ガトリングガンは集弾性に乏しい。劔という少女はしかし、それを見た目からは想像もつかない力で抑え付け、さらに部位狙いまで敢行する。
    「当たれえっ!」
     ガガガガガガッ!
     劔のガトリングが火を吹くごとに、タトゥーバットは繰り返し弾かれた。スナイパーの集中力が、その曲芸じみた射撃を可能とするのだ。鉱も続いて銃口を構え、劔の掃射が途切れる瞬間を狙う。
    「学校への誤射はすこし怖いっすけど……今は!」
     カチ――カチッ!
    「こいつを消すことが何より優先っす!」
     正に阿吽の呼吸で、二人のガンナーはトリガーのオンオフを交換した。鉱の撃つ炎の弾丸が、敵の体を次々と焼き尽くしていく。
    「そうですね。邪魔者にかける情けはありません。それに」
     惟元は左腕に――先の鬼神変とは逆側に、オオカミの前脚を顕現させた。その先に輝くのは、捕らえる鉤と引き裂く刃、両方の用途を備える野生の武器である、爪。
    「えらすぐね奴の面見んのも、厭きてきてね」
     これを操るのに小細工は不要。狩りの獲物を狙って、ただぶつけてやればよい。
     故に、惟元はそうした。

    ●学園の八人
    「――うん、終わったね。みんな、お疲れさま!」
     劔は一息ついて、スレイヤーカードに武装を収納した。と、彼女はその場で辺りをきょろきょろと見回して、空き教室へと向かっていった。
    「あれ。金岡さん、何か気になることでもあったっすか?」
     鉱がドアのところから覗き込むと、横を掃除用具一式を抱えた劔がくぐり抜けていく。
    「あ、はい。帰る前にお片付けしておこうと思って」
    「確かに、あいつら割と好き勝手やってたっすからねえ……」
     とは言うものの、壁につけられた傷などは、ほとんどが敵サイキックの余波によるものだ。破壊を目的としていなかった分、深刻なものにはなっていないらしい。汚れだけを見るならば、それこそ掃除用具でどうにでもできるものばかりである。
     窓ガラスの方は、既に靜が手を回していた。ヒビの走った部分にはテープが貼られ、近寄らないよう警告の張り紙を添えられている。交換さえ済めば、元通りの外見に戻るだろう。
    「チリトリは私が担当しよう。貸してくれ」
    「えっと、ならお任せするよ。僕はこのままホウキでいいかな?」
    「そういうことでしたら……自分も手伝うっすよ。うん」
     ということで、急遽校内清掃の時間となった。ゴミ袋を持ってくるもの、エクスブレインに作戦完了の報告を入れるもの、めいめい役割分担して作業を進める。
    「ところで惟元、あたしは一つ質問があるんだけどよ」
     ある時、杖のようにホウキへもたれかかるザフィアトが口を開いた。
    「さっき言ってた『えらすぐね』ってどういう意味なんだ? 気ぃ悪くしたらスマンが、まるで聞き覚えが無くてさ」
     その質問に、実は気になっていた別の灼滅者たちも耳をそばだてる。
    「それは……『嫌い』だとか、『気に入らない』だとか、地元の訛りなんです」
    「えらすぐね――ああ、あたしもまるで同感だったぜ」
    「終わったことですよ」
     と、皆こういう風にしながらも、作業自体は順調に終わっていった。
    「しかし今思えば、拙者たちの懐に踏み込まれるというのも、意外に厄介なものでござったな。地の利が無いのを敵は承知の上であったということでござろうか」
     ハリーが呟く感想に、シズクがホウキをロケットハンマーに持ち替えて答える。
    「それに、潜んでる敵がまだまだいるかもしれないでしょ? いっそ校舎をハンマーで解体して、要塞にでも造り変えちゃう?」
    「……冗談でござろう?」
    「……冗談よ?」
    「……本当に、冗談でござろうな?」
    「一言多いのよ!」
     シズクは速攻でハリーを追い掛け回し始めた。狙われたニンジャが謎のルートで逃げていくのを、海月が何とはなしに眺めている。
    (「戦闘終わって、これでいつも通りだな……なんて」)
     視線を校庭に落とすと、濃い夕闇の中に灼滅者たちのシルエットが見えた。どこもかしこも、負傷と疲れの雰囲気に満ちてはいたが、同時に活気もまた感じられる。
    「こういう戦いは、きっとまだ続くけど」
     ――学校での日常があれば、私たちは平気だ。
     そう、強く信じられる。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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